モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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5章:託された想い・終話

「こう状況で言うのもアレだが、結局、原因はなんだったんだ?」

 

 サユリを負ぶさる俺の隣で、ケインは一連の事件の真相を尋ねる。彼女の具合が心配でならなかった俺は、彼の質問を突っぱねるかのように言う。

 

「原因も何も、今の状況で話せる気になれると思うか?」

 

 するとケインは、シュンと静まりバツが悪そうに項垂れた。

 

「そ、そうだよな。今はそれどころじゃないよな」

 

 再び暗い雰囲気が漂う。かに見えたが、そこでケインが尋ねたことに興味を持ったのか、サユリが暗い雰囲気を変えようと心掛ける。

 

「ユウト」

「ん?」

「私も、……その話、聞きたいな。折角だし」

「お、お前な……」

 

 体調面を考慮して、今はあまり喋るな。そう言いたかった。しかし、出たがった言葉を前にして、後ろから付いてくるミルクに押し切られてしまう。ミルクもまた、真相とやらを知りたいのだろう。

 

「ボクもそれ、知りたいにゃ。それに、いつまでもしんみりとした空気を味わうのも嫌だし」

「う〜。み、ミルクまで……」

「ねぇ〜、お願い」

 

 おまけに断りにくそうな感じに、懇願されてしまう。彼女達からの切なる? 的なお願い事。渋々、俺は肩を落として妥協してしまう。

 

「はあ〜。わかった、分かったよ。話せばいいんだろう、話せば」

「やったー!」

 

 純粋に嬉しかったのだろう。屈託のない笑みを浮かべた。

 

「でも、話すと言っても、どの道、推測の域でしかないけどな。まぁ、調査完了の印を貰ったから、図らずともそうだと思うけども」

「それでも聞きたいな。ユウトの推理とやらを」

 

 キザった風に、ふんっ、と鼻で笑い、閉じていた両目を開けると、しょうがないな〜とか思いつつ後ろを向き。そして、前置きで一言添えた。

 

「なら先に、回復薬だな。話はその後だ」

 

 指摘されたことに、そこで、えっ、となったサユリ。今の今まで気付いていなかったのだろう。俺は彼女の体力ケージが猛毒の前に5割方減っていたのを知らせた。

 慌てて回復薬を使うサユリ。その最中、俺は違う視点で思う。元気なうちに、サユリの好きなようにさせても悪くないか、と。

 やや間を置いた後、効果音が鳴る。間を置かずして、確認する。

 

「飲んだか?」

「うん。おかげでほぼほぼ回復したかな」

「そっか……」

 

 とりあえず、一安心する。とは言え、現段階ではゲリョス亜種から受けた猛毒は、解毒剤での回復は見込めない。それは先の汚染したエリアから脱出した後、確認済みである。

 だから、BCへ戻るまでの時間稼ぎとして、残り僅かな回復系アイテムを使ってここまで凌いできたわけであって。そう言うこともあり、回復系アイテムは何より貴重であった。あったのだが……、なにわともあれ、無事に間に合うかどうか。そこに全てが掛かっていた。

 しかしながら、もはやアバターシンクロ率の激減から、歩くこともままならないサユリのこと。彼女を負ぶさっている以上、思うように歩を早めることができないわけで……。

 出来る限り急ぐ中、その間のしんみりとした空気を変えるべく真相を語り出す。

 

「そうだな……。 結論から言うと、今回の環境汚染。と言っても、瘴気によるこの地での汚染は、全てあのゲリョス亜種だと睨んでいるんだよね。俺的には」

 

 すると、ケインも同意見だったらしい。

 

「その見解については、俺からも頷けるな。だって、奴が来る前と後じゃあ、明らかに様変わりしていたからな。あの長閑だったエリアが」

「同感だ。……で、そこで思うんだよ俺は。お前らも見たかもしれないが、奴の毒液でやられたイーオス。そいつが毒液で溶解していたことから、サユリは見てないけど、洞窟で死骸になっていたクイーンランゴスタの死骸と共通点があるんじゃないかってな。多分だが」

「多分って。で、でもよ……」

 

 と否定的な見方を示すケイン。続けて

 

「あれはグロテスクだったけど、毒でやられた割には外殻の損傷、見られなかったぜ。ただ、周りにランゴスタの死骸が気持ち悪いほど散乱していたのには、今更ながら気にはなったけども」

