モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・1話

 行けども行けども雪原地帯は続く。当たり前だが、生態マップもそれを表していた。

 けれども、縮図にしてカーソルを動かせば、数キロ先まで続いていることが裏付いていて。

 だけど、心配なのはそのことではなく。……いや、多少は含むか〜。

 ともかく、なんと言っても天候が乱れてきたことに不安感が積もっていたのだ。

 と言うのも、先程まで晴れていた。けれど、今となってはどんよりとした雲が覆い尽くし。かと思えば、しんしんと雪が降り出す始末。

 今はまだ穏やかな降雪だが、後先を考えると急いだ方がいいに決まっていたからだ。

 そんな中、ポツリと呟いた。

 

「足が重い……」

 

 半端な圧雪だけに、踏めば沈み。また、踏めば沈むと言った感じに、雪の重みがまるで足枷の様に阻むのだ。

 そのことに噛み付くかの様に、

 

「はぁ、はぁ、はぁ、……だらしないわね。こんくらい大したことないわよ」

「の割には、息が上がってるみたいだがな」

「うるさいわね〜。これは寒いからよ。そう、寒いから」

「寒い? だったらホットドリンクでも飲めよ」

「それくらい、……はぁ、はぁ、飲んだわよ」

「飲んだ、ね〜」

「何? 疑っているの?」

「んな訳ないだろう。ただ、無理するな、って言いたいだけだよ。キツいんだろう、この道が」

「そんな訳――、あっ!」

 

 ドサッ!

 

 後に続いていたセツナが、足元を掬われ転倒した音が聴こえてきた。流石に余裕綽綽とまではいかないが、そこで立ち止まっては振り向き――

 

「ってててて〜」

「なにしてんだよ?」

 

 顔が雪だらけのセツナを見て、半ば白けてしまった。しかも、チラッと見たスタミナゲージ。それが著しく減退していて、赤点滅している状態にも気付いてしまう。

 このことから察するに、〝体力の限界″というヤツだった。

 仕方ないな〜、と思いながら手を差しのべ

 

「ほら、手を貸そっか?」

 

 しかし、差し出した手を見つめては、すぐに握ることなく。掌と俺の顔、交互に視線を動かして、しまいにはプイッ!

 

「別にいいわよ。そんな気を使わなくても」

 

 あっさりと拒否した。だが、いざ、立ち上がろうとした瞬間、

 

「っ!」

 

 全身の力が抜けたかの様にバランスを崩し。そんでもって、後ろに倒れそうなセツナを慌てて支えてやった。

 けれど、照れくさいのか

 

「ちょ、ちょっと……」

「お、おい!」

 

 言葉を濁し、反射的に突っぱねるかの様に慌てて体を離した。――のだが、

 

「あ!」

 

 ドサッ!

 

 まさに呆気なく。立つこともままならない状態で、尻餅をついてしまった。

 ついつい、そんなセツナを見ては

 

 は〜

 

 全くと言っていい程、呆れてしまった。まさに、自覚しているんだけど認めたくない。

 へんに意地を張っている様にさえ思えた。……いや、間違いなく、意地を張っているな。断定してもいいかも、と。

 見兼ねた俺は、意地を張り続ける彼女を尻目にアイテムリストを表示。こんがり肉を手渡すことにした。

 

「ほら、これ。こんがり肉でも食って元気出せよ」

 

 しかし、

 

「そんなの、余計なお世話よ」

「じゃあ、あるのか?」

 

 すると、

 

「当然、あるに決まっているでしょ。こんがり肉くらい」

「じゃあ、なんで食わないんだよ? こうなる前に……」

「……」

 

 しばし押し黙った後、

 

「……ったいないから」

「え? なんだって?」

「だから、勿体無いからだよ。こんがり肉くらいは」

「は?」

 

 (こんがり肉が勿体ない?)

