モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:燃える夜空へ・6話

 眼下には、山間を埋め尽くさんばかりの森林地帯。さらにその向こうには、マダラ模様の雲海が広がっていた。

 稜線から逸れつつ尾根に差し掛かる中、そのような景色を眺めながら、ケイン達は下山を続けていた。

 その最中、森林地帯に紛れて、ひょっこりと顔を出す建造物を見かける。パッと見た印象、小屋のように見えるが……。

 

「な??」

「あ? どうした?」

 

 前を歩くJ.Oが、ふと振り向く。

 

「アレ? 建物じゃね? もしかすると、休めるんじゃあ――」

「え?」

 

 ケインの示す方に、J.Oもまた、そちらを遠望してみる。そして――

 

「……あ、確かに」

 

 ――とそこで、二人の会話を訊いたのか、小狼が。続けて、小凛、ミルクらオトモ達も、それに連なった。

 

「どうしたアルネ? 二人して」

 

 その声に、流石に後方が気になったのか。レイナとノブ公は、揃って立ち止まっては、こちらを向いた。

 

「アレだよ、アレ。コイツが気になったらしく」

「コイツって言うなよ、豚子ちゃん」

「な、な、な、なんだと! てめぇ??? 豚子とはなんだ? 豚子とは!」

 

 悪ふざけで言った言葉にカチンと来たJ.Oが、ケインに食ってかかる。

 

「おいっ、やめるんだ! 二人とも」

 

 とノブ公。しかし――

 

「だ、だけどよ?」

「ケイン、悪ふざけもいい加減にするんだ。ましてや、こんな山ん中で」

「へいへい」

 

 (ちぇ、コイツ呼ばりにされたから、ちっと、揶揄っただけなのに……)

 

 まさに渋々だった。仕方なく謝ることに。

 

「悪かったな、J.O」

 

 だが、当の彼は、すっかり機嫌悪くしたらしく。ふんっ、と鼻で返事しては、そっぽを向いてしまった。

 そんな不仲をよそに、興味を抱いていた小凛が尋ねてくる。

 

「で、二人は何を話していたアルネ?」

 

 投げかけられる質問に、ケインはJ.Oを見た。が、当の彼は答える気はないらしい。

 

「あ、ああ。アレだよ、アレ。あの小屋みたいなのが、見えるからさ。それで、もしかすると、休めるんじゃないかってね」

「小屋?」

 

 彼女もまた、ケインが示した方を見た。

 

「あ、確かに。見えるアルネ」

 

 と一言。他方、生態マップを確認していたノブ公は、それに関して説明する。

 

「この地図によると、おそらく、君たちが見ているのは最後の設営地になるね」

「最後の?」

 

 とミルク。

 

「ああ、最後の。そこから先は、ポッケ村までどうもないみたいだからね」

 

 そう述べるや、地図を閉じた。察しがついたケインは、一言。

 

「てことは……」

「ま、今日のゴール地点になるかな。ただ……」

 

 そこで険しい顔を。その表情を見る限り、一抹の不安が見え隠れしており、

 

「ただ?」

 

 しかし、それには答えず

 

「あ、いや、なんでもないな」

 

 とだけ言い残した。

 

 (何を言いたかったんだろうか? オッサンは)

 

 彼の胸中に抱いていたであろう予感。ケインは少なからず、気になった。

 

 樹木地帯を潜り抜けた先、その場所は、例の小屋を中心に開けていた。小屋は木造家屋、下山中に見た時と同様、コテージの様相をしていた。

 しかし、遠くから見た時には気が付かなかったが……

 

「やっぱりな。朽ちてやがったか」

 

 そう呟いては、ノブ公は落胆の色を滲ませる。と言うのも、彼が一抹の不安を抱いていのは、

 

 そう……

 

 コテージ自体が圧雪に耐えられず、半壊していたのを見つけたからに他ならないからであったのだ。

 ノブ公同様、もはや休憩所としての機能がなくなっていることに、ケインを始め、皆、肩を落としていた。

 