 

 そこで今まで聞いていたサユリが、自身の見解を示す。

 

「でも、直接浴びなくても、立ち込める瘴気に当たりすぎちゃったとか」

 

 まさに核心突いたかのような意見。

 

「ご名答、その通りだ。と言っても、俺と同意見でしかないがな」

 

 前置きありきだが、一応、褒めた。

 

「てことは、アレか。その虫どもは、あのチキン野郎に遭遇したせいで、逃げる間に瘴気を浴びまくってしまったと」

「恐らく、その線は当たっていると思う。それに虫達が逃げ込んだ洞窟付近にあった設営地。あの壊滅状態から、多分、ゲリョス亜種の仕業であることには間違い無いかな。ドスイーオス達の仕業にしては、派手に破壊され過ぎていたからな」

 

 自分なりに自信持って推論を述べたつもりであった。と言っても、その一方では根本的な部分は分からなかったが。

 

 そう……。

 

 〝なぜ、この地にゲリョス亜種が現れたのか″

 

 を。クエスト内容にも、そんな節は記載されていなかったし。それに何より、あー言った亜種系モンスターは、通常、上位クエストしか現れないはずなのだ。

 ましてや、その常識を無視して、これはこれでそう言った設定なのだろう。などと無理強い納得してしまえば、確かに簡単と言えば簡単なのだが……。

 同時に、俺はそのような疑問みたいなものを抱いていた。そうしたなか――

 

「なるほどね〜。……あ、そうだ」

 

 とそこで、ケインは思い出す。

 

「そう言えばと、ドスイーオスのことで思い出したんだが……」

「ん? 何が?」

「俺が逃げた後、ドスイーオスはあの後どうなったんだ? サユリと合流してからも、追いかけてくる気配がなかったから」

 

 何気ない素朴な疑問。それに対して、俺は素っ気なく答えてやる。

 

「逃げた」

「え?」

「具体的には、数頭のイーオス連れて逃げ出したってところだな。しかも突然」

「なんだそりゃ。……って、もしかして」

「想像した通りだと思うぜ。逃げ出した後、(ゲリョス亜種)が現れたからな」

 

 そこで、サユリが

 

「危機感を抱いたから逃げ出した感じかな?」

「まぁ、そんなところだろ。ドスクラスとは言え、下位モンスターと上位。それも相手が怪鳥とあっては、武が悪すぎるからな」

「ゲームの中だけに、モンスター同士、弱肉強食はきっちり設定されているんだな」

「それを言うなら、俺たちも例外じゃないけどな」

 

 皮肉を言われたことに、ケインは苦笑してしまう。

 

「さて……」

 

 話を切り替える上でそう呟いた俺は、再度、生態マップを開いた。現在地を検索し、今いる場所を炙り出す。一方、負んぶされていたサユリも、気になってか覗き見る。

 ▲マークの示す現在地は、テントマークを示すBCから、開けたエリアを挟んで目前に迫っていた。

 

「もう少しだね、ユウト。ここまで連れて来てありがとう」

「礼を言うのはまだ早いさ。だけど、助かる見込みが見えて来たことから、俺たち、ある意味、運いいかもな」

「そうかもね」

 

 そこで、再びアイテム使用の効果音が聞こえて来る。俺は在庫確認も含めてサユリに尋ねる。

 

「あと、どのくらいあるんだ?」

「2個ほどかな」

「となると、だいぶ使ったな。ちなみに状態異常の方は……、治りそうでもないか」

「残念だけど……」

「だよな〜」

 

 落胆した。回復アイテムの残り個数と言い先の効果音と言い、頭では分かってはいた。が、こうして言われると辛いものがあったし、ゲーム上の仕様の面において、行き場のない憤りさえも感じてしまう。

 

「ともかく早く行こうぜ」

「だな」

 

 ケインに促されるがまま、俺たちは先を急いだ。

 

 そして……。

 

 BC目前にして、遂に見晴らしエリアへと俺たちは足を踏み入れた。最初に来た時もそうだったが、このエリアでは雪が所々降り積っており、また、僅かながら毒溜まりが点在。さらにこの地に踏み入れた時と同様、何かの前触れを感じさせるような不気味な静寂が立ち込めていた。

 近くの岩陰に身を寄せ、BCへと繋がる出入り口までの間に、モンスターの気配がないかを顔を出して確認する。周囲を見渡し、そして、一息つく。

 

