モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:彷徨う狩人達・6話

 白い肌色に濃紺色のまだらな縦筋。やや蒼白く尖ったトサカに、発達した鉤爪。それがドスギアノスの外見的な特徴である。

 けれど、そのドスランポスみたいな体形以上に、彼らの武器とも言えるものがあった。それはまさしく、ドスランポス達とは違い他の群れとの繋がりがあること。他の群れのリーダーと争わずして、群同士を統合できること、その点に尽きることであった。

 そのこともあってか、ドスギアノスの雄叫びは、群れの統合によって寄せ集められた複数のギアノス達を呼び寄せる結果を招いてしまった。

 数にして10頭以上。正直、一匹一匹片付けるよりか、そのまま石柱群エリアを抜けて設営地まで逃げた方が得策。そんな気がしてならなかった。

 

「ったく、これじゃあキリがない。セツナ、ここは奴らに構わず逃げ切った方が良さげだ」

「そ、そう見たいね。さすがにこれじゃあキリがないよ」

 

 1匹を難なく仕留めたセツナは、俺の意見に賛同する。窪地の中心地にいながら包囲されていた俺とセツナは、包囲網の間隙の有無を模索し始める。

 一進一退の攻防劇が繰り広げる最中、目指すべきは設営地へと通じる抜け道。周辺を見渡す中、そこだけ大きく削り取られたかのように、崩壊している岩壁を目にする。

 まるで何か巨大なモンスターが通過したかのような有様。そんな有様に思わずゾッとする。だがしかし、その獣道のようなルートは、設営地へと向かう道ではなかった。不気味に思う反面、正直、気にはなるが、この場合、無視しとく。

 乱戦が続く最中、遂に設営地へと通じるであろう抜け道と、包囲網の最後尾にいるギアノスに目を付けた俺は、気合い声と共に切り掛かった。

 包囲網の外側にいただけに意表でも突かれたのか、呆気に取られている間、モロに毒の刃(ポイズンタバルジン)の餌食となった。

 包囲網に穴が。先陣切って俺は叫ぶ。

 

「セツナ! こっちだ!」

「こっち、って?」

 

 視線を右往左往しながら戸惑いを見せる。そんな彼女の手を掴んだ俺は、そのまま連れて突破を試みた。

 

「ちょ、ちょっと! そっちは道じゃないって」

「大丈夫だ、俺を信じろ」

 

 立ち並ぶ岩壁のような数多の石柱群の間。そこを右へ左へと曲がりくねりながらすり抜けていく。

 一方、包囲網を突破されたことに、ギアノス達も獲物を逃すまいとして慌てたように追いかけてきやがった。だが、入り組んだ地形は彼らを阻み、思うように追跡できない様子みたい。

 

 (よし、このまま切り抜ければ……)

 

 石柱群エリアを難なく切り抜け、そのまま設営地へと目指せる目処が付いたことに期待を滲ませる

 ――とその時、ぬか喜びでもさせんとばかりに、前方から甲高い鳴き声が響いてきた。突然の事態に思わず立ち止まっては、声のした方向――前方の岩壁上を見上げて、途端、

 

 なっ⁉︎

 

 そう驚く俺の視線の先。いつの間にか回り込んで来やがったのか、あのドスギアノスがそこにいた。見下ろして獲物を睨み付けるその様は、まるで獲物を狙う鷹のよう。そこで飛び降りては、俺とセツナの前に立ち塞がった。

 その瞬間、前方にはドスギアノス、後方は迫るギアノス達の群れが。間に挟まれ、まさにサイドアタックに陥ってしまう。必然的にセツナはギアノス達の方を、俺はドスギアノスの方を。互いに背中合わせで対峙することになった。

 

「ちっ、囲まれたか」

 

 相手が雑魚とは言え、狭い地形の関係上、同時に攻められたらたまったものではない。唐突に攻められないよう、身構えて牽制する。

 そうした中、何か勝算でもあるのか、何処自信ありげな口調で話しかけてきた。

 

「ユウト」

「ん? なんだ?」

「あたし、まだ言っていなかったよね?」

「え? な、何を?」

 

