モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:彷徨う狩人達・5話

 山々に囲まれているとは言え、辺り一面、銀色の世界。果てしなく続く雪原は、俺とセツナをどこへと誘うのだろうか。

 先程の設営地から出立して、早1時間。行けども行けども生態マップ上の示す地形は、相変わらず平坦な等高線を描く。けれど、目星となる場所はなくはなかった。

 それは傾斜が緩くなりつつある山間にて、か細く曲がりくねった登山道が、筋を描くようにしてあったからである。縮図範囲に限界がある以上、どこへと通じるかは分からない。けど、この道の行き着く先には、何かありそうな。希望的観測を抱かずにはいられなかった。

 

「ねぇ〜、まだなの〜」

 

 ぐう垂れた様子で、後に続くセツナが不満を口にした。

 

「まだ。……と言いたいが、気になる道があるからそこへ行ってみようかと思っている」

「距離的には?」

「あと、300Mくらいかな」

 

 生態マップが示す実数値を、そのまま述べた。対して、地図を持ち合わせていないセツナは、半信半疑なのだろう。

 

「300? どう見ても、何もないようにしか見えないけど?」

「まぁ、無理もないさ。道、つっても細道みたいなものだから」

 

 彼女の言った通り、確かに道らしき道は見えない。強いて言えば、遠くにゴロゴロとした大きな雪塊が目に留まるだけ。いくら正確に記されたマップとは言え、実際にその場所まで行ってみないことには、俺としても安心できなかった。

 

「あ〜あ、いつまでもこんなとこ彷徨ってるんだろう?」

 

 変わり映えのない風景に、飽きてきたようであった。

 

「ま、モンスターの気配がないだけマシさ。特にティガレックスとかに遭遇しないだけでも」

「それは当然よ。あんなのが現れたら、ひとたまりないでしょう?」

「まぁな」

 

 ほんと、そこだけが救いだなぁと染み染み思う。もし、こんな雪原地帯に現れようものなら……。

 

(ぞっとするな)

 

 あまり、想像したくはなかった。そして――

 

 ザクザクザク……

 

 雪面を踏みしめる音を奏でること暫く。隅に小さく表示したままでいた生態マップを拡大した俺は、そこで立ち止まった。

 

「どうしたの? 急に止まって」

 

 不思議そうに言うセツナ。即答せず、そのままマップ上にて1時間くらい前まで居座っていた設営地に目印を持って来た。

 

「あのさ〜」

 

 なんとなく話を持ち出して、

 

「昨日だっけかな? 崩落現場を目撃したって言ってたよな?」

「え? あ、うん。そうだけど、それが?」

「これを見てくれないかな?」

 

 振り向くや、俺と彼女の間、平面上にマップを見開いてみせた。示した▲マーカーは、設営地の場所を示している。

 

「これは……」

「1時間前まで居座っていた設営地だな。で」

 

 マーカーが示した場所から、西南方面へと指先でスクロール。崩落地点だろうと思われる場所まで移動させてみた。

 

「多分だと思うんだけど、ティガレックスと遭遇したのがこの辺だと思うんだよね」

 

 そこはある種の渓谷みたいになっていた。片方は緩やかな斜面が。もう片方は急斜面が、それぞれ等高線の感覚からしっかりと記載されてある。

 

「ようするに崩落先、それが言いたいの?」

「まぁ、結論から言ってそうなるのかな。確認したいんだ、それが分かれば自ずと本道へ戻れそうだから」

 

 ふ〜ん、そんな風に鼻で返事すると、セツナもまた、指先を立てた。

 

「確か……、この辺りからだったかな。この方角から、崩れてきたように見えたから」

 

 (やはりか……)

 

 彼女が示した方向と俺が見立てた方向。それが一緒だったことに、一安心した。と言うのも、セツナが示した方向と言うのは、切りだった斜面がある方向――やや北西へと向けられていたからだ。

 

「ありがとう。……となると……」

 

 その方向を指先辿っていく。――のだが、そうも行かず。どう言う訳か、マップ圏外となっていた。×印が表示されたまま、しかし、確信めいていた。

 

