モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・2話

 まるで吊し上げられた虫籠に入れられたようなもの。網縄が全身を絡めて、俺とセツナは揃って身動きが取りにくくなっていた。

 眼下には、切り株を取り囲んでアイルーとメラルーが数匹、何やら談話をしている様子。

 だけど、掻い摘んで小耳に挟めば、決していい話の流れには向いていないのは、容易に想像はできる訳で。

 翻訳スキルを介して伝わる会話。ようするに、俺とセツナ、捕らえた2人の処遇をどうするのか? その点に尽きていた。

 全く〜、面倒なことになったものだ。ドジを踏んで罠に引っかかり、セツナを巻き込んで捕まった自分を恨めしそうに見つめていた。

 けど、いつまでもこうして捕まったままではいられないのも確か。相手は雑魚猫共に変わりはない。

 剥ぎ取りナイフを手にして、網縄を切ろうとして――

 

「何してんの? ユウト」

「何って、縄を切るんだよ。縄を」

 

 当たり前じゃないか。当然のように、そう言わんばかりに答えた。のだが、

 

「えっ、冗談でしょ? こんな高さで?」

「仕方ないじゃないか。それとも、下ろしてくれるまで待つのか?」

「いや、それは……」

 

 頭では分かっているのだろうか。言葉を詰まらせた。

 

「じゃ、行くぞ。落とされたくなければ、縄に捕まってろよな」

 

 ――とそこで、慌てて

 

「ちょ、ちょっと待った!」

「え?」

「待ってってこと。もう少しだけ、よ、様子を見ない?」

「様子って……、なにを?」

 

 思わず訝しんでしまった。え〜、とか間延びしたような返し方をした後、思い付いたかのように、人差し指を立てた。

 

「そ、そうよ。あ、あれ。あれよ」

「あれ?」

「そう、あれ。抜け出したとしても、地図を取り返さないことには変わりないじゃない」

「地図を取り返す? 為に……」

「そ、そうよ。だからさ、せめてどこに隠したのか、目処がついてからでもいいじゃない」

 

 確かに、それも一理はあるかも知れない。目処がついてからと言う意味合いで。

 だけど、その反面、七面倒くさいことはしたくはなかった。だから――

 

「んなもの、ここにいる奴らを追い払った後で探せばいいだけじゃないか?」

 

 強引過ぎだとは思うが、敢えて素っ気なくそう返したのだ。

 

「そ、そんな……」

 

 落胆するセツナ。一方俺は、そんな彼女を尻目に、手にしたままの剥ぎ取りナイフを再び網縄にかけた。

 ――とそこで、アイルー達の談話で気になるキーワードを耳にする。

 

「どの道、この問題を解決しないと、里のみんなが飢え死にだにゃ!」

 

 一匹のアイルーが、そう語気を強めるやテーブルを強く叩いたのだ。

 

 (里の問題? 飢え死に?)

 

 印象に残ったそのワードに、思わず手を止めてしまう。

 

「どうしたの?」

 

 不思議に思ったセツナが尋ねた。が、それには敢えて応えず。代わりに耳を澄ませば、談話する彼らの言葉を拾っていく。

 向かい合うアイルーとメラルー4匹。そして、その奥に居座る1匹のアイルーの構図。

 特徴からして、その奥のアイルーは顔全体を覆わんばかりの髭を生やしては、どうもこの集落の里長らしい。

 その者は、向かい合う4匹の言葉を黙って聞いていた。訊いて、やや間を置いた後、ようやく口を開く。

 

「いずれにせよ、捕縛した者達を頼る訳にはいかないにゃ。ここは一つ、わしの提案として餌場を変える他あるまいとて」

「ですが、里長。変えるにしても、食料不足の問題から……」

「まさにそこじゃにゃん。わしが思うに、安全ルートを偵察してもらった者がいる。例え、当面、肉の調達が出来ずとも、穀物が多めに確保はできる目処がたったにゃとて」

 

 (この集落、どうも食料問題を抱えているらしいな)

 

 新たに現れた小柄なアイルーを尻目に、盗み聞きするのはやめて熟考してみた。

 考えるに当たり、新たな道を切り拓けるやも知れない。そんな甘っちょろい思い付きが、脳裏を掠める。

 一方、同じく盗み聞きしていたセツナも、同じ考えに至ったのか

 

「どうも、うまく利用できれば、ここは敢えて貸しを作って穏便に運べそうね」

「そう思うのか?」

「そうだけど? ユウトもそう思っていたの?」

 