 

 理解に苦しむ言い分だった。けれど、そこから察するに――

 

「もしかして、不足でもしているのか?」

 

 と声をかけてやった。言われて反応が乏しくなるセツナは、小さく頷くのみ。それ以外は、視線を傍に逸らし言葉に出すことはなかった。

 その様は側から見て、まるで後ろめたそうにも見えたくらいに。

 

「他にないのか? 携帯食料とか。支給品で貰っただろう?」

「……もう、ない。使い切っちゃったから」

「使い切っちゃったって……」

 

 無理もない気がする。支給品の携帯食料なんて、微々たる個数しかなかったかだけに。

 俺はセツナの手を取った。取って――

 

「だったら尚のこと」

「ちょ、ちょっと――⁉︎」

「使いたくないんだろう? だったら2つくらい上げるよ。だから、それで回復しろよな」

「……ありがとう」

 

 具の字も出なかったセツナは、背に腹は変えられず。渋々ではあったようだが、口にすることにした。

 かぶりつき、かぶりついて、豪勢にたいらげた後、罰が悪そうに小さく言った。

 

「貸しは後で返すから」

 

 と。だけど、

 

「貸し? んなもの要らないって」

「え? だって……」

「要らないと言ったら要らないさ。なにせ、余っていたからな。一つや二つくらい、礼には及ばないよ」

「で、でも……」

 

 そこで手を差し出して、彼女も躊躇してはいたが応える形で俺の手を握りスクっと立ち上がった。

 

「じゃあ、それだったらこの際、俺から条件を言わすよ」

「条件?」

 

 突然なにを言い出すの? そう言わんばかりに訝しそうな表情を見せた。

 そんなセツナに人差し指を立て

 

「そ、条件。な〜に、簡単だ。ケチケチしないで腹減ったら食え! それだけさ」

「っ! ケチケチってどう言う――」

 

 噛み付く。しかし、その瞬間を無視して、言葉を足した。お構いなしに。

 

「あ、そうそう。ホットドリンクも定期的にな。以上、それだけだよ、条件ってのは」

「ちょ、ち、う、う〜ん……」

 

 まさに、返す言葉を抑えられた。セツナの口からは、まともな言葉が出なくなってしまっただけに。

 けれど、そんなことなんて知ったことではない。それよりも、天候が優先課題。だから、踵を返して――

 

「ほら、行くぞ。いつまで持つか分からないしな」

「あ、ああ、ちょっと……」

 

 慌てるセツナを尻目に、再び歩き出す。

 

 そして……

 

 暫く歩いているうちにだ。想定通りと言うべきか、先程までとは違い、吹雪はその牙を剥き出すかの様に激しさを露わにしていた。

 まさに、一言で言い表すとしたら、

 

 〝ブリザード″

 

 その表現が適切なくらいに、吹き荒れていたのである。片手を翳して突き進む中、視界が酷いことに気が滅入りそう。

 

 (とにかく、雨宿りできる場所を……)

 

 そんなことを思いつつ、唯一、確認できる生態マップを手元に表示させていた。と言うより、周辺がほとんど見えないだけに、地図しか見ていない現状だった。

 そんな中、

 

「ね〜 この先で間違いないの? あたしも確認してはいるけど、なんも目印になる対象物なんてないよ。……ねぇ? ねぇってば?」

 

 疑心暗鬼に陥るセツナ。しかし俺は、

 

「大丈夫だって。この先で間違いないはずだから」

「本当?」

「あ〜、本当だよ。ただ、距離が距離だけに、地図見ても的外れにしか見えないだけだから」

「え⤴︎、……なんか怪しいの」

 

 やはり、信じてはくれないようであった。……でも、まぁ、無理もないことだろう。

 なにせ、拡大したままカーソルを動かしただけでは、分からない。縮図して、……それこそ、距離当たりの時間単位で表示させないと分からないから。

 けれども、このブリザードの中、説明するのが何処となく面倒臭かったので、敢えて言わなかった。

 時間にして30分ほど。このままのペースで行けば、百聞は一見にしかず。セツナも納得してくれるだろう。確信はしていたから。

 

 酷いブリザードが緩和されてきた頃、目の前に二つに割れた氷壁が姿を現した。

 その頃には、セツナも俺が先程言ったことを理解してくれたらしく、ようやく疑心暗鬼が解けて安心していた。とは言え、この先は緩やかな登り道が一見して続いているだけのように見えるが……。

 

「どうしたの? ユウト。いきなり、こんなとこで立ち止まって」

 

 不思議そうにするセツナが、軽々しく問いかける。

 