 こんな時に何を言うんだ。そんな疑問が沸く。ドスギアノスから目を離さないまま、彼女は続けて話す。

 

「伊達に団長をやっているわけじゃないことを」

「そ、それがどうしたと言うんだ?」

 

 すると、武器を抜き放った効果音を伴い

 

「あたしの異名、《千刃の狩人》と言われている所以を」

「え? それはどう言う――」

 

 皆まで訊かず、疑念はさておき。そこでセツナは、気迫を放つが如く声高らかに言い放った。

 

「余裕があったら見てなさい! 多勢に無勢で真価を発揮する、このあたしの狩技を!」

 

 そして、一陣のそよ風が背中を撫でたかと思えば

 

「食らえー!! 千刃の鎌鼬(かまいたち)っ!」

 

 ドスギアノスから目が離せない中、

 

 ヒュォオオオ――!!!

 

 颯爽と駆け抜ける突風の如き風切り音が、背中を撫でた。その瞬間、直感的に彼女が群れの中へと突進していくのを察した俺は、振り向きながら叫ぶ。

 

「バカ野郎!! いくら雑魚相手でも無謀――、えっ?」

 

 そこで俺は目を疑った。なんと、そこには彼女の姿はなく。さらに群れを成して列を作っていたギアノス達が、颯爽と駆け抜けたであろうセツナの存在に気が付いていなかったのである。

 後に残るは、通過して行ったであろう軌道上にて、いくつかの旋風が残るのみ。

 

「あ、あれ? セツナ?」

 

 途端、訳の分らん状態に陥る。先程まで背中合わせで対峙していただけにだ。

 ――とその数秒後であった。っ! と驚愕に目を見開く俺の眼前、なんと! ギアノス達全員が迸る無数の斬撃と共に大量の血飛沫を上げるや、断末魔を伴って崩れ落ちたのである。

 

「こ、これは一体……」

 

 さしものドスギアノスも、これには唖然。俺もまた、そう呟いては驚きを隠せなかった。

 すると、やや間を置いた後、岩陰からひょっこりと顔を出すや、セツナが何事もなかったかのように姿を現した。ゆったりとした足取りで歩み寄ってくる中、

 

「ざっと90点てとこね。……えへへへ、驚かせちゃった?」

 

 照れくさいように愛想笑いを浮かべるのみ。一方、そんな彼女に、あり得ない現実を直視できずに困惑する俺は、

 

「えへへへ、じゃないよ。な、何をしたんだ? さっき」

 

 と問う。すると、表情を変えて平然となるや

 

「ああ、さっきのはあたしの狩技ね。千刃の鎌鼬、と言うの。でも、その前に説明は後のようね。後ろ!」

「えっ?」

 

 言われて反射的に振り向く。直後、っ! と瞳を見開いては

 

 シャー!

 

 振りかぶって襲いかかるドスギアノスに、反射的に盾を。直後、

 

 ガキーン!!

 

 くっ

 

 のし掛かる体重に歯を食いしばる俺は、まさに間一髪であった。今の今まで忘れていたドスギアノス。その意識の間隙を突かれて、危うく一撃を被るところであった。

 盾にぶつかり火花を散らした後、すっかり肝を冷やした俺は

 

「さ、サンキュー」

 

 青ざめつつも、命拾いしたことに礼を述べた。

 

「あたしも加勢するわ」

 

 対の刃――双剣を抜き放ち、すかさず彼女も応戦に乗り出す。

 

 盾を身構え迎え撃つ俺と、攻撃後の隙を突くセツナ。狭い中で繰り広げられる攻防劇の末、埒が開かないと見たであろうドスギアノス。これよがしに必殺技と言わんばかりに、全体重を掛けた一撃を見舞いして来やがった。

 大振りからの鋭爪が盾を薙ぎ、弾かれ、その反動で仰反るドスギアノス。チャンスと見た俺は、すぐに合図を送る。

 

「今だ! スイッチ」

「言われなくても。はぁあああー‼︎」

 

