02.彷徨う狩人達
サユリの思いを胸にデスゲームを終わらせる決意を抱いたユウトは、次なる拠点へ辿り着く。しかし、雪山のクエストを進めていく中、思わぬトラブルにより遭難。ケインと離れ離れになり猛吹雪に晒される中、同じく遭難していたあるハンターと再会する。
序章:大地を泳ぐ魚
遠方には山々が連なっているとは言え、果てしなく広がる砂漠が広がっていた。
掬えばサラサラサラ……。
そんな零れ落ちるような感触を抱かずにはいられない砂。そんな滑らかな砂が、砂漠地帯を構築していた。
サンサンと照り付ける太陽光が、日中、ずっと照らしては、熱帯を生み出し続け、時折吹く風が熱波を生み出す。
しかし、それだけ。それだけ以外は、まさに静かな環境であった。
そうした中、一筋の線が幾重にも重なっては、太平の砂漠地帯を横断して行く。そして、それを追跡するかのように、何本ものか細い線もまた、同じように描かれていき――
まさに今、俺は。……いや、俺たちは、砂漠を泳ぐ魚と呼ばれた
「どうすんだよ? このままだと、いずれ追いつかれるぞ! それに弾丸も、残り僅かしかないし」
ボウガンみたいな形状の据え置き式大型弩砲。いわゆるバリスタを構えながら、ケインは焦りを滲ませていた。そんな心配する彼に、俺は
「んなの、心配するな。もし、乗り込んでくるようなら、俺が一匹残らず蹴散らすからさ」
「いいのか? 任せて」
「いいに決まっているだろう? そのために役割分担したんだからさ」
「そ、そうだよな。役割……、役割だもんな」
「そうそう」
諭すように答える俺に半信半疑の表情を浮かべつつも、ケインは納得したようであった。と言うか、そうしざるを得なかったと捉えた方が正解に見えた。とは言え、ガレオスが乗り込んで来たら面倒なことは確か。
一頭ならまだしも。これが一度に2頭、3頭となると、二人掛かりとは言え、対処には困るものがあるからだ。
ましてや今回のクエストは、今、輸送している物資の防衛。守りきらないとクエスト失敗になってしまうのだから、ここは可能な限り穏便に済ますに越したことはなかった。
けれど、輸送先と言うか合流地点と言うか。ともかくその目的地まで守り切ればいいわけであるのだが、現実的に防衛クエストだけあって、簡単にはクリアさせてはくれないみたいであった。
「果たしてどうでるか……」
動向に注視する。一方、弾数が残り僅かと言っていたケインも、警戒心全開にして、集中モードに切り替えていた。
尾鰭を見せ複数の筋を描きながら、ガレオス達は確実に距離を狭めていく。
バリスタで狙いが定まらないのか、ケインは相手の動きについていくだけで手一杯のよう。
しかし、そんな彼でも、慣れたなあと言った場面があった。それは先程、2、3発だが、ガレオスが飛び出してブレスを当てに来た際、その隙を突いて命中させていたこと。そのことから、扱い方については、これ以上、アドバイスしなくても良さげであった。
一方、そんなケインに反して、筋を描き続け迫るガレオス達。緊張感が一線を超えたその時、遂に奴らは次なる手を繰り出してくる。
複数のガレオスのうち、一頭。いや、2頭もか。ともかく、そいつらが地に潜って一時的に姿をくらましたのだ。
「ユウト!」
「ああ、分かる」
ガンランスの柄のトリガーに指を掛けて、飛び出した瞬間を狙いにいく。
(さー、来い!)
心の底から身構え、真正面から来ると睨む。だが、間を置いた後、皮肉にもその読みは見事に外れることになった。
「なっ⁉︎」
同じくケインもまた、え⁉︎ と驚きの反応を見せた。まさに俺たちは、ガレオスの襲撃に意表を突かれる形となってしまった。と言うのも、真正面から来ると睨んでいたことだけに、ガレオスの奴は、なんと左右から挟撃せんばかりに砂中から飛び出してきたのである。
これにはびっくり。バリスタの可動範囲外だけに、対処に遅れて戸惑ってしまう。
しかし、そんなケインをよそに、俺は上陸してきた2頭のうち片方に砲口を向け、
ドンッ!
