モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:燃える夜空へ・8話

 その夜、夜空には満天の星が煌めいていた。その星空を炙るようにして、焚き火の炎が舞い上がっては、火の粉を散らす。

 再建された小屋を背に、ケインの目の前には燃え盛る焚き火。そして、その焚き火を取り囲むかのように、J.Oや小狼達が居座っていた。

 熱気が顔に浴びる中、その炎を見つめていると、煩悩が燃やされていくような感じがして、心が和やかになっていく。

 バチバチバチ……、と音を立てる中、静まっている雰囲気を変えるようにしてノブ公が口を開いた。

 

「なんだか和むな。こういうの」

 

 そして、パイプタバコを取り出しては、ぷかぷかと吸い始める。

 

「……でも、心配ですよね? 副長さん」

「ん?」

「ほら、娘さんの」

「あ〜、確かにな。だけど、今はどうすることもできないさ。俺たちができることは、ポッケ村へ帰還すること。そしてその間、無事を祈ることぐらいだしな」

 

 それにしては、どこか他人事のように訊こえてならない。

 

「娘ってのは?」

 

 とケイン。

 

「ああ〜、前にも言わなかったけ? セツナだよ、セツナ。ほら、公開祭の時、主演していた」

「……あ、そう言えば」

 

 すでに言ったことなのかどうかはさておき、改めてケインは思い出した。しかし――

 

「だろう」

「で、でも、その割には、余裕そうに見えるけど。あんた、父親なんだろう?」

「ふんっ、父親、か……」

 

 そこで、レイナが注意。

 

「こらこら、ケインくん。いくらなんでも――」

「いや、いいんだ。正直、この場で本音を語りたいくらいだからね」

「副長さん……」

 

 その言葉に、軽く笑みを見せた。

 

「ケインとその連れのオトモ達以外は知っていると思うが、セツナには団長として、それに見合う信念と覚悟がある。あの日、デスゲームが起きた日、一時、心身共に絶望に蝕回れていた娘であったが、立ち直り、今、こうして団を作ってくれたからな。しかも、自分から言い出して」 

「確かにね〜。セツナさん、当初、追い込まれていましたから」

 

 と思い馳せるレイナ。

 

「その点に関しては、非常に感謝しているよ、レイナさん」

「あら、別に私はただ、友達として寄り添っただけで……」

「それでもさ」

「ちょっといいかネ? 話の割り込みになるけど」

「ん、なんだ? 急に」

「てことは、てことはさ。順序から言って、次に私と小狼が入団していく流れになるのかネ?」

 

 と小凛。ノブ公は

 

「ま〜、そうなるな。色々、それなりに紆余曲折あるけどな」

「ふ〜ん、なるほどね〜」

 

 2人のやり取りからして、側から見ていたケインは自分の中で合点が言った。同じく、小凛も納得したみたいだ。

 

「ところで、ケイン君とやら」

「え⁉︎ は、はい」

 

 いきなり話を振られたことに、思わず畏まった。それを見たノブ公は、

 

「別にそこまで緊張しなくても……」

「あ、い、いや〜。なんというか……」

 

 緊張の糸はなかなか振り解けない。しかし、そこんとこ、別にとやかく言う気はないらしい。

 

「ま〜、いいさ。俺も訊いてみたかったんよな」

 

 と前置きし

 

「君はなぜ、このゲームを始めたんだ、ってな」

「げ、ゲームを始めた、理由……」

「そ、それさ」

 

 皆の視線が自分に向けられるのを、見なくても肌で感じる。山菜ジジイの依頼をこなした際も、小狼にその理由を訊かれた。

 また、同じことを言わないといけないのだろうか。……だけど、この場を借りて、もう一度話してもいいよな。そんな気もしなくはない。

 

「ん? どうした? ケイン」

 

 押し黙ったままのケインを気にしてか、ノブ公が声を掛ける。

 

「あ、い、いや。別に、なんとも……。り、理由。理由ですよね」

 

 そして、緊張を解すべく、思いっきり、吸って――吐いて――、の深呼吸を2回ほど繰り返した。

 目を瞑り、心を見つめ、独言を言うかのように語り出す。

 