 その表情には、意外だったことを滲ませていた。

 

「少なくともな」

 

 それだけ言い残した。

 

「ミケットじゃにゃいか! 里長、これは」

 

 1匹のアイルーかメラルーかが声を張り上げたことに、俺とセツナは揃ってそちらを向く。

 片手にキャンディーらしきものを。それも舐めながら、里長の隣に小柄なアイルーが姿を現していた。

 ミケットと呼ばれた獣人とは、たぶん、そのアイルーのことを指すのだろうとは思った。

 里長は続きを話す。

 

「見れば分かる通り、わしの孫じゃて」

「それは分かりますけど、いくらにゃんでも……」

「大丈夫、大丈夫。この子には、狩の心得はきちんとあるからのぉ」

「しかし……」

 

 他の2匹も、互いに顔を向き合うや、半信半疑の様相を醸し出していた。

 すると、手にしたキャンディーを手提げ筒にしまうと、ミケットは口を開いた。

 

「じっちゃんの言う通り、そこは大丈夫だにゃ。それに例のモンスターの出現場所も織り込み済みだしにゃ」

「例のモンスター?」

 

 気になったワードを、ぽつり、呟いてみせた。再び盗み聞きしてみる。

 

「場所を特定済みと言えども……。な〜?」

 

 やっぱり疑い深いのか、里長とケミット以外は戸惑っていた。話がまとまりそうに見えない中、里長が口火を切る。

 

「いずれにせよ、ケミだけじゃ、食料の調達には限界はあるにゃ。だから、あと2人は必要となるがにゃ。それとも、まだ、疑い深いのが解けないのなら……」

 

 そこで俺とセツナの方を見た。けど、それも一瞬。彼らへと向き直り、

 

「あの人間を取るか? になるがのぉ。危険を冒してまで」

「危険って……」

「随分と、あたし達を敵視扱いするんだね」

「無理もないと思うけどな」

 

 全く呆れたものだ。やれやれである。――とそこで、

 

「おーい‼︎ 猫ちゃん達ー!」

「お、おい!」

 

 いきなり声を掛けたので、慌てて制止に走る。一方、その声に反応してか、その猫ちゃん達は一斉にこちらを見た。

 視線が集まる中、思わずタジタジしてしまう光景。しかし――

 

「いい取引があるんだけど、どうかしら?」

 

 狼狽える俺をよそに、セツナはそう堂々たる声音で言い切ったのである。ところが、

 

「何か叫んでるにゃ」

「無視しとけにゃ」

 

 それは、まるで興味がないように思えたのである。 

 

「いい方が良くなかったかな?」

 

 そう呟くと、改まって

 

「里長さんとやら、ケミットちゃんもそうだけど、ここは取引しな〜い!」

 

 今度は名指しで言い切ったのだ。けれど、相手の反応はイマイチ。それどころか、まるで野生モンスターが喚いているかのような、そんな見方をせんばかりに鈍い反応だったのだ。

 

「なんだか鬱陶しいにゃ。いっそうのこと、大タルの中に閉じ込めた方がいいかもにゃ」

「だとさ。相手にしたくないみたいだな、俺たちを」

「そ、そんな〜。互いにwin-winの取引しようと思ったのに」

 

 ショックを隠せないようだ。とは言え、内心、相手にしないところか、どうも言葉が通じない気もしなくもない。

 確信はないが、ここら辺で俺からも確認してみた。こちらに向かって歩み寄ってくるメラルーを相手に、手招きしてみる。

 

「君、ちょっといいかな? 俺からも話があるからさ」

 

 ところが、案の定と言ったところか。そこは気付いていないかのように、他のアイルー、メラルー達を呼んだ。

 

「ちょっと、動かすのを手伝ってくれないかにゃ。一人じゃとても」

 

 ガン無視との見方もあるかも知れないが、それ以前に言葉が通じていないとの見方が大きいかも。

 メニューを開き、言語スキル一覧からの習得言語の詳細を確認してみた。

 受け側では、獣人語を認識可。一方、対話側では、点線のみが見られた。今更ながら気付いたが、これは恐らく……。

 

「何かメニューでも開いているけど、何か分かったの?」

「え? あ、あ〜。そうだな。端的に言って、こちらの言語が獣人語に対応できてないようだ」

「え? じゃ〜」

「つまり、そう言うこと」

 

 とは言え、このままでは、有無も言わさず大タルの中へ収納されてしまうのは間違いない。

 収容されてしまうのも時間の問題の最中、何か、役に立つのはないか。忙しなく辺りに目を通した。

 

 (なにか、……なにか目ぼしい物を……)

 

 そうやって組まなく探して見て――

 

 ん?