「表示限界見たいね」

「ああ、でも、おおよその目処はついたよ。どの道、このまま細道へと入って行けば、合流できそうな気がするからさ」

 

 推測の域でしかなかったが、言い切って見せた。

 

「まぁ、あたしはユウトに任せるよ。案内役だもんね」

 

 あまり期待されたくはなかったが、ここは頷いて見せた。

 

 雪原地帯はなだらかな勾配を見せ始める。遠くに見えるフラヒヤの山嶺が視界いっぱいに見え、思わず壮大な景色にうっとりさせられそうになる。

 

「ここが、その〜」

「だな。間違いないはずだ」

 

 300M地点に記された細道。……いや、雪原地帯からの抜け道と言うべきか、俺とセツナはその入り口前に来ていた。近くには大きな雪塊がゴロゴロと点在していて、なんかの拍子にすぐ転がり落ちそうな気配を滲ませている。

 

「細道だからって聞いていたけど、なんなのこれ! ただの裂け目じゃん。狭すぎ!」

 

 そう不満を漏らすのも無理もなかった。と言うのも、細道と言うのは確か。けれどそれが、岩の裂け目みたくなっていて、人がやっと一人通れるかどうか。みたいになっていたのである。

 もはや道なのだろうか。俺すらも疑いを抱き兼ねなかった。

 

「た、確かに……」

 

 心境の表れから、顔が引き攣ってしまう。

 

「ねぇ? もう一度見せてよ、その地図」

「あ、う、うん」

 

 言われるがまま、彼女の眼下に表示して見せた。

 

「現在地はここだから……。あれ? やっぱり」

「だろう?」

「でも、地図で見たのと実際に見たのとではギャップが大き過ぎるよ。これ、紛い物じゃないの?」

「んなバカな。だって支給品ボックスに入っていたんだぜ、ちゃんと」

「え? ん〜」

 

 俺の言い分を聞いてか、難しい表情をする。一方俺は、切れ目の中を覗いてみた。中は薄暗く、一種の洞窟のようにも見えた。だが、奥が真っ暗。しかし、それでも一筋の光が見え隠れしているように見えた。

 見えて、確認した俺は、

 

「でも、ある意味、紛い物でもなさそうだぜ」

「なんでなのよ?」

「だってほら」

 

 そう言うや、彼女を割れ目の奥へと視線誘導させた。一見して何もないだけに疑う。

 

「何もないじゃない。真っ暗で何も……、?」

 

 そこで気が付いたのか、覗き見るように割れ目の中へと足を踏み入れた。そして、

 

「光? なんだろう?」

 

 その光とやらに導かれるまま、入ろうとして

 

「あっ! 危ない! 足元」

「え? きゃっ!」

 

 ドテンッ‼︎

 

 凸凹な足場だけに、張り出した岩に足を掬われてしまった。

 

「いった〜。なんなのもー!」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ、このくらい」

「そっか。でも、注意した方が良さげだな。思った以上に踏み場がなさそうだし」

 

 その視線の先、そこには凸凹だけにごまんと大小様々な岩が転がっていた。

 

「わ、分かっているわよ、そのくらい。あと、この先、続いているのは間違いないんだよね?」

「ああ、間違いないはずだ。地図に書いてあるからな。それに先程みた光の筋、恐らく裂け目の出口で間違いないと思うよ」

 

 しかし、セツナは信用しきれていない様子。

 

「あっやしい〜。どうだかね」

 

 訝しく思いつつ、気をつけながら裂け目に入って行った。一方俺も、苦笑しながらも彼女に続いて裂け目へと入ろうとした。――だがそこで、事態は急展開を見せた!

