モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:猛る白き獣・3話

 ポッケ荘を後にした俺達は、なにわともあれ武具屋へと向かった。なんでもいいが、ポッケ荘で宿泊するにせよ、どの道、今のままでは寒くて寒くてまともに外出すらままならないからだ。

 だげど、ポッケ荘を後にするにあたり、ぼったくり価格とは言え、プランはきちんと選んできた。

 やはり、宿泊できるのとできないとでは、今後の方針において影響が大きいと思ったからだ。

 武具屋を目指す中、真っ先に買い選ぶとしたら、やはり防寒着。これに尽きること間違いないとさえ考えていた。だけど、そんな状況の中、一つだけイレギュラーなことがあった。

 それは、こちらを見ながら付いてくる小狼。そして、彼のオトモ・バター。こいつらである。勿論、きっちりと断った。行く先が危険なクエストだけに、こいつらを連れていくにはリスクがあまりにも大きいからだ。

 けれど、そのことを話しても、バターはともかくとして、小狼は決して食い下がらなかった。何度も何度も説得してもだ。

 さらに最終手段として、姉達を必ず連れて帰るからと半ば無理な約束までをも取り付けようともした。しかし、頑固そのもの彼の意志は固く。結局、これも納得せず。もはや彼の鋼のような強固な意志の前に諦めた俺は、犠牲になるかならないかは自己責任だからな。と、そう言いつけ、渋々、彼と行動を共にすることになった。

 それ故に、歩き続けては、時折、ため息を漏らすに至る。そんな中、後ろから付いてくる二人を気になってか、ケインが不満を口にする。

 

「な〜、さっきから気が散って仕方ないんだけどさ」

 

 そう言いながらそこで立ち止まっては、振り向き不満を口にする。

 

「無言でジーと見つめられてるの、気になってしょうがないんだけど」

 

 同じく、俺もまた振り向く。彼の言ったように、確かに気にはなっていた。その視線がケインだけに注がれようとも。

 言われたことにやや戸惑ったのか、小狼はバターと顔を見合わせる。しかし、すぐに元の無表情をするや、無言のうちにズカズカと前へと歩き出した。その様たるや、機嫌が悪そうにも見えた。

 

「まだ怒っているのかよ」

 

 その様子に今度はケインが戸惑ったのだろう。自分の胸に手を当て、心当たりがあるのか、再び焦ったようにその場凌ぎでペコペコと平謝りする。しかし、とうの本人の態度は変わらない模様。

 仕方なしに

 

「な〜、バターだっけ? あいつ、まだ怒っているのか?」

 

 すると、バターは彼のパートナーだけに、小狼の気持ちを代弁するかのように話す。

 

「ん〜。まだ、怒っていると言えばそうなるかにゃ。あー見えて、小狼くんは心が繊細だから」

「そ、そんな〜」

 

 自分のしたことに、後悔しまくる。と言っても、俺からしたら、彼の性格が災いしたに過ぎないのだが。

 

「まー、自業自得。諦めるんだな」

 

 慰めにもならない言葉をかけた。願わくは、思ったことを口走ってしまうとこ、多少なりとも改善して欲しいがな。

 肩をすくめるケインを放っておいて、俺と小狼は揃って先を進んだ。

 そして……

 

 ……それから、程なくして……

 

 ひもじい思いをしながら、ようやく例の武具屋の前に来た俺達。早速、防寒着とやらの防具新調とやらを始める。

 そうした中、ただ待っていた小狼に、俺は不思議そうに話しかける。

 

「装備新調はいいのか? これから向かう場所は、極寒地帯だけど」

 

 すると、こちらを向くや画面を開き、意思を伝えようとした。ところが伝える途中、行き詰ったのか、その霞んでいた手元の動きが止まってしまう。

 何か思い悩むことでもあるのか。はたまた、初対面みたいな俺達に不慣れなのか、押し黙ってしまう。

 沈黙が漂う中、バターが彼に代わってフォローする。

 

「気遣いありがとうにゃ。小狼くんのことは心配ないにゃ」

「そ、そっか……」

 

 見た目から、あまり防寒着とまではいかない印象が拭えなかったが、彼のことをよく知っているであろうバターが言うからには、そう頷くしかなかった。

 一方、ケインはそうではなかった。

 