小狼(そいつ)にも言ったんだけどさ。俺……、ある約束を叶える為に始めたんだよね。と言っても、その前から興味本位でやり始めたのもあるけど、本格的に始めた大きな切っ掛けは、その約束のためなんよね」

「約束、だと?」

 

 とJ.O。しかしそこで

 

「しー」

 

 レイナが遮った。けれど、別に構わなかった。続けて話す。

 

「で、その約束ってのは、俺とユウト。そんで、今はいないけど、もう1人のダチと一緒に誓ったんよ。共に狩人王を目指そうってな」

 

 そこで、知ったか風な口ぶりで、ノブ公が、ほほー、と嘯いた。

 

「その口ぶり。オッサン、何か知っているんアルカ? 狩人王とか言うの?」

 

 すると、ノブ公は

 

「知っているも何も、俺は元々、このゲームの開発ディレクターだぜ。知らないわけないだろう」

「じゃ、じゃ〜。水臭いこと言わずに教えてアル!」

「分かった、分かったって」

 

 と勢いでやや押されてしまう。けどそこで、一回咳払い。改まって説明した。

 

「え〜と、狩人王ってのは、ある種の上級称号みたいなものだよ。つっても実際には、区別しているわけではないけどな」

「でも、さっき、その称号とやらを訊いた際の反応を見ると、随分と凄味を感じるネ」

「ま〜、無理もないさ。だって、称号自体、読んで字の如く、狩人界の頂点を極めた者だけしか与えられない代物だからな」

「頂点を極めた者、って……。それ、なんか抽象的ネ」

「抽象的か……。今となっては、ある〝目的″を果たしたことへの褒美みたいになってしまってるがな。恐らく、ケイン君は分かるだろう、その意味を」

「ま、ま〜。でないと、言った意味ないからな」

「な?」

「ふ〜ん……」

 

 そこで、右隣の小狼が畏まった風に

 

「あの〜、訊いていいかな? ちなみに、その〝目的″って、一体……」

「……最終クエストの、クリア」

「え⁉︎」

 

 重々しく言った言葉を理解できなかったのだろう。小狼は、思わずキョトンとしてしまった。ケイン自身も、その意味するところの重さが重さだけに、頭では分かってるがキツイものがあった。

 語調を察したノブ公が、代わりに応える。

 

「ようするに、俺たちの目指す場所と同じってことだよ。口にするだけキツかったろうに、ったく、大したものだよ」

「すまない、おっさん」

「ふんっ、いいって、んこと。どの道、避けて通れないんだしさ」

「少なくとも、私もそのつもりネ。でないと、現実世界に戻れないし。ねー、小狼?」

「しゃ、シャオネー。そ、それは……」

「仕方ないでしょ、やるしか無いし。それとも、戻りたくないアルカ?」

「そ、それは……」

「なら、決まりネ」

 

 まさに歯に物を言わせない感じではあった。けれど、その言葉のやり取りを訊いてか、少しだけ、少しだけ、心強く感じられた。

 ただ――

 

 (あいつ、果たして受け入れる気、あるかな……)

 

 あいつとはまさにユウトのこと。他人との関わりに消極的と言うか、抵抗的と言うか。そこんとこがあるだけに、気掛かりではあった。

 

「あの〜、私も訊いていいかしら?」

「レイナさん?」

 

 珍しいことでもあるのか。団員達の目線が、彼女に集まる。視線が集まるだけに、半ば照れ臭くなり――

 

「そ、そこまで、注目しなくても……」

 

 キョロキョロ目を右往左往、口元に手を当てた。けれど、彼女もまた咳払い。気を取り直した。

 

「その〜、なんて言うのかしら。ケインさんが仰っていた今はいない友達、ってどんな子だったのかな〜、と気になっちゃって」

「レイナさん……」

「レイナ……」

 

 ノブ公・小凛、共に不思議そうに彼女を見つめた。出会って間もないケインからしたら、普通のことのようにしか思えないが。

 

「いいぜ。……ん〜、どんな奴って言うか。強いて言えば、そいつはモンハンに関してはユウトに引けを取らないくらい博識だったかな。あと、いつも意気揚々としていると言うか、飄々としていると言うか。で、名前なんだけど、そいつの名は、晃、って言うんだな。神宮寺 晃って」

「晃……」

「そうだぜ、晃、って……」

 

 そこで、バターと小凛、2人の気遣う声が

 

