モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:燃える夜空へ・1話

 

 

 時は遡り、ドドブランゴ戦の直後――

 

 

 濃霧の海に向かって叫んだ後は、虚しい限りの静寂が残った。時折、吹き付けるそよ風が、顔を柔らかく撫でては、優しく奏でる。

 やり場のない想いが渦巻く。それは、親友を失ったことに対する失望感、そして、助けられなかったことへの無力感。それらがケインの胸中に渦巻いていたのだ。

 そんな彼は、握り拳を強く固めては吐き捨てる。

 

「くっそー! なんでこんな事に」

 

 複雑に絡み合う感情。それらが徐々に一点にだけ集約して行くと共に、怒りの感情が昂って行く。

 他者にぶつけるべきか。あるいは、自分にぶつけるべきか。二者択一の捌け口。

 しかし、怒りの感情に駆られるケインは、迷うことはなかった。

 

「おいっ! てめぇ〜」

 

 語気を強めては、凄まじい限りの剣幕。その矛先は、フラヒヤ山脈へと足を踏み入れる要因となった小狼へと向けられていた。

 今にも殴り倒したい衝動に駆られる。先に危機を察知したのはミルク。続けてジャムも、遅れてケインの説得に向かった。

 他方、バターは小狼のオトモだけに、彼の前に立つ。

 

「邪魔だ‼︎ どけぇ――!」

「どかないにゃ! どかないにゃ、絶対に」

「私もだにゃ」

 

 しかし、ケインは

 

「片棒担ぐ気か! お前ら。あの野郎を1発ぶちのめしたいんだよ、俺は」

「ダメだにゃ、それは」

「暴力反対だにゃ」

 

 結果が最悪の事態を招いてしまったことは、ミルク、ジャムも同感なのだろう。それだけに、彼らの強い決意が瞳に宿っていた。

 けれど、その2匹以上に固い絆で結ばれた親友だっただけに、ユウトを失ったケインのやり場のない怒りは、収まるところを知らない。

 いや、それどころか。

 2匹が説得しようと、ケインの前に立ちはだかっただけに、それが逆に怒りを掻き立てる結果を招いてしまった。

 目が血走った上に、さらに語調を強めて

 

「んなの関係ねぇ! いい加減、離せ! 邪魔だ! どけ――‼︎」

「ふぎゃー!」

「へぶ〜!」

 

 手で払うなり蹴飛ばすなり、もはや強行に打って出る。更なる危機感を抱いたバターは、大の字になって受けて立つ模様。

 

「小狼、逃げてにゃー!」

 

 しかし、時は遅く。直後、バターをも躊躇なく蹴飛ばすなり、これから逃げようとしていた小狼の胸ぐらを掴んだ。

 そして、ありったけの思いをぶつけんばかりに怒声を放つ。

 

「この野郎ー‼︎」

 

 ボカンッ‼︎

 

 力強く握られた拳が、まさに顔面クリーンヒット。勢いが勢いだけに、2メートル近く吹き飛んだ。

 これで気分が晴れた。かに見えた。がしかし、その勢いは留まるところを知らない。

 先の殴打で体力ゲージを1割弱削られ、地に倒れた小狼。彼に向かって、有り余る怒りの限りを今度こそ発散すべく詰め寄る。

 ――とそこへ、

 

「やめるにゃー‼︎」

 

 バッ、

 

 背後から飛びかかるや、ジャムが。

 

「な、なんだてめぇ〜」

 

 とケイン。続けて、ミルク、バターがケインの両足に飛び付いては、一時の枷となる。

 堪らず暴れ出すケイン。

 

「離せ! 離せってば! このネコどもー!」

「ふぎゃ〜」

 

 巻き込まれては、ジャムが再び吹き飛ばされる。何回か雪面に転がっては、だがしかし、諦めず。

 

「こうなったら……」

 

 何をしよう。なんと小タル爆弾を現出。自動点火するや

 

「少しは冷静になるんだにゃー‼︎」

 

 と突進。ミルク、バターに巻き付かれて身動きが取れないでいたケインは、

 

 ドガ――ン‼︎

 

 そのまま爆発の餌食となった。吹き飛ばされ、何回か転げ回った後、それから程なくして――

 

「う、うう……」

 

