モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・4話

 

 しくじった。

 

 仰け反った相手への最後の一撃、それが見事に交わされたのだ。

 後方への大跳躍。間合いをかなり空けられ、こちらが再び接近戦へと持ち込むまでのタイムラグを稼がれ、そして、振り向きざまに猛然と逃げられてしまったのだ。

 

「ちぇ、あと一押しだったのに」

 

 セツナも同様、俺と同じく肩を落としたようだ。一方、ドスギアノスを逃して、さらに血相を変えたのはミケット。

 

「こ、このままじゃ〜」

 

 携帯筒にキャンディーをしまっては、1人だけ慌てて追いかけた始めた。

 

「お、おい! ちょっと」

 

 セツナと顔を見合わせ以心伝心。頷き合うと後を追いかけた。

 荒らされた畑を後にし、里共有のルートを走っていく。ドスギアノスの行動から、多分、次の畑エリアで再戦は間違いないと思う。

 だけど、そんなに慌てることなのだろうか? 第一、ドスギアノスは肉食竜。畑と言っても、想像するだけに作物を荒らすようにはとても思えなかった。

 

「待ってて、んな慌てなくても……」

 

 血眼になって追いかけるミケットに、一旦、冷静になるよう話を持ち掛ける。

 しかし、

 

「それは無理にゃ! 冷静になる余裕なんか」

「畑に何があるっての? 相手は肉食竜よ。畑と言っても、作物しかないはずでしょ?」

「違う! それだけじゃないにゃ」

 

 え?

 

 思わず首を傾げた。傾げて――

 

「じゃあ、何が?」

 

 すると、

 

「ポポ、ポポがいるにゃ」

「ポポ? ポポって……」

 

 そこで、第二の畑に辿り着いた。ゴツゴツした岩肌に囲まれた、第一の畑と比較して一回り小規模な畑。

 さらに+して、畑の一角にて、柵越しにポポ3頭が飼い慣らされていた。

 手負のドスギアノスをすぐに捕捉した俺は、早速と言わんばかりにポポを襲おうとしているドスギアノスに向かってダッシュ。

 同時に気が付いたケミットも、

 

「まずいにゃ!」

 

 焦って走り出した。だが、アイルーだけに足が遅い。

 

「間に合わないにゃ! ユウト!」

 

 ――とそこへ、何かの投擲アイテムが。次の瞬間、

 

 ピカ――‼︎

 

 ギャッ‼︎

 

 襲いかかるドスギアノスとポポの間、閃光が炸裂。瞬く間に全視界を真っ白に染め上げたのだ。

 咄嗟に眼を庇ったとは言え、閃光の衝撃は大きい。かろうじて目眩は防げたが、激しい眩しさを感じて暫く動けなくなった。

 

「投げるなら先に言えよ」

「悪かったわね。こうでもしないと間に合わないと思って」

 

 全く強引な奴だ。しかし、いた仕方ない。ここはドスギアノスへの先制攻撃は彼女に任せるしかなかった。

 

「やぁー‼︎」

 

 雄叫びを挙げ肉を絶つ、鈍き音色が空気を通して伝わってくる。

 きっと、全力で息の根を止めんばかりに切り刻んでいるに違いない。感覚で分かった。

 眼を瞬かせて、ようやく視界を取り戻した俺は、セツナの元へ駆け寄る。

 

 走って、走って、走りまくって――

 

 っ!

 

 そこで、何者かの気配を。同時に、

 

「新手だにゃ!」

 

 周囲を見回した。すると、そこには白兎獣がいるではないか。

 

「ち、ウルクスス。出現かよ」

 

 タイミングが悪いぜ。一方、ウルクススは、こちらの存在を認知すると鈍く吠えた。

 

 俺様の見つけた餌場だ!

