先程の隠れ里を立ってから程なくして、霧が晴れたかのように視界が晴れてきた。
それに伴い、悪天候だった空も、雲間から青空を覗かせつつあり。先頭を歩くミケットは、このルートは、道中、肉食モンスターと遭遇しにくい安全ルートであると語ってくれた。
「とまぁ、そんな訳だにゃ」
「へ〜、(里の)裏口からこんな場所に繋がっているなんてな」
手元に地図がないだけに、関心しざるを得なかった。と言うのも、この
普通、寒冷地では、花畑になりそうな条件と言うのは、なかなか無理があるから。
よくて、点在的に寒冷に強い野草が生える程度。花畑になる条件が揃うこの場所は、特殊な気候なんだろうな〜、とさえ伺えた。
ちなみに、これらの情報源は、マイハウスの本棚に予め収納されていた文献から得た知識に過ぎないが……。
道中の細道にて、周りは花畑に囲まれている中、セツナはふと立ち止まった。
一輪の花を見つめ出す彼女は、そっと指先で花びらに触れてみた。瞬間、白の花弁は儚く散り、白燐を舞う。
「案外脆いのね。触れただけなのに」
「
「え?」
「その花の名前にゃ。寒冷地の高山植物の一種で、日がほどよく当たる場所にしか咲かない花にゃ」
「へ〜、珍しいのね」
「氷華、……聞いた事ないな」
文献にも載ってなかったか。或いは、見落としか、ど忘れか。ともかく、記憶には新しい花名の印象が見受けられた。
「てことは、一面に咲くこの花も?」
「ん〜……」
間を開けながら確認すべく、近くの岩に歩み寄った。歩み寄ってはよじ登ると、一望。
「大体そうなるかにゃ」
観測気球を述べた。
「へ〜、一面氷華の花畑ね〜」
触れれば散ると言った、脆く儚さが垣間見えた花。その花畑。ひと風が吹けば様変わりしかねないだけに、これだけ咲いている。
無風地帯なのだろうか。……いや、無風でなければ、この光景は維持できないはず。
まさしく、そう容易く想像できた。……なのに、なんだろうか。時折、吹く風が頬を撫で、その想像を裏切らんとばかりにする。
脆く儚い花弁、そよ風を前にして容易く散っていくはずなのにだ。
そんな不思議を感じる中、ここら辺で咳払いを一回挟むと、ケミットは話を元に戻した。
「と、ともかくにゃ。お目当ての食料はこの先だにゃ」
「あ、そうだね。え〜と……」
ど忘れでもしたのか。セツナは明後日の方へと視線を投げかけた。仕方なく、代わりに答えた。
「氷結イチゴにハチミツ、太陽草、だろう?」
「そ、そう。それよ、それ」
「その反応、やっぱり忘れてただろう?」
「わ、忘れる訳ないじゃないの。思い出しかけていたのよ」
「へ〜」
「な、なによ」
訝しむ表情を見せれば、反応してそう身構えた。とは言え、別に根掘り葉掘りする気はない。
軽くため息を漏らし
「別に……」
詮索する気はないことを示した。そして、再び俺たちは歩き出し、
それから程なくして……。
「あ、そう言えば」
花畑を後にする間際、ふと、立ち止まっては今更ながらに唐突に思い出して気づいた。そよ風が舞うこの花畑の光景は、不思議でもなんともないことを。
だって、そもそもこの世界。もとを正せば仮想世界以外、何者でもないじゃないか、て。
であるなば、そよ風が吹く程度で花びらが散らないなら、そんな設定上で成り立っているんだろう。
そう腑に落ちることも、不思議ではないような気さえしたのだ。
まさに、
〝
それだけに、ほぼ今に至るまで錯覚していたのだから。
花畑を後にして暫く、道中はゴツゴツした岩場地帯を進むことになった。足の踏み場が悪いが、俺とセツナにとっては、それ程大したことではない。
だけど、アイルーであるケミットは違った。俺とセツナとは違い、彼は獣人だけに小柄。
一歩だけで踏み越えられそうな岩でも、場合によっては、四肢を使ってよじ登らないといけない。そう言った苦労が垣間見えていたのだ。
「手を貸そうか?」
大変そうだからと、手伝おうかと一時はそう言ってみたが、少なからず警戒しているのか。或いは、遠慮がちなのかは分からないが、簡単に断られてしまった。
自分で見つけた道。それも通い慣れた登山道だと言うことで、無駄に苦労しているようには見えるが、本人曰く心配は御無用、だそうだ。
(強情なやつだな……)
目の前の大岩を前にして、懸命に登っていくケミット。それを見て、半ば白けていた。
「それにしても……」
ふと振り返った俺は、眼下一面に広がっている先程の花畑を見渡した。まるで一面に雪化粧したような光景に、うねうねした筋が走っている景色が、遠くまで続いている。
筋と言うのは、想像するまでもない。自分達が歩いて来た道であり、所々、沿道にはみ出た花たちによって見え隠れしていた。
思い馳せれば、道の向こうはケミットの住む里。道中ずっと獣道を辿って来たことには変わりないが、まるで人為的に作られたかのような登山ルートの印象が伺えた。
ふにゃ!