 ようやく意識が戻り、呻き声を上げては静かに瞳を開ける。

 視界がぼやけていたが、次第に鮮明となっていき、そこにジャムの姿が。顔を覗き込む彼の姿が目に映る。

 

「お、俺は……」

 

 すると、

 

「やっと気が付いたかにゃ」

 

 そして、

 

「ちょっとは、冷静になれたかにゃ? ケイン」

「冷静って……」

 

 爆発の影響によるものか、前の記憶が不鮮明。けれど、それも一時的。

 

「そうだ! 俺は……」

 

 ふと思い出し、小狼に食って掛かったのを思い出した。思い出して、それで当の本人を視界に収めた。

 一方、小狼は俯きながら頬に手を当てて、スリスリしていた。相当、先の一撃が効いたのだろう。その表情は、バツが悪く節目がちだった。

 感情を取り戻したケインは、けっ、と一言吐き捨て

 

「殴る価値ねぇや。もう……」

 

 興が冷めただけに諦めた。

 

 ふぅ〜。

 

 そんな彼の様子に、周辺にいたオトモ達もようやく一息着く。

 そんな最中、バターは小狼に寄り添う。

 

「本当に大丈夫かにゃ?」

 

 すると、コクリッ。口にするまでもなく再び頷いた。

 けれど、その様子だと、意志とは反して精神的なダメージは相当きているみたいであった。

 そんな二人の様子を遠目で見ていたケインは、苛立ちを見せる。

 

「そんな奴、構うんじゃねぇよ、バター」

「ケイン……」

「だいたい、てめぇが無理強い俺たちを巻き込まなければ、こんな目に遭わずに済んだんだよ。それに、第一、考えなかったのか? なんで姉達がお前だけを残していったのかをよ」

 

 すると、無言ながら手先を器用に動かしては、手早く文字を書き起こす。

 だけど、その行為に苛つくケインは、ここぞとばかりに吐き捨てた。

 

「ちっ、ちっとは自分の口で喋れや。このコミュ症が……」

 

 途端、その禁句が耳に入ったのだろう。

 

「小狼?」

 

 いきなり立ち上がる小狼に、バターは心配になって声を掛ける。

 そして、そっぽを向くケインを他所に

 

「どこ行くんだにゃ?」

 

 唐突に行先不明で歩き出す彼に、バターは尋ねた。その様子を小耳に挟んでいたケイン。

 

「勝手にしろや」

 

 どうでもいいようにセリフに出した。

 当てもなく歩き出す小狼。彼に着いて行くバター。そして、その様子に戸惑いを見せるジャムにミルク。

 離れ離れになっていく両者に堪えかねたジャムは、小狼を説得するようケインに促す。

 

「ケイン、小狼が……」

 

 しかし、ケインは別にどうでも良く。

 

「どうせ、一人で姉を探しに行くんだろう? 勝手にしろや」

「ケイン……」

 

 それ以上かける言葉が見つからないのか、ジャムはもどかしさを滲ませる。

 一方、ミルクは、このままではまずい。そう現実的に考えていたことにより、ケインに置かれた状況を鑑みて説得に出る。

 

「ケイン殿、小狼に謝るにゃ。このままだと彼が……」

 

 だが、ケインは

 

「なんで俺が、あんな奴なんかに」

「いいから、謝るにゃ。それに、ケイン殿は小狼に禁句を言っちゃったにゃ。だから――」

「禁句? ……ふんっ、知るかよ、んこと。俺はそれ以上に許せねぇんだよ、あいつが」

「けど、それでもにゃ。彼がいなくなったら、どうやって下山するんだにゃ? 地図持ってないだけに」

「うるせぇー‼︎ んなこと、もうどうでもいいんだよ。俺はもう失ったんだ。体の半分を、心とやらをな! 死んだようなものだ、俺は」

「ケイン殿……」

「さっきも言ったが、勝手にしろってんだ。ったく……」

 

 もう顔も見たくない。そんな嫌悪感で、いっぱいいっぱいだった。

 

