モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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2章:彷徨う狩人達・10話

 チラチラと木々の間を縫いつつ降ってくる雪の中、ようやく設営地を発見する。遠望した限り、設営地は岩に囲まれた小丘の上にあった。

 ザクザクザクと踏みしめながら眺めるが、テントらしきものはなく。降雪から凌ぐ雨宿りも見当たらない。それどころか、積雪が丘の上を盛り上げて、本当に設営地なのか疑ってしまう程の有様になっていた。

 

「ねぇ〜、本当にあそこなの?」

 

 セツナが、らしくもない設営地の有様に、少々苛立ちを募らせる。

 

「間違いないはずだ。地図に書いてあるからな」

「ふ〜ん。の割には、信頼度低いんですけど」

「なら、俺じゃなくて地図に文句言ってくれよ」

「じゃあ、見せてよ?」

「いいぜ」

 

 クルッと反転させ、全然信じないセツナに現状を見せる。徐に歩み寄る彼女は、目の前に来ると腰に両手を当てて覗きみる。

 地図の裏側とは言え、透けて見える地形には(現在地)が赤マーカーとなって色濃く表示されているのが見えた。

 まさに、その様たるや、大々的にその場所を強調しているかのようなものだ。

 生態マップを睨むセツナは、そこでため息を漏らす。

 

「見たいね」

「だろう?」

「でも、この有様だと設営地とは言い難いよね? てか、全然、休む気になれないし」

 

 クルッと地図を再反転させた後、苦笑した。

 

「ま〜な。言いたいことは、火を見るよりも明らかだしな。ともかくだ。ひとまずそこへ行こうぜ?」

「ま〜、どうでもいいけど。どの道、ユウトが頼りなんだからね」

「へいへい」

 

 空返事に近い返事をした俺は、セツナを連れて、その積雪で埋まっているであろう設営地を目指した。

 

 やはり見かけ通りであった。

 地図上には設営地と記載されてはいたが、実際には積雪でその痕跡すら感じられなかったからだ。

 足で蹴飛ばし粉雪を舞わせるセツナ。一方俺は、他に何かあるのか見渡す。

 しかし――

 

「特にこれと言ったものはなしか……」

 

 独言を呟く。とは言え、強いて言えば、何かの道みたいなのは、なんとなくだが見かけた。

 その道らしきものと言うのは、他の雪面に対してやや窪んでいて、それがこの設営地を介して何処へと通じていると言った塩梅である。

 手元に表示した生態マップ上から読み解くに、ルートらしきものは描かれていない。そのことにより、多分、獣道の類だとは思うが……。

 

「あ〜あ、つまんない。天気も悪くなって来ているから、雨宿りになる場所、見つけよう?」

 

 目ぼしい物がないだけに、飽きて来たのだろう。退屈さを滲み出す。

 

「それもそうだな」

 

 その点に関しては、同感であった。再び周辺を見渡し、改めて地図へと視線を落とす。

 現在地を基点に縮図していき、周辺に何かないかを探る。すると、家マークを発見した。

 

「そう言えば、山小屋に行った事あるとか言っていたよな? アイゼンの件で」

「アイゼンの件? ……あ〜、そう言えば。でも、それがどうしたの?」

「あ、いや、なんて言うかな。その山小屋とやら、近くにあるみたいだからさ」

「あるの? 山小屋」

「まぁな」

「じゃあ、行こうよ。早速」

「ああ、当然だ。例の小屋なのかは分からないが、行く価値はあるだろうな」

 

 その言葉を皮切りに、その山小屋へと向かう。

 

 それから程なくして……

 

 チラチラと時折降っていた雪もシンシンと次第に多くなってきた。例の山小屋まで、徒歩で20〜30分くらいかかりそうな塩梅。その間、黙々と歩き続けるのも、辛くなってきていた。

 そんな中、後ろからついてくるセツナが、トーンを高めに口を開く。

 

