モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:託された想い・8話

 

「うわ?、こいつは酷いな?」

 

 目の前の光景を見て、ケインが感嘆する。一方、俺自身も、彼と同じ心境を抱いていた。と言うのも、ここ、クルプティオス西湖水エリアでは、自分達は当然知らないものの、その様は、かつての面影を跡形もなく消し去っていたからである。

 唯一、ここが調査区域であったと言える証拠と言えば、屋根が崩れ落ち崩壊したコテージとぺしゃんこになった簡易式テントくらいなもの。他は区別のつかない残骸があるのみであった。

 まさに、想像を上回る光景。その言葉に尽きていた。

 とりあえず、どの道、何があったのか調べる必要がある。先に歩を進めた俺は、残骸の一部へと歩み寄った。

 

 ザク、ザク、ザク、ザク、……

 

 踏み締める雪音が、静寂なエリアを優しく奏でる。そして、残骸の一部の前へと来た俺は、その場にしゃがみ込む。指先で瓦礫の一部を摘んでは、何か手掛かりがないのか探る。その中で

 

 (……うーん。潰れ方から、これは上に大きな力が加わった感じがしなくもない気が……)

 

 想像力を働かせて、瓦礫の状態を念入りに確認していく。――と、そうした中、別の場所でも俺と同じく手掛かりを探っていたのだろう。ケインの呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「おーい?? ユウトー! こっちに例の毒溜まりみたいなものがあるぞー! しかも、洞窟みたいなものもあるし」

 

 洞窟?

 

 その言葉になぜか興味を抱いた俺は、捜索を一旦やめ、彼のところへと赴く。

 瓦礫を迂回しつつ、崩壊したコテージの裏へと回った俺は、そこでケインを見つける。だが、彼の元へと歩み寄るに当たって、注意すべき点はあった。それは、先程、ケインが言った通り、周辺が所々、毒溜まりになっていたこと。

 本来、危険極まりないはずの場所であったが、しかし、幸いなことに、その毒溜まりが点在しているとは言え、少量だったためか、瘴気の放射量は極めて少なかった。

 けれども、危険なことには変わりはない。念のために、彼に注意を促す。

 

「おーい、ケイン??  どの道、そこは危ないから、早くこっちに……ん??  この感じは」

 

 そこで俺は、あることに気付いた。と言うのも、ケインの目の前には、彼が言った通り洞窟があるわけだが、気になるのは、毒の水滴が点々と洞窟の中へと続いていたこと。見るからに、洞窟の奥には何者かが潜んでいることを示唆していたのである。

 訝しげな表情をする俺に、ケインが気になって歩み寄ってくる。

 

「どうしたんだ? ユウト。変な顔をして」

「いや~、なんというか……。洞窟の奥へと続く毒溜まりを見ていたら、奥に何かいるような気がしてな」

「奥に?」

「そう、奥に。洞窟の奥にだ」

「え? てことは……」

 

 彼の読み通りなのかもしれない。俺は率直に答えた。

 

「いるな、やつが。恐らくな……」

 

 見守るケインを前に、言ったそばから俺は、ゆっくりとした足取りで洞窟の目の前へと歩み寄る。そして、そのまま入りはしなかったが、確認のために奥を覗いてみる。

 しかし、案の定、中は暗くて視界が悪い。しかも、不気味なほど静寂に包まれているときた。何か灯せる道具が必要。ケインに尋ねてみた。

 

「ケイン、松明か何か持ってないか?」

「一応、さっき瓦礫の中から拾った物ならあるけど。それよりもユウト、いるのか中に。事件の黒幕となるモンスターが」

 

 手渡しで松明を貰った俺は、自分の推論を語る。

 

「確証はない。だが、俺の読みが正しければ、恐らくは……。でも、例え違ったとしても、手掛かりとなる何かを得られそうな感じはするんだよね」

 

 松明とセットで手渡された火打ち石を使い、松明に火を灯す俺。奥を照らしながら、洞窟内を突き進む。

 