 やがて、小狼の姿が消え、後に残されたのは自分を含め、ジャム、ミルクの両名だけどなってしまった。

 曇天からチリチリと雪が降り始める。当然であるが、ホットドリンクの効果はとうに消えていた。

 寒さで身に染みるのを全身で感じてくる。特に寒波が吹き付ければ、それが増長されて堪え難い。

 その事により、仕方なしにホットドリンクを手にしたケインは、そのまま躊躇いがちであるが使う事にした。

 結局は一時凌ぎであるが、寒さのあまり思考が回らなくなるよりかはマシであった。

 辺りを見渡すジャムに、ケインの隣に居座りぼんやりと景色を眺めるミルク。今となっては、その2匹だけが自分の中での居場所でしかなかった。

 

「これからどうするんだにゃ?」

 

 ミルクが素朴な疑問を投げかける。

 

「どうすっかな……」

 

 特にアテもなかった。下山するにしても、肝心な生態マップは所持してないから帰る手段はない。かと言って、小狼を追い払ってしまったような形だっただけに、今更、彼を探すのも億劫だった。

 友を失い、怒りも消え失せ。さらには寂しさだけどなってしまったケインは、眼光が消え失せ、まさに放心状態だった。

 

「とりあえず、来た道を辿ればいいんじゃないかにゃ。今まで道草してきたわけじゃないしにゃ」

 

 すると、景色を眺めていたジャムが否定する。

 

「それは無理だにゃ」

「え? なんでにゃ?」

 

 聞き捨てならない言葉に、ミルクもケインも、揃ってそちらを向く。

 

「あそこを見るんだにゃ。あそこを」

 

 示された先を見る。

 ドドブランゴ戦の末に崩壊した箇所が以外に広がったこともあり、下山ルートへと導く縁までの道筋が途絶えていた。

 

「げげ……」

 

 思わず表情を引き攣らせるミルク。対するケインは、生きる意味を失っていただけに、そんなことはどうでも良かった模様。

 目線だけ向けていたが、すぐに俯いては地面に指先を当て、モジモジと落書きを始める。

 何かを意識して描いてはいない。けれど、そこには自然とこんがり肉が描かれていた。

 

「今後、どうすっかな〜」

 

 どうでも良い気持ちから、ぼんやりと呟いてみせる。他方、ミルクはジャムに向かって話す。

 

「てことは……」

「帰る手段は、どうもこのまま先へ行く以外になさそうだにゃ」

「でも。でもでも、それでも帰れる保証は?」

「……正直なところ、実際にはないにゃ。だから、結局、(小狼)を探すしかなく……」

「そっかにゃ〜」

 

 トーンを落とし、現状を鑑みてミルクは落胆したようであった。ケインの表情を伺うように、ちらちらと忙しなく目線を配る。

 そして、含みを持たせて問うた。

 

「ケイン殿……」

 

 しかし、

 

「イヤだね、俺は。あんな奴を探すくらいなら」

 

 とそこで、ミルクの代わりにジャムが諭す。

 

「でも、いくらなんでも下山する手段がないにゃ。それとも、ここで本当に凍え死ぬつもりなのかにゃ?」

「……そ、それは……」

 

 項垂れ見つめる先、そこには自身が描いたイラスト(こんがり肉)があった。

 このイラストを描くと言うことは、他人に指摘されるまでもなく自身の気持ちの現れ。

 つまるところ、アツアツの飯にありつきたい。結局のところ、仮想世界には代わりないが、美味い飯にありつきたい。そう言った、心象風景を醸し出していたのだ。

 次なる言葉を紡げない中、アイテムリストを表示させる。いくつか回復関係のアイテムはあるが、スタミナを上げる肉類は、こんがり肉2つ、携帯食料が3つくらいと少なめ。腹を満たすには、全然足らなそうだった。

 鱈腹飯にありつきたい。しかし、アイツとは、二度と顔を合わしたくない。

 そんな葛藤が心の面で渦巻いていた。そんな中、

 

「どうしても、行く気ないのかにゃ? ボクは早く下山したいにゃ。こんな寒いところ、長居したくないにゃ」

「それには同感だにゃ。ケイン……」

「……あーもー‼︎」

 

 そして、

 

「分かった。分かったよ、ったくよー!」

 

 2匹の気持ちを聞いてか、悩んだ末にもはやヤケクソ。渋々、立ち上がっては、付いた雪をほろいた。

 

