洞窟の外に向かってけたたましい咆哮が響き渡り、ほぼ同時に洞窟外へと俺たちは出た。直後、禍々しい紫状のガスの塊が一気に吹き出しては、俺たちを飲み込まんと襲って来る。危機感を抱いた俺は、真っ先に叫ぶ。
「飛べ! ガスが来るぞ!!」
「え! う、うわー!」
後を見たケインが、迫る来る毒ガスの脅威を目の当たりにして俺と反対側へと飛び退く。一方、小狼と相方のバター。それにミルクは、俺たちの側へと逃げ込んだ。しかし、反応に遅れたジャムは、毒ガスの餌食に。
「ふぎゃー!」
「ジャム‼︎」
叫ぶケイン。対して猛毒をモロに食らったジャムは、吹き飛ばされてしまった。地を転げ回った後、そのまま崖際まで追いやられてしまう。
相方のピンチにすかさず
「今、助けに行くぞ!」
猛毒の渦中へ飛び込むかのように、慌てて駆け寄ろうとする。だが、
「やめろ!! ケイン」
「な、なんで?」
当然ながら、疑問を膨らます。しかしその直後、毒ガスで充満した洞窟内からギギネブラの姿が。しかも猛烈な勢いで、俺達とケインの間に割って入ってきた。
「う、うわ!」
思わず尻込みするケイン。山頂への逃げ道は俺たち側にある中、崖側に立たされていたのは、ケインの方と言う事態に陥ってしまった。背水の陣に立たされたケインに、ギギネブラの敵視が彼へと向く。
(このままでは、ケインが)
注意をなんとかして逸らそうと、ギギネブラへと食らいつこうと果敢に挑む。だが、奴の尾の先端が地に張り付くや、
ズズズズズ……
ギィギの卵塊と似たような塊が出現。しかしその色合いは禍々しく紫がかっており、直感的に毒塊だと認識。ちっ、と舌打ちした後、その場で急停止をし、咄嗟に盾を構えた。
直後――
ボンッ!
間を置かずして毒塊は爆散。飛沫が盾にぶち当たっては、ジュ〜、と溶かすような効果音を鳴らし、肝を冷やす。まさに間一髪と言ったところ。食らえば解毒剤では効き目のない猛毒状態になりかねなかった。とは言え、事態はそれだけではなく。口元に手を宛がい
(くっ、これでは……)
苦渋する俺の前方。そこには塊の爆散の影響か、毒々しい紫雲が立ち込めていた。
(これではケインを助けにはいけない。なんとかしなければ。だが、どうやって……)
思案を巡らすが、事態はその余地を与えてはくれない。そんな中、霧の向こうからケインの必死の叫び声が聞こえてくる。
「ケイン!」
しかし、よくよく耳を澄ましてみると、どうやら自分自身のことを指しているわけではなかった。と言うのも……
「よ、よせ! よせよせ、ジャム!」
(ジャム?)
「ケイン?」
紫雲の靄に阻まれ、ギギネブラの向こうが確認できない。確認しようにもどうしようもない中、
「これでも食らえにゃ!!」
とジャムの叫び声が。
(これでもって。……まさか!)
嫌な予感が脳裏を過ぎり、俺は思わず
「よせ! ジャ――」
直後、
ボカ――ン!!!
俺の声を遮る形で、爆炎と共に爆音が轟いた。俺は思わず叫ぶ。
「ジャム――!! ケイ――ン!!」
毒々しい靄が爆炎でかき消され、爆発によりダウン状態となったギギネブラの姿が目に映る。その向こう、ケインの姿が。事情は察するに越したことはなかった。
そう……
ジャムはケインを助けるために、自ら大タル爆弾を掲げてギギネブラを道ずれにしようとしたのだ。失敗か成功か。その結果はどうでも良く。ジャムの安否が気持ち的に先走ろうとした。しかし、今はとにかくケインを。彼だけでもと、途方に暮れるケインに向かって呼びかける。
「ケイン!! 早くこっちに来い! ケイン!」
しかし、彼の心には響かず。俺は舌打ちをして、小狼達が見守る中、導き出された活路へと突っ走る。そして――彼の手を力強く掴んだ。
「何してんだ! ほらっ、行くぞ」
「だってジャムが……」
「ジャムが……じゃないよ。ほらっ! 行くぞ」
グイッ
もはや強引だった。彼の気持ちに同情している暇はない。心傷に耽るケインを無理強い走らせ、必死に小狼達の側へと走る。
しかし、ダウン状態だったはずのギギネブラを素通りした刹那、俺とケインの存在を改めて察知したのか。黒煙の中からヌッと払い除けて現れるや、再び襲いかかって来た。
「っ! うわ――!!」
さすがのケインも、これには度肝を抜かれたらしい。死に目だった瞳が、表情が、我に返った途端、瞬く間に恐怖に彩られた。俺の手を振りほどくや、全速力で駆け出す。一方、俺もただただ襲われるだけではなかった。
ちっ
バクンッ!! バクンッ!!