「ちぇ、なんだよ、もう……」

 

 舌打ちしたケインが、皆の気持ちを代弁して捨て台詞を残す。

 

「困ったにゃ?。これから、どうするにゃ?」

「それを言われても……」

 

 ミルクに言われて、ジャムは返答に困った。一方、ブレッドは、この状況下においても、冷静さを失わなかった。

 レンズを反射させ、鼻メガネを直すと

 

「とりあえず、僕の分析によれば、第一に再建が考えれますかにゃ」

「そんなことは分かっているにゃ。でも、どうやって再建なんかを?」

「それは……」

 

 辺りを見回す。そして、何を思ったのか、半壊したコテージの周辺をよちよち歩き始めた。

 

「ブレット君?」

 

 その様子に気が付いたレイナが、一声を掛ける。一方、ケインは、今までの疲れたのか、

 

「あ?あ、やってられねぇの」

 

 諦めた感を滲ませて、近くの丸太へと腰を据えた。ミシミシ、と軋む音を立てるその丸太は、根本が割れていた。

 

「ともかく、いつまでもこうしてられないな。手分けして使えるものを探そうじゃないか」

 

 副団長の一声。ぶつくさ文句を垂れる者もいれば、黙って動き出す者まで。とにかく、ケイン以外は、設営地の再建に動き出す。

 その中で、ノブ公はケインの元へと歩み寄った。

 

「ほら、ケインも」

「え?、俺も?」

「もちろんだとも。旅は道連れ、世は情け、と言うじゃないか」

「んな諺、言われても。第一、俺なんか、まだ、入団するとは言ってないぞ。なんで一緒になんか……」

「ま?、んなことはいいから。さ?」

「ちぇ?」

 

 仕方なしに、重い腰を上げることにした。したのだが、そこで、

 

 ん?

 

 何かを発見する。

 

「なんだこれ?」

 

 木板のプレートを手に持ってみれば、そこには彫刻されたような文字が刻まれていた。歪な文字を前にして、ハッキリと認識すべく、吹き出しアイコンに指先を翳した。

 すると――

 

「〝グーク響奏局、ここに集う″、なんだこれ?」

 

 (名前からして、猟団名なのだろうか?)

 

 ふと、そんな風に疑問に思う。そして、他に何かないのか、一応、裏面とか確認して見た。

 けれど、裏面は無記名、それ以外はないみたい。だけど、この文字を読む限り、その猟団がこのボロ屋を前に使っていたことは間違いないようだと推測する。

 しかし、それだけ。それだけであり、

 

「な?んだ、ただのプレートかよ」

 

 チンケな物として急速に興味が薄れ、後ろに放り投げ

 

「さて、俺もそろそろ……」

 

 両膝を叩いては、重い腰を上げた。う?んと背筋を伸ばし、

 

「よしっ! 早速、乗り出すか」

 

 意義揚々と張り切り、さて、どうしたものかと周りを見渡す。すると、周りはジャムと小狼、それにレイナさんが。他の者たちは、何処へと散策しに行ったみたいであった。

 その状況下において、頭を掻いては

 

「とは言ったもののな?」

 

 設営地の再建とか、今までやったことはない。何をしていいのかすら分からないのだ。

 

「ま、悩んでても仕方ないか」

 

 とりあえず、ボロ屋を中心に散策に乗り出した。

 

 それから程なくして……

 

 小屋を中心に散策する中、いくつか分かったことがあった。それは、第一に、表だけでなく裏側も、雪の重みで倒壊していること。ハッキリ言って、半壊どころか全壊。それが相応しいくらいに滅茶苦茶になっていたことだ。

 それから、第二に、やはりと言うべきか。誰かが使ったような痕跡が見受けられたこと。恐らく、あの猟団(グーク響奏局)? が使っていたのであろうことが推測された。

 そして最後に。これは重要なことであるが、モンスターの爪痕が見られた事。それも、大きな爪痕であり、壁面が引き裂かれていたことが挙げられるのだ。

 ついでと言ってはなんだが、その痕跡からは、ある素材が拾えた。

 