 気合い声と共に奴との間に躍り出るや、さらに間合いを詰め懐に。彼女の刃がドスギアノスの巨大を連続で捌いていく。

 何度も何度も切り刻み、吹き荒れた血祭りに堪え兼ねたドスギアノスは、そこで怯む。その刹那、ここぞとばかりにチャンス。

 

「うぉおおおー‼︎」

 

 雄叫びを放ち、俺もまた守りから攻勢へ撃って出る。両者の斬撃が鳥竜種の肉体を細切れにせんとばかり、切り裂いていく。

 連撃の嵐、このまま畳みかけられるか。そう勝機を見出したかと思われた。のだが、そこまで。

 体勢を立て直したドスギアノスは、すかさずそこで大きく後方へと跳躍。間合いを大きく開けるや、なんと! 3mはあるであろう岩壁上へと大ジャンプしやがった。

 逃げの一手か。そう思った矢先、いきなりセツナ目掛けて飛びかかって来やがった。

 

「セツナ!」

 

「くっ」

 

 ドスン!

 

 間一髪、彼女は飛び退いて前転をし、奴の攻撃を交わした。のだが、回避したその矢先、そこは岩壁の囲いの中。逆に追い詰められてしまった。

 

「ま、まずいわね……」

 

 置かれた状況に、舌なめずりをする。

 なんとか気を逸らさないと。ガラ空きの背後から、すかさず俺は刃を振りかざす。

 一方、対するドスギアノス。ようやく追い詰めた獲物に目掛けて、今にも襲い掛かろうとしていた。だが、俺のしつこい妨害の前に、そちらを無視できなくなり、振り返ろうと何回か小刻みに飛ぶ。その隙、セツナは見逃さなかった。

 囲いからの脱出に成功したセツナを先頭に、俺は退却の合図を伝える。

 

「やっぱりここはやり辛い。一旦、さっきの窪地まで後退するぞ」

「うん」

 

 即答する彼女も、同じ考えであった。

 

 石柱群を抜けて窪地まで後退した俺たちを出迎えてくれたのは、なんと騒ぎにか嗅ぎつけてやってきたもう一頭のドスギアノスだった。

 おまけと言っちゃあなんだが、連れの3匹もセットでだ。

 

「厄介だわね〜」

 

 セツナが言うのも無理もない。対峙する俺とセツナの後方には、先程まで接戦を繰り広げていたドスギアノスが追いつく。

 目の前のドスギアノスが吠えるや、またしてもサイドアタック的な状況となってしまった。

 しかし、今度は状況は違う。

 

「こっちだ! セツナ」

 

 そう言いながら、崩壊してできた獣道まで彼女を誘導。ドスギアノス達を視界に収めようとする。のだが、そこで逃すまいと新たに参戦して来たドスギアノスが大きく跳躍。

 

「危ない!」

 

 パッ

 

 間一髪飛び退いては、逃れる先を塞がれてしまった。

 

 (く、これでは……)

 

 歯を食いしばっては、窪地の中ほどに来てしまう。追い詰められ後退りしていく中、そこで脚に卵が当たり、一瞬、そこに気を取られて視線がそっちに。

 その刹那、

 

 シャー!

 

 鋭い爪を振りかざしては、大きく引っ掻いて来やがった。

 

 ちっ、

 

 ガキーン‼︎

 

 咄嗟に盾を構えては、火花を散らしてその攻撃を防ぐ。割れた卵の破片をジャリッと踏み付け、打開策を思案する。その中で先ほどのことを思い出す。

 

「セツナ、あの技、また出来そうか? 千刃のなんたらとか言う技を」

 

 すると

 

「む、無理よ。まだ、狩技ゲージが溜まり切ってない。それに、ユウトこそどうなの? 狩技の一つや二つ、くらいなんでも習得済みよね?」

「そ、それが……」

 

 訳ありだけに言葉を詰まらす。と言うのも、振り返ってみれば、他の武器ジャンルに手を付けまくっていただけに、扱えるバリエーションはそれなりにある。だがその反面、各部期ジャンルに対する熟練度が低く、結果的に狩技を一つも覚えていなかったのだ。

 