 

 そんな縄張り意識が、透けて見えたような気さえした。俺は叫んだ。

 

「セツナ!」

 

 ドスギアノスと対峙、斬撃の嵐を浴びせまくることに夢中になっていた彼女。

 紅き闘気を纏い、最後に――

 

「これで終いよー! 鬼人乱舞ぅー」

 

 激しい斬撃の嵐が、更に暴威を呼び寄せる。大量の血飛沫がセツナとドスギアノスをお追い込みそうな勢い。

 その瞬間、

 

 ギャゥ〜‼︎

 

 遂に断末魔。血だら真っ赤のドスギアノスは、退くまでもなく崩れ去った。

 ジャキン〜、と金属音を奏で納刀すると

 

「おまた〜、こっちは片付けたわ。あとは――、っ! ウルクスス⁉︎」

「その通りだ。まだまだ気が抜けないってとこだ」

 

 三人が揃ってウルクススと対峙した構図となる。睨み合いが続く。その間、脳内辞書を見開くかのように思考を巡らした。

 俺の知識が正しければ、こいつは確か雑食性。それも、草食傾向が強かったような……。

 もしそうなら、この畑の作物はウルクススにとっての格好の餌場だ。

 睨み合いが続くが、しかし、そのことを認知した俺は、ケミットの真を問うた。

 

「行けるか? ケミット」

「と、当然だにゃ。天敵を追い払わないことには変わりないにゃ」

「なら、奴が畑を荒らし、仲間に危害を加えた張本人だとしてもか?」

「え? 張本人って――?」

 

 最後まで言わずもなが、一触即発の状況はウルクススから打ち破ってきた。

 スライダーの如く、雪面を滑走し始めるウルクスス。スタートダッシュに伴い粉雪が舞う。

 

 (狙いは俺か!)

 

 即座に軌道を読み、雪面を蹴った。ザクザクザクザク、と踏み鳴らし、軌道から逸らして、そして――

 

 ビューン……

 

 風切り音を立てて通り過ぎる。――と思いきや、そこでストップ。何かを貪り始めやがった。

 

「にゃ、俺の作物を⁉︎」

 

 その言葉を訊いて、狙いは俺ではないこと。本当の狙いは、先程までいた周辺にあったイチゴ作物だったことを認識させられる。

 

「早く止めてにゃ! 被害が大きくなるにゃ」

 

 まさに切実な願い。そして、依頼品を納入することが交渉条件でもあった俺は、食われまくるイチゴ作物こと、氷結イチゴを守るべく、

 

「言われなくとも!」

 

 背後から奇襲をかけた。分厚く頑強な背中へと攻撃を浴びせて、注意を逸らすべく懸命になる。

 

「ちっ、なかなか硬い。セツナ!」

「分かってる‼︎」

 

 猛然と駆けながら、彼女は叫ぶように応えた。ウルクスス――まるで巨大な兎さながらの牙獣種は、俺とケミットの猛攻に意を貸す気配がなく。

 セツナの加勢が加わったところで、その一画を食い荒らすと、こちらに振り向いては、鬱陶しさを振り払うかのように嘶いた。

 

 (よし、うまくいった)

 

 後ろへと下がり間合いを開け、俺、セツナ、ケミットで手早く包囲網を築き上げ、これ以上の被害を出さないよう立ちはだかった。

 

 (来るか? 来るか? 来るか?)

 

 しかし、ウルクススの挙動は意外だった。吠えたのは、威嚇だけのよう。辺りを見渡すや、次なる区間に目をつけたらしくひと睨み。

 その様子に訝しんだ俺であるが、それも遅し。

 

 なっ

 

「あ!」「にゃ!」

 

 俺とセツナの間をすり抜けんばかりに、滑走し始めたのである。

 

「くっ、しまった」

 

 慌てて追いかける。追いかけて、やむを得ないと感じて、走りながら手早くアイテムリストを表示。からの、手中に音爆弾を握り締めた。

 正直、この手にはリスクがある。だが、依頼品を守るためだ。俺は意を決して投げつけた。

 対して、区画に入り込んだウルクスス。早速、大切な氷結イチゴを貪り食おうと作物に迫った。と、その時――

 

 カキーンー……‼︎

 

 甲高い炸裂音が、放射状に弾けた。キーンー……、と残響が鼓膜に当たり続け、聴覚を著しく阻害。それ以外、何も聞こえなくなり――

 

 (え? 効いていない?)

