モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:託された想い・10話

 突然、何の前触れもなく、ヌメッとした感触が頬を伝う。

 

「う、うう……」

 

 暗闇の中、うっすらとその瞳を開け、そこでモンスターの顔がドアップ。思わず驚き、後ずさりしてしまう。がそこで、そのモンスターが草食モンスター――アプトノスだと気付き、一安心する。一方、隣からは

 

「う、うわー!!」

 

 驚愕と恐怖に彩られた相棒(ケイン)がいた。後ずさりしながら、片手で追い払おうとする。

 

「いけ! いけ! あっちに行け!!」

 

 正体が分らず混乱する様。俺はそのモンスターが危険でないことを彼に諭す。

 

「落ち着けよ、ケイン。そいつはアプトノスだ。危なくない」

 

 しかし、ケインは

 

「だ、だってよ。むやみに近づいて――」

 

 そこでベロリッ! 彼の頬を一舐めり。堪らずケインは、全身に電気が走ったかのように鳥肌が立ち

 

「ひー!!」

 

 と黄色の声を上げた。戯れるようにケインに寄り添うアプトノス。方やどうしていいのかパニックになるケイン。その光景に、彼はどうでアレ、俺はどこか心が和んでいた。

 しかしその一方で、何か大事なことを忘れているような。そんな蟠りが心の中で燻っていた。

 

「なんか、大事なことを忘れているような……」

 

 頭に手を添えて思い出そうとする。一応、確認のために、画面を表示してみる。するとそこには、新着メッセージが受信されているであろう〝NEW″アイコンが表示していることに気付く。同時に俺は思い出した。

 

「そう言えば……」

 

 ぼやく俺の脳裏には、サユリからのメッセージが来ていたことを確認し損ねた、自分の光景が過ぎっていた。思い出したことに、早速、アイコンに手をかざす直後、瞬時に切り替わり、メッセージの内容が表示された。

 

 〝最寄りのカフェテリアで不穏な噂を訊いたの。今回のクエスト、今まで以上に危険かもしれないから早く帰ってきて。それが無理なら、無事である返事を。お願い?

 

 どこか切羽詰まったかのような内容が綴られていた。

 

「サユリ……」

 

 (彼女がこれほどまでに俺たちのことを心配するとは……)

 

 そう思った俺は、余程のことが無い限り彼女がこう書き付けることはまず無いと悟ったことにより、クエストの危険度云々よりも、まずは優先して帰還するべきなのだろう。

 手始めに無事であることを知らせようと、返信文を書き付け始めた。とはいえ、本当のところトークで返事を返したいところであったが、何分、クエスト中の身。未だにミナガルデにいるかもしれないサユリとは、文書でしか送れないことに歯痒い感情を抱く。

 

「こんなものだろう」

 

 簡潔的に仕上げた返事内容に、頷いてみせる。――とそこで、周囲に異変を感じ、文面から目をそらす。

 

 (なんだろう?)

 

 今までおとなしかったアプトノスが、急に落ち着かない様子になった。一旦メールを閉じ、辺りを見回す。

 

「ユウト……」

 

 心配そうに訊いてくるケイン。それには返さず、草食モンスター達の動向に注視する。

 そして、何かから逃げ出すかのように、急に群れの一団がある方向へと向くや、

 

 ドコドコドコ……!!

 

 土煙を立て逃げ出していく。その様子から、俺もまた胸騒ぎが。去って行くアプトノスを見送りつつ、俺は拓けた場所へと走った。

 

「お、おい。待てよ、ユウト!」

 

 彼もまた不安になったのか。俺の後を追いかける。

 

「一体どうしたんだよ? ユウト」

 

 さすがのケインも戸惑いを見せる。

 

「何か来る」

「え?」

 

 状況が読めない彼をよそに、俺はドスバイドダガーの柄に手を宛がう。そして、身構え周囲を警戒。この様子にさすがのケインも危機感を抱いたのか。太刀(鉄刃【神楽】)を抜いた。

 場が一瞬で緊迫する中、遠方の茂みからガサガサと葉音が聞こえ、そして、一匹のイーオスが現れる。

 

 (イーオス? ……まさか追いかけてきたのか!?)

