モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:彷徨う狩人達・3話

 

 

 遡って今、2105年2月上旬、仮想世界――モンスターハンターアルカディア・オンラインにて……

 

 

 何処とも知れない深淵なる闇の中、なぜか顔から上半身にかけて圧迫感を抱いていた。謎の圧迫感は、一定程度の温かみがあり、まるで全身、包まれているような錯覚を覚える。

 耳を澄ませば、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、……とリズミカルな鼓動が聞こえ、そう言ったことを鑑みれば、自ずと温かみの正体は誰かの体温だと認識するに至る。すると、必然的に

 

 (一体、誰なんだろうか?)

 

 自分の体を圧迫させ、さらにある種の温もりを与えてくれる正体。それだけに気になってしまい、徐々に意識が鮮明になっていく中、ゆっくりと瞼を持ち上げてみせる。

 

「う、うう……」

 

 呻き声を上げて目の前の存在を目にするや、自分が誰かに覆い被さられていたことにすぐ気が付く。しかし柔らかい。顔を覆うそれは、とても柔らかく、まるでふにゃふにゃクッションに例えてもおかしくなかった。さらにそこから顔を少しばかり離すと、ふにゃふにゃのソレはもっこりと膨らみがあり、かつ、2つあることにも気がつく。

 

 (なんだ、これは?)

 

 不思議と疑念を抱く。とは言え、普段、見慣れているはずのものであることには変わりない。しかし、こうも間近で、しかも超最接近。……いや、この場合、密着と言った方が表現的に合っているのか。ともかくその膨らみの正体の理解に苦しんだ俺は、そのまま無造作に揉んでしまい――

 

 ムニュムニュ……

 

 直後、ビクつかせて

 

「ひゃっ!!」

 

 少女の悲鳴が聞こえてきた。そして――

 

「どこ触っているのよ!!」

 

 開口一番、不満を口に。理解できなかった俺は

 

「どこって……。 っ! まさか、お――」

 

 そこで皆まで言わさず。覆い被さる謎の少女は、咄嗟に、

 

「しー!! 静かに」

 

 口を噤ましてきた。思わず黙り込んでしまう俺であるが、一体何が起きているのか。この覆い被さった体勢で、外の状況が分りづらくなっていた。だが、よくよく耳を澄ますと、吹き抜ける冷風と共に、どこからともなく猛獣の荒々しい声が、息づかいが聞こえてくるではないか。

 

「モンスター?」

 

 そのことに目の前の少女は、

 

「そ、モンスターよ。それも獰猛な」

「獰猛?」

 

 確かに、聞こえてくる荒々しさには、どこか凶暴さが見え隠れしていた。けど、実際この目で見てみないことには、正体が掴めない。彼女を少しだけどかそうと、声をかける。

 

「そこをどいてくれないか? 状況が読めないんだが」

 

 だが、少女は

 

「だめ。今、動いたら見つかってしまう」

「見つかるって……」

 

 顔をこちらに向けてきた少女。顔を覆わんばかりのモフモフフードに包まれ、両目しか見えないだけに誰なのかはさっぱり。だが、そのフードから垣間見れる眼差しは、必死そのものであった。

 

 そう……

 

 例えるなら、天敵に狙われかけている獲物の表情。それと同じ形相であった。どうすることもできないだけに、目の前の少女の豊満なる胸が今にも迫ってきそうである。異性の体だけに、無駄に緊張してしまっていた俺は、次第に感じたこともないような衝動が込み上げてくる。

 

 ドキッ、ドキッ、ドキ、……。

 

 そう高まる鼓動と共に。

 

 (この感覚は一体……)

 

 そんな風に思っていると、俺のムスコに力が漲っていくのを感じずにはいられなくなる。

 

(俺は興奮しているのだろうか? この少女に。しかも、対面したばかりだと言うのに、俺は……)

 

 こういうのをなんと例えるであろうか。どこかで聞きかじったような知識を探し求め、ある答えへと辿り着く。着くのだが、ムスコに漲る興奮は、徐々に堅く剃り立っていき――やがて少女は慌てて、