 

 そんなバカな、そんな筈が……。

 

 動揺する俺の眼前、そこには音爆弾に動じないウルクススの姿がそこにいた。

 普通、ウルクススは聴覚が鋭い。鋭くて、……それでいて、遠くから獲物の居場所を特定することに長けている。だから俺は、それを逆手に取った筈だった。

 なのに――

 

 〝なぜ″

 

 そんな疑問が、頭をもたげてしまっていた。――がしかし、そこへ思わぬヒントが舞い込む。

 

「部位破壊?」

 

 え?

 

 その単語に、俺は咄嗟にウルクススの耳部を見た。正面では分かりづらかったが、よーく見ると……

 

「ほんとだ」

 

 どこでぶつけたのだろうか? 両耳共に、部分的だが砕けていたのを視認した。

 

「どうりで」

 

 作物から意識を逸らす手段が使えなくなった今、別の手を考えるしかなく。かと言って、討伐まで持っていこうとすれば、畑の被害は甚大になるだろう。

 今でも少なからず被害が出始めているのだ。容易に想像できた。

 

 (せめて追い払うことさえできれば……)

 

 だが、そんな思考を働かせる余裕は、与えてくれないようだ。立ちどころに喰われていく氷結イチゴ。これ以上の被害出さないためにも、絶対に阻止せねば。

 気にも止めず貪り食うウルクススの背中。なんとか注意をそらさんばかりに、斬り付けに掛かる。

 走る最中、時折、やや柔らかい雪面に足元が掬われそうになる。が、それでも構わん。

 徐に急接近するや否や、毒刃を斬りつけ、斬りつけ、斬りつけていく。

 毒々しいエフェクトを発生させるまでに至り、流石のウルクススも無視しきれなかったのだろう。連撃を叩き込みまくる中、遂にこちらを振り返った。

 ――途端、

 

 ゔぉおおおー‼︎

 

 怒りの咆哮を轟かせた。と同時に、視界にパーセンテージが表示。パーセンテージには、畑損害率30%と表記されていた。

 警戒しつつ間合いを上げながら、まだ、ほんの一部しか被害でいないだけに3割も損害を与えられていた。

 そのことだけに、少々、焦りが生じてくる。討伐するにしても、これ以上暴れられると被害拡大は避けられない。この状況を打破するには……。

 

「加勢するわ」

 

 横から失礼と言わんばかりに、双剣を手に隊列に加わる。毒状態のエフェクトが頭上に表示されたままのウルクススは、距離を離されていたことを鑑み。ノーモーションからの滑走をするや否や、瞬く間に距離を詰めてきた。

 

 ちっ

 

 咄嗟に真横へとダイブして交わして退けた。直ちに体勢を整えて見据えると、滑走の痕跡がくっきりと畑を横断し、巻き添えになった作物が台無しと化していたのを目にした。

 損害率も15%上昇し、残り55%。氷結イチゴ畑の壊滅が頭を(もた)げた。

 

 (このままでは……)

 

 同じく焦りを露わにしたのだろう。ケミットも

 

「このままじゃ、全滅だにゃ!」

「ああ、分かっている。分かってるからさ」

 

 (どうにかして、ウルクススを追い払えさえできれば……)

 

 そのことばかり、脳内を埋め尽くしていた。

 

「やぁあああー!」

 

 今度はセツナがウルクススに向けて、刃を振りかざす。他方、ケミットも、加勢しては、無力とは知りながらでも弱体化を迫った。

 双剣の乱舞が再び炸裂し、血柱が幾重にも立つ。今度はセツナの方へと意識が回った模様。セツナとケミットのおじゃま虫を振り払うべく暴れ始めた。

 まさにチャンス、モンスターを追い払うべく手頃なアイテムがないかを模索し始める。

 荒れかけている畑の周囲を見渡し、そして、ふと、2頭のポポに目が止まった。

 

