モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:燃える夜空へ・3話

 事情は理解したものの、かと言って、このままそっとしとおいていい訳ではない。

 小凛との、そして、ケインとか言う少年ハンターとの確執。その結果がこの有様であることを理解したノブ公は、意固地になっている小狼を連れて戻る方法を模索していた。

 その中で、ミルクは

 

「お願いだにゃ、小狼……」

 

 と、まるで懇願するようかのように試みる。けれど、当の小狼は聞く耳を持たずして黙り。堅牢なるノーコメントが意思表示を見せていた。

 続けてジャムも、何かと声を掛けようとするが、流石にケインのオトモと言う立場だけに、言うに言い出せなかった。

 天候は悪くなる一方。頭を掻くノブ公の心の内には、〝焦り″の二文字が、色濃くなって来る。

 

「な〜。いい加減、現実(リアル)を見ろよ。下山目当てに次の設営地を目指すにしても、とてもじゃないが無謀もいいとこだぞ?」

 

 しかし、

 

「……」

 

 その無反応に

 

「は〜、参ったな……」

 

 つい本音が漏れてしまう。

 

「小狼。よーく、姉目線で考えて見ろよ。口では痛いことを言ってるが、きっと気持ち的には戻って来て欲しい。そう思っているはずだからさ」

 

 暫しの沈黙を経て、堪らずノブ公は小声で

 

「もはや、無理かな〜。何を言っても……」

 

 そして、すくっと立ち上がっては、

 

「ミルク、ジャム。仲間の元へ行こうか?」

「うん……」

 

 ミルクが答え、ジャムは頷く。後ろ髪を引かれるような思いに、ノブ公は2匹のオトモを連れて団員達の元へと引き返そうとした。

 ――とその時、風に靡くようにして

 

「分かってる。分かっているよ、それくらい」

「え?」

 

 先にその声に気付いたるは、ミルク。すかさず

 

「待つんだにゃ!」

「え? ミルク?」

 

 続けて、気付かないで立ち去ろうとするノブ公を呼び止めた。

 

「ノブ公さん、ちょっと待つんだにゃ!」

 

 だがしかし、彼の心には、諦めの想いと罪悪感が満たされていただけに、その声は届かなかった。

 溜まりかねたジャムは、ピッケルを手にして追いかけ。そのまま、

 

「いい加減、待つんだにゃ‼︎」

 

 ボカッ!

 

「あた⁉︎ な、何をするんだ。いきなり――」

 

 意表を突かれたノブ公は、振り向きざま、ジャムが何かを示す素振りを見て、思わず口を閉ざした。

 小さな猫手が示す先を辿り、……その先にて、ミルクが小狼と何かを話しているのが目に映る。

 

 (その気になったのだろうか?)

 

 淡い期待感が滲み出る。

 

 ザクザクザクザク……

 

 雪を踏みしめる音を奏で、ノブ公はミルクの元へと歩み寄った。

 

「その代わり、ケインとは口を聞かないからね」

「それでも良いにゃ。だから、とりあえず戻ろ? 小狼」

 

 黙って見守る中、彼の目線は心の迷いから泳ぐ。そして――

 

「分かった」

 

 ようやく決断が降りた。

 

「ミルク……」

 

 とジャム。ミルクは頷く。体毛を払い除け立ち上がる小狼は、額に当てたゴーグルを目元に当てた。

 

「小狼、いいんだな?」

 

 ノブ公に言われた小狼は、こちらを向いては頷き返した。――とここで、食事を終えたのか。いきなり子どもポポの巨体が動き出した。

 

「うわっ!」

 

 思わず声が漏れる。けど、それだけ。それだけで、事なきを得た。

 

 ふ〜

 

 安堵のため息が、白い吐息となって現れる。

 

「大丈夫か?」

「うん」

 

 小さく頷いた。

 後ろで動き出したポポ親子は、そのままのそのそと歩を踏みしめ、場所を移動し始める。つられて、他のポポ達も、その親子を先頭に歩き始め。

 何処へ行くのかは分からないが、一団はシンシンと吹雪く雪の彼方へと消えて行った。

 

 道中、レイナを始め、バターと小凛との合流を果たした。姉に合わせる顔がなかった小狼をよそに、レイナはノホホンとしながら問う。

 

「副団長〜、ご無事で何よりですぅ。ところで、J.Oちゃんは見かけませんでしたか? 私達、彼の後を追いかけたんですけど〜」

「J.O? いや、会ってないが。一緒に来たのか?」

「はい。彼を追いかけて」

「ん〜……」

 

 (何処ですれ違ったのだろうか?)