「ね〜、ユウト」

「あ? なんだ?」

「まだ、詳しく話してないと思うけど、なんであたしが小屋まで辿り着けたのか。まだ、話していなかったよね?」

「あ〜、どうだったか。……確か、アイゼンの入手先の件だったよな?」

「そうそう」

「でも、どうやって山小屋に辿り着けたのかなんて、どうでもいいんじゃないか? てか、このタイミングで話すのもどうかと思うけどな」

「いいじゃない。互いに沈黙を保ったままよりかはマシでしょう?」

「マシ、って言うか……」

 

 なんとも返し難いものである。正直言うと、あまり喋り合う気にはなれず、天候が悪なる一方なだけに、早く山小屋に辿り着きたいのが関の山だからだ。

 そんな思いを知らずして、セツナは詰め寄る。

 

「知りたくないの?」

「いや、別に今じゃなくてもと言う意味で……」

「どっちなのよ!」

「だから。さっきも言ったように、俺は――」

 

 ――とそこで、横槍を入れるようにして

 

「じゃあ、いいわ。聞くだけでいいから」

「っておい! 人の話を――」

「あたしね……」

 

 とかなんとか、こっちの意見を無視して話し出してしまった。

 

「ったくもう〜」

 

 (結局、ただ喋りたいだけじゃないかよ。気持ちは、分からなくもないけどさ……)

 

 仕方なく思い、頭を掻いた。その間も、セツナの話は続く。

 

「でね、彷徨った挙句、辿り着いた訳なのよ、山小屋に。そしたら――」

 

 とかなんとか、一人会話で続いた。そうこうしている間、ただ訊く分にはいいか〜的な考えに至り、自然と山小屋到着までの暇潰しとなった。

 

「だから、仕方なくね、あたしがささっと綺麗にして――あ、見てみて」

「え?」

 

 振り向いた俺は、彼女の指を差した方へと顔を向けた。次第に激しさを増して視界が悪くなっとていく中、遠方にて、遂に山小屋を発見する。

 

 (ようやく、これで……)

 

 安心感が生まれたことにより、気が緩んでしまった。一人会話に夢中になっていたセツナは、はしゃぐ子供のように俺の先を走った。で、振り向いては、山小屋に向け指を差す。

 

「早く中へ行こう! ユウト」

「んな、慌てるなって」

 

 (元気だよな〜あいつ)

 

 何処、羨ましさを覚えた。

 

 丸太ほどもある分厚い積雪が、ズッシリと屋根に乗った山小屋は、一見して木造家屋であり、今にも潰れそうな様相を醸し出していた。

 

(本当に大丈夫なんか、これ)

 

 不安が込み上げる。しかし――

 

「入ろう」

「あ、うん」

 

 抵抗感は多少あったが、促されるまま、ギー、と軋ませて中に入った。

 

 ………

 

 入ると、部屋の隅々まで外の光が差し込んでいき、それと同時に舞い上がった埃が俺たちを出迎える。

 けれど、それも一瞬。悪天候のため日差しが弱くなり、それにつられて徐々に見えなくなった。結果、内装全体を把握するには、多少、時間がかかってしまった。

 何気なく戸口を触ってみると、指先に埃がこびりつく。思うに、ここを訪れるハンター達は、滅多に来ないことが窺えた。

 辺りを見渡し、口元を歪ませる。

 

「なんか、陰気くさいとこだな」

 

 ジメジメしている訳ではないが、第一印象、あまり居心地いいとは思えなかった。

 

「これでも、一応、掃除したんだからね」

「はいはい」

 

 ごちゃごちゃと物が溢れかえる物置小屋よりかは、マシと考えるようにした。

 壁掛けトーチに歩み寄ると、ランタンアイコンが表示されたので、そっと指先を触れる。すると、ボッと火が灯り、部屋全体が明るくなった。

 奥には暖炉。そして、その手前には、古ぼけた2つのソファーが互いに向き合っていた。年季が入っているためか、所々、綿が飛び出ている。

 修羅場を潜り抜けて来ただけに、今までの疲れが一気に溢れ出た。そのこともあり、堪らず俺は、ドカッ、とソファーに腰を沈ませる。ギシギシと軋む背もたれに体を預ければ、ぼんやりと天井を見上げて、暗闇の中で何本もの柱が交互に入り組んでいるのが見えた。

 ――とそこで

 

 ポンッ!

