モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:猛る白き獣・4話

「つまり、そう言う事なんだな」

「そうです。でも、何度も言いますが、決してあなた方のためじゃないですから。そのことを履き違いなく」

「はいはい」

 

 その言葉。耳にタコができるほど何度も聞かされて脳裏に焼き付いていた。正直、嫌と言うほどに。で、話は変わるが、今の現状はと言うと

 

 そう……。

 

 カデットから提案された代替案を受け入れるかどうか。その瀬戸際に立っていたのである。ちなみに、その代替案と言うのは、防具の貸し出しのこと。

 通常においては、〝装備を貸す″、なんてことはできない。そのことは、俺にも分かっていたのだ。

 しかし、その装備を貸すと言う行為そのものは、どうやら本作にあたっての新機能なのか、実在していたのである。

 条件はこう……。

 

1.ギルドカードの交換

2.ギルドカード画面にて、お互い、相手への信頼度をMAXに設定

3.装備貸し借りの《許可》・《拒否》を《許可》に選択

 

 の手順だそうだ。手順は単純。とにかく、3番目の許可については、いや…、2番目もそうかもしれない。この二つは、本作切っての機能と見た。

 

「信頼度設定、ねぇ……」

 

 何を思ったのか、ケインは顎を掻きながら呟いた。やや頬を赤らめながら、カデットは訂正する。

 

「べ、別に設定がMAX必須だからって、あなた方を信頼した訳ではないですからね」

「へいへい」

 

 その気はなくとも、彼はカデットの言い分を受け入れたようだ。

 

「ほらよ。」

 

 素っ気なくではあったが、早速、言われた通りギルドカードを提示して見せた。なお、称号については、初期設定の〝駆け出しハンター″のまま。あまり人に見せびらかしたくない思いもあっての事だ。

 

「ほんじゃあ、俺も早速……」

 

 ケインも提示した。

 

「確かに、承りました」

 

 自動送信の後、

 

〝ギルドカードを提示しました″

 

 のメッセージが流れた。

 

「では、私からも――」

 

 今度はカデットからギルドカードが送られてくる。内容を確認したい所であったが、場の雰囲気からそのような余裕はなく。次の工程へと移る。

 

「じゃあ、私は以上で。あとは、そちらの信頼度を」

「あいよ」

 

 息を合わせるように。俺とケインは揃って信頼度をMAX設定にした。

 

「済んだみたいですね。、装備の件、あなた方に貸すにふさわしいものを選別してきますね」

 

 そう言い残し、踵を返すや収納ボックスへと歩み寄って行った。色々と思うところがあるのだろうか。画面表示するや、度々、手元の動きが止まる。

 

「さて、どうするよ?」

 

 腰に両手を当てて退屈そうに振る舞う。

 

「どうするって?」

 

「そりゃ〜、……今後の方針とか」

 

 そう言うなり、勝手に藁のソファーに、ドカッ! と腰を据えた。傲慢そうな、あるいは、豪胆な様を見せる彼を見つめながら応える。

 

「方針? んー……」

 

 確かに思うところはある。考える中、ふと、俺は、礼儀正しくソファーに座る小狼。そして、座らないまでも彼に寄り添うバターを見つめた。

 彼の暗い、それもどこか不安を隠せない表情を伺ってから意見を述べる。

 

「ともかく、彼の姉さんとやらを探すことが第一優先、だろう? そのための準備なんだし」

 

 しかし、ケインとしては、もっと踏み込んだ意見を求めていたらしく。

 

「まぁ、そうだろうけどさ。ほら、なんで言うか。あるじゃん、こう、雪山へ挑む上での対策とかがさ。姉さんを助けに行く? そりゃあ――」

 

 とそこで

 

「雪山に挑むなら、相当覚悟した方がいいですよ。一応、忠告はしましたからね」

「え?」

 

 疑問を投げかけ、俺もまた、気になってか未だに装備の吟味をしているカデットの方へと向いた。

 

 (相ー当とはどう言うことなのだろうか?)