 

「ちょ、こんな時にヘンなところ触らないでよ。当たってるってば」

「そ、そんな無茶な」

「無茶でも、ダメ。……ダメ、だから……」

 

 途中から少女の声が上ずったような。体をわななかせて、何かを堪えているように見えた。――とそこで、今まで何かをしていたであろう、獰猛なモンスターの動きに変化が。その瞬間、、血の気が引いていくのを全身で感じる。

 

 

 ドス、ドス、ドス、ドス、……

 

 ゆっくりと、だが確実に。それが接近してくるのを、張り詰めた空気を通して聞いていた。いつの間にかであろう。その時には、先ほどまでの性的な興奮まがいな衝動は、嘘のように消え去っていた。

 研ぎ澄まされた全神経が聴覚へと集中し、不気味な足音の行方をただただ見守り続ける。ただ、俺たちの願いはただ一つ。そのモンスターの足音が遠のいてくれることのみであった。

 しかし、状況は次第に悪い方へと向かいつつあった。と言うのも、その足音は、なんと、こちらに近づいてきたのである。

 

 ドスッ、ドスッ、ドスッ、……

 

 から

 

 ザクッ、ザクッ、ザクッ、……

 

 へと変化。

 

 〝目の前にいる〞

 

 少女の顔を見やれば、眉間に皺を寄せ、恐怖に、全身を戦慄かせている。そして、奴の動きがそこで止まったのか、今までの足音がピタリと止んだ。

 荒い息が聞こえ、体と体の隙間からわずかに見える雪面を見やれば、

 

 ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、……

 

 色鮮やかな血の雫が、一滴、また、一滴、と滴っているのを目にする。まさにゾッとする瞬間。こいつは間違いない。必然的に獰猛な肉食モンスターだと断定するに至った。至っただけに、俺もまた、金縛りに遭ったかのように動けなくなってしまう。

 そんな中、目の前の少女は堪えがたい恐怖からか、小声で

 

「ゆ、ユウト……。あ、あたし、もう……」

 

 それを訊いて

 

「っ! 俺のことを知っているのか? ――あ、いや、それどころではないな」

 

 この件に関しては後だ。今はこの場を切り抜けなければ。

 

 そして……

 

 確認していたのだろうか。何回か少女の体を弄った後、奴は諦めたのだろう。何事もなかったかのように、再びその歩を進ませ、やがてどこかへと去って行った。胸を撫で下ろした俺は、目の前の少女に語りかける。

 

「もう大丈夫みたいだな」

 

 と。そして、自力で出にくかったことにより、覆い被さる少女にどいてくれるよう頼む。

 

「あの~、悪いんだけど。そこをどいて――」

 

 ところが反応なし。

 

「ん? お前? ……」

 

 そこで顔をのぞき込み

 

「は~、おいおいおい」

 

 余程の恐怖を味わっていたのだろう。目の前の少女は、いつの間にか気を失っていた。

 

「やれやれ」

 

 そう言いながら、なんとか強引に抜け出す。そして、うつ伏せのままの少女。その身は、真っ白なコートのような迷彩色の衣――隠れ蓑の装衣で、わずかばかり盛り上がった雪面に同化して見えた。それでどうして先ほどのモンスターの目を欺けることができたのか、ようやく合点がいった。

 俯せのままでは可愛そう。そう思っての配慮から、仰向けにさせる。けれど、もこもこフードで目元までしか見えず、その少女の正体が一体誰であるのかまでは把握できなかった。

 

「ともかく、ここを離れないと」

 

 そう呟いた後、辺り一面を見渡す。すると、先ほどの獰猛なモンスターの血痕を伴った足跡を辿った先にて、一頭の巨大な牙獣種が横たわっているのを目に。一目で分ったのだが、その牙獣種は、どうやら先ほどのモンスターの餌食にされた哀れなモンスターだと理解できた。

