モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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1章:悪夢の祭典・5話

 一途の不安だけを残し、スケジュール表を前にしてケインと今後の予定について話し合う。俺としては、BT結果発表さえ出れば、それだけで充分であった。ただ、それまでの間――つまり、それまでの余っている時間はどうするかは全くと言って決めていなかったので、その辺りどうするのか話し合うこととなった。とは言え、特にイベントには興味があまりないわけであり、ここはケインが率先して決めていく方針となった。

 

「ざっくばらんと見たけど、どれもこれも特別クエストの類が全体を占めているな」

「まあ、祭典だしな。でも、よくよく見ると、短時間で終わるのばっかだぜ。きっと、体験的な意味合いが込められているんだと思うよ」

「ふ~ん」

 

と、興味なさそうに鼻で返事をする。

 しばらくどれがいいのか吟味し、うーんと唸りだす。どうやら、どれから手をつけていいのか迷っているみたいだ。無理もない。短時間で、なおかつ体験的な意味合いが込められた特別クエストとはいえ、その難易度は初心者から超上級者まであるから、始めたばかりの人ににとっては選びにくいのだ。せめてコース別に区切ってくれればいいのに。そうさえ思ってしまう。仕方ないので、ここは一つ、適当なクエストをお勧めしてやる。

 

「これとかはどうだ。釣りイベントだから怖い目に遭わなくても済むだろうし」

 

 そう言って、俺は釣りクエスト『黄金に輝く魚を捕獲せよ!』を指さす。メインターゲットの欄を見て、ケインは

 

「黄金魚ね……。なーんかめんどくさそうだな」

「そうか。メインの黄金魚獲得だけを見れば確かに忍耐力入るだろうけど、ほらっ」

 

 とサブターゲットの欄を指さして

 

「サブだけは簡単じゃないかな。サシミウオ5匹獲得とか。サシミウオとかすぐに釣れるだろうし」と誘ってみる。

 

 しかしケインは、俺の提示にあまり頓着せず、またもや考え込んでしまった。どうやら、釣りイベントには興味なかったみたいだ。少し残念に思う。そうしたなか、ケインは画面を切り替えた。簡単表示から報酬やら景品や羅の欄に切り替わり、またもや吟味し出す。――とそこで、ケインは何かに食い入るようにして目を止める。

 

「優勝賞品は、プーギーか……」

 

 それだけ呟くと、どこを見ているのかせわしなくその瞳を動かす。興味をそそられるのでもあったのだろうか。俺は黙って見守る。すると、ケインはやっと口を開いた。

 

「なんだか興味をそそられる内容だな。それにプーギーっていうのも気になるし」

 

 そこで俺はプーギーについて、身振り手振りを交えて解説を入れた。

 

「プーギーというのは、アイルー、メラルーといったマスコットキャラと同じく、ま、ミニブタみたいなキャラだな」

「ふーん、ミニブタか。なんだか可愛いじゃないか」

「自分で言うのもなんだか、確かにかわいいキャラだな」

「へぇ~」

 

 そのあと、しばし考え込むように腕を組み黙すると、

 

「よしっ、決めた。そのクエストに参加してみようぜ」

 

  と決心をした。一方、俺はそのクエストを確認してみる。

 クエスト名は、

【クエスト】 焼き肉早焼き大会

【クリア条件】 こんがり肉:15個納品

        生焼け肉:15個納品

        肉焼きセットの組み立て

 

 と、ちと頭を使う部分はあるにしろ、至って簡単な内容だった。

 

「何にするんか決めたところで、早速行ってみるか」

「そうだな」

 

 俺たちは意義投合し、早速立ちあがった。

 それからというもの、開幕式を後にした俺たちは、まっすぐ目的地へと向かって商店街を突きっていく。その間、魅了されそうになる店店を見て回ったりもしたし、商店街ゆえに行き交プレイヤー(中にはNPCもいたが)たちにもぶつかりそうにもなったりもした。さらには商店街ゆえにどれもこれも誘惑されそうになる店店もあった。