 

 ガラクタ置き場にて、何か光るものを見つけ目が留った。キラキラ光る道具を前にして、持ち出すはワイヤーガン。

 

「ユウト?」

 

 こちらの行動が読めないばかりに、不思議そうな声音で尋ねるセツナがそこにいて。そんな彼女を尻目に、

 

「まぁ、見てなって」

 

 光る物の正体は分からないが、一か八かの賭けに狙いを定めてワイヤーガンを発射した。

 

 にゃ、にゃ⁉︎

 

 周りにいた獣人族達が驚いては、何事かと慄いた。中には、警戒心剥き出して

 

「獰猛な人間の攻撃だにゃー‼︎」

 

 そんな風に叫ぶ者までもでた。

 直線上に軌道を描いたワイヤーガンの鉤爪が、ガラクタ置き場上にあるガラクタの中へと吸い込まれ、そして、何かを得たようだ。

 敵意を剥き出したアイルー達に妨害される前にと、急いでワイヤーを巻き戻して――

 

 〝翻訳辞書を入手しました″

 

 入手した物が、メッセージとなって宙に刻まれた。

 

「翻訳辞書?」

「モノは試しだな」

 

 早速、辞書のインストールに移行させた。――とここで、

 

 のわっ!

 

 きゃー!

 

 ドスンッ‼︎

 

 急に網縄の底が抜けたのか、俺とセツナ、揃って落下。ようやく解放されたかと思われたが、現実は逆。

 獣人族達の言った通り、大タルへの、まさに大タルと言う名の狭い狭い。それは、とても狭い豚箱入りであった。

 

「あつつつ……。――っ! しまっ――」

 

 咄嗟に立ち上がり、脱出を試みた。が、その直前、あっという間に蓋をされてしまった。

 舌打ちし

 

「しくじったぜ。あと、ほんの少しタイミングが早ければ」

 

 隙間から覗く僅かな光の筋。その光に照らされつつ、表情に悔しさを滲ませた。

 

「あつつつ……」

「大丈夫か?」

 

 呻き声をあげるセツナは、尻に手を当てがい苦悶の表情を浮かべていた。

 

「正直、お尻に響いたけど、なんとか……。にしても、真っ暗ね」

「ご覧の有様だ。脱出する手立てがなくなってしまったよ」

「確かにそうね。だけどユウト、その手に入れた物で活路は見出せないの?」

「今やっているさ。ただ、これも一か八かには変わりないけどな」

「そう、だよね〜」

 

 半ば落胆した。揃って溜息を漏らす中、外から、せーのー! と声が掛かり、直後、持ち上がったかと思えば、何の台に乗せられる感覚を抱く。

 

「これでよしにゃ。あとは……」

「だにゃ。里の外へ投げ捨てれば、安心だにゃ」

 

 (里の外⁉︎ 放り投げる⁉︎)

 

 そのワードを前にして、ますます嫌な予感が脳裏を渦巻く。同じく、セツナも感じ取ったのか、

 

「やばくない、これ?」

 

 光の筋から見えた口元。それが引き攣っているのが見え隠れしていた。

 

「どうするのよ? ユウト。このままじゃあ、あたし達――」

「んなこと言ったって。だいたいそもそも、立て札を先に見つけたのがセツナで――。って、やっぱりよそう、この話は」

「な、何よ! やっぱりって? ……っ! も、もしかして、あたしのせいでケチの始まりになったとか言いたい訳?」

「んことあるかよ」

「怪しい……」

 

 まさに拉致が開かなかった。仕方ないここは強引にでもと、話の路線を切り替える。

 

「と、ともかく、こんな場面で口論している場合かよ。なんとか有効策を考えないと」

「そ、それもそうね。こんなことしている場合じゃ――」

「そうそう、それだよ。なんとかして、この場を――」

 

 ――とそんな時だった。視界の片隅にて、インストール完了を知らせるアイコンが目に映ったのである。

 

 (そうだ、俺は先程、翻訳辞書を……)

 

 あたふたしていたからすっかりド忘れていたが、ここでようやく辞書のインストールをしていたことを思い出したのだ。

 本アイコンを指先で掻い摘んでは、タップしてみせる。すると、期待が込められた一文が表示されたのだ。

 