 

 改めて言われると、緊張感が増してならない。そうした中、俺は問う。

 

「それは、ドドブランコとか出る可能性があるって事か?」

 

 すると、彼女はこちらを向いて話す。

 

「それも然りです。ですが、もっと肝心なことがあります」

「肝心なこと?」

 

 とケイン。小狼もまた、気になってか、カデットの方を向く。俺たち3人からの目線が集まる中、カデットは一息入れ、そして――

 

「ズバリッ! 天候です」

 

 と人差し指を立て、断言して見せた。そのことに、

 

 天候?

 

 首を傾げ、俺たちは顔を見合わせた。その様子に、わざと咳払いをしてみせるや、仕方ないような表情を見せる。

 

「雪山――。と言っても、この場合、そこから見えるフラヒヤ山脈の事ですが、まず天候変化が激しいです。具体的には、今まで晴れていたと思ったら、急に悪天候に。あるいは、地形を変えただけでも、目を疑うほど天候がガラリと変わります」

「っ!」

 

 うっかりしていた。それは知っていて当然であるはずなのに。と言うのも、命がかかっているとは言え、元々が所詮仮想世界(ゲーム)だけに、先程まで山の天候のことなんて意識していなかったのである。

 

 〝侮っていた”

 

 極端な話、そう捉えてもおかしくないくらいに……。

 肝心なことに気付かされた俺は、彼女の説明に耳を傾け続ける。続けるのだが、他方でケインが全然認知していなかった模様。

 

「そんなに変わり映えが早いのか? 山って」

 

 と、素人だけにそんな口が出てしまった。カデットは彼の無知に呆れたのだろうか。肩を竦めた。その様子に、俺は彼女の代役として窓際に歩み寄る。

 

「俺もうっかりしていたが、山の天候の変わり映えが激しいのは常識だぞ。ほら、こっち来てあの山を見ろよ」

 

 手招きをする。

 

「見ろよって……」

 

 言われた通りに来るや、俺が示した遠方の山々を見た。その方向、連なる山脈には、山頂から中腹にかけて、やや曇りがかっているように見える。

 

「あ〜、パッと見あまり、天気、良くなさそうだな……」

 

 理解したかどうかはさておき、見た感じの感想を述べるに留まった。

 

「その様子だと、あまり心配してないように見えるな。……ん? どうした?」

 

 裾を引っ張られる感触があったことに、そこに小狼がいたことに気付く。こちらに気付いた小狼は、メッセを載せる。

 

『僕もみたいです』

 

 小柄な身長だけに、どうやら俺とケインが邪魔になっていたみたいだ。

 

「すまないな」

 

 一言添え、一歩下がる。歩み寄ってからに、小狼は、フラヒヤ山脈の景色を食い入るように目を見張った。

 そうしたなか、後ろからカデットが、様子を伺うようにして声をかけてくる。

 

「どうです? 理屈、理解できましたか? まさか、この期に及んでホットドリンクさえあれば。なんて、思ってないでしょうね?」

 

 すると、ケインは馴染み無い言葉があったのか、頭上にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「ホットドリンク? 何か暖そうだけど」

「まぁ、つまりだ。端的に言ってそう言うこと。ようは、飲めば全身がポカポカに温まる効果がある飲み物だな」

「なるほどねぇ〜。……てかその手があったじゃないか! じゃあ、そのドリンクを持ち込めば、雪山なんて楽勝じゃん」

 

 まさに楽観的な思考。いや、それ以上に、聞いて呆れるアイデアであった。小狼と共に表情が引きつるなか、カデットは針で刺すような言葉を投げかける。

 

「あなた、バカですか?」

 

 途端、意外な反応に意表を突かれたのだろう。

 

「え? ち、違うの?」

 

 と動揺を露わに。挙句には、俺に助け舟を求めるかのようにこちらを向いた。半ば呆れていたこともあり、とりあえず現状を言っておこう。そう思い

 

「あのなケイン、よく考えてみろよ。そんな物で済むなら、今頃、こんな回りくどいことしてないって」

 

 と否定する。しかし、と言う俺も、実はホットドリンクあれば行けるんじゃね? とか、楽観視していた点はあった。だからなのだろう。口では否定的でも、気持ちの面では理解していた。