 とにかく、一番大変だったのは、ケイン自身だったというのは確かだ。なんといっても彼。酒に酔ってはいないとは言え、ナンパ癖があるからだ。女性プレイヤーをみかけるや目的を忘れてナンパしようとするもんだから、いちいち止めるのに精神的に疲れてしまったのである。

 ゛やれやれ〞まったくもって世話を焼く奴だよ。と、額に手を当てた。とまあ、そんな苦労もあったりしたが、俺たちはやっとのことで目的の場所に着いたわけである。

 

「どうやらあそこに並べばいいみたいだな。……て、げぇ~」

 

 そう顔をひきつらせる俺。そう言う目の前には、受付嬢からクエスト受注せんとばかりに並びまくる長蛇の列があったからだ。広場の中央にある噴水をぐるりと巻くくらいに長い長蛇の列は、多分にして30分は待つであろう長さ。

 この長さを見る限り、ケインも俺と同じ感想だったのだろう。

 

「うう、これはひでぇ~な」

 

 希望のクエストとはいえ、この列の長さの前には、萎え萎えの様子であった。そんなわけで、俺は別の案を言おうと口を開く。

 

「多分、開幕式前から並んでいた連中だろうな。やっぱ他の所にしないか」

 

 しかしケインは、引き下がらなかった。

 

「いいや。ここにしようユウト。それに俺、景品のプーギーが欲しいしさ」

「景品ねぇ……」

 

 確かにプーギーはかわいいけどさ。これじゃあ、待っている分だけ無駄に時間過ぎちゃうよな。なんて、噴水を見つめながら思いを馳せる。

 

「ま、いいじゃねえか。せっかくの祭典なんだし」

 

 ポンと背中を軽く叩いて、活気づかせてくる。一方、腑に落ちないながらでも、

 

「まあ、それはそうだけどな」

 

とだけ答えておく。

 

「それに、ユウトだって何か景品くらい欲しいだろう?」

 

 そう言われてもなあ。正直、景品と呼べるものは、もうとっくに称号として獲得しているから、どうでもよかった。俺はさりげなく横目になる。

 

「いや、俺は別に……」

 

 そう答える俺に、ケインは不思議そうに顔をのぞかせてくる。

 

「ふーん、珍しいんだな。あんなに好きだったのに」

「確かに好きだけどさ。このクエストに限っては欲しいものが……」

 

 ちょうど目の前にプーギーを連れたプレイヤーが通り過ぎていくのを見かけ、そこで思わず言葉を途切れさせてしまう。一方、ケインは俺の様子を気にかけてか

 

「ん? どうした」

「あ、いや、なんというか……」

 

 そう言う目線には、あのプーギーがいた。まんまるくふっくらとした体に、つぶらな瞳。なんだか美味しく見えてしまうようなその様は、うちにも一匹、欲しくてたまらない感慨を湧き起こせてやまなかった。それもあってか、気が変わった俺は

 

「やっぱり、俺もプーギー欲しいかも」

 

と思わず答えてしまう。

 ケインはその返事を受けてか、上機嫌になり

 

「だろう。やっぱ可愛いよな」

 

 俺の手を掴んで、

 

「じゃあ、並ぼうぜ」

 

 と誘いだす。

 俺は気の向くままに、ケインと共に最後尾へと歩いていく。

 ザクザクザク、と砂を踏みしめる音。そうしたなか、変わった噴水を見つめる。というのも、その噴水の上部には変わった石像があったからに他ならないからであった。

 

 そう……

 

 アイテムにもあるが、あの焼き肉セットが石像となって鎮座していたのだ。それもあってか、俺は変わった石像だなあとぼんやり見つめていたわけであった。――とまあ、最高列にきた俺たちは、そこで列が動き出すのを待つことになった。

 そうしたなか、それぞれ周りをきょろきょろと見回す。

 

「にしても、大勢いるなあ」

「そりゃあ、祭典だからな。そうなるだろうよ」

「やっぱり人気なんだな。モンハン」

「ま、そうかもな。でも、俺にしては、人気ありすぎて逆に怖いけどな」

「どうしてだ?」

 

 不思議そうな表情を見せるケインに、俺は考えていることを述べた。

 

「だって考えても見ろよ。そもそも初代モンハンが発売したのがいつなのかを」

「んーと、確か……」

 