 

 一瞬だけ振り向き、自分たちが滑り落ちてきた方向を見る。恐らくであるが、あの急斜面の崖から落ちてきたのだとするなら、その崖の上。――つまり、あの高さからこちら側へとどこか通じるルートがあったのかもしれない。

 10メートルほどの高さもある崖の上を睨み、そして、一匹のイーオスの方へと向き直る俺。この場所まで回り込んできたイーオスにそんな賢さがあるなら、当然、奴――ドスイーオスも来たことになる。

 ますます嫌な予感が胸中に渦巻き始めていく中、俺は後々包囲されてしまうリスクを考え、先手を打つべく次のエリアへと通じる脱出ルートを探し出す。

 手早く画面を切り替え、生態マップへと切り替え――とそこで、2匹、3匹、……なんと、予想していた通りか。10匹をものイーオス達が現れた。

 

「おいおい。なんかまずいぞ、ユウト。このままでは」

「分っている! 分っているよ、ちょっと待て!」

 

 焦燥感に駆られる中、現在地を特定した俺は、すぐさま脱出ルートを探り当てる。

 

「ケイン、あそこまで走れるか?」

「あそこって……」

 

 彼に示した先。そこはイーオス達が現れた場所から、斜め左向かいにある場所であった。全速力で走り抜ければ、なんとかなりそうな気はしなくはないが。

 

「む、無茶な気が」

「だけど、そこしかない! それに、このままでは、アーチ状に囲まれてしまうぞ!」

「くっううう……。えーい! くっそぉー!!」

 

 もはやヤケクソだった。そんな彼に、俺は自ら囮になることを進言する。

 

「俺が注意をそらす。そのうちに駆け抜けるんだ!」

「わ、分ったよ! うおおおおお――!!!」

 

 そして、地を蹴って走った。一目散に、それも全速力で。俺もまた、ケインに続けて走る。だが、一緒ではない。ケインを庇うようにして、イーオス達の進行方向を妨害せんとルート上に陣取りに行ったのである。

 両者は駆け抜け、そして、俺だけイーオス達の進行方向に躍り出るや、身構えて奴らと相対する。

 

 (さぁーこい!)

 

 いつでも斬りかかれるよう、イーオス達を威嚇する。一方、イーオス達もこちらの存在に気付いたのか。先陣切って3頭、向かってきた。

 互いの間合いが縮まる中、俺はカウンターを狙うべく相手の攻撃を誘う。だが、あと一歩のところで、イーオス達の接近が止まる。

 相手もまた威嚇するだけで、これ以上、接近してこないことに、やや誤算が生じたと感じた俺は、仕方なく自ら間合いを詰め先制攻撃を仕掛けようと、一歩踏み出した。

 ――とその時、後方から、ケインの声が。それも逼迫したような緊張感ある声音が聞こえてきた。

 

「ゆ、ユウト……」

 

 どこか悲痛そうな声に、思わず振り向いてしまう。

 

「どうした? ……っ!」

 

 この時、一瞬で事態が読めた。――が、次の瞬間、俺自身、イーオス達に隙を与えてしまったらしく、甲高い怪鳥音がしたかと思ったら、丁度、飛びかかろうとするところであった。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に盾を構え、直後――

 

 ガキ――ン!!

 

 飛びかかる一頭のイーオスが、盾にぶち当たり火花を散らす。立て続けに、後方のイーオス達もこちらに向かってきては、毒牙をギラつかせて噛みついてくる。が、予備動作が甘かったことから、これを難なく交わし、横っ腹に一撃をお見舞い。この一撃の名の下、鮮血が迸るや、ダメージを受けた一頭のイーオスはのけぞった。

 間髪入れず攻撃を繰り出したいところであったが、それよりもケインの方が心配。俺は奴らとケインを視界に捉えるべく、距離を離す。

 そして、視界にケインを納めると、視線だけを動かしてケインと対峙しているモンスターを確認する。

 状況からして、ケインの眼前にはドスイーオスが立ちはだかり、脱出ルートを見事に封じている。このことから、このイーオス達は囮役。肝心の脱出ルートには、ドスイーオスと。鳥竜種は賢いと聞くが、これほどまでとは……。

 彼らを見くびっていたことに、後悔の念を抱いてしまう。だが、今はそんな場合ではない。なんとしてでも、この包囲網を突破しなければ、俺たちに未来はないのだから。

 ともかく、この状況は非常に危険。俺はともかくとして、実力の度合いが未だに未熟かもしれないケインが心配。そのこともあって、とにかく彼だけでもこの場から逃がさなければと考えていた。

 ササッと軽快に操作をし、アイテムリストから閃光玉を選択。ドスイーオスといがみ合うケインを呼ぶ。

 

「そいつから一旦引くんだ、ケイン!」

 

 しかし、ケインは

 