 

「だ、だけどよ。突破口、事前にあったじゃん。」

「それはそうだけどさ……」

 

 正直、言葉に詰まってしまう。どう話せばいいのやら、迷ってしまうのだ。――とそんな時だった。カデットからの言葉が俺たちの耳に飛び込んできたのである。断定の意味を込めて。

 

「それは無理です」

「え?」

 

 思わず彼女の方へ向く。

 

「例えホットドリンク頼みで行ったとして、持って5分、長くて10分がいいところです。もし、登山中にホットドリンクが切れたなら、寒さで瞬く間にスタミナケージが底をつき、挙句には、体を動かせないまま体力ケージを全部持っていかれるのがオチですよ。……そう、私達みたいに……」

「私達?」

 

 なんだろうか。最後の言葉は、妙に気になった。だが、そこで湿っぽい話をはぐらかすように、話題を変えてくる。

 

「まぁ、ともかく。そう言うことなんで。それと準備できましたよ、あなた方に貸す防具は。ちなみに、オトモの君たちも例外では無いですからね」

「え? ボク達もにゃ」

 

 思わぬ指摘に、ミルクとバターはビックリしたようだ。そんななか、三匹を代表して、ジャムが確認のために口を開く。

 

「あの〜、いいですかにゃ?」

「はい? なんでしょう?」

「実は、私達はこう見えても寒さ対策してきたのですがにゃ」

「と言うと?」

「訓練ですにゃ。教官アイルーの下で、寒さに耐えられる体作りをしてきたにゃ」

 

 すると、ミルクも同意見だったのだろう。堪え難い訓練を乗り越えてきた、と言う自信(プライド)の元に発言する。

 

「そうだにゃ。ボクも同意見なんだにゃ」

 

 しかし、カデットの反応は、至って冷ややかであった。

 

「へぇ〜、訓練ね……」

「ダメだかにゃ?」

「ダメですね。どんな訓練したのかは分かりませんが、どの道、防寒着とやらを装備しなければ、私達みたいなハンターと違って死にはしないものの、まともに活動できないですね。まぁ、強いて言うなら、この中では君が一番、まともな感じですが」

「え? 私がにゃ?」

 

 それを受け、多少は驚く。しかし、ダメ出しされたのは自分でなかったことを知ると、バターは何処、安堵したようであった。

 まぁ、俺目線であるが、明らかにバターは小狼の連れと言うこともあってか、彼と似たような防具を装備していたこともあり、カデットの言うことには理解できた。

 カデットは続けて話す。

 

「そう。それにその装備、見た感じからギアノスシリーズだと思うので。そして、私の記憶が正しければ、確かギアノスシリーズには、耐寒力アップのスキルが備わっているはずかと」

「詳しいんだな」

 

 知らないながらも、ケインは彼女の豆知識とやらに関心したようであった。けれど、カデットはその事には意を介さず、受け答えをするだけだった。

 

「当然です。これでも私は、一応、ハンターだったので」

「だった? だったとは?」

 

 (どう言う事なのだろうか?)

 

 自然と疑問が湧き上がる。けれど、肝心なことは話さないつもりなのだろう。何回か咳払いをした後、話を逸らしにかかる。

 

「と、ともかく。そんな事はどうでもいいんです。それよりも、用意ができたので、さっさと選んでください。それに……、嫌なんです。人から詮索されるのは」

「す、すまない……」

 

 (そ、そうだよな。人、それぞれに事情ってものがあるんだよな)

 

 仕方なしに、俺たちはカデットの方へと歩み寄った。

 

「来ましたね。では、早速ですが、これがあなた方に貸せる防具になります。一応、最初に断っておきますが、文句のくの字も言わないでくださいよ。約束ですからね」

「ああ、いいが。……あ、でも、準備するのに、だいぶ時間要したみたいだが……」

「そ、そんなの当たり前では無いですか。人に貸すんですよ。万が一キャンプ送りになどなられたら、装備そのものを失うんですから」

「……俺たちよりも、装備が一番なのね」

 

 いかに信頼されていないか。よく分かる発言に苦笑するしかなかった。

 