 (これは、もしかして……)

 

 その一文とは、まさに

 

 〝獣人語を喋れるようになりました″

 

 であった。

 口元がほくそ笑む。それを見て、セツナは気になり。首を傾げては

 

「どうしたの? 急に似たついたりして?」

 

 半ば気持ち悪そうなものを見るかのように、視線を投げかけたみたいだ。だけど、そんなことはどうでもよく。

 ふんっ、と鼻で笑って軽くあしらうと、俺は簡潔に答えた。

 

「できるようになったのさ」

「え? なにを?」

「まぁ、見てなって」

 

 そして、樽の隙間から覗かせては、一匹のメラルーに話しかけた。

 

「そこの猫ちゃん。上手い話があるんだけど、ちょっといいかな?」

 

 まさに、どうでもいい言葉掛けだった。答える訳ない、言葉が通じる訳ないのだから。

 少なくともセツナは、そう思い込みをしていたのかもしれない。しかし、そのメラルーの反応は違った。

 

「どうしたにゃ?」

 

 共に大タルを運搬していた相方が尋ねてくる。運搬がストップしたことに、足を止めたメラルーの反応を見て、釣れた、と思った。

 

「困りごと、あるんだろう? 里の問題として」

「そ、そうだけど。君たちには関係ないにゃ」

「へ〜、関係ないか? こっちには俺とコイツで、腕利きのハンターなんだけどな〜」

「そ、そんなこと言って、俺たちをたぶらかす気なのは、分かっているにゃ」

 

 会話が通じるようになったとは言え、敵視していることには変わりそうになかった。

 仕方ない。これなら、とそのメラルーの眼前にマタタビを見せつけた。マタタビをひらひらさせながら、

 

「出してくれたなら、このマタタビ、あげてもいいんだぜ」

 

 と甘い言葉を。

 

 ゴクリッ

 

 その言葉を受けてか、メラルーの喉から唾を飲み込む音が響いた。

 

「くぅ〜。ひ、卑怯だにゃ〜」

「ほれほれ〜」

 

 焦らすに越したことない訳だ。そんな中、

 

「一体どうしたにゃ? 頭抱えて」

 

 焦らされる1匹のメラルーの様子を気にしてか、他のメラルー、アイルー達も歩み寄ってきた。

 

「なにをそんにゃに……」

 

 アイルー2匹が気にかけて宥め始める。一方、メラルーは違った。隙間から差し出したマタタビ。それに気付くや否や、涎をだら〜り。

 そして――

 

「欲しいにゃ!」

 

 飛びかかった。だが、

 

「おーと、そうはいかないぞ、と」

 

 素早く引っ込めた。方やマタタビ欲しさに、方や悪戯半分で大タルからの脱出を図る俺とセツナ。

 この奇妙な構図ができた訳だ。

 

「ったく、何してんのよ」

 

 悪戯に耽る俺をよそに、セツナが呆れ顔を覗かした。

 

「いいじゃないか。ある種の駆け引きだよ、駆け引き」

 

 冷静になれば、無駄な駆け引きではあったと思うが、彼らをおちょくるのは辞められそうになかった。

 

「落ち着くにゃ、二人とも」

「だって、あそこにマタタビが」

「どうしても欲しいにゃ」

 

 もはや、2匹のメラルーの眼中には、マタタビしか見えなかった。

 ――とそんな時だった。

 

「な〜にを騒いでいるんにゃ。2人とも」

「あ、里長」

「ケミットも」

 

 (里長? ケミット?)

 

「セツナ、誰かが来たのか?」

 

 悪戯に耽り過ぎたのか、いつの間にか誰かが来たようだ。

 

「里長と……、ケミット、かな。キャンディー舐めているから」

「やっぱりか」

 

 どうやら本当に来たようだ。マタタビをしまい、彼らの様子を隙間越しから伺ってみた。

 

「マタタビが、マタタビが〜」

「ともかく落ち着くにゃ」

「でも〜」

「里長の前だにゃ」

「里長? ……‼︎」

 

 ようやく気付いたらしい。2匹のメラルーは、揃ってバツが悪そうにシュンッとしてしまった。

 

「一体、どうしたと言うのじゃにゃ? 揃いも揃って」

「も、申し訳ないにゃ。出されたマタタビに目が眩んじゃって、つい……」

「右におにゃじく……」

「マタタビ?」

 