砲撃を1発、お見舞い。砲身から火を吹き、ガレオスの頭部に至近距離からモロに直撃させる。
バリスタの威力に比べれば攻撃力は低い方とは言え、さすがのガレオスもこれには一時的に怯みざるを得ない模様。
背後の物資に危害を加えられる訳にはいかない。間髪入れず、二発、三発、と怯んでいる瞬間を狙って立て続けに全弾ぶち込んでやる。
その間、頭の半分ほどもある空薬莢が次々と床に落ちては、鈍い金属音を奏でていく。
砲撃後の爆煙で一頭の視界を奪った俺は、もう片方のガレオスを対処するようケインに指示を出す。
「そっちは任せたぞ、ケイン!」
「言われなくても」
経験積みつつある賜物か。要領を得ていたであろうケインは、既にバリスタを手放し、背中の太刀を抜き放っては相対していた。とは言え、俺とは違い。ケインの場合、ガレオスとの接近戦はよりリスクを伴うものであった。
輸送車だけに戦闘スペースが狭い。故にガレオスのテイルアタックなんて受けたら、その結果が火を見るより明らかだったからだ。
そのこともあり、忠告だけはしとく。
「言っとくが、間合いを見誤るなよ。もし、テイルアタックなんて食らったら……」
しかし当のケインは、既に眼前のガレオスに集中しているのだろう。聴く余裕はなかったみたいだ。
真剣そのものの眼差しで、対峙するケイン。そんな彼の必死の様子に、俺もまた、立ち昇る黒煙に警戒心を向ける。
――が、その直後、ガレオスの姿が現れたかと思いきや、突進してくるではないか。
ハッとなって驚いた俺は、咄嗟に重厚な盾を構える。そして、目の前に来るや、横な振りのテイルアタックを見舞い。
ガキーン‼︎
火花と金属音を轟かせ、これを凌いだ。さらに立て続けと言わんばかりに、もう一回転しテイルアタック。2回転繰り出すテイルアタックに、流石の俺もその一撃の重さに歯を食いしばった。だがしかし、その反動でか、僅かな隙が出来たことに俺は見逃すはずはなく……。
けれど、かと言って迂闊には、手を出さなかった。眼前に〝リロード中……″のメッセージと共に弾丸3発分、ガチャッ! と開閉音を鳴らして開いた砲身に再装填。再び相対するためのチャンスとして、有効活用した。
一方、攻撃を凌がれたガレオス。今度は何をしよう、頭をもたげたかと思いきや、なんと! ブレスを繰り出してきたではないか。だが、冷静だった俺は、これを軽く凌ぐ。
しかし、ブレスの軌道からして、明らかに守るべき物資を狙ったもの。どの道、防がなければ、守るべきものにダメージが及ぶことは避けられなかったと実感する。
とは言え、いつまでも防戦に徹する訳にはいかない。攻勢に転ずるべく気を取り直し、鋭利な槍状の砲身を敵に向けて突進を繰り出した。弱点であろう顔面目掛けて。
その一撃たるや
プシュー!
鋭利な一撃がガレオスの頭部に刺さり、血飛沫を上げた。弱点だけに、攻撃した際の感触は、若干、柔らかく。手応えは抜群と見た。だが、そこでは終わらない。
間髪入れず立て続けに攻撃を続け、ガレオスに反撃の隙を与えないで行く。
そうした中、
うわっ!
ケインの驚きの声が、俺の耳元に。
「っ! どうし――⁉︎」
思わず視線をとられてしまう。すると、背を見せるガレオスの傍ら、ケインが尻持ちをついていたではないか。
無事を確認すべく
「大丈夫か?」
と一声。
「ああ、なんとか……」
すぐさま何事もなかったように立ち上がってみせた。その様子に俺は、大した事でなかったことに安堵。胸を撫で下ろす。
しかし、ほっとしたのも束の間、俺自身に僅かな隙ができてしまったのだろう。視線を戻した矢先、俺はその瞳を大きく見開いた。
その視界たるや、視野いっぱいに映るガレオスの這いずり攻撃を垣間見、咄嗟にガード態勢。直後、激突!