 (ポポ……、っ! そうだ! あの手が使えるなら)

 

 今になって、あのアイテムを使えば済むことを思い出したのである。あの手――つまるところ、肥やし玉。

 モンスターの糞と素材玉の調合により生成可能な、撃退アイテムを使えば済むことを思い出したのである。

 俺は走った。走っては、ポポがいる飼育エリアを目指して、全速力で駆け抜けた。

 

 そして……

 

 半壊しかけた柵越しに怯えるポポ達。その足元を探れば――

 

「やっぱりな」

 

 柵の内側、隅の方にてモンスターのフンがあったのを確認する。確か素材玉も念のために用意していたこともあり、すんなりとこやし玉を数個、調合させて生成させた。

 

 (これでようやく……)

 

 ――と思いきや、

 

「げにゃ‼︎」

 

 え?

 

 ケミットの悲鳴、対峙するウルクススの方へと思わず顔を向けた。緩やかな弧を描く様に宙を飛ぶケミットが、一瞬、目に映る。

 方や、セツナは、そんなケミットにはお構いなしの様子。畑への損害を阻止せんと切り刻み妨害しまくっていた。

 ケミットの方は大したことないだろう。こやし玉を掌で握りながら、急いで向かった。

 ――で、でだ。

 

「これでも、食いやがれ‼︎」

 

 ウルクススに接敵するや、至近距離からこやし玉を投げつけた。

 

 ぼふんっ!

 

 大量の埃が舞う様に、辺りに拡散する悪臭。

 

「ちょ、ちょっと、いきなり何するのよ!」

 

 突然の出来事に、咄嗟に腕で口元塞ぐセツナ。その表情には、あまりにもの汚臭だけに、眉間に皺を寄せては、堪え難い苦悶の表情を浮かべていた。

 臭いはさらに周辺にも拡散していく中、俺もまた、鼻に刺激臭が差し込み

 

「くっさ‼︎」

 

 セツナ同様、腕で口元を抑えるに至った。

 

「ば、バカじゃないの? 至近距離から狙うから、こうなると……」

 

 だが、キツいのは俺とセツナだけじゃない模様。ウルクススもまた、刺激臭を前にしてとち狂ったかの様にバタ着かせ始めた。

 まさに、なりふり構っていられないのだろう。俺とセツナ、揃って間合いを開けるタイミングで攻撃モーションが滅茶苦茶。中には、大量の氷塊を放ちまくり。

 遂には、その場から共有ルートへ一直線。そのまま逃げ出してしまった。

 黄煙がふわふわと漂う中、脅威が去ったことだけに安堵。

 

「ま、めでたしめでたしだな」

 

 損害率も50%、と半分は畑を守り切ったことを誇らしげに思う。と、そこへ――

 

「めでたしめでたし、だけど……。ま、いいわ。どの道、結果オーライだし」

 

 言葉の一端から、何かを言いたげそうに見えた。が、そこは敢えて訊かないでおいた。

 

「とりあえず、約束通り氷結イチゴを集めようぜ」

「うん。……で、なんだけど、依頼主のケミットは? いつの間にかいなくなっているけど」

 

 今更ながら、セツナはケミットがいなくなっていることに気付いたようだ。

 

「それなら。さっき、吹っ飛んでいったぞ。たぶん、あの辺りにいるんじゃねぇ?」

「あの辺り?」

 

 適当に示した方へ、セツナはそちらを見渡した。ところが、

 

「いないわよ。まさか、どさくさに紛れて……」

「いや、それはないはずだけどな。ましてや、この畑は大切な場所だからとか言ったくらいだし」

 

 そう言う俺も、彼女と同じく、いるであろうそちらを確認のため見渡した。

 見渡す限り、砕けた氷塊か所かしこに氷片となり散らばり、中には一回り大きい板状の塊まで。

 

「あれ? いない」

 

 怪訝そうな顔持ちで、やや首を傾げた。

 

「でしょ?」

「ま、まさかな……」

 

 嫌な予感が脳裏を過ぎる。――とそんな時だった。散らばった氷塊の一部、そこが僅かに動いたのを目撃した。

 

「ケミット?」

 

 不思議と歩み寄り、その蠢く氷塊から掠れ声がしていたのを耳にする。

 

「……た、たすけ、……にゃ〜。たすけ〜……」

 

 (まさか埋まっているのか?)