 素材名〝竜爪の欠片″

 

 そう、名前からして、中型か、或いは大型か……。いや、この場合は、爪痕の大きさからして大型になるのか。

 ともかく、そう言った素材が得られたのである。

 

 (まさかな……)

 

 争ったような事を容易に想像できることから、嫌な予感がしてならなかった。でも、大丈夫だと自分に言い聞かせる。ここには、自分以外、腕の立ちそうな彼らがいることだし、と。

 

「にしても、ほんと、何処へ行ったんだ? アイツら……」

 

 ひとまず、小狼が近くにいたので、尋ねてみた。

 

「な??」

「ん?」

「あの豚頭とノブ公のオッサン達、何処行ったか知らないか?」

「ん?……」

 

 すると、そこへ

 

「副長さん達なら、森の方へ行きましたよ。なんか、再建するに当たり、山菜ジジイを探し出すとかで」

「山菜ジジイ?」

 

 ――とそこへ

 

 ドスンッ??

 

 っ!

 

 森の奥から、突如として、何かにぶつかったかのような強い衝撃音が鳴り響いたではないか。

 

「ケイン」

 

 と小狼。ジャムも何事かと、森の方へと向ける。

 

「何事かしら?」

 

 気になるレイナが、呟く。一方、ケインは小狼と以心伝心で頷き合うと、

 

「あ、ケインさん」

「ケイン??」

 

 二人揃って声に出す中、ケインと小狼は森の方へと走り出した。

 

 そして、暫く森の奥へ、奥へと向かって走り続ける中、次第に……

 

 未だに間隔は大きいが、幾度となく――

 

 ズシンッ!

 

 ズシンッ!

 

 そして、最後に――

 

 ズシーン??

 

 と強い衝撃が、奥から響いてくる。地の枝葉に足を掬われないよう気を付けながら、次第に音源が近い事を感じては、身を引き締めにかかる。

 

「かなり近いぞ! 小狼!」

「うん。……うわっ!」

「っ! どうした?」

 

 彼の身に何かあったと見て、そちらへと赴く。

 

「だ、大丈夫か?」

「あ、う、うん。大丈夫。でも、何かに足を掬われたみたい」

「足元を掬われた?」

 

 もしかして、枝葉のことだろうか。そんなことを勘繰りながら、彼が躓いたであろうそちらを向いた。

 すると、なんてことだろうか。そこには――

 

「ぶ、ブルファンゴ??」

 

 そう、ケインが目にしたのは、なんと! ブルファンゴの遺体。それも、丸太の近くに横たわっているような形で、くたばっていたのである。

 

「もしかして、先程の衝撃音は……」

 

 とそこで、目先の危機を感じた小狼が叫んだ。

 

「危ない! ケイン」

「え?」

 

 思わず振り向いた。直後、視界に迫るは、ブルファンゴ。それも突進してきたのである。

 

 ブヒィ――??

 

「なっ!」

 

 バッ!

 

 とその場を飛び退っては、直後――

 

 ズシン??

 

「あ、あぶっね?」

 

 間一髪交わし切るや、突進してきた牙獣種は、そのままへし折れたら丸太の一部へと突っ込んだ。

 放置するのは危険。目先の脅威を相手に、二人は武器を構えた。

 天敵を外したことに、こちらに振り向こうとする動作。その間隙を狙って、上段から

 

「おりゃー??」

 

 一太刀を。それも、気合いの袈裟斬りを2連撃浴びせた。続けてそこへ、一本の矢も襲いかかる。

 背後からの奇襲に、堪え兼ねたブルファンゴは、そこで怯むが。しかし――

 

「やはり一筋縄では……」

 

 再び標的を見定め、今度は小狼の方へ。敵意を向けられた彼は、速攻で弓をしまおうとして――。

 一方、ケインは

 

「な、間に合わな――」

 

 言わずもなが。ブルファンゴは間一髪入れず、振り向きざまに猛然と突進して行った。

 対する小狼は、そんな牙獣種を前にして、一時的な金縛りに。あわや衝突は真逃れないかに見えた。

 ――とそこへ、何処からともなく

 

 ド――ン――??

