まるで吊し上げられた虫籠に入れられたようなもの。網縄が全身を絡めて、俺とセツナは揃って身動きが取りにくくなっていた。
眼下には、切り株を取り囲んでアイルーとメラルーが数匹、何やら談話をしている様子。
だけど、掻い摘んで小耳に挟めば、決していい話の流れには向いていないのは、容易に想像はできる訳で。
翻訳スキルを介して伝わる会話。ようするに、俺とセツナ、捕らえた2人の処遇をどうするのか? その点に尽きていた。
全く〜、面倒なことになったものだ。ドジを踏んで罠に引っかかり、セツナを巻き込んで捕まった自分を恨めしそうに見つめていた。
けど、いつまでもこうして捕まったままではいられないのも確か。相手は雑魚猫共に変わりはない。
剥ぎ取りナイフを手にして、網縄を切ろうとして――
「何してんの? ユウト」
「何って、縄を切るんだよ。縄を」
当たり前じゃないか。当然のように、そう言わんばかりに答えた。のだが、
「えっ、冗談でしょ? こんな高さで?」
「仕方ないじゃないか。それとも、下ろしてくれるまで待つのか?」
「いや、それは……」
頭では分かっているのだろうか。言葉を詰まらせた。
「じゃ、行くぞ。落とされたくなければ、縄に捕まってろよな」
――とそこで、慌てて
「ちょ、ちょっと待った!」
「え?」
「待ってってこと。もう少しだけ、よ、様子を見ない?」
「様子って……、なにを?」
思わず訝しんでしまった。え〜、とか間延びしたような返し方をした後、思い付いたかのように、人差し指を立てた。
「そ、そうよ。あ、あれ。あれよ」
「あれ?」
「そう、あれ。抜け出したとしても、地図を取り返さないことには変わりないじゃない」
「地図を取り返す? 為に……」
「そ、そうよ。だからさ、せめてどこに隠したのか、目処がついてからでもいいじゃない」
確かに、それも一理はあるかも知れない。目処がついてからと言う意味合いで。
だけど、その反面、七面倒くさいことはしたくはなかった。だから――
「んなもの、ここにいる奴らを追い払った後で探せばいいだけじゃないか?」
強引過ぎだとは思うが、敢えて素っ気なくそう返したのだ。
「そ、そんな……」
落胆するセツナ。一方俺は、そんな彼女を尻目に、手にしたままの剥ぎ取りナイフを再び網縄にかけた。
――とそこで、アイルー達の談話で気になるキーワードを耳にする。
「どの道、この問題を解決しないと、里のみんなが飢え死にだにゃ!」
一匹のアイルーが、そう語気を強めるやテーブルを強く叩いたのだ。
(里の問題? 飢え死に?)
印象に残ったそのワードに、思わず手を止めてしまう。
「どうしたの?」
不思議に思ったセツナが尋ねた。が、それには敢えて応えず。代わりに耳を澄ませば、談話する彼らの言葉を拾っていく。
向かい合うアイルーとメラルー4匹。そして、その奥に居座る1匹のアイルーの構図。
特徴からして、その奥のアイルーは顔全体を覆わんばかりの髭を生やしては、どうもこの集落の里長らしい。
その者は、向かい合う4匹の言葉を黙って聞いていた。訊いて、やや間を置いた後、ようやく口を開く。
「いずれにせよ、捕縛した者達を頼る訳にはいかないにゃ。ここは一つ、わしの提案として餌場を変える他あるまいとて」
「ですが、里長。変えるにしても、食料不足の問題から……」
「まさにそこじゃにゃん。わしが思うに、安全ルートを偵察してもらった者がいる。例え、当面、肉の調達が出来ずとも、穀物が多めに確保はできる目処がたったにゃとて」
(この集落、どうも食料問題を抱えているらしいな)
新たに現れた小柄なアイルーを尻目に、盗み聞きするのはやめて熟考してみた。
考えるに当たり、新たな道を切り拓けるやも知れない。そんな甘っちょろい思い付きが、脳裏を掠める。
一方、同じく盗み聞きしていたセツナも、同じ考えに至ったのか
「どうも、うまく利用できれば、ここは敢えて貸しを作って穏便に運べそうね」
「そう思うのか?」
「そうだけど? ユウトもそう思っていたの?」
その表情には、意外だったことを滲ませていた。
「少なくともな」
それだけ言い残した。