 

 レイナの説明を訊いて振り返って見る。けれど、思い当たる節は皆無。首を傾げた。

 

「そ〜」

 

 この反応に、レイナは肩をすくめた。他方、小狼と小凛は互いに合わせる顔がないのか、両者とも顔をすくめていた。

 その様子に、軽く息を吐くと

 

「ほら! 小狼」

 

 ポンッ

 

 背中を押して、半強制的に彼女と対峙させた。だけど、表情は変わらず。さらに言えば、ぎこちなさが加わり、オドオドしてしまう。

 

 (仕方ないな〜)

 

 きっかけを作るべく、ノブ公は語りかける。

 

「言いたいこと、あるんだろう? しっかりしろよ」

「う、うん……」

 

 後押しされた小狼は、躊躇いがちに頷いてみせた。そして――

 

「お、おねぇちゃん。ご、ごめん……。心配かけて」

 

 その言葉は、何処となくチンケなものだった。だけど、そのチンケな言葉の中には、誠意が感じられたのかも知れない。

 弟の謝罪を受けた小凛は、渋々肩の力を抜く。

 

「全く、しょうがないんだから……。それに、私こそごめんネ。小狼の気持ちを汲み取れきれなくて、直に感情をぶつけてしまって」

「おねぇちゃん……」

 

 姉の言葉に意外性を感じたのか。俯いていた小狼は、顔を上げた。

 見つめ合う二人。そんな中、ブレットは冷静口調で、肝心なことを述べる。

 

「それより、いいんですかにゃ? J.Oさんの件は。それに……」

 

 言いながら辺りを見渡し、もう一人の団員の所在の件にも触れた。

 

「ミルク? でしたっけ? 先程から見つからないにゃが……」

 

 思わず皆が、え? と今更ながらに気付く。ミルクの不在に驚く者達に、ジャムは彼女よりも、一プレイヤーであるJ.Oの身を案じた。

 

「ミルクは大丈夫だと思うけど、J.Oは私達みたいなNPCじゃないにゃ。優先すべきは、彼の方だにゃ」

「そ、そうですよ! まずは彼を探しましょう? ミルクちゃんはその後でもいいかと」

 

 レイナにしては珍しく、ここは毅然的な態度を表した。

 

「うん……」

 

 そして、口頭の代わりにチャットを駆使して、小狼もまた、彼を探すことを優先することに同意した。

 

 それから……

 

 皆が探し回る中、ノブ公は注意喚起をする。

 

「探すのもいいが、雪庇には気を付けろよー! お前ら」

 

 自分と小狼は大丈夫だとしても、レイナや小凛は地図を持っていない。そのことに、気を回してしまう。

 

「ったく、何処行ったんだか……」

 

 降雪だけに視界が悪く、まともに影すら捉えることができない。ただ、一つだけ言えるのは、ザクザクザクザク、と雪を踏みしめる音とJ.Oの安否を気遣う仲間の掛け言葉のみ。

 それ以外は静かであり、さらに、その掛け言葉さえ無かったら、足音も消え、まさに静寂が彼らを包み込むだろうとは想像に越したことはないのだ。

 

「参ったな……」

 

 悩ましい限りで頭を掻く。――とそこへ、レイナが歩み寄って来た。

 

「ノブ公さん、見つかりましたか〜?」

「あ、レイナさんか。いや、全然だな。ほんと参ったよ、これからどんどんと天気悪くなって行くのにさ。で、そっちは?」

 

 しかし、首を縦に振らず。レイナも成果を得られ無かったことを示した。

 