「だ、だ、だってよ……」

 

 たどたどしい返事。その実、抜刀したまま相対して、いつ襲ってくるか分らない相手を前に硬直を余儀なくされていた。だが、一旦、引かなければ状況はますます不利になるのも目に見えていた。

 数頭のイーオスが接近してくる中、俺の方も彼を庇いながら戦うのにも限界がある。閃光玉を手に、彼に合図を送る。

 

「今からそっちに閃光玉を投げる。閃光が放たれた隙に、そこから一旦、離れるんだ!!  いいな」

「あ、ああ。分った」

 

 了承を得る。そして、狙いを定めて閃光玉を、ドスイーオスめがけて投げつけた。――瞬間、炸裂音を轟かせると同時に、周囲一帯を真っ白に塗り潰す。

 

「未だ!」

「うおおおお――??」

 

 全速力で走る、俺の方に向かって。だが、その矢先、真っ白に覆われた空間より、後方から得体の知れない何かが飛んできた。

 

 紫色の塊――毒。

 

 それは、ドスイーオスがヤケクソになって放った毒液だった。刹那、放物線を描いて飛んできたそれは、ケインに当たりそうになり、思わず俺は叫ぶ。

 

「飛べ!! ケイン!!」

 

 言われるがまま――

 

「うわぁああ――??」

 

 ダイブ!

 

 次の瞬間、先ほどまでいた地点にて、ベチャリ!! 猛毒液が覆い被さった。

 

「どうだ? 逃げ切ったか?」

 

 目映い閃光の光が収束していく中、改めて状況を読んで答える。

 

「いや、まだ。むしろ追い詰められた感じだ」

 

 表情を引きつらせて、えっ!? と。まさににわかに信じられない様子。俺も信じたくはないが、状況はさっきよりもまずいことになっていた。

 イーオス達とドスイーオスの方へと向き直り、ケインもまた俺と同じく状況を理解する。

 

「ま、まずいんじゃないの、これ。いわゆる……」

「袋のネズミ。そんなところだ」

「ど、どうするんだよ?」

 

 どうしようもない事態に、戸惑いの色を滲ませる。さすがの俺も、こうなった以上、危険な賭に出るしかないのかもしれない。

 徐々にイーオス達とドスイーオス達との距離が縮まって行く中、俺の出した答えは――。

 

「武器をしまえ。一気に駆け抜けるぞ!」

「しまえって? それって、自殺行為じゃ……」

「自殺も何も、このままでは奴らの餌食。だから、賭に出るんだよ」

「賭けって……」

 

 皆まで訊く前に、俺はイーオス達の群れへと向かって突っ走った。このことにより、慌ててケインも後を追う。

 

「お、おい! そんな無謀な。ま、待ってくれー!!」

 

 彼もまた全速力で駆ける。対するは、向かってくるイーオス達。煙玉を選択し掌に出現させると、あちらこちらに投げつけまくる。時間差で遅れて、瞬く間に煙が充満。辺り一面を真っ白に染めていき、イーオス達の視界を奪っていく。

 しかし、それは俺たちもそう。だが、生態マップを見ながらだったこともあり、迷うことなく突っ走って行けた。恐らくケインも同じく、駆け抜ける俺の後を追って来てるに違いない。

 視界を白煙で妨げられ、戸惑うイーオス達の間を縫って茂みへとまっしぐら。

 

 そして……。

 

 ガサガサガサ……。

 

 葉音を立てて茂みの中へと逃げ切った俺は、向き直るやすぐさましゃがみ込む。枝葉の隙間から外の様子を窺い、そこでケインが一頭のイーオスに襲われているのを目撃する。

 

「ゆ、ユウト。た、助け……」

 

 押さえ込まれた格好でイーオスの攻撃を凌いでいたケイン。その頭上には、毒状態を示すアイコンが表示されていた。

 

 (このままでは、ヤバイ)

 

 彼を助けるべく、茂みから出るやそのイーオスに立ち向かった。

 

「やめろー??」

 

 叫ぶのと斬りかかるのがほぼ同時だった。声に気付いてこちらを向くイーオス。だが、気付くのが遅く、ドスバイドダカーの赤き刃が首元を一閃する。

 

 ギヤー??