「ミケットじゃにゃいか! 里長、これは」
1匹のアイルーかメラルーかが声を張り上げたことに、俺とセツナは揃ってそちらを向く。
片手にキャンディーらしきものを。それも舐めながら、里長の隣に小柄なアイルーが姿を現していた。
ミケットと呼ばれた獣人とは、たぶん、そのアイルーのことを指すのだろうとは思った。
里長は続きを話す。
「見れば分かる通り、わしの孫じゃて」
「それは分かりますけど、いくらにゃんでも……」
「大丈夫、大丈夫。この子には、狩の心得はきちんとあるからのぉ」
「しかし……」
他の2匹も、互いに顔を向き合うや、半信半疑の様相を醸し出していた。
すると、手にしたキャンディーを手提げ筒にしまうと、ミケットは口を開いた。
「じっちゃんの言う通り、そこは大丈夫だにゃ。それに例のモンスターの出現場所も織り込み済みだしにゃ」
「例のモンスター?」
気になったワードを、ぽつり、呟いてみせた。再び盗み聞きしてみる。
「場所を特定済みと言えども……。な〜?」
やっぱり疑い深いのか、里長とケミット以外は戸惑っていた。話がまとまりそうに見えない中、里長が口火を切る。
「いずれにせよ、ケミだけじゃ、食料の調達には限界はあるにゃ。だから、あと2人は必要となるがにゃ。それとも、まだ、疑い深いのが解けないのなら……」
そこで俺とセツナの方を見た。けど、それも一瞬。彼らへと向き直り、
「あの人間を取るか? になるがのぉ。危険を冒してまで」
「危険って……」
「随分と、あたし達を敵視扱いするんだね」
「無理もないと思うけどな」
全く呆れたものだ。やれやれである。――とそこで、
「おーい‼︎ 猫ちゃん達ー!」
「お、おい!」
いきなり声を掛けたので、慌てて制止に走る。一方、その声に反応してか、その猫ちゃん達は一斉にこちらを見た。
視線が集まる中、思わずタジタジしてしまう光景。しかし――
「いい取引があるんだけど、どうかしら?」
狼狽える俺をよそに、セツナはそう堂々たる声音で言い切ったのである。ところが、
「何か叫んでるにゃ」
「無視しとけにゃ」
それは、まるで興味がないように思えたのである。
「いい方が良くなかったかな?」
そう呟くと、改まって
「里長さんとやら、ケミットちゃんもそうだけど、ここは取引しな〜い!」
今度は名指しで言い切ったのだ。けれど、相手の反応はイマイチ。それどころか、まるで野生モンスターが喚いているかのような、そんな見方をせんばかりに鈍い反応だったのだ。
「なんだか鬱陶しいにゃ。いっそうのこと、大タルの中に閉じ込めた方がいいかもにゃ」
「だとさ。相手にしたくないみたいだな、俺たちを」
「そ、そんな〜。互いにwin-winの取引しようと思ったのに」
ショックを隠せないようだ。とは言え、内心、相手にしないところか、どうも言葉が通じない気もしなくもない。
確信はないが、ここら辺で俺からも確認してみた。こちらに向かって歩み寄ってくるメラルーを相手に、手招きしてみる。
「君、ちょっといいかな? 俺からも話があるからさ」
ところが、案の定と言ったところか。そこは気付いていないかのように、他のアイルー、メラルー達を呼んだ。
「ちょっと、動かすのを手伝ってくれないかにゃ。一人じゃとても」
ガン無視との見方もあるかも知れないが、それ以前に言葉が通じていないとの見方が大きいかも。
メニューを開き、言語スキル一覧からの習得言語の詳細を確認してみた。
受け側では、獣人語を認識可。一方、対話側では、点線のみが見られた。今更ながら気付いたが、これは恐らく……。
「何かメニューでも開いているけど、何か分かったの?」
「え? あ、あ〜。そうだな。端的に言って、こちらの言語が獣人語に対応できてないようだ」
「え? じゃ〜」
「つまり、そう言うこと」
とは言え、このままでは、有無も言わさず大タルの中へ収納されてしまうのは間違いない。
収容されてしまうのも時間の問題の最中、何か、役に立つのはないか。忙しなく辺りに目を通した。
(なにか、……なにか目ぼしい物を……)
そうやって組まなく探して見て――
ん?