片手剣みたいな貧弱なガードではないにしろ、僅かばかり後退りしてしまう程の衝撃を受けた。が、それだけ。それだけに、意外とそこまで大した一撃ではなかった。
そのまま受け流し、再び相対する。だが、這いずり攻撃直後だっただけに、こちらに背を向けてたままガラ空き状態。
まさに、アレをぶちかますことができる大チャンスだった。けれど、その一方で守るべき物資へと突っ込んだことから、僅かばかり物資の耐久値が削られてしまう。だけど、そんなものは微々たる内にしかならない。
全身に力を入れて足を踏ん張り、トリガーを切り替え。狙いを定めつつ砲口にエネルギーをチャージ。
そして、集約されたエネルギーが臨界点を超えた矢先――
バゴーン‼︎
大爆発を引き起こし、ガレオスに多大な一撃を見舞い。同時にその衝撃から、砲身を構えている腕ごと持っていかれそうになった。
ザザザザ……。
衝撃から後方へと後退。あわよくば足場から転落しそうにもなった。
一方、ガレオスはというと、流石に先の一撃は堪えたのだろう。必殺の砲撃――竜撃砲、の前に、ぶすぶすぶす……、と焦げた魚の如く黒煙を立ち昇らせて動かなくなった。
「ふぅー、一体は片付けたぜ。そっちはどうだ? ケイン」
構えたまま向く。ケインもまた、善戦していたのだろう。一進一退の攻防の末、
「おら! 食らえー‼︎」
盛大な回転切りを見舞い。鬼刃斬りをガレオスの脇腹に浴びせて、こちらもこちらでなんとか片付けたようであった。太刀をしまい、ふぅ〜、と一息入れる。
しかし、俺は状況を把握していた。そのこともあり、眼前を睨みながら言う。
「一息ついているところ悪いが、まだ終わってないぜ。狩りは」
「えっ?」
彼もまた、同じ方を見やる。過ぎ去っていく光景の中、未だに追跡の魔の手は途切れていなかったことに、ケインは表情を痙攣らせる。
「げげっ。まだ、いいんのかよ」
「ひ、ふ、み、……あと、6頭だな」
尾鰭の数を数えて、残り頭数を答えた。流石のケインも、これには嫌気が刺したみたい。
「うわ〜」
と首を垂れて肩を落とす。
まぁ、無理もない。
今まで散々、迫るガレオスを狩って来たのだから。それもこれも、物資を守るためだけに。バリスタで2発ほど当てれば、討伐するか怯むかで接近させずに済むが、それでも一回一回、狙い撃ちするのに神経を使うから大変なのだ。
「でも、あともうちょっとなんだろう? 合流地点とかは?」
訊かれたことに、俺は空を切って生態マップを表示。改めて確認するや、到達地点であるオアシスまであと僅かであることを知る。
「お! んー、そんな感じだな。時間にして、あと10分くらい、ってとこか」
「え? 10分? あと10分もかよ」
「大したことないだろう?」
自分としては、あと一押しと言った体感時間であった。しかし、ケインとしては、その時間は苦痛の延長戦みたいなものなのだろう。
「キツいは、10分も」
愚痴をこぼした。
「まぁ、どの道、あと一押しなんだし。それに、あるかもしれないぜ、アレが。まだ、中に素材、何が転がっているかよく確認してないけどな」
「アレってなんだよ?」
アレ、と言う言葉に興味を抱いたのか。そこで食らいついてきた。俺は躊躇わず、答えを明かす。
「音爆がな。ガレオス達には、音爆が効果的面だから……、って、アレ? ケイン?」
話の途中なのに、彼はいつの間にか居なくなっていた。