「れ、レイナさん?」

「どうしたの? レイナ」

「ん? レイナさん?」

 

 目を閉じながら思い馳せていたケインであったが、流石にその声を訊いた彼は、そこで話を中断。レイナさんの方へと見た。

 口元に手を当て涙ぐむ彼女の姿。途端、罪悪感が込み上げてきた。

 

「あれ、あれあれ。な、何か。お、俺、悪いことでも……?」

 

 すると、レイナさんは掌を見せて

 

「ご、ごめんなさい、取り乱しちゃって。なぜか、ちょっと感極まっちゃって」

 

 そして涙を拭い、気を取り直して

 

「う、うん。……いいですよ。続けて」

 

 改めて取り繕った。これには、しばし戸惑っていたケインではあるが、やがて状況を見て

 

「は、は〜」

 

 気落ちして続きを語る。

 

「で、ちなみに晃自身も、話によると親の影響でモンハンに興味を抱いたとか言う話だな」

「親……、ね〜」

「どうかしたアルカ? おっさん?」

「あ、いや。つい助手のことを思い出してな。そいつ、今頃どうしているかな〜、て」

 

 それはまさに、懐かしむかのような表情ではあった。

 

「ま〜、俺からはそんな感じかな。晃について」

「なるほどな」

 

 関係性を知ったJ.Oが頷く。

 

「な〜、それより。お前はどうなんだ? まだ、訊いていないけど」

「お、俺か?」

「そうだよ。俺も気にはなっていたんだよ。少しくらい教えろよ。俺ばかり話すのもずるいぞ」

「……わ、分かった、分かったって。てか、ケインばかりではないと思うけどな。仕方ない、じゃあ、入団した理由くらい話してやるよ」

 

 渋々と言った感じではあるが、J.Oは話し始めた。

 

「ま〜、ケインは俺が元々ソロでやっていたことは、重々承知だとは思うけど、俺もまた、気が変わったんよ。やっぱり、ソロだとキツいものがあるってな。で、切っ掛けと言うのは、いつ、どんな時でも訪れるものだなあと感じだよ、痛烈にな」

 

 そして、彼の口からは、その〝切っ掛け″とやらが語られ始めた。

 それは、当初、クエストの上位を目指すことはあまり考えてはいなかった。ただただ、モスをこよなく愛するJ.Oにとっては、上位を目指してクエスト攻略なんかどうでも良かったのだ。

 けれど、それもそうは言ってられない事態に巻き込まれたからに他ならない。と言うのも――

 

「で、囲まれたんよな。チャチャブー達にな」

 

 それは大したことはないはずの獣人族を相手にした時だったのだ。キングチャチャブーを筆頭に襲いかかるチャチャブー。一体一体ならまだしも、多勢に無勢。拉致が開かないところが、逆に追い詰められる事態になってしまったのである。

 

「そんでその時だ。いきなり閃光が何処からともなく弾けて、眩しすぎて動けないでいた俺を助けてくれたのが、お前らだったって訳よ」

 

 その後は、借りを返すために行動を共にしていた訳であるが、いつの間にか、心の底からクエスト攻略に対して安心感を得られるようになったとか。協力する意義を見出すようになったとか。

 ま〜、結論から言って、成り行きで入団するようになったと言う話を聞かされたのだ。

 

「ま〜、理由なんざ、そんなとこさ」

 

 とそこで、補足するように

 

「ちなみに、実際、J.Oを助けたのは、私だけどネ。なんか一緒にピヨっていたから、仕方なく」

「ほんと、あの時は助かったよ」

「そんな礼を言わなくても……」

 

 (協力、か……)

 

 彼の話を聞いているうちにだ。ケインとしても、やはり目的を果たすためならば、誰かと組むだけじゃなく。何処の猟団に所属する必要がある。

 そんな確信めいたものが、心の底から自然と湧いてきた。

 

「なるぼどね〜」

 

 その一言は、まさに自分に言い聞かせるものであった。

 

「なーに、勝手に解釈しているんだよ」

「いや、経緯はともかくとして、珍しいことでもあるもんだと思ってさ」

「言うところの、巡り合わせ、ですかにゃ」

 

 ブレットもケインの意見には、同考したみたいであった。

 