「そうか。は〜、どうしたもんだか……」

 

 すると、そこへ

 

「あ! ミルク」

 

 え⁉︎

 

 小狼の一声に、ノブ公を含め、その場の全員が、彼の方へ。そのまま、小狼の目線を辿った。

 

「ミルク」

 

 と小凛。その言葉と共に、皆がこちらに駆けてくるミルクへと駆け寄る。

 

「何処行ってたんですかにゃ? 皆が心配して――」

「J.Oを見つけたにゃ、ようやく」

「見つけたって⁉︎ 何処アルカ?」

 

 先に口火を切ったのは、小凛。その言葉から、凄みを感じる。

 一方、出会ったばかりだったことを踏まえて、一瞬狼狽えたミルクは、なんとかそこで踏み留まった。

 

「あっちにいるにゃ。それも、崖の下に」

「じゃあ、決まりアルネ。早速――」

 

 と、勢いで行きかけた。――とその時、

 

「でも、無理にゃ」

「え⁉︎」

 

 小凛だけでなく、ノブ公達も行こうとしたのだろう。出鼻をくじ掛けられたかのように、急ブレーキを掛ける仕草を見せる。

 皆の視線が、ミルクに集まる。その中で小狼は、

 

「ミルク……」

 

 と心配そうな顔を投げかける。

 

「どう言うことなんです?」

 

 すると、ミルクは

 

「もう、手遅れかも知れないだにゃ。彼、モスフェイクだけを出して、雪だるまになっていたから」

「雪だるまって……。つまりは――」

 

 とノブ公。彼の言葉を紡ぐように

 

「氷漬け、ってことですかにゃ? それは」

 

 ブレットが結論付け、ミルクは沈黙の返答を見せた。

 

 (まさか、キャンプ送りに――)

 

 脳裏に焦りが過ぎる。

 

「あ! ノブ公さ〜ん」

 

 彼女の制止を振り切って、ノブ公はミルクが来た道を駆け抜けた。

 

 危うく雪庇にハマりそうだった。やはり、生態マップだけ見てるだけでは、危険だと改めて認識をする。

 崩れ落ちていく雪塊を眺めて、ノブ公はミルクが言っていた例の雪だるまを崖上から発見する。

 雪だるまの頭部には、訊いた通り、モスフェイクが乗っかるようにして顔を出していた。

 

 (助けなければ)

 

 生存していることを願い、崖下に向かうルートを模索する。生態マップを眺めて、目線を走らせ、そこへ、レイナ達が追い付いた。

 

「ノブ公さん」

「レイナさんか。彼はあそこだよ」

「ま〜、確かに。ですが、どうやって降りるんです? まさか、ここから飛び降りるなんてことを」

「それを今考えている」

 

 ノブ公の頭にあるのは、雪だるま状態のJ.Oを助け出す前後のことである。特に助け出した後では、どうやってここまで這い上がって来られるかであり、万が一、それが出来なかった場合、本末転倒だからだ。

 

 (高低差10M以上ってとこか……)

 

 非常に悩ましい限りである。そんな中、

 

「ノブ公さん」

「副団長」

 

 ミルクやブレット、それに小狼達が遅れてやって来た。

 

「副団長、J.Oは?」

「あそこだ」

「……あっちゃ〜。確かに雪だるまアルネ」

「困ったものですにゃ」

 

 小凛とブレットは、口々に戸惑いを発した。

 

 (やむを得ないか……)

 

 ノブ公は意を決する。

 

「副団長⁉︎」

「えっ! ちょ」

 

 二人の声が重なる中、ノブ公は崖から飛び降りた。一瞬の無重力にも似たような感覚。

 

 ドサッ!