「ったく。あいつ、どこ行ったんだ?」
思うに、真っ先に音爆を取りに行ったのかも。少なくともそう察することにした。
彼が不在の間、仕方なしに俺は、バリスタを構えて迎え撃つ。徐々に再び接近しつつあるガレオス達。尾鰭だけが見えている状態では、狙いが定まらない。隙を見せてくる合間を使って画面表示。バリスタの弾数を確認する。
(残弾数10発か……)
収納ボックスのある車内に戻れば、また、弾を補充はできるが、それでも無駄にはできそうになかった。再び視線を戻し、目の前を睨み続ける。
そんな中、最後尾にいるガレオスの尾鰭が、他の尾鰭よりも一際大きいことに気付く。不意に顔を顰めて違和感を抱くが、直後、
「あっ」
一声を漏らすや、その尾鰭は砂中へ。このことにより、脳裏に、まさかな〜、的な嫌な予感が過ぎる。
しかしその一方で、ただの体格が大きいガレオスの線も……。そんな楽観的観測を抱かずにはいられなかった。
けれど、どの道、物資を守り切らないといけないことには変わりない。そのこともあり、気持ちを切り替えて残りのガレオス達に集中する。
その中で、飛び上がってくる寸前を狙えばいい。別に討伐せずとも、怯ませるだけでも時間稼ぎは可能なのだから。
迫るガレオスに注視しつつ、そんな短絡的な思考をいつかの間にか巡らしてしまっていた。
トリガーに指を添え、狙いを覚ます。――とそこで、複数いるうちの一匹に動きが。直後、急加速するや上陸せんとばかりに飛び掛かってきた。だが、そこは狙い通り。
既にその一匹に狙いを定めていた俺は、トリガーを引き、迫るガレオスの頭部にバリスタをお見舞いしてやった。
ガウゥ〜!
少量の出血に反して威力は折り紙付き。その一撃の前に、ガレオスは空中で怯み、そのまま砂中へと帰った。
(とりあえずは一匹と言ったところか)
潜航した一頭を除いて、残り4頭。連続ミスしなければ、残り時間を加味して少なからず余裕であった。
再装填し、再び構える。対して、ガレオス達の方も考えたのだろう。今度は2頭共に、急加速の動きが見られた。恐らく同時に上陸するつもりなのだろう。そう睨んだ。
しかし、例えそう来ようとも、一頭さえ腑抜けさせれば、後処理なんてお手の物。このガンランスの糧になるのは、目に見えていた。
――が、その直後、予想だにしない事態に直面する。
「っ! な、なんだ⁉︎」
堪らず驚愕する俺。と言うのも、突然、足元がぐらつき出したのである。
その影響もあってか、輸送車を動かしている2頭のアプケロスにも、不穏な様子を見せ始め――
「くっ!」
揺れまくりで動けないでいる傍ら、恐怖に駆られたアプケロスが暴走し出す。
――とそこへ、事態の異変に気付いたのか。車内から飛び出すようにケインが現れ、戸惑いの声を漏らした。
「な、何事だよ! 一体?」
しかしその直後、彼の足元に亀裂が。木板を割くが如く、二重三重の亀裂が走りまくったのだ。
突然の事態に、な、を連発しながら堪らず動けなくなる。足元が裂けることを察した俺は、危機意識から本能的に叫ぶ。
「け、ケイン‼︎」
「ゆ、ユウト……。うわっ!」
揺れ続ける床に、遂に尻餅。もはやどうにもならなくなっていた。
一方、バリスタを手放した俺は、すぐさま彼の元へ駆け寄りダイブ!
直後――
バキバキバキ……
不気味な音を立て、ケインの足場が崩れたではないか。
「ゆ、ユウトー‼︎」
「くっ!」
ガシッ!