 

 氷結の瓦礫をかき分けた。――で、その結果が

 

「そこにいたのかよ」

「助かったにゃ、ありがとう」

 

 どうやら吹き飛ばされた直後、間髪入れず投げつけてきた氷塊の下敷きにされたらしい。

 苦悶の表情を浮かべ、うずくまっていた。歩み寄るセツナは、

 

「ケミット」

 

 と一言。

 

「我ながら、不覚だにゃ」

 

 そして、起き上がり立ち上がろうとして――

 

「くっ!」

 

 膝にきたのだろうか。膝に猫手を添えて、痛がる様子を見せた。

 

「かたじけないにゃ」

「ったく、仕方ないな〜」

 

 怪我で負傷したケミットを、俺はおぶることにした。

 

「じゃ、あたしは依頼通りに」

「ああ、頼む」

 

 後のことは、彼女に託した。

 

 それから暫くして……

 

「それにしても、情けないにゃ」

 

 セツナが氷結イチゴの採取に専念する間、おぶられたケミットがぼやく。何かを手にしているのを見て、何気なく尋ねてみた。

 

「それは?」

「ああ、これにゃ? これはもどり玉にゃ」

「もどり玉? なんでそんな物を?」

 

 すると、ケミットは、

 

「じっちゃんから貰ったにゃ、念のためにってにゃ」

「へ〜」

「でも、討伐に夢中で、結局、使い忘れていたけどにゃ」

 

 そう言い残すと、もどり玉をしまった。

 

 (畑を守るのに、必死だったんだな)

 

 どことなく、感心してしまった。――とそこへ、

 

「おまたせ〜。戻ろっか」

「集まったんか?」

「まぁね、だいたい20個くらいってとこかな」

「20個、ね〜。そこそこだな。……ん?」

 

 気配?

 

 共有ルートの方を向いた。すると、里の者がぞろぞろと一団となって、揃いも揃って列を成して来たではないか。

 パッと表情が明るくなって叫んだ。

 

「じっちゃん!」

「ミケ⁉︎」

 

 列の中程にいた里長が、孫の存在を見て血相を変えた。慌ててこちらに来ようとする里長。その様子に、ミケット自身、自力で歩けないことを鑑みて、俺は里長の方へと歩み寄った。

 

「一体どうしたと言うんにゃ? ……っ! まさか、現れたのか? 例のモンスターが」

「例のモンスターかどうかは分からないけど、畑を荒らすモンスターなら、こうして撃退したにゃ」

「里長、やはりさっきのモンスターの気配は」

「うむ。……ともかく、無事ぃ〜……、ではないが、ともかく生きていて何よりじゃにゃ。人間よ、礼は言うぞよ」

「別に礼なんて……」

 

 頬を掻きながら先程まで敵視されていただけに、正直、この対応にはこそばゆい感じだった。

 

「里長さん。忘れないうちに言っておくけど、ウルクススは撃退しただけであって、また来ると思うよ。だから……」

「あ! そうだったにゃ。……果て、どうしたものかにゃ〜」

 

 また、来る。そして、また、畑を荒らされる。そのことだけに、里長は対策に苦心している様で、二の腕を組み困った表情を浮かべた。

 

 何か妙案は? 

