モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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3章:燃える夜空へ・終話

 幾重にも亀裂が走っていく大黒柱の光景。ケイン達の視線は、対峙している双頭のモンスターを脇目にして、釘付けになっていた。

 

 ビキビキビキビキ……。

 

 奏でる割れ音に、先にハッとなったのはノブ公。危機感を露わに叫ぶ。

 

「全速力で逃げろ! 崩れるぞー‼︎」

 

 っ!

 

 その甲高い叫び声。流石にケイン達はハッとなり、緊急事態の有り様を悟った。

 もはや、ギギネブラにウルクスス。先程まで対峙していた両名には目も当てる余裕なんてない。

 

「おっさん! どっちに……」

 

 その声に応えるかのように、とある入り口前に立って合図を送っていた。見た瞬間、直感で分かった。

 

 〝そこが出口だ″

 

 と。

 皆がそっちへと走る中、衝動的にケインも走り出す。だがそこへ、あの氷柱に突っ込んだウルクススが。

 

「なな、あっぶねぇ〜」

 

 入り口付近にいたノブ公達は、我先に出て行くウルクススの滑走に、堪らず慄いた。

 瞬く間に割って行き、姿を消したウルクススに呆気を捉えてしまっていた一同。そこへ、只事ではない崩壊音が轟いた‼︎

 

 バキバキバキバキバキ……。バゴーン……‼︎

 

 なっ!

 

 木っ端微塵に砕けた大黒柱に、迫るギギネブラの姿が目に映る。

 

 (っ! やべぇ!)

 

 反射的にノブ公の元へ走った。皆が出口と思いしき入り口へと殺到する。

 

「ケイン! 急げー‼︎」

「ケイーン‼︎」

「ケインくん!」

 

 J.O、小狼、ノブ公。三名に急かされながら、必死に走った。

 

 (間に合え、間に合ってくれー‼︎)

 

「うわ――‼︎」

 

 大黒柱の崩壊と共に天井から落下して来る、数多なる氷塊。当たれば下敷き&キャンプ送り。

 決死の脱出劇を前に、遂に――ダイブ‼︎

 差し出されたノブ公の手を掴み、グイッと引っ張られ――。共に転がった矢先に、来た方から迫り来るギギネブラの姿が。だが、その直後、

 

 ズッシ――ン……‼︎

 

 巨大な氷塊が、道を塞ぐ。

 一連の事態にその光景。命からがら難を逃れたことに、一安心。

 

「ふぇへ〜、助かった」

 

 だがしかし、

 

「いや、まだ終わってないぞ。ケインくん」

「え?」

 

 まさに信じられない一言に、懐疑的に。そして――、崩壊音は未だに、洞窟全体の激震を伴ってしていることに、ようやく気が付いた。

 気がついて、現状は一刻の猶予がないことを悟った。吹き飛んだ安心感を前にして、ノブ公は再び急かす。

 

「ともかく、行くぞ。長居は無用だ」

「あ、ちょ、おっさん!」

 

 有無を言わさず走り出す彼に、他のみんなに、慌ててケインも走り出した。

 

 壁面や天井が崩れるなど、崩壊の度合いが激しさを増す洞窟。それは身の危険における圧迫感をさらに助長させていく。

 他のメンバーも必死だが、特にケインに於いては、血相を掻いて我先にと言わんばかり。スタミナが尽きるまで全速力で走った。

 走っては、いつの間にか先頭に躍り出ていたらしく。目の前には、ようやくと言っていい外の明かりが目前に見えていた。

 

 (あと少し、あと少しで出られる……)

 

 後方から迫り来る崩壊音に駆り立てられるように、力の限り走り抜けた。

 そして、外の明かりが迫り――

 

 バッと羽を広げるかのように飛び出しては、

 

「助かったー!」

 

 その瞬間、久々に外に出られた事で、解放感に恵まれたような気さえした。

 一拍置き、遅れてノブ公達がやって来て、それから、洞窟の中からけたたましい崩壊音と大量の粉雪が吹き出すと共に、J.Oが最後に飛び出して来た。

 

「うい〜、助かったぜ」

 