 

 圧雪がクッションとなって、着地時の衝撃が緩和された。

 

「今、助けるぞ」

 

 雪だるまを崩すように、懸命に掻き分けていく。バサバサバサ、と削り切り、やがて中から現れたのは、案の定、J.O本人。しかも、氷漬けになっており、その姿は、まるで何かから逃げようとしていた格好だった。

 

 (一体、彼の身に何が……)

 

 一瞬、そのような疑問が脳裏を過ぎる。が、今はそれどころではなく――

 

「あ、いや……」

 

 と一言。すぐにその雑念を振り払い、ひとまず彼の体力ケージを確認してみる。

 すると、

 

「……良かった〜。まだ、無事なようだ」

 

 状態異常になっているだけで、J.Oの体力ケージは、十分過ぎるほど有り余っていた。その一方では、スタミナケージは、底を尽きていたが。

 地面から氷漬けJ.Oを引き剥がしたノブ公は、流石に一人では担ぎきれそうになく。崖上の者達に目を向け、彼が無事であることをアピール。皆に安心感を与えた。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 やはり問題として残った案件。どうやって崖上まで辿り着けれるのかについて、改めて思考を巡らす。とは言え、長いこと居座る訳にもいかない。

 その打開策として、とりあえず生態マップを開く。何回かスワップを繰り返しては、う〜ん、う〜ん、と何回か唸った。

 ――とそこへ、何処からともなく声が掛かる。

 

「ここに通じていたかにゃ。ノブ公さん、助太刀に来たにゃ」

「ミルク⁉︎ それにお前たちも。一体、どうやって……」

 

 流石に驚きを隠せない。そんな彼に、しれっと答えた。

 

「抜け道があったにゃ。抜け道が」

「抜け道? んなものなんて――」

 

 とそこで、小凛が前へ。

 

「マップには表示してないか。或いは、分かりづらくなっているか。どちらかアルネ。螺旋階段状の細道だったから。いずれにせよ、副団長。早く、その豚さんを連れて行かないと」

「あ、ああ。そうだな。ん〜と……」

 

 氷柱と化したようなJ.Oを、足元から頭まで一瞥し、それから団員達の方へと振り向く。

 

「じゃ、早速、運ぶの手伝ってくれないか?」

「はいはい……」

 

 仕方なくと言ったような小凛の返事。他の団員達も、ノブ公の依頼に了承したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹雪の音色が洞窟内へと響き渡る。それ以外は、静寂と孤独感が、場の空気を満たしていた。

 しかし、それもこれも、自分で決めたこと。皆と共にケインが動くことは、J.Oはさておき、嫌いな小狼を呼び戻すことをしているようなもので、嫌悪感があったからだ。

 ただ、このままここに居座り続ける訳にはいかない。いずれ小狼達が戻って来ることを考えれば、落ち着いたことを鑑みて頃合いなのかも知れない。

 とは言え、現状、生態マップを持っていない。それに、外は吹雪。そのことを取ってみても、とてもポッケ村なんかには帰れる自信はなかった。

 

「ったく、皮肉なもんだ」

 

 思わず本音が漏れた。

 

 ん?

 

 ふと、気配を感じ、再度、外に向けたケインは、降雪の中に人影を見る。人影は朧げな様相をしていたが、次第に明らかになり、彼らが帰って来たことを察した。

 

 (帰って来たんか……。ん⁉︎)

 

 そこで目を丸くした。と言うのも、ノブ公と小凛、2人で何かを抱えているのを目にしたからである。

 

「なんだ?」

 

 顔を顰めた。

 

「お! 先客がいたのか〜」

 

 気前よくノブ公が、ケインの存在を認知して一言発する。一方、事態が読めないケインは、思わず立ち上がってはたじろいでしまう。

 

「な、な、なんだ⁉︎ それは?」

「あ、これね」

 

 とレイナ。

 

「この辺でいいか?」

「うん」

 

 ノブ公と小凛が互いに合図して、担いで来た氷柱を床に下ろす。流石のケインも気になり、氷柱の正体を確かめるべく歩み寄った。

 すると、なんて事だろう。

 

「ぶ、豚頭⁉︎ い、一体、何が? どうなって?」

 

 流石のケインも、これには腰を抜かしざるを得なかった。その疑問に、ノブ公はさりげなく逆質問で応える。

 

「それは、俺も知りたいとこさ」

 

 と。しかし、次に現れた第三者によって、おおよそと明らかとなる。

 

「ボクが先に見つけたのにゃ」

「ミルクが?」

「そうだにゃ。それも雪だるま状態で」

 

 とか言って、補足して見せる。ケインは首を傾げ

 

「雪だるまに?」

 

 だが、そこで

 

 っ!