「心配ないって……。どう見ても、寒そうに見えるけど。その……防具、なんと言うか分からないけど」

「ギアノス」

「え!」

「ギアノスシリーズだにゃ」

「ギアノスシリーズ? う〜ん、分かるか? ユウト」

 

 知識不足から首を傾げるケイン。今作から新たに追加されたスキルはともかくとして、その装備に関して豆知識があった俺は、知っている限りのことを話す。

 

「シリーズを揃えている限り、耐雪スキルは発動しているように見えるな。そのスキルに関連して、寒さ対策になっているかまでは分からないけど」

「お、流石!」

 

 と、褒めるケイン。とは言え、好きだからその知識を当然のように有していただけあって、褒められたところで、俺としては、こそばゆい感じしかなかった。

 

「んな、褒められる程でも……」

 

 そこで、バターが疑問に思ったことを口にする。

 

「ところで、そのギアノスシリーズと言うのはにゃ?」

 

 すると、小狼は装備している訳を書き連ねる。

 

『これは姉さんから貰ったんだ。素材が余ったからって事で、ついでに』

「なるほどね」

 

 とケイン。それを聞いた俺も、右に同じくと言った感じで納得した。

 

「つまり、プレゼントって感じだな」

 

 俺の指摘に、小狼は嬉しそうに頷いた。そして、補足と言ってはなんだが、バターが一言付け加える。

 

「ちなみだがにゃ。このギアノスシリーズは、ユウトさんが言っていた耐雪スキル以外に、保温効果を維持するスキルとして、耐寒スキルも発動しているにゃ。だから、お姉さん達はそのことも考えてのプレゼント、て訳だにゃ」

 

「なるほどね」

 

 それを聞くなり、先程から彼が寒がらない理由、分かったような気がした。

 

「じゃ、あと俺達だな」

 

 とケイン。

 

「ああ」

 

 俺もそれに答えた。と言う訳で、店員と向き合った俺は、歩み寄った。

 

「いらっしゃいませ〜。品薄ですが、見ていてくださいな」

 

 筋骨隆々なおばちゃんが、腰に両手を当て気前よく話す。

 

 (さて、どんなものがあるだろうか?)

 

 始めてきただけに、防具の種類に期待感を滲ませる。しかし、いざ、購入画面開くや、え? となり、思わず首を傾げてしまった。と言うのも、

 

「な、無くね」

 

 そう、購入できるはずの防具が一つを除いて、何もないのである。一方、訝しい表情を見せる俺に不思議そうに感じたケインが、声を掛けてくる。

 

「どうした? ユウト」

「いや、なんつうか。無くてな」

「ない?」

「ああ、買える防具とやらがな」

 

 それを聞いたケインも、流石に信じられないのか

 

「まさか〜」

 

 そう言うなり、購入画面を開いた。そして、彼もまた、その光景に疑いの目を向ける。

 

「は、はー? はい? な、何もなくねか。防具」

「だろう」

「た、確かに」

 

 そして、その理由とやらを確かめるべく、俺に代わってケインが率先して店員に問いただす。

 

「おいおいおばちゃん。こう言っちゃあ悪いが、買える装備とやら、何もないが、これはどう言う……」

 

 すると、おばちゃんは掌を見せながら、すまなそうに言った。

 

「悪いねぇ、あんたら。ここんとこ、鍛冶職人がいなくてね」

「いない? どう言う……」

 

 とそこで、ミルクとジャムも気付いたのだろう。

 

「えー、ボク達の装備も」

 

 と嘆いた。どうやら、品薄は俺達ハンターだけでなく、ミルク達、オトモもそうみたいであった。そんな彼女をよそに、店員と話しを続ける。

 

「財政面もそうなんだが、あたし達村民の分の食糧事情が厳しくてさ。なにせ、ここんとこ風評被害があるせいで、まともに村への食糧配達が来なくて」

 

 (ここでもそうなのか……)

 

 村全体に齎している風評被害。先のホテルマンの話といいこの店員と言い、どうやら俺達の狩猟生活(ハンターライフ)に影響出るくらい深刻のようだ。

 放ってはおけない。いや、この問題なしでは先には進めなさそう。直感的に思った。

 

「とりあえず、あるのだけ買うよ」

「そうかね。ほんと、すまないね、ありがとうな」

 

 悪びれた様子ではあったが、俺達が買い物してくれることに嬉しいそうにした。

 

「えーと、モフモフシリーズはあるみたいだな……」

 