「いや〜、なんで言うかな」

 

 なんだろうか。ブリザードの止み具合を鑑みての、この登り道。どこか嫌な予感がしていたのである。

 

 〝言葉にできない、そんな予感″

 

 それは、生態マップ上に表示された現在地。その周辺が切りだった崖からでも、察しがついていたからだ。

 

 (このまま、平然と登って行ってはいけない気がする)

 

 そう勘繰った俺は、回り込むように氷壁へと歩み寄った。一方、この意図を知らなかったセツナは

 

「ちょ、どこ行くのよ。……変に迂回なんかしちゃって」

 

 戸惑いの声を上げた。

 

 そして、氷壁に歩み寄ってからに……。

 

 登り坂の手前、氷壁の一角にある岩陰にセツナと共に身を潜めた俺は、登り坂の向こう側を覗き見た。緩やかな登り坂、その坂の向こうは、反対側に崖があるのが見える。

 だけど、その辺りはブリザードによるものか、視界がぼやけていた。

 そこまで行けそうに見えるが、しかし……。

 一方、同じく覗いていたセツナ。俺とは違い、現状を、楽観視していた。

 

「別に警戒する意味ないじゃん。向こうが吹き荒れているだけで」

「いや、そうなんだけどさ。なんで言うかな……」

 

 ハッキリとモノが言えないだけに、言葉を詰まらしてしまう。

 

「も〜、焦ったいわね。それとも、引き返すつもり?」

「いや、そこは引き返さないよ。今更、あのブリザードの中を歩くなんざ御免だし」

「じゃ〜、どうしたいわけなの? こんな所で身を潜めてさ?」

「それは……」

 

 彼女の問いかけに明確に答えが出せず、もどかしい気持ちだった。優柔不断な自分に、少し嫌気さえ覚えてしまう。

 そんな中、見兼ねたセツナは、

 

「……よし、ならこうするのは、どう?」

 

 と、一枚のコインを手の中に現出させてみた。

 

「コイン? もしかして、アレか? コイントス的な」

 

 すると、得意げな表情を見せて

 

「ご明察〜。まさに、コイントスね。ここで、決めようじゃない。とっとと行くか行かないかを」

 

 そこで、半ば呆れてしまった俺は、思わずため息が溢れ

 

「あのな〜」

 

 と前置き。そして――

 

「んなことしなくても、行くに決まっているだろう? なにせ、ここを通る以外に他にないわけで――」

「じゃぁ、表が出たら進む。裏が出たら、引き返す。いいわね?」

「っておい! まだ、話の続きが」

 

 聞くに及ばず的なのか。セツナは指先に乗せたコインを、ピーン……、と奏でて垂直に弾いてみせた。

 

 クルクルクルクルー……

 

 高速で回転するコインが、曇天の空に混ざるかのように消えて。かと思えば、回転したまま落下。そのまま、手の内に収まるかに見えた。

 ところが、直前になって

 

「あっ」

 

 一陣の風がコインを攫ってしまった。

 

「おい! セツナ!」

 

 無言のまま、コインを追いかけ出すのを目の当たりに。かく言う俺も、慌てて追いかけるが、そこで裂け目の登り坂へと躍り出た瞬間、恐れていた事態が起きた。

 猛烈な暴風がセツナを襲っては、

 

「きゃあ⁉︎」

 

 黄色い悲鳴を上げて吹き飛ばされ。数メートル吹き飛ばされた挙句、勢いよく崖に向かって転がったのである。

 

 ちっ

 

「あのバカ!」

 

 舌打ちと共に、全速力で走る。走って、走って、走りまくり――

 

 そして――

 

 崖から転落仕掛けたところで、ダイブした俺が彼女の手をキャッチ。下半身、身を投げ出した状態ではあるが、間一髪、助け出した。

 

「ユウト……」

「何か言うことあるだろう?」

「……あ、ありがとう」

「どう致しまして」

 

 引き揚げたところで、

 

「ったく。肝を冷やすことをしやがってからに……」

「ごめん。……で、でも、コイントスに必要な――」

「はいはい、言い訳はいいよ。ようするに、命よりもコインが大事って言いたいんだろう?」

「そ、それは、違ぁ――」

 