 冷や汗を掻いたJ.Oが安堵の言葉を漏らした。一同を確認したノブ公は、

 

「皆、無事だったみたいだな」

 

 と一言。

 

「ったく〜、危なかったぜ。一歩遅れていたら、と思うとな」

「同じくです。私も、流石に今回ばかりは」

 

 J.O、レイナ、揃って口々にし安心感を抱いたようだ。その2人に続けて、ブレットも言葉を紡いだ。

 

「まさに間一髪だったにゃ」

 

 しかも、すっかり安心しきってしまったのか、そこでペタリ、と座り込んでしまった。

 危機を脱したことに、和やかなムードが全体を包み。それからノブ公は、先の景色を見渡す。

 

「だいぶ下ったみたいだな。遠方にポッケ村まで見えるし」

「麓の村がにゃ?」

 

 彼の言葉に惹かれ、バターはノブ公の傍に歩み寄った。一方、緊張感から解き離れた反動なのか。ブレットと同じくその場で座り込んでしまったケインは、耳を傾けるので精一杯だった。

 グッタリする一同。風に乗って2人の会話が聞こえてくる。

 

「でも、登らないといけないのは変わりないにゃ」

「ま〜、村自体が山頂に位置するからな。……しっかし、よくここまで1人を除いて無事に下山して来られたもんだ」

「それもこれも、副長のおかげだからにゃ」

「おかげ、か〜。なんかこそばゆいな、それ」

「え? どうしてだにゃ?」

「だってよ、結果的にセツナを残して下山して来たんだぜ。いくら団員を無事に下山させてきたとは言え、正直、歯痒いんよな」

「そ、それは……。副長さんも言っていたじゃないかにゃ。どの道、下山しないことには打つ手がないと」

「そうだけどさ。ただ……、村に帰っても確証が得られない。んな気もしなくはないから……」

 

 そこで、黙っていられなくなったのだろうか。ケインが横から口を挟んだ。

 

「それは違うぜ、おっさん」

「ケイン殿……」

 

 とバター。目線だけをよこすノブ公に、続けて語りかける。

 

「確証がないのは誰しも同じだぜ。てか、今更気落ちしてどうするんだよ。リーダーなんだろう?」

「……ふんっ」

 

 と何かを悟ったのか軽く鼻で笑い、気を取り直して

 

「それを言うなら、今のところだけだかな」

 

 それから、こちらに向き直った。一同を見渡し、目を閉じて。それから――

 

「行くか。ここに居座っても仕方ないし」

「え? もう行くのかよ〜」

 

 不機嫌そうな顔を見せたJ.Oは、渋々、体を預けていた氷壁から離れた。

 

「まだ、いたいのかネ?」

「いたいというか……。休む時間早くね? てことだよ」

 

 すると、ノブ公が

 

「なら居てもいいんだぜ、J.O。どの道、ポッケ村まで目と鼻の先なんだしな」

「目と鼻の先?」

 

 訝しむ。訝しんでは、ノブ公の隣へ。そこから見える景色の先に、例の村が見えるのを確認した。

 

「……確かに」

「だろう? ようは、ここにいるよりか、村まで下山した方が安全と言いたいのさ」

「……」

 

 すっかり納得してしまったのか、トーンダウンしてしまった。

 

「てなわけで、行くか。村まで」

 

 その言葉の後、ノブ公を先頭に一同は歩き始めた。

 下り坂に差し掛かり、ふとケインは、来た道の洞窟を振り返って思い馳せた。

 

 (あいつ、もう来ないよな)

 

 それは、まさしく奇怪なモンスター――ギギネブラのこと。

 幼体ギィギならまだしも、成体は見るに堪えない形態だけに、ケインとしては二度と遭遇したくなかったからだ。

 遠のいて行く洞窟、それを尻目に再び歩き出す。脅威は去った。向かうは麓の村。

 

 (何事も起こらない。もう、何も……)

 

 これで安心して帰れるのだ。そう気を取り直した矢先――

 

 ばふぅ――ん……‼︎

 

 と突然、雪塊が砕け散ったような音が、後ろから聞こえてきた。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