 

 アナウンスを伝える効果音が。メッセージには、ホットドリンクの効果切れが書かれていた。

 時期に寒くなる。しかし、疲労から何もしたない気さえした。

 そんな中、何かが落ちる音がした。

 

 ん?

 

 不意にそちらに目線がいく。すると、薪を暖炉に運ぼうとしているセツナがいるではないか。薪を両手いっぱいに沢山抱えた状態で、お願いしてくる。

 

「ね〜、休んでないで手伝ってよ」

 

 しかし、疲労から来る気だるさの前に、え〜、と面倒臭い表情を。対するセツナは、

 

「手伝ってくれないの? 暖炉が使えれば、部屋全体が温まるってのに」

 

「……」

 

 その一言、その一言である。葛藤の末に俺は、意を決して心地よいソファーから立ち上がった。

 

「ったく、仕方ないな〜」

「ありがとう」

 

 頭を掻きながら、渋々、セツナの薪運びを手伝うことにした。

 大量に貯蔵している薪保管庫。と言った方が分かりやすいか。その保管庫は、ある種の収納ボックスと似通った作りをしていた。

 何本か抱えては暖炉へ赴き、薪を積み上げていく。暖炉は煉瓦造りとなっていて、幅が広く奥行きが深い構造となっていた。

 物置小屋にしては、食糧調達をしっかりと確保さえできれば、住めなくもない印象が見て取れる。

 

「こんなものかな」

「いいんじゃね」

 

 セツナの言葉に同調する。

 暖炉の開口部にて、大量に差し込まれた薪。それを眺めては、今夜辺りは寒さを凌げるだろう。そんな期待が込み上げる。

 

「あとは……」

 

 そう呟きながら、着火材を探し回る。一方、俺もまた、薪に火を起こせそうな物がないか、自身の所持リストの吟味やら周辺に散らかっている道具やらを漁り始めた。

 そんな中、ふと視線がテーブル上に置かれた物へと向く。一見して、羊皮紙の切れ端にも見えるソレ。手に取って見れば、埃を被っていただけに、手で軽く叩いてほろいた。

 

「なんだろう? これ……」

 

 巻き状にされた羊皮紙を、一旦、テーブル上に置いては、ゆっくりと広げてみた。

 すると――

 

「……これは! まさか……」

 

 描かれていたものに驚き、目を見開いた。と言うのも、そこには地図が描かれていた。それも、フラヒヤ山脈全域を網羅した地図が描かれていたのだ。

 細かな等高線は、所々、霞んではいたが、それでも十分すぎるくらいの情報材料を得た感じはあった。

 地図の端々を眺める中、

 

「これでお終いっと。あとは……、ん? どうしたの?」

 

 こちらに気が付いたセツナが、俺が何かを見つめている様子に気になりだす。ギィギィ、と軋む音を立てながら歩み寄る。

 

「羊皮紙? それも古ぼけた」

「あ、セツナ。これはな――、ってちょっと!」

 

 強引に取り上げられた。少しの間、ジロジロと眺めると、ふ〜ん、と鼻を鳴らして何かを納得した。

 

「見た感じ、地図だね。それも全体図的な」

「そ、そうだよ。それに詳しく載っている地図。返してくれ」

「はいはい」

「ったくも〜」

 

 ひらひらさせたビラを取る感じで、手早く取り返す。

 

「ともかく、重要な地図なんだ。ポッケ村へ帰る唯一の手段だからな」

「へいへい。――と、それはそうと、燃やす松明か何かない? 薪積みが整ったからさ」

「松明? ……っ!」

 

 そこで、さっきまでしていたことを思い出す。しかし――

 