 気になって近寄っただけに、真っ白な体毛に、そして……、片側だけ折れてはいるが2つの牙が。目が白目となりて逝っちゃっているのその様は、まさしく先ほどまで激戦を繰り広げていた強敵――ドドブランコ、の死骸だとすぐに分かった。

 

 (あんなに手強かったドドブランコが、様変わりした無残な姿になるなんて。一体、こいつを食い物にしたモンスターというのは……)

 

 そんな好奇心とも言える思考が、頭の中をグルグル駆け回る。けれどそこから先、損傷しているであろう腹部の辺りを確認する気にはなれず。一旦、気を失っている少女の方へと引き返した。

 ――のだが、そこで、

 

 ガクンッ

 

 突然、両足の力が抜けてしまい、戸惑う余地すらなくその場にへたり込んでしまった。唐突なことだけに、流石に戸惑う俺。もう一度立ち上がろうとする。がしかし、

 

「な、なんだ⁉︎ 足に力が」

 

 そう述べる俺は、そごで下肢の感覚が鈍いことに気がついた。ようは立てない。それも、全くっていいほど、立てない状況になっていたのだ。さらに、へたり込んだまま気が付いたことだが、いつの間にか息も乱れていると言う。

 この状況。まさかとは思い、画面表示した後、現在のスタミナゲージを確認してみる。すると、スタミナゲージの残量を示すイエローラインが、最低値ギリギリになっていたではないか。

 

 (どうりで……)

 

 最低値だけに、一定間隔で赤く点滅を繰り返すケージ。まともに歩き続けられない状態に陥っていたことに気付かされる。

 

「ともかく回復しなきゃ」

 

 アイテム画面を表示した後、こんがり肉をチョイスした俺は、熱々で肉汁滴る肉に食らいついた。――のだが、そこで今更ながらに気が付いた。

 

「そう言えば、寒くないような……」

 

 未だにホットドリンクが効いている感じに、あまり寒さを感じないなかったのだ。肉を頬張りながら気を失ったままの少女を見つめ、スタミナゲージが最低値だったことと、寒さをあまり感じていない状態に思考を巡らす。

 しかし、どう考えても分からない。スタミナケージが最低値ということは、つまり寒さからによりスタミナケージを削られたことだろうと思う。

 けど、だとしても、寒さに苛まされていない状態は、つまり、ホットドリンクが使われたと思うが、その肝心なホットドリンクは、普通、使用者本人しか効果がない。

 そのことだけに、なぜ自分が寒さに堪えれられていられるのか、正直に言ってさっぱりであった。けれど、考えても埒があかないことだけに、今、どうすべきかについて考え方を変える。

 こんがり肉をたえらげスタミナケージを回復させた俺は、よっこらせと背負った。久々の感覚だけに、サユリを負ぶった際のあの場面が脳裏によぎる。

 彼女の程よい体重が全身に伝わってくるが、別に場所を移動するくらいなら問題はなかった。けれど

 

 (……にしても誰なんだろう、この少女。自分のこと、知っているみたいだし……)

 

 それだけが疑問となって残り、その心残りを抱いたままとりあえず安全地帯を探すべく、当てもない雪原地帯を歩き始めた。

 

 

 

 

 吹雪が一段と激しさを増し、徐々に視界が悪くなっていく。その中を生態マップを頼りに、一歩一歩、彼女を背負いながら歩き続ける。とは言え、生態マップが示す地形は、行けども行けども大圏谷から織りなす、緩やかな起伏。そこから成り立つ雪原地帯を示しており、目印となるような箇所は、一箇所を除いて他はなかった。

 いわゆる一言言って、

 

 〝遭難〞

 

 それ以外、何者でもなかったのである。

 ちなみにその一箇所というのは、かまくらアイコンが表示された凹み箇所。思うに設営地の類いだとは思うが、結局、その場所まで行ってみないことには判断が難しかった。

 記憶を手繰り寄せてみれば、あのドドブランコとの戦いからの、まさかの崩落。どこまで落下したのか見当は付かないが、正直言って、奇跡だったような気がする。本気(マジ)で落下した瞬間、キャンプ送り覚悟したくらいにだ。だが、こうして生還しているわけだから、不幸中の幸い、だったのかもしれない。