「ケイン……」

「ん、どうした? ミルク。何か顔にでも付いているのか?」

「いや、そうじゃないにゃ。将来的に考えて入団も考えてみてはどうかと思ってにゃ」

「あーあ、そう言うことね。……確かにな〜、同じことを考えていたところだよ。今までのコンビで行けば、途中で上手くいかなくなるんじゃないかって」

「なら……」

「勿論、俺は賛成さ。さっきの話といい、この面々と言い。入団は悪くないとは思うぜ。だけどな〜」

「だけど?」

「ミルクやジャムは知らないと思うけど、ユウトがな〜」

 

 頭の痛い問題でもある。果たして、了解してくれるかどうか、半々だからだ。少なくとも、それなりに説得するには、時間かかるかもな。

 

「ま、いいさ。無事にその親友君を助け出した暁には、じっくり考えればいいと思ってくれても構わないから」

「恩に着るよ、おっさん」

 

 その言葉を受けたケインは、少なくとも安心材料となったに違いなかった。

 

「さて……」

 

 スクっと立ち上がっては、

 

「俺はそろそろ戻るぜ。何せ、明日は早いしな」

「もう、そんな時間アルカ?」

「あら、もうこんな時間なのね」

 

 どうやらその様子だと、長居しすぎた様子。次々に腰を上げてく彼らに続けて、ケインもまた、明日の下山に控えてこの場は御開きすることにした。

 

 

 

 

 がっしりと掴んだ腕がゆっくりと滑っていく。相手の背後は、深淵なる奈落の底。繋いだ手が離れれば、相手の命運も尽きるものだ。

 

「絶対、絶対に離さないからな」

「ケイン……」

 

 このままでは持たない。一か八か、強引に引き上げる手段に打って出る。

 

「行くぞ! ユウト。うぉおおおー‼︎」

 

 渾身の力を込めて引き揚げに掛かった。だが、皮肉ながら

 

 ズルッ、ズルズルズル……

 

 持ち上げる方向とは真逆に腕が離れ、そして、完全に手が滑りきり、遂には――

 

バッ!

 

「ユウト――‼︎」

 

 親友は奈落の底へと消えて行った。

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

「ユウト‼︎」

 

 バサリッ!

 

 勢いよく目覚めた。気が付いたら、所々、灯りはついているが、部屋全体は暗闇に包まれていた。

 静寂の中、脈拍音だけが僅かに聞こえ、動悸がするだけに両肩を上下させて息を荒げていたことに気付く。

 

「……なんだ、夢かよ。胸糞悪い」

 

 頭ではきっと大丈夫に違いない。そう信じてはいるが、心はユウトの安否で胸がいっぱいだった。

 そのことによる影響が、先程の悪夢として甦ったのであろう。ただ、先程の悪夢を見せられたせいか、未だに深夜帯にも関わらず、再就寝する気にはなれなかった。

 

 (ちーと、夜風に当たってくるか)

 

 寝袋を脱いで立ち上がると、僅かな明かりを頼りに寝てる人を避けて梯子まで向かった。

 ギシギシ、と軋む音を立てながらゆっくりと階下に降りると、収納ボックスへ歩み寄って……。

 

「……だよな〜」

 

 めぼしいものなんかない。そこには、カデットから借りた防具のみが、一式、収納されていた。

 ため息が漏れて、それからその装備を選択しようとした時、ふと視界の隅に別枠があるのを発見する。

 

「防寒着(私服専用)? なんだこれ?」

 

 そのまま、何気なく衣類アイコンをタップした。すると、

 

「お! これは……」

 

 そこにはなんと! 名称こそ防具類と変わらないものの、そこには一種類のみだが、一式分、揃っていた。

 

「マフマフシリーズか〜。悪くないね」

 

 下手な外見よりかは、断然マシに見える。手っ取り早く着替えた。

 

 小屋を出た。途端、夜風が吹きつけ、身の毛がよだつ。

 

「なんとも寒いな〜、おい」

 

 遠くには奥深そうな針葉樹林、見上げて夜空は……月が。それも雲で欠けたお月様が見えた。唯一、幸いだったのは、晴れていたこと。

 暇潰しには持って来いの天候だった。――とそこで、

 

 ん? 