 そして、暫く洞窟内を散策してから数十分後……。

 

 どれだけ奥に進んだのか見当もつかなくなってきた頃、後方を振り向いた。当然ながら、入り口は見えなかった。このことにより、大分、奥まで来てしまったことを実感させられる。

 そうした中、こうした事にはめっぽう弱く、すっかり臆病風に晒されていたケインは、ここで弱音を漏らす。

 

「なあユウト。もう戻ろうぜ、こんなとこ。気味悪くて仕方ないよ」

「あと、もう少しだけ……」

 

 灯りを照らす先、洞窟の最奥なのか、大広間が目の前に見えてきたこともあってか、そう言って粘って彼を説得する。しかし、当の本人はこれ以上、堪えられそうになかった。

 

「えー、あとどんくらいなんだよ。それに、大分、奥に来ちゃってるしよ」

「もう、そろそろなんだ。目の前に来ている感じで」

「目の前って。暗すぎて見えねーよ」

「なら、照らしてみるか? それなら一目瞭然だし」

「それは……」

 

 百聞は一見にしかず。確実性のある提案をしたつもりだったが、しかし、どういう訳か、ケインの答えを鈍らせてしまう事になった。

 何を躊躇っているのか。一言発した後、黙ってしまうケインにシビレを切らした俺は、軽くため息を漏らした後、松明の明かりを奥へと照らそうとした。ーーとそこで、慌ててケインが手を伸ばして制止してくる。

 

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ!」

「なんだ?」

 

 思わず振り向く俺に、ケインはどこか焦っている表情を滲ませて訳を話す。

 

「確かに奥を照らす案は懸命だ。だけどよ。……だけど、危なくねぇか?」

 

 肩呼吸してまで必死に訴える。彼の心意が読めなかった俺は、問い掛ける。

 

「何が?」

 

 すると

 

「いや、何というかさ? その……、凶暴なモンスターがいるんじゃないかって。もし、いたとして、下手に明かりを灯したら……」

「じゃあ、逆に聞くけどよ。それなら、なんでついてきたんだ? 入り口で待っていればよかったのに」

「そ、それは……」

 

 返答に困り出すケイン。俺は変なやつだなぁと感じ、それ以上は無理に詮索しなかった。

 

「まぁいいさ。ともかく俺は、このまま奥まで調べに行くよ。お前はどうするのか知らないけど、もし戻りたいなら、仕方ないけど、俺が道案内して入り口まで案内してあげるよ」

 

 そう言い残した後、何か思い悩む彼を尻目に再び奥へと歩き出す。――が、そこで、いきなり後ろから腕を掴まれ

 

「ま、ま、待ってくれ! やはり、戻る選択肢はなしだ。だから、心が決まるまでもう少しだけ……」

 

 このことにより、なかなか決断できないことで優柔不断だなあと思ってしまう。しかしそこで、もしかしてと思った俺は、当てずっぽながら彼の心境を指摘してみる。

 

「まさか、ビビっているのか?」

 

 すると、

 

「ま、ままま、まさか?。この俺が、んなわけ――」

「だってよ」

 

 とそこで、訳を指摘する。彼の足元を松明で照らして。

 

「両足。ブルってるぜ、めっちゃ」

「え?」

 

 彼は気づかなかったのだろう。キョトンとした表情を浮かべたあと、自身の足を見て驚きの表情を滲ませる。しかし、何を誤魔化そう。ブルっていることに対して、すぐさま弁解に走る。

 

「こ、これは。その……、武者震い。そう、武者震いってやつだよ」

「武者震い?」

 

 首を傾げ難しい顔をする。対してケインは、

 

「そうだよ、武者震い。これから出るであろうモンスターか何かに対して、全身が熱り立っているんだよ、きっと」

「そうか。なら、そう解釈しておくよ。だったらなおのこと、問題ないよな?」

「え? あ、ちょっと、まーー」

 