 そして、やや間を空けた後、すっかり呆れ果てたのか。里長は深いため息を漏らした。その代わりとはなんだ、気持ちを代弁したるはケミット。

 

「君たち、しっかりするんだにゃ。相手は俺たちの天敵、人間なんだぞ!」

「ごめんなさいにゃ」

 

 腰に両猫手を当てて、厳重注意を促した。

 

「里長の孫とあって、あの子、しっかりしてるんだね」

「しっかり、しっかり、ね〜」

 

 口で言うだけでなく、心の内でも反芻してみせた。

 

「ところで人間よ。マタタビを使って同胞を惑わすとは、一体何が目的なのにゃ? 見たところによると、言葉が通じるように見えるがのぅ」

「だってさ」

「だってさ、って〜。ユウトが」

「そ、それは……」

 

 いざ交渉のテーブルに相手を着かせることができたとは言え、いざ、切り出そうとすると戸惑ってしまった次第だ。

 お互い顔を見合わせるが、どうにも困惑は深まるばかり。

 

「おーい」

 

 外から声が。急かされて

 

「里長」「里長さん」

「あ、いや。どうぞ先に」

「ユウトこそ、言い出しっぺでしょ」

「いや〜、それは……」

「ほらほら」

 

 すると、また外から。今度は痺れを切らしたかのように

 

「一体、どうしちゃったのかにゃ? だんまりにも程があるにゃ」

 

 苛立ちを露わにする者まで現れ始めた。さらに――

 

「きっと、悪あがきで誘惑したに違いないにゃ。早く捨てに行こうにゃ」

「そうだにゃ。と言う訳で、里長、私達はこれにて」

 

 その意見に戸惑っているのか。里長とケミットは、揃って黙ったままだった。再び荷台らしき物が動く感覚を抱く。

 

 (まずい、せっかくのチャンスが)

 

 セツナがこちらの出方を伺う立場を貫く一方、焦った俺は、咳払いをした後、渋々と口火を切った。

 

「里長とやら、ここらで交換条件といこうじゃないか? 里の問題とやらを抱えているんだろう?」

 

 ピタリッ!

 

 まさに核心を突かれ、一同揃って動揺めいたのか、運搬はそこでストップ。

 

「里長……」

「うむむむむ……」

 

 今の言葉で迷い出したのか、里長の表情に戸惑いが滲み出していた。

 

「人間。もしかして、ワシらを試すつもりかにゃ?」

「じっちゃん、この者の声に傾けては――」

 

 ――がそこで、手で静止されたのか。口を閉ざした。

 

「試すも何も、この状況でか? 俺たちはただ、あんたらが困ってそうだから助けてやろうかと言うことと、代わりに盗んだ地図を返してもらう。この交換条件、受けるかどうか聞きたいだけだけどな」

 

 と、まさにハッキリと述べた訳だ。ところが、

 

「ちょ、ユウト?」

「どうしたセツナ?」

「どうしたも何も、いきなり踏み込み過ぎじゃない」

 

 どうやらセツナは、自分が意図していたのとは違ったらしい。どこか心配な顔持ちをしていた。

 けれど

 

「え? まさか加減しろってか?」

 

 すると、

 

「加減するとかそうじゃないとかではなくて……」

 

 一体何を言いたいんだろうか? 逆にその辺りを訊きたくなってしまう。

 2人が揉めてる中、里長は

 

「交換条件とか、何処まで知り得ているのじゃにゃ? ワシらのことを」

「そ、そうだにゃ。まるで、足元を見てるかのように見えるにゃ」

 

 他の獣人達も、詰め寄ってきた。仕方なく話は打ち切りにすべく、

 

「ま、その件、後から聞くよ。ともかく――」 

 

 一旦保留にして、詰め寄る彼らに目を向けて交渉を再開した。

 

「別に深いとこまでは知らないさ。ただ、とあるモンスターによって、食料不足の問題を抱えているくらいしかな」

「うぬぬぬ……、確かに核心は突いているのぅ。で、そちらの条件とはなんじゃにゃ?」

「地図の返却。あんたらの同胞にパクられたからな」

「地図?」

 

 身に覚えがないのか。里長はケミットを含めて、5匹のアイルーメラルー達に目線を投げかけた。

 一方、当然のように、彼らは心当たりはなさそうみたい。反応がイマイチだった。

 

「なんのことか、分からないにゃ」

 

 うんうん、と周りも頷く。

 

「んなこと――、まぁ、いいや。大体――」

 

 とそこで、自分が言いたかったことを代弁するかのように、里長が遮った。

 

「もしかすると、ガラクタ置き場の中にあるやもしれないにゃ。人間よ、お主、名前を聞こうじゃないにゃ。まずはそこからだにゃ」

「ユウトだ」

「あたしはセツナ」

「了解にゃ、後で見ておくにゃ」

 

 ふっ、どうやら、交渉成立みたいだな。張り詰めたものが、なんだか解れたような気さえした。

 ――のだが、

 

「ただしにゃ」

 

 ん?