 轟かし空気を震わせる咆哮。死を匂わせ、背筋を走らせる悪寒。振り向く先には、なんと! Tレックスのような頭部にワイバーンのようなガッチリとした体躯をした、あのティガレックスがいたではないか。恐るべき光景。その瞬間

 

 (っ! まずい‼︎)

 

 本能で悟る。

 

「な、何⁉︎ 今の咆哮」

「セツナ」

「え?」

 

 そこで語気を強め

 

「早く逃げろー‼︎」

「え、ええ。な、何⁉︎」

「理由は後、いいから早く」

「な、なんなのよ。いきなり……」

 

 まさに訳が分からんとして、目を瞬いて戸惑う。無理もない、彼女からでは事態の深刻さが分からないから。仕方なしにぶつくさ文句を言いつつも、言われるがまま奥へと進む。だが、半信半疑が動きを鈍らせているのだろう。後先がつっかえているかのように遅かった。そのことに、高まる焦燥感と苛立ちを募らせた俺は、結論をビシッと述べた。

 

「ティガレックスだよ、ティガレックス! お、お、追いかけて来ているんだ!」

「追いかけて来ているって?」

 

 ドスドスドス……

 

 嫌な予感がして振り向く。すると、焦って嘘をついたつもりが、目線の先、本当に追いかけて来やがったのだ。その様たるや、舌打ちする傍ら、猪突猛進のこどくに。

 怒涛の猛スピード。視界いっぱいに迫るティガレックスに、後先つっかえるセツナを強引に押しやる。得体の知れない振動が急速に高まる中、セツナも気になり後方を振り向いた。後続にいる俺の背後、隙間から見える雪原地帯にて、そのティガレックスが猛追して来たのが見えた。

 大きく開かれた顎に、そこから見えるギラつく歯並び。それはもう、例えるならノコギリのような鋭歯を見せつけるようなもの。餌食にされたら一溜りもないだけにおぞましい死の恐怖が込み上げてくる。

 事態の深刻さを知ったセツナは、高らかに悲鳴を。脇目も振らずに全速力で割れ目の出口へと向かって駆ける。一方、俺も後に続くが、そこで――

 

 ドスンッ!

 

 割れ目に激突。顎のサイズと割れ目のサイズが噛み合ってなかっただけに、俺の眼前で阻まれた。その後、涎を垂らしながら強引に顎を入れ込んできたが、そこまで。これ以上、攻め込まれないことを知るや、肝を冷やしていただけにホッと胸を撫で下ろし――かと思いきや、一度引っこ抜き

 

「な、何!」

 

 バリ、バリバリ、バリバリバリバリ……

 

「な、なんて奴だ。どんだけ食い意地が激しいんだよ」

 

 その光景。なんと、ティガレックスはその強烈な顎にものを言わせて、強引に岩を削っていき割れ目内へ侵入して来たのである。

 

「やば! やばやばやば、セツナまだか?」

「後もう少しで……。で、出られた。ユウト?」

「俺も今すぐに――」

 

 しかしそこで、

 

 ガシッ!

 

「え⁉︎」

 

 何かに(グリーブ)の踵を噛まれた感触が。直後、

 

「う、うわー‼︎」

「きゃー‼︎ ユウトー!」

 

 叫ぶセツナを他所に、信じられない力で引き戻された。

 

 (な、なんてパワーだ)

 

 引き戻されていく中、必死で岩にしがみつこうと抵抗する。だが、奴の力は圧倒的。とうとう抵抗虚しく割れ目の外へと引きずり出されてしまい――

 

「うっ、うわ――‼︎」

 

 ブン、ブン、ブン、ブン、……

 

「うぐっ!」

 

 悲鳴と共に苦し紛れにうめき声をあげ、風を切り開いて縦横無尽に何度も何度も振り回されたのである。さらにその挙句、空高く放り投げられてしまい――

 

 (い、意識が……)

 

 強引に振り回されただけに、その反動で宙にいながら意識が朦朧としてしまう。そして、翻って見れば奴の大口が眼前に迫り、

 

 (くっ、もはやこれまでか……)

 

 避けようがない死の光景を前に、諦めかけた。――とその時、鈍い破裂音がしたかと思いきや、直後、

 

 ピカ――‼︎

 

 瞬時に眩い閃光が、視界全体を真っ白に埋め尽くす。堪らずうめき声を上げ、怯むティガレックス。方や俺は、そのまま地面に急転直下。捕食はま逃れたが、代わりに地への激突の衝撃を受けて、二、三回地を転げ回った。

 

「うつつつつ……」

 

 衝撃の重さに苦悶の表情を浮かべる。そうした中、

 

「早く! 早く! 早く急いで、ユウト!」

 

 彼女の切迫詰まったような声が聞こえてくる。

 

 う、うう……

 

 呻き声と共によろめきながら、なんとか立ちあがろうとする。そんな中、後ろを向けば、先程の閃光玉を受けて目眩を引き起こしたティガレックスがいた。逃げるなら今しかない。だが――

 

 ガクンッ!