 うっかり墓穴掘ったことに気付き、慌てて呼び止めるケイン。だが、もう時既に遅く、慌てる彼を尻目に、松明の明かりを奥へと照らす。

 仄かな灯りが隅々まで行き渡り、奥にある広間のスケールの全貌が明らかになっていく。天井を仰ぎ見、呆然と眺めながら感想を述べる。

 

「こりゃあ?、かなり広いな。グラビモスが2体、すっぽり入りそうなくらいだよ」

 

 印象深い光景に見惚れてしまう。――とそうした中、後方にいたケインが、突然、悲鳴を上げた。

 

「う、うわ――??」

 

 ビクンッ!

 

 あまりにも唐突だったことに、俺は手にした松明を落としかけ、心臓が止まるかと思ったくらいびっくりしてしまう。訳のわからん悲鳴に、嫌な表情を浮かべて振り向く。

 

「な、なんだよ。突然、悲鳴上げやがって。こっちは心臓が止まるかと思ったよ」

 

 しかし、その文句を聞く余裕がないのか、彼は奥を指差しながら、支離滅裂な言葉を発した。

 

「あ、あ、あああ、あそこ。あそこに……」

 

 理解できず首を傾げて

 

「ん? あそこ、じゃ分からないよ。この際、はっきり言えよ」

 

 しかし、恐怖の表情に彩られた彼に聞くだけ無駄なよう。仕方なしに、ケインが指で示した方へ見る。

 一見して何もないように見えるが、灯りを頼りにくまなく見渡すと、そこには、

 

 なんと!

 

 得体の知れない影が横たわっていた。

 

 (ん? なんだこれは……)

 

 正体不明の影。大きさからして、ドスランポスより一回り巨体のように見える。俺は確認の意味を込めて、〝ソレ″に歩み寄っていき――とそこで、後方から

 

 グシャッ!

 

 何かを踏んづけたような汚らしい音が。そして、間を置かずして、ケインの悲鳴が広間全体に響き渡らんばかりの勢いで聞こえてきた。

 

「っ! む、虫っ! ギヤ――??」

 

 耳をつんざくような悲鳴に、思わず耳を塞いでしまう。その一方、彼の発したキーワードが気になってか、一言、呟いてみせる。

 

「虫?」

 

 しかし、後の思考が回るよりも早く、かの者の行動が一足早かった。と言うのも、すっかり我を忘れたケインは、一目散に来た道へとはして引き返そうとしたのである。

 当然、出口へと続く道は真っ暗。

 無謀とも思える彼の退散に、さすがに慌てて彼を呼び止める。

 

「お、おい!! ちょっとま――」

 

 しかし時すでに遅く。彼の姿は暗闇の中へと消えてしまった。

 

「ったく、あいつめ?」

 

 (勝手に俺を置いてけぼりにして逃げやがって)

 

 そう、自然と怨嗟が込み上げてくる。しかしその傍ら、やっぱし、余程、ビビっていたんじゃないか。――とかなんとか、仕方なしにため息が零れた。

 とりあえずこうなった以上、俺だけでも謎巨影の正体を掴む必要がある。一足先に逃げ帰ったケインをほっとき、俺は明かりを奥へ。先ほど影の正体を突き止めんばかりに、歩き出す。

 

 (確かケインの奴、虫がいるとかなんとか言っていたような……)

 

 先ほど彼が言った言葉を反芻しながら、憶測を並べていく。

 ――とそうしたなか、近づくにつれ影の正体が、松明の明かりによって徐々に明るみになっていく。

 

「これは……」

 

 とその一言。やっぱりと言うべきか、案の定、と言うべきか。まさに憶測で並べた通りであった。虫と聞いた限りでは、カンタロスやランゴスタと言ったごく一般的な甲虫種を思い浮かべていた俺であったが、今見てるのは、まさにその甲虫種の一種であろうその一部であったからだ。と言うのも、何層にも折り重なっているような造りをした甲殻に、薄い膜で構成され、重なるようにして折り畳まれた羽。そして、何よりも毒針と思いしき、先端が尖った尾が見られたからである。

 さらに外観の大きさも大きさ。思うにこれは――

 

 〝クイーンランゴスタ?

