この感覚、いつ以来だろうか。
確か、サユリと共にリオレイアと対峙した時だったような……。
そう……
緩やかな時の中で、現在進行形的に俺は宙を舞っていた。目の前に表示された体力ケージは、あの時とは違い、大幅に削られているわけではない。
しかし、かといって思いっきり攻撃を食らったわけではなかった。
要は、投げられた。
そう、俺は奴――ドドブランコに捕まり投げられたのである。まさに意表を突かれたことには間違いない。
猛烈な突進で来るかと思えば、いきなりガッシリと握られ。あわよくば握りつぶされるかと思いきや、天高く放り投げられたのである。
だからなのだろう。ダメージはそれほど食らっているわけではなかった。けど、この状況。黙って曇天の空を眺めているつもりはなかった。宙で翻った俺は、眼下にいるドドブランコへめがけてすかさずワイヤーガンを放つ。ガシューン! と言った風切りを立て、真っ直ぐ奴の首元へと、鋭利な鉤爪が向かう。だが――
何⁉︎
ドドブランコはそこを読んでいたのか読んでないのはさておき、なんと瞬時にバックステップしたのである。この事に、またもや意表を突かれた俺は、そのまま地に激突してしまう。
「「ユウト!」」
ケインと揃って、ミルクは叫ぶ。激突の反動で転げ回り
「つつつつ……」
頭を抱えながら眼前に表示された体力ゲージが、2割型減ってしまったのを嫌でも見てしまう。しかし、先ほどの危機感から
「っ! 奴は⁉︎」
咄嗟に背後を振り返る。直後、猛烈な飛びかかりが迫って来るのを垣間見。態勢が崩れている今、直撃は間逃れないことを悟り
(ま、まずい!)
必然的に死を覚悟した。――とその時、俺とドドブランコの間合いの中で、目が潰れんばかりの閃光が、突如、弾けた。
くっ、
歯を食い縛り、腕で顔を庇っては前を向いた。小狼に寄り添うバターが喜んでいる。バターが閃光玉を投げたのだろうか。
……いや、違う。
そんな風に見えただけで、実際には画面を表示させている小狼。笑みを浮かばせている彼が、投げ付けた物らしいことが窺えた。
(ナイスだ小狼)
この機を逃すまいと立ち上がり、態勢を整える。ペイントボールを手にしてして、目眩状態となっているドドブランコを見据えて思いっきり投げつけた。ボールはほぼ一直線上に、しかしそれでも、弧を描いて遠くへ。
ビチャリッ!
見事、困惑して暴れるドドブランコの胴体へと命中した。
「よし、これで」
マーカーを付けたことに、後はこの場を脱出すべく周辺を見渡した。と言っても、迅速、かつ、確実に逃げれそうな箇所は一つしかなく。彼らにその場所へと向かうよう指示をする。
「さあ、今のうちに。山頂方面へ」
「ああ」
「小狼」
コクリッ
ケインは頷き、バターは小狼をそちらへと促しがした。このことに急いで山頂方面への登り口を目指し、全速力で走る。
一方で俺は、ドドブランコから目を離さずして警戒心をMAX。動行を注視する。とは言え、当のドドブランコは困惑と目眩が合わさってパニック状態。どうやらこちらに構っている余裕はなさそうであった。
「ユウト」
「ああ、分る」
ケインに促され、俺もまたフロストエッジへの登り口へと足を運んだ。――とその時、背筋に悪寒が。奴の雄叫びが響き渡ってきたのである。あまりにもの怒号に振り向き、そこで一塊の雪玉が俺たちに向かって飛んで来るのを目にする。
「っ! 逃げろ!! お前らー!」
だが、間に合わず。回避しようもない飛来物に、俺は咄嗟に盾を構えた。直後、
ガキーン!!