砂中へ飲み込まれる間際、間一髪のところで彼の伸ばした手を掴む。
しかし、必死こいて力強く腕を掴んだとは言え、このまま砂中へ引き摺り込まれるのは時間の問題。
「け、ケイン……。が、頑張って、は、這い上がれるか……?」
掴んでいる手から、なんとか自力で抜け出すよう呼びかける。だが、対するケインは、それどころではない。
大量の砂を浴びまくり、まともに息ができない状態になっていた。声にならない声を発して、なんとか俺の呼びかけに応えようとする。
「が、頑張れー! ケイン! 頑張れー!」
がほっ、がほっ、ごほっ、……。
「くっ」
とてもじゃないが、キツそうで這い上がれなさそう。仕方なしに、強引に引き揚げに掛かる。
ところがそこで、追いついてきたガレオスが俺たちの間を襲うように、食らいつこうとしているではないか。
「っ! うぉおおお――‼︎」
互いに喰われそうになる寸前、俺はやり無理構わず引き揚げにかかった。
そして――
ズボッ‼︎
直後、ケインが溺れていた位置から、突然、巨大な大口が姿を見せるや
バクンッ‼︎
間一髪と言ったところか。ケインを引き揚げた直後、その大口は噛み付いてきたのである。
重なるようにして、尻餅をつく俺たち。眼前の巨大な魚竜種を目の当たりにする。
「ドスガレオス……」
呟きを漏らす傍ら、ドスの名を冠したモンスターは、そのまま砂中へと舞い戻った。
このことから、明らかにケインだけでなく、俺も獲物対象として見ていたとを思うと、冷や汗を掻かずにはいられなかった。安堵する中、咳をしまくって砂を吐き出すケインを見る。
「立てそうか?」
「ごほっ、ごほっ、ごほっ。……な、なんとか」
先に立ち上がった俺は、四つん場になっているケインに手を差し伸べる。それを見るや、ケインもまた、その手を掴んだ。
「め、面目ない……」
「礼は後。とりあえず今は、片付けにかかるぞ。俺はバリスタ役に回るからケインは……」
言いながら再びバリスタへと向かう。だがそこで、ケインに肩を当てがわれ呼び止めらてしまう。
「悪いが、後衛に回ってくれないか?」
「ケイン……」
すると彼は、とっておきのアレを持ち出したではないか。そう、とっておきのアレ。
つまりは――
「音爆……」
呟く俺に、にやにやしながら彼は答える。それも何処自信ありげに。
「ふふ〜ん。そう、お前が言っていた例の物。ちゃーんとあったぜ」
「そ、そう言われてもな……」
自慢げに話す彼にどう答えて良いものか。思わず反応に戸惑ってしまった。
そうした中、距離を縮めてくるガレオス達に、またもや動きが見られたことに気付く。
「ま、ともかく。そう言い出すなら、バリスタ役、任せたぜ」
話を逸らし、彼に役割を与えてやった。一方、勝手に話を逸らされたことに、ケインは不満を口にした。
「お、おい! 何か言ったらどうなんだよ。折角、持って来たんだからさ」
しかし俺は
「そんな余裕、あればな。それにあることくらいだいだい予想は付いていたし」
「ちぇ、なんだよ。つまんないの」
渋々向き直ると、バリスタへと向かった。そんななか、俺自身はと言うと、ガンランスを構える前、もう一度確認したいことがあったため、眼前に画面を表示。
何をみよう。生態マップであり、現在地から到着地点であるオアシスまでの残り時間であった。
「あと、7分か……」
もうそんなにないのなら、ここからでも見えるよな、恐らく。ケインが迎撃をメインに徹している間、スキマ時間を使って輸送車の屋根へと続く梯子の元へ。
重厚なガンランスの重みで落ちそうになりながら、なんとか梯子を登りきってみせた。とは言え、正直、ドスガレオスの襲撃の際の揺れが既に収まっていたこともあり、その点に関しては幸いだったと言えよう。
バシュー! バシュー!