 

 恐らく、観察結果として間違いないだろう。俺はそう判断した。けれど――

 

「にしても……」

 

 そこで疑問が沸いてくる。それはそう――

 

 なんでこんなところで死んでいるのか?

 

 まさにその一点につきていた。

 全貌を確認するべく、クイーンランゴスタの死骸を中心に、松明の明かりを頼りに周囲を散策していく。すると、

 

 グシャリッ!

 

 ケインと同じく、思わず俺も何かを踏ん付けてしまう。ゆっくりと足元へ視線を落とすと、そこには虫の死骸が。それもランゴスタの死骸があった。

 

 (あいつがビビって逃げ出したのって、これのことだな……)

 

 合点がいった。しゃがみ込み、ランゴスタの死骸を観察してみる。じろじろとみる中、一つだけ分かったことがあった。それは――

 

 〝外傷がない″

 

 全くと言っていいほど、無傷のまま死んでいたのである。

 

「と言うことは……」

 

 改めてクイーンランゴスタの方へ視線を戻した俺は、続けてクイーンランゴスタの巨体をグルリと迂回してみる。そして、

 

 (やっぱりか……)

 

 案の定と言ったところ。その死骸もまた、遺体に傷らしい傷はなかった。このことから、松明を近くの岩に立てかけ、腕を組みながら自分なりに考察してみる。

 とは言え、考えられる要素としては、アレ、しかなかった。

 

 そう、アレ……。

 

 毒。毒状態による死。それしか心当たりがなかった。先程見た鳥竜種の遺体もそう。腐敗が進んでいたとは言え、その死骸も毒によって死に至っていたのである。

 今、目の前のクイーンランゴスタ、及びランゴスタの死骸もまた、恐らくそんな感じなのだろうと考えが行き着く。

 

「やはり、何者かによって……」

 

 このことにより、毒を吐きつけるモンスターの仕業であることには、間違いなかった。けれど、例の鳥竜種の死骸との比較で、相違点もあった。

 それは、腐敗状況の進行度合い。鳥竜種の死骸では、死後、数時間は経っていたであろう感じではあったが、このクイーンランゴスタ達の死骸は、恐らく死んでからそんなに時間は経っていないと思われる。

 

 多分、……いや、恐らくかもしれない。

 

 モンスターにやられたばかり。それも、致命傷を負ったまま、ここに逃げ延びて来たと。そう解釈して間違いなかった。

 

「しかし、犯人は一体……」

 

 まさに、そこだけが疑問点であった。思案を巡らす中、そこで松明が

 

 コロンッ!

 

 転がって地面に落ちた。仕方なしに歩み寄った俺は、成り行きで拾いあげる。すると、偶然にもクイーンランゴスタ周辺全体が明るく照らされたのだろう。散々たる光景を目の当たりにしてしまった。

 

「うっ、こ、これは……」

 

 まさに吐き気を催すくらい、グロテスクな光景。死骸は、クイーンランゴスタと一匹の連れのランゴスタだけではなかった。

 

 そう……。

 

 クイーンランゴスタを中心に無数のランゴスタの死骸が。数匹のカンタロスの死骸を伴って横たわっていたのである。

 思わず口元に腕を当ててしまう俺は、見るに堪えない陳情じゃない光景にその場から慌てて逃げ出したくなってしまう。

 

「ひ、酷いな。さすがに……」

 

 (もはや現場検証もこれ以上は無用だな……)

 

 一目瞭然と言ったところ。クイーンランゴスタ達の一団に毒を吐きつける天敵が現れた。この解釈で間違いなかったと判断した俺は、早々に来た道へと引き返そうとした。

 ――とそこで、出口方面から鳥竜種特有の怪鳥音が。それに伴い、ケインの怒声と響き渡る金属音が聞こえてきたではないか。

 

「まさか??」

 

 嫌な予感が脳裏を過ぎる。俺は松明の灯りを頼りに、急いで引き返した。

 

 

 

 

 出口の光へとまっしぐら。あと一歩で出られるかと思われたその時、

 

 ぐはっ!