 

 向こうと目があった。一方、それとは知らずして、

 

「ともかく! そこから先の話は後。コイツをどうするかだな。だから、ひとまず――。ん? どうかしたか? 急に怖い顔をして」

 

 不思議と思い首を傾げるノブ公は、その流れからケインの目線を辿った。

 すると、そこには彼が。彼――すなわち、小狼がいたではないか。それも暗い顔をして、どこかバツが悪そうにしている見たく。

 その瞬間、場は一変。険悪な雰囲気に、輪をかけてさらに強く包まれた。

 ノブ公の影響もあってか、レイナ。……いや、彼女だけでなく、皆が緊張ムード一色になる中、先に口火を切ったのは、やはりケインからだった。

 

「なんで、戻って来るんだよ?」

 

 怨嗟を込めた一言。対する小狼は、返す言葉もないのか、沈黙。その態度に

 

「ちっ、黙りかよ」

 

 舌打ちするや、捨て台詞を吐いた。しかし、それ以上は、喋る気も。ましてや、顔も見たくは無かっただけに、彼の存在を無き者として扱うことに。

 

「まぁ、いいや」

 

 視線を逸らして、ノブ公へと目を向けた。

 

「ところで、自己紹介はまだだったな。俺はケイン、ケイン=フレンディアだ。宜しくな」

「お、おお。俺はノブ公。この団の副だ」

 

 弾かれたかのように、ノブ公はケインの態度の豹変ぶりに狼狽えた。他方、この変わりように、小狼以外は戸惑ったまま。どうしたものかと、中には顔を合わせる者もいた。

 けれど、そんな曖昧な雰囲気の中、その影響にあまり流されなかったレイナが、マイペース口調で改めて自己紹介する。

 

「先程もしたかもしれないけど、改めて宜しくね。ケインさん」

 

 今度はキチンとした名前で、それもにこやかな笑みで迎え入れてくれた。

 続けて、一二回咳払いをした後、

 

「僕はブレット、この団の分析担当かにゃ。宜しくだにゃ」

 

 こちらもまた、自己紹介を。ケインだけでなく、その歓迎の猫手は、ケインだけでなくジャムやミルクにも向けられた。

 ようやく場の雰囲気が和みつつある。そのような良い傾向へと好転して行く中、それらをぶち壊すかのように、彼らの前へと出て来たのは、小狼だった。

 無言のまますり抜けようとする彼のその様は、まるで居場所を失った追放者のように見えてならない。そんな彼を呼び止めたのは、バターだった。

 

「小狼、どこへ?」

 

 しかし、

 

「ほっとけよ、そんな奴なんか」

「で、でも……」

 

 そこで

 

「今は、そっとしときましょ?」

 

 彼の心情を察したかどうかは定かではないが、レイナはバターを諭した。

 仲間の一人が輪の外へ。そのような状況の中、ケイン自身の生い立ちを交えながら、軽く自己紹介の続きがなされていった。

 

 

 

 

 は⁉︎

 

 バサリッ!

 

「ここは……?」

「ん? お、ようやくお目覚めかい。豚頭」

「俺は豚頭じゃ! あ、いや〜、それよりも、俺は先程まで……」

 

 藁を払い除けて起き上がるJ.Oは、そこで曖昧な記憶の糸を手繰り寄せるように考え込んだ。

 一方、その仕草に、仄かな焚き火の灯りを浴びつつ、ケインは知っている限りのことを話す。

 

「雪だるまになっていたんだとさ」

「あ? 雪だるま‼︎」

「しー!」

 

 そして、クイクイ、と親指を立て、団員達が寝ていることを知らせる。事情を知ったJ.Oは、そこで勢いで前のめりになったのを堪えたのか。トーンを一段と落とした。

 低めの口調で、改めて尋ねる。

 