 購入リストに表示されている防具。とりあえず、購入に先駆けて詳細を確認してみる。すると

 

「ふ〜ん、まぁ、無難かな」

 

 防御の値は酷いものであったが、最低限として、耐寒スキルだけは、シリーズさえ揃えれば発動できるみたいであった。

 

「これにしようかな」

「そうするかね。ありがとうな」

「で、ついでなんだが、防具の強化は……」

 

 まさにそこだった。モフモフシリーズはある意味、その場凌ぎの防具であって本格的な狩猟には向いていない。だから、元からの防御力も、単体一つにとっても2くらいしかなく、その脆弱さは初期装備であるルーキーシリーズ以下しかなかった。

 つまりどう言うことかと言うと、例えるなら対大型モンスター戦において、全裸で立ち向かうようなもの。防具自体、無理にでもガッツリと強化する必要があった。

 しかし――

 

「すまないねぇ〜。さっきも言った通り、その点に関してもできないんだよね」

「そ、そんな……」

 

 隣で聞いていたケインが項垂れる。俺としても、防具強化できない以上、原因調査するべくクエストに挑んだところで、危険極まりであり困ったものである。

 しかも、かと言って現状の装備で行くにせよ、とても寒過ぎて無理極まりなかった。そんな時、打開策としてなのか、

 

「でも、この諸問題については、村長に聞いてみるのも手じゃないか。あの人なら、何かいい妙案、あるかもしれないしね」

 

 (いい妙案ねぇ〜)

 

 頼れるとこがそれしかない以上、俺達には選択肢はなかった。仕方なしにその案に乗ることにした。

 

「……そうだな。そうしようか。ケインもそうするだろう?」

「まぁ、他に方法がないならな」

 

 続いてミルクもジャムも同意したようであった。他方、小狼はと言うと、店内の奥が気になっていたのか、呆然と立ち尽くしていた。

 そうしたなか、話がまとまったところで、バターは小狼の袖を引っ張り呼び掛ける。

 

「行こうにゃ、小狼」

 

 すると、そこでようやく気が付いたのか。彼は軽く頷くに留めた。

 

「じゃ。あんたら、頼んだわよ」

 

 こうして、まともにクエスト攻略できる準備が整わすべく、その前段階としての方針が固まった訳であった。

 ただ、村長の家へ向かうなか、気になっているのであろか。チラチラと遠ざかっていく武具屋の方を見ていた小狼の様子には、俺も彼のことを気になってはいたが……。

 

 

 

 

 村長の家。と言っても、先程のポッケ荘に比べたら、極一般的な茅葺き屋根の民家と変わらなかった。他の民家と遜色変わりないことから、気が付きにくいだろうな〜、とか、店員に訊いておけば良かったかなぁとさえ思った。

 しかし、実際には、案外、すぐに分かった。特に村全体の地図を有しているわけではなかったが、村長の家の前を通過する際、効果音を伴って吹き出しアイコンが表示。そのことですぐに分かった次第なのである。

 村長の家の前に来た俺は、やや緊張気味ながら選択肢〝入室する″〝入室しません″で、入室するを選んだ。

 しかし、いざお邪魔するに当たり、俺以上に緊張していたのか、小狼は遠慮してバターと共に玄関先で待つこととなった。

 入室して早々、ケインが一番乗りするかのように、溌剌とした挨拶をする。

 

「ちわーす! 誰かいませんか〜?」

「ちょ、ちょっとケイン。いきなり声がデカ過ぎ――」

 

 遠慮なしに声を高らかに発する彼に、俺は慌てて制止しにかかる。一方、誰もいなさそうな玄関先において、一拍置いた後、奥から声が。それもかわいらしい少女の声が聞こえてきた。

 

「はーい」

 

 そして、案の定と言ったところか。襖から一人の女の子が顔を出す。こちらを警戒しているのであろうか。俺達から距離を空けつつも、カチューシャを飾った少女は用件を尋ねる。

 

「えーと、どちら様――あ、ハンターさんですね」

 

 俺達の素性を知るなりその少女はやや警戒心を解いたのか、俺達の元へと歩み寄って来た。その様たるや、表情は無愛想ながらも、まさに白と黒を基調とした初々しくも可愛いらしいメイド姿であった。

 

「私、ご主人様の代理を勤めてるカデット。カデット・コーデリッヒです。ご用件はなんでしょうか?」

「ご主人様?」

 