 

「ケイン??」

 

 モンスターの一撃でやられた彼が、俺の足元に転がってきた。痛手を負い呻く彼に、手を差し伸べる。

 

「派手にやられたな。大丈夫か?」

「う、うう……。なんとか?」

 

 強気の姿勢を崩さないところを見ると、大丈夫そうに見える。がしかし、立ち上がり間際、膝の力が抜けてしまったのか、

 

「あっ??」

 

 一言発した後、その場でヘタレ込んでしまう。その様子に、彼の頭上に表示された状態異常を見て気遣う。

 

「どうやら、暫く無理っぽいな」

「すまない」

 

 そう言って、謝る彼に付与されてしまった状態異常――痛撃(ノックダウン)。それはモンスターからクリティカルダメージを負わされた際、一定の確率で硬直を余儀なくされてしまう状態異常のこと。それは立ち上がることはおろか、頭はクリアであるが、皮肉なことに身体全体が言うことを利かず、まともに動けない状態でもあった。

 確認する限り、状態異常回復まで残り15分と言ったところ。ケインを庇いながら眼前のモンスターと交戦するのは、極めてリスクげ高いと判断した俺は、アイテムリストから煙玉をチョイス。

 相手のモンスターが鳥竜種(イーオス)であったことから、その機敏性から閃光玉より確実に一時凌ぎできるであろう煙玉を放った。

 途端、瞬く間に周辺がモヤに覆われていく中、生態マップを眼前に表示したまま、深傷の彼を背負う。

 

「ほんと、わりぃな。俺なんかのために」

「こんなの互い様だよ。ただなぁ、勝手に逃げ出したのには、正直、イラっときたけどな」

「そ、それはすまなかった。ただ、だけどよ……」

 

 彼の弁解。訊かずとも理解していた。

 

「あー、言わなくてもわかる。分かるからさ、逃げ切るまで黙っていてくれないか?」

「わ、分かった……」

 

 責任を感じて萎縮気味になってしまったのか、これ以上は何も言わなくなった。眼前に広まるモヤを睨みながら、自分に問い掛ける。

 

 (果たして逃げ切れるか……)

 

 と。

 煙玉で視界を遮られたとは言え、相手は状況に応じて狡猾に獲物を狙ってくるモンスター。

 恐らく、足音だけでも位置を悟られそうな気がしてならない。しかも、そんなモンスターが数匹と群で来たと。さらに悪いことに、ケインを負ぶっている以上、思うように走れない上、無防備な今の状況。正直、まともに逃げ切れるかどうか自信がなかった。

 ――だがしかし、それでも今は何がなんでも逃げ切らなくては。意を決した俺は、出来る限り足音を立てず、イーオスの群れの合間を縫うように通り過ぎていく。

 

 そして、暫くして……。

 

 時折、生態マップを拡大表示で見ながらモヤを切り抜けた俺とケインは、そこで後方を振り返る。

 モヤは徐々に薄らいで来ているみたいであったが、幸運なことにイーオス達は気付いていない様子。このことにより、窮地を脱したと見た俺は、心底ホッとし胸を撫で下ろした。

 けれど、どこかに身を潜めない限り、こちらに振り向かれてはOUT。隈なく視線を走らせ、近くの大岩を見つけた俺は、ひとまずそこで身を隠すことにした。

 

 (ここならひとまず大丈夫だろう)

 

 ケインを下ろし一息入れる。

 

「ありがとな、ユウト。毎度のことながら」

「なに、良いってことよ。……さて、どうしたものか」

 