 

 と言ったところだろうか。う〜ん、う〜ん、と唸ったままだ。この様子では彼らからは答えは出ないかもしれない。

 思いつきだがこの問題、里にあるかどうかは不確定だが、この文言に尽きた。

 

「大タル爆弾使って、道を塞げばいいんじゃね?」

 

 と。しかし――

 

「その手は考えていたんじゃがにゃ。う〜ん……」

 

 悩みの種は別にあるのだろうか。反応はイマイチだった。

 

「じっちゃん、なんでだにゃ? 簡単なことだにゃ。爆発させて道を塞げばいいだけだにゃ」

「そうなんじゃがにゃ。……そうなんじゃが、共有路を塞いでしまうと畑に行けなくなってしまうと思ってじゃがにゃ」

 

 まさに、そこが1番の。俺からしたら、ほんの些細な悩みなのかも知れないが、そこが1番の悩みだったみたいだ。

 打ち明けた傍ら、里長の表情がさらに暗くなったのを垣間見た様な気がした。気がしたのだが、そこへセツナが。知った風な口調でしゃしゃり出てきて――

 

「な〜んだ、そんなことね」

「セツナ」

「なら、ミケットが教えてあげればいいじゃない。裏道のことを」

「ミケ……」

「わ、分かったにゃ」

 

 突然話を振られたことに、ミケットはやや緊張した顔持ちとなった。

 ――と、それからと言うもの、ミケットの説明により今まで歩んできた裏道のことが説明された。その説明によれば、半ば里長達も知っていたらしい。

 しかし、まさかその道から逸れて畑に出られる抜け道があることまでは知らなかったとのこと。

 これにより、里長達の悩みは消えて大タル爆弾を使った対策は、2箇所、行われることに。その箇所とは、一つは共有ルート。2叉路になっており、一つは里へ。もう一つは……。

 これは俺自身も知らなかったが、その道の先はウルクススの住処と思いしき洞窟へと繋がっているらしいのだ。

 この件に関しては、直接赴いて確認した訳ではないが、話の内容からして、あ〜、それならそうなるのも無理もないな。

 つまり、いつ畑が襲われるのも分かったものではない、と腑に落ちたわけである。

 ――で、でだ。本題の二つ目とはだが。これは裏ルートのことだ。何が問題で大タル爆弾を使ったかと言うと、これは裏ルートの先行きが不透明だから。

 不透明であり、ドスギアノス達みたくどこからともなくモンスターが紛れる可能性が孕んでいる。だから、使うことにしたわけだ。

 ――とまぁ、そんな訳で、爆発作業に関しては、里の者に任せて、方や俺とセツナは今、里の一角にて寛いでいたのだが……。

 なにぶん、不自由はないわけではなく。限られた中で、有り難く藁の敷かれた寝床を用意してもらっていた。

 

 

 

 

「お待たせしましたにゃ」

「で、見せたいものとは?」

「こちらですにゃ」

 

 ミケットは手当て中とは言え、里長が出てくるかと思えば、なんと里長の側近と名乗る者だった。

 それで、その者が訪ねてきたと言うのが、里の問題を解決してくれた礼に、あるモノを見せたいとのことだそう。

 そして、そのあるモノと言うのが、この里を活気ずけてくれる源泉らしい。これから、俺とセツナは案内される手はずになっていた。

 寝床の洞穴から抜け出し、里の通りを歩く。岩肌に小さな入り口が、列を成して左右に並んでいる光景。行き交うアイルーにメラルー達を前にして、俺とセツナはまさに巨人と見紛う存在を醸し出していた。

 枝分かれしていくつかの通りがあるが、ともかく俺とセツナは案内人に従って歩く。

 

 暫くして……

 

「湯気?」

「あ、ほんとだ」

 

 少しずつだか、奥へ奥へ行くほど、もやもやした湯気が立ち込めてきた。

 

「ん、温泉たまご?」

 

 そうぼやくや、硫黄独特の温泉たまごの匂い。それが、鼻の奥、嗅覚を優しく撫でるのだ。

 

「もう少しだにゃ」

 

 里から少し離れた場所まできたが、ここでは里の中にいるだけでは感じ得ないものがある。

 そう、この湯気と温泉たまごの匂い。それに加わる様にして温まっていく肌感覚。それらが合わさり、和む様に冷え切った心を、全身を包み込んでいくのだ。

 ――で、次第に奥から、グツグツ、と何かが煮えぎたる音までもしてきて。開けた場所に着いた。

 