 と首を傾げるミルク。多分だと思うが、耳元より小言で解説を付け加える。

 

「きっと村長のことだと思うぜ」

「ふ~ん、なるほどにゃ」

「あの~、用件がないなら……」

 

 困惑するカデット。俺は慌てて本題に入る。

 

「ああ、わりぃわりぃ。で、早速、用件なんだがな。ぶっちゃけ言うと、武具の販売、もっとまともにできるようにしてもらいたいということなんだ。なんだか、聞いた話によると、風評被害がどうとかでまともに装備新調できなくてさ」

「風評被害ですか……」

 

 すると、カデットは眼前に画面を表示させるや、右往左往目配せをして何かを確認。

 

「その件については、ご主人様から話を伺っております。詳しくは分りませんが、原因は恐らく、巷で噂になっている〝白き獅子″ ――と言っても、これは私見になりますが、村の近隣において、ドドブランコの出現が見受けられる影響でないのかと」

 

 ――とそこで、ケインが横から威勢よく口を挟む。

 

「やっぱり思った通りだ。つまりだな、ようはその白き獅子とか呼ばれたドドブランコとか言うのを片付ければ、諸処の問題は解決! なんだろう?」

「おいおい、結論急ぐの早いな、お前」

「へへ、ズバリってヤツさ」

「いや〜、あまり褒めてはないが……」

 

 とは言ったものの、確かに彼の言った通り、ドドブランコさえ討伐すれば、あっと言う間に解決できそうにも思えた。

 ただ、なんだろうか。その反面として、現実問題、そうはいかないような気がしてならなかった。

 想像するに、第一、防寒着となり得るのが、モフモフシリーズしかないと。そして、第二に、そのモフモフシリーズの防具強化ができないと。分っているだけで、そう言った問題が、山積しているからだ。

 同意しかねるケインの結論に、うんうん唸っては首を縦には振れなかった。その様子に、ケインは

 

「え? 駄目なのか? その案は」

 

 と疑いの目を向ける。それに対して、俺は最もらしい意見を述べた。

 

「いや~、だめっと言うか、何というか……。よく考えてみろよ、色々と問題があるぜ。防寒着の件にしたって、装備強化ができない状態の貧弱装備で雪山に挑む気か?」

「うう、そ、それは……」

 

 さすがに彼も分っていたのだと思う。まさに苦虫を噛むような表情を見せ、反論が言えなくなってしまっていた。一方、ミルクやジャムも、いい妙案がないか思考を巡らすに至り、黙したままである。

 そうしたなか、カデットは提案する。

 

「と、とりあえず、私がご主人様に取り合ってみましょうか?」

「え? いいのか」

「ええ。てか、その目的があって来たんでしょう?」

「ま、まぁな。その方が話が早いし」

 

 そう答えると、カデットは目を細めて眼前の画面を閉じた。そして――

 

「……かしこまりました。では、ご案内しますね、その場所まで」

 

 そう言うなり、彼女は玄関から出ようとした。その様子に、ジャムは疑問に思う。

 

「あれ? 村長はもしかして不在かにゃ?」

「不在ですね。ただ今、ご主人様は村民とハンター達の苦情に追われている最中ですので」

 

 そう言いながら、俺達の前を素っ気なく素通りしていく。彼女に連れられて、俺達もまた、後に続く。――のだが、庭を介して木戸を開けると、そこには小狼とバターが立っていた。

 

「どうした?」

 

 すると、彼は口頭で話す代わりにメッセージを書き起こす。

 

『あまり遅いから、どうしたかと思いましたよ』

 

 と心配していた旨を伝えて来た。

 

「すまないな。だが、話は纏まった感じだ。今から村長とやらに会いにいくよ」

 

 一言、そう答えてやった。それを受け納得した模様。彼もまた、カデットに続いて歩き出した。

 

 …………

 

 ……

 

 ポッケ荘を通り過ぎて、はや5分ほど。村長のところへ向かうなか、カデットの後ろからついてくるケインが、何やら匂いを嗅ぎつつジロジロと彼女を観察していた。

 正直、気持ち悪い感じはしていたが、疑問に思った俺は、試しに声を掛けてみる。

 

「ん? どうしたケイン?」

 

 すると、彼は何を吟味していているのだろうか。視線をカデットに固定しながら、小言でその心中を語り出す。

 

「いや〜、なんで言うか……。彼女、可愛くてさ」

「可愛いい?」

 