ガラクタ置き場にて、何か光るものを見つけ目が留った。キラキラ光る道具を前にして、持ち出すはワイヤーガン。
「ユウト?」
こちらの行動が読めないばかりに、不思議そうな声音で尋ねるセツナがそこにいて。そんな彼女を尻目に、
「まぁ、見てなって」
光る物の正体は分からないが、一か八かの賭けに狙いを定めてワイヤーガンを発射した。
にゃ、にゃ⁉︎
周りにいた獣人族達が驚いては、何事かと慄いた。中には、警戒心剥き出して
「獰猛な人間の攻撃だにゃー‼︎」
そんな風に叫ぶ者までもでた。
直線上に軌道を描いたワイヤーガンの鉤爪が、ガラクタ置き場上にあるガラクタの中へと吸い込まれ、そして、何かを得たようだ。
敵意を剥き出したアイルー達に妨害される前にと、急いでワイヤーを巻き戻して――
〝翻訳辞書を入手しました″
入手した物が、メッセージとなって宙に刻まれた。
「翻訳辞書?」
「モノは試しだな」
早速、辞書のインストールに移行させた。――とここで、
のわっ!
きゃー!
ドスンッ‼︎
急に網縄の底が抜けたのか、俺とセツナ、揃って落下。ようやく解放されたかと思われたが、現実は逆。
獣人族達の言った通り、大タルへの、まさに大タルと言う名の狭い狭い。それは、とても狭い豚箱入りであった。
「あつつつ……。――っ! しまっ――」
咄嗟に立ち上がり、脱出を試みた。が、その直前、あっという間に蓋をされてしまった。
舌打ちし
「しくじったぜ。あと、ほんの少しタイミングが早ければ」
隙間から覗く僅かな光の筋。その光に照らされつつ、表情に悔しさを滲ませた。
「あつつつ……」
「大丈夫か?」
呻き声をあげるセツナは、尻に手を当てがい苦悶の表情を浮かべていた。
「正直、お尻に響いたけど、なんとか……。にしても、真っ暗ね」
「ご覧の有様だ。脱出する手立てがなくなってしまったよ」
「確かにそうね。だけどユウト、その手に入れた物で活路は見出せないの?」
「今やっているさ。ただ、これも一か八かには変わりないけどな」
「そう、だよね〜」
半ば落胆した。揃って溜息を漏らす中、外から、せーのー! と声が掛かり、直後、持ち上がったかと思えば、何の台に乗せられる感覚を抱く。
「これでよしにゃ。あとは……」
「だにゃ。里の外へ投げ捨てれば、安心だにゃ」
(里の外⁉︎ 放り投げる⁉︎)
そのワードを前にして、ますます嫌な予感が脳裏を渦巻く。同じく、セツナも感じ取ったのか、
「やばくない、これ?」
光の筋から見えた口元。それが引き攣っているのが見え隠れしていた。
「どうするのよ? ユウト。このままじゃあ、あたし達――」
「んなこと言ったって。だいたいそもそも、立て札を先に見つけたのがセツナで――。って、やっぱりよそう、この話は」
「な、何よ! やっぱりって? ……っ! も、もしかして、あたしのせいでケチの始まりになったとか言いたい訳?」
「んことあるかよ」
「怪しい……」
まさに拉致が開かなかった。仕方ないここは強引にでもと、話の路線を切り替える。
「と、ともかく、こんな場面で口論している場合かよ。なんとか有効策を考えないと」
「そ、それもそうね。こんなことしている場合じゃ――」
「そうそう、それだよ。なんとかして、この場を――」
――とそんな時だった。視界の片隅にて、インストール完了を知らせるアイコンが目に映ったのである。