「探せばいいんだろう? 探せば!」

「ケイン殿……」

「だがな、その代わり、無事に下山できたらアイツとは、これっきりだからな」

「ありがとうにゃ」

 

 とミルク。

 

「ったくよ〜」

 

 頭を掻く。

 正直、結論を出し切れず意に反してはいたが、二匹のため重い腰を上げたケインは、ようやく小狼を追い求め歩き出した。

 

 それから暫くして――

 

 小狼の向かった先を推測しながら歩いていたケイン一行は、そこである問題に直面していた。と言うのも、結論から言って、彼の足跡が途切れていた。

 今までずっと、くっきりと残されていただけに、崩落した雪塊に阻まれ、肝心な足跡が掻き消されていたのだ。

 

「まさかな〜」

 

 この岩ほどある雪塊の崩落に巻き込まれた。そんな感じで、皮肉ながら嫌な予感が過ぎった。

 縁の方へと歩み寄り、崖下を覗く。まぁ、案の定だが、やはり濃霧の海面で満たされていた。

 そんな時

 

「ケイン殿、こっちから通れそうだにゃ」

 

 雪塊と崖の僅かな隙間を見つけたミルクが、ケインを呼ぶ。人一人がようやく通れるか通れないかの隙間。そんな隙間に入りかけた状態で呼んでいた。

 

「他に向こうに行く手段は無さそうか……」

 

 確認した後、ミルクの方へと歩み寄る。

 

「ずいぶん狭いとこ入り込んで」

「先へ行けるとしたら、見た感じ、ここくらいなものだから……」

 

 それを言われ、改めて崩れた雪塊周辺を見渡す。

 

「確かに……」

 

 それ以外でも、行けそうな箇所があるにはあるが、なにせ崖っぷちまで崩落が続いている。その点を踏まえると、とてもじゃないが、リスクを冒して行く気にはなれなかった。

 隙間の奥から、ミルクの先頭を歩いていたジャムの声がかかる。

 

「ミルクにケイン、外に繋がって居るみたいだにゃ」

 

 その声に反応して、二人は揃って中を覗く。薄い光が反射して、氷のトンネルをやや明るくしていたが、奥は薄暗くて見えにくい。

 そして、当のジャムの姿も見えず、と言ったところ。でも、

 

「繋がっているんなら……」

 

 中に入るミルクに続けてケインも中へ。結局のところ、進まないことには変わりなく。横一列から中腰にかけて、奥へ奥へと歩を進ませた。

 中腰のまま暫く進む。やがて、遂に出口を発見。ケイン達一行は外に出られた。――のだが、最初に気が付いたことがあった。

 

「ここにもないのか……」

 

 ポロリと口にする。と言うのも、小狼の足跡、それが崩落現場から先のこの場所でも、結局のところ、見当たらなかったのである。

 

「どうしたのかにゃ? ケイン殿。ないのかって……、っ! もしかして」

「ああ、憎いがアイツのな」

 

 そこでジャムも、言われて気が付いたらしく。

 

「確かに、それらしき痕跡が」

「だろう」

「てことは、本当にまさか……」

「分らない。だが、これだけは言えるな。この場所で何かがあったと言うことをな。俺にとっては、ざま~見やがれだがな」

「ケイン殿!」

 

 語気を強めるミルク。

 

「仕方ないじゃないか。割り切れないんだよ、アイツが俺のダチを直接キャンプ送りにしていないことは分っていてもよ」

 

 そう、そう心がどうしても許せない。頭では、小狼が直接殺した訳ではないことを知っていてもだ。だからこそ、そう言いたくなってしまうのだ。

 

「二人とも、もうその辺にしておくのにゃ。それより、天候が次第に悪くなってきているにゃ。早く設営地かどこか探さないと、このままでは」

 

 言われ、見上げては、どんよりとした雲。そこから降ってくる雪の量が、先ほどよりも一段と多くなっていることに気が付く。

 

「ふん、それもそうだな。……悪かったな、ミルク。お前は関係ないんだしな」

「……それを言うなら、ボクこそ。ケイン殿の気持ちを察しきれなくて」

「まあ、この話はここまでにしようぜ。それに……」

 

 そう言いながら、両手を頭の後ろへ。気楽そうな態度を見せたケインは、いつの間にか縁の方へと移動。続けて――

 

「ともかく、この天候だ。早速、探そうぜ、設営地とやらを」

「うん」

 

 とミルク、頷くだけのジャムの両名。そして、ケインが二匹の先頭に立とうとして、歩き出そうとした。

 その時――

 

「うわっ!」

 

 ヒュン――!!