 

 凄まじい轟音が1発、それも森の奥から響き渡り――。その直後、血飛沫を上げてブルファンゴは横倒しに崩れ痙攣。最後の断末魔を上げた。

 銃声のした方へと向く。するとそこには、大型ボウガン(ヘビーボウガン)を手にした小凛が、銃口を煙で燻らせていた。

 

「しゃ、シャオネー!」

 

 叫ぶ小狼。一仕事終えたかのように額を拭い

 

「ふぅ?、なんとか間に合ったみたいネ。……ったく?、手が焼けるんだから。油断しちゃ駄目アルよ」

「ご、ごめん……」

 

 頭を掻いて謝る弟をよそに、構えたままのヘビーボウガン――タンクメイジは、ガチャリッと鳴らして手早く折り畳まれた。

 

「助かったよ。こちらからも、礼を言うぜ」

「それはどうも。それよりも、引き返さなくちゃ」

「何か急ぎなのか? それに奥から――」

「ドスファンゴ」

「え?」

「だから、ドスファンゴ。奴が奥で暴れているのネ。今、オッサンとJ.Oが2人がかりで相手しているから、戻らないといけないアルネ」

 

 そう言い残すや、急いで踵を返して――。と丁度、ナイスタイミングと言うべきか。遅ればせながら、そこでレイナと彼女の肩に乗るジャムが姿を現した。

 

「あ、レイナさん」

 

 っ!

 

 小狼の声に反応してか、そこで踏みとどまる。

 

「遅れてゴメンね。色々あって」

「いいよ、いいよ」

「私の責任だにゃ。行くかどうかで決めあぐねてしまったばかりに」

「あら、そうかな?? 意外と決断早かったように見えるけど」

「そ、それでも――」

 

 とそこへ

 

「丁度、良かったアル」

「ん? あら、いたのね、小凛」

 

 そこでレイナとジャムが、揃って彼女の存在に気がついた。

 

「手、貸して貰える? レイナさんのサポートあると、心強いネ」

「私でよければ。ただ、他の2人は? もしかして、奥から聞こえてきたのは……」

「ま、想像通りネ。ただ、相手はドスファンゴだけどネ。一段と気性が荒い」

「き、気性が荒いって……」

 

 その言葉を聞いてか、ケインはやや及び腰になってしまった。が、ジャムが、すかさず活気付かせて見せる。

 

「きっと大丈夫だにゃ。きっと」

「きっと、て……」

 

 (んな事言われても……)

 

 ジャムの言葉は、皮肉ながら頭の中で、不安を助長させる風にしか訊こえなかった。

 

「とりあえず、私たちは先に行ってますね、ケインさん」

「ああ、ちょっと」

 

 (どうすればいいんだ。どうすれば……)

 

 人任せにするか、或いは、応援に駆け付けるべきか。いくら対峙した経験があるとはいえ、気性が荒いとなると尻込みしてしまうのだ。

 一方、判断を決めあぐねるケインを見て、レイナ達は困った表情を浮かべる。

 ――とその時だった。

 

 ボゴォ――ン――??

 

 と遠くから、未だかつてないほどの爆音が。

 

「な、ななな、なんだ??」

 

 次の瞬間、ボワ――ン、と生暖かい爆風が、ケイン達を巻き込んでは駆け巡った。凄まじい風圧に圧倒され、

 

 うわっ!