 ケインの驚きの反応は、この場の全員にも当てはまる。一同が振り返るその先。遠くの洞窟からは、粉雪が煙のように舞っていた。

 そのような光景。

 

 (ま、まさかな……)

 

 途端、嫌な予感が脳裏を過ぎる。過って、そして、その予感は、不運なことに、見事、命中するのであった。

 

 

 

 

 悪夢、再びここに来たる‼︎

 

 正直、二度と出くわしたくはなかった。しかし、その運命からは、逃れることは出来なかったのだ。仕方がない。結局、やるしかないのだから……。

 ギギネブラを中心として、ケイン達は取り囲んで対峙していた。

 対するギギネブラはと言うと、先の崩壊に巻き込まれていたこともあり、全身、傷だらけ。かなり弱っているようにも見えなくはなかった。

 ギギネブラの注意を引きつけるべく、接近戦に持ち込んで戦うノブ公の勇姿。

 防戦をメインとして、懸命に踏ん張る一方、徐々に氷壁に追い込まれジリ貧になりつつあった。

 ヘビーボウガンの砲身から火を吹きだし、矢の雨を浴びて。方やJ.Oとケインは、背後を交互に打撃と斬撃を繰り出し、そして、レイナは狩猟笛を鳴らして場を盛り上げた。

 オトモ達もできる限り参戦して、戦いは苛烈を極めて行く。

 幾重にも血潮を噴き出したギギネブラは、堪らず怯み。そこへ、ケインは叫んだ。

 

「今だ‼︎ 豚頭!」

 

 その場を離れて代わりに、

 

「豚頭じゃ、ないっつーの‼︎」

 

 ドシーン……‼︎

 

 と溜に溜めた一撃を、地を穿つ如くに思いっきり振り下ろした。そのまま連続攻撃。すかさずJ.Oが離れたのを見て、躍り出るケインだが、

 

「待て! ケイン!」

 

 え?

 

 出鼻を挫かれたかのように、ケインは立ち止まった。直後、先程まで集中攻撃していた尾。その尾がいつの間にか先端を地に付けると言う、今までにない異様な動きを見せたのである。

 その奇怪な行動に、思わず呆然としてしまうケイン。そして――

 

 うゔぁあああ〜‼︎

 

「な、な、な、なんだ⁉︎」

 

 何かを踏ん張るような奇怪な声。と同時に尾の先端から、

 

 なんと! 

 

 あの気味の悪い卵塊を、にょろにょろにょろ〜、と生み出したのである。

 

「え? 卵?」

 

 あのギィギを生み出す卵塊、そう思ったのだ。ところが、よく見ると禍々しい濃紫色。その不気味な色にどこか違和感を抱いた。

 その矢先――

 

「離れろ‼︎」

 

 ノブ公の怒号。

 

 え⁉︎

 

 直後、やや膨張したかと思えば、卵塊が

 

 バシャンッ‼︎

 

 と破裂。堪らず

 

 うわっ!

 

 ビックリして尻餅。辺りに飛び散った飛沫は、雪面を、

 

 ジュ〜

 

 と湯気を立たせて、恐怖の溶解音を伴った。

 

「大丈夫かよ」

 

 流石のJ.Oも、その正体に肝を冷やしたのか。無事を確かめた。

 これに対してケインは、眼前に表示されたステータスに異常は示されていないことに安堵。

 

「な、なんとか……」

 

 差し出されたJ.Oの手を取った。まさに間一髪、猛毒の餌食にされたかけた瞬間だった。

 一進一退の接戦に、ノブ公は警告する。

 

「見誤るなよ、ケインくん」

「おっさん」

 

 金属音と火花、交互に炸裂させつつ、先程破裂した卵塊の解説に入る。

 

「一括りに言って、……くっ、卵塊は、2種類、あるんだな」

「2種類?」

 

 とそこへ、J.Oが

 

「話聞いているなら、離れてろ! ケイン」

 

 グイッ!

