モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:悪夢の祭典・3話

 カーテンから朝日が差し込む中、浴室から鼻歌混じりのシャワー音が聞こえてくる。それは誰もいない個室を響かして満たすBGMのようなもので、まるで音楽プレイヤーが再生しているかのような上手さがあった。しかもどこかで聞いたような音楽でもある。そう、それは曲名として「英雄の証」といったところであり、あのモンスターハンターのテーマソングでもあった。

 鼻歌の主――篠崎直哉は心のうちで期待に胸を弾ませていた。それはあのVRMMO――モンスターハンターアルカディア・オンラインがリリース間近に迫っていたからである。クリエーターである彼のこと。数年前から企画していたことがようやくここに来て開花しようとしていたのだから、なおのことであったのだ。

 湯煙が立ち込める浴室の中、やや熱めのシャワー浴びながら髪をかき揚げ、眼前にある防水式Padを何気なくタップして開く。水滴で濡れる画面上から軽快な効果音が鳴り、〝リンク中……〞と表示された画面は、やがて完了へと表示される。

 

「お早う、COM」

 

 何気なく話しかけてみる。すると、Pad以外からどこかしらの音声が流れてくる。しかも声は、どうも女性のものであった。

 

「オハヨウゴザイマス、マスター」

 

 律義正しく、そう語りかけてくる声。篠崎直哉は尋ねつつシャワーを止めて浴室からでる。

 

「調子の方はどうだい?」

「順調デス。今ノトコロハ」

 

 バスタオルで体を丁寧に拭きつつ、眼鏡をかけて言う。

 

「そうか……」

「マスターノ方ハ体調如何デスカ? 昨日カラ夜通シデメンテヲ行ッテイマシタガ」

「気遣い無用さ」

 

 と服を着つつそう答える。それから脱衣室から出たあと、ゆったりとした歩調でPCへと歩み寄って早速電源ONにする。起動の合間、コーヒーでも淹れようかと思いキッチンへ。コーヒー粉を取り出してコップへと振りかける。

 

「ソウデスカ。デモ、体ハ疲レテイルコトハ確カデスヨ。無理ヲナサラズニ」

「わかっている。わかっている」

 

 とは言うものの、やはり体に無理がきていることは確かだった。それもそのはずで、若干、眠気が残っていたから。しかし、社長たちとの待ち合わせや開幕式の時間を考えるとそう休んでもられないので、無理を承知で手で払うようにそう答えた。お湯を注ぎ終えると、コップを手にPCへと再び向き合う。タイミング良くPCはメンテの画面へと切り替わっていた。

 

「さてと……」

 

 そう思って昨日からやり残した個所を目でチェックしていく。その間、COMは言う。

 

「昨日ノメンテナンデスケド、私ノ方カラモ念ノタメニ若干、確認シテオキマシタ」

「了解。サンキューなCOM」

 

 そう言って、一杯コーヒーを飲む。直後、ちちちちー、と言いながら、熱々コーヒーから口を放した。どうやら、熱すぎるまま飲んでしまったらしい。口の中が若干やけどしてしまった。ふーふーして、冷ましてやる。

………

 と、しばらくの沈黙が続く中、篠崎直哉は時間が来るまでの間メンテに没頭していく。しかしそんな時間の中で一つ気がかりなところを見つけたのでここで一つ、COMに相談してみる。

 

「なあCOM」

 

 そう言って、PC上に表示された画面をホログラムボックスへと転送させ、宙にホログラムとなって表示させる。ややぼやけた輪郭ではあるが、そこには2Dの画面が瞬時に表示されていた。そして、画面上には独立しつつもまとまった4つの正八角形基幹――下位AIとそれらを結びつける一つの基幹――上位AI。そしてそれらを包むように描かれた網目状包囲基幹――セキュリティー(Ωセキュリティー)が映し出されていた。

 

「何デショウカ?」

「これなんだけどな」

 

 と、篠崎直哉はその一つの箇所――セキュリティー(Ωセキュリティー)に指差す。

 

「セキュリティーデスカ?」

 

 疑問を浮かべるCOMをよそに篠崎直哉は続けて話す。

 

「そうそう。で、数値なんだけど、ちと高すぎねえか」

 

 そう言って、篠崎直哉はセキュリティーレベルと%数値を指さして言う。というのも、数値的にレベルが最高強度のレベル10、稼働率が100%になっていたからだ。篠崎直哉いわく、これはセキュリティーにしてはあまりにも頑丈すぎるとにらんでいたからだ。これでは万が一にでも不具合起きた場合、外部干渉による修復が困難なことを示していたからである。というのも、ホログラム上に表示された全システムには、元から内部エラーに対して自己修復を行う機関と言うものが備わっている。それは4つの下位AIにそれぞれ一つずつ備わっているものであり、しかも互いにエラー修復を行っているのである。つまり4重ものチェック機関が備わっていることになっており、ようするに外部からの修復を必要としないシステム体制になっているわけである。もし、これが外部干渉によるエラー修復を行う場合、セキュリティーに多少なりとも抜け穴(セキュリティーホール)が必要なわけであり、篠崎直哉が言いたいのは、完皮無きまでにセキュリティーが強固だった場合、なにかしらどうしようもない内部エラーが起きた時、こちらからの外部干渉によるエラー修復ができない、そう言うことを言っていたわけであった。

 