 ――とまあ、そんなことを思いつつ

 

「しっかしな~」

 

 そう言いながら思うが、本当にここ、どこなのだろう? それだけが、脳内メモリーの半分、それに費やしていた。と言うのも、考察するに、本来の登山道はこの大圏谷の中腹辺りだろうとは考えてはいる。が、しかし、結局のところ、この悪天候の中ではどうすることもできなかったからだ。

 ととのつまり、場所の特定に関しては、いくら考えても無駄。そう言うわけであった。そうしたなか、

 

 (あと、200m、か~)

 

 マップ上では目の前に来てはいるが、実数値ではそのくらいの距離。それだけに、いつまでも辿り着けないことにもどかしさを感じてきた。さらにこの吹雪の中、背負っている彼女を下ろすわけにもいかない。そういうプレッシャーもあり、その影響でこんがり肉を食して回復したスタミナケージも残りわずかとなっていた。

 吹雪く中、

 

 (何しているんだろう、俺は)

 

 その虚しさだけが、心の中を満たしていく。――だが、そんな気持ちも堪えて乗り越えた先、とうとう俺は、洞穴だと思われる黒い影を視界に収めるに至った。

 

 それから、程なくして……

 

 氷壁にて、心温まる仄かな明かり。それから、氷壁に映し出されたゆらぐ陽炎。それは――

 

 バチバチバチ……

 

 枝が折れるような音を奏で炎が舞い上がり、それに伴って火の粉が踊り立てる。洞穴だろうと思いしき影の正体。それは、案の定、生態マップ上で記されていたかまくらアイコンが示した場所――設営地であった。

 とりあえず、吹雪をやり過ごせる場所に辿り着けたことに、俺は心底ホッとしていた。それから、燃えさかる焚き火を見つめながら、隣では気を失っていた彼女が寝ており。肩回しをしつつ首を何度かコキコキと鳴らして、凝り固まった両肩をほぐすに至る。

 

「ったく、大胆にもすやすや寝てやがってからに」

 

 未だに誰なのかは分らない。分らないが、彼女は俺のことを知っている。それ故になのだろうか。俺とお揃いのマフマフシリーズを着込んでいたそいつは、無防備にといった感じにぐっすりと眠り込んでいた。

 壁に背中を預け、目元だけしか顔を見せない彼女を見つめる。――とそこで、ん? となって、あることに気が付く。

 

「なんだこれ?」

 

 そう疑問を抱く俺は、いつの間にか彼女の頭上に表示されているアイコンに視線が行く。気になって手をそっと宛がうと、〝G〞と表記されたアイコンは、赤き腕章へと姿を変えた。

 

 赤き腕章、そして、G……。

 

 このことから察するに、俺の中のモンハン知識が掘り起こされ、彼女は団長。そう、猟団の団長、であることが分った。さらにオムラ村長が話していたことを思い出し、行方不明となっている猟団とは、もしかして彼女の所属しているであろう猟団のことではないのだろうか。そう勘繰ってしまったのだ。

 そのことだけに、

 

 (彼女は一体……。いや、それよりも。なんで一人でここに?)

 

 そんな疑問めいたことを思ってしまう。が、そこで、ようやくお目覚めなのか。声にならない声を発し、ぐずつきだした。

 そして、のらりくらりとゆっくりと起きては、眠たい目を擦り、それでいて、被っていたフードがはだけて栗毛のサラサラヘアーが波を立てバサリッ。――その瞬間、

 

「っ! せ、セツナ!」

 

 謎の少女の正体がセツナであることに、ハッとなって気が付いた。そのことに、まさかのドンドルマ以来の再会だけに心底かなり驚く。

 一方、セツナはそんな狼狽える俺を見ても、対して反応が鈍く。

 