 

「いずれにせよ。ワシらの要望を叶えてくれるならばだがにゃ。でないと、返すことはできない上――」

「はいはい。分かっているって」

 

 あくまで条件ありきと言うことだな。言うことなすこと、理解はできていた。

 

 その後……。

 

 何匹かの護衛アイルーが現れた後、里長の命令の下、俺とセツナは大タルから解放された。

 解放されて、早速だが取り巻きは警戒心を露わに威嚇に入った。

 ――が、そこは里長の命令により、宥めることはできたみたい。手にした武器(ピック)をしまった。

 

 それで、それでだ。

 

 切り株の円卓を囲い、里長とミケットと対面した俺とセツナは、その2匹から事情を聞かされた訳だ。

 事情と言っても、上辺のことだけで。案の定、里は今、食料が枯渇しそうであること。

 そして、その要因というのが、今まで姿を見せなかった凶暴なモンスターが現れたことであると、話してくれた訳だ。

 ケミット曰く、このまま問題が解決されなければ、引っ越しも考えていたそう。

 そこには、後ろ髪を引かれる何かがあったが、交渉成立しただけで仲間だとは認められていないだけに、話してはくれなかった。当然と言えば当然かもしれないが。

 それで、交渉上、どんな食料を集めればいいのか話しているわけで。

 

「とまぁ、主にこれらを集めればいいにゃ」

 

 ぺろぺろ、と会議中なのにも関わらず、キャンディーを舐めながらミケットは必要素材を説明してくれた。

 

「なるほどな。それほど種類的には多くはないな」

「氷結イチゴにハチミツ、ね〜」

 

 言われたことを反芻するかのように、ぼやくセツナがそこにいた。

 

「で、最後に生肉。これを確保してくれればいいにゃ」

「了解」

「ところで道案内どうするの? あたし達、地図持ってないし……」

 

 確かにそうだ、案内人がいる。例え素材を確保したにせよ、ガイドがいなければ、帰路の最中、遭難しかねないからだ。ましてや、天候が目まぐるしく変わるなら、尚更だけに。

 

「そこは……」

 

 誰かを求めるかのように、視線が泳ぐ。――とここで、里長が。

 

「ミケにお願いしようかのぅ」

「じっちゃん?」

「道案内、得意にゃろう?」

「そ、そうだけど……。わ、分かったにゃ」

 

 その口調、何かを躊躇っているかのように見えた。

 

「で、道案内は決まりだな」

 

 そこで、場外から声が掛かる。

 

「ミケットだけに行かせるわけには行かないにゃ」

「俺たちも」

 

 揃いも揃って、アイルー3匹が姿を現した。

 

「お前達……」

「いくら交渉上とは言え、敵であることには変わりないにゃ。なんかあった時のためにと思ってにゃ」

「そうそう、そのためについて行くにゃ」

 

 思いっきり、警戒されているな。心の中でため息が漏れた。

 

「別に危害は加える気はねぇよ」

「ほんとかいにゃ?」

「やめるのにゃ、お前達」

 

 緊迫感を生み出す彼らに、長は一言で諭した。

 

「里長……」

 

 しかし、彼らを尻目に

 

「ミケ」

「にゃ?」

「この後、渡す物があるが、頼めるかにゃ?」

「渡す物?」

「念のためじゃにゃ、念のため」

 

 何を手渡したのかは分からないが、心遣いとして何かを渡したようだ。不思議そうな表情を浮かべる彼に、里長は笑みを浮かべた。

 

「準備はいいにゃ、2人とも。くれぐれも交換条件と言うことを忘れずににゃ」

「はいはい」

「分かったわ」

 

 これで、ようやく話が纏ったみたい。時折吹き付けるブリザードが荒れくる地帯を避けて、ケミットの案内の下、里の裏側から出発するとになった。

 ちなみに、このルートは荒れた天候にさほど影響しないらしい。ケミットを先頭にして、彼のペースに合わせて歩き出す。

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