 

 弱点部位だったのだろうか。これまで以上に血飛沫を放ち、イーオスはバランスを崩してのけ反った。このことにより拘束から解放されたケインは、俺の手を掴み立ち上がる。

 

「大丈夫か?」

「あ、ああ。でも、かなりヤバかったよ」

「だろうな。それに解毒剤使わないといけないだろうし。ひとまず走れるか?」

「走れるも何も、早く逃げたい気分だよ」

「同意見だ。なら、行こうぜ……とその前に」

 

 そこで彼に急接近するや、赤き凶器を振りかざした。流石のケインも、当然ながら素早く反応して驚く。

 

「お、おい??  いきなり何す――」

 

 直後――

 

 バシュッ??

 

 肉塊をぶった斬ったかのような、不気味な効果音を伴い

 

 ギャー??

 

 モンスターの悲鳴が轟いた。慌てて向き直るケインをよそに、先程まで痛撃を受けてのけ反っていたイーオスに向け、俺はそのまま立て続けに連撃(コンボ)を叩き込む。

 幾重にも血が噴水の如き吹き出し、堪え兼ねて怯むイーオス。最後の強撃を受けて吹き飛び、そのまま白煙の中へと吸い込まれるようにして消えた。

 

「吃驚した~。サンキュー、助かったよ」

「油断禁物だな。それに礼は後。白煙が消える前に茂みの中へ一旦逃げ込むぞ」

「ああ、それもそうだな」

 

 頷き合うや、俺たちはそそくさと目の前の茂みへと向かって突っ走った。

 

 

 

 

 〝毒を治療しました”

 

 解毒剤を飲み干したケインは、表情を痙攣らせる。

 

「にしてもこれ、クソマズいな」

「仕方ないだろう? 確実に治るだけマシだと思いなよ」

「でもな?」

 

 不満を口にする。無理もない。毒状態を治すだけの効果しか取り柄がないのだ。味がどうこうなんて、眼中にないのは当然なのだから。

 

「どの道、苦いのは慣れだな。あとはいかに毒状態にならないかだがな」

「はぁ?」

 

 肩をすくめ落胆した。

 

「さて、これからどうするか……」

 

 枝葉の隙間から顔を覗かせて、外の様子を伺う。俺一人なら、ドスイーオス+イーオス達数頭相手にすることは、苦戦を強いられるもののなんとか切り抜けられる。

 しかし、戦闘の最中、ターゲットがケインの方に向かってしまっては、その分、危険性が一気に高まるのは避けられない。

 視界が晴れてもなお、未だに俺たちの気配を感じて警戒を怠らないイーオス達を相手にそう思案を巡らす。

 

「これからどうするんだ?」

 

 先行き不透明の中、戸惑いを見せる。

 

「それを今から考えてる。それにサユリからメールが来たしな」

「サユリちゃんから?」

「ああ。心配だから帰ってきて、だってさ」

「へぇ?、っで、返信したのか?」

「いや、まだ。ご覧の通り余裕がなくて」

「おいおい。彼女、心配してるぞ」

 

 さすがのケインも、俺の対応に困惑の表情を浮かべる。

 

「それは分かってる。十分、分かってるさ」

「だったら――」

「じゃあ逆に聞くけど、今の状況で冷静に返信文書けると思うか?」

「そ、それは……」

 

 問われて冷静になったことで、彼は言葉を詰まらせてしまった。指摘した通りなのだろう。黙ってしまう彼に俺は同意を求める。

 

「だろう? まずは今の状況を脱してから考えるさ。それに――」

 

 そこで、群れの一頭がこちらに向かって来るのを垣間見た俺は、あとに続く言葉を閉ざす。

 

「ん? どうした?」

「しー!」

 

 不思議そうにみつめるケインに、俺は黙るよう促す。そして、茂みの外に向かって親指を立て、その訳を示す。それでも理解できなかった彼は、恐る恐る枝葉の間を覗き、そこで腰を抜かす。

 思わず声が出そうになるが、そこはすかさず彼の口を封じた。小声で語りかける。

 

「言ったとおりだろう?」

 

 俺からの同意に、アホなくらい素早く首を上下に振る。一呼吸をおいて、ケインもまた小声でしゃべる。

 

「確かにお前の言ったとおりだったよ。てか、危うく見つかりそうだったしな」

「だから静かに、って言ったんだ」

「頷けるわ、さすがに」

 

 ようやくケインも理解したようであった。と言うのも、近くにイーオスが数頭うろついている。このことにより、もし、見つかれば、その後の状況は想像するまでもないからだ。

 奴らの足音、時折鳴く怪鳥音を聞きながら、遠ざかっていく時を待つ。

 

 その後、暫くして……。

 