 

 針葉樹林へと向かって、誰かの足跡を発見した。首を傾げて

 

「誰か先にいるのかな?」

 

 余興の一つとして、足跡を辿って見た。――が、針葉樹林へ入ったところで、残念ながら途絶えていた。

 ただ、この感じだと、奥へと進んだことには間違いない。そう確信していたケインは、そのまま奥へ奥へと入って行った。

 

 それから暫くして……

 

 月明かりを頼りに進んでは見たものの、周囲の景色が闇に覆われているだけに、どことなく不安になってきた。体を守るように腕を組み、寒さを凌ぎながらボヤく。

 

「ったく〜、どこまで行っているんだよ。こんな闇の中を」

 

 自分から出向いた結果であるが、孤独感から恐怖心が掻き立てられる。

 そんな中、とうとう月明かりに照らされた開けた場所を見つけた。

 

「おっ、出口。――ん? 誰かいる」

 

 針葉樹林を抜けたケインは、そこで岩に腰掛ける人影を見つけた。けれど、近くに歩み寄って行くにつれ、その正体がはっきりとした。

 

「レイナさん……」

「あ、ケインくん」

 

 長髪を靡かせ振り向く彼女の顔。その顔の半分を月明かりに照らした。

 こちらが質問する前に、彼女の方から先に口を開く。

 

「こんな夜遅くにどうしたの?」

「べ、別に俺は気晴らしに……。そちらこそ、なんでここに?」

 

 すると、薄らと笑みを浮かべ、右手そっと優しくポンポンと叩き、隣に座ってもらいたい事を促してきた。その合図を受けて、そちらに出向く中――

 

「実は私も眠れなくてね」

 

 夜空を見上げてぼやく。

 

「何か気になる事でも?」

 

 とその言葉を返した。横で見るレイナの表情は、何処、悲しさを讃えており――

 

「うん……。あ、そう言えば話してなかったよね? 私のこと」

 

 今更ながら、大切な事を思い出したようだ。

 

「あ、ま、ま〜。確かに」

 

 あの焚き火を囲んでの談話。唯一、レイナだけが自分のことを話していなかったような気がした。

 その中で、小凛に関しても、それは言える気はしたのだが、それは小狼から間接に教えてもらっただけに、少なからず事は足りていた。

 その中でだ。

 

「私ね、実はこのゲームに参加する前に、1人の息子がいたの」

「え、息子? てことは、レイナさんはお母さん?」

「そ。驚いたでしょう」

「ま、ま〜。かなり意外だったもので」

 

 (通りでだ。彼女から包容力ある雰囲気が感じられたのは)

 

 ほんわかした印象の正体はそのことだと分かり、なんだか腑に落ちたような気がした。

 ケインの反応を見て、ふふふ、と軽く笑みを見せたレイナは、続きを語る。

 

「実は、このゲームに参加するきっかけと言うのはね、その息子の身辺整理からだったのよ」

「身辺整理? ……っ! てことは――」

「想像通りよ」

「……」

 

 言葉の重みを知ってか、これ以上、かける言葉が出てこなくなってしまった。

 塞ぎ込んでしまった自分。それに相対するかのように、レイナはこちらを向いて励ましてくれた。

 

「別に気にやむ事ないのよ、ケインくん」

「し、しかし……。なんて言うか、返す言葉が」

「まぁ、無理もないわ。でも、真実なのよ」

「ち、ちなみになんですけど、その子の名前は?」

「……テル、テルよ。あなたと同じゲームが大好きな子だったわ」

 

 ゲームと言うのは間違いない。このモンハンのことを指しているんだなあと直感で察した。

 

「でも……。友達と一緒に何か約束を交わしたみたいだったけど、色々あってね。運悪く……」

「そ、そうですか〜」

 

 すっかりと気落ちしてしまった。だが、ケインの両肩に手を当てたレイナは、優しい笑みを投げかけると

 

「……ありがとう、話を訊いてくれて」

「そ、そんな。俺は、ただ単に……」

「……べ、別に気にしなくていいのよ。それにケインくんは関係ないし」

「そう、ですか〜」

 

 コクリッと彼女は頷いた。向き直って景色を眺めると、

 

「私ね、願いがあるの」

 

 と切り出して。対してケインは、一言。

 

「願い?」

「そ、願い」

 

 そして、思い馳せるような風にして、じっくりと言葉を紡いだ。

 