「いや、見てない。俺も探している途中だったんだ」

「な〜んだ、まだ、見つけてなかったの?」

 

 ガッカリしたらしく、肩を落とした。

 

「わ、悪かったよ。気になる物があっただけに」

「いい訳はいいよ。ともかく、探そう」

「……だな」

 

 次第に肌寒くなっていく中、俺とセツナは、火起こし道具を探し始める。

 

 

 ばちばちばち……

 

 暖炉の中を、焚き火のように炎が舞い上がる。量が量だけに、その勢いは増すばかり。

 けれど、システム上のことだけに、暖炉の外へと燃え上がり火事には至らなさそうであった。

 冷え込んだ部屋は、今では暖房が効いたような塩梅で、至って心地よくなっていた。暖炉を挟んでソファーに座る俺は、同じく向かいのソファーに座るセツナと相対していた。

 そんな中、

 

 げふっ!

 

 さっきまで、暖炉を使った焼き肉セットで焼いた肉を食いまくった際のゲップが、またもや出てしまう。

 

「汚いよ〜、もう!」

「悪いな、食い過ぎたみたいだ」

 

 たらふく食べて満足した俺は、腹をポンポンと叩く。

 

「全く、加減して食べてよね。あたしなんか――、ゲプ! っ!」

 

 慌てて口に手を当てる。だが、時すでに遅し。

 

「そう言うお前だって、……ゲプッ! しているじゃないか、ゲップを」

「う、うるさいわね! ユウトよりかは、マシよ。……ゲプッ!」

 

 (何がマシなんだか……)

 

 言っている割には、かなり食べていた癖に。そんなことを口にしたくもなった。

 けれど、埒あかないことは目に見えている。だから、それ以上は、敢えて反論しなかった。

 ため息だけ漏らすと、アイテム一覧を表示させた。指先でバーを上下させながら、会話の足しになるようなものを探す。

 

「吹雪強くなって来たね」

「ん?」

 

 言われて窓ガラスの方へと視線を送った。ゴーゴー、と吹き付ける風が今現在、猛吹雪の真只中にいることを突き付けてくる。

 

「あ〜、確かに」

 

 願わくば、明日の朝、晴れてくれることを願うのみだ。

 

「これにするか……」

 

 適した物を見つけると、それをチョイス。手元に携帯食と題して、ココア入り木製コップを出現させた。

 一口二口、口に入れていく中、チラッと視線を前へ移せば、セツナが物欲しげな目線で投げかけてくる。

 

「欲しいのか?」

 

 しかし

 

「べ、別に欲しくなんか……」

 

 とかなんとか言うや、そっぽを向いてしまう。その様子にため息をつき

 

 (素直じゃないな〜)

 

 近くにあった木箱を寄せると、その上にコップを置いた。手際良く何回かタップした後、もう一回、湯気が立つコップを取り出す。

 

「ほら、飲みたいんだろう?」

 

 気軽に差し出して見せた。そっぽを向くセツナは、俺からの心遣いに視線をチラチラとチラつかせると、躊躇いがちに手を伸ばす。

 そして、俺とコップ、両方に視線を行き来させると

 

「……ありがとう」

 

 小言ながら感謝し、ようやく受け取った。木箱の上に置いたコップを再び手にして、俺もまたココアの余韻に浸る。

 湯気の向こうを覗き見るようにして聞いた。

 

「美味しいだろう?」

「……確かに、ユウトにしては上出来ね」

「畑から栽培した素材で作ったんだぜ」

「畑から?」

 

 初めて訊いたような表情を見せる。

 

「ああ、カカオの木を植えてな」

「へ〜、そんなコンテンツがあるんだ。あたしも畑拡張とかしてたりするけど、適当だからそこまでは知らなかった」

「まあ、別枠だからな。植林コンテンツは。俺も始めた頃なんて、そんなコンテンツあるなんて知らなかったし」

「え? てことは、誰かから訊いたってこと?」

「そんなとこだな。訊いたと言えば訊いたけど、ことの発端はミルクからかな、確か」

「ミルク?」

「ああ、俺とケインのオトモさ」

「なんか、可愛い名だね」

「可愛い、か。まあ、実際にミルク好きだからそう言われるようになった感じだけどな」

 