 (よし、いなさそうだな)

 

 時折、吹き渡るそよ風以外、危険な気配はなかった。はやる気持ちが湧いてくる。

 

「大丈夫そうみたいだ。行くぞ」

 

 ケインとミルクは、それぞれ頷いた。岩陰から開けたエリアへと足を踏み入れ、ケインとミルクを先頭に先を急ぐ。

 歩き出して暫く、一見して異常は今の所ないように見えた。がしかし、道半ばにして事態は急変した。

 

 ガサガサガサ……。

 

 突如、聞こえてくる葉音。場は一瞬にして、緊迫感で張り詰めていく。嫌な予感が脳裏を過ぎり、そして、その予感は数十秒もしないうちに現実のものとなった。

 何が起ころう。俺たちの目の前に奴が。あの毒々しい赤黒の真鱈模様の体表をしたドスイーオスが、現れたのである。しかも数頭のイーオス達を連れてだ。

 まさに、最後の最後に降りかかる災難。舌打ちをした俺は、遠くにいるドスイーオス達を睨みながらケインに小声で確認を取る。

 

「閃光玉はあるか? ケイン」

「え、あ、ああ。待ってろ。今、確認するから……」

 

 慌てて確認しにかかる。そして――

 

「あっ、あったぜ。残り一個なら」

 

 と、浮かれた次の瞬間――

 

「おわっ!」

 

 何かに襲われたのだろう。ケインはそこで、尻餅をついた。同時に、あの憎たらしいメッセージが表示される。

 

 〝閃光玉を盗まれました〞

 

 (メラルー⁉︎  いつの間に俺たちの近くに)

 

 今までその気配がしなかったことに、小柄ながら油断できない相手だなあと改めて認識さぜるを得なかった。

 一方、ケインはメラルーごときに奪われたことで、我を忘れて腹を立ててしまう。

 

「て、てめぇ〜」

「ちょ、ちょっと落ち着けよ」

 

 状況が状況だけに、慌てて宥めようとする。しかし、冷静になれなかったのは、彼だけではなかった。盗みを成功し喜ぶメラルーを相手に、ミルクまでもがその挑発に乗じてしまったのである。

 

「ボクも助太刀するにゃ!」

「お、おい、ミルクまでも。ま、待て! お前らー」

 

 ――とその時。

 

 ギャー、ギャー、ギャー、……

 

 こちらの存在を発見したドスイーオス達が喚きだした。

 

 (しまった!)

 

 この期に及んで最悪の事態である。同じくミルクとケインも気付いたのだろう。正気に戻ったかと思えば、青ざめて奴らの方を見た。

 

「ユウト……」

 

 心配そうに言うサユリ。もはや俺たちには、二つの選択肢しかなかった。

 

 〝このまま無謀な賭けに出る〞

 

 か

 

 〝引き返す〞

 

 かだ。

 もはや一刻の猶予がない。無謀にも突っ切れば、奇跡的にBCの安全地帯へ逃げ込める。だが、サユリを背負っている以上、まともにダッシュなんてできるわけない。かと言って、引き返す。なーんて、選択したら、死を目前としたサユリの命が持たない。

 どちらにせよ、ハイリスクでしかなく――

 

「あーもー!!」

 

 判断しきれなかった俺は、とうとう頭を抱え込んでしまった。だがそこで、静かに状況の推移を見守っていたサユリが決断を下す。そして、それはとても冷静であり、しかも皮肉なことに、唯一の希望をかなぐり捨てる非情なものでもあった。

 迫るドスイーオス達を尻目に

 

「引き返そう、ユウト」

「え? だってそれじゃあ……」

 

 冷静な判断とは言え、さすがに戸惑った。選択肢の一つではあるが、さすがにそれは選べないと分っていたから。

 しかし、彼女の決断は、決して揺らがなかった。

 

「いいの。もう、十分過ぎるくらいに」

「で、でも、それじゃあ……」

 

 そこで、ケインが大声を出す。

 

「ユウト、逃げよう。奴らが来る」

「くっ……」

 

 サユリと迫り来るドスイーオス達。交互に視線を交わし、そして、俺は鬱憤を吐き出すかのように。はたまた、目の前の希望を捨て去るかのように

 

「くっそー!」

 

 と吐き付けた後、引き返すことに。エリア外へと逃げた。

 

 

 

 