「まさか、全く覚えてないの?」

「あ、ああ……。そのまさか」

「え、えー! そんな〜」

 

 ほんと、こんな事になって、今更ながらやり込んできた方向性が間違いだったことに後悔する。何を言われようが、返す言葉がない。

 

「もう〜」

 

 当然、不満な顔をする。

 

「だからさっき言ったんだ。あの狩技使えないのかと」

 

 ようやく出た言葉がそれだった。

 

「じょ、冗談じゃないよ、全くぅ〜。あたしに頼りすぎだよ、ユウトは」

「ご、ごめん」

 

 とは言いつつも、その反面、そこまで頼り切っているわけではないことを、ふいに言い返しそうにはなった。

 

「謝って済めば、こんな事態にはならなかったっての。それより……」

 

 今度はセツナが周辺に視線を張り巡らす。囲まれている状況の中、隙を見て突破するつもりなのだろうか。そんなことが脳裏に過ぎった。

 ――とそこで、足下に違和感が。視線だけを逸らしては、足下に転がっている卵の方へと向けた。すると、その卵とやらがもぞもぞと動き出しているのを目にする。目にして――

 

 (こいつら、もしかして……)

 

 ドスギアノス達はこの卵を守るために、外敵であろう俺たちを排除するついでに俺らを餌食にしようとでも言うのか。そうした嫌な予感が脳裏を過ぎってしまう。だが、その予感はすぐに的外れであることを突きつけられる結果となった。

 

 パリパリ、パカ

 

 と殻を細かく砕きながら顔を出したるは、なんと――

 

「っ! ティガレックスの赤ちゃん!?」

 

 そう……、姿を現したのは、あの轟竜の赤ちゃんだったのだ。一方、セツナも俺の様子に気が付いたのか。視線の先を辿っては

 

「え? ティガレックスの赤ちゃん!?」

 

 俺と同じようなことを口走った。まさにこの瞬間、お互いに悟ったのだろうか。この場所は、要するにティガレックスの巣であること。そしてこいつらは、そのティガレックスの卵を付け狙う天敵だったことを知ることとなった。

 そして、それと同時に、恐るべき嫌な予感が脳裏に過ぎり、直後、大きく砕かれた瓦礫の獣道の向こうから、

 

 ズシーンッ!

 

 何かが降ってきたような地響きが、ハッキリと聞こえてきたではないか。目の前のドスギアノス達を度外視して、思わずそっちの方へと向いてしまう俺とセツナ。そこには、あの、あのあの、あのあのあのティガレックスが、絶大な存在感を見せびらかすかのように重鎮していた。

 

 (や、ヤバい!)

 

 途端に危険を察知すると同時に、こちらの存在に気が付いては一睨み。かと思いきや、怒号の如くそこで

 

 ガオオオ――!!!

 

 これでもかと言うほど、衝撃波を伴った凄まじいバインドボイスを放ってきやがった。一定程度遠くに居るはずなのに、その咆哮は目の前でされたかのように、耳をつんざくほど酷い有様であった。

 存在に気が付いたギアノス達は、一斉にティガレックスの方へと向く。命の危険を察知したのか。はたまた、連れのギアノスでも守ろうとしているのか。2頭のうちの一頭のドスギアノスは、果敢にもティガレックスへと。それ以外のドスギアノスと連れのギアノス3頭は、一目散に逃げようとする。

 

「さ、今のうちに」

 

 (ティガレックス)が気を逸らしているであろうその間、この場から逃げようと呼びかける。だが、ティガレックスの存在に戦慄するセツナは、金縛りに遭っているのか反応せず。

 

「おい、おいってば! セツナ!!」

「はっ」

 

 解放され我に返った彼女は、こちらを向き

 

「あ、う、うん」

 

 取り繕うように返事を。俺と共にその場から逃げようとした。直後、後方から、ギャー!! とモンスターの断末魔が。思わず振り向いてしまい、その光景に目を疑った。

 

「な、なんてこった! あのドスギアノスを」

 