 そこで言葉を遮るように

 

「ほら、行くぞ」

「あ、ちょ、ちょっと……」

 

 まさに有無を言わさず、俺は先を急いだ。

 

 

 

 

 岩陰に隠れつつ突風が吹き荒れるタイミングの間隙を縫っていく。出ないと、吹き飛ばされる危険性があるから。

 ブリザードの真只中、視界はほぼ見えない。だけど、岩陰に隠れている間は、雨宿りみたくブリザードに晒されることはなかった。

 生態マップ上には、この先、50メートル程進めば、下り坂に差し掛かっているらしく。同時に、谷間にもなっていることが窺えた。

 ようするに、あとそのくらいの距離を進めばブリザード地帯を切り抜けられる。そんな予想が立てられたのだ。

 

 (あと、もう少しだ……)

 

 ここは、この際、一気に切り抜けたかった。ただ、問題があるとすれば、やはりと言うべきか。人を容易く吹き飛ばすほどの暴風。

 それが、ここに来て、その間隔が一段と狭まってきたことである。そのことだけに、あと一走り、出来ないでいた。

 

「参ったな〜、ここに来て」

 

 すると、そこでセツナが焦らすように

 

「今更? ここに来て?」

 

 それに対して、俺は

 

「分かってる、分かっているからさ。今ちょっと考えていたんだよ」

 

 タンマをかける。最後の岩陰から覗く中、数秒から10数秒にかけて吹き付ける突風が顔を直撃して、観察の邪魔をしてきて。

 それでも、なんとか、……なんとかだ。安全ルートを模索し続けた。

 だけど、結局は見つからなかった。ついには諦めては、は⤵︎、とため息と共に落胆してしまう。

 

「悪いな、セツナ。ここまで付き合わせちゃって。……セツナ?」

 

 俯いていた俺が、ふと彼女に目を向けると、同じく覗いていたセツナの手には双眼鏡が握られていた。

 見るからに双眼鏡越しに、向こう側を睨んでいるように見えるが……。

 

「ね〜、ここら辺って、地形どんなだったっけ?」

「どんなって……。自分で調べられるだろう?」

 

 しかし、セツナは

 

「いいから、訊かせて」

「訊かせって、て〜」

 

 多少強引っぽさがあるだけに、仕方ない。早速、手元に生態マップを表示させた。

 そして、ありのままを伝えることに。

 

「どうもなにも、道はこの一本だぜ。それとも何か? 引き返す算段がついたとでも述べたいのか?」

 

 ところが、セツナの回答は意外であった。

 

「そんなの違うわよ。今更引き返すなんて、不毛だし」

「じゃ〜、何か? 見つけたとでも言うのか? 他のルートを」

「見つけた。と言うよりも、寧ろゴール地点から探りたい訳なのよ」

 

 は?

 

 (ゴール地点から探る?)

 

 思わず、首を傾げざるを得なかった。

 

「意味深だな〜。どう言う意味なんだよ?」

 

 それを尋ねると、覗くのをやめてこちらを向いてからしゃがみ込み。セツナ自身も手持ちの生態マップとやらを、取り出した。

 両者の間に2D表示として、見開き――

 

「現在地はここ」

 

 と人差し指で示し、

 

「で、あたしが気になったのは、ここね」

 

 それは、ブリザードの向こう側のことを述べた。地図上からでは、勿論、分からない。たがら、聞き返した。

 

「気になったもの? 何を見たんだよ?」

「獣人達の一団。それも隊を成していた一団ね。多分〜、アイルー達かと思うけど……」

「は〜、そんなのって……」

 

 その回答を聞いてか、思わず落胆してしまった。そんなここら辺にいる獣人達なんて、野生でしかなく。何処にいても、関係ない気がしていたからだ。

 だけど、

 

「な〜に、勝手に落胆しているのよ」

「だってさ。それって、つまり――」

「途中」

「え?」

「だ〜か〜ら〜、話の途中だって。あたしが言いたいのは、その一団がどこから現れたのかってこと。つまり、脇道があるかも知れないってことを言いたいのよ」

「は? 脇道?」

 

 思わず首を傾げてしまった。傾げては、再び地図に目を落としてみる。

 指先でスライドして、彼女が示した場所、周辺を拡大するなりして探ってみた。

 けれど、その根拠となり得るものがなく。

 