 そう言われ、俺もまた、改めてカデットの方へと視線を向けた。彼と同じく観察するなか、同情の念が込み上げてくる。

 

 (可愛い……、可愛いい……、ねぇ〜)

 

 心の中でなんとも反芻する。思うにサユリと同じく、年端もいかない子のように見える。そうしたなか、いつの間にか惚けてしまったのだろうか。

 カデットの後ろ姿が、サユリの面影と重なるのを垣間見る。思わず俺は呟いた。

 

「サユリ……」

 

 すると、彼女は振り向くや、にこやかな表情を見せて

 

「ユウト……」

 

 優しく答えた。

 

 ……ユウト……。

 

 ユウト……。

 

 ユウト‼︎

 

 はっ!

 

 ケインの呼びかけで、ハッとなり我に返った。隣を見るや、ケインが心配そうに顔を覗いてくる。

 

「大丈夫か? なんか、呆けていたぞ」

「あ、ああ。わりぃわりぃ。ちょっとぼーとしていたよ」

「おいおい、しっかりしろよな。てっきり、この寒さでやられたかと思ったぜ」

「いやいやいや、大丈夫だから」

「そうか?」

「だ、大丈夫だって。ところで、なんの話だったっけか?」

 

 訊いていなかったのか、あまり覚えていなかった。しかし、ケインとしては、拍子抜けてしまったのだろうか。

 

「いや、もうなんでもないや」

 

 とだけ、答えるのみだった。

 

「着きましたよ」

 

 道中、いきなり立ち止まったカデットが、到着を知らせる。辺りを見渡した後、見覚えがある光景であることを確認する。

 

「ここって……」

 

 とケイン。

 

「で、村長とやらは?」

 

 と俺。その光景とやらは、ポッケ村に到着した際に訪れた公衆広場であった。カデットはある方へと掌をかざして

 

「あちらにいます」

 

 と示す。その方向、そこには、来たときと同様、一塊の集団があった。ある人物を中心に群衆が群がっていることは確かであったが、正直、ゴチャゴチャしているだけに近寄りたくなかった。近寄りがたい光景であるが、そこに輪をかけて用が済んだのか

 

「じゃ、私はこれで」

 

 とか言って、その先は知らぬ存ぜぬのように、立ち去ろうとしていた。その様子にケインは慌てて

 

「ちょちょちょ、どこ行くんだよ。待てくれよ」

 

 と咄嗟に彼女の手を鷲掴み。するとカデットは驚き、

 

「っ! キャー!!」

 

 と悲鳴を上げ

 

「いきなり。な、何するんですか!? このセクハラ魔!!」

 

 とまるで、セクハラにあったかのように振る舞った上、

 

 パーン!!

 

 お返しとばかりに、思いっきりビンタをお見舞いしてきた。さすがのケインもこれには吃驚。その気はないとは言え、これには堪えた模様。赤く腫れた頬をさすり、涙目で文句を垂れる。

 

「いったー。な、何するんだよは、こっちのセリフだよ」

 

 しかし、当のの本人は、ふんっ、とそっぽを向いたまま、どこかへと立ち去ってしまった。

 

「災難だったな」

「ったく、ほんとだよ。見た感じの印象は、俺好みで可愛いんだけどさ。性格がアレではなあ……」

 

 痛手を負ってしまった親友に、俺とジャムはただただ苦笑いするだけにとどめた。

 

「ケインが悪いんだにゃ。いきなり会って間もない子に、いきなり体に触れようとするから」

「だってよ……」

「だってじゃないにゃ。本人、相当、吃驚していたにゃ」

 

 乙女心を知るミルクに説教され、ケインはただただ頷くだけしかできなかった。そうしたなか、小狼は痺れを切らしてメッセージを表示させる。

 

『で、このあと、どうするんです?』

「どうするも何もなあ……」

 

 頬をさすりながら、今後の方針について困惑する。正直、俺もまた、どうしたものかと困っていた。

 そうしたなか、先ほどまで集まっていた群衆が散り散りになっていくのを見かける。どうやら村長の説明会とやらが終わったらしい。みな一様に何処不満げな表情だけは残していた。

 バラバラになっていく群衆の中から、肩を落とす老人と茅葺帽子を被った竜人族のお婆ちゃんが姿を見せる。

 どちらかが村長だとは思うが、しかし、竜人族のお婆ちゃんの方は、何やら焚き火をして寛いでいる上、何かのボードの案内役のように見える。そのことから、どうも老人の方が村長のようであった。