 

「なにするん⁉︎」

 

 急に引っ張られたことに、思わず苛立つ。――が、それも一瞬。間髪入れず、ノブ公の解説の続きが入った。

 その場を離れつつ

 

「一つは白い卵塊。これは、……そっちに注意がいったぞ、J.O!」

「あいよ。言われなくても」

「で、話の続きだが、その白い卵塊は、簡単に言って安全だ。で、2つ目が、先の卵塊。紫の卵塊だ。これは猛毒で危険だ。だから、つまり――」

 

 そこで、直感的に意味が分かった。故に――

 

「ようするに、紫色の卵塊が現れたら逃げろ。そう言うことだろう? おっさん」

「お、おう。そう言うことだ」

「なら、簡単だ」

 

 彼の解説を理解したケインは、太刀を握り直し、改めてギギネブラと対峙。気味が悪いのを無理強い我慢して、奴の動向を見定に入った。

 のだが、そこで急に後方へ羽ばたくと同時に、毒霧を吹き出してきやがった。

 

「ぐふっ!」

「くっ」

 

 反応しきれず、モロに食らったJ.Oとノブ公。その紫煙の爆風に煽られ吹き飛ばされてしまった。

 

「おっさん!」

「豚頭!」

 

 小凛とケインが叫ぶ。

 

「な、なんとか……」

「これくらい大したこと……」

 

 強気に堪えたはいいが、ノブ公、J.O。両名のステータスには、当然のように毒状態が付与されていた。

 

「今、回復しますね」

「すまない、レイナさん」

 

 痛手を受けた2人に、癒しの笛が奏でられ始める。一方ケインは、やられた2人を見ては柄を強く握り直し、そこに怒りの感情を(したた)めた。

 そして、感情の赴くがまま――

 

「うぉおおおー‼︎」

 

 我を忘れて地を蹴った。――が、そこで、甲高い銃声音が。直後、ケインの足元、スレスレに着弾。瞬間、正気を取り戻した。

 取り戻したかどうかはさておき、小凛が罵声した。

 

「バカかネ?」

「な、何を⁉︎」

 

 しかし、そこで

 

「冷静になるんだ。ケインくん」

 

 続けて、レイナも

 

「一旦、落ち着いて。ケインさん」

「し、しかし……」

 

 収まらない苛立ちと2人からの制止。その板挟みに葛藤し、言葉を詰まらせてしまう。

 そうした中、明後日の方角から、ミルク達の声が。

 

「出来たにゃ」

 

 そして、ケイン達に向かって呼び付ける。

 

「おーい‼︎ こっちだにゃ」

 

 え?

 

 呼ばれたことに振り向く。

 すると、ミルク、ブレット、ジャム、バターの4匹。それに、彼らが〝コ″の字で取り囲むように設置してある、蜘蛛の巣のような網状の何かを目にしたのだ。

 

「なるほど……」

 

 その正体を察したノブ公が、勝手に、うんうん、と頷いた。

 一方、その正体を掴みきれていないケインは戸惑った。

 

「え? な、何を勝手に頷いて……」

 

 すると、同じく理解したJ.Oも頷き、ノブ公の代わりにケインに号令を放った。

 

「あそこまで走れ! ケイン」

「あそこまで、て……」

 

 全く持って理解不能。だが、次の瞬間だった。

 なんと不運なことに、ギギネブラは戸惑うケインを今がチャンスとばかりに注視したのである。

 目と目が合ったような。それも睨まれたような気さえして、ゴクリッ、唾を飲み込んだ。

 飲み込んで、動けない、周りの音も聞こえない。そのような一種の金縛りに陥った。

 だけど、そこで後頭部に何かがぶつかって、

 

 っ!

 

 我に返るや振り向いた。途端、鼓膜が破れんばかりの咆哮が轟き、

 

「く、くっそ〜!」

 

 収まりつつタイミングを見計らって、全速力で走り出した。それも、合図している方向。ミルク達の方へと、がむしゃらに走ったのだ。

 網状の設置物の正体がなんなのかは分からない。それでも躊躇わずに……。

 

 ああああ――‼︎

 

 奇声を放ちながら、走って、走って、……それから走りまくり――

 

 網を踏んづけた瞬間、ぐにゅりっ、と鈍いクッションを踏んづけた感覚が。

 だけど、それでも構わずその設置物を渡り切り――。崖際まで来たところで振り向いた。

 視界いっぱいにギギネブラが迫り、

 