バリスタの射出音。迎撃が開始された中、屋根の向こうの砂漠地帯を眺める。
どこまでも続く砂漠地帯。その中で、案の定と言ったところか。登り切りつつある砂丘の向こう。そこに潤沢な湖水を蓄え、ヤシの木が数本と生え生い茂っているオアシスが覗かせつつあった。さらに目を凝らすと、数台の荷台とそれらを取り巻く烏合の衆も見えつつあり――とそこで、
「ユウト、援護を頼む」
下から彼の声が聞こえて来た。梯子を飛び降りた後、眼前の敵さん達へと向くや、ガシャリッ、と金属音を立てて重厚なるガンランスを構える。
――のだが、彼の努力もあってか、ガレオス2頭とその後ろに控えるドスガレオスの計3頭を残すのみとなっていたことに気付く。
「なかなかやるじゃん、ケイン」
バリスタの腕前に称賛を送る。しかし、ケインとしては、それどころではない模様。
「何言っているんだよ! それどころじゃないよ。(ドスガレオス)奴がさっきから――」
最後まで言わずもなが。そこでドスガレオスの強力なブレスが飛来。バリスタ近辺に着弾し、危うく被害を被るところであった。
俺はともかくとして、ケインが受けたらダメージ量云々以前に吹き飛ばされかねない状況。このことに、バリスタで応戦する余裕がないことを悟った。
しかも、しかもだ。バリスタでの攻撃が封じられる中、こちらが余裕がないことを良いことに、ガレオス2頭は確実に接近しつつあった。
(バリスタでの応戦が無理なら……)
そう打開策を考え
「こうなったら、音爆を使――」
と出かかったとこで、距離的に、未だに音爆の範囲外であることを認知。しかし、その言葉を聞いてしまったケインは
「音爆が、なんだって? あ、そうか! その手が」
「ちょっとま――」
思い立ったが何とやら。制止を聞かずに、音爆を投げつけてしまう。
緩やかな弧を描き、
カキーン‼︎
と弾けるかのような、あるいは、鼓膜が裂けそうな破裂音と衝撃波を伴って、音爆は宙で炸裂した。
ガレオスとの距離差で効果範囲外だと思っていた音爆。しかし、運良かったのだろうか。2頭いるうちの一頭が、その音爆の前に驚いて飛び跳ね、そのままガレオス追撃部隊から離脱することになった。
「よっしゃー‼︎ 命中ぅ! なーんだ、いけるじゃん。この手で」
予想外の展開で拍子抜けしてしまう俺の傍ら、ケインは嬉しい声を上げた。
(案外、効果範囲広かったんだな……)
改めて認識した。でも、その一方で、こうも考えられた。2頭いるうちの一頭しか効果が見られなかった。そのことから、もしかしてかもだが、効果範囲ギリギリだったんではないのかとも。
そのこともあったのか。上手くいけたことに調子に乗ってしまったケインが、ここぞとばかりまた1個、投げつけた。
またもや宙で炸裂する。がしかし、それだけ。それだけに、前衛のガレオスには効果がなかった。
「あれ? どういうことだ? さっきは効いたのに」
流石のケインも首を傾げる。
「範囲外ってことじゃないか? ……っておい!」
無策なのか。話を聞いていなかった彼は、またもやその手に音爆を持ち、
「えい! これで、どうだ‼︎」
1回目よりもさらに遠くへと、投げつけたのである。けれど、やはり一回目同様、ガレオス達には何も反応はなかった。
このことに自棄を起こしたケインは、その手に残りの音爆を全て握ったかのようにありったけの音爆達を携える。
全てを込めて投げようとするケインに、俺は体を張って制止する。
「まったまったまった‼︎ ちょっとまった!」
「どいてくれよユウト。あと2頭なんだぜ。こいつらを片付ければ、楽して到着地点に行けるんだからさ」
「だからだよ。無策だ、よく見ろよ」
「よく見ろって……」
ケインは俺が示した前方へと注視する。ガレオス達との差に距離があり過ぎる。そのことを伝えたかったのだが……。
「変わりないじゃないか。距離的に……、若干、遠い気がするけどさ」