 

「ケイン!!」「ケイン殿!!」

 

 二匹の声が同時に。その場所が雪庇だったことを知らずに足を踏み出していたケインは、不運なことにそのまま濃霧の底へと吸い込まれてしまった。

 

 

 

 

 暗闇の中に、薄らと橙の灯火が灯る。

 その仄かな光は朧げな様相をしていたが、次第に鮮明に。やがて、その正体が岩肌に反射した反射光だと認識できるまでに至る。

 

「う、うう……。ここは……」

 

 呻き声を上げて、ゆっくりと視界を開いていく。すると、ひょっこり。モスフェイクを装備した狩人が、視界の隅から現れた。

 

「よっ、気が付いたか?」

「どわ‼︎ ななな、な、なんだ⁉︎」

 

 急に現れたことに吃驚仰天。飛び跳ねるかのように、尻込みしながら後ずさる。

 狼狽するケインに、J.Oは溜息を漏らす。

 

「んな、極端に驚かんでも……」

「お、驚くわ! そんな面を被ったのが、いきなり現れたら」

 

 そして、周りを見渡して

 

「それよりも、ここは一体……。確か、崖から転落して……」

 

 記憶を辿り経緯を組み立て行く。そんなケイン。すると、J.Oの陰からもう一人。……いや、さらにもう一人が姿を現した。

 先に現れたのは、目がキリとして、それでいて凛とした顔立ちをした狩人。鋭い眼光を称え、何処威圧間を滲ませていた印象を伺わせる。

 一方、後から現れた狩人。こちらは後ろで翡翠の髪を束ね、肩まで伸びたロングヘアー。そして、何処ほんわかしている印象を裏付けるかのように、恍惚な瞳を宿した麗しき女性だった。

 二人の特徴を一括りにすれば、〝対称的”それに近そうだ。

 先に現れた狩人は、警戒しながら自己紹介をする。

 

「この際だから、先に名乗るアルネ。私は小凛(シャオリン)アルネ」

 

 その名前を聞いて、ハッとしたケインは、心中、やや動揺が走る。

 

 (小凛! こいつが、あの小狼の……)

 

 続けて、小凛とは対称的な印象を与える狩人が、包容力たっぷりに。それはもう、聞いていて溶ろけそうな感じに自己紹介をしてきた。

 

「そ〜し〜て〜、私が、レイナ、で〜す♪ 宜しくね、迷子のハンターさん♡」

「ま、迷子って……。っ!、お、おほん! と、とりあえず、俺からも自己紹介だ。ケイン、ケイン=フレンディアだ。宜しくな」

 

 思わずレイナの溶ろけそうな雰囲気に飲まれかけたが、相手から先に自己紹介をしてきたんだ。

 気を取り直し、ひとまず自分からも名乗った上で、友好の手始めに手を差し出す。

 2人は顔を見合わせ、そして、先に手を差し伸べたのはレイナだった。両手で優しく包み込むように、差し出した手を取る。

 

「こちらこそ〜」

 

 一方、警戒しているのか、小凛は遠慮するに留めた。続けてレイナは、何処間延びしたように話をする。

 

「と〜こ〜ろ〜で〜、ケインさんは、どうしてこのクエストに? 天候も、コロコロ変わって大変だろうに」

 

 すると、

 

「あ、いや〜、なんてかな。俺と連れの3人で受注したんだ。小凛に会わせるためにな」

「私にアルカ?」

「ああ」

 

 そこで、どうするのか迷った。この際、話すべきなのかどうかを。

 しかし、

 

「小狼があんたに会いたがっていてな」

「小狼が⁉︎」

 

 すると、途端、小凛は血相を変えた。その表情には、苛立ちも滲ませ、胸に当てた拳に力が籠る。

 

「あ、アイツ……」

 

 一方、レイナからは、少し驚いた様子。

 

「まぁ、あの子が」

「レイナさん、そこは怒るアルネ」

「けど〜、だけど〜、それって勇気ある事じゃない。きっと〜、必死なんだよぉ」

「しかし……」

 

