ポツポツポツポツ……。
先程までにわか雨だった天気が、次第に落ち着いた小雨へと転じていく。ここは、埼玉県・某市にある共同墓地。整然と立てられた墓場に、数人程度の集団ができていた。
皆一様に立っている場所は、ある一つの墓。パッと見た感じ、その墓は、他の墓とは違い独特のデザインがなされていた。
アイルーとプーギーのデザインが施された墓。すなわち、個人用の墓であった。さらに両側に献花が手向けられたその墓石には、個人名が刻まれていた。
〝佐々木 由里″
まさに彼女の墓であった。このことから判断するに、どうもこの数人の人集りは、親族であると思われる。
御坊さんがお経を読み上げる中、大通りから走ってきた一台の車が墓場の前で止まる。
エンジンを切って、ガチャッ、とドアを開けた後、傘を差して現れたのは、喪服姿のジェントルマン――佐々木 龍だった。
一方、彼の存在に気付いた少年がそちらを向くと、すかさず母に知らせる。
「あ、父さん来たみたい」
やや駆け足で息子の方へと向かう中、取ってつけたかのように弁解する。
「すまない。仕事で遅くなってしまって」
葬式の最中、バツが悪そうにする龍に、妻の佐々木裕子は事情を察して責めなかった。その代わり、彼の苦労をねぎらう。
「お疲れ、あなた。っで、仕事の方……というよりか、捜査の方は一段落したの?」
「うーん……。一段落したというか、何というか……」
口をモゴモゴとさせハッキリしない様子を見せる。と言うのも、佐々木龍の頭にあったのは、例の事件の捜査とは別に、もう一つあったからだ。ちなみに例の事件というのは、妻子に話すまでもなく、今現在起きているMHA・Oのデスゲーム事件のことを指していた。
ハッキリと言わない旦那に、妻の裕子はきっと何か深い事情でもあるのだろうかと、心配な表情を浮かべる。
そうした中、二人の間を割って入るように、息子・翔が文句を言う。
「事情があるにせよ。遅いよ、父さん。お経始まってから大分経っちゃったよ」
「ごめんごめん。そこは分っているさ」
「全く……」
挙げ句にはひねくれてしまう。佐々木龍自身もそこは十分理解していたから、翔がそういう反応を見せるのも無理ないと感じていた。
「にしても……」
改めて娘の墓と対面する。デザインがデザインだけに心境は複雑であった。なんと言っても、デザインされたキャラは、あのデスゲーム事件を引き起こしたゲームのキャラ。それだけに、娘の墓も縁起がよくない感じがしてならなかったのである。
けれど、デスゲーム事件どうこうを抜かしても、結局、生前の彼女が選んだ墓。亡くなってしまったとは言え、そこは本人の気持ちを尊重させたい気持ちには変わりなかった。
「おねぇちゃん……」
悲しいだけに表情が暗くなる。本当は、最後に目が覚めてほしかったのだと思う。佐々木龍自身も、また、妻・裕子もその気持ちは一緒だった。
再び悲しみが込み上げてきて、泣き出す翔。慰めになるか分らなかったが、彼の肩にそっと手を置いた。また、息子の気持ちを察すると共に、最愛の娘を失ったことに狼狽していた妻も、その目に涙を浮かべる。
そして――
「あなた!」
堪えきれなくなったのだろう。彼女もまた、龍の胸に顔を埋めた。娘を失ったことからの喪失感で泣きじゃくる妻子。この時、龍の心は決まりつつあったかもしれない。
彼の脳裏に過ぎった二件目の事案。上司から突然、異動を告げられた光景を振り返り、やがて龍は決意を抱く。
と。
そう……。
片手をポケットへ突っ込み握るその手には、あのICPOのバッチが。彼もまた、狩人として立ち向かう時が来たのだと知らせるそのバッチがあったのだ。