「ケミット⁉︎」
ん?
セツナの驚き声に、思わず向き直る。すると、どうだろうか? ケミットが足を滑らせ掴まり立ちに。セツナが手助けしようと、介入しかかっている光景が目に映るではないか。
ため息を漏らし
「言わんこっちゃないな〜」
呆れ果て、歩み寄ろうとした。ところが、
「先程も言ったが、心配無用だにゃ。これしき、なんとも――」
だが、皮肉ながら、言ったそばから
にゃ!
ズルッ
そして、
ズルッ、ズルッ、ズルルルルー……
掴むその猫手が堪えられず、ジリ貧に滑って来ていた。
「これしき……」
根性で言い放った言葉。しかし、その強気の言葉も、限界がすぐに来て――
「おっと」
「ナイスキャッチ」
岩から滑り落ちたところを、うまい具合にセツナが抱き止めた。
呆然として、まさに信じられない。そんな顔をしていたケミットだったが、
「は、放すにゃ!」
「あ、ああ、ちょっと」
暴れて彼女の手から離れた。
「別に助けてくれとは言ってないにゃ」
「素直じゃねぇな〜」
その言葉には、ケミット、敢えて答えなかった。代わりに、手頃なルートを探し出すと
「無理はできないから、今度はこっちから進むにゃ。人間たち、気を付けるにゃぞ」
「それを、お前がいうのかよ」
「ま〜ま〜」
諭したつもりだろうが、俺は呆れていた。
大岩を迂回して登り切った先、そこには蜂の巣が吊るされた枯れ木が一本があった。
だけど、その木は崖に生えているわけであり、少し降りてから採取しに行くような形であり、足を滑らせるリスクがあった。
「依頼の品は見つけたはいいが、これではな〜」
崖際に歩み寄ったセツナが、崖下を覗き
「崖下、かなり深いね」
俺も歩み寄って
「げ〜」
ざっと見て、実に100メートル以上はありそう。ともかく息を呑むくらい、腰が引けるくらい切り立っていた。
さらに、さらにだ。
狙いのハチミツの木は、崖下3メートル差のところにある足場から生えている訳であり、それが俺たちのいる位置以上の高さまである。
手の届きそうで届かない位置にハチミツがある訳であり、場合によっては、一回、崖下の足場まで降りる必要があったのだ。
(できれば降りたくはないんだけどな〜)
そんな思惑で、実際、その枯れ木に歩み寄ってみた。
そして、皮肉にも、採取アイコンが表示されず。俺は舌打ちをかました。
「結局、降りる必要あるんかよ。めんどくせ〜な〜」
「ダメだったの?」
「ああ、残念ながらな。目の前にあるってのに」
「私が行こうか?」
「別にいいよ。こんくらい――」
と一歩踏み出した。――とその時、踏み出した側から足元が崩れて、
のわっ!
とバランス崩して尻餅。
「ユウト!」
あわやの事態に驚きの声。パラパラパラパラ……、と砕けた無数の破片が落下していくのを見つめながら
「だ、大丈夫だ」
と一言。の反面、
(あっぶね〜、一歩踏み違えていれば……)
と肝を冷やしていた。
体勢を立て直し、気を改めて慎重に降りて行く。山側を向きながら一歩一歩と下り、
そして……
ふぅ〜
一瞬、ミシッ、と不気味な音がしたが、ともかく無事に降り立つことが出来た。
枯れ木を含めて、畳3畳半と言ったところか。足元を見誤ると滑落するだけに、気が抜けなかった。
「どうやら大丈夫そうね」
「セツナとか言ったかにゃ? こっちはこっちで残り物を採取をしに行こうにゃ」
「近くにあるの?」
「うん、確か〜、氷結イチゴが近くに」
「へ〜、……ユウト」
「こっちは問題ないさ」
「だってさ。行こうか?」
そして、2人の姿は見えなくなった。とは言え、問題ないとは言ったものの、いつ足を滑らせるか分かったもんじゃない。
そのくらい危ういところにいるのは確かであり、なんと言うか、まさしく死と隣り合わせ。
脚がすくみそうになるのを、必死で我慢するので手一杯だった。
半円を描くように枯れ木を回り込み、そして、ハチミツの前までくる。
すると、ようやくと言うか。
(どのくらい必要だったかな?)