後半部分は自信ないのか、ややトーンを一段階落とすようにして、彼なりに弁解したようであった。これに対し、俺は続けて説得を試みる。
「若干じゃないよ。離れ過ぎだ。流石に届かない」
「じゃあ、何か? また、バリスタか何かで応戦すれば良いってか――って、うわ!」
そこで驚愕の表情を見せた。眼前の光景に驚いて逃げようとするケインに、俺はそちらへと向いて舌打ち。反射的に盾を構えた。直後、ドスガレオスが放って来たブレスが一直線に飛来して、重厚な盾に激突する。
まさに間一髪であった。だが、鋭利なブレス攻撃はこの一回ではなかった。立て続けに2回、3回と見舞いしてくるのだ。
逃げ惑うケインに動けそうにない自分。流れ弾で守るべき物資にも打ち当たり、確実に耐久値を削っていく。さらに上陸せんとガレオスが距離を詰めていく中、このままではまずいことに舌打ちをする。
「ケイン! 音爆はまだ持っているか?」
「あ、ああ……。危うく落としそうになったがな」
右往左往しながら逃げ惑いつつも、なんとか無事なことを知らせる。
「ならよかった。じゃあ、俺の真後ろに――」
まさに次の瞬間であった。一瞬だけ目を逸らしていた隙に、なんと! 無数のブレスが飛来する中、ガレオスが飛び込んで来たのである。それも俺の方、目掛けて。
反射的に叫ぶ。
「来るな‼︎」
「えっ?」
制止されたことに、前方を見、驚きの表情を見せた。対する俺はと言うと、そのままガード態勢を維持。直後、飛び退いて来たガレオスに打つかり
ガキーン‼︎
「くっ」
歯を食いしばる中、金属音を響かせた。ドスガレオスとは体格差で劣るとは言え、相手は人の倍近い体格には変わらない。
直撃を受けずに済んだことに、ホッとする。ようやく凌いだことに、ケインの方へと向く。
「ケイン! とりあえず今は音爆を温存しろ。どの道、
「わ、分かった」
さしもののケインも、これには音爆の重要性を理解したみたい。すぐさま画面を表示させた後、掌内の音爆達を仕舞おうとした。
――が、次の瞬間。動きを止めてしまった隙を突かれたのか。まさに格好の標的と言わんばかりにドスガレオスが放ったブレスが飛来。そのままケインに直撃してしまう。
がはっ!
吹き飛ばされてしまった。俺は叫ぶ。
「ケイン!」
何度か転がった後、物資にぶつかって止まる。しかし、吹き飛ばされた方向が悪ければ、車外へ放り出されるのは目に見えており、まさに危なかった瞬間でもあった。
「う、うう……」
呻き声を上げて、ゆっくりと立ち上がりつつ目を開いていく。その目の前、いくつかの吹き出しアイコンが散見していたが……。
ともかく、俺からでは吹き出しアイコンが小さ過ぎて見えず、何を書かれていたが定かじゃなかった。けれど、ケインはその吹き出しアイコンの正体が分かったのか、見た瞬間、何やら焦り出した。
「っ! ま、まずい‼︎」
慌てて回収しに掛かる。しかし、次の瞬間、幾つもの音爆特有の炸裂音が響き渡ったではないか。
「おい! まさか……」
「す、すまない。吹き飛ばされてしまった際、手放してしまったらしい」
(なんてこった)
弁解することなく悪びれるケイン。落胆して俺は肩を落とした。
「で、残りは?」
そう言われて、彼は手の内を見せた。吹き出しアイコンは表示されてはなかったが、見るからに一個しかなく。
音爆なしても攻略はできなくはないが、もし、ドスガレオスを討伐できず、それどころか、最悪、撃退出来なければ、更なる苦戦はま逃れそうにないだろうと見た。
「きっちり大事に持っていろよ」
「そうする。てか、今度こそ手放してたまるかっての」
「当然だ。それが唯一、切り札みたいなものだから……さ!」
――直後、上陸してきたガレオスのテイルアタックが、盾に打つかり火花を散らす。再び攻防戦が開始された中、ケインにバリスタでドスガレオスの注意を逸らすよう声掛ける。
「そっちは任せたぞ! ケイン」
「ああ任せろ。それに弾も十分確保済みだぜ」