繰り出される噛みつき攻撃を間一髪で避けた俺は、慌てて逃げおおせるケインを尻目に、間合を取りつつギギネブラと対峙する。目を離さないまま、俺は叫んだ。
「こいつは俺が引き受ける。だから今のうちに――」
直後、毒弾が。放物線を描いて飛んできた毒弾が、俺にめがけて飛んできたのである。
くっ
ガキンッ!
じゅ~
見事に盾で防いだものの、そこから充満する毒煙は吸うわけにはいかず。後退しざるを得なくなった。とは言え、一撃一撃のどれを取っても食らうわけにはいかない。ましてや、毒状態になんか……。
今の装備では、間違いなく食らえば
(まともに相手にするわけには……)
ケイン達が必死で逃げていることを祈りつつ、俺は奴の隙を窺い、あわよくば逃げる算段を見いだそうと模索する。
けど、敵に背を向けた瞬間、どのタイミングで何が飛んでくるのか分らない。そのことだけに、現状、恐怖心が勝ってしまい、逃げようにも逃げられそうになかった。
目が離せず身構えたまま硬直してしまう俺。一瞬たりとも油断できない中、俺の後方から矢状の何かが飛んでくる。
直後、
パン! パン! パパン!!
ギャウウウゥゥゥ……
命中からの爆裂により、再びギギネブラが驚きの声を上げる。
(何が起きたんだ?)
事の展開に戸惑う。その時、バターの声が
「ユウトさん、今のうちだにゃ」
はっ
そこで我に返る。返るや、全身を襲う爆裂に身もだえするギギネブラの隙を突き、俺は全速力で背を向けダッシュ。目指すべき山頂方面へと、ケイン達と共に戦線離脱を図ろうとする。
そして――
タッタッタッタッタッ……
岩肌を軽快に踏みしめ、曲がり角へと行き当たり、そのまま洞窟内へと逃げ込む。――のだが、いざ改めて考えれば、俺たち、袋のネズミになろうとしているような。そのような予感が今更のように沸いてきた。
何故だろか? そのような疑問は、この状況では思う暇もなく。一心不乱で洞窟内へと逃げ込んだ。
「逃げ切ったかにゃ?」
ミルクが不安そうに呟く。
「どうだろう? けど、奴の視界からは居なくなったはずだけどな。流石に」
とケイン。
「視界と言うか。奴の場合、少し意味が違うんだけどな」
「違うって、どう言う――」
「その説明は後、どうやら簡単には逃してはくれなさそうだぜ」
「え?」
彼の疑問を遮る俺の眼前。そこには、巻いたはずのギギネブラがいた。しかも、忍び寄るように天井辺りに張り付いたまま向かってきたのである。
灰褐色の体表に、頭部にて二筋走る紫の模様。予備知識だけはあったが、改めて見るとフルフルに似たようで似てないような奇怪な飛竜であった。
「どこだよ、どこ?」
辺りを目くばせして、見つけ出そうと躍起になる。対しては、ミルクは俺と同じく見つけていたのか、猫手で示す。
「あそこだにゃ、あそこ。洞窟入り口の天井辺りに」
「天井? ……あっ、いた。マジかよ」
ようやく発見に至る。迫り来るギギネブラに、俺は指示を出す。
「ともかく奴と戦うには、現状不利すぎる。だから今は――」
その直後であった。奇怪な叫び声を立てるや、
バッ、――ドスン!