「やっぱり、んなものないぞ。どこにそんな……」

「ちょっと貸して」

 

 そう言うなり、90°近く反転。セツナ自身も確認するかのように、ガン見し出す。

 視線がキョロキョロ動いていて、それからある一点を睨んだ。さらに拡大し、それから

 

「ここ! この箇所。なんかうねうねした線があるとこ」

 

 意味不明なことを吐いた。

 

「うねうねした線?」

 

 首を傾げたまま、自分まで目を凝らした。一見して、何もないように見えるその箇所。

 けれど、な〜んか、こ〜、ぼやけた薄い線が、彼女が言った通り、描かれていたのだ。

 ただこの薄い線。所々、途切れかかってはいるが……。

 

「確かに、線、あるな」

「でしょ?」

「でもさ、これ、本当に道かどうか……、あれ? よく見ると、ここと繋がっているな。ここから、やや引き返した先に」

 

 それは、まさに迂回路にさえ思えた。でも、そんな脇道、今に至るまであったのだろうか?

 改めて疑問に思えた。だけど、セツナは前向きだった。

 

「だから、一旦、確認しに行こう。もしかすると、わざわざ、この先のリスクを負わなくて済むかも知れないし」

 

 この先のリスク……。

 

 それはまさに、今まで通りブリザードを突き抜けながら突き進むこと。大変危険な、この先50メートルを渡り切る選択肢のことを意味していた。

 正直、引き返すのは億劫だった。しかし、背に腹はかえられん。

 

「仕方ないな〜。確認するだけだぞ」

 

 渋々、付き合うことにした。

 

 まさに、灯台もと暗しとはこう言うことを意味するのかも知れない。

 登っている最中は、向かい風に晒されて気にも留めなかったが、いざ、引き返せば、その道? らしき箇所は見つかった。

 だけど、正確に言えば、氷塊と氷壁の隙間。その隙間より、氷壁側に亀裂が入っており、なんとなくだが、入り込めそうな印象だったのである。

 実際、隙間を通ってみれば、案の定、人一人。……いや、ややそれ以下、ではあるが、確かになんとか通れる小道が続いていたのである。

 まさに、先程、セツナが言った通り、獣人族達が通る分には丁度いい感じの道であり、ハンターである俺たちが達にはきついものがあった。

 横歩きしながら、足元に注意を払い。それでもって、T字路に辿り着く。

 真っ直ぐ行けば、そのままブリザードの向こう側へ。左へ進めば、まだ見ぬ景色へと繋がっている。そんな塩梅であった。

 一旦、T字路へ躍り出ては、およそ6畳分スペースの場所にて、一息着く。

 

「ったく、やれやれだぜ」

 

 だが、危険をとるよりかは、幾分、マシではあった。

 

「流石に狭すぎたね。このまま、先を進むんでしょ?」

「ああ、そうだな」

 

 そう言いながら、先の小道を睨む。同じように狭い気もしたが、それはどうも最初らしい。今度は人一人が普通に通れるくらいの小幅があった。

 

「それにしても……」

 

 反対方向を見た。向かうべき道は分かるのだが、反対の道は何処へ繋がっているのだろうか?

 緩やかな下り坂が、これまた続いており。かと思えば、道がうねっているみたいで先が見えない。

 少し気にはなったが、でも、行く用事なんてないよな〜、と思っていた。

 

「ひとまず、先を急ぐか」

「そうだね」

 

 氷壁に寄りかかっていたセツナが、同意したらしく頷いた。T字路を後にして、予定通りの方へと歩き出す。

 ――のだが、歩き出してから暫くして。なんか、こ〜う、誰かに見られているような。そんな気配を徐々に感じつつあった。

 

「どうしたの? おどおどして」

 

 気付いていないのか、素っ気なく訊ねてきた。

 

「いや〜、誰かに見られている気がしてな」

「誰かに? でも、こんな狭いところなら、気配なんて……」

「だよな〜?」

 

 氷壁に囲まれた一方通行。隠れる場所だなんて、果たしてあるのだろうか? 