(そうだ、俺は先程、翻訳辞書を……)
あたふたしていたからすっかりド忘れていたが、ここでようやく辞書のインストールをしていたことを思い出したのだ。
本アイコンを指先で掻い摘んでは、タップしてみせる。すると、期待が込められた一文が表示されたのだ。
(これは、もしかして……)
その一文とは、まさに
〝獣人語を喋れるようになりました″
であった。
口元がほくそ笑む。それを見て、セツナは気になり。首を傾げては
「どうしたの? 急に似たついたりして?」
半ば気持ち悪そうなものを見るかのように、視線を投げかけたみたいだ。だけど、そんなことはどうでもよく。
ふんっ、と鼻で笑って軽くあしらうと、俺は簡潔に答えた。
「できるようになったのさ」
「え? なにを?」
「まぁ、見てなって」
そして、樽の隙間から覗かせては、一匹のメラルーに話しかけた。
「そこの猫ちゃん。上手い話があるんだけど、ちょっといいかな?」
まさに、どうでもいい言葉掛けだった。答える訳ない、言葉が通じる訳ないのだから。
少なくともセツナは、そう思い込みをしていたのかもしれない。しかし、そのメラルーの反応は違った。
「どうしたにゃ?」
共に大タルを運搬していた相方が尋ねてくる。運搬がストップしたことに、足を止めたメラルーの反応を見て、釣れた、と思った。
「困りごと、あるんだろう? 里の問題として」
「そ、そうだけど。君たちには関係ないにゃ」
「へ〜、関係ないか? こっちには俺とコイツで、腕利きのハンターなんだけどな〜」
「そ、そんなこと言って、俺たちをたぶらかす気なのは、分かっているにゃ」
会話が通じるようになったとは言え、敵視していることには変わりそうになかった。
仕方ない。これなら、とそのメラルーの眼前にマタタビを見せつけた。マタタビをひらひらさせながら、
「出してくれたなら、このマタタビ、あげてもいいんだぜ」
と甘い言葉を。
ゴクリッ
その言葉を受けてか、メラルーの喉から唾を飲み込む音が響いた。
「くぅ〜。ひ、卑怯だにゃ〜」
「ほれほれ〜」
焦らすに越したことない訳だ。そんな中、
「一体どうしたにゃ? 頭抱えて」
焦らされる1匹のメラルーの様子を気にしてか、他のメラルー、アイルー達も歩み寄ってきた。
「なにをそんにゃに……」
アイルー2匹が気にかけて宥め始める。一方、メラルーは違った。隙間から差し出したマタタビ。それに気付くや否や、涎をだら〜り。
そして――
「欲しいにゃ!」
飛びかかった。だが、
「おーと、そうはいかないぞ、と」
素早く引っ込めた。方やマタタビ欲しさに、方や悪戯半分で大タルからの脱出を図る俺とセツナ。
この奇妙な構図ができた訳だ。
「ったく、何してんのよ」
悪戯に耽る俺をよそに、セツナが呆れ顔を覗かした。
「いいじゃないか。ある種の駆け引きだよ、駆け引き」
冷静になれば、無駄な駆け引きではあったと思うが、彼らをおちょくるのは辞められそうになかった。
「落ち着くにゃ、二人とも」
「だって、あそこにマタタビが」
「どうしても欲しいにゃ」
もはや、2匹のメラルーの眼中には、マタタビしか見えなかった。
――とそんな時だった。
「な〜にを騒いでいるんにゃ。2人とも」
「あ、里長」
「ケミットも」
(里長? ケミット?)