 そこまで言い切ると、残ったココアを飲み干した。

 

「さて……」

 

 特に何をする訳ではなかったが、辺りを見回す。その中で、窓の外を見れば、暴風を伴い激しく吹雪いているのが垣間見れた。

 ――とそこで、

 

「ねぇ」

「ん?」

「ミルク絡みじゃないんだけど、今の時間帯って寝るにしては、まだ早いでしょ?」

「ま、まぁな」

「そこで、なんだけど……」

 

 そう言いながら、木箱の上にコップを置くと、自身はソファーの上で横になり頬杖を。

 

「どうせ暇だから、話してくれない?」

「何を?」

「ほら、え〜と、……確か、サユリちゃんだったけかな? その思い出話とか」

「あ〜……」

 

 目を瞑った俺は、今更ながらに思い出す。

 

「後回しで話してなかったな、そう言えば」

「そうそう。だからさ」

 

 そこで窓辺の方へと顔を向けると、ため息を一つした。

 

 〝サユリとの思い出話″

 

 それは、苦楽を共にした仲でもあり、彼女自身が抱えた悲しい運命を思い出してしまうことにも繋がる、とても辛い話でもあった。

 そのことだけに、両掌を合わせて俯く。

 

「……さて、何処から話していいのやら」

 

 次へと紡ぐはずの言葉を探す。と同時に、あの懐かしい日々へと思いを馳せていく。

 そして、ようやく重たい口が開いた。

 

「サユリとの出会いは、……確か森丘のクエストを受注したことがきっかけだったかな。採掘する傍ら、ケインが好奇心で洞窟を覗いたせいで、リオレイアに追いかけられ、川に転落。……で、流れ着いた先で、サユリの叫び声を聞いて、で、な……」

 

 紡ぐ度に次から次へとサユリとの思い出が蘇っていく。

 一緒に彼女の仇であるリオレイアを討伐したこと。

 共にクエストをする中でミルクと出会ったこと。

 

 そして、

 

 ハロウィンでの思い出や最後に交わした言葉……。

 連続的にフラッシュされていく光景に、ずっと我慢していた哀しい気持ちが込み上げていく。

 

(サユリ、……サユリ、サユリ……)

 

「ユウト、涙が……」

「え?」

 

 言われて、そっと目元に手を当て、今更ながらに自分が泣いていたことに気が付いた。

 

「ほんとだ。……ふっ、俺としたことが」

「余程、いい思い出だったんだね」

 

 訊いていて何処羨ましさを滲ませる。そんな彼女に、そこは敢えて言わず。その代わり、コクリッ、小さく頷いた。

 

「あ〜あ……」

 

 内面に抱く気持ちの体現か、背もたれに体を預けた。

 

「なんした?」

「いや〜、羨ましくてね」

「なんでだ?」

「だって、あたしなんか、仲間を集めるのに必死だったから。分かるでしょ? あたし、こう見えてもAE社の社員みたいなものだし。それにデスゲームが宣告されてから、今の団を設立するまで、無我夢中だったから」

「それについては、聞くに及ばずだな。なんとなく想像つくかも」

「でしょ? だから、ユウトみたいな貴重な体験、逆に羨ましく思っちゃった」

「へ〜、珍しいな」

「珍しいって、それは違うんじゃない? ただ単に境遇が違うだけで」

「まぁ、そこは否定しないよ。ただ、珍しく思うのが意外だな〜、とね」

「そう?」

「ああ、俺が知る限りは。……つっても、ゲームショウの時くらいしか面識ないから、ほとんど知らないけどな」

 

 記憶喪失でなければ、本当は彼女のことはもっと知っていたのかもしれない。それだけに、少しだけ歯痒い思いがした。

 