「そうだけど」

 

 と素っ気なく返したに過ぎなかった。胸を驚かせていた俺は、捲し立てる。

 

「そうだけどって、ま、まさかの再会だぞ! こんなことが」

 

 ふいに信じられないと言った口調になってしまう。すると彼女は、何処不満気に

 

「だからどうしたってのよ。それにあたしだって、最初は驚いたわよ。まさか崩落と同時に人影が見えたから、気になってみれば、まさかあんたがいたなんて、と」

「崩落⁉︎ 現場に居合わせていたのか?」

「まぁ、あたしも色々と事情があって……」

 

 それ以上、多くは語りそうにはなかった。口を紡ぐセツナに色々と聞きたいことがあった俺は、そのことを質問してみる。

 

「まぁ、いいや。それに別件で3つくらい聞きたいことあるんだが、ちょっといいか?」

「別件で3つ? なんなのさ、それ? 手短い内容なら聞いてあげてもいいけど」

 

 (手短、か〜。結構、重要なことなんだけどな〜)

 

 そう思ったが、敢えて口にせず。順を追うような形で尋ねてみた。

 

「じゃあ聞くけど、スタミナケージが僅かしかなかった割に、寒さを感じなかったのはなんでなんだ? それに、庇いながら身を隠す程に危険だったモンスターの正体とは一体……」

 

 さらにもう一つ。これもまた重要なことであったが、手短にと言うことなんで、その2つをとりあえず候補として取り上げてみた。

 すると

 

 は〜

 

 何故かセツナは溜息を漏らし、第一の質問に答える形で面前にてアイテム画面を表示させ手見せた。焚き火の炎が背景となって重なり、端から見て見づらそうではあった。が、当の本人はそのことはお構いなし。

 指先でサクッとスライドをした後、選択したアイテム名をこちらに見せてきた。そして、そのアイテム名とやらは、〝拡散ホットドリンク”。

 

 (ホットドリンクはまだしも、拡散? どういうことなんだ?)

 

 そんな聞き慣れない名称に、さらに疑問が増すばかりであった。表情をしかめ首を傾げる俺に、セツナは知って当然のように説明する。

 

「その顔だと知らないようね。まぁ、猟団に入っている者からしたら当然だけどね、知っていて」

「くっ、なんだよ、その口ぶり。俺が知らないことをいいことに」

 

 博識の俺でも知らなかったこと。そのことを棚に上げて得意気に語るセツナに、悔しさが込み上げる。だが、知らない以上、具の字も出なかった。

 けど、そのことを俺の事情を察してなのか。彼女は、軽く溜息を吐いた。

 

「まぁ、いいわ。ユウトのことだもん。理由は分からんでもないから、この際、教えてあげるね」

 

 その言葉を聞いても尚、博識だけにプライドが高いが故、悔しい気持ちはあった。けれど、知らない以上、そこは我慢するしかなく。

 

「……あ、ああ〜」

 

 渋々と言ったように、ご教授に徹した。で、セツナはそんな俺に対して、分かりやすく解説を始める。

 

「拡散ホットドリンク。んー、簡単に言ってしまえば、使用者しか効果がないホットドリンクとは違って、名前の通り、拡散。つまり、相手にも効果が及ぶドリンクのことになるかな。かなり効果範囲は限定的だけど」

 

 それを聞いて、直感的に納得。

 

「悔しいけど。初めて知ったよ、その詳細は。でも……」

 

 その反面、団員しか知り得ないアイテムとはどういうことなのか? 一般的に出回ってそうにないだけに気になってしまう。だけど、セツナは満遍なくそのことも話す。それも一言に済ます感じに。

 

「なぜ、一般的に見かけないのか? でしょ。それは簡単よ。団員限定の支給品だからね」

「な、なんだよ、それ」

 

 信じられないことに悔しいが、その言葉を聞いて合点している自分がいた。

 

「羨ましい、とか言いたいんでしょ?」

「うぐっ」

 