 

 なっ⁉︎

 

 両膝に力が入らず、その場で地をついてしまった。しかも、全身に力が入りにくいことにまで同時に気付く。なんて事だろうか。先程、地面に激突した衝撃の影響で、軽くも一時的なノックダウン状態になっていたのだ。

 

「くっそ〜。こ、こんな時に〜」

 

 折角命拾いしたというのに、なんて様だ。思うように体が動かせないだけに、怨嗟を撒き散らかす。目眩状態から立ち直るのも時間の問題。それほどではないにしろ、セツナのところまではそれなりに距離がある。無理強い立ち上がって走ったとしても、恐らく途中で膝を突いてしまうのがオチ。ならば――

 

「セツナ!! ノックダウンで動けないんだ。だから奥の手を使う。これだ!! これを見てくれ」

 

 そう叫ぶや突き出したるは、右腕に装着したワイヤーガン。一方、遠くにいたため、反応に多少遅れは生じたものの、その意図を察したのだろう。

 

「まさか!」

「そのまさかだ。今からこいつでそっちに行く。だから――」

「ったく~。仕方ないわね」

 

 渋々承知したのだろう。割れ目の入り口に、セツナは立った。合図を受け、ワイヤーガンを構えた俺は、――とそこで、目眩状態でいたはずのティガレックスが、首を振って復帰。

 

「ちっ、このタイミングでかよ!」

 

 射出間際での思わぬアクシデント。だがしかし、躊躇っている暇はなかった。目を付けられる直前、

 

 バシュー!!

 

 ワイヤーガンが思いっきり放たれた。空を切り裂いて放たれた鉤爪の弾丸は、一直線上に飛び、ドスッ! と鈍い音を立て、見事、割れ目の入り口。セツナが示したポイントへと命中した。瞬間、弦が張ったかのように、ビーン!! とワイヤーが頑なに張り出す。

 

 (今だ!)

 

 開かれた顎で襲いかかると同時に、勢いよく俺は飛び出した。それもスタートダッシュの如く。直後――

 

 ガブリッ! だがしかし、そこには何もなし。

 

 獲物を捕食し損ねたことに、怒りの咆哮を上げるティガレックス。本能の赴くまま、ワイヤーガンで逃げるようにして引っ張られていく俺を相手に、猛追してきやがった。

 どっちが早いか。

 

 獲物()か、

 

 あるいは、

 

 絶対王者(ティガレックス)、か

 

 サバイバルレースよろしくの逃走劇の果て。迫りつつある雄叫びを、足音を聞き背筋に悪寒が走りながら俺は、高らかに叫んだ。

 

「うわわわわ――!!!!」

 

 もはやわめき散らす子供のよう。高速でワイヤーが巻かれ、脇目も振らず、雪煙を立て地を疾駆していく。もはや我武者羅。息をする暇もなしに、必死で。迫り来る死からの逃走劇を織りなしていく。

 

 (あと少し、後もう少しで)

 

 そう念じながら、セツナの元へ。だがそこで、またもや思わぬアクシデントが。地響きを立てて突進してくるティガレックスの影響下、なんと割れ目付近にある巨大な雪塊が、動き出しては、ゆっくりと転がり出したのである。それも、割れ目を塞がんばかりに。

 ティガレックスに追い付かれれば、待ち受けるは死。はたまた、雪塊に割れ目を塞がれては、自ずと轟竜の餌食に。どっちも願い下げだけに、

 

 (間に合ってくれ! 間に合ってくれ! 間に合って――)

 

 そう強く願った。かくして、その結末は――。

 

 雪塊が割れ目を塞ぐ間際、入り口付近で待っていてくれたセツナの手を掴んでは、ギリギリセーフ! 間一髪、なんとか隙間に滑り込むことに成功。ワイヤーを即回収し、その直後、雪塊が道を塞いでは、

 

 ドシンッ!!