 何やらお婆ちゃんに慰められたあと、こちらへと元気なさそうにやってくる。

 

「どうするんよ?」

 

 戸惑いを見せるケイン。俺としても、事情はさておき、どう話しかけていいか分からなかった。そんな中、老人はこちらに気付いたのだろう。

 

「お前さん方も、どうせ彼奴らと同じく不満をいいに来たのじゃろう?」

「あ、いや……。俺達は」

 

 しかし、勝手な解釈ながら老人は俺達を制して話を進める。

 

「いや、いいんだ、それ以上は。分かっとるわい。だがな、どの道、どうすることもできんじゃわい。行ったところで、あの猟団と同じ目に遭うだけだしのう」

「あの猟団?」

 

 意味が分からず、首を傾げる。すると、心当たりでもあるのか、小狼が老人に食らいつく。

 

「あ、小狼!」

「な、な、なんじゃ一体! 何するんじゃ、お主は!」

「あう……、あ、あ、あ……」

 

 声にならない声を上げて、老人の胸ぐらを強く掴む。その様はまるで何かを訴えるかのように必死であった。戸惑いながらなす術なく、されるがままの老人。流石に見過ごせなかった俺は、止めにかかる。

 

「おいおい。気持ちは分かるが、ここは一旦、落ち着けって」

 

 そして、彼の連れのバターまでもが止めに入る。

 

「そうだにゃ。小狼くん、やめるんだにゃ」

 

 しかし、彼としても必死だけに耳に入らず。次第にエスカレートしていく様子に、流石のバターも語気を強めて呼びかける。

 

「小狼!」

「くぅ……、っ!」

 

 確かに今度は心に響いたのだろう。二人から必死に制止されたことに、悔しい表情を浮かばせてようやく老人を解放する。

 解放されたことにより、ふぅ〜、と息を吐くと、不快に思ってか怒り出す。

 

「ったく、なんなんじゃ! お主らは! 用件あるかと思いきや、いきなり胸ぐらを掴み寄ってからに」

 

 まさに収拾がつかない事態になりそうであった。折角の情報源などを聞き出すチャンスを得る矢先のトラブル。このままでは、先程のカデットと同じく何処へと立ち去ってしまいそうだった。どうしようもない中、だがしかし、その窮地を救ったのは、意外な人物だった。

 

「待て待て待て、ここは冷静に、な」

「ケイン……」

 

 とミルク。意外な彼の行動に関心の目を向ける中、ケインは更なる説得を試みる。のだが……

 

「何が冷静じゃい! 今日は散々だったんじゃ。ワシはもう帰らせてもらうよ」

 

 そう言うなり、有無を言わさず立ち去ろうとする。しかし、粘りを見せるかのように、老人の進行方向に、ケインは立ちはだかる。

 

「ま、ま、待ってくれよ、爺さん」

「爺さんだと⁉︎ ワシはただのジジイじゃない。この村の村長じゃ!」

「じゃあ、村長さん。とりあえずでいいから、少しだけ話を聞いてくれないか?」

「話を聞くだと! ワシは忙しいんじゃ。そこをどいてくれ!」

 

 もはやこれ以上、説得をするにも限界であった。群衆からの不満を一心に浴びていたであろう村長の我慢は限界に達していたらしく、ケインを突き飛ばさんとばかりに押しやる。

 そうした中、一か八か、俺はある一言に望みを賭けて発してみる。

 

「猟団と言うのは、小凛が所属する猟団のことだろう?」

 

 すると、村長の態度に変化が。

 

「え? どうしてそれを?」

 

 まさに意外な一言だったのだろう。村長は不思議そうな表情をしてこちらを見た。そんな彼に、俺は推測の域でしかないが、考えた通りに話す。

 

「マグレかもしれないが、小凛はこいつの姉さんだと言う話だからな」

「なんじゃと! 確かに……。連絡が途絶えたのは、その彼女が所属する猟団じゃが……。そうか……、そう言う事情だったんじゃな」

 

 すると、すっかり冷静さを取り戻した村長は、小狼の方へと向くや歩み寄った。そして、彼と同じ目線に合わせるようにやや屈む。

 

「すまなかったのぉ。事情も知らずに」

 

 そう謝意を示すや、彼の頭に手を添える。

 