 一際高い。それはもう、遠吠えじみた金切り声のような怪鳥音が聞こえてきた。つられて一段とトーンを落としたような怪鳥音の合図も、複数、あっちこっちから聞こえてくる。

 思うに確認するまでも無いと思うが、多分、ドスイーオスから集合の合図がかかったのだろう。奴らの足音がさらに遠ざかっていくのが聞こえる。

 

 (一応、確認しなければ)

 

 そう判断して、茂みの外を覗く。確認後、ゆっくりと顔を引っ込ませて、今後、どうするか思案を巡らす。――のだが、そこで、心に余裕が少しできたこともあり、画面を表示。何はともあれ、サユリへの返信文の続きを考え始める。

 

 (さて、どう返してよいものだろうか……)

 

 一言簡単に済ませればいいだけのことなのだが、どうもまとまった言葉が出てこない。そうしたなか、ケインが話しかけてくる。

 

「なあユウト、今のうちに早くBCに戻らないか? サユリちゃんも心配していることだしよ?」

「んー、まあ、そうなのだがな」

 

 どこかハッキリしないような返答。その脳裏には、彼女への返信文のことで頭がいっぱいになっていた自分がいた。

 しばし目を瞑り、自分だけの世界に入った後、やっぱり深く考え過ぎても意味ないか的な結論に至り、再び画面へと目を向けた。

 パパッとメッセージを書いた後、

 

「ま、こんなものか」

 

 と呟き返信。画面を閉じた。

 

「とりあえずサユリ宛に返信したから、多分、これで大丈夫だと思う」

「やっとか」

「まあ、やっとだな。本当はもっと早く返信したかったけど、この際、仕方ないな」

 

 苦笑を浮かべた。

 

「さて、どうすっかな~」

「戻るんだろう?」

「ああ、そのつもり。……そのつもりなんだがな」

「ん? 何か引っかかることでも?」

「まあな」

 

 その実、俺には心配事があった。

 

 そう……、心配事。

 

「まさかな……」

 

 呟く俺の胸中には、嫌な予感が渦巻いていた。と言うのも、なにわともあれサユリのことである。俺たちのことを心配してメッセージを送ってきた彼女に、俺は返信するのが遅れてしまったからだ。それも大分、メッセージを受け取ってから、どのくらいの時間が経ってしまったのか分らないくらいに。

 そのこともあって、俺の胸中には、無理してまでクエストに来てしまっているんじゃないのだろうか、と心配でならなかった。

 しかし、それ以上思い悩んでも仕方ない。憂いを振り払い、第一優先を考えた。

 いつの間にか、ぼー、としていた俺に、ケインは心配してか声を掛けてくる。

 

「どうかしたか?」

「あ、いや、なんでもない。……まあ、とにかく戻ろう。サユリが心配しているしな」

「だな」

 

 頷きあった後、早速、葉音を立て茂みからでた。

 

「ふぅー、やっぱり広いところはいいぜ。……ユウト、早いとこ戻ろうぜ」

「当然だ」

 

 すっかり気を許してしまう。辺りを見渡し、近くにイーオスがいないことを確認して――

 

「っ!」

 

 同じくケインも

 

「っ! い、イーオ――」

 

 すかさず彼の口に手を当てる。更に念を押すかのように

 

「し、静かに」

 

 と黙らせる。と言うのも、目の前。それも数メートルしか違わない距離に、その赤黒きまだら模様の鳥竜種――イーオスがいたからだ。

 まさに、うかつだったと言えよう。見つかったら、仲間を呼ばれるのは必須。そのこともあり、悟らせないよう静かに後退りする。その中で、俺は彼を解放し慎重に退くよう促す。だが、皮肉なことに

 

 ズルッ! 

 

「うわっ??」

 

 バシャン??

 

 足を滑らし、ケインがドジってしまう。

 

「な、何やって――」

 

 注意する間も無く時すでに遅し。後に続く言葉を遮るかのように、こちらに気付いたイーオスが甲高い声を発してしまう。獲物を見つけたことを知らせる合図。舌打ちした俺は、彼を急かす。

 

「早く立て??  ケイン!」

「わかった、分かってるって。そんな急に急かすなよ」

 

 ヨロヨロと立ち上がる。だが、時は一刻の猶予もなくーー。ドスイーオスの乾いたような雄叫びが聞こえてくるや、ドスイーオス周辺に集まっていたイーオスの群れだけでなく、エリア外からも続々と現れるや俺たちの元へ迫ってきた。