 

 思わず尻込みしてしまうケイン。

 

「な、な、何が一体??」

 

 戸惑いを隠せない。横を見れば、小狼もまた、尻込みはしなかったものの、かなり驚いた顔をしていた。

 一方、そんな爆風をものともしないレイナと小凛。森の奥へと目を光らせ

 

「今のは、竜撃砲アルネ。レイナさん」

「うん」

 

 と互いに意思疎通するや

 

「おおお、おいっ、ちょっと!」

 

 ケインの制止を振り切って、勝手ながら先に行ってしまった。一方、小狼もまた、人ごとだとは思えなかったのか

 

「ぼ、僕も……」

 

 とか言って、行ってしまう。

 残るは、自分とジャムのみ。

 

「くっそ?、みんながして……」

「ケイン」

「あ?。分かった、分かったよ。行けばいいんだろう、行けば」

 

 (こうなればヤケ糞だ!)

 

 自ら鼓舞するや、ケインもまた、ジャムを連れて走り出した。

 

 

 

 

 進めば進むほど木々が薙ぎ倒されており、ドスファンゴとやらの戦いが凄まじかったことを物語っていた。そして、今もなお、その先から激しい剣戟が鳴り響いていた。

 

「そっちに行ったぞ??」

「え??」

 

 ノブ公の怒号が遠くから響く。

 

 (そっちって?)

 

 突然の事態にあたふたするケイン。そこへ、地響きが湧き立つや、

 

 バキバキバキバキ……

 

 と木々を薙ぎ倒す音が。直後、眼前に猛進するドスファンゴが、その双牙をぎらつかせ姿を現した。

 

「っ! ちょ、ちょちょちょ、ちょっと――??」

 

 目を見開き驚愕、意識そっち抜けで動けない。――が、

 

「ケイン!」

 

 はっ、

 

 ――その引き金に我に返った。その刹那、

 

「うわ――??」

 

 ドコドコドコドゴ――??

 

 間一髪、交わした直後、風を巻き上げてドスファンゴが、その場を突き抜けて行った。

 

「あ、あっぶね?」

 

 まさに肝を冷やした瞬間であった。だが、

 

「まだ、早いにゃ!」

「え??」

 

 その目先、事なきを得たかに見えたドスファンゴの一撃。それが、二度繰り返さんばりにこちらを振り向いてきたのである。

 振り向いては、後ろ足を何度も擦り、そして――

 

 ブヒィ――??

 

 眉間に剣幕を立て、再び突っ込んできやがった。

 

「ちょ、ちょちょ、冗談だろうー??」

 

 すぐさま立ち上がっては、振り返ろうとした。――とそこへ、高速の飛来物が直線を描いた。

 

 プシュー!

 

 と顔面に命中するや、その直後――

 

 ピカ――??

 

 くっ!

 

 一瞬にして、閃光が弾ける。

 

「目、目が……」

 

 あまりにも眩しい一撃を受けたため、ケインまでも。或いは、ジャムまでもが目眩状態になってしまう。

 しかし、そこへ

 

「こっちネ。ジャムも」

「その声は」

 

 声の主に導かれるように、フラフラしながらも踏み出していく。

 やがて、幾らか進んだところで、その手を掴まれた。グイッ、と下へと引っ張られて

 

「のわ??」

 

 思わずしゃがむ事に。次第に眩暈も解消され、視界が回復する中、その正体が明らかとなる。

 

「……っ! しゃ、小狼??」

 

 しかし、口元に人差し指を当て、小さく

 

「しー! 静かに」

 

 それから、いつものチャット機能を表示させるや、ゴッドフィンガーと書いて字の如く、超高速で文字を書き起こした。

 

『今、シャオネーが囮射撃に入っているんだ。だから、副長やJ.O達が来るまでの間、見つかるわけにはいかないんだ』

 

 その文字を受けて、今度は遅れてやって来たジャムが答える。

 

「てことは、さっきの狙撃は?」

 

 すかさず、うん、と頷き、先程の狙撃の正体は、小凛からのものであることを明かした。

 

「じゃ、じゃあ――」

 

 と言いかけて、そこへ何処からともなく重低音の演奏が流れ始めた。

 

 ブォオーン! ブォオーン! ブ、ブォオーン!