そこんとこ記憶になかった。でも、
「まぁ、いいか」
採れるだけ取るか。個数にそこまでこだわりがなかった俺は、早々に採取し始めた。
それから程なくして……
黙々と採取していく中、
(なんだろうか、この違和感)
先程から、妙に足元に違和感を抱いてならなかった。具体的には、しっかり地に足が付いていないような。
それも、空中に浮かぶ足場の上に立つような感覚で、アンバランスを感じてならなかったのだ。
けれど
「気のせい、だよな……」
崖に出っぱった足場上に立っているのだ。そんな感じがしてもおかしく無いと、違和感の正体を自己解釈するに至った。
そして――
「……さて、こんなものか」
ハチミツアイコンが非表示になったところで、切り上げるには丁度いい頃合い。個数は15個、思った以上に採れた方だと思った。
アイテムリストを閉じて、枯れ木を回り込み。それから、高さ3メートルの崖を見上げた。
腕に装着したワイヤーガンを見つめて、それから狙いを定めて――。
そこで、
みしっ
ん?
足元の違和感が増大しただけに、思わず足元を見た。見て、やっぱり気のせいだと思った俺は、再び狙いを定めて――
と再びそこで、またもや
みし、
視線を下に。しかし、気に触ることでも無いかと思い、そのままワイヤーガンを射出。
バフュー‼︎
と空気鉄砲のような音を奏でて、うまい具合に鉤爪が崖上に引っ掛かった。
――とここで、しつこいことに不気味な音が。
みし、みしみしみし……
目線を下にし、なんと亀裂が走っていたのを目撃。
っ!
と危機的事態を認識した直後、足場が崩れて――
「のわ! ――くっ」
空中に投げ出される感覚を抱くと同時に、ワイヤーガン巻き取り開始。
まさに間一髪。タイミングが遅ければ、危うく俺は崩落した足場と共に崖下へ落下するところ。
崖上へ辿り着いては
「あっぶねかった〜」
肝を冷やした瞬間だっただけに、鼓動が脈打つのを感じずにはいられなかった。
それから暫くして、2人は戻って来た。戻って来て、それから第一声
「どうしたの?」
「なんでもねぇ〜よ」
座り込んでいた俺を気にかけてか、ケミットと一緒に採取から帰ってきたセツナに心配された。
「あれ? ハチミツの木は?」
方や先程まであったはずのものがないことに不自然さを感じたケミットが、尋ねてくる。
そんな彼に、俺は素っ気なく答えた。
「落ちて行ったよ、木ごと崖下にな」
「そ、そんにゃ〜。お気に入りの場所だったのに」
「しっかたねぇだろう、足場が脆かったんだからさ」
「ぐぬぬぬぬぬ〜……」
恨めしそうな目線を投げかけてきた。
「てことは……」
「ご察しの通り。……で、そっちの方はどうなん? 収穫は上手くいったのか?」
「え? あ、え〜と……」
ん?