「MAXレベルに稼働率100%というのは、どうもやりすぎだと思うけど」

 

 ふ~ん、と考えるような仕草の後、間を開け続けてCOMはこう返す

 

「ソウデスカ? 妥当ダト思イマスケドネ」

 

 今度は篠崎直哉が言葉に詰まる番であった。相手は高性能なAI。そこから出た返答は100%近く妥当性を突いていたからだ。しかし――

 

「念のためだよ。念のため」

「念ノ為ニデスカ。シカシソウスルト、セキュリティー二穴ガ開クコトニナリマスケド」

 

 AIとは言え、融通の利かないCOM。これにはさすがの篠崎直哉も頭を使うことに。

 

「安全面で考える上で、外部からのエラー修復――いわば、人の手も借りる必要もあるってことだ。万が一にもな」

「万ガ一ニデスカ。シカシ、私ハ高性能ナAIナノデ、万ガ一ト言う事態ニモ対処デキルト自信ハアリマスケドネ」

「そう言うのが危ないと思うんだよね」

 

 ここで篠崎直哉は、ゆっくりと一口だけコーヒーをすする。

 

「『ソウ言ウノヲ、高慢ト言ウンダヨネ』ソウ言イタソウデスネ」

「さすがAI。分かっているじゃないか」

「私ハGM二繋ガレタAI。ソウ言ウ言葉ノ綾ハイクラデモ分カリマス。ソレヨリモ――」

 

 とここで、やや間を置いていきなり話を切り替えてくる。

 

「イイノデスカ」

 

 何を、とさりげなく答える篠崎直哉。COMは

 

「着信ガ来テイマスヨ」

 

 とそこで気付いたかのように、えっと言うと、椅子を半転させPC画面へと向き直る。軽快な操作の後、さっとマウスを動かしてクリック。TV電話の大画面へと切り替える。すると、画面にはややひげが濃い30代後半くらいのおっさんが姿を現すではないか。若干彫が深いその顔をのぞかせて、そのおっさん――船橋社長は用件を伝えてくる。

 

「お、見えた見えた。おはよう篠崎君」

 

 弾かれたように姿勢を正して、篠崎直哉は相対す。

 

「お、おはようございます社長」

「まあまあ、そうかしこまるな。私と君とは高校生からの同期繋がりじゃないか」

「いや、しかし……」

 

 あくまでかしこまる篠崎直哉に、船橋社長はここで仕方ないなあと思いつつ、話を持ってくる。

 

「ま、いいだろう。それよりも体調の方はどうだ。COMから聞いたぞ。徹夜でメンテを行っていたそうじゃないか」

「あ、まあ……」

 

 と頭を軽く掻き、言葉に困ってしまう。しかし――

 

「でも、これでも途中で1、2時間くらいの仮眠はとったつもりです。多分大丈夫かと」

 

 ここで目を細めつつより目で、やや疑念を浮かべてこう述べる。

 

「ほ・ん・と・に・か~」

 

 一方、篠崎直哉は、やや慌ててこう切り返す。

 

「だ、大丈夫ですって。それに、いざとなれば、ダイヴ中でも仮眠取ることだってできますから」

「ダイヴ中に仮眠ね……。ま、体調の方はそっちの方で任せるよ。それよりも、1名除いてそれ以外の関係者一同準備できているようだから、そっちも準備でき次第きなさいよ」

 

 ホログラムボックスの電源をOFFにし

 

「了解です。……と言いたいとこですが」

「ん?」

「その一名とは誰なんです?」

 

 リクラに腰を深く預けながら、う~ん、とか無駄に唸りつつ、船橋社長は髭をなでまわす。

 

「君の助手、だな」

「私の助手……神宮寺さんがですか?」

 

 彼女も彼女――つまり、神宮寺 幽奈は篠崎直哉と同じく、開幕式に出ることには期待していたのだ。なのに、出遅れるって、何か用事もあるのだろうか。そう心の中で詮索的な思いがよぎってしまう。

 

「そうだ。事情によると、開幕式を出る前に、一度墓参りしたいそうだ」

「墓参り……息子さんの墓参りにですか?」

「そうだ。彼女も彼女で最近まで思いつめていたからな。数ヶ月前に息子・晃君が亡くなってからというもの、今日に至るまで未だに尾を引いているのかもしれないな」

「そうですか……」

 

 仕方ないか。たった一人の息子だもんな。なんて、そう心の中で納得する。

 

「分かりました。そう言うことなら仕方ないですね」

「だな。ま、とりあえずだ。この後の開幕式には影響はないと思うから、君も早く来るようにな」

「わかりました」

 

 そう言うと、篠崎直哉はわざとらしく敬礼。一方、船橋社長は、やや笑みを浮かべるとそのままスカイプを切ってしまう。背筋をピーンと思いっきり伸ばして

 

「さてと……」

「ソロソロ行クノデスネ」

 

 横からCOMが話しかける。

 

「まあな」

 

 そう言って、机上に置いてあるVRS(ヴァイステ)を手に取り、続けて各コネクターを延長コードを介してPCへと接続。VRS脇にあるランプが点滅表示してあることを確認し、早速装着すると、ベッドへと体を横たえた。画面越しに準備OK等の表示がなされるのを待ち――そして、少しの間の後、その表示は点滅し出す。

 

「リンクスタート」

 

 そう言って、あざやかにあの世界へと旅立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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