 なんとかドスイーオス達の追撃を振り切った俺達は、BCへの迂回ルートを辿っていた。やはりと言うべきか、迂回ルートだけにBCまでの道のりは長かった。

 当然、今更、ドスイーオス達のいるエリアへと引き返すわけには行かず。かと言って、回復系アイテムも残り一個となってしまっていた。

 しかし、幸いなことにこのルート上には危険なモンスターはおらず、いるとしたら無害なアプトノス数頭とケルビ2匹くらいなもの。そして何より、未だに瘴気に汚染されていない長閑なエリアが一面に広がっていた。

 新鮮な空気の恵を受け、エリアの中ほどにある木が一本生えた小丘を目指して、ただひたすら走り続ける。

 そうしたなか、状態異常により体力ケージの残量が少なくなってきたのか、とうとう残り一個となってしまった回復系アイテム――〝回復薬″を使うとこまできてしまった。

 

「これで、最後になるのかな……」

 

 躊躇いがちで呟くサユリ。名残惜しさを胸に、彼女は延命措置から残り一個の回復薬を使った。その一方で、そんなサユリをよそに、俺は黙々と先を急いでいた。

 けれど、エリアを駆け抜ける中、スタミナゲージを切らさないよう注意をしているとは言え、彼女をおんぶしながら走りっぱなしとなると、流石に堪えるものがあった。

 ――だがしかし、それ以上に大切な狩友を失いたくない。そんな一心がなによりも勝っていた。そのこともあり、俺は息を切らしながらでも、限界を超えて走り続けていく。

 

 〝もう、二度と失いたくない″

 

 そう……。

 

 俺は前にも大切な。それも狩友と呼べる程の親友を、不慮の事故で失っていたのだ。

 

 〝神宮寺 晃″

 

 状況が違うとは言え、彼の死は俺にとってかなり大きな衝撃だった。

 そのこともあり、俺はサユリを死なせまいとして駆け抜ける。いや、駆け抜けて間に合わせなければならなかったのだ。ケインと交代する時間も惜しいくらいに……。

 1秒1秒が、サユリの命を削って行くと思うと、胸が締め付けられそうで。

 

「うぉおおお――‼︎」

 

 気合いを入れるかのように、俺は心の底から雄叫びを放った。温存していたスタミナケージをフルに使って、小丘まで駆け抜け、そして――

 

「っ!」

「きゃー!」

 

 そこで、疲れがピークに達したのだろう。大したこともない小石に躓き、サユリ共々、小丘一歩手前で転んでしまった。

 地に顔を埋めてしまうが、

 

 ペッペッペッ……。

 

 口に入った土を吐き出し、所々、顔中に土がこびり付いたまま立ち上がる。

 

「ってててて……。っ! サユリ!!」

 

 転んだ際に投げ出されてしまった彼女を見て、パパッと顔をほろいだ後、慌てて駆け寄る。顔を覗かせつつ容態を確認しようとして、早速、文句を言われてしまう。

 

「無理し過ぎ! 酷いよ、もー」

「ご、ごめん。ただ、どうしても助けたくて」

 

 彼女の眼前に表示された、徐々に削られて行く体力ケージ。そこばかり気にして、詫びてしまう。

 しかし、サユリは俺の気持ちを察してか、そこのところは言わなかった。

 その代わり

 

「分かるよ。分かるよ、その気持ち。もう、私には時間が残されていないことくらい」

「だったら――」

 

 肩呼吸するほどへばってはいたが、サユリを死なせたくない。そのこともあり、俺におぶられるよう彼女に背を向け促そうとした。

 ところがそこで、微力ながら腕を掴まれてしまい、思わず、えっ、となり、向き直る。俯いたまま

 

「でも。もう、いいの」

「も、もういいって?」

 

 どう言うことなのか。顔を上げて穏やかな表情を見せるサユリに、俺の脳内は疑問で満ち溢れた。

 

「だから、もういいの。十分、助けられたから」

「え、何言って――」

 

 とそこで、遅れてケインとミルクがやってきた。

 

「やっと追いついたにゃ〜。ところで大丈夫だったかにゃ? サユリちゃ――」

「しー!」

 

 皆まで言わさず。先に場の空気を察したケインが、人差し指を口元に当てミルクを諭す。思わず押し黙ってしまうミルクをよそに、サユリは続きを話そうとした俺の口元にそっと人差し指を当て、続きを話す。

 