 セツナもまた、衝撃のあまり開いた口を手で塞ぐ。俺たちが驚愕するその光景。それは強靱な顎とやらで、ドスギアノスをもろに噛みついては、天高く仰いでいたのである。

 四肢に力なくだらんとしている獲物は、すでに絶命しているのであろう。その嘴から舌を出しては、見事に垂れ下がっていた。

 

「に、逃げるぞ! とにかく」

「逃げるって、どこに?」

「どこって――」

 

 そこで具体案を出す直前、またもや雄叫びが。再びそちらを向くや、あのティガレックスが咥えた獲物を天高く放り出し。かと思いきや、次の獲物を仕留めるかのように怒濤のスピードで、瓦礫と雪煙を巻き上げては、早速、突っ込んできやがった。

 悲鳴をあげるセツナであったが、そんな暇はなし。彼女の手をガシッと掴んでは強引に引っ張った。

 

「早く、逃げっぞ!」

「ちょ、ちょっと――」

 

 強行な手段であるだけに、戸惑いを隠せない。彼女を連れて脇目も振らずに、俺は石柱群へと逃げ込もうとする。

 

 (あの中に逃げ込めば……)

 

 少しだけ足止めができるだろう。そう言った算段であった。ところがそこで、先に背後の異変に気が付いたセツナが叫ぶ。

 

「ユウト! 後ろ‼︎」

「え⁉︎」

 

 振り向く俺の視界を、飛び込んできたティガレックスが埋め尽くす。

 

「っ! 危ない!」

 

 ドンッ!

 

「キャー!」

 

 ズシィーンッ‼︎ ザザザザザ――

 

 思いっきりセツナを突き飛ばしては、間髪入れずに俺も飛び退く。その直後、さっきまでいた箇所にて、ティガレックスの巨体が飛び込んで来、地を滑らしては、先に逃げていたドスギアノス目掛けて襲い掛かった。

 天敵に背を向けていただけに意表を突かれたドスギアノスは、首元から噛みつかれ、断末魔をあげる暇もなく絶命した。

 

「な、なんて奴なんだ。一撃で……」

 

 物陰に隠れ一部始終を見ていた俺は、その凶暴さに戦慄する。次は俺らの番かも。そんな予感がしていたが、狙いはどうも違うらしく。そのまま、逃げ惑うギアノスへと直行した。

 そのことだけに、

 

 (逃げるなら今がチャンスかも!)

 

 僅かに生じた隙を逃すまいと、行動に出る。ティガレックスの動向を警戒しつつ、対岸にいるセツナに呼びかける。

 

「セツナ、今だ。……セツナ。おい! セツナってば!」

 

 途中からややトーンを上げてしまうが、構わず必死に呼びかける。だが、壁面に寄り掛かったまま微動だにしない彼女に、やがて不審感を抱き

 

「セツナ?」

 

 中腰のまま、そろそろ〜と、彼女の元まで行く。チラッとティガレックスの方を見たが、どうも仕留めた獲物を捕食するのに夢中らしい。こちらに気付いていないようだった。

 

「セツナ、セツナってば。おーい」

 

 しまいに体を揺すって、再度呼び掛ける始末。だが

 

「う、うう……」

 

 反応は鈍く、呻き声を上げただけだった。次いでに体力ゲージも確認し、そこでごっそりと減らされていたことを知って青ざめる。

 恐らく、飛び込んで来たティガレックスの衝撃を受けて吹き飛ばされたのだろう。深傷を負い気を失っていたことに気が付いた。

 このままではまずいとそう判断した俺は、彼女を背負う。背負っては、昨日のことを思い出した。

 

「これで2度目、か……」

 

 貸させる気はなかったが、これで俺に2回も貸しを作らせる結果となった。なってそう呟くや、急いで物陰に隠れる。のだが、その際、ジャリッ、と小石をは踏み鳴らしてしまった。間一髪物陰に隠れることはできたが、その音を察知したのか。食べることに夢中になっていたティガレックスは、そこで反応。食べることを一旦やめて、頭をもたげて振り向いて来た。

 

 ドス、ドス、ドス、……。

 

 不気味なる足音は、ゆっくりとだが確実に俺たちに近付いてくる。その最中、

 