 口を籠らせる小凛は、レイナの言い草に複雑な心境を抱いたようだ。レイナは伺う。

 

「それで、ケインさんでしたっけ? あと1人の連れと言うのは、……もしかして、ユウトさん?」

「そうだけど。……てか、なんで知っているんだ? あんたとは、これが初対面だと思うけど」

「だって〜、前から2人のこと知っているもの。ほら、あの時の公開祭で行われた、焼き肉早焼き大会のランキングで上位に載っていたから。だから、そこで気になっちゃって~」

「あ~、なるほどね」

 

 とは言え、自分ではそう納得したように返すが、内心、そこまで気になるものなのかな〜、と不思議に思っていた。

 また、いくらランキングにユウトと共に載っていたからと言っても、必ずしも相方とは限らないだけに尚更である。

 ようは、彼女の理由が、どこか腑に落ちない。そんな違和感が僅かにあった。

 

「一体、何事ですかにゃ?」

「あら、ブレット君。起きてたのね」

「と言っても、たった今だけどにゃ。それよりも、この方は?」

 

 洞窟の奥、暗がりからよちよちと現れたのは、ブレットと呼ばれた黒毛のメラルー。獣人族にしては珍しく、銀プチメガネがチャームポイントのオトモだった。眠たそうに目を擦り姿を現しては、ケインを取り囲む輪の中へと歩み寄る。

 レイナの代わりに、小凛が素っ気なく答えた。

 

「遭難者アルネ」

「遭難者?」

 

 そして、レイナが捕捉。

 

「そうなのよ~。仲間とはぐれたらしくてね」

「いや、仲間というか……」

 

 言葉を詰まらすケインは、曖昧な状況下に戸惑ってしまう。と言うのも、レイナの言っていることは半分的を射ているようで違うようなもの。

 しかも、小狼とはユウトをキャンプ送りにさせる切っ掛けを作ってしまっただけに、毛嫌いする対象。到底、狩友と言えるようなものじゃなかったからだ。

 

「アレ? 違うんですか~?」

 

 意外だっただけに、少し驚いたような表情を見せた。

 

「あ、いや、違う訳ではないけど……」

「ふ~ん……」

「う、うう……」

 

 戸惑う俺に顔を覗かせてくるレイナ。興味本位で見られているような感じで、相手の顔をまともに見ることができなかった。

 そんな中――

 

「やめなアル、レイナさん。本人、困っているじゃないアルカ」

 

 それを言われ、一息着くや

 

「……そうだね。ま、何か事情でもあるのかも知れないわね。ごめんね~、ケインさん。余計なことを訊いてしまって」

 

 そう謝ると、それ以上は詮索しないでくれた。このことに、緊張の糸がほどけたような気さえして、

 

「いや、別に謝らなくても……」

 

 どこかこそばゆい感じはした。けれども、その反面、ホッと胸を撫で下ろす自分がいた。その最中――

 

「あのさ、いいかな?」

 

 ん?

 

 横やりを入れるかのような言葉、皆の視線がJ.Oに集まる。続けて、彼は――

 

「取り込み中に悪いけどよ。それより、どうするんだ? 小狼(アイツ)はよ。それに副団長とやらも不在だし」

「そうね~」

 

 とレイナ。どこか上の空で考え事する仕草を見せた。一方、ブレットは銀プチメガネのブリッジにネコ手を当て、眼鏡を白く反射させた。

 

「僕の論ずるところに、これは探した方がいいかなあとにゃ」

 

 ――とそこで、ケインはあるキーワードに反応する。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待った! さっき、副団長がどうとかって……」

「そうアルけど。それが?」

「てことは、何か? あんた達は、もしかして――」

「あら、自己紹介がまだだったわね。私たちは~」

「猟団・蒼天の翼」

「のメンバーだにゃ」

「ちなみに、俺は新入りだけどな」

 

 レイナ、小凜、ブレット、続けて、自己主張のJ.Oから発せられた事実。今更ながらに、ケインは団員達に囲まれていたことに、ようやく気が付くのであった。

 そして、フラヒヤ山脈から未だに帰還していない猟団とは、恐らく、……いや、間違いなく、彼らであると言うことも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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