「分った。じゃあ、それはそれとして、早速、拝見、してもいいか?」

「いいですよ」

 

 その言葉を受け、品定めするかのような仕草を見せ始めたケインが、俺より先に

 

「それじゃあ、悪いが俺から先に……」

 

 勝手に最初に躍り出た。きっと、先に良い物を手にしたい。そんな魂胆なのだろう。そう見えた。……見えたのだが、期待を滲ませる彼の表情が、次第に疑いの目へと転じていくのを目の当たりに。挙句には、彼女の話を聞いていなかったのだろうか。借りる側のくせに不満をぶちまけ始めた。

 

「なんだこれは‼︎ どれもこれも、今まで買ってきたものばかりじゃないか! おいっ、ユウト! 見ろよ。貸してあげるとか言って、ロクなものがないぞ。ったくよー」

「たくよー、じゃないよ!」

 

 怒りを露わにするケインに、俺は立場を弁え、すかさずそう説得にかかる。そして――

 

「一体、何様だと思っているんだよ?」

「だってよー」

「だってよー、じゃないよ! それによく見ろよ。防具一つに取ったって、店で売られていた防具なんかよりも、少なからず強化されているじゃないか」

「そんなバカな――。って、あっ、そう言われて見れば……」

 

 そこで、ようやく気付いたらしい。再確認するように見入った。だが――

 

「だろう。分かったんなら、見入る前に一言、言うことあるんじゃないか?」

「言うことって?」

「ほら、彼女に言うことがさ」

 

 そう言われて、改めてケインはカデットの方を向いた。一方、彼女はと言うと、得体の知れないドス黒いオーラを立ち上らせつつにこやかな表情をしていた。

 その様子たるさ、恐るべき威圧(プレッシャー)が、直に伝わって来るくらいに。

 表面では穏やかそうに見えて、内心、怒りで煮えたぎっているのが、よく分かる光景だ。正直、怒りの矛先が俺じゃないのが、不幸中の幸いだとつくづく思うくらいに。

 そして、動揺しまくるケインに、知らぬ存ぜぬでカデットとケイン、両者を避けるようにして距離を離す俺がいた。

 

「ユウト……」

 

 助け舟を俺に乞う。当然だが、そんなこと知ったことではない。

 

「俺は関係ないね」

 

 続けて、最後の砦でもあるオトモにも

 

「ミルク……、ジャム……」

「し、知らないにゃ」

 

 まさに知らんぷり。そして、ジャムはと言うと、彼の相棒(パートナー)であるはずだが、さすがに巻き込まれたくはないのだろう。両手を頭の後ろに、口笛を吹いて無視する始末である。

 頼れる術を全て失ったケインに、俺は声を掛ける。

 

「ほら、彼女が待っているぞ」

 

 その言葉。衝撃が大きかったのだろう。恐る恐るカデットの方へと振り向く。

 

「か、カデット様……」

 

 彼女は表情を変えずして、冷徹な言葉を投げかける。

 

「いいんですよ。無理に借りなくても」

 

 その言葉を皮切りに、もはや言葉を失う。一方、その後の展開に恐れを抱いた俺は、この硬直状態を活かして真っ先にカデットの方へ。続けて、ミルクやジャムも俺の後に続く。

 歩み寄ってからに、彼女は無言でささっと操作して防具とやらを提示。この殺伐とした空気の下、吟味する余裕なんて無かった。だからであろう。ふと小狼の方を見たら、いつの間にか、バターと共にいなくなっていた。

 俺、ミルク、ジャム。それぞれ防具を受け取ったあと、向かう先は玄関。急いでその場から退散した。当然、ケインだけは残してだが。

 そして、俺たちがいなくなってから暫くして、案の定と言ったところか。村長の家からケインの必死の。それも往生際の悪い、図々しくも甚だしい弁解が聞こえてきた。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。ご、誤解なんだ。お、俺はただ単に――」

「問答無用!!」

 

 直後、

 

「う、うわ――!!」

 

 ババババババ――ン!!