何を躊躇っているのか。セツナが言葉を詰まらずことに、首を傾げた。
代わってケミットが応える。
「あまりいい功績ではなかったにゃ」
「どう言うこと?」
今度はセツナが。それも、意味不明なことに気まずそうにしながら答えた。
「2個、2個しか採れなくて……。氷結イチゴとやらが」
「なんだ、そのことかよ」
彼女の返答に、少し拍子抜けてしまった。
「でも、採れたことは取れたんだから、いいじゃないか」
ところが、そこでケミットが反発。
「良くないにゃ、あまりにも少な過ぎるにゃ。本当は少なくても30個は欲しかったにゃ」
「3、30個って……」
(全く、オーバーだな〜)
そんなに必要なんかよ。たかを括っていた。そこへ、セツナが、その詳細とやらを話してくれた。
「案内先の畑が荒らされていたのね。それで」
「畑? いちご畑的な」
「そうだにゃ。俺たち里の者には欠かせない場所だにゃ」
「欠かせないって……」
そこで、会話の中で不自然さを感じた。この話を聞く限り、里の連中がいつも使っていることになる訳で。
それはつまり、今までの道は、ケミットだけが知らない裏ルートではないのではと。そんな風に勘繰ってもおかしくなかった。
「てか、里共有の畑なら、今までの登山道、裏ルートでもないような……」
すると、ケミットが反論。
「いや、裏ルートで間違いないにゃ」
続けてセツナが
「畑には、もう一つの道があったのよ」
と補足。
「もう一つの?」
「そうだにゃ。そして、その道こそ、里から近い共有ルートだにゃ」
「へ〜」
と半ば納得。
「で、わざわざこの面倒臭い道を辿ってきたのは?」
「危ないからにゃ。最近現れ始めた凶暴なモンスターのせいで」
(また、その話か……)
里でも話していたことを思い出す。
「ちなみに、そのモンスターってのは、実際、見たことあるんか?」
「そ、それがにゃ……」
何を思い詰めたのか、声のトーンがやや下がった。
「見てないのか?」
「う、うん……」
そこで、フォローするかのように
「実際、来てみればいいじゃん、ユウト」
「セツナ……」
「百聞は一見にしかず、でしょ?」
「そ、そう言うなら……」
ケミットがなぜ躊躇った態度をとったのか? その疑問はあったが、ともかく彼女に連れられて向かうことにした。
確かに。その畑とやらは、何者かの仕業により荒らされていた。
「これは……」
「でしょ?」
「ああ、訊いた通りだな」
その様は、まるで端から端まで食い荒らされたかのような、そんな印象が窺われたのだ。さらに、地が踏みまくられた痕も。
やや歩いた後、その場でしゃがみ込んでみた。手でそっと地に触れて、優しく撫でて――
すると、予想していた通りと言うか。足跡のマーカーが表示されたのだ。
やや太く細長い足跡が二つ、幾度となく刻まれている。
「この形状は、牙獣種、か……?」
「なにか、分かったかの?」
言いながら同じく、セツナもしゃがみ込んで、俺と同じく痕跡を調べてみた。
「先に確認しなかったのか?」
「うん、残り物ないか、探す事だけで手一杯だったから」
「そっか……」
「それにしても、これ〜」
何かを想像したのか、彼女の表情がやや険しくなる。
「考えている事、指摘してみようか?」
「?」
「牙獣種、の痕跡と言いたいんだろう?」
「あ、当たり。どうして?」
「どうしてって、そりゃ〜、こんくらい分かるよ。こう見えても、モンハンに関しては詳しいからな」
「へ〜」
わざとらしく、焦らされた。
「へ〜、って、疑っているな?」
――とそこへだ。
「なにか分かったかにゃ?」
「ああ、ケミットか」
俺とセツナ、2人の顔がそちらに向く。
「うん、まぁね。大体のところは」
「右に同じくな」
「す、凄いにゃ。さす――、っ! う、うん……」
?