 余程俺たちを餌食にしたいのだろう。瞬く間に包囲せんとばかり、道という道を塞いでしまう。

 事態の深刻さに今更ながら気付いたケインは、怖気付きながら弱々しく声を上げる。

 

「ど、どうするよ、ユウト? 囲まれっちまったぜ」

「言われても困るよ。くっそー、何かいい手は……」

 

 必死になって打つ手を考える。俺だけならまだしも、ケインがいるとなると、そうもいかないし……。とそこで、思索を巡らす中、その思考を妨害せんと一頭が先陣切って迫って来た。

 

「ちっ!」

 

 やむなく対峙する。単発的な雄叫びを上げるや、その一頭が飛びかかってくる。すかさず交わした俺は、がら空きの横っ腹目掛けて連撃を叩き込む。堪らず仰反るイーオス。しかし、間髪入れず、もう1頭、そして、もう一頭。押し寄せてくる。

 

「ケイン! 仕方ない、こうなったら迎え撃つぞ」

 

 しかし、ケインはそれどころでなかった。

 

「ユウト、すまねぇ。やっぱ俺、先に逃げるわ」

「先に逃げるって、どこに? ……って、おい! そっちは」

 

 迫るイーオスの群れとそのリーダー(ドスイーオス)が接近してくる恐怖に、すっかり怖気付いてしまったのか。完全な包囲網がなされる寸前、僅かな隙間を見つけて命欲しさに、そそくさとずらかってしまった。

 このことにより、個人的に俺は思う。ただ逃げるだけならまだ良かったのだと。ただ逃げるだけなら……。

 だけど、肝心な問題はその逃げる先。一目散に逃げた先は、なんと! 周囲が崖に囲まれた、行き場のないだだっ広い草むら地帯(エリア)だったのだ。

 後先考えずに逃げてしまったケイン。彼の身を案じて、対峙していたイーオス達を一旦無視。彼が逃げてしまった道のど真ん中に立ちはだかるように陣取りにかかる。だが、その一方で、イーオス達も何も考えてはなかった。

 俺1人を相手に、一度に数匹。纏ったまま数で押し寄せてきたのである。流石の俺も対処しきれない。しかし――

 

「ぬぉ――??」

 

 怒声を上げるや、向かってきた一頭に立ち向かう。眼中になかったのだろう。その一撃をモロに受け、イーオスは斬り飛んだ。だが、俺はその手を止めない。

 流線を描くように、また、一頭、そして、また、一頭。イーオスへと切り込んで行くや奴らどもを怯ませていく。

 しかし、事態は予想していた通り、悪い方向へと押し流されていく。俺が斬りつけていく中、隙を突かれたのだろう。取りこぼしを生んでしまい、数匹ほどケインが逃げた先へと走って行ってしまう。

 だが、俺はそれも逃がしやしない。踵を返すや後を追うようにして、全力疾走で駆けようとした。――とそこで、背中に凄まじい重い衝撃が。か

 

 ガッ??

 

 肺の空気を全部吐き出されてしまうような一撃。モロに食らった俺は、そのまま吹き飛ばされ二転三転して転げ回る羽目になった。

 

「う、ううう……」

 

 余りにも重い一撃だったため、呻き声を漏らす。苦痛の中で眼前に表示された体力ゲージを見れば、その強打に相応しいくらいガッツリと4割弱、減らされていた。

 

 (なんとかして、立ち上がらなければ)

 

 衝撃で手放してしまった剣を掴み、剣先を地面に突き立て執念で立ち上がろうとする。しかし、立ち上がり様、膝の力が抜けてしまいフラついてしまう。だが、幸いなことにモンスターからのクリティカルは貰っていなかったらしく、気合いの憤怒で再び立ち上がった。

 

「へへ、そう簡単には行かせない、ってか」

 

 苦笑して見せる俺。その眼前には、ケインが逃げた道を塞ぐかのようにドスイーオスが立ちはだかっていた。

 

 

 

 

             ※

 

 

 

 

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……。

 

 荒い息を上げてスタミナケージ全振りで、走りまくる。それは脇目も振らずに突っ走るように。まさに、何かから逃げてるようでもあった。

 いや、実際のところ逃げているのだ、ソレに。そして、ソレとは、まさにイーオス達のこと。

 

 そう……。

 

 ケインは無我夢中で逃げていたのであった。だが、長距離を細々と全速力で走っていたとは言え、もはやゲージは底をつき。その場で、息切れを起こしてしまう。

 

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……。

 

「もう、ここまで逃げ切れば…」

 