「セツナ、誰かが来たのか?」
悪戯に耽り過ぎたのか、いつの間にか誰かが来たようだ。
「里長と……、ケミット、かな。キャンディー舐めているから」
「やっぱりか」
どうやら本当に来たようだ。マタタビをしまい、彼らの様子を隙間越しから伺ってみた。
「マタタビが、マタタビが〜」
「ともかく落ち着くにゃ」
「でも〜」
「里長の前だにゃ」
「里長? ……‼︎」
ようやく気付いたらしい。2匹のメラルーは、揃ってバツが悪そうにシュンッとしてしまった。
「一体、どうしたと言うのじゃにゃ? 揃いも揃って」
「も、申し訳ないにゃ。出されたマタタビに目が眩んじゃって、つい……」
「右におにゃじく……」
「マタタビ?」
そして、やや間を空けた後、すっかり呆れ果てたのか。里長は深いため息を漏らした。その代わりとはなんだ、気持ちを代弁したるはケミット。
「君たち、しっかりするんだにゃ。相手は俺たちの天敵、人間なんだぞ!」
「ごめんなさいにゃ」
腰に両猫手を当てて、厳重注意を促した。
「里長の孫とあって、あの子、しっかりしてるんだね」
「しっかり、しっかり、ね〜」
口で言うだけでなく、心の内でも反芻してみせた。
「ところで人間よ。マタタビを使って同胞を惑わすとは、一体何が目的なのにゃ? 見たところによると、言葉が通じるように見えるがのぅ」
「だってさ」
「だってさ、って〜。ユウトが」
「そ、それは……」
いざ交渉のテーブルに相手を着かせることができたとは言え、いざ、切り出そうとすると戸惑ってしまった次第だ。
お互い顔を見合わせるが、どうにも困惑は深まるばかり。
「おーい」
外から声が。急かされて
「里長」「里長さん」
「あ、いや。どうぞ先に」
「ユウトこそ、言い出しっぺでしょ」
「いや〜、それは……」
「ほらほら」
すると、また外から。今度は痺れを切らしたかのように
「一体、どうしちゃったのかにゃ? だんまりにも程があるにゃ」
苛立ちを露わにする者まで現れ始めた。さらに――
「きっと、悪あがきで誘惑したに違いないにゃ。早く捨てに行こうにゃ」
「そうだにゃ。と言う訳で、里長、私達はこれにて」
その意見に戸惑っているのか。里長とケミットは、揃って黙ったままだった。再び荷台らしき物が動く感覚を抱く。
(まずい、せっかくのチャンスが)
セツナがこちらの出方を伺う立場を貫く一方、焦った俺は、咳払いをした後、渋々と口火を切った。
「里長とやら、ここらで交換条件といこうじゃないか? 里の問題とやらを抱えているんだろう?」
ピタリッ!
まさに核心を突かれ、一同揃って動揺めいたのか、運搬はそこでストップ。
「里長……」
「うむむむむ……」
今の言葉で迷い出したのか、里長の表情に戸惑いが滲み出していた。
「人間。もしかして、ワシらを試すつもりかにゃ?」
「じっちゃん、この者の声に傾けては――」
――がそこで、手で静止されたのか。口を閉ざした。
「試すも何も、この状況でか? 俺たちはただ、あんたらが困ってそうだから助けてやろうかと言うことと、代わりに盗んだ地図を返してもらう。この交換条件、受けるかどうか聞きたいだけだけどな」
と、まさにハッキリと述べた訳だ。ところが、
「ちょ、ユウト?」
「どうしたセツナ?」
「どうしたも何も、いきなり踏み込み過ぎじゃない」
どうやらセツナは、自分が意図していたのとは違ったらしい。どこか心配な顔持ちをしていた。
けれど
「え? まさか加減しろってか?」
すると、
「加減するとかそうじゃないとかではなくて……」
一体何を言いたいんだろうか? 逆にその辺りを訊きたくなってしまう。
2人が揉めてる中、里長は
「交換条件とか、何処まで知り得ているのじゃにゃ? ワシらのことを」
「そ、そうだにゃ。まるで、足元を見てるかのように見えるにゃ」
他の獣人達も、詰め寄ってきた。仕方なく話は打ち切りにすべく、
「ま、その件、後から聞くよ。ともかく――」
一旦保留にして、詰め寄る彼らに目を向けて交渉を再開した。
「別に深いとこまでは知らないさ。ただ、とあるモンスターによって、食料不足の問題を抱えているくらいしかな」
「うぬぬぬ……、確かに核心は突いているのぅ。で、そちらの条件とはなんじゃにゃ?」
「地図の返却。あんたらの同胞にパクられたからな」
「地図?」
身に覚えがないのか。里長はケミットを含めて、5匹のアイルーメラルー達に目線を投げかけた。
一方、当然のように、彼らは心当たりはなさそうみたい。反応がイマイチだった。
「なんのことか、分からないにゃ」
うんうん、と周りも頷く。
「んなこと――、まぁ、いいや。大体――」
とそこで、自分が言いたかったことを代弁するかのように、里長が遮った。
「もしかすると、ガラクタ置き場の中にあるやもしれないにゃ。人間よ、お主、名前を聞こうじゃないにゃ。まずはそこからだにゃ」
「ユウトだ」
「あたしはセツナ」
「了解にゃ、後で見ておくにゃ」
ふっ、どうやら、交渉成立みたいだな。張り詰めたものが、なんだか解れたような気さえした。
――のだが、
「ただしにゃ」
ん?