「うんうん、いいの。これは自分で決めた結果だから。それにね、ユウト。もう、分っていたんだ。……これを見て」

 

 そっと俺の前に寄越す画面。そこにはアバターシンクロ率が表示されてあった。見るからに、シンクロ率、20%も切っており、それが意味することは彼女の口から語られる。

 

「見れば分ると思うけど。私、もう長くないんだ。きっと現実世界の肉体が限界に来ている感じだと思う。それに。それにね、ユウト」

「ん?」

「私、そのこともあって、動けるうちに最後くらい、ユウト達の力になりたかったの。だから……」

 

 この言葉を受けた俺は、ようやくサユリの意図すること。なぜ、危険を冒してまでこのクエストへと足を運んだのかようやく合点がいった気がした。

 

「ああ、それ聞いてなんとなくだが分るような気がしたよ。ようやくな」

「ありがとう。……受け入れてくれて」

 

 そこで、二人の間に割って入るような形で、ケインが詫びを入れる。きっと彼女の一言に気付かされるものでもあっだのだろう。

 

「その……、何というか。俺、そのことよく考えなくて、さっきは悪かったって言うか……」

 

 続いてミルクも、ケインに習ってしゃしゃり出る。

 

「ボクも、同じく……」

 

 バツが悪そうに、頭を掻く二人。

 

「ふふ、二人とも顔を上げて。……いいの、私こそごめん。そのことよく話さなくて」

 

 すると、サユリは崩れるように体の力を抜いた。俺は慌てつつも、そっとサユリを抱き寄せ、それから膝枕に頭を乗せる。はぁ~と軽く息を吐いた後、そっと目を開ける。

 

「また、あの時みたいに、……なっちゃったね」

「あの時? ……ああ、あの時か」

 

 ハロウィンを終えた日の夜のことを思い出す。

 

「あの時は確か……」

「うん、なかなか互いに分かり合えなかったよね。今と違って」

「確かにな」

「でも、今は……」

「だな。不思議だよな、こんな形でお互い相手のことが分かり合えるようになるなんてな」

 

 そうなんだよな。ハロウィン終えたあの日以降、俺と、……いや俺とケイン。そしてミルクは、サユリの気持ちと真剣に向き合ったような気がしていたのだ。

 だけど、こうして触れ合い、改めて向き合うと、今までがなんだか仮初めだった。分かったつもりになっていただけ。そんな感じがしてきたのである。

 恐らくであるが、頭では理解したつもりでも、心ではそう簡単にはいかなかったのかもしれない。そんな気がしたからだ。

 

「ねぇ、ユウト」

「なんだ?」

 

 優しく問いかける俺の目の前。彼女は震える手をゆっくりと上げ、その人差し指で画面を操作すると、アイテム一覧を表示。大事な物リストから、あるアイテムを選択。ゆっくりと握ったその手元に、何かを出現させた。

 

「これ、……あげる、……ね」

 

 言われるがまま、俺もそっと掌を差し出す。すると、光る何かが渡されるのを垣間見、そして、受け取りを知らせるメッセージが。

 

 〝狩り友のチケットを入手しました〞

 

 そんな譲渡されたメッセージが、機械的なメッセージのように表示されたのだ。

 

「これは……」

 

 不思議そうな表情を俺は見せた。すると、サユリはすまなそうな表情を見せ

 

「ごめんね。……一枚しかなかったけど」

「いいんだ、別に。ただ、これは一体……?」

 

 すると、彼女は柔らかな笑みを見せてこう一言発した。

 

「友情の、……証。的な物かな。私からの」

「友情の、証。証ね……」

 

 呟き返す俺。サユリからそう言われたことで、名前からして、そんな風に捉えることができた気がした。

 徐々に残りの体力ケージも容赦なく散っていく中、心残りが一つだけあったのだろう。確認する意味で訊いてきた。

 

「ねぇ。私、……最後に、役に……立てたかな?」

 

 その言葉を聞いて、一瞬だけ呆然としていた俺。しかし、微笑み返すと、

 

「ああ、十分すぎるくらいにな。お前と一緒にハンターライフできて、すげぇー、くぅうう……」

 

 目に埃が入ったのだろうが。視界がゆがみだしてきた。伴って嗚咽も止まらなくなってくる中、絞り出すように話しかける。そんな中、気持ちを込めて。

 