何を躊躇ったのか。わざと咳払いしたかと思いきや、言いかけた言葉を飲み込んでしまった。
けれど、セツナがズバリ指摘。
「まだ、疑っているの? あたし達を」
「と、当然だにゃ。完全に気を許したら、何されるか分からないからにゃ」
「随分と見られたものだな」
この期に及んで、全く呆れる態度である。呆れて、釈明し始めた。
「大体、俺たちは――」
と言いかけて、
「なんで、そんなに疑うの? あたし達を」
と言葉を遮られてしまった。思わず
「お、おい!」
しかし、手で遮られてしまい、そして――
「……そ、それは、み、みんなそうだからにゃ。ハンターはみな、俺たち獣人達を無意味に痛めつけるだけに」
「無意味に? なにか勘違いしてないか? 第一、まだ、手を挙げてないところか、あんたらに拘束されてしまったしよ」
「そ、そうよ。大体、あたし達の猟団も、山脈に足を踏み入れてから、一度も獣人族と遭遇した事ないし」
ところが、弁明虚しく
「嘘つくでないにゃ! やられた同胞から話を訊いたにゃ。散策中に、いきなりよって集って虐められたと」
「そ、そんなまさか……」
血相を変えるセツナの表情、俺目線でも分かる。彼女の知る限り、身に覚えがないことを。
「ちなみに、それ以外に知り得たことはなかったのか? なんと言うか、痛めつけたそいつらの特徴と言うか」
「そ、それは、ん〜……。じっちゃんの話を介してだけど、やられた同胞からの話では、1人だけ目立つ装備していたとか」
「目立つ防具?」
「そうだにゃ。え〜と、確か白黒のふりふりした格好をしていたとか。さらに、身の丈に合わない大きな狩猟笛を背負っていたとかも言っていたにゃ」
「白黒のふりふり? 狩猟笛? ん〜……」
どこかで見たことあるような。そんな身に覚えのありそうなキーワードだった。
一方、セツナはすかさず断言する。
「狩猟笛の団員はいるけど、白黒のふりふり装備をしているハンターはうちにはいないわ。じゃあ、あたしらの団員は間違いなく違うね。ユウトはどうなの? ……ユウト?」
「……あ、いや。なんて言うかな」
「考え事?」
セツナとケミットの視線が、俺に注視される。しかし、構わず
「まぁ、そんなとこだな」
「もしかして、身に覚えでもあるのかにゃ?」
「断定はできないが、あるにはあるな。知己の範囲内で」
「へ〜」
「……」
なんとなくだが、疑われているような目線、睨まれる視線。これらを感じて、俺は慌てて
「な、なんだよ。疑っているのかよ」
と釈明。
「別に」
しかし、ケミットは
「怪しいにゃ」
「え?」
「怪しいと言っているにゃ。もしかして、庇っているんじゃにゃいだろうな?」
「んな、バカな。ただ単に心当たりがあるかも知れないってだけで」
話しながらセツナの方を向いた。向いては、無意味だと知りながらでも、助け舟を要求してみせた。
しかし、案の定と言うか。非情にも
「な、なんであたしの方を向くのよ」
「わ、分かるだろう? この状況」
「し、知らないわよ。あんたの記憶のことなんて」
そして、どうでもいいことに。何かを見つけ思い出したかのように
「あ、あれは……」
「お、おい! 話の途中――」
だが、問答無用。さー、と退潮のごとく、制止虚しくフィードアウトしてしまった。後に残るは、疑いと怨嗟を込めたケミットと俺の2人っきり。
頭を掻きながら、
「と、ともかく、俺はそいつを庇っている訳ではないよ。そう、庇っている訳じゃ……」
狩猟笛はともかく、記憶を手繰り寄せるに、白黒のふりふり装備と言えば彼女――カデットしかいないと睨んでいた。
だけど、実際にはそんな話をカデットからは訊いたこともない訳であり、疑われても困るしかないのだから。
無言のケミット。嫌な雰囲気が漂い続け、どう言葉を紡いでいいのか分からなくなってしまった。
しかし、埒があかないと見たのか。ケミットはため息を漏らし
「仕方ない、分かったにゃ」
諦めたようだ。一方、そのことに、俺もまた、緊張感から解放されたような気さえして、その脱力からか、ようやく一息をつくことができた。
緊迫感が解れた雰囲気。そこへ、先程、何かを見つけてきたセツナが戻ってきた。
「2人してどうしたの? もしかして、まだ、あの話をしてたの?」
「べ、別に。もう、終わったよ、その話は」
「セツナとか言ったかにゃ? 向こうへ散策してきたのなら、なにか収穫でも……」
「あ、うん。太陽草を採ってきて。確か依頼にもあったよね?」
「おー!」
沢山の採れたての太陽草を見せると、ミケットは目を輝かせ始めた。
第三者の俺からしたら、差し出した彼女の両掌が輝くエフェクトで満たされており、実際、どれくらい採れたのかまでは分からなかった。
「これくらいあれば十分にゃ」
(まぁ、いっか)
依頼主のケミットが納得したんだ。確認するまでもなかった。
「で、どうするんよ? 氷結イチゴの件、片付いてないし、それに生肉の件もあるしよ」
「そ、それは……」
荒らされ果てた畑を改めて見渡すや、解決しようがない難問を。それも散々たる現実を見せつけられたかのように、肩を落とした。
「あとでじっちゃんに報告しとくにゃ。半分やられたって」
「半分? もう一つあるの?」
「うん、これよりも面積は狭いけど」
「なら、そんなに悄気ることないじゃんかよ」
「軽く言ってくれるにゃ! いくら半分残っているとは言え、この畑は里の食料の大部分を占めているんにゃ。自給率の大部分を失ったショックは計り知れなく――」
「あー、分かった、分かったって。そんなにいきり立つなよ。な?」
両掌を見せては、憤慨して猛然と食らいつくケミットを宥めることに、慌て勤しんだ。
「全く〜」
そして、気を紛らわすべく、腰の携帯筒からキャンディーを取り出して舐め始めた。
「ともかく、そのもう半分の畑があるなら先を急ごう。被害が出てからでは遅い訳だし」
「だな」
「にゃ」
話が纏まりセツナに促された俺とケミットは、早速、そのもう一つの畑へと向かうことにした。
――のだが、その矢先
ん?