 (このままでは……)

 

 見つかれば確実に殺される。かと言って、一刻も早く逃げ出したい。焦る心は、動いちゃダメだ、ここは堪えなければ。そんな理性を確実に押し潰していく。

 

 ドス、ドス、……ドス

 

 そこで足音が止む。諦めたのか。……いや、違う。感じる、確実に。背を預けている岩壁越しに、奴は間違いなくいることを。

 恐らく入念に嗅ぎつけていることだろう。僅かな音も立てられない一触即発の状況だ。

 ――とそんな中、彼女の意識が戻ったのか、呻き声を小さく上げた。

 

「う、うう……。あたしは、一体……」

「お、気付いたか。だが、静かに」

「え? なんで? ……っ!」

 

 岩壁の端から突き出すティガレックスの鼻先。それを見た瞬間、即座に状況を理解したのだろう。全身震え上がりを見せた。慄く中、

 

「た、確かに……」

「だ、だろう。だから……」

「そ、そうね。ともかくこの状況、やり過ごしたいかも」

 

 言い返すまでもなく同感であった。早く何処へ行って欲しい。こんな脅威を再接近で相対するのは、勘弁だ。だが、皮肉なことにティガレックスは、その場から立ち去ろうとはしない。それどころか、鼻をひくつかせては匂いを嗅ぎ分け、獲物が近くにいることを察知しているようにも見えた。

 見つかるのも時間の問題。そして、見つかり次第、喰われるのは避けられそうにない。

 

「こうなったら、やるしか……」

 

 宙に画面を表示されるや、アイテム一覧を覗かせる。一方、その様子に気が付いたセツナは、嫌な予感がしたらしく

 

「ま、まさか! ユウト、それは」

「どの道、やるっきゃないだろう。このままでは、勘付かれるのがオチだ」

 

 そう言って手にしたるは、この窮地における切り札――閃光玉であった。

 

「だからと言って、それをやったら――」

 

 アイテム画面と同時に表示してある生態マップ。それを見ながら、彼女の説得に即座に答える。

 

「走れるか?」

「走れるか、って、マジ?」

「マジ。だから……」

「じょ、冗談でしょう? あのティガレックスを相手に――」

 

 そこで皆まで言わせず。生態マップ上にて、すでに設営地へまでのルートは大体把握済みだった俺は、

 

「他に方法がないんだ」

 

 と断定。

 

「それに――、ちっ、まずい」

 

 最後まで訳を話さず舌打ちする俺は、もはやこれ以上は限界だと判断。ティガレックスの顔がぬっと出てきたタイミングで、すかさず閃光玉を思いっきり投げ付けた。

 放物線を描き、同時に、獲物を発見したことにティガレックスは雄叫びを上げるべく頭をもたげた。だがその直後、目映い閃光が炸裂。意表を突かれた奴は、堪らず怯んでは目眩を引き起こした。

 思いっきり叫ぶ。

 

「今だ! 走れ――!!」

 

 素早く立ち上がっては、全速力で駆け出す。続けて一拍遅れて、セツナは

 

「え!? あ、ああ、ちょ、ちょっと。――っ! キャ――!!」

 

 と慌てて後を追う中で後方のティガレックスを見るや、目眩状態であるとは言え奴と目が合ってしまっただけに、戸惑いとも悲鳴とも言えるような声を荒げた。

 俺とセツナ、共にもはや脇目も振らずに全速力で駆ける。駆け抜けては、入り組んだ石柱群に何度も阻まれてしまう。が、それでも構わずに全力で逃げた。

 その中で――

 

「あと、もう少しだ。もう少しで。……えっ!? 嘘だろう」

「ど、どうしたのよ。こんな時に」

 

 異変に気付いて疑問を投げかけてくる。愕然とする俺。眼前に表示されている生態マップは、設営地を目前として希望を絶望へとすり替えた。

 幾重にも重なる岩壁を交わしながら、

 

「クレパス、クレパスが設営地の前に……」

 

 そう答える俺。セツナは何のことかはさっぱりであったが、ようやく石柱群を抜けた先にて、ようやく俺の言いたいことが分ったようだ。

 