くっ
地を揺らすや、そこで俺たちの前に躍り出てきたのである。氷の粒が舞い散り、今度こそ逃すまいと立ちはだかったことに、俺は内心覚悟を決める。決める中、
(二人だけでも……)
と思い、再び生死と隣り合わせ的な危険な状況になるが、囮役を自ら引き受ける。それもあってか、
「お前らは奥に逃げろ! 小狼、案内頼む!」
出会って間もないが、彼を信じるしかなく。無事に逃げ切ることを祈り、再び対峙する。とは言え、俺自身も例外じゃない。現状考えると、まともに相手していたら貧弱装備の前に、確実にやられかねかないからだ。
緊張感が高まる中、それ故に攻めるより注意を惹きつけることだけに集中する。その中で、死の影が纏まり付くような感覚を抱かずにはいられなかった。
(間合を一瞬でも見誤れば……)
いつでもガードできる態勢を取り、対するギギネブラもこちらの動きを注視し始める。張り詰めた空気が二人を包み込み――とそこで、思わぬ闖入者が躍り出る。
「ジャムの仇だ!! でや――!!」
その姿たるや、無謀にも突っ込もうとする命知らずであった。思わず俺は叫ぶ。
「バカヤロウ!! ケイン、お前がやられたら――」
だが、時すでに遅かった。上段の構えから無策に突っ込んだケインは、そのまま奴の間合に。直後、うわっ、と驚きの声を上げてギギネブラの噛みつき攻撃をもろに。その場で尻餅を付いてしまう。その攻撃力たるや、彼の体力の7割方を持って行くくらいの大ダメージぶりであった。
「ひぃ~」
強烈な一撃とその体力ケージの消耗具合を見て、悲鳴を上げるケイン。すぐさま駆けつけた俺は、ケインを庇う形でギギネブラの前に立つ。
「ユウト……」
「死にたいのか? お前は」
「だ、だってよ。奴はジャムを」
「ジャムを、じゃないよ。ここでキャンプ送りになったら、それこそ無駄死に――」
最後まで言い切れなかった。後方へと飛び去るギギネブラは、その置き土産として猛毒ガスを吐き出してきたのである。
ぶわわわわ~
周囲に広がる紫煙の毒に、俺は舌打ちをしてケインの手を取って無理強い立たせる。
「ともかく、一旦ここは逃げるぞ」
「逃げる経って……」
そこで、
ヒュンッ!
風を切るが如く、一筋の矢が紫煙の中へと消えていった。確認するまでもない。小狼が俺とケインを逃がすべく、加勢したのだ。
『時間稼ぎにしかならないけど、早くこの場を』
「恩に着る」
彼の手前に表示されたメッセージを見、その言葉に甘んじて一時退却を試みた。とは言え、どのみち一時凌ぎにしかならないことには変わりはない。何発も放たれる矢を尻目に、俺とケインは急いで洞窟奥へと。山頂へと通じるであろう外周へと繋がる道へ突き進んだ。
一心不乱に走り、そして――
俺たちは、遂にこの洞窟がただの洞窟ではない事実を、目の当たりにするに至った。
「これは……」
そうぽつりと声を漏らす俺の目の前。そこにはいくつかの卵塊が。それもギィギの巣が幾つも点在していたのである。一目で理解した。間違いない、この洞窟一帯はギギネブラの縄張りだったのだと。
「ユウト……」
ミルクが不安げに語りかける。来た道から迫り来るであろうギギネブラを注意しながら言う。
「間違いない。ここは奴のテリトリーなんだ」
「じゃあ」
「抜け出そう。それも一刻も早くに」
直後、後方から雄叫びが。それも拡声器の如く反響してくる恐怖の雄叫びが、洞窟全体を響かせてきたのである。そのことに、流石のケインも心に焦りを抱いたのだろう。
「その方が良さげだな」
先程の敵討ちは何処へやら。小狼の遠隔攻撃でできるだけ足止めしている間、洞窟外へと脱出しようと駆けた。だが、何メートルもしないうちに、どこからともなく。……いや、天井からか。ひび割れ音が聞こえてきたのである。
そのことに、ふいに天井へと視線を送ると、そこには無数のツララがびっしりと。しかも、先程の雄叫びの影響からか、そのうちの何本かはヒビが入っており、今にも落下しそうになっていたのだ。脇目も振らずに一直線上に逃げようとするケインに、俺は危機感を抱く。
「危ないぞ、ケイン‼︎ 極力壁際を走れ! 天井にツララが」
「え、何? ツララ?」
そこで、俺の注意が半ば通じたのか。天井を見上げてビクつく。
「なっ!?」
「危ないにゃ!! ケイン殿!」
バターの叫び。反射的にケインは壁際に逸れ、直後、ツララの一部が落下。風切り音を伴ってグサリッ、と地面に突き刺さった。
「ひぇ~」