 ひぃ〜‼︎

 

 ビビりまくって、両手で顔を庇うなりして尻込み。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、……」

 

 後退りして、そして、対するギギネブラ。蜘蛛の巣状の網の上を通過しようとして、いきなり、

 

 バサー‼︎

 

 網ごと崩落して、地の底へ落下。途端、上半身を出しながらであるが、ほぼ身動きが取れなくなった。

 

「え? 落とし穴?」

 

 思わぬ光景に、ポツリと呟き

 

「でかしたアル」

「ナイスだ」

 

 小凛、ノブ公の両名に褒められた。

 

「じゃ、じゃあ、俺はまさか……」

 

 そこでJ.Oがでしゃばり

 

「考察は後にしろ。邪魔だ」

「お、おおい……」

 

 強制的に押しのけられてしまった。

 ようするに自分は、まんまと利用された訳だ。トラップへのギギネブラの誘導を。

 不愉快にはなるが、この間、大タル爆弾が設置されていく作業がされるところを見ると、気持ちの反面、役に立てたような気もあり、複雑な心境になった。

 茫然としていたケインに、ジャムが手招き。

 

「離れるんにゃ!」

「あっ、ちょ、ちょ、ちょっと!」

 

 まさにされるがまま。小さな猫手によって連れられた。そして、ある程度、ギギネブラから距離を取ったところで、小凛は叫ぶ。

 

「喰らえー‼︎ とどめアル!」

「ちょ、ま、まさ――」

 

 ドンーッ‼︎

 

 号砲と共に風切り音。したかと思えば、次の瞬間、大爆発大炎上。鼓膜を破らんばかりの爆音が轟き、

 

 くっ。

 

 爆風に飲まれて、またもやバランスを崩しそうになった。黒煙が周囲の視界を遮り、……そして、視界が晴れて来れば、そこにはピクリと動かないギギネブラの変わり果てた姿があった。

 第一声、

 

「っしゃー!」

「お見事です」

 

 ノブ公とレイナの褒め言葉が聞こえ、

 

「どんなもんネ」

 

 鼻を手で啜り、自慢する小凛が目に映り、ようやくギギネブラ討伐に成功したことを認識した。

 

「どうやら一件落着だな」

「みたいだね」

 

 J.O、小狼が揃って嬉しそうにしていた。この勝利の光景、ケインは改めて思った。

 

 〝間違いない。入団すべきだな″

 

 と。

 まさにそれは、親友(ユウト)を含めてを意味していたに他ならなかった。

 すっかり場は安心感に包まれ、あとはゆっくり下山するだけ。そう皆が思い始めた頃、突如として、ただ事ではない何かの崩落音が頭上から。

 と同時に

 

「あ、危ないにゃ‼︎ みんな!」

 

 先に気が付いたバターが叫び、つられて一同が見上げれば、そこには無数の巨大な氷塊が自分達目掛けて落下してきた光景が。

 瞬く間に場は阿鼻叫喚、まさに絶対絶命のピンチと化し。もはや避けようがないかのように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的は果されたとは言え、どうにも腑に落ちない。確かに白き獣の正体がドドブランコなのは確認できた。

 けれど、なぜ人前に現れるようになったのか? オムラ村長の話していたことが、そのように行き着き引っ掛かっていた。

 だけど、

 

「結局はリアルに見せかけたゲームに過ぎないんだよね、これも」

 

 その言葉の通り、深く考えずに割り切ることにしていた。とは言え、いくら調査クエストだけに、発見次第、討伐。それができなかったことだけは、本当にもどかしかった。

 なんとも融通の利かないクエスト。依頼通りにしなければ、クリアしたことが認められないなんて、アホらしいにも程があった。

 でも

 

「仕方ないですね……」

 

 ため息だけを吐いては、ともかく無事に下山することだけを優先的に考えた。

 それもこれも、キャンプ送りになれば元もこうもないから。しかも、団員を抱えている立場なら尚更。1人たりとも犠牲にはできないから。

 そうした中、針葉樹林を抜けた先、開けた場所にて山小屋を見つけた。

 生態マップの通りなら、この場所が、事実上、最後の設営地となるだろう。メイドの副団長は連れの団員達に告げた。

 