 

 ティガレックスが塊にぶつかった際の衝撃音、そして、振動が鳴り響いたのみ。驚くセツナの悲鳴の傍、無事に俺はティガレックスの脅威から逃れることができたのであった。

 

「た、助かった~」

 

 今度こそ、ホッとして胸を撫で下ろす。怖い思いをした彼女は、文句を放った。

 

「助かった~、じゃないよ。こっちはどうなるかと思って肝を冷やしたわよ」

「ほんと、すまん。でも、おかげで助かったぜ、ありがとな」

「ったく~。でも、無事で良かったよ、本当に」

「だな」

 

 俺とセツナ、そこは狭いだけに足の踏み場がおぼつかない場所ではあったが、それすらお構いなし。揃って腰を抜かしてしまうほど一安心するのであった。

 

 割れ目の内側、狭く歩きづらい道を抜けた先は、やや広々とした登り道に出た。登り道は緩やかな斜面を描き、ジグザグな道筋を描きながら尾根伝いに伸びているように見える。

 背伸びをしながら

 

「やっぱり、ここが一番落ち着くわね〜。登り道には変わりないけど」

「休憩でもするか? と言っても、次の設営地まではもう少しかかるけど」

 

 そう言いながら見下ろす生態マップ上には、尾根の中腹辺りに設営地を示すアイコンが表示されていた。恐らくここが、尾根の始まりだろう。ここを起点に傾斜が登り傾向になっていた。

 

「そうだね、一休みしよっか。さっきので疲れちゃった」

「だな」

 

 同感だったばかりに、セツナの意を汲んだ。そうとなれば、俺も休まずにはいられない。なにせ、生死分かつ修羅場を潜り抜けて来たからだ。

 辺りを見渡し、適当な岩壁を見つけては背中を預け、一方、セツナは小岩に腰をかけた。ホットドリンクを飲み干し、空を見上げる。

 青空を背景に、綿雲がまばらに浮かんでいるのが見えた。

 

「まさか、こんな時に使うなんてね」

「何をだ?」

「ん? 閃光玉のこと。本来、ドドブランコ討伐戦に使うつもりだったから」

 

 手にしたままのホットドリンクを見つめながら、セツナはもの惜しいそうにしていた。

 

「でも、結果オーライじゃないか。アレがなかったら今頃俺は」

「まぁね、そう解釈してみれば、無駄にしなくてよかったと思えるね」

 

 そう言った後、グビッと一気に飲み干した。

 

「でも、閃光玉自体、貴重だからさ」

「ま〜、分からなくもないけどな」

 

 素材調合アイテムだけに、その点は頷けるものがあった。やや間を置いた後、彼女は話題を変えてきた。

 

「ねぇ、これからどうするの? 次の設営地へ向かってからさ」

「そうだな〜、とりあえずケインと合流したいけど、そっちもそっちで団員と合流したいだろうし」

「ま、まあそうだけど。でも、向こうは向こうでレイナやパパが居るから」

「パパって?」

「ノブ公。ほら、公開祭の時、あたしと一緒に司会役に講じていた」

「……ああ、あの人か」

 

 なんとかであったが、ようやく自力で公開祭の時のことを思い出した。確かにいた、確かに。ほとんど接点がないだけに、あわや存在そのものを消し去るところであった。

 

「そ、そういうこと。だから、こっちとしては大丈夫。それより、ユウトの方が心配かもね。ケインと小狼だけだとすると……」

「でも、オトモはいるぜ。何匹は」

 

 こちらとしても大丈夫だ。そう説き伏せておきたかった。しかし――

 

「オトモなんて頼りないよ。全然」

「な、なんでだよ? ジャムは分らないけど、バターとかミルクは頼れそうに見えるけどな」

 

 否定するセツナに反論をしてみせる。

 

「でも、結局はそれ、NPCじゃん。アテにならないよ、全然」

「それを言うんかい!」

 