肝を冷やしたのか。あわや大ダメージになりそうになっただけに、そこで立ち止まってしまう。だが、状況はそんな予知を許さない。迫り来るギギネブラに、俺は彼の手を取った。
「行くぞケイン! 肝を冷やしている場合ではないぞ」
「あ、ああ」
言われるがまま、手をつなぐ俺と共に彼もまた走り出す。しかし、降り注ぐツララを掻い潜り洞窟の出口を目指すにせよ、入り組んだ洞窟内は厄介さを極め。さらに言わせれば、ギギネブラから逃げるのにも、足の速い奴だけに徐々に追いつかれつつあり――
「くっ、これでは……」
もはや追いつかれるのが目に見えていた俺は、苦虫を噛んだような表情をした。
(このままではまずい。何か、気を引くようなものが……)
走りながら辺りを見渡す。すると、先に走っていた小狼が、進行方向を示してくれた。彼の眼前には、生態マップがあり、その地図上にはくねくねっとした赤い線が描かれていた。
ナビで記された道導。信頼できそうだ。そう思った俺は、後ろからついて来ているであろうケインに呼びかける。
「ケイン! こっちだ。ケイン……、って、何してんだ?」
「これでよし。……あ、ユウト」
「あ、ユウト。じゃないよ、肉なんか配置して何してんだよ」
そう言う俺の前にいるケインの前には、2つほどの生焼け肉が重ねて配置してあった。ほわほわほわ〜とした暖かみのある生焼け肉を見つめながら答える。
「罠だよ、罠」
「罠? それが?」
「そうそう。で、追いかけて来る……」
「ギギネブラか?」
「そうそれ。そいつがこの生焼き肉を目にした際、食らいつくと思ってな。多分……」
「あー。食らいつくと言うか、何というか」
内心、何故に今ここで生焼け肉を罠代わりにしようとしたのか、不思議に思っていた。だけど、その疑問は頭の隅に。
「ともかく、それどころじゃないんだ。急ぐぞ、ほら」
「わ、分かったよ。そんなの言われなくったって」
慌てて立ち上がる。が、その直後、死角から雄叫びが響き渡って来た。反響音が近いことから、ギギネブラはすぐそこまで来てるかも。そう焦りを抱き
「くっ、もうここまで」
焦燥感に駆られるがまま、俺はケインの手を掴んだ。
「グズグズしてられない。行くぞ!」
「あ、ああちょっと。いくらなんでも自分で走れるから――」
動揺するケインであったが、俺はその言葉を無視。示された方へと駆けた。必死で走る中、徐々に迫り来るギギネブラの足音が近づいてくる。このままでは追いつかれそうになる中、ようやくといったところで洞窟の出口が見えてきた。
(もう少し、もう少しだ)
恐らくであるが、……いや、そうであって欲しいのだが、テリトリーから脱出できる。そんな期待感が込み上げてきた。その中で、ケインが不満を口にする。
「結局、罠の効果、なんだったんだよ」
「それを言われてもな……」
あんな生焼き肉ごときにギギネブラが食らいつくなんて。そもそも肉自体が有効かどうかなんて、分るわけないのだ。
「それよりも、もう少しで出口にゃ」
「それもそうだな」
ミルクに促されて、ケインは罠のことは後回しにしたようであった。――とそこで、あと一歩で出口と言うところで
「うわっ!」
「小狼!」
(しまった!)
滑る床の前に、後ろから付いてきた小狼がその場で滑って転んでしまった。
「ユウト……」
「ケインは先に行っててくれ」
「わ、分った。早く来いよ」
俺をおいて先に出口に向かう。一方、俺は急いで小狼のところへと向かった。向かったのだが、
くぅ
一部だけ極端に滑る床があり、俺もまた、あわや滑り転んでしまうところだった。その眼下、よくよく見ると大きめの水たまりのような箇所になっており、ギラギラと氷が一面に張っていたのである。氷上のど真ん中、彼は底にて滑りすぎて立てないようであった。
「今、助けに行く!」
「……ユウト……」
その直後であった。奇怪な雄叫びと共に洞窟の奥から、ギギネブラが姿を現したのである。迫り来る脅威を前にして、
(このままでは、轢かれてしまう)
ドスドスドスドス……
音を立てて迫り来るギギネブラを前して、焦りを滲ませていく。その中で、張ってある氷の外から手を伸ばして、捕まるよう促す。
「この手を……」
「う~ん……」
出口方面から
「ユウト、早く!!」
「小狼!」
ミルクとバターの声が重なるようにして聞こえてきた。すれ違う互いの手。幾度もすれ違った痕、ようやく小狼の手を掴むことができた。力をかけて引っ張り出すようにして、彼をスベスベ沼からすくい上げた。
「行くぞ!! 小狼」
「うん」