「雪だるま、ってどう言うことなんだよ?」

「そんなの知らないよ。ただ、ハッキリしているのは、ミルクが先に見つけた時には、既にそうなっていたってことさ」

「ミルク?」

「アイツさ。あそこで、ジャムと共に寝そべっている」

 

 そう言うなり、互いに向き合って寝ているオトモのうちの1匹に、ケインは指を指して見せた。

 

「ふ〜ん、なるほどな」

 

 実際のところ、ミルクとJ.Oは初対面。頭の隅にでも覚えておくか。その程度に、納得したようだ。

 

「で、でだ」

 

 と改めて話題を出し、

 

「その雪だるま状態、てのは、マジなんだよな?」

「マジも何も、俺を除いてここにいるアイツら全員が証人だけどな。

「そ、そんな……」

 

 間抜けな醜態を想像してしまったのだろうか。彼は言葉を失ってしまったようだ。そんな彼に、ケインは前から気になっていたことを持ち出す。

 

「じゃあ逆に訊くけど、クソガキを探している間、どこで何していたんだ? 訊いた話では、先に出て行ったきり、行方不明になったらしいけど」

 

 すると、J.Oは

 

「んなもの、当然、小僧を追いかけに行ったさ。ただ、最後に足を踏み外して、崖下に落ちてしまったと言ったヘマはしちゃったがな。――あ、そうそう」

 

 とそこで、鮮明に記憶が蘇ったのか。いつにも増して多弁に乗り出す。

 

「そう言えば、一時的に天気が良くなったことは覚えていたな。それも、急にな」

 

 その証言は、こちらが言い返すまでも無かった。

 

 だって、そう……。

 

 ケイン側からでも、急に降雪が止んだことは感じられたからだ。続けてJ.Oは、その時の状況を克明に語り出す。

 

「そんでだ。そんで、間抜けにも崖下に落ちた俺は、なんとか這いあがろうとした訳なんだが、なんて言うか……。魅力的な風景に目が入ってしまって。で、次の瞬間、とてつもなく巨大な白い乱気流が雲の間から落ちて来たかと思ったら、その衝撃波がこちらまで襲って来て。で、でだ。危機感を覚えて逃げようとしたところまでは覚えていたな。でも、しっかし〜、あの白い乱気流。なんだったんだろうな。ん〜……」

「J.O?」

 

 勝手に喋り続けた挙句、自問自答に陥ってしまう彼に、ケインはやや心配になった。

 だけど、やや間を置いて

 

「あ、わりぃ〜、わりぃ〜。すっかり、思索に耽ちまったな」

「あ、いや、構わないが。でも、その乱気流だっけ? そんなに凄い気流なら、ここにいる者達も気付いているはずだけどな」

「だろう? なら――」

 

 しかし、俺は首を縦に振らなかった。その返答に、想定外だったらしく。今度はJ.Oが疑問を投げかける。それも、勢いよく。

 

「え? な、なんでだよ! いくらなんでも――」

 

 とそこで

 

「し〜、静かに」

 

 と制止。

 

「え? あ、ああ……。うん」

 

 そして、続けてケインは

 

「残念だけど、そんな話は訊いていなかったな」

「そ、そんなバカな……」

 

 まさに信じられない。そう言わんばかりの困惑ぶりだった。とは言え、皆が気が付いてない線もある。だから、こう切り返した。

 

「でも、敢えて言ってないだけかも。それに、さっき、風景がどうとか言っていただろう?」

「あ、ああ……」

「皆がいたのは、J.Oがいた方向とは逆だったんじゃねぇのか?」

「と言うと?」

「ようは、これは憶測だけしかないけど、居たのが、反対の山側だったとかじゃあねぇかってこと。まぁ、俺はその場には居合わせていないから、それ以上は知らないけどな」

「反対の山側だと? ん〜」

 

 そこで二の腕を組んでは、何かと考え込んだ。その様子に

 

「ま、んな深く考えることはないさ。ともかく、もう遅いから寝ようぜ。それに……」

 

 と欠伸が出ては、団員達と共に床に伏した。腕枕をして長まるその視線の先。暫し考えていたが、やがて埒があかないと見たのだろう。

 