くぅ
重厚なる一撃が盾にぶち当たっては、雪玉は弾けるようにして砕けた。
「ユウト……」
心配するケイン。小狼、バターも気になってか振り向く。しかしこいつらに構っている余裕はない。俺は叫ぶように促す。
「いいから早く行け!! 早く!」
「あ、ああ。分った」
「先に行っているにゃ」
慌てて逃げ出すミルク達。だがそこで、間を置かずしてケインの戸惑いの声が聞こえてきた。
「ゆ、ユウト……」
「な、なんだ? 早く行けよ」
「そ、それが……」
ハッキリしない返答。苛立ちを見せ、俺は振り向いた。――とそこで、ブランコが2匹、ケイン達の行く手を遮っていたのを目にする。いわゆる進行妨害という奴だろう。厄介者の登場と来たのだ。
「相手てできるか? ケイン」
「あ、ああ。なんとか」
「ここは大丈夫にゃ。……小狼!」
「うん」
前衛のケインの護衛をすべく、小狼は弓を構えた。一方俺は、こいつらにドドブランコの目線が行かないよう、ケイン達と離れたところに陣取り、身構える。
(ブランコの始末は任せた)
ケイン達を信じて、俺は俺でドドブランコを視界全体に収めた。一方、当のドドブランコ。ようやく目眩から解放されたのだろう。頭上の星々は消えて我に返ったらしく、首を震わせるや周辺を見渡した後、こちらの存在に気付くや睨み付けてきた。
緊迫した空気が一層濃くなるのを肌で感じ、寒い環境下においても汗が滲むほど緊張感が高ぶる。ポイズンタバルの刃をギラつかせて、そして――
「てりゃあああ――!!」
地を蹴って立ち向かった。対するドドブランコもそれに答えるべく、猛烈な突進を繰り出す。互いの距離が一気に縮まり――このまま激突するかと思いきや、斜めへと滑り込む戦術の前に、すれ違いざま、奴の横顔へと刃を走らせた。
スパッ! ブシュー!1
筋状の鮮血が噴き出し、俺はそれを確認するまでもなくその場で前転。再び臨戦態勢を取った。やはりと言うべきか。毒付与までとは行かず、奴にとってはかすり傷程度しかならなかった。けど、確かな手応えはあった。一撃さえ食らわなければ窮地に立たせれる心配はないはずと思い
(思い出せ! トライアルマスターを会得するのに、リオレイアと戯れた日々のことを)
と自分に言い聞かせた。両眼をつむり、心の中で、あの日を、あの思いを、あの緊迫感を思い出させ、それらを湧き上がらせていく。深呼吸をして……。そして、一拍を置いた後、カッと両眼を見開いた。
「うおおおお――!!」
再び疾風の如く駆ける。一方、対する雪獅子。今度は戦法を変えてきたのか。多彩なステップを駆使して、こちらを翻弄させてくる。縦横無尽にステップを切ってくる相手に、狙いが定まらない。ほぼ動きがつかめないのだ。
(ちっ、このままだと埒が明が……)
次第に焦りと苛立ちが募っていく。そうした中、複数のブランコと戯れていた小狼たちの悲鳴聞こえてきた。
「小狼!」
(しまった! やられたか?)
思わずドドブランコそっちのけで、彼らの方へと気が散ってしまう。ブランコの攻撃で尻餅をついてしまった小狼が目に映る。――と、その隙を狙っていたかのように、暴風音を轟かせ駆けるドドブランコの気配が。
(うかつ!)
咄嗟に盾を構えたものの、とてもじゃないが堪えられそうにない重厚なる一撃を食らい、吹き飛ばされてしまう。勢い余って氷壁に激突。
がはっ!!
背中を強打して、肺の中の空気を強制排出されてしまうほどの衝撃を受けてしまった。
「ユウト!」
ケインが叫ぶ。ずるずるずる~、とずり落ちて、その場でへたり込み。ノックダウンの状態異常を受けて動けなくなってしまう。
身動きがとれなくなってしまう中、追撃を受けかねない状況の上、体力ケージも先ほどの強打から、半分以下まで減らされてしまっていた。そのことだけに、焦りは最高潮へと達し、必死で立ち上がろうともがく。
(このままでは、まずい)
思うように動かせない四肢に苛立ちを募らせ、しかし、視界はドドブランコへと。対するドドブランコもさらなる追撃をお見舞いせんと、飛び掛かりのモーションを取った。
(もはやこれまでか)
心中覚悟を決めて、俺は両目を力強くつむった。――とそこで、ドドブランコの呻き声が。
「え?」
このまま突進を食らってキャンプ送りを覚悟していただけに、予想外の光景を目の当たりにしてしまう。と言うのも、怯んだ後、煩わしさで顔面を庇うドドブランコには、幾本もの矢が飛び交っては、命中しまくっていたのである。