「これは……」

「ここだにゃ、君たちに見せたかったものとは」

「へ〜、まるで間欠泉地帯ね」

「だな」

 

 そこは、至るところに間欠泉が吹き出している場所。そして、間欠泉から流れ出るお湯の先にて、他方向から流れ出る小川と合流した後、大小様々な温泉がいくつも棚段状に形成されていたのである。

 

「間欠泉に近づかなければ、そんなでもないけど。いい香りね〜、これ」

 

 この温泉たまごの匂い。現実世界なら有害ガスではあるが、ここはあくまで仮想世界。そんなことは、全然気にしなくてもよかった。

 

「私達里の者が大切にしている場所だにゃ。この間欠泉地帯と温泉のおかげで、生活が支えられているから」

 

 ――とそこへ、

 

「お、きおったか。こっちじゃ、こっちじゃにゃ」

 

 か細いような声が訊こえてくれば、そちらを向いて手を振っている里長と連れのメラルー2匹がいるのを確認する。

 

「セツナ」

「あ、うん……」

 

 間欠泉に見惚れていたセツナに声を掛けて、俺らは里長達の方へと棚段を降って行った。

 

 時折、靡く湯気に包まれながら棚段の脇の階段を下り、そして――

 

「どうじゃ、この光景は?」

「別に――」

 

 気にも留めない俺の発言。遮って

 

「和みます、この場所」

「じゃろ? この場所は、ワシら里の者達のとっての宝じゃからな」

 

 言ったそばから、里長は天然温泉の湯船に猫手をつけてみた。

 

「ん〜……、触ってみ? 熱くないから」

「熱くない?」

 

 里長の言葉に、やや訝しんだ俺はしゃがみ込んだ後、そっと手をつけてみた。

 

 (それほど熱くない……)

 

 なんだろうか。それは熱過ぎる訳でもない。かと言って、冷たい訳でもない感度なのだ。

 どちらかと言うと、熱いことには熱いが、長風呂は少々キツイが入れなくはない塩梅だったのである。

 意外そうな俺の反応を見て、口元が綻ぶ里長。

 

「いい湯、じゃろ? この場所はだにゃ、他の者が愛用する温泉でもあるのじゃよ」

「ほ〜」

「あたし、入ってみたいかも」

「え? ちょっとそれは……」

「なに? ダメなの?」

「ダメって訳じゃないけど。俺らの目的、そもそも温泉に来た訳じゃないだろう」

「別にいいじゃない。ちょっとくらいよ、ちょっとくらい」

 

 そう言うや、親指と人差し指で、小さく〝C″の輪を模した。

 

「いや、しかし……」

 

 下山を優先しているのだ。早く地図を取り返して、急ぎたい気分だった。そうした中、

 

「なんの理由があって焦っているのか分からんじゃが、急いては事を仕損じる、そんな言葉がある様に、慌てると返って損すると思うじゃがのう」

「……」

 

 事情は知らないとは思うが、里長の言葉には少なくとも一理ある。そのような気がして、返って戸惑ってしまったのだ。

 

「ま、別にいいじゃない」

「そうじゃ、そうじゃ。それにせっかく里の問題を解決してくれたのじゃ。ワシらとて、何か礼をしたいからのぅ」

 

 連れのメラルー2匹も、里長の言葉に同意見だったらしく。うんうんと頷いた。

 

「……分かった、分かったよ。じゃ、お言葉に甘えて」

 

 本心では、勿論、遠慮はしていたが、この際、仕方ない。礼を突っぱねて、後々後ろ髪引かれるよりかはマシ。そう妥協して、お言葉に甘えることにした。

 ちなみに、里へと帰り際だが、いつでも温泉は使ってもいいそうだとのこと。〝友好の証″と言う名目での特別待遇、と言う意味合いらしい。

 許可を貰えたことに、セツナは今まで以上に張り切っていた。

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