 上の空で考え込むケイン。俺は即答してやる。

 

「2004年だ」

「ということは……げっ、100年も経っているじゃん」

「そう、100年もね。いくらなんでもおかしいとは思わねぇか? ふつう、大概のシリーズものなら多くて、10年、長くても15年くらいだぜ」

「……確かに。あまり気にも留めていなかったけど、確かにそうだな」

「だろう? 確かにモンハンは大好きだが、こればかりは……ねぇ」

「でも、まあ。そんなことどうでもいいじゃん。楽しけりゃあそれでいいんだし」

「そう言われると、そこまでなんだけどね」

「いいじゃん、いいじゃん。そんな疑念なんか浮かべるよりも、今この瞬間を楽しもうぜ」

 

 愉快そうなケイン。俺の疑念なんか、どこ吹く風のごとしにどうでもよかったみたいだ。ところが、このあと、ケインはロクな事をしでかしてしまった。というのも、

 

「それにそこにいる豚さんも、そうだと言ってくれるだろうし。ねぇ、豚さん」

 

 そう、フレンドリーな彼のこと。勢いのまま、後ろでたまたま並んでいたプレイヤーに声かけしちゃったのである。それもいきなり外見だけで判断して豚呼ばわりで。それゆえに、俺はケインが向いた方へと顔を向けひきつった。

 

「豚さん、って……」

 

 見るからに怖そうな。それでいて、ところどころ苔が生えており防具自体が柔らかそうな感触を醸し出す豚……いや、プレイヤーがそこにいた。実際にはモス・ブレスト、モス・パンチ、モス・ヒップといった全身モスシリーズで固めた巨漢のプレイヤーがそこにいたのである。ゆえに、俺から見てみても、どうもこうにもケインの言った通り、一言で言って゛豚〝。――いや、性格には豚人間にしか見えなかった。

 それはともかくとして、その巨漢は、表情はフェイクによって見えないながらでも、明らかに怒っていそうだった。それもそのはずで、額に怒りマークを表示せんとばかりに全身をわななかせていたからだ。

 

「おいっ、誰が豚だってぇ~?」

 

 怒りを堪えてそうなドスの利いた声音。さすがにこれはまずいと悟った。俺はいつでも逃げられるよう一歩後ずさる。しかしケインは、そんなことなんてお構いないしに捲し立て続ける。

 

「おいおい、そんなんで怒んなよ」

 

と気やすく彼の肩をポンと叩く。

 それはまるで、親しい友人に接するかのような様。彼が怒り心頭状態なんてどこ吹く風のごとく関係ないものであった。当然、豚人間風のプレイヤーは端っから友人でも何でもないわけであり、火に油を注がんとするかのような勢いでポンと叩く手を勢いよく振り払うと、

 

「てめぇ~。こっちの気も知れず、言いたい放題言いやがってぇ~」

 と怒鳴ってきた。

 一方、ケインの方は、状況が理解できていないのか、困惑した表情を浮かべる。

 

「おいおい、いきなり何なんだよ。 俺はただ、友好的に接しただけじゃん」

 

 まさにKY(空気読めない)発言だった。どうみても、冷やかしているとしか思えないケインの発言なのに、ここでそう言うのかとこっちが見ていて冷や冷やする。ケインと巨漢プレイヤーのやり取りを肝を冷やしながら見、そして、少しずつ2人から距離をとっていく中、巨漢は怒涛の勢いでケインの胸ぐらを掴む。

 

「な~にが、友好的だボケッ!! それに、俺様は豚じゃねえ。J.Oだ。よーく覚えておけ!!」

 

 そう言って文句を吐き捨て放してやる。さすがにこれはまずいことをしたなあと思ったのか、ケインは罰が悪そうにぺこりとあやまる。

 

「わ、わるかったよ。それは……」

「ったく、初対面でとんでもねえプレイヤーがいたもんだぜ」

 

 その台詞から読み取るに、そう言うあんたも、まともじゃないと思うけどな(短気すぎると言う意味で)。なーんて苦笑いしつつ心の中で独白して見せる。

 

 

 

 

 ようやく場が収まったところで、J.Oは改めて話しかけてくる。

 