 だけど、頭では分かりきっていたが、実際には、場の雰囲気を介して感じるのだ。確かな気配とやらを。

 しかし、

 

「気のせいか……」

 

 ポツリと漏らした。

 

 自分に対して、気のせい、気のせい、と繰り返す事、暫くして……。

 

「あ、なんだろう? アレ。立て札?」

 

 え?

 

 先に気付いたのはセツナ。目線を辿る様に先を見ると、そこには、確かに立て札があった。

 先に立て札の元へと向かったセツナは、何かを見つけたのか。指先でタップした。

 

「ね〜、なんか書いてあるよ」

「何か?」

 

 ここからでは見えないだけに、少しだけ気になった俺は、セツナの元へと歩み寄った。同じ場所に立ち、それから表示されているものを確認する。

 

「里? なんのことだ?」

 

 そこには、矢印とセットで〝()″と書いていたのだ。

 

「目標か? これ」

 

 来た道を見ながら、立て札の意味を推理してみた。一方、セツナは何のことか察したのだろう。

 

「……多分、そうだと思うよ、これ。矢印はあの別れ道の別ルートを示しているのかも」

「別ルートの」

 

 ……確かに。それなら、腑に落ちそうだ。そして、この里の字の意味。これは、思うに集落のことを指しているのではないだろうか。

 そのことを鑑みれば、物事に合点がついた。鼻で笑っては、納得して見せて。

 しかし、一言。

 

「どの道、関係ないな。先を急ごう」

「あ、う、うん。そうだね」

 

 現状を理解しているだけに、そこんとこは素直に了承してくれたみたいだ。

 

 そして、立て札を後にして、 その歩を進めた矢先――

 

 パラパラパラパラ……

 

 細かい氷片が、いきなり上から。

 

 ん?

 

 思わず見上げて――

 

 ――直後、

 

 にゃおー!

 にゃおー‼︎

 

 なっ

 

 降ってくるは、なんと! メラルー達だった。

 

「え? なになに⁉︎」

 

 舞い降りる獣人族に、あたふたするセツナがそこにいた。眼前には、ピックを手にするアイルー。後ろはメラルー達だろう。

 まさに挟み撃ちの格好である。だが、相手はただの雑魚モンスターに過ぎず。

 

「やれやれ、こんな奴らに何を構っているんだろう、俺たち。無視していくぞ、セツナ」

「え? あ、う、うん……」

 

 戸惑ってはいたが、ここは潔く退散しようとした。――とそこでだ。

 

 にゃ!

 

「あ、あたしの地図が!」

「は? 何を言って――」

 

 直後、死角を突かれるかのように、

 

 にゃ!

 

 なっ

 

 体当たり。されたと思いきや

 

 〝生態マップを盗まれました″

 

 の文言が。瞬間、油断したと思った俺は、

 

「野郎ー!」

「あ、ちょ、ユウト⁉︎」

 

 ムキになり、彼女を振り切って追いかけようとした。――と、次の瞬間!

 

 グニュ

 

 柔和な何かを踏んづけたかと思いきや、突如として地中から隠された網縄が出現!

 包み込まれるような形で

 

 バサー‼︎

 

 そう取り込まれ、と同時にビックリして

 

 のわ!

 

 されるがまま、宙吊りに。その様はまさしく、捕獲用トラップ。対モンスター用だとは思うが、それにまんまと掛けられてしまったのだ、俺たちは。しかも、間抜けなことに。

 

 くっ

 

 悔しさから奥歯を噛み締める俺はまさしく、してやられた格好。さらには、俺とセツナ、2人揃って吊り上げられ捕獲される中、下では獲物を仕留めたことに、踊りながら喜ぶ憎きアイルー達がそこにいた。

 

 そして――。

 

 それからと言うもの、もう3匹のアイルーが姿を現し。一旦は引き下ろされたものの、勿論拘束されたまま。ともかくそのまま、無理矢理引き摺られた挙句、まだ踏み入れていない別ルートへ。

 その先へと誘われ、遂には彼らの集落。――この場合は、立て札にあった通り、〝里″と言うべきか。とにかくその場所へと連れて行かれたのだ。

 それはまさしく、この後には面倒臭いことが待ち受けているような。そんな予感を醸し出すかのようなもので……。

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