矢の出所は、もちろん小狼。彼が俺を庇うかのようにドドブランコを足止めしていたのである。
しかし、九死に一生を得た俺であったが、この状況は襲われるリスクを彼らに押しつけることに。それでも、
「食らえ! 食らえにゃ! いいぞ、小狼。その調子だにゃ」
バターが応援し、それに鼓舞する形で、小狼が切れ目のない連射を浴びせまくっていた。
「だめ、だ。やめろ……。小狼……」
掠れて声が出ず、当然のように彼には伝わらない。さらに悪いことに、ドドブランコの敵対心が小狼の方へと向いてしまう。
「ま、まずいにゃ。挑発しすぎたにゃ」
「ば、バター……」
さすがの小狼も、自前の高速メッセージを送る余裕がないのだろう。戸惑いの声を漏らした。
「に、逃げろ~」
絞りカスを出すかのように叫ぶ。だが、逃げ切れる手立ては、小狼たちにはもはやない。
一方、ブランコ1頭をようやく片付けたケインは、そんな小狼とバターを見て、すかさず叫ぶ。
「な、なにやってんだ!! こっち来るじゃ――、っ!」
最後まで言えず。ドドブランコは洒落臭い獲物を先に始末せんとばかり、猪突猛進で突っ込んでいった。迫り来る死の巨体に、めちゃくちゃ血相を変えるケイン。小狼、バターは恐怖で金縛りに遭ったかのように棒立ち状態に。
刹那、
「ひぇええ――!!!」
本能的というか反射的にと言うか。この状況下で奇跡的に動けたケインは、太刀を投げ捨てんばかりの勢いで奴の攻撃軌道上から回避すべく飛び退いた。だが、小狼は。俺は悲痛な思いで叫ぶ。
「小狼――!!」
――とその時だった。
どこからともなく小タル爆弾が一樽、小狼の前に飛んできては爆発。その衝撃波を受けて彼は吹き飛ばされたのである。結果、
「ふぎゃ――!!」
ドドブランコの下敷きになったのは、バターのみ。肝心の小狼は、死の直撃コースを真逃れるに至った。その様を見た俺は、思わず肝を冷やし安堵。だがその一方で、
(一体誰が?)
そのような疑問が、この修羅場を前にして自然と沸いてきた。周辺を見渡し――そこで、小さき者の姿を目にする。
(あれは……)
その心の声に応えるかのように
「どうやら、間に合ったみたいだにゃ」
そう言っては、にこやかにほくそ笑んだ。
「じゃ、ジャム! お前、生きていたのか?」
ケインが信じられないと言わんばかりに驚く。と言うのも、そこには、あのギギネブラを相手に自爆して霧散霧消したはずのジャムの姿があったからだ。流石の俺も、これには正直吃驚。けど、そこで不意に思い出す。
――オトモは戦闘不能に至った場合、一定時間後に復活する――
と言うことを。俺たちハンターとは違う特権。……いや、そう言った仕様であったことを、今更ながら思い出したのである。でも、そのことを知らないケインは、ジャムが生きていたことに感極まり、泣いて抱きしめていた。
「よかった。よかったよ、本当に生きていてくれて」
「そ、そんなオーバーにゃ」
あまりにもの抱きしめっぷりに、当のジャムは困惑を隠せなかった。だけど、水を差すようで悪いと思いつつ
「ケイン」
「あっ、ああ。そうだな」
我に返った彼は、涙目を拭いて再び対峙する。対するドドブランコは、向き直るとすかさず雪面に対して、ズボッ、両手を突っ込んだ。それも深くに。
(この予備動作、もしや……)
嫌な予感が脳裏をよぎる。深く潜らせた両手は、巨大な何かを持ち上げようとし、俺はケイン、小狼の盾となるべく、今度こそ立ち上がろうと全身に力を込めた。
そして、どうやら
バンッ‼︎
くっ
ザザザザ……。
必殺の氷塊の一撃を、見事、防ぎ切ってみせた。難を逃れたことに、ふぅ〜、とため息を吐く。
「た、助かったよ、ユウト」
とケイン。しかし俺は、
「安心するのはまだ早い」
状況が状況だけに、油断しないよう注意しとく。
「そ、そうだな」
彼もまた、今度こそ真剣になる。互いにドドブランコを見据える中、手早く画面操作をした後、回復薬で減ってしまった体力を補う。
一方、ドドブランコはと言うと、先の攻撃を防がれたこと。そして、群れの数を減らされたことに怒りを露わに。それを体現しようとばかりに天高く雄叫びを放つや、地中からブランコ数頭、召喚してきた。
「ケイン、小狼。雑魚の相手、任せられるか?」
「ああ、なんとか」
小狼も、直接言わなくとも頷いた。
「ボク達もフォローするにゃ」
ミルクに賛同する形で、バター、ジャムも手に武器を携える。
「ああ、頼むな。お前ら。……さて」