「そ、そうだったね。記憶喪失、か……」

 

 一方、そのことを訊いてか、セツナは自分が記憶喪失だったことを思い出した様子で、落胆したように見えた。

 そんな彼女に、一回咳払いして気を取り直すと、今度は逆に訊いてみる。場の空気を変える意味で。

 

「なら、今度は俺からだな。訊かせてくれないか? 猟団設立までの軌跡を」

「えっ! あ、ああ。そ、そうだね」

 

 ハッとなって我に返った様子。しかし、その表情は複雑なものであった。だからなのだろう、やや節目がちになった。

 

「でも、正直、今は話す気にはなれないかも。かなり辛い思い出だし。だから――」

 

 つまり、

 

 〝未だに心の整理がつかない″

 

 そう言うことなんだろう。その想いを汲み取り

 

「そっか〜。なら、別に無理しなくていいよ。そこはお前に任せるから」

「ありがとう」

 

 それだけに留まった。

 

「にしても……」

 

 (あいつら、今頃、どうしてんだろう……)

 

 上の空で天井を見上げれば、離れ離れになったケイン達のことを思う。しっかり者? かも知れないミルクがいるから大丈夫。そう自分に言い聞かせてみるが、思えば思うほど心配になっていく。

 しかし、今はどうすることもできない。無事を祈るばかりであった。

 

 

 

 

 

 早朝――。

 

 窓辺から陽の光が差し込む中、俺はあることを気にしていた。それは、夢の中で繰り返し出てきたことと関係があること。

 

 そう……。

 

 それは、こんなにも頻繁に、

 

 〝なぜティガレックスと遭遇してしまうのか?″

 

 そう言うことであった。

 一回目に遭遇した時から今に至るまで、計3回。いくらなんでも、遭遇し過ぎだと危惧していたのである。だが、確証は得られていない。そのことだけに、憶測の範囲から脱していなかった。

 一方、セツナはと言うと、整頓して新たに設けたと言う物置部屋へと足を運んでいた。その証拠に、時折、ゴソゴソと物音が聞こえて来る。

 

 (何をさっきから探しているんだろう?)

 

 道具類が沢山あったから、此れよがしに使えそうなものがあるはず。朝っぱらからそんな事を自信ありげに言っていたことを思い出す。

 

「使えそうな物、ね〜」

 

 独白する俺は、大して期待が持てそうになかった。

 

 しかし、しかしだ。

 

 いつまでも鳴り止まない物音が次第に激しくなっていく中、とうとう自問自答の推論に耽れなくなり、遂に我慢の限界に。気が散ってしまった俺は、ソファーから立ち上がった。

 

 (何やってんだよ。もー!)

 

 苛立ちを露わに、徐に物音がする部屋の前へ。

 

「な〜、一体何を探して――」

 

 と言いながら、ドアノブに手を掛けた。直後――

 

 ドスンッ‼︎

 

 っ!

 

 中からけたたましい倒壊音が鳴り響いたではないか。流石に焦った俺は、呼び掛ける。

 

「セツナ‼︎ おい、セツナってば! おーい‼︎」

 

 すると、ぎぃ〜、と軋む音を鳴らせてドアが開く。同時にブワッと大量の埃が溢れ出てきた。

 

「うわっ! なんだこりゃ。……ゲホッ! ゲホッ! ぺっ、ぺっ……」

 

 堪らず後退りをする。そんな中、中から埃まみれのセツナが姿を現す。

 

「セツナ」

「酷い埃。でも、あったよ。使えそうな物が」

「使えそうな物?」

「うん」

 

 頷いた後、パッパっと全身の埃を払い除け、眼前に画面を表示させるや、ちょいちょいっと操作。両手には、

 

 なんと!