俺は抜きにして、俺と小狼は必死に走り出す。しかし、後方から迫り来るギギネブラがすぐ底まで迫ってきて――。
出口はすぐ目の前のところまで来て、俺はミルクの猫手を掴んで右側を。小狼は左側にいるバターの方へと分かれて洞窟からの脱出を。それぞれ分かれて離脱することに成功。
その次の瞬間、ギギネブラが突っ込んできては、洞窟の外は断崖絶壁だったこともあり、そのことに遅まきながら気が付いた奇怪な飛竜――ギギネブラは、急停止するも間に合わず。そのまま勢いに乗って谷底へ。
粉雪を散らしながら、深淵の底へと落下して消えてしまった。深い深い奈落の底をのぞき込みながら、ケインは
「ざまあみやがれ」
ついでのように罵倒。奴とのちょっとした因縁を断ち切るのであった。
「どうやら難は去ったようだな……」
瞬間瞬間、肝を冷やす自体だっただけに、俺は心底安堵するに至った。とは言え、今いる場所が場所だけに、長居するのにはまだ早い。故に崖際で危険であるだけに、一旦、この場から離れるべく彼らに提案する。
「ひとまずこの場所から移動しよう。ここにいても危ないだけだしな」
「だにゃ」
「だな」
ミルクやケインが頷き、小狼もまた、頷いた。
そして、今いる場所を離れ……
俺たちはまさに、険しくも行かなければならない道を。それも一人がやっと通れるくらいの崖っぷちの細道を通っていた。小幅は狭くなる一方だが、開けた場所が目の前。油断しそうな心を我慢して
(あと少し、あと少しで……)
と自分に言い聞かせていたのである。なるべく景色は見ないよう心掛け、視線だけをまっすぐにしてゆっくりと踏み出していく。あとわずかな距離。目測で言う10Mと言ったところ。しかし、一歩踏み外せば――。
そんな緊迫感が最高潮に達しようとした時、ようやく俺は拓けた場所に辿り着くことができた。
ふぅ~
一息入れ、振り向く。その視線の先、ミルク、バター、に続いてケインが。その後ろでは、小狼が今か今かとこの場所へと辿り着こうとしていた。
「と、ふぅ〜。ようやく一息つけるぜ」
とケイン。後続として小狼も無事に辿り着き、相方のバターに労われた。無事に全員が辿り着いた事で、俺は周辺を見渡した。
広々とした場所を見て、ここで一服するにはちょうど良い段差を見つけ、そして、山頂へ。フロストエッジへと至る登口と立札を目にする。
「とりあえず、あそこで一息入れようか?」
「……だな」
同じくして丁度いい段差を目にしたケインが頷いた。
ザク、ザク、ザク、ザク、……
雪を踏みしめる音を立て、段差へと歩み寄る。ケイン達が段差で寛ぐ傍ら、立札が気になっていた俺だけは、一人、彼らから離れた。積もった雪を払い除け、表示された!アイコンを確認。以下のようなメッセージが表示されたのを目にする。
『この先、山頂にて降下地点あり』
と。
(降下地点?)
気になるワードだけに、色々と憶測を並べてみた。そんな中、段差で寛いでいたケインが声をかけて来る。
「おーい! ユウトもこっち来いよー!」
「え⁉︎ あ、あー、今行くぅ!」
そう答え、立札の先。フロストエッジへと至る険しい登り口の先を眺めてから、ケイン達の方へと向かった。――のだが、そこで足下に違和感を抱く。
(なんだろう? ……この感覚は)
言葉に表すと、地に足が付いていないような。……いや、実際には地に足が付いているのだが、なんというか、宙に浮いた氷の上に立っているような。そんな感覚に近かったのだ。
けど
「気のせいか」
まさかなとか思いつつ、俺はそそくさと彼の方へと向かった。やあやあと手を上げながら、彼に近づく。しかしその次の瞬間、
ガオォォォ――!!
っ!
どこからともなく強烈な雄叫びが、場を切り裂くように響き渡ってくるではないか。
「な、なんだ一体!?」
突然の事態に困惑するケイン。小狼やミルク達も同様に緊迫感を抱く。俺は周辺を見渡し、本能的に雄叫びの出所を探った。――と直感的に、空を見上げて叫んだ。
「上だ!!」
「え? うわ――‼︎」「ふぎゃー‼︎」
瞬間、
ドスンッ!!
ケインとミルクが驚愕に見開かれる傍ら、白くて巨躯な
「ドドブランコ……」
そのあまりにもの迫力さとそこから来る
思わず後ずさる俺。まさに、怪獣映画でいうキングコングを目の当たりにしているような錯覚を覚えてしまった。
「あわ。あわ、あわわわわ……。ゆ、ユウト……」
「ドドブランコ。……そう、こいつこそ、例の白き獅子だ」
その呼び名に応えるが如く、ドドブランコはこれでもかと言う程、雄叫びを放った。