「いずれにせよ。ワシらの要望を叶えてくれるならばだがにゃ。でないと、返すことはできない上――」
「はいはい。分かっているって」
あくまで条件ありきと言うことだな。言うことなすこと、理解はできていた。
その後……。
何匹かの護衛アイルーが現れた後、里長の命令の下、俺とセツナは大タルから解放された。
解放されて、早速だが取り巻きは警戒心を露わに威嚇に入った。
――が、そこは里長の命令により、宥めることはできたみたい。手にした
それで、それでだ。
切り株の円卓を囲い、里長とミケットと対面した俺とセツナは、その2匹から事情を聞かされた訳だ。
事情と言っても、上辺のことだけで。案の定、里は今、食料が枯渇しそうであること。
そして、その要因というのが、今まで姿を見せなかった凶暴なモンスターが現れたことであると、話してくれた訳だ。
ケミット曰く、このまま問題が解決されなければ、引っ越しも考えていたそう。
そこには、後ろ髪を引かれる何かがあったが、交渉成立しただけで仲間だとは認められていないだけに、話してはくれなかった。当然と言えば当然かもしれないが。
それで、交渉上、どんな食料を集めればいいのか話しているわけで。
「とまぁ、主にこれらを集めればいいにゃ」
ぺろぺろ、と会議中なのにも関わらず、キャンディーを舐めながらミケットは必要素材を説明してくれた。
「なるほどな。それほど種類的には多くはないな」
「氷結イチゴにハチミツ、ね〜」
言われたことを反芻するかのように、ぼやくセツナがそこにいた。
「で、最後に生肉。これを確保してくれればいいにゃ」
「了解」
「ところで道案内どうするの? あたし達、地図持ってないし……」
確かにそうだ、案内人がいる。例え素材を確保したにせよ、ガイドがいなければ、帰路の最中、遭難しかねないからだ。ましてや、天候が目まぐるしく変わるなら、尚更だけに。
「そこは……」
誰かを求めるかのように、視線が泳ぐ。――とここで、里長が。
「ミケにお願いしようかのぅ」
「じっちゃん?」
「道案内、得意にゃろう?」
「そ、そうだけど……。わ、分かったにゃ」
その口調、何かを躊躇っているかのように見えた。
「で、道案内は決まりだな」
そこで、場外から声が掛かる。
「ミケットだけに行かせるわけには行かないにゃ」
「俺たちも」
揃いも揃って、アイルー3匹が姿を現した。
「お前達……」
「いくら交渉上とは言え、敵であることには変わりないにゃ。なんかあった時のためにと思ってにゃ」
「そうそう、そのためについて行くにゃ」
思いっきり、警戒されているな。心の中でため息が漏れた。
「別に危害は加える気はねぇよ」
「ほんとかいにゃ?」
「やめるのにゃ、お前達」
緊迫感を生み出す彼らに、長は一言で諭した。
「里長……」
しかし、彼らを尻目に
「ミケ」
「にゃ?」
「この後、渡す物があるが、頼めるかにゃ?」
「渡す物?」
「念のためじゃにゃ、念のため」
何を手渡したのかは分からないが、心遣いとして何かを渡したようだ。不思議そうな表情を浮かべる彼に、里長は笑みを浮かべた。
「準備はいいにゃ、2人とも。くれぐれも交換条件と言うことを忘れずににゃ」
「はいはい」
「分かったわ」
これで、ようやく話が纏ったみたい。時折吹き付けるブリザードが荒れくる地帯を避けて、ケミットの案内の下、里の裏側から出発するとになった。
ちなみに、このルートは荒れた天候にさほど影響しないらしい。ケミットを先頭にして、彼のペースに合わせて歩き出す。