 

 スキー板! スキー板が2セット分。それも、見るからに年季の入った木製のスキー板が、しっかりと握られていた。

 

「スキー板? しかも、木製の?」

「悪い?」

「いや、悪いとかではなく。何故にスキー板を探し出すのかと思って」

 

 首を傾げる俺は、言葉を紡いでは彼女の意図を探って見せる。

 しかし――

 

「別にいいじゃない。ただの余興よ、余興」

「余興って……」

 

 その一言を聞いて、すっかり呆れてしまう。

 

「あのな、大体、俺たちは遊びに来たんじゃないんだぜ。てか、現在進行形で、〝遭難″、遭難中、なんだぜ。分かるか、〝そ・う・な・ん″の意味が」

 

 すると、セツナは拗ねるようにそっぽを向き

 

「わ、分かるわよ。そんなこと言わなくても」

「だったら……」

 

 しかし、そこで

 

「はい、これ」

「え?」

 

 そう訝しむ俺の眼前。そこには、彼女から差し出されたスキー板1セットがあった。戸惑う俺に、セツナは捲し立てる。

 

「だから、はい」

「はい、って……。んな物、急に貰ったって」

「別にいいでしょう? ユウトが言った通り、余興に過ぎないけど、捨てるよりかはマシでしょ? 使わなかったら使わないで、いいだけだしさ」

「……」

 

 別に減る訳でもないし、アイテムリスト圧迫するほどコストが高いわけでもない。

 けれど、ため息が出てしまった。セツナの表情とスキー板、交互に視線を動かした後、渋々、手を伸ばす。

 

「そこまで言うなら」

 

 受け取り、手際よく収納した。一方、受け取ったのを確認したセツナの方も、手元にあるスキー板をじっくりと観察。

 

「なんだか、インテリ風なスキー板だね、これ」

 

 それだけを感想として残し、さっさと収納して見せた。用が済んだ俺は、踵を返そうとし、――そこで

 

「ところでさ〜」

「あっ?」

 

 唐突に呼び止められた。顔だけ向ける俺に、セツナは尋ねてくる。

 

「気になったんだけど、ユウトの方はどうなのよ? 朝方からずっと、ソファーの上で何か物思いに耽っていたみたいだし」

「え? どうしてそれを?」

 

 俺が目を覚ました時間帯は、すでに彼女が物置き部屋へ足を運んだ時。なんで知っているんだ? そんな疑問が湧く。

 

「だって、探しながら整理整頓していたからさ。たまにはガラクタを外に出さないといけなかったから、その際にチラチラと見ていたのよ。気になって」

「てことは?」

「ほら、そこに」

 

 そう示すその場所には、いつの間にかであろうか。古臭い家財道具が山積みになっていた。

 まさに種々雑多なガラクタの寄せ集め。それを見た俺は、今更ながらに驚く。

 

「た、確かに……」

 

 口元を歪ませ、思わず狼狽えた。全然気が付かなかっただけに。

 

「で、なんだけど……。ユウトの方は、どうなの?」

「どうなのって、俺はただ……」

「ただ? 何?」

 

 詰め寄って来る。その態度を前に、仕方なしに本当のことを切り出した。第一声

 

「……これだよ、これ」

 

 サクッと操作して生態マップを表示されると、彼女に見えるように見開きページにした。

 そして

 

「ティガレックス、ティガレックスのことだよ。今までこんなにも遭遇する確率が高いのが何でかなぁとね」

 

 疑問に思っていたことを率直に述べた。

 提示されたら地図に目線を落とすと、

 

「確かに……」

 

 呟くや同感した。セツナ自身も、やはり思うところがあったのかも知れない。

 その気持ちを表すかのように

 

「今思えば、遭遇頻度が高いような」

「だろう。だからだよ」

 

 理解してくれたことに、少しばかり嬉しく思う。

 

「ん〜」

 

 腕を組み、再び考え込む。だけど、やっぱり、分からなかった。その時、彼女の指先が触れるか触れないかで、マップ上を撫でる仕草が目に映る。

 敢えて黙っていると

 

「現れた箇所が、こことここ。そして、この辺りなんだよね」

 