 彼女のオトモに対する見方に、正直、ショックを覚える。反論も何も言えなくなってしまう俺に、セツナは自分の考えを押し通すかのように捲し立てた。

 

「ともかく、ともかくよ。この場合、やっぱりケイン達との合流を優先するわ。彼らのことを思うと、なんだか居ても立っても居られないし。だから――」

「そこまで言うなら……」

 

 そんな結論に行き着くなら、先に『この先、どうする?』とか言うなよな。そんな文句を言いたくもなった。俺の言いたいことを知ってか知らずか、彼女は勝手に結論を出した。

 

「じゃ、そうと決まればそう行こう、ユウト。ね、ね?」

「ったくな~。分った、分ったよ」

 

 頭を掻きながら、渋々、彼女の意見に賛同することになった。

 

 

 

 

 視界の隅に縮小されたままの生態マップが、俺とセツナの行方を記していく。設営地のある尾根の中腹までは、数百メートルほど。このまま順調に登っていけば、無難に辿り着ける手はずであった。

 そう……、そうなる手はずだったのだ。と言うのも、目の前の光景は、俺たちの行く手を阻むかのようにゴツゴツとした岩場が点在していたのである。足場が悪くて歩きづらいってイメージではなかったが、

 

 なんだろう~。

 

 大小様々な道幅あるにせよ、道中が曲がりくねっているだけに、一直線に進めるわけでもなさそうであったからだ。

 つまり、どういうことかというと、板状の岩柱があっちこっちに点在して大なり小なり起伏が。さらにはその構造上、やや入り組んでいそうな地形。そう例えるにふさわしい光景となっていたのだ。

 耳を澄ませば、遠くから鳥竜種独特の甲高い鳴き声。進めば遭遇する可能性がなきしにもあらずであった。再びマップ上に視線を落として確認してみる。

 道中に点在する、幾重にも重なる細かい繊維。それが目の前の光景そのものを描き出していた。目標地点までの道のりを辿る中、こういった地形の中ほどには、窪地らしいサークルが描かれてあった。

 

「なんだか、簡単には行けなさそうね」

 

 見渡しながら呟く。

 

「同感だ。ひとまず、中ほどにある窪地を目指すか」

「それもそうね。この場合、悔しいけどユウトに任せる。地図を持っていないあたしが口を出すのも変だし」

「それはどうも。……さて、それじゃあ、行くとするか」

 

 モンスターとの遭遇リスクはあったが、鳥竜種相手に苦労するはずないだろう。短絡的に物事を進めた。

 

 岩壁の高低差、そして、分厚さはピンからキリまであった。その中でモンスターと遭遇した際に厄介だなあと感じるのは、やはり背丈以上の高さもある岩壁に、視界を制限されることにあった。

 いわゆる、死界からの襲撃って点。いつどのような形で奇襲を受けるのか分からないリスクが、そこには潜んでいたからだ。実際に足を踏み入れて見て分かったことだが、まさに誤算と言えた。

 

「とりあえず、鳴き声のする方だけは避けて通るか」

 

 いくら雑魚モンスターと言えども、奇襲だけは勘弁願いたい。そう思っての発言であった。

 

「と言う割には、声のする方へ向かってる気がするんですけど」

「そ、それを言うなよな」

「はいはい。ほんと、分かっているんだか……」

 

 (頭では分かってるけど、仕方ないじゃないか)

 

 そう本音を口にしたくなる。と言うのも、目指すべき次なる設営地へは、ここの石柱群を抜けるしかなく。それも鳴き声のする方角にある窪地エリアは、避けて通れないからであったのだ。

 だからなのだろう。生態マップを見ていないセツナからしたら、そう指摘するのも無理もなかった。鳴き声が次第に近づいて来る中、その歩くペースも徐々にダウン。警戒モードに切り替わって行った。

 

 そして――

 

 っ!