 やっとの思いで言葉にして、来た道を振り向く。遠方は木々が生い茂っているためか、薄暗くて視認しずらかった。だが、パッと見た感じ追っては来てないようであった。

 

 ふぅ?。

 

 安堵のため息が溢れる。しかしその一方で、ユウトを置いてけぼりにしてしまったことに、何処、後ろ髪引かれる思いがしていた。

 

「あいつ、大丈夫だよな?」

 

 心配してか、確認しに戻ってみたくもなる。だが、イーオス達が待ち伏せているかもしれないことを考えると、それにはかなり抵抗感があった。

 いくら頼り甲斐のある狩友(ユウト)と一緒だったとは言え、万が一にもあの場で逃げなければ、命の保証なんてなかっただろう。その判断の下、こうして逃げてきたのだ。悪い捉え方をすれば裏切りに思われるかもしれない。

 しかし、状況が状況。裏切りも何も、命を落としたら元もこうもない。自分は正しい判断をしたんだ。致し方ないのだ。

 自分に言い聞かせて、無理にでも納得させる。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 向かう前方には、道中、処かしこに瘴気溜まりが点在し、さらに奥は開けた場所が見えていた。

 これは勘でしかないが、きっと次のエリアで間違いない。そう確信した上で、そこからうまく行けば安全圏(ベースキャンプ)に戻れるかもしれない。そう脳裏に過り、期待で胸が弾んだ。

 

「よし! あそこに行けば」

 

 気を取り直し、一歩歩き出す。スタミナケージが徐々に溜まって行く中、毒溜まりを踏まないよう注意しつつ、そこでケインは思う。

 

「そう言えばあいつ、最後に何か言いかけてたような……」

 

 必死だったから最後まで聴いていなかったものの、落ち着いた今、なんとなく気になってきた。

 

「でも、聞きに戻るわけにはいかないしな……」

 

 やはり、その点に尽きる。今更なのだ、今更。気にはなってはいたが、仕方ないと考えてそのまま歩き続けることにした。

 

 そして……。

 

 とうとう、ケインは一際広々とした草むらエリアへと足を踏み入れた。背丈ほどもない草むらの大地を踏みしめ、めい一杯、、澄み渡る空気を吸い込んだ。

 

「うーん、さっきまでとはやはり違う。久々にまともな空気を吸えた感じがするぜ」

 

 時折吹く心地の良い風に抱かれ、思いっきり羽を伸ばした。

 

「さてと……」

 

 そこで何を取り出そう、確認のため、生態マップを広げた。いつもはユウトに頼りきりだったが、さすがに今回は自分で道導を立てるしかない。

 慣れない手つきで地図上のカーソルを動かして、拡大やら縮小やらを駆使してベースキャンプの場所を探っていく。

 

「んー、このテントマークっぽいのが、多分、ベースキャンプだな。てことは……」

 

 一旦、キャンプ地に目印を付け、再び現在地指定に。そこから、キャンプ地までのルートを探っていく。そのなかで、多分、これは崖を意味する斜線だろう。色濃く塗られたラインに対して、そう認識することにした。

 懸命なルート探し。キャンプ地までからここまで辿っていく中、ことは上手くいきそうな予感じがした。

 ところが、順調にルートを探っていくなか、そこですぐに不可解な事態に直面する羽目になった。

 何を隠そう、何処を目を付けても崖を意味する斜線が。通行禁止を意味する斜線が、道中に立ちはだかっていたのである。

 

「ん?  んんん?? こ、これはどういうことなんだ? 道が、道がないぞ! 何処見ても」

 

 流石のケインも、先程までの余裕の表情から一変して、焦りを見せ始めた。まさに予定では、このまま順調にキャンプ地へ戻れる算段だったからだ。

 計算外の事態に、生態マップを確認すればするほど、焦燥感は拍車を掛けて酷くなっていく。

 そして、とうとう……。

 

「そ、そんなバカな……」

 

 自ら袋小路に足を突っ込んでしまったことに気付いて、後悔と絶望感で心を塗り潰され、お先が真っ暗になった。

 ガクリと膝をついて、天を仰ぐ。

 

「やっぱり、あいつと居ればよかったよ。くっそー! こんなことになるとは……」

 

 不甲斐なさから地に拳を叩いた。だが、事態はさらに悪い方へと突き進むことに。項垂れるケインをよそに、静寂を薄く裂くような感じで、後方から聴き覚えのあるモンスターの鳴き声が聞こえてきたのである。