そうして、ケインはドスガレオスの注意を。俺は上陸してきたガレオスの駆除を。それぞれが配置につき交戦を再開。
まさに、これぞ与えられた役割分担と言えよう。戦いは激しくなっていくが、残り2体だけに場を持ち堪えるには十分であった。
時折射出されるバリスタ音を耳にしながら、目の前のガレオスとの間合いを詰めていく。とは言え、ドスガレオスの邪魔がなければ、楽勝でしかなかったが……。
しかし、唯一、警戒しないといけないことがあるのは確か。それは、防衛クエストだけあって、護るべき物があると言うこと。
攻撃から物資を守りきらないといけない制約上、どうしてもそちらに気を回さないといけないわけだから、油断できなかった。
チラッと物資の耐久値を確認し思う。
(残り半分くらいか……)
恐らくであるが、ダメージの大元はドスガレオスと見て間違い無いだろう。先程のブレス乱射から流れ弾をいくらか貰ったと思われる。
(頼むぞケイン)
彼の技量にクエストクリアの希望を委ねた。
そして……。
幾らかガレオスとの攻防戦が繰り広げた後、遂に奴の弱点である頭部に、ガンランスの鋭い砲身が牙を剥く。
まさに痛撃だっただけに、大量の血を吹き出した後、断末魔を上げてガレオスは力尽きた。
ふぅ〜
楽勝だったとは言え、ガレオスとの攻防戦は抵抗が激しかっただけに時間が多少かかってしまったみたいであった。
額の汗を拭い、クーラードリンクを使用。ケインとドスガレオスとの攻防戦の行方を確認する。
「こっちは片付いた。そっちはどうだ?」
バシュー! バシュー! バシュー!
空振りを含めてバリスタでの応戦を繰り広げる中、ケインはなんとか戦況を話す。
「こっちはなんとか。 にしても、なかなか命中しねぇーな〜」
苦戦を強いられているようであった。――と、その時、ドスガレオスの動きがピタリと止まったではないか。
「お、ようやく止まってくれたか。これはチャンス――」
しかし、次の瞬間、なんと! 尾鰭だけを見せて砂中に潜っていたドスガレオスが、そこで飛び出してきたではないか。
「う、うわー‼︎」
これにはビックリ仰天! 慌てて逃げ出そうとする。がしかし、まさに反射的だったのだろう。俺は叫んだ。
「音爆! 音爆を使え!」
「っ!」
我に返ったケイン。だが、時すでに遅し。飛び込んできたドスガレオスは、遂に上陸しようとして――
「ちっ」
舌打ちした俺は、反射的に身を盾にすべく自らも強靭な盾を前にして突撃する。直後、
ガキーン‼︎
凄まじ金属音と火花を散らし、ドスガレオスの上陸を見事に妨害。その反面、その重量に堪え兼ねて俺は吹き飛ばされてしまった。
「ユウト!」
幾らか床に転がってしまう俺。身を挺した妨害は、間際にガード体勢を取ったとは言え、体力ケージを2割がた持っていかれてしまうことになった。
「だ、大丈夫か? ユウト」
心配になって駆け寄るケイン。苦悶の表情を見せてしまう中、ケインに音爆を使いよう指示する。
「は、早く……。音爆を……」
「わ、分かった」
手早く画面操作をした後、彼は再びドスガレオスと対峙しに行く。だが、ドスガレオスもドスガレオスで、ただではやられない。
沢山のブレスを吐き散らかしては、ケインを餌食にせんと狙っていく。さらには、流れ弾を受けては、物資へのダメージも蓄積していき――
幾度目かの接戦が続いた後、ケインは叫んだ!
「食らえ! お魚野郎――‼︎」
直後、
カキーン‼︎
見事な炸裂音。同時に、ドスガレオスが飛び跳ねるのを目撃した。
「やったぜ! ユウト」
「ああ。でかしたな」
追撃部隊最後の一匹となっていたドスガレオス。奴が音爆のダメージを受けて脱落したことに、無事に物資を守り切ったことを確認。互いに安堵し合った。
そして、それを証明するように、二人の目の前。過ぎ去っていく砂漠の光景を背景に、
〝到着地点に辿り着きました″
の終わりを告げるメッセージが流れた。