「今日はこの辺にしときましょう。もう、日も暮れてきたことですし」

 

 その言葉を皮切りに、隊列を組んでいた団員達はそこで解散した。とは言え、言葉通り日が沈むのも時間の問題なわけであり、宿泊の準備は怠ることはできそうにない。

 白銀の狩人に声を掛けられ、副団長は焚き火の材料となるものを共に探しに、針葉樹林へと足を踏み入れた。

 手始めに山菜ジジイを探し出し、それから依頼を。と言っても、自団宛ての依頼であり、ただ単に焚き火の材料となるものを聞き出したに過ぎなかったが……。

 

 それから暫くして――

 

「ここは一旦、戻りましょうか?」

「……うん」

 

 頃合いを見計らって材料を揃い終えた副団長は、彼女と共に山小屋へと戻る。その直後、事態は突如として急展開。山小屋方面から突然悲鳴が上がると共に、

 

 なんと! 

 

 これまで聴いたことないような咆哮が轟き、間を置かずして突風の如く2人を襲ったのだ。

 まさにその瞬間、嫌な予感が過った。それも、本能的に近いくらいに。

 一方、白銀の狩人も同じく感じたのだろう。尋ねるまでもなく、その表情は凍てついて。

 副団長は声を掛けると、ハッとなって我に返った。

 

「急ごう!」

「うん」

 

 2人は互いに頷くと、全速力で山小屋方面へと走った。

 

 走って、走って、走りまくって――

 

 山小屋に戻った2人が目にするは、

 

 なんと! 

 

 漆黒に覆われた、巨大で獰猛そうな飛竜。しかも、その顎門には、恐るべきことに仲間の1人が咥えられていた。

 

 キャ――‼︎

 

 隣で少女が、恐怖のあまり叫んでしまった。対する副団長も、目を疑う光景に頭が真っ白になり唖然としてしまっていて――。

 そんな中、微かであるが苦し紛れの声。

 

「……げろ!」

 

 え?

 

 そちらを向く。咥えられ動けない団員の一人からの声が、仲間を逃がそうと懸命に叫んでいたのである。

 徐々に減っていく体力ゲージ。見るに堪えなかった副団長は、そのか細い声を訊いて突発的に

 

 ――助けにいかなければ――

 

 団を束ねる立場ゆえに、その強い使命感が恐怖を押しのけ副団長は彼を助けるべく動き出したのだ。

 しかしそこで、その男は限界を超えて振り絞るかのように叫んだのだ。

 

「逃げろー‼︎」

 

 と。

 

 っ!

 

 虚勢を前にして、思わず立ち止まってしまう。――とここで、その声に反応した漆黒の飛竜。

 咥えていた仲間を強引に噛み砕き霧散と化したエフェクト片を撒き散らすと、未だに動けないでいた赤髪の親友に目を向けて、ものの1秒足らず。

 声を上げる余裕すら与えずして襲いかかり――

 

 バクンッ!

 

 と捕食。その光景を目の当たりに、堪らず

 

「きゃ――‼︎」

 

 と恐怖のあまり絶叫して――

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 ガバッ‼︎

 

 飛び上がらんばかりに、反射的に布団から起き上がった。胸に手を当てながら、

 

 はぁ、はぁ、はぁ、……

 

 呼吸が荒く、そして、そっと額に手を当てがえば、冷や汗が掌を湿らしていた。

 

「……なんだ、夢か」

 

 ようやく見ていたものが、夢と言う名の悪夢。自身が抱えていたトラウマだと認識することができた。

 自己認識して、それから嫌悪感も抱き。

 

「胸糞悪いですね……」

 

 毒突くに至った。

 再び手を額に当てがい、不快な心を落ち着かせ。それから、ふと窓の外を眺めて――

 

「お、起きたんじゃな。カデットよ」

 

 オムラ村長の声がして振り向いた。

 

「ご主人様……」

 