 ハッとして振り向くケイン。その瞳には、あのイーオスが数頭写っていた。なんと! やっぱりと言うべきか、しつこく追いかけてきたのである。それも僅かに時間差をつけて。

 

「い、イーオス??  逃げ切ったんじゃなかったのかよ!」

 

 命の危機を感じ、素早く立ち上がる。一方、イーオス達もこちらに気付いたらしい。中の一頭が合図を発した後、群れは散開し包囲網を気付き上げていく。

 やむなく太刀を抜いたケインは、イーオスの動向を伺う。

 

 (なんとか切り抜けなければ……)

 

 目指す方向は、来た道。要するに、戻る他なかった。出来るだけ距離を開けて危険リスクを下げるよう立ち回る。

 しかし、一斉に飛び掛かる算段なのだろうか。ほぼ同時に間合いを詰めていき、隙を見せなかった。

 

「くっ」

 

 全く隙がないことに、ますます尻込み。後退しざるを得なかった。登れない崖を背景に、アーチ状の包囲網がケインを追い詰め、そして――

 

「っ!」

 

 もはやヤケクソに。

 

「うぉおおお――??」

 

 それ以上下がれないことに、群れの一頭に切り掛かる。

 

「うりゃ――??」

 

 気合いと共に振りかぶった一撃。だが、それを読んでいたのだろう。狙われた一頭は、真横に飛び去り交わしてしまう。だが、空振りされた一撃に、攻撃の手を止めない。掌を返し、そのまま横へとなぎ払う。

 

 ぎゃ――??

 

 流石に意表を突かれたのだろう。その一頭は攻撃を受けてのけ反った。しかし、勢いで放ったわけではないことから、威力は小さめ。ダメージからなる出血も、微々たるものでしかなかった。

 

 (邪魔だ――??)

 

 ダメージを受けたイーオスを無視して、そのまま包囲網後方にいるイーオス一頭に切り掛かかる。と言うのも、ケインとしては、鼻っからイーオス全滅が狙いではない。

 切り抜け抜けるだけ。包囲網突破してユウトの元へ、彼と合流する。それが目的だったのだ。

 運良くイーオスの意表を突いたケインは、仰反るイーオスを無視して駆け抜けようとする。だが、そこで――

 

「ぐはっ??」

 

 無意識のうちに死角となったのだろう。真横からの襲撃に気付かず、モロに飛び掛かり攻撃を受け、吹き飛ばされてしまった。

 

「つつつつ……」

 

 泥塗れになる中、太刀を地面に突き立て、ヨロヨロと立ち上がる。2割ほど命を削られてしまった中、

 

「なんのこれしき……」

 

 根性を脇立たせ、再び身構える。振りかぶって狙いを定めず

 

「うぉお――??」

 

 再び突破を試みた。だがそこで、またもや奇襲を受け、苦悶の中、またもや吹き飛ばされてしまう。だが、運良かったのだろう。草地を何度も転げ回り、あと一歩で毒沼へドボンッ! 寸前のところで止まった。

 少し間を開けた後、薄々目を開ける。眼前に毒状態を示すアイコンが表示されているのを茫然と見つめながら、彼の胸中は、何処、諦めに似たような感情が湧きで始めていた。

 

「やっぱり、あいつみたいに上手くいかねぇや。イーオス一頭仕留めようとするだけで、このザマだし……。足手まといだったかな、俺……」

 

 いつ間にか、立ち上がる気力もすっかりなくなってしまっていた。しかし、ぼーとする中、イーオスの群れは容赦なく迫ってくる。

 そうした中、もはや諦めからなのか、イーオスの姿形もシルエットでしかなくなっていき――そこで、イーオスの群れの中に何か黒い塊が投げ込まれるのを目撃。

 

 (あー俺、とうとう幻覚まで見えてきたのかな……)

 

 なーんて、どうでもよく思っていると、直後――

 

 ピカ――??

 

 爆発的に眩い光が、群れの中心から炸裂したではないか。あまりにも眩しいことから、思わず腕で顔を庇ってしまう。その中で、

 

「くっ! な、なんだ、この光は一体??  まさか閃光玉か?」

 

 何の前触れもほぼない中、自然と疑問を抱く。だが、次に来た女の子の声に、ケインはハッとなった。

 

「間に合った?。……ケインさん、大丈夫?」

「そ、その声は、サユリちゃん??」

 

 その瞬間、助かった?、と言った気持ちと、なぜここに? と、そう言った気持ちが複雑に入り混じった。

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