 

 怒濤の勢いで射出された弾丸音が、中から悲鳴と共に響き渡る。それはまさに、戦場の形相を彷彿せんとするかのように、激しく、激しく、より激しく、荒れ狂っていた。

 

「し、死ぬ! 死ぬってば!!」

「命乞いなど無用!」

 

 そして、

 

「お、おいっ、それはなんだ? やけにでかい大タルじゃないか? ――っ! まさか」

「これは大タル爆弾です」

「ま、待て。そ、そんなの、起爆されたら――」

「黙れ! とっとと死になさい! このロクでなしが――!!」

「ぎゃ――!!」

 

 ドカ――ン!!

 

 凄まじい爆音がし、同時に、村長の窓から炎が吹き上がった。まさに、

 

 〝別な意味でキャンプ送りになりました〞

 

 そうメッセージが流れてきてもおかしいくらい、カデットの怒りの爆発が鮮明になった瞬間でもあった。

 

 そして、暫くして……

 

 ギー……

 

 黒煙と共に玄関の扉がゆっくりと開き、中から真っ黒けになったケインが。地獄からの奇跡の生還とも言える状態での、ボロボロ姿のケインが現れたのである。よろめきつつ、弱々しい声で助けを乞う。

 

「ゆ、ユウト……」

 

 さすがの俺でも同情しざるを得ないありよう。苦笑しつつも、一声だけだが気遣ってやる。

 

「散々だったな。大丈夫かよ」

「これが、大丈夫に、……見えるか、よ」

 

 そう言い残すや

 

 バタンッ!

 

 その場で力尽きて倒れてしまった。後から出てくるは、ライトボウガンを肩に引っ提げているカデット。先ほどのドス黒いオーラはすっかりと収まっていたが、それでも両手を腰に当て、苛立ちを露わにしていた。

 

 

 

 

 マフマフシリーズ。まるでガウンを着たような暖かさ、そして、着心地よさを肌で感じながら、鏡の前に立つ。

 ポッケ村産限定であり、初期装備扱いでもあるこの防具では、初期の耐久値は心許ないにしろ、耐寒スキルが備わっているだけに、シリーズ一式を装備している今では全然寒くなかった。

 ステータス画面を開くや、防御力を確認。そこで、合計値が60に達している事から、店で出されていたマフマフシリーズの防具よりかは、耐久強化がきちんと施されていることが伺える。

 

「んー、悪くない」

 

 そう呟く俺は、第一印象としては全く悪くなかった。鏡の前に立つ俺に、新調具合を尋ねてくる。

 

「どうです?」

「え? いや〜、全然問題ないよ。暖かさで言ったら、さっきよりも断然こっちがいいくらいだ。それに……、なんで言うか。防御値、かなり上げているみたいだな」

 

 鏡越しであるが、俺の感想を聴いてか、カデットの表情がややにこやかになったような気がした。

 

「それはよかったです。なにせ、鎧玉、ふんだんに使いましたからね」

 

(どうりでな)

 

 予想通りと見た。

 

 そう、鎧玉……。

 

 防具強化には欠かせない強化アイテムのこと。確か店頭では販売してなかったはず。故に素材採取ツアーか何かのクエストで持って入手してきたとは思うが、マフマフシリーズに関しては、単体での初期防御値は2くらい。そのことから計算するに、最低でも20個以上は稼いだと思われる。

 普通、初期装備だけに、そこまで鎧玉を投資することはまずない。それなのに、そこまで投資からの強化を図るとなると、防具に対する拘りでもあるのだろうかと勘繰ってしまう。

 だからなのだろう。聴いて思ったことを、言ってみた。

 

「愛着でもあるのか?」

 

 すると、カデットは否定的な返答をした。

 

「いいえ、たまたまです。たまたま耐寒スキルが備わっている装備が限られていたもので」

「ふ〜ん……」

 

 素っ気なく返した。けれど、口には出さないまでも、それは多分、嘘のような気もした。なにせ、オトモ二匹にも俺と同様の装備を。ケインに関しては、小狼と同じギアノスシリーズを貸していたからだ。

 けど、カデットがどう言おうと関係ない。理由はどうであれ、寒さ対策がままならなかった俺たちに貸してくれたのだ。ほんと、感謝に尽きる。

 