 

 岩陰から顔を出した俺は、直ぐに身を潜めた。

 

「ど、どうしたの? いきなり」

 

 行動の意味が分からず、彼女は問うてくる。

 

「しー!」

 

 クイクイッ

 

 親指を立てて、暗黙の了解の容量で物陰から様子を伺うよう指示を飛ばす。何かいるのだろうことを察して、大したことなさそうにしつつもセツナは俺の指示に従った。ひょっこりと顔を出して、そして、そんな彼女に俺は同意を求める。

 

「な、いるだろう? 3匹ほど」

「ん〜、いるにはいるけど。なんて言うか、別にこんなところでコソコソしなくてもよくない? 相手はあのギアノスだし」

 

 姑息な感じでもしたのか、不満を口にした。

 

「それはそうだけどさ〜」

「だけど、何?」

「いや〜、なんて言うか。あそこにいる3匹だけとは限らないかと思ってな」

「え? どう言うこと?」

 

 堪らず首を傾げる。そんなセツナに、俺は推論を述べて見せる。ありのまま見た感じに。

 

「ほら、あそこに見えるだろう? 幾つか割れているけど卵がさ」

 

 そう言いながら示すそこには、箱詰め段ボールサイズほどもある大きな卵があった。示す先を視認したセツナは、再びこちらを向いた。

 

「確かに卵があるわね。でも、それがどうしたってのよ?」

「よ~く考えてみろよ。恐らくあの卵は、あいつらの卵だぜ、きっと。てことはだな」

「親が近くにいる。もしかしてそう言うこと?」

「察しがいいじゃないかよ。だからさ――」

 

 しかし、そこで反論。

 

「でも、違わなくない?」

「え? なんでだ?」

「だって~、あそこにいるギアノス達は、どう見ても生まれたばかりには見えないけど」

「そうか? 俺的には例え生まれたばかりじゃないとしても、新たに産み付けた可能性も否定できなくもないぞ」

「う~ん……」

 

 意見を言われて自分の意見に自信がなくなってしまったのか、困ったような顔をした。その気持ちの表れとしてなのか

 

「確かに……。それを言われてしまうと」

 

 と、具の字も出なくなってしまう。ただ、セツナの意見を全て否定しているわけではなかった。

 

「でも、もう一つの可能性として、お前が言ったとおりのことも考えられるかもな」

「どうしてよ?」

「う~ん、うまく言えないけど、半分はそんな気がするからさ」

「なんなのよ、それ。全然、説得力ないし」

「悪かったな、説得力無くて」

 

 彼女の意見をフォローするつもりもなかったけど、どこかバツが悪いような感じがした。

 

「ともかく、あいつらを追っ払うために親を呼び寄せることだけは避けたい。分るだろう? こんな入り組んだ地形だけに」

「まあ、分らなくもないけど」

「じゃあ――」

「で、でも、別に大したことないんじゃないの? 例えドスギアノスが来たとしても、あたしとユウトだけで片付けるくらいで、別に大したことじゃないし」

「面倒なんだよ」

「面倒い?」

「ああ、面倒い。ドスが来るって事は、恐らく他のギアノス達も自ずと呼びつけてくるはずだからさ。それに……、それにさ――」

 

 喋っている最中、ぬっと俺たちを包むかのように、背後から影が浮き上がってくるのを目にする。さらに、それに伴って、ゾクゾクッと背筋に悪寒のようなものまで走る感覚も伝わってくる。

 一方、事態に気が付いていないセツナは、不思議そうに顔を覗き込んできた。

 

「どうしたの? 話している最中に?」

 

 親指を立て、クイクイッと後ろへと示す。

 

「いる、いるんだよ、背後に」

「背後って……」

 

 気が付かないフリをしている俺とは対照的に、セツナは素直に振り向いてしまい――その表情が、凍り付いたようであった。

 

「だろう? セツナ。……セツナ?」

 

 俺も気になってか、思わず振り向いてしまった。そして、想像以上に接近されていただけに、俺もまたその瞳を大きく見開くことになった。

 

「キャ――!!」

 

 その心境を代弁するかのように、セツナは一際大きな声で叫ぶ。一方、獲物に勘付かれたドスギアノスは、甲高い鳴き声を放つや、邪魔者が現れたことに対する合図を周囲に知らしめた。

 

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