「ま〜、いっか」

 

 J.Oもまた、床に伏した。互いに眠りにつく中、焚き火の灯りだけが、未だに彼らを映していた。

 

 朝方、そこまで天気が良いわけではなかった。けれど、下山するに支障はきたなさそう。ケイン達は曇天さながら、大勢を仕切り直すべくポッケ村を目指して下山していた。

 先頭を行くはノブ公。その後ろに、レイナ、小狼、小狼。隣同士でケインとJ.Oがいて、オトモ達は彼らに追従するかのように列を成していた。

 生態マップを持参していないだけに、同行はやむを得ずな側面が半分。下山次第、小狼がいるだけに、彼らと別れたい気持ちが半分と、心の中で両者がせめぎ合っていた。

 

 は〜

 

 気怠さから溜息が漏れる。

 

「どうしたんだ? そんな暗い顔をして」

「いや〜、なんで言うかな……」

 

 事情を知らないJ.Oには、何かと心境を語るには抵抗がある訳で。誤魔化すように返答する。

 

「いや、別に。何でもないさ」

「そう。なら、いいが。ただ、表情に元気がないから、ちと気になってはいたがな」

「それはどうも」

 

 余計なお世話ではあったが、その言葉も返す気はなかった。それよりも、ふと気になった事があった。

 昨日は夜遅かっただけに寝ることを優先したが、今では言い出すチャンスなのかも知れない。

 

「な〜、昨日から思っていたんだが」

 

 と切り出し、一方、J.Oはこちらに視線を向けた。

 

「なんで、いつもソレを被って居るんだ? なんか拘りでもあるのか?」

 

 すると、突っかかるように

 

「ああ〜、これか? 前にも言わなかったけか? 好きだからして居るだけだと」

「好きだから?」

「ああ、そうだ」

 

 キッパリと答える。それだけに、あまりにも清々しく答えられたもので、思わず具の字も出なくなってしまった。ただ、一言。

 

「好きだから、ね〜」

「な、なんだよ。なんか文句でもあるのか?」

「あ、いや。別に……な」

 

 それ以上は、敢えて詮索しなかった。だけど、その内心では、相当拘りなんだな〜、と呆れてしまう反面、なんか、こーう、他に理由でもあるような。それも、隠したい何かを、的なものを秘めている。そんな感じもしなくはなかった。

 一方、そんな曖昧な態度を見せるケインを見てか、J.Oは何かぶつくさと言っているみたいだが、時折吹く山風に攫われて、あまり良く訊こえなかった。

 そんな中、

 

「副長?」

 

 と、次の瞬間――

 

「うわ! な、なんだ⁉︎ いきなり止まりやがって」

 

 無意識に自然な流れで歩いていたところに、いきなり前列がストップ。あわや、ケインは前の姉弟共にぶつかりかけた。

 一方、J.Oはそれを読んでいたらしく、別に動揺はしなかった。代わりに、先頭を覗き見て呟いた。

 

「副長の奴、なんかあったみたいだな」

 

 と。これに堪らず、ケインも覗き見て様子を伺った。道中に立ち止まるノブ公。その手には、何かを手にしたまま見開いていた。

 そして、こちらを振り向くと

 

「お前ら‼︎ よーく訊けよ!」

 

 と第一声。

 

「な、なんだ⁉︎ 今度は」

 

 次に何かあると、直感的に察し。続けてノブ公は――

 

「この先、下山するにあたり、超危険地帯(フロストエッジ)に差し掛かる。今まで以上に気を引き締めろよな」

「ふ、フロストエッジって……」

 

 皆の顔が緊張感で引き締まる中、ノブ公の注意喚起に、ポッケ村でのカデットと村長のやり取りを、偶然思い出したケイン。

 

「何か気になることでもあるのか?」

「あ、い、いや~。別に……」

 

 口元を歪ませては、なんとかごまかした。が、しかし、その脳裏には、すっごい嫌な予感がひっきりなしに渦巻いていた。まともに踏破することは叶わず、無事では済まされないような。そんな嫌な予感を抱いて。

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