「でも、まぁ、ありがとな。貸してくれて」

「礼を言われる筋合いは……」

 

 述べつつ畏ってしまう。そうしたなか

 

「おーい。さっきから言いたかったけど、なんで俺だけ総防御値が15しかないんだよ。ジャムなんか、俺よりも倍あるしさ」

 

 (15って……)

 

 これから向かう雪山にはどんな強敵が待ち受けているか分からないのに、15とはあまりにも貧弱だろうと思った。

 流石に不安になって彼女に具申を求めるように促す。

 

「カデット……」

 

 しかし、それは無意味な様子。ふんっ! とか言ってそっぽ向いた挙句、

 

「あの防具の価値も分からないロクでなしなんかには、これくらいが十分なんです」

 

 とか言って跳ね除けられてしまった。

 

 (ケインの奴、まさに自業自得だな)

 

 半ば苦笑するしかなかった。――とそうしたなか、諸事情で外出していた村長が帰ってくる。

 

「戻ったぞ〜」

 

 その声を聞くや、カデットは早々に玄関先へと向かい出迎える。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「うむ。……と言いたいところじゃが、本当のことを言うと、ワシはお主のご主人様でもなんでもないんじゃがのう」

「いいんです。私が勝手にそう呼んでいるだけなので」

「そうかのう……」

 

 戸惑いからなのか、村長は頭を掻いた。

 

「で、ところでじゃが、お主達は装備新調の方、どんな感じかのう?」

「俺は大丈夫です。寧ろ、貸してくれるだけでもありがたく思ってます」

「そうかそうか」

 

 続けてミルクやジャムも、俺と同様、話すことは違えど、互いに謝意を述べるに至った。にこやかな表情をする村長。そこへケインが、全然問題大有りだよ。そう言わんばかり、不満を漏らす。

 

「聴いてくれよ、村長! カデットの奴、酷いんだぜ。他はよくても、俺だけ(けな)す感じで貧弱装備に――」

 

 ギロリッ!

 

「うっ」

 

 まさに、その瞬間であった。ケインが皆まで言う前に、カデットから凄まじ殺意が彼に向けられたのを垣間見たのである。

 あまりにも強い殺意が向けられたことに、流石のケインも威圧に負けて縮こまってしまい

 

「や、やっぱり。なんでもないです、はい……」

 

 否応なくOKサインを出してしまった。一方、村長はと言うと、そのことには気付かなかったらしい。

 

「そうかそうか、どうやら順調のようじゃのう」

 

 とウンウン頷いた。他方、カデットはと言うと、早速、村長から重要な話を持ち出すべく

 

「ご主人様、あの事を」

 

 と一声。すると、言うべきことを思い出したらしく、肝となることを村長は切り出した。

 

「あ、そうじゃった、そうじゃった。で、本題なんじゃが、お前さん方が捜索する猟団なんじゃがな。話によると、その猟団は調査がてら、(フラヒヤ山の)山頂へと向かったと聞いたのう」

「山頂?」

 

 とケイン。続けて村長は、窓際に寄るや連なる山脈を眺めて言う。

 

「そうじゃ。フラヒヤ山脈の奥地に辺り、尚且つ一番高い山のことじゃな。ハンター達の間では、山頂も含め、その辺一帯の稜線は、別名、フロストエッジ、と呼んでいるがのう」

「フロストエッジ?」

 

 馴染みのない言葉に、ケインは首を傾げた。

 

「まぁ、〝氷結の刃“と言う意味じゃて」

「刃、ねぇ……。なんか、言葉の印象から一枚岩のイメージがあるんだけども」

 

 すると村長は、振り向いて指摘する。

 

「まさにその通りじゃて。しかも、これはギルドからの報告によるものじゃが、山頂はその稜線(フロストエッジ)からちょこんと突き出た小山であるとか。しかも、山頂の小山は、まさに氷塊でできているとか言う話じゃ」

「氷塊って……」

「実際、どんな風になっているかは分からんじゃが、多分、言葉通りかものう」

「え? ってことは……」

 

 とそこで、嫌な想像をして

 