「私にもあるのよね〜。テルの夢を叶えさせたいと言った願いをね。まぁ、結果論として、テルの代わりにはなるけど」

「テルの、夢ね〜」

「まぁ、具体的には、仲間と共にハンターライフを最後まで楽しむことかな。テルの分としてね」

「……なんか、それ。まんま純粋な夢ですね」

「まぁね。相当、モンスターハンターが好きだったから。だから、私が代わりにって。それと――」

 

 こちらを向くや、人差し指で

 

 コツンッ

 

 ケインの額を小突き、笑みを浮かべて

 

「別に気を使わなくていいのよ、ケインくん」

「え?」

 

 額をさすりながら、キョトンとする。

 

「話し方、敬語になってるわよ」

「し、しかし――」

「私が言うのだから、いいってこと。逆に自然体で離された方が、こちらとしても気が楽だし」

「じゃ、じゃあ、レイナ、さん?」

「次いでに、さん、もいらないかな。でも、そこはそっちに任せるわ」

「は、は〜」

 

 なんだろうか。彼女から発せられるほんわかな雰囲気と言い、優しい口調。それに、こちらを労ってくれるような懐の広さ。

 それらを総合的に鑑みて、ケイン自身、緊張感が解けたような気さえした。

 

「さ〜て、そろそろ戻ろっか?」

 

 頃合いのようで、レイナはスクッと立ち上がった。しかし、

 

「え? もう?」

「あら? 戻らないの?」

「あ、い、いや〜。戻るけど、戻るんだけど……」

「けど?」

「いや、なんて言うか……。その〜」

 

 どう言って良いのだろうか。少し深掘りすれば察しがつくのだろうが、やっぱり、どうしても気にはなっていたことがあった。

 対して、レイナはケインが何かを言い出せてないことを気にしてか、再び腰を据える。

 

「いいのよ、無理しなくて」

「む、無理、と言うか……。気になっていたことあるんだよね。あのキャンプファイヤーの時に、見せた涙の理由と言うか何というか……」

「キャンプファイヤー? あー」

 

 そこで、慌てて説き伏せるかのように

 

「あ、いや、デリカシーに欠けていたらすまない」

 

 がしかし、当の本人はあまり気にしてはいなかったみたい。

 

「別にデリカシーに欠けてなんて。そんなことなんて思ってないわ。寧ろ、出会って間もないのに、あんな所を見せちゃって。ほんと、驚かしてごめんなさい」

「あ、い、いや、そんな謝らなくても。ただ単に気になっただけで……」

「そぉ? ま〜、いいわ。この際、話しましょうか。別に隠すつもりもないし」

 

 そして、改めて居住まいを正すと、夜空を見上げながら本心を語り始めた。

 対して、ケインとしては、話の流れがぎこちないようには感じられたが、この際、静かに耳を傾けた。

 

「あれは……、あれはね。ケインくんが話す中で、テルの面影を見たからかな」

「面影?」

「そ、面影。ほら、言ったでしょう? 友達と一緒に約束を交わしたって、テルが。どんな約束かまでは分からないけど、その約束する光景が脳裏に過っちゃって」

「……それで」

「ま〜、そんなとこ。特に深い意味合いはないのよ。ちょっと郷愁の念を抱いただけだから」

「そっか……」

 

 なんとなく想像の範囲内だと分かってはいたが、やっぱり本人から直接訊くのと訊かないとでは、心にグッと来るものは違っていた。

 

「なんか、染み染みと来るな。そう言うもの」

「あら、そう?」

「うん……。だって、俺だって話したと思うけど、親友亡くしているからさ。だから……」

 

 境遇が似ているような気がして、同情、……とまで行かずとも、共感するようなものであった。それも、非常に。

 

「ありがとう」

「え?」

「だから、ありがとう、ってこと。ケインくんは優しいのね」

「んなことは……」

 

 かなり久々だけに、なんだかこそばゆかった。頭を掻くケインに、今度こそレイナは立ち上がった。

 

「さ、戻りましょう? 明日はまた早いんだし」

「そ、それもそうだな」

 

 それから2人は、ようやく揃って帰路に着いた。着いて、小屋の前で待っていたのはノブ公。2人の姿がいないことに、どことなく心配していたとのことであった。

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