 まさに図星だった。そのことを察してなのか、彼女は得意気な表情を見せた。

 

「まぁ、無理もないからね。団員限定アイテムだから。ちなみに、団員達のほとんどは、普通品(ホットドリンク)なんか持ってなくて、その拡散ホットドリンクが主流だしね。だから、ユウトも――」

「断る!」

「え? まだ、何も……」

「そうやって、話の流れから誘うつもりだったんだろう? 猟団に」

「そ、それは……」

 

 今度はセツナが具の字が出なくなってしまう。その反応から、思うにそれが主旨だったのだろう。話の主旨を見抜いたつもりになっていた俺は、すぐに拒否反応を見せた。一方、セツナは戸惑いつつも、なんとか声を絞り出したようで

 

「じゃ、じゃあ、どうやってこの場を切り抜けるつもりなのよ」

「そ、それは……」

 

 打開策を示さなくてはならなかった。だけど、反射的に拒否反応を示しただけに、その打開策とやらは頭になく。しまった~、と思った。

 言葉に詰まってしまう俺の様子から、今度はセツナが反撃に打って出る。

 

「ほらっ、見なさい。全然、考えてないじゃない」

「うぐぐぐ……」

「なら、いいわ。別に入団するつもりないなら。でも、状況的に考えてみなさいよ。一人でなんとかできそうなの? 第一、さっきだって、あたしが庇わなければティガレックスの――」

「ティ、ティガレックスだと!?」

 

 そのキーワードに、ハッとなった俺は食らいつく。

 

「そ、そうよ」

 

 俺の気迫の籠った声に、少しばかりたじろいだみたいだが、セツナは即答してみせる。そのことに、俺は確認するようにして訊いてみた。

 

「じゃ、じゃあ、つい先程まであの牙獣種(ドドブランコ)を捕食していた奴が」

「そ、そうだけど……」

「え⁉︎ てことは、まてよ……」

 

 そこで口元に手を添えた俺は、思考を巡らす。湖水で見つけた謎の痕跡――〝割かれた獣骨”のことやポッケ村の麓にブランコ達、強いてはドドブランコが相次いで目撃されている情報。さらに村民から聞いた話によるどころのブランコ達は、本来、山奥に生息しているわけで、普通、人里に出ないという話。

 そして、そのことだけに、それが人里に出た。出るようになった、と考えるに……。などなど人から見聞きした話を情報整理してみた。

 すると――

 

「原因は……」

 

 と結論に達しようとして、そこでセツナがすっかり黙り込んでしまっていた俺に詰め寄る。

 

「な~に、一人で考え込んじゃっているのよ」

「いや、情報整理していたんだよ。ポッケ村から得た情報を元にな」

「あっそ。でも、まあ、別にいいわ。あたしはもう見当が付いているけどね。恐らくユウトも、そこに行き着くと思うけど」

「なんだよそれ。ったく、水くさい奴だな」

 

 と言ったものの、導き出された結論は、結局、セツナが導き出したであろう物と同じ様で、

 つまり何が言いたいのかというと、彼女が口走った言葉――ティガレックス。奴の出現がドドブランコの生息域を荒らし回り、人里近くまで追いやってしまった。

 弱肉強食の観点から、弱者は必然的に、かつ、否応なしに生息域から追い出されてしまう。まさに、そう言うことであった。

 そのことだけに、弱者側であろうあのドドブランコの死骸も、頷けるに至った。とは言え、なんか先を越された気分。あまり愉快なものではなかった。そのことだけに

 

「そんなこと、軽く考えれば分るつ~の」

「へぇ~」

「な、なんだよ」

 

 プライドが高い故に強がってしまう俺に対して、ジト目で見つめられ。思わず後ずさりしそうになった。だけど、セツナは一呼吸した後、

 

「まあ、いいわ。それより、今度はこっちから質問させて。そもそも、ユウトはなんでこんな雪山なんかに来たの? それにケインとサユリちゃんは一緒じゃなかったの?」

 

 とか言って、核心を突いてきやがった。

 