 

 と奏で、数秒を経た後、ケイン、小狼、ジャムらを取り巻くように、効果音を伴い赤きオーラが全身を取り巻いた。

 

「な、なんだ?? 急に全身に力が」

 

 なんと言うか、体の内側から強烈な力が湧き立つ感覚を覚えたのである。いわゆる、アドレナリンが全身を駆け巡るように、めちゃくちゃ興奮していく感じに。

 

「きっと、レイナさんのおかげだにゃ」

「え? ……っ! バ、バター!」

 

 遅ればせながら、草むらから姿を現したるや、小狼のオトモ、バターであった。

 

「レ、レイナさんってどう言う――」

 

 しかし、その疑問を遮るかのように、遠くから気合いを放つ2人の声が同時に飛び込んで来た。

 

「「うおー??」」

 

 果敢に挑む2人の勇姿が目に写り、互いの武器がドスファンゴの巨躯に振りかざされて行く。

 2人の3倍近い体高を有するドスファンゴ。それはまさに、蠢く巨岩の如き大猪のようにさえ思えた。……てか、まるっきし、大猪、そのものではあるが。

 

「くっそ?。俺たちも……」

 

 頭では分かっている。そう、分かっているのだ。しかし、相対するドスファンゴの暴れっぷり。それをまざまざと見せられると、アドレナリン効果があるとは言え、両足が竦んでしまうのだ。

 さらに、さらにだ。そのドスファンゴとやらも、今まで見てきたものとは比較にならないぐらい巨大。そんな風に見え、その威圧感からでも踏み出せない要因を作り出していた。

 

「僕、行ってくるよ。シャオネー達ばかりにやらせっぱなしも悪いし」

「あ、ああ、ちょっと」

 

 ケインの制止を振り切り、スクッと立ち上がると、そのまま小凛がいるであろう方向へと走り出した。

 

 (何をやってんだ、俺は……)

 

 自分の不甲斐なさに、怒りを覚える。

 

「ケイン……」

「分かってる、分かってるよ。クッソ?」

 

 とそんな時だった。何処からともなく、地に脚を擦らせる音が聞こえてきたではないか。

 その瞬間、直感的に気配を察知。しかし、それと同時に、?を上げては、そこでブルファンゴ、1頭。突っ込んで来たのである。

 

「のわっ!」

 

 ブヒ――??

 

 前方へと体を投げ出しては、反射的にギリギリ回避。飛び込んで来たブルファンゴは、先程までいた場所を駆け抜けた。

 

「だー! こうなったら」

 

 もはや迷ってられないだけに、すかさず太刀を構えた。

 

「私も戦うにゃ!」

 

 バターもまた、頼りなさそうではあるが、形として身構えた。

 両者相対。しかし、間を置かずして、先制するはブルファンゴ。脇目を振らず突進して来る!

 ギリギリまで間合いを狭めていき、そして、すれ違いざま、刀身を横な振りに描いた。

 

 スパッ! プシュー!

 

 鮮血が勢いよく弾け、背を向けたままのブルファンゴを背後から畳み掛けるように地を蹴った。

 

「おりゃー!」

 

 ズバッ! ズバッ! ズバババー!

 

 幾重にも切り裂きまくり、その間、追いついたジャムもまた加勢に加わる。

 反撃をモロに喰らう羽目になったブルファンゴは、その猛攻に堪え兼ねて、遂に崩れ落ちた。

 亡骸を見下げながら、

 

「ざま?みやがれってんだ」

 

 一振りした後、背に納刀する。それから

 

 (なんだか体が温まったようだ。これなら――)

 

 ブルファンゴとの一戦が功を差した模様。謎の笛の音色効果も合わさり、心に自信が漲ってくる。

 