「げげ、かなりヤバいじゃん、その場所。いわゆる、すべすべの山頂じゃねぇかよ」

 

 と青ざめた。

 

「まぁ、結論を述べると、そうなるのかのう」

「マジかよ。……ったく、ただの調査だけに、よくそんなとこまで行こうとするよな、その猟団は」

 

 危険すぎる箇所だけに、ケインは呆れてしまう。そんな彼に村長も同感だったらしい。一言

 

「全くじゃ……」

 

 そう言い残すや、再び背を向け山脈を眺めた。眺めを慈しむ村長の曲がった小さな背中。それは何かを思い馳せるような様でもあったが、それとは別に、長年の苦労が積み重なったが故に、狼狽しきっているようにも見えた。

 そんな苦労人の村長を見ながら、俺は疑問に思う。

 

「でも、それとは別に思うんだけど。なんでわざわざ人がほぼ立ち入らないような奥地へ、調査しに出向くんだ?」

 

 しかし、村長は

 

「そこまでは分からない。だが、彼女曰く、調査するからには、念入りにしたい事だけは言っておったのう」

「そうか……」

 

 詳しいことまでは聞き出せなかったものの、俺たちが捜索範囲を定める上で、メドがついたような気がした。

 ――とそこで、誰かに掴まれるような感覚を覚え、そちらを向く。

 

「ん? どうした?」

 

 小狼が何か言いたそうにしているのを見る。それもあってか、彼の隣では自分の想いがこもった言葉が綴られていた。

 

「分かった、分かったよ。そう急かすなって」

 

 するとケインが

 

「どうしたんだ? 彼」

「早く助けに行きたいってさ」

 

 気持ちはよーく分かった。それだけに、山の天候から景色だけで判断。恐らく1日では山頂まで捜索できないだろう。そのこともあって、情報提供を求める。

 

「道中って、何処休める場所とかありそうか?」

「ありますけど……。もしかして、今から行くつもりですか?」

「捜索するなら、早い方がいいと思ってな」

 

 行方不明の猟団の安否を考えた時、この場合、早めの行動が一番だと俺は考えていた。カデットも同意見だったのだろうか

 

「なるほどですね」

 

 と頷いた。行けそうな雰囲気。そのこともあってか、改めて確認してみる。

 

「行けそうか?」

 

 だがしかし、そこで思わぬ返答が返って来ることに。

 

「ダメですね」

「え?」

 

 同時に、ケインや小狼も驚きの反応を示す。特に小狼なんかは、その否定的な理由を聞くべく文面で。しかも感情の籠もった文面で問い詰めた。

 だが――

 

「初めに言いましたが、山の天候変化は激しいんです。今から行って、第一キレットにある設営地まで行くなんて無謀なこと。まさに自殺行為です。……まぁ、死にたいなら、止めやしませんが」

 

 最後の言葉は余計だったが、しかし、それ以上に気になる事が。

 

「そのキレットにある設営地まで、どのくらいで行けるんだ?」

「ざっと計算して、5時間ほどですね。ですが、今からだと、そこに辿り着く前に、恐らく悪天候に見舞われるかと」

「じゃあ、だめか……」

 

 とケイン。肩をすくめる。けど、その代わりにと、カデットはある事を提案する。

 

「悪天候に見舞われる時間帯は、大体平均して、朝10時から夕方まで。なので、早朝に出れば間に合うかと、設営地までには」

「なるほど、なるほど。つまり、早いことに越したことはないわけだな」

 

 内容を理解したのか、ケインはそこで結論付けた。一方、俺はと言うと、彼女がそこまで持論を述べれることから、半ば関心してしまう。

 

「なんか、山に関して詳しいんだな」

「べ、別に私は。そんなんじゃ……」

 

 それ以上、内情は言わなさそうであった。

 

「で、どうするんです?」

「どうする、って言ったって……」

 

 もう答えは決まったようなものであった。今日は明日の準備に時間を割くようにし、明日の早朝、本格的な捜索をすることに決まったから。

 ちなみに、この後、改めて小狼の決意とやらを確認してみたが、彼の決心は揺るぎなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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