「な、何これ~! う、嘘でしょう」

「そ、そうなんだ。クレパスが俺たちの道を」

 

 そう……、それは設営地を目前にして、横に一直線、大きな亀裂が入ったクレパスが道を塞いでいたのである。

 青ざめるセツナは、俺の胸ぐらを掴んでは、

 

「ど、どうするのよ! こ、これじゃあ」

「く、苦しい~。と、ともかく放し――」

 

 そこで一旦落ち着きを見せたのか、胸ぐらから手を離す。とは言え、その表情は焦燥感を露わにしていたが。

 クレパスを見回す中、

 

「と、ともかく他に道が……。っ! あった、あの吊り橋だ」

 

 その目線の先にて、古びた一本の吊り橋を目にする。指で示した先にて

 

「あ、あれね」

 

 同じく彼女も発見したようだ。希望を見出しては、

 

「ともかく、あの橋を渡りさえすれば」

 

 ――とそこで、

 

 ガォオオオー‼︎

 

 石柱群の向こうから咆哮が鳴り響く。どうやら目眩状態から立ち直ったらしい。その咆哮は、獲物を逃すまいとした気迫に満ちていた。

 

「と、ともかく。早く向かおう」

「ああ」

 

 彼女の一声に、雪面を蹴っては急いで吊り橋へと向かった。

 

 タ、タ、タ、タ、……

 

 全速力で駆ける。しかしその後を追うかのように、石柱群方面から破壊音が鳴り響いてくる。あのティガレックスが脇目も振らずに、地形を破壊しながら突っ込んで来た証だ。

 

「急げ! 急げ! 早く」

「わ、分かってるわよ!」

 

 二人して走りながら、およそ100Mほどの距離にある吊り橋を息を切らしながら目指す。目指して、あと半分と言った距離で後ろから

 

 バゴーン‼︎

 

 突如、岩石を打ち砕きまき散らして現れるや、あのティガレックスが姿を見せた。

 

「ヤバい! もう追いついてきやがった。セツナ、早く!」

 

 やや遅れて走る彼女を急かす。一方、なんとか声を絞り出しては、

 

「わ、分っているわよ。こっちだって必死に」

 

 そう言い返した。

 

 そして――

 

 ティガレックスが獲物(俺たち)を仕留めるべく猛追してくる中、ようやく俺とセツナは吊り橋へと辿り着く。

 吊り橋はクレパスを一直線に貫いてはいるが、縄でつり上げられているせいか、渡ろうにもぐらぐらすること間違いなしに躊躇いがちになってしまう。

 だが――

 

「セツナ、お前から先に」

「ゆ、ユウトこそ」

「んなこと言っている場合か! 奴が追いかけてくるんだぞ。だから早く――」

 

 とその直後、視線をティガレックスに。そのティガレックスは一旦そこで立ち止まったかに見えたが、なんとそれはフェイク。強靱な脚力を持ってしてもの凄い勢いで飛び込んで来やがった。

 刹那――

 

「あ、危ない!!」

「キャー!」

 

 咄嗟にセツナを庇い、間一髪、吊り橋へと大きくダイブ。直後――

 

 ドシーン!!

 

 九死に一生を得ては、その一方で、今居た場所に奴が滑り込んできては、なんと! 吊り橋を支えている杭を破壊してしまった。途端、吊り橋の橋の部分が切れては、俺たちを奈落の底へと振り落とさんばかりに――。

 

「くっ!」

 

 なんとか吊り橋の縄にしがみついては、それはもうジェットコースターの様。設営地のある対岸まで振り子の如く垂れ下がり――、そこで、バンッ! と氷壁に激突。

 その衝撃はかなりのものであり、ティガレックスの脅威からは逃れることはできたものの、その衝撃を前にして共に手が滑り

 

「うわ――!!」

「キャ――!!」

 

 悲鳴を上げる俺とセツナは、揃って奈落の底へと落下してしまった。意識が薄れていく中、対岸上には、あのティガレックスが獲物を逃したことに対し、悔しそうにしている姿が目に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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