 そう示す箇所は3つ。最初に遭遇した設営地近くの雪原。石柱群、そして、クレパスから脱出した辺りだった。

 

「なんか気のせいかも知れないけど」

 

 と前置きした後、

 

「この3箇所、なんか位置的にも近いような〜」

 

 とボヤいたのである。気になった俺は、訊き返す。

 

「近い? どう言う……」

 

 するとセツナは

 

「そのまんまの意味よ。大雑把に見た限りでしかないけど」

 

 と曖昧な返答をした。

 

 (大雑把、ね〜)

 

 そこで俺は、もう一枚の地図を提示して見せた。もう一枚というのは、羊皮紙で施されたフラヒヤ山脈全域を網羅した地図のことを指す。

 そんな地図を、さりげなく生態マップに重ねてみた。すると、二つの地図が点滅しだすではないか。

 

「なんだ⁉︎」

 

 初めての反応に、俺とセツナは固唾を飲んで見守り。点滅しだす地図は、重なるように合体。新たな地図を生み出した。

 直後、

 

『地図レベルが上がりました!』

 

 そんなメッセージが表示されたのである。まさに初めての現象。

 

「これは……」

 

 俺たちは驚いた。

 

「ユウト」

「あ、う、うん」

 

 手に取って見る。第一印象、地形がはっきりと記載されたこと。現在地が記されたことくらいで、いつもの生態マップと対して変わりないように見えた。――のだが、

 

 ん?

 

 見覚えのないメニューが追加していることに、気が付いた。

 メニューバーは閉ざされており、興味本位でバーの真ん中に表示してある▲アイコンをスワップして見せる。

 スライド形式に表示されたバー。そこには、いくつかの項目が記されていた。

 中でも気になったのは、先程から俺自身、推論を並べていたものと合致するかのような項目――〝テリトリー区分″だ。

 テリトリー、という事は、要するにモンスターの縄張りであり行動範囲のことを示す、で間違いないはず。と言うことは、=ティガレックスのテリトリーも表示されるに違いない。

 そう確信めいた。だけど、なんだろう。その項目を選択しようとした瞬間、嫌な予感が背筋を走った。

 

「どうしたの?」

 

 固まる俺を心配してか、セツナが声を掛けてくる。

 

「あ、いや、何でもないんだ。なんでも……」

 

 (気のせい気のせい。そんな訳ないよな)

 

 自分に言い聞かせて、躊躇いがちにではあるが選択した。縄張りを示す赤ラインが広範囲に渡り表示され、そして、その悪夢は現実のものとなってしまった。

 

「ま、マジかよ……」

「どうしたの? ……え? これって」

 

 僅かなタイミング差で、セツナも察したらしい。そう、俺たちのいる山小屋は、まさに

 

 〝奴の縄張りの真只中″

 

 だってことを。

 つまりは、いつ、どこで、襲われるか、分からない状況下にいたのである。

 まさに、ティガレックスに取っては、俺たちはただの袋のネズミでしかなかったのだ。

 

「セツナ」

「うん」

 

 急いで逃げた方がいい。それも、縄張りの外へ。

 慌てて身支度を開始する。そうした中――

 

 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ――――‼︎

 

 突如、タイミングを見計らったかのように地響きが。それもけたたましい地響きが、鳴り響いてきたのである。

 

「な、なななな――」

 

 大地震に見舞われたかのような振動。堪らず、バランスを崩しそうになり木箱へしがみつき。そして、窓の外へ視線を投げかけ、そこで――

 

 っ!

 

「伏せろ‼︎」

「え⁉︎」

 

 バッ!

 

 窓の外から迫る脅威に、咄嗟に体が反応。彼女を庇うかのように覆い被さり、その直後、

 

 ズシ――ン‼︎

 

 壁を突き破っては、巨大な氷塊が飛び込んできた。それも、二つ同時に。

 綺麗に片付けられた談話室は、一瞬で瓦礫の山と化す。彼女の努力の賜物が、一瞬で水の泡と化すようにして……。

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