「す、すげぇー、なあ。……す、ごく。楽しか、ったぜ。ひくっ」

 

 俺の表情を見て、遊び半分でからかう感じに

 

「ユウト、……顔、グチャグチャ、……だよ」

「ば、バカヤロウ。こ、これはな――」

 

 そこで、ミルクも、いや、ケインもだろうか。二人して、嗚咽混じりで気持ちを伝えてきた。

 

「お、おおおお俺らもな……あ、サユリちゃんと、ひくっ、い、いいい、一緒にいて、楽しかったぜ」

「ボクも、にゃ。ボクも、サユリちゃんが、……いたから、ユウト達と出会えたんだにゃ。……ひくっ、」

「この野郎。NPCのくせに、泣きべそなんかかき、やがってよぉ~。えぐっ!」

「そ、それを言うなら……。ケインだって……」

 

 二人は互いに批判し合ってはいたが、もはや似た者同士でしかなかった。

 そうしたなか、サユリは満足そうな笑みを浮かべる。

 

「それを訊いて、私、安心したな……」

「そ、そうか……」

「うん」

 

 そして、どんよりとした曇り空を見上げて、彼女は最後の力を振り絞るかのようにこう言い残した。すべてを託すかのようにして。

 

「ユウト、ケイン。……それに、ミルクちゃん。私からの想い、……訊いてくれる?」

「あ、ああ。いいぜ」

 

 俺からの了承。同じく、後ろにいたケインとミルクも同じく頷いた。それを見たのか、サユリは両目を閉じ、俺たちに最後の願い事を言った。

 

「どうか……、どうかね。私たちみたいな犠牲者が、これ以上出ないよう。この……、ゲームを必ず終わらせる、ってお願いできる?」

 

 まさに願いというよりか、それ以上に懇願するかのようなものだった。必死の訴えのように聞こえた俺は、躊躇わなかった。震えるサユリの小指を手に取り指きり。託された想いを胸に応える。

 

「ああ、いいぜ。約束だ、約束するよ。絶対にこのゲームを終わらせてみせるって。……なあ、お前ら?」

「ああ」

 

 ミルクは頷くのみであったが、ケインは力強く答えて見せた。

 

「よかった。これでようやく……」

 

 想いが託されたことで報われたような穏やかな表情を見せた。そして、最後の最後にサユリは一呼吸置くと、ありったけの想いを口にした。

 

「ねぇ、ユウト。最後に一つ」

「ん? なんだい」

「今まで友達でいてくれて、……ありがとう」

 

 風前の灯の前に、今にも眠ってしまいそうな目を見せつつ、感謝を述べた。そのことに俺は、残り体力ケージを見、そして、優しく答えてやる。それも、お疲れ様、と二アンスを含ませ労るかのように。

 

「礼なんて。じゃあな。……おやすみ、サユリ」

 

 その言葉を受けるや彼女は優しく微笑むと、静かに目を閉じて、パタリッ、と手が地に落ちると同時に体力ケージも0に。穏やかな表情を浮かべたまま、そのまま息を引き取った。

 静まり返った湿地地帯の真ん中にある小丘の木の下。無常にも、画面から聞こえて来る心停止音だけが響いていた。

 

 

 

 

 ミナガルデへ帰還中、小型気球船の甲板にて――

 

 喪失感から項垂れていた俺は、そこでゆっくりと顔を上げた。ぼーとする中、目の前には、あの山脈に囲まれたクルプティオス湿地帯が広がっていた。

 所々、瘴気が漂っており、そのことで汚染したエリアもあった。けれど、全体的に見れば、かつての面影が少なからず残っているのが見て取れる。

 例えゲリョス亜種によって蹂躙されたこの地でさえも、やはりと言うべきか。完全には冒されきっていないことを物語っていた。

 そんな中、茫然としている俺の隣に、ケインがやって来る。俺の右肩にそっと手を置き、労わるように励ます。

 

「なぁ、元気出せよ。……って言っても、無理があるか」

 

 彼もまた傷心していた。だから、俺の気持ちも分かっていたことから、無理に元気出すような言葉はかけられなかった。ため息つく音が聞こえて来る中、俺は今、心の中にある蟠りとやらを話す。

 

「なぁケイン」

「ん?」

「俺、思うところあるんだよね。サユリから託された想いと言い、最後の感謝と言い」

「なんだ、ユウト。今更、彼女との約束、放棄か?」

「んなわけあるかよ! ただ。ただなぁ、考えていたんだよ。ゲームを終わらせる、と言うのは、いつの日にか誰かしら果たさなければならないと、何処で分かっていたんだ。だけど……」