 ここで一連の事件について、またもや考察をしてみる。省みて思うに、クイーンランゴスタの死骸は恐らくイーオス達の。それも、彼らの親玉(リーダー)、ドスイーオスの仕業とみた。

 確かにドスイーオスは、小柄のイーオス達に比べて比較的に毒性がかなり強い。なので、運悪く食らったのなら死に至るのも無理もない筈。

 

 (しかし、なんだろう……)

 

 何処、府に落ちない感じがしていた。と言うのも、比較対象としてあまり見てはいないのだが、最初にみた鳥竜種の死骸。イーオス達も鳥竜種と変わらないことから、同種を殺めること。果たして、そんなことするのだろうか。

 同一犯だった場合、その点、どうしても不可解だった。思い耽る中、ケインが尋ねてくる。

 

「なぁ、ユウト」

「ん? どうした?」

「さっきの凶暴なモンスター達は、一体、なんなんだ? 見た感じランポスみたいな体格していたけどよ。なんだか奴とは違って、体表が禍々しい感じに赤かったしよ」

 

 彼の素っ気ない疑問。俺は簡単に答える。

 

「ああ、イーオス達のことか」

「イーオス? あいつらが?」

「まぁな。でも、毒らなかった点を見ると、よく無事でいられたよな。奴のクリティカルは食らっちまったけど」

「毒らなかったって。あいつら、毒、吐き付けてくるんかよ??」

 

 今更になって驚き蒼ざめる。そんな彼に、当然のように解説を挟む。

 

「そうだけど。てか、イーオス達はランポスよりも断然危険な部類に入るんだぜ。ゲネポスとか言う亜種も危険だけども」

「マジかよ。てことは、……運良く生き延びられた俺は、まさか……奇跡?」

 

 今更感を醸し出す彼に、俺は呆れて溜息をする。

 

「……ったく。ほんと、運いいよ、お前は」

 

 褒めたつもりもなかったが、ケインは俺の言葉に照れ臭そうにしながら嬉しさを滲ませた。

 

「さて、どうするか……」

 

 そんな彼をよそに、今後、どうするべきか。周囲を見渡し、そして、ケインを見る。

 

「ケイン。もう、動けそうな感じか?」

 

 容態を確かめる俺に、彼は両手を握ったり開いたりして体調を確かめる。

 

「今のところ、両足はまだ力が思うように入らないみたいだけど、それ以外なら……大丈夫そうかも」

「だろうな」

 

 痛撃からの回復までの残り時間を鑑みて、そう答えてやった。

 

「でも、どの道、動けないのには変わりないから、安全地帯まで、また俺が負ぶってやるよ」

「いいのか?」

「だって、仕方ないだろう。立てそうにないなら」

「ま、まあ、そうだけどさ。でも、なんか、こー……」

 

 ポンッ!

 

「ん?」

 

 ――とそこで、誰からだろうか。一通のメッセージが、何か言いかけていた彼の言葉を遮るような感じで、軽快な効果音を伴って送られてきた。そのまま興味本位的な感じで画面を開き、確認してみる。

 すると――

 

 (サユリ? なんだろう?)

 

 ログハウスで待っているであろう、彼女からのメールだった。不思議に思い、開封しようとする。が直後、そこで嫌な予感がし、伸ばした指をピタリ。最近、体調が優れないサユリの身に何かあったんじゃないだろうか。と言った予感が脳裏を過ぎったのである。

 

 (まさか……)

 

 そんな不安がする中、意を決していざ改めて開封しようと指を伸ばす。――とそこで、いつの間にか、なぜか血相を変えていたケインが視界に映る。

 

「ん? どうしたんだ? そんな青ざめて」

 

 すると彼は、人差し指を俺の後ろへと差し

 

「ゆ、ゆ、ユウト。う、うう、うしろ……」

 