「とにかく、すぐ片付いて良かったにゃ。これなら見つからずに――」

「行くぞ」

「え?」

「行くってんだ、加勢に」

「え? だ、だって、さっき嫌がってたんじゃ――」

「もう大丈夫だ。さっきの一戦で吹っ切れたみたいだ」

「じゃ、じゃあ……」

「助太刀しに行く。行くぞジャム」

「え、えあ、ちょっと――」

「うぉおおお――??」

 

 背の柄に手を当てながら雄叫び上げ、地を蹴った。枝葉を強引にかき分け猛進する先は、暴れまくるドスファンゴ。

 一方、躍り出てきたケインの存在に、ノブ公、J.Oは驚き

 

「け、ケイン??」

「おわっ! な、なんだ??」

 

 共に目を奪われてしまった。他方、対峙するドスファンゴも、先程まで2人を相手にしていただけに、これには意表を突かれ――。

 対するケインは、太刀を引き抜くや、その横っ腹に目掛け、滅茶苦茶に斬撃を浴びせまくった。

 幾筋もの鮮血が迸り、そのまま狩技へ持ち込めそうな勢い。だがそこで、ドスファンゴもやらせてばかりではなかった。

 鬱陶しい攻撃を振り払うべく、半円を描くように牙を振りかざしてきたのだ。

 

「のわっ! うぐっ??」

 

 驚く駒に牙の一撃を。腹部に目掛け反撃を受けたケインは、吹っ飛び。

 

 そして――

 

「ひゃー??」

 

 と小さく黄色い悲鳴。J.Oに激突するや、共に吹き飛ばされた。

 

「うつつつつ……」

 

 苦痛に呻き声。ハッとなって、倒木に寄り掛かるようにして、J.Oが自分の下敷きになっていたことに気が付いた。

 

「す、すまん。大丈夫か?」

 

 すると、

 

「う、うう……」

 

 と意識朦朧とだが、気を失うまでにはいかなかったみたいだ。

 無事を確かめた後は、すぐさま自分を吹き飛ばしたドスファンゴを確認するべく四つん這いに動く。

 草むらから外を伺うと、自分の代わりと言ってはなんだが、ノブ公のオッサンが大型銃槍と大楯を用いて注意を惹きつけているのが目に映った。

 余程、頑丈な盾なのだろう。一撃一撃を凌いでは、その重厚なる盾から火花を散らしていた。

 そうした中、

 

「う、うう……。ったく、無茶にも程があるぜ?」

 

 それに気が付いたケインは、

 

「お、気が付いたか! 豚頭」

「お、俺は豚頭じゃ……。そ、それより、奴はどうなったんだ」

「いるよ。今、オッサンが注意を惹きつけてる最中だ」

「な、なら、尚のこと――」

 

 と立ち上がろうとした。が、しかし、体全体が言うこと効かないのか。

 

「ち、ここに来てノックダウンかよ」

 

 ケインの体重と倒木へのダブル激突。それが仇になったのだろう、動けなくなっていた。そんな中、

 

「お前はそこにいろ。俺が代わりに――」

「ば、バカやろう! 相手はこれまで以上に獰猛だぞ。それにさっき食らったばかりじゃないか。己の残ゲージを見てから言え」

「残ゲージ、だと?」

 

 ……っ!

 

 そこで視界の隅に表示されていたゲージを見て、今更ながらに青ざめた。と言うのも、全体の3分の1から2分の1近く。そのくらいごっそりと削られていたからである。

 牙の振り回し攻撃。ただそれだけでだ。

 

 (な、なんて奴だ……)

 

 驚愕するその脳裏には、

 

 〝死″

 

 その一単語が過った。そして、それが過っては、これはデスゲームと化した現実であることを突き付けられた瞬間でもあった。

 ゴクリッと唾を飲み込む。

 

「だからさ、そう言う訳だから――」

 

 しかし、

 

「んじゃ?、ここでやすやすと指を加えてろってか」

「それしかないだろう。ただでさえ、低防御力な訳だし」

「ああ、確かにな。確かに低防御力みたいだ。だが――」

 

 そこで立ち上がっては、再び柄に手を当てがう。その目には闘志を宿して。

 

「黙って見てるだけじゃあ、気が収まらないんだよ。俺は!」

「んなバカな! だって、お前はこの団に借りがある訳じゃ――。って、おい!」

 

 それ以上は訊く気にはなれなかった。回復薬を飲み干すや、枝葉をかき分け戦場へと躍り出ていった。

 

 ガキーンー??