「でも、どちらにせよ。どうすることも出来ないのにゃろ? 打つ手がないようなカオをしていたから」

 

 ジャムの指摘。その言葉には、重みを感じずにはいられなかった。案の定、村長も指摘された通りだったらしい。一段と暗い表情をする。

 

「正直、そうなんじゃ。クエストを出しても、誰も彼もあの恐ろしい雪山から無事に帰った者はいないのじゃ、一人を残してな」

「一人?」

「そうじゃ。でも、その一人もまた、仲間を失ったことから、二度と依頼を受けないとかも言っているのでな。帰ってきただけでも嬉しいのじゃが……」

「でも、原因は掴めたのかにゃ?」

 

 とミルク。村長は自信なさそうに述べる。

 

「それが……。はっきり、せんなんじゃ。話を聞く限り、当時、猛吹雪だっただけに視界が悪く。さらにその状況下で襲われたと言ってたからのう」

「猛吹雪、か……」

 

 連なるフラヒヤ山脈の山嶺を眺めながら、思索を巡らす。

 

「どうしたんだ? ユウト」

「いや〜。猛吹雪と訊いてな、想像以上に劣悪だと思って」

 

 確かにそうなのかもしれない。現実世界(リアル)でも、山の天候は瞬く間に変わると巷では聞く。そのこともあり、このMHA・Oにおいても現実世界と酷似したような環境設定なら、現実世界同様、覚悟はしないといけない気がしていた。

 

「で、その後はどうしたんだ? 村長さん」

「ああ、そうじゃな。それでなんじゃが、襲われたとは言え、先も話した通り、なんとか村まで帰還はできたんじゃ。その際、村人達も無事に帰ってきたことに嬉しく思ったのだ。しかし、反面、そのハンターの目撃証言からフラヒヤ山脈には、白き獅子が棲まうと言った噂が広まってしまい、いつの日にか村全体が風評被害にあって、この有様じゃ」

「なるほどね〜」

 

 一部始終訊いていたケインが、事情を知って頷いた。そして――

 

「じゃあ、やっぱり厳しいかもな」

 

 と結論付け。対する俺は否定する。

 

「おいおい、簡単に決め付けるなよ」

「だってよ。訊いた限り、手も足も出ないぜ。ましてや、こいつの姉さん達の猟団を捜索なんて自殺行為にしか見えないぞ」

「だけどさ……」

「じゃあ、何か? 何かいい妙案でもあるのか? お前が言ったように、装備新調がまともにできない条件下でさ」

「うう。そ、それは……」

 

 (言い返す言葉が見つからない。クッソー、何かいい手は……)

 

 頭をフル回転させて、考案を生み出そうと懸命になる。そうしたなか、ジャムがミルクが誰かを見ているのに気付く。

 

「どうしたのですにゃ?」

「いや、あれ〜」

 

 指を指す。二人の会話が自然と耳に入ってきたことに、俺とケインは揃ってそちらを向く。するとそこには、無責任ながら俺達を勝手に置き去りにした彼女がいた。

 

「カデット……」

 

 呟く俺。村長も俺たちと同様、カデットの方へと向くや、同じく呟いた。一方、カデットは俺たちがこちらに気付くや、やや周囲を気にしながらではあるが、ゆったりと歩み寄ってきた。

 

「途中からですが、話は聞いていました。ご主人様は、どうやら相当お困りのようで」

 

 すると村長は、情けない表情を浮かべて

 

「すまないのぉ、カデットよ。この老いぼれの醜態を見せてしまって」

「いえ、気になさらないで下さい。そのことについては、前々から薄々気付いていましたので」

 

 そう言うなり俺達の前まで来ては、立ち止まった。両手を前に重ね顔ぶれを再確認した後、俺達に釘を刺すように話す。

 

「最初に言っときますが、決してあなた達を心配して来たわけではないですからね。誤解のないように」

「へいへい」

 

 とケイン。

 

「ではご主人様、帰りましょうか。あなた達も来るでしょう?」

「俺達も?」

「あら、来ないのですか? 打開策とやらがあるにはあるのですが……」

「打開策?」

 

 その意味深な言葉を受け、俺とケインは顔を見合わせる。

 

 (何も打つ手がないこの状況下で打開策? 一体なんだろうか?)

 

 全く想像できないなか、選択の余地がなかっただけに彼女に着いていくことになった。

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