 歯切れの悪さで指摘してくるではないか。さすがに疑問に思い、言われたとおりに振り向いてみる。直後、俺の両目が見開き、驚愕。一瞬にして、全身に緊張が走った。と言うのも、今、俺の眼前には、なんと――

 

 ドスイーオスが。

 

 そう。イーオス達の親玉であり、その体格も中型モンスターに匹敵せんとばかりに大きなドスイーオスが、数歩前にいたのである。

 途端、間合いを取り身構える俺。直前まで気配に気付かなかったことに、不覚を覚える。

 

「ケイン、自力で下がれるか?」

「な、なんとか……」

 

 両足は利かないながらでも、這いつくばる感じで俺から。それもドスイーオスから距離を取る。睨み付け合う両者。先に動いたのは、ドスイーオスであった。怪鳥音とも呼べる甲高い雄叫びを放つや、仲間を呼び寄せる。

 

 (まずいな、これは……)

 

 さすがに今度ばかりは逃げられそうにない。覚悟を決め、片手剣(ドスバイトダガー)の盾をかざして、迎え撃つ態勢を取る。けれど、強引に攻め込まれたらまずいのは確か。それは後方で動けないでいるケインの身に危険が迫ることを意味していた。

 彼から注意をそらすべく、横へと移動していく。――――が、そこで、仲間を待たずしてドスイーオスが攻めてきた。そして、いきなり何をしよう。噛みついてくる。だが、動きが分りやすかったこと。そして、緩慢だったこともあり、難なく交わす。そして、がら空きとなった奴の脇腹へと、連続攻撃(コンボ)を叩きつける。

 ドスバイトダガーの赤き刃が、禍々しい赤き体躯を切り刻んでは、盛大な出血パーティーを彩る。だが、ドスだけあって、奴にとっては引っ掻かれたと同然のダメージ程度。全くと言ってもいいほどに怯まなかった。当然だが、数度切りつけただけでは、奴には利かないことは知っていた。

 しかし、攻撃の手はやめない。

 ケインに注意が言ってはまずい。俺は持てる限りの狩り技を駆使して、畳みかけていく。だが、注意を引きつけているのにも限界があった。

 ドスイーオスは、ちょこまかと機敏に動き回る獲物()を諦めたのか、まずは一番仕留めやすい方――ケインの方へと対象を変えてしまう。突然、攻撃の手を止め、ケインの方へと向き直る奴に、俺は心の中で焦りを抱く。

 駆け出すドスイーオスに、後を追うように追いかける俺。自分が狙われていることに気付いたケインは、恐怖に戦き必死に後ずさり。

 

 (間に合うか。いや、間に合ってくれ!)

 

 全速力でケインの前へと躍り出ようとする俺をよそに、攻撃範囲内へと来て狙いを定めた奴は、何をしよう。今度はなんと! 黒紫がかった痰を。それも、猛毒の痰を、彼に向け吐きつけてきたのである。

 

 くっ!

 

 盾をかざし、彼の前に飛び込む俺。吐き出された毒性の痰は

 

 ベチャリッ!

 

 盾にぶち当たり、途端、ジュー!! と何かを溶かすかのような不気味な音を立て、ぬめり落ちていった。まさに間一髪と言ったところ。しかし、安堵する暇もなく、すぐさま俺は立ち上がる。

 そして、奴の進行方向を妨害せんとばかりに、再び立ち向かい――が、その一方で、ドスイーオスもまた、そこを読んでいたのであろう。焦りからつい真っ向から切り掛かってしまった俺を相手に、思いっきり飛び込んできた。当然、避けることができず激突。

 

 ぐはっ??

 

 ドスイーオスの全体重が乗った重い一撃を受け、吹き飛ばされてしまい、なんとそのまま――

 

「お、お、おい! ちょ、ちょ、ちょっと! ぐへ??」

 

 とかなんとか叫ぶケインと激突。彼のすぐ後ろが藪で隠れて見えなかったであろう。俺とケインは、そのまま藪で隠れていた急斜面を転がり込む羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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