 

 火花を散らし後ずさるノブ公、そこで戦場へ再戦してきたケインに気がつく。

 

「こ、小僧!」

「俺も加勢するぜ! オッサン。おりゃ――!」

「おい! ちょっと待ち――!」

 

 相手の攻撃パターンを読まずして、無鉄砲さながらケインは斬り込んだ。ズバズバ、と何度も斬り込むが、しかし――

 

 ブヒヒヒヒー??

 

 またもや牙を振りかざし、

 

 (や、ヤバい! 二の舞に――)

 

 間違いなく、再び巻き添えを喰らう。食らいかけた、その時――

 

 グイッ、と力強く引っ張られ

 

 のわっ!

 

 と吹き飛ぶや、その刹那――

 

 ガキーンー??

 

 強烈な金属音と共に、火花を散らすノブ公の勇姿が目に映った。地を転げ回り、腹這いながら叫ぶ。

 

「お、オッサン!」

「バカやろう??」

 

 っ!

 

「無茶にも程があるだろうが! キャンプ送りになりたいのか?」

「し、しかしよ……」

 

 今まで受けたことのない怒声。それを訊いてか、内心、萎縮してしまい、言葉を詰まらせてしまう。

 一方、そんな余裕はないのか、或いは、察しているのかは定かではないが、防戦一方のノブ公は、語りかける。

 

「加勢はありがたい、有難いよ。だが、な?」

 

 ガキーンー!

 

 と体当たりするドスファンゴ。くっ! と歯を食いしばり、軌道を逸らすや、その間隙に

 

「無茶は命取りだぜ」

 

 そして、ケインの後ろから、草むらから姿を現すやJ.O。

 

「そして、きちんと動きを読まないとな」

「J、J.O??」

「お、初めてまともに呼んでくれたな。と、まぁ、そう言う訳だ。だから――」

 

 そこで重厚なるハンマーを構えては、有り余る力を溜めていき――。それから、ドスファンゴが再びノブ公に注意が向いたその刹那を見逃さずして、駆け出し――

 

「ケツ向けた瞬間を、――狙うのさ」

 

 溜に貯めた力を解放するが如く、ハンマーを持ち上げ

 

「こんな風に??」

 

 ズシンッ??

 

 プッシュ――!

 

 と思いっきり叩きつけては、衝撃波と鮮血を同時に迸らせた。間髪入れず、ハンマーを持ち上げては再び間合いを開けて待避。

 

「と、な」

 

 まさに、より良い解説とばかりの事例を見せてくれた。一方、そんな様を目の当たりにしたケインは、呆然とするばかりではあったが、ハッとなって我に戻るや

 

「んなこと、言われなくても」

 

 と強がりを見せた。再びガチャリッと柄を握り直すと、

 

「俺だって」

 

 と意義込む。――とそこへ、聞き覚えのある声が。

 

「大丈夫ですよ、ケインさん」

「レ、レイナさん」

「私達がキチンとサポートするから、大丈夫アルネ」

「うん」

 

 ゾロゾロとミルク達オトモやレイナさん達、サポート役の面子が姿を現したのだ。

 まさに、頼り甲斐のある仲間が増えた。入団したわけではないのに、その瞬間、どことなく安心感を抱かずにはいられなかったのだ。

 

「お、お前ら……」

 

 そして、不思議と信頼できるような気がしたケインは、一言。

 

「ああ!」

 

 今度は、今度こそは行ける。相手の動作を見極めて、立ち向かって行ける。そんな気がしてならなかった。

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