「け、ケインは一緒さ。サユリについては、その~」

 

 そう言葉を濁す俺は、あまり亡き狩友について語る気はなかった。そのことだけに、事情を知らないセツナは

 

「まあいいわ、何か色々と事情があるみたいだし。それに、一番訊きたいのはそこじゃなくて、前者の〝なんで危険を冒してまでこの雪山に来たのか?〞 だよ。オムラ村長にでも依頼でもされたの?」

「ん~、まあ、依頼されたと言えば、されたけど~。なんて言うか。その~、……うっ」

「じ~」

 

 俺の事情に心配でもしているのか、心見透かすような目つきを送ってきた。思わず身構えてしまう。そんな俺に対して、セツナはさらに追い討ちを掛けんばかりに、詰めよってきて――

 

「だー‼︎ そ、そうだよ。そうなんだよ。オムラ村長に依頼されて。だから、3人で――」

「3人?」

 

 口が滑っていた。

 

 (サユリがいない状況で3人目と言ったら、小狼しかいないじゃないか)

 

 焦った俺は、そこで誤魔化しにかかる。

 

「そ、そうだ。3人、3人でだよ。俺とケインと……」

「サユリちゃん、かな?」

「そ、そう。サユリと――」

 

 ――とその時、何を怪しく感じ取ったのか俺の心意を見抜いたセツナは、すかさずバシッと指摘してきやがった。

 

「それ、嘘ね」

「えっ⁉︎」

 

 思わず、引き攣った表情のまま凍り付いてしまう。

 

「喋り方、しどろもどろで土妻合わせしているように見えたから」

 

 そして、

 

「サユリちゃんに何があったかは分からないけど、恐らく3人目は違う人ね」

「は?じゃあ、誰と言いたいんだよ」

 

 すると彼女は少々考える仕草を見せた後、ビシッ! と指を刺して

 

「ズバリッ!! 小狼ね、3人目は」

 

 ギクリッ!!

 

「どうやら図星のようね、その様子からだと」

 

 (なんて勘の鋭い奴なんだ)

 

 彼女の第六感に脱帽してしまう。

 

「ど、どうして分ったんだよ。3人目が小狼って」

「だって、小狼って、うちの団員なんだもん。それに伊達に団長やっているわけじゃないし、あたし。メンバー一人一人の性格くらい、きちんと把握済みよ」

「な、なんてこった。」

 

 懐の深さに驚き、つい言葉にしてしまう。

 

「にしても、参ったな~。まさかとは思っていたけど、あの子が来ているとなると」

「な、なんでだよ。別に悪くないじゃん。姉に会いに信念押し通してきたんだからさ、あいつ」

 

 しかし、セツナの反応は違った様子。

 

「そこだよ、そこ」

「え?」

「小狼のお姉さん。小凜なんだけど、彼女、すごく弟想いなのよ。そんな事を知られたら……」

「知られたら?」

 

 ところが、そこから先の詳細は言わず。頭を抱えるや

 

「あ~、頭が痛くなってきたよ」

 

 気が滅入りそうだ。そう言わんばかりの憂鬱な表情を見せた。俺的には、なんのことかさっぱりであったが、セツナの反応見るからに、事態はより重たい方へと転がりそうな。そんな嫌な予感がしてきた。そのこともあってか、ぽつりと一言。

 

「責任、取ってもらえる?」

 

 と。

 

「は?」

 

 当然、理解できなかった俺は、首を傾げざるを得なくなかった。ところが、そんな俺に彼女は、とんでもない注文を。

 

「だ・か・ら、責任、取ってもらえる? あの子の面倒を最後まで見るって」

 

 その言葉に、顔を歪ませて

 

「え、え、え――!!! 何で俺が!?」

 

 小狼の姉に会わせる。ただ、それだけのために、無理強い小狼の信念というか要求を呑んだはずなのに、まさかセツナからそう言われる事態になるとは。遭難を脱した後のことを考えると、ほんと、思いやられる始末であった。

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