ポイズンタバルジンを納刀し構え直した俺は、ドドブランコらを再び睨み付ける。万が一喰らえでもすればお陀仏。死の予感が付き纏うが、どの道、この場を切り抜けるには立ち向かわなければならない。俺は覚悟を決めた。
そして……。
「うわわわ――‼︎」
スタミナケージを全て切らせんばかりに、全速力で切り込んだ。粉雪を撒き散らし疾駆する俺は、真っ先にドドブランコへと挑みかかる。
一方、対するドドブランコは、手下に号令を飛ばすように、ガウ、ガウ、と唸り声を何回か発し。それに応えんばかりに、俺の軌道を妨害せんとばかりにブランコ数頭が立ちはだかって来る。
「くっそー! 邪魔だ! どけー!」
刃を振りかざし、襲いかかるブランコどもを切りつけては奴の攻撃を交わし、合間を縫って駆ける。だが、立ちはだかるブランコもやられ続けているばかりではなかった。2頭で立ちはだかっては、同時責めで襲いかかってきたのである。
流石に交わしきれないと思った俺は、奴の連携攻撃を凌ぐべくガード態勢を取った。ガキンッ! と奴の体当たりが盾にぶち当たり、足止めをされてしまう。
そして、後方に控えるドドブランコは、軽快なステップを踏むや、俺の周囲を迂回。反撃の機会を今か今かと窺ってきた。
盾を構えつつ、目の前のブランコに斬りつけては、追い払おうとする。がしかし、ブランコもブランコ。ただでは着られまいとして、これまた間合を開けてくるやこちらを翻弄させる形で動き回る。
(このままでは、ドドブランコまで辿り着けない)
悪戦苦闘。その言葉通りの展開となってしまう。そんな中、相対するブランコの間を割り込む形で、後方からケインとジャムが躍り出る。
「お前達の相手は、俺たちだ!!」
問答無用という言葉があるように、2頭のうち1頭めがけて上段の構えから奴の顔面へと斬りかかる。意表を突かれたブランコは、そのまま顔面を切られ、血飛沫を上げて堪らず仰け反った。そして、もう一頭。今度はジャムが対峙する。
そんな光景を目の当たりにしていたが、
「こいつらは俺らに任せろ! 早く行け!」
「あ、ああ。頼んだ」
叱咤され、流石に我に返った。激闘を繰り広げるブランコ達の合間を縫い、遂にドドブランコへと迫る。――とそこで、ドドブランコが突入! ガード仕切れない事は、先の経験から織り込み済み。真横へとダイヴして、間一髪、交わしてみせる。そして、こちらに背を見せたことにチャンスと見た俺は、すかさず斬り込みにかかる。
「てりゃ――!!」
風を切る感覚で駆け抜け、奴の後ろ足へと斬りつけ。そのまま連撃へと繋げていく。迸る鮮血と毒煙が交互に入り。だが、
(よし、うまくいった)
討伐しきれるとは思えないが、それでも一矢報えたような。そんな感じにさえ思えた。一方、してやられたドドブランコ。またもやこちらをめがけて飛びかかろうとして構えを取る。だが、
「同じ手はもう通用しないぜ」
そう吐き捨て真横へと逃げる算段を企てる。いつでも交わす態勢。案の定、もの凄い勢いで飛びかかってきた。
(ふん、これくらい)
だが、そこで誤算が生じてしまう。
何!?
意表を突かれた俺は、すかさず盾を構えた。と言うのも、飛びかかってきたことには間違いなかった。
しかし、それはただの飛びかかりではなかった。なんと! 俺のいた位置をめがけて飛びかかってくるや、すかさず方向転換。間を置かずして2度目のダイヴを決め込んできたのである。
こんなモーションありかよ。そう言わんばかりに、ドドブランコのフェイントを見抜けなかった俺は、すかさずガードしたもののそれは完全に態勢がとれ切れているわけではなく。重い一撃の前に吹き飛ばされてしまったのだ。とは言え、間髪入れずのダイヴだっただけに、一回目の攻撃よりかはそこまで大したことはなく。数mほど吹き飛ばされたものの、その後、雪面を何回か転げ回っただけに留まった。
ダメージ量も2割弱減らされてしまったが、最悪なノックダウン状態を真逃れた俺は、素早く態勢を整えることができた。
「なんのこれしき」
口元に付いた雪を腕で拭い、身構えては挑みかかる。奴のダイヴを警戒しつつ、斜めから踏み込んでいく。が、またもや多彩なステップを。動き回る奴に翻弄されてしまいそうになる。
「くっそー! またこれかよ。埒が明かねぇ」
そこで俺は、ある物を取り出す。それはある種のチャンスを作り出すものであり、その手にした物を握ったまま翻っては、ケイン達に向かって叫ぶ。
「お前ら顔を庇え!」
そして、投げつけた。閃光玉は直線上に放たれ、そして――
ピカ――ッ!!