 慌てて布団を剥ぎ取り、居住まいを正すべくベッド上で端座位になる。

 けど、オムラ村長は掌を見せては、〝そのままでいい″と、無言の仕草を見せた。

 円卓を挟んだ片方の腰掛け椅子に腰を据え、オムラ村長は外を眺めた。一息ついては話し出す。

 

「その様子じゃと、悪い夢でも見たのかのぉ〜?」

「っ! どうしてです? 急に」

 

 内心を見透かされたかのように、動揺が走る。

 

「どうしても何も、来てそうそう飛び起きるからじゃ。何かあったかと思ってな」

「す、すみません。驚かせてしまい」

「な〜に、大したことじゃ。でも、……」

 

 こちらに顔を向け、指先を゛C″の字に。

 

「ちょびっとな。ちょびっと、驚いたがのぅ」

 

 いつもの笑みを見せ、場を和ませた。

 

「そうですか〜」

 

 彼の気遣いを前にして、返す言葉が見つからなかった。

 

「ま〜、そう暗い顔をするな。……あ、そうそう。朗報があるのじゃよ、朗報が」

「朗報?」

 

 今思い出したかのような言葉。その言葉に、カデットは興味をそそられてしまう。

 続けてオムラ村長は、その中身とやらを話し出す。

 

「そうじゃ、朗報。あのフラヒヤ山脈から無事に帰ってきたんじゃ、彼らが」

「え⁉︎」

 

 まさに耳を疑った。耳を疑いざるを得なかったのだ。だが、念には念を。動揺した感情をすぐさま抑え込み、冷静を取り繕って確認してみる。

 

「あ〜、いやいや。帰って来たと言っても、それ、単に素材採取ツアーかなんかでフラヒヤ山脈に足を踏み入れた方々ですよね? それなら、昨日だって……」

 

 ところが、オムラ村長の反応は意外だった。彼はにこやかに笑みを浮かべては、意味深なことを述べるに留めた。

 

「ま、信じるか信じないかは、自分の目でな。わしは告げたからのう」

 

 そう言い残すや、再び外の景色に想いを馳せた。

 

 ゛信じないかは自分次第″

 

 まさに半信半疑だった。常識からして、フラヒヤ山脈の奥地にはアイツがのさばっているのだ。自分がかつて引き連れていた分団を壊滅に追いやったアイツが。

 だから、そのことがあり、先程話した通り、きっと昨日ツアーに出かけた者たちのことだと認識。アイツがいる限り山脈奥地へ赴いた猟団なんて、決して生還する訳がない。そう考えていたのである。

 だけど、その反面、普段から接しているオムラ村長を良く知る自分が、意味なしに彼が朗報なんて言葉を使わないことも知っていた。

 そんな訳で、カデットとしては無駄だと分かってはいたが、非常に気になる訳で……。

 ベッドから立ち上がると、そのまま収納ボックスへ。簡単に衣替えした後、オムラ村長前の円卓に両手を当てがい、窓の外を見た。

 いつものポッケ村がそこにあって、そして、村の出口――フラヒヤ山脈方面には、なんと! 群衆が出来上がっていたではないか。

 

 (え? まさか!)

 

 そんな訳が、そんな訳がない。だって、だって――。

 

 そのような動揺とも焦りとも言える感情が、目まぐるしく入れ替わり。そんな複雑な心境を抱えたまま、カデットは衝動に駆られて家から飛び出した。

 

 そして――

 

 群衆の前まで来たカデット。大勢の人垣により、誰が帰ってきたのか確認できず。

 仕方ない。ここは一人のプレイヤーに聞いてみた。

 

「あの〜」

 

 すると、振り向いたハンターは

 

「あ、カデットさん。ちょうど良かったです。彼らが帰って来たんですよ。彼らが」

「彼ら?」

「ほら、そこに……」

 

 代わりに群衆を掻き分けてくれるそのハンターは、見せたいものがあると、人垣の向こう側を案内してくれた。

 つられるがまま掻き分けた先にて、カデットはその瞳を丸くした。丸くしざるを得なかった。

 それはまさに、信じられないものを見るかのようにだ。

 

 そう……。

 

 彼女が見たものとは、まさに、ここ数日間以上遭難していた猟団――蒼天の翼の面々だったから。

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