「ギアノス?」
畑の向こう側にある
その共有ルートの先にはもう一つの畑とやらがある。そのことだけに、そこから現れたことの意味を理解し、青ざめたケミットは
「まさか⁉︎」
と一言。その表情を読み取るまでもなく、俺も脳裏に嫌な予感が走った。
もし、荒らされているとなれば……。だけど、ちょっと待てよ。そもそもギアノスは肉食竜。作物しかない畑を、わざわざするのだろうか。
そこまで、心配はいらない気もしなくはなかった。
ピックを手にしたミケットは、ここに来て叫ぶ。
「行かせないにゃ!」
「あ、ちょっと」
制止訊かずして、無謀に挑みに行くミケットがそこにいた。
「俺たちも行くぞ」
「うん」
そして……
颯爽と駆けた俺は、ギアノスの群れを掻き分け1匹の大物に狙いを定めて言い放つ。
「俺は
言い切る前に、早速、雑魚1匹を軽く仕留めたセツナは、そこで
「なんでよ!」
「え?」
「もしかして、あたしの実力、甘く見ているわけ?」
「んなアホな。俺がそんな風に――」
会話の合間を縫って
ふにゃ〜!
俺とセツナの間を、吹き飛ばされたミケットが横切る。が、構わずセツナは
「あたしだって、そんな
「料理って……」
豪語した言葉に呆気に取られてしまう。が、その直後、振り向きざまに
「ほらっ、そこ!」
「え?」
ドンッ!
なっ
思いっきり体当たりされ、のけ反り。間髪入れずドスギアノスの一撃がセツナを襲い、その一瞬に一言。
「あぶー!」
だが、
「くっ」
歯を食いしばるや、俺同様、彼女もまた紙一重で交わしてみせた。
重なるように倒れ込み、被さるセツナに俺は
「た、助かったよ」
まさに、我ながら肝冷やした瞬間だっただけに謝意を述べた。
しかし、方やセツナは、その言葉に甘んじることなく
「油断大敵。ここはあたしがやるから、ユウトは他の雑魚を」
指揮権を奪うが如く、怒涛の勢いで指令を飛ばした。
「致し方ない。スイッチだ。そっちは任せた」
気を取り直し、ギアノスの群れに苦戦するミケットの助太刀に入る。
これより先は乱戦。
剣戟が火花を散らし、血飛沫を上げてギアノス数頭vs俺、ミケット。ドスギアノスvsセツナの狩猟戦の構図は、瞬く間に俺達に有利になっていき――
そして――
「よし! あと1頭、楽勝〜‼︎」
ミケットにガードされた隙を突き、最後のギアノスへ畳み掛けの一撃を見舞いしに掛かった。
毒刃が禍々しい紫一閃を描き、直後――
ギャー‼︎
断末魔を上げて、崩れ落ちた。
「始末完了! そっちはどうだ? 楽勝だよな?」
振り向いた。振りかぶった鋭爪を軽い身のこなしで交わすや、それに応えるかのように
「当然! 見てなさい。あたしの必殺技をー‼︎」
鬼人化。奴の懐に入り、赤きオーラを身に纏ったセツナの連続剣が、炸裂する‼︎
ズバズバスパズバズバ――‼︎
血飛沫が幾重にも重なり、肉を絶つ効果音が激しく唸りまくった。
積み重なるダメージも相当のものだろう。堪らず、甲高い悲鳴を上げては大きく仰け反った。
まさにチャンス! いきり立った俺は
「2人で行くぞ!」
追撃しようとするセツナに負けず劣らず、地を蹴って走る俺は、彼女の横から滑り込む形で助太刀に入った。同時にジ・エンドさせる算段。
――のはずだった。