弾けては、瞬時に景色を一変させた。俺自身、咄嗟に顔を庇ったものの、危うくこちらまでその閃光の光で目が潰れるところであった。
(よし、これなら)
再び、ドドブランコに視線を戻す。案の定、今度はドドブランコ側が意表を突かれたらしく、当然のように目眩を引き起こして動けなくなっていた。俺は叫ぶ。
「
攻撃動作を警戒しつつ、疾駆。今度こそ多大なるダメージを与えんばかりに、その猛毒の刃を振り下ろしまくった。
「うおおお――!!」
叫びながら何度も何度も斬りつけ、その度に確実に体力を減らしていく。さらに言ってしまえば、毒状態だけに、その減り具合は輪をかけて拍車がかかっていく。
しかし、……しかしだ。
闇雲に連撃をしているわけではなかった。いくら目眩状態でまともに動けない相手とは言え、それでも無抵抗なわけではないからだ。だから俺は、その状況でもヒット&アウェイを心掛けているつもりであった。
そんなわけで、肉薄する俺とドドブランコの白熱の
(そろそろ頃合いか……)
相手が立ち直るタイミングを見計らい、そこから離脱しようと刃を納めた。――だが、その直後である。一瞬、奴の動きが止まったかと思いきや
な!?
予期せぬ事態に驚く俺をよそに、突如、天高く大ジャンプ。直後、
バフンッ‼︎
くっ
勢いよく跳び上がった際の衝撃波。粉雪が舞う風圧をもろに受け、その場で尻餅をついてしまった。まさにその様は、驚異的な身体能力を目の当たりにし印象を付けるもの。飛び上がったドドブランコを天を仰ぐかのように呆然と見てしまいそうになった。
しかし、俺の心はすぐに平静を取り戻す。取り戻すのだが、その思いは訝しいものであった。
「ユウト」
とケイン。
(エリア移動、なのか……)
そんな短絡的な思考が脳裏を過ぎった。しかしその直後、高く飛び上がったドドブランコが一点に留まったかと思いきや。なんとボディープレスをせんとばかりに急降下してきたのである。
「な、なななな……」
慌てて立ち上がるや、その場から逃げだそうと駆ける。しかし、その落下スピードは予想以上に早く。攻撃範囲から逃れきれないと察した俺は、そこでダイヴ。直後、
ズシ――ン!!!
けたたましい落下音が、地響きを伴って伝わってきた。危うく下敷きになるかと思った俺は、そこで安堵するが、事態は予期せぬ方向へと展開。なんと、そのプレスの威力が仇となったのだろう。俺とケイン達の間に亀裂が走ったのだ。途端、安定さを欠き、グラつく足場。
「ユウト!」
俺を助けんばかりに駆け寄るケイン。だが、
「こっち来るな!!」
巻き添えにしたくない思いから、俺は叫ぶ。その叫びに思わず立ち止まってしまうケイン。他方、小狼もブランコの攻撃を交わすや、俺の方へと視線が向く。
たちまち崩れ出す地面に、俺は全速力でケイン達の方へと走る。
「くっそ――!!」
だが、
バリバリバリバリ……、バリン!!
裂け目は一瞬にして肥大化。それに伴い、ついに崩落。絶体絶命の友のピンチに、ケインは再び叫ぶ。
「ユウト――!!」
立ち込める濃霧の底へ。ドドブランコと共に落下していく俺。最終手段で咄嗟に、ワイヤーガンを放つ。一直線上に空気を切り裂き、ワイヤーガンの鉤爪が割れ痕の一部に見事命中。刺さったワイヤーがビーンと弦を張ったように引っ張られた。
宙ぶらりんの状態となってしまったが、しかしそのことに
(ふぅ~、助かった)
とにかく落下はま逃れた。と俺は少し安堵する。すぐさまワイヤーを巻き取っていく一方、ケイン達も、その様子に少し安心したようであった。機械仕掛けの音色を奏でながら、ワイヤーがゆっくりと巻き取られケイン達の方へと向かう。
ところがその矢先、
パリンッ!
あっ!
「ユウト――!!!」
天の女神は俺を見殺しにでもしたかのように、鉤爪が刺さった割れ痕の一部がそこで剥離。瞬く間に俺は濃霧の底へと吸い込まれていった。
吸い込まれていく中、叫ぶケインの声が、自身の意識が、徐々に遠ざかっていくのを、ただただ見守ることしかできなかった。