「ところでよ。あんたらはもしかして、今回のを狙っている口なのか?」

 

 今回のをというのは、恐らくクエスト〝肉焼き早焼き大会″の優勝のことを指しているんだろ。俺はそう察し、俺らの目的もそれだということを告げる。

 一方、ケインは、

 

「当然だ!」

 

と自信満々に意地を見せる。俺はその様子に、おいおい大丈夫なのかよと、横から一言添えてやる。正直、心配になってきたし、同時に嫌な予感も込み上げてきたからだ。だが、そんな心配をよそに、J.Oはケインの挑発に、ほほおう、と面白げに返すと腕を組む。

 

「その様子から察するに、この俺様に勝つ自信は十分にありそうだな」

「勝機はあるさ。だってこっちには、こいつがいるからさ」

 

 と、俺と肩を並べて言い出す。

 案の定の結果にだろうなあと苦笑いし

 

「そいつは買い被りすぎだろう、ケイン」

 

  と小声で告げる。しかしケインは

 

「買い被りすぎも何も、お前には十分すぎるほどの腕があるじゃんかよ。それに列記としたトライアル――」

 

 そこで俺は、

 

「あー!!」

 

 と叫び、すかさずケインの口を封じるかごとく彼の口元を押さえた。ここから先の事柄は知られてはまずい。そう思ってのとっさの判断だった。

 

「トライアル?」

 

 首をややかしげるJ.O。振りほどこうと腕の中で暴れるケインを抑えつつ、俺は顔の前で手を振る。

 

「い、いや何でもないんだ」

「ふーん」

 

 やや気にはなったのか、鼻で返事をして見せるJ.O。しかし、これ以上は何も言ってこなかった。その様子からに、多分、俺がトライアルマスターであるということ。そのことは知られていないみたいだった。

 

 そう、トライアルマスター。

 

 それはBT(ベータテスター)期間中に獲得したレアな称号。期間中に開催される

クエスト「狩人と地の女王の群奏活劇(アンサンブル)」をクリアした者にだけに授けられる称号名のことであり、その難易度はBT期間中でたった2人しかクリアできなかったと言われるくらい至極難度が高いクエストなのだ。

 それもあってか、もし、この称号を獲得したことがばれれば、たちまち有名になりかねないのも事実。ゆえに、人気者になんか端っからなりたくもなかった俺からしてみれば、知られないにこしたことはなかったのである。

 そんなわけで、俺はドキドキしながら、J.Oが言葉を発する時を待った。

 

「ま、いいさ。とにかく、コイツがその切り札ということだけは頭に入れておくよ。だがな」

 

 そこで何を思ったのか、念を押してくる。

 

「俺だって負けるわけにはいかないんでな。そこんとこ首を洗って待っていろよなヒョロッコ」 

 

 そう言って俺たちを見下すと、親指を立てて首の横を薙いだ。一方、それを受けてか、ケインは望むところだと言わんばかりに

 

「へへぇ~ん、望むところだ豚頭!」

 

 と高慢な態度をとってみせる。

 その根拠は、トライアルマスターである俺がいるからに他ならず。俺がいなかったら、ただの口先ばっかしの能なし狩人(プレイヤー)だった。しかも、先のJ.Oへの謝罪のことなんてすっかりと忘れて逆に開き直っている始末。まったく調子いい奴だなあと思った。

 一方、J.Oは豚頭と呼ばれて、すぐに

 

「なにをっ!!」

 

 とカーッとなったが、すぐに表面上だけの冷静さを装い、半ギレの状態でこう返す。

 

「い、いや、いいだろう。お前がそう呼ぶのなら。だが、これだけは覚えとけ。もしクエスト中に出くわしたら、全力で貴様らを邪魔をしてやるからな」

「望むところだ。できるのならやってみろってんだ」

 

 互いの視線がぶつかりあい火花を散らしまくる。その様を第三者の観点から見ていた俺からすれば、まったく付き合ってられなかった。そして今回の一件では、まさに俺も巻き込まれているのであって、ほんと、先が思いやられる始末であった。俺はため息をこぼし、順番が来るのをただただ待つのだった。

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