 

 そこで、気持ちを整理する意味で一息つく。間を空けて、その心境を語り始める。

 

「サユリからこーうも面と向かって言われると、その誰かしらと言うのは俺たちのことを指す感じがしてさ。責任重大だなあと感じられずにはいられないんだよね」

「それを言うなら、俺もそうだぜ。あと、ミルクもな。彼女はどう思っているか分からないけど」

 

 一人じゃないんだよな。彼からの言葉を耳にして鼻で軽く笑うと、重圧が、若干、分散されたような気がした。

 

「それを聞けて、なんだか助かった気がするよ」

「助かったって? 一人で抱え込もうとしていたのか?」

「半ばな。どうも、彼女から託された言葉が、頭から離れられなくって、な」

「なるほどな。確かに、重いよな。人から託される想いとやらはな」

「ああ、全くだ。……でも、お前も分かっていると思うけど」

「それ。皆まで言わなくても、お前が何を話したいのか分かるさ。共に、約束、果たそうぜ」

「……だな」

 

 互いの思いを確かめた俺は、そこでアイテム画面を表示させた。大事なものリストから、サユリから託された物――狩友のチケットを取り出してみせる。

 ケイン自身も恐らくハロウィンイベントの最中に貰ったかもしれないが、俺が特別な代物を見つめるような眼差しをチケットに向けていたことから、不思議な表情を見せた。

 

「それは……」

 

 尋ねるケインに、俺はチケットを空にかざしてみせる。

 

「ああ、これはサユリから貰ったチケットさ」

 

 一見して、イベント期間中に配られた何の変哲もないチケットのように見える。けれど、よくよく見ると、肉球のハンコが。しかも、自筆なのか、小さいながらメッセージが刻まれていた。

 

「なんだろ、これ?」

「ん? 何かあるのか?」

 

 ケインもまた、気になってかチケットに記載された文字っぽいものに興味を抱く。

 

「んー、何か書いてあるな。でも、薄れていて読みづらいなあ」

「ちと、貸してみ」

 

 俺ではどうしようもなかったことに、言われるがまま彼に渡してみる。いくらか角度を変えたりして工夫してみた感じではあるが

 

「うーん……」

「どう?」

「んー……」

 

 尋ねる俺をよそに唸り続けるケイン。そして、

 

「思うにこれは、あれだな」

「アレ?」

「そうだ、アレ。う~ん、何というか、なんて言ったかな……」

 

 何か出かかっているように見え、言いたそうでもあった。しかし、俺からすれば、彼は何を想像しているのか、さっぱりであった。

 

「まあ、いいさ。なんでも」

 

 そう言うなり、チケットを彼から返してもらう。一体何が書かれているのだろうか。気になる部分ではあったが、読めないことにはどうしようもないと思い、再び、アイテムリストへと戻そうとした。

 ――とその時、雲間から指す夕日が、チケットの紙面を照らし出す。すると、薄れてよく見えなかった文字が浮かび上がり、ようやく何が書かれているかを確認することができた。

 

「これは……、ふっ、なるほどね」

 

 理解するに一秒もかからなかった。何を表そう。サユリらしい言葉が、淡々と綴られていたからだ。

 

「おいおい、自分だけ納得するなんてずるいぞ。俺にも――」

「ほらよ」

 

 物欲しそうな彼に、素っ気なく手渡した。早速、浮かび上がった文字を確認して、彼は一言呟いた。

 

「サユリちゃん……、そこまでして」

 

 彼も同じように納得した様子。お互い、紙面に書かれていたメッセージに、サユリからの想いの強さを感じずにはいられなかった。

 

 そう……。

 

 その記載されたメッセージというのは、まさに一言で言い表すと、

 

 〝信頼〞

 

 その言葉につきるほどであった。

 

「なあ、ケイン」

「ん?」

「改めて言うけど、約束。果たそうぜ、3人で」

 

 やや間を置いた後、

 

「だな。サユリちゃんが俺たちのことを信頼しているんだ。応えなくちゃな」

「ああ。まさにその通りだな」

 

 そう述べると、サユリとの様々な思い出や託された想いを胸に、俺たちは夕日を拝みながら互いに誓い合った。

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