モンスターハンターアルカディア   作:ぷにぷに狸

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4章:秘めたる思い・5話

 早る気持ちを抑えられなかった俺は、里の外へ。三叉路の左――里への道とは別方向の狭き小道を辿り、氷壁内から顔を覗かせてきた。

 やはりと言うか、百聞は一見にしかず。吹雪いており、とても下山する気が起きない現実を突きつけられ。

 そして今、そのげんなりとした気持ちを抱えたまま、与えられた寝床で、寛いでいた。でも、本格的に下山するにしても、盗まれた生態マップを返して貰わなければ、例え天候が良かったとしても、遭難するのは目に見えていた訳であり。

 お椀状の冷え冷えとした、楕円形の天井。それを、ぼ〜、と眺めては、呆然としていた。

 暫くして、急にふとして思い出し

 

「そう言えば、なんか礼がしたいとか言っていたな。温泉を見せる以外に。一体、なんだろう……」

 

 里長からの礼。何気なくだが気になった。藁布団をどかして起き上がり、里長を探しに行こうとした。

 ――とそこへ、

 

「探していたわよ。里長が呼んでいるからって」

「里長が? ……まぁ、いいや、丁度俺も会いたいと思っていたところだし」

「なら、行こう」

 

 セツナに連れられて、寝床のカマクラから外へと出た。

 

 それから、暫くして……

 

 ハンターが一人、通れるくらいの通り。里の者にとってはメインストリートになるかもしれないが、相手からしたらこちらは巨人。

 気を遣って歩いて行かないと、小人達を蹴散らしかねなかった。とは言え、別に蹴散らしたところで、何か悪影響が出る訳ではないが。しかし、それでもである。

 ――で、やや歪曲した曲がり角を過ぎたところで、通りの一角の小さな一軒家にて、突っ立った2匹のアイルーを見かけて

 

「あ、いた」

 

 里長とケミット、揃って待っていたのを目にした。

 

「だいぶ、待ったか?」

「いや、そうでもないにゃ。俺の怪我の具合を様子見に来て、そのついでにここで待つ形になったから」

「じゃあ、怪我の具合は?」

「無理はできないけど、バッチリだにゃ」

「それはよかったな。……で、」

 

 視線を変えて、里長に。呼応した里長は

 

「そうじゃったにゃ。お礼の件ね。だが、その前にこれを返すにゃ。必要な者にゃろうて」

 

 猫手に光る物。何気なく受け取り、それが生態マップであることが一目でわかった。

 

「ど、どうも」

 

 そして、セツナの方へと顔を向けて

 

「あ、あたしの分は大丈夫。迎えに来る前にきちんと返して貰ったから」

「なら、大丈夫だな。……で、先の話、礼というのは?」

 

 すると、里長は、

 

「ほ、ほ、ほ、ほ、……」

 

 何を思ったのか。里長は不思議な笑みを浮かべるに留め、

 

「後からの楽しみ。それだけ、伝えるにゃ」

 

 と伏線を匂わせた。その言葉に拍子抜けた俺は

 

「な、なんだよ〜。期待させておいて」

 

 思わず肩透かしを受けてしまった。

 

「さ、ケミよ。時間が来るまで頼めるかにゃ?」

「任せてよ、じっちゃん」

 

 何を頼んだのか。それだけを伝えると、

 

「あ、ちょっ」

 

 止めるまでもなく、何かの用事を思い出したかのように、里長はケミットを残して去ってしまった。

 雑踏の中へ紛れるまで寂しい背中を見送り、かたや残されたケミット。セツナ自身も、礼の内容を知らされてなかったらしく

 

「結局、なんの礼がしたかったのかしらね」

 

 一人、ぼやくに留めた。タイミングを見計らって

 

「じゃ、早速、着いてくるにゃ」

「え? 着いてくるって?」

「ふ、ふ〜ん。何を言おう、時間が来るまで里案内にゃ」

「里案内?」

「そうだにゃ。せっかくの恩人なんだにゃ。里のことを、もっと知って欲しいと思ってにゃ」

「は、は〜……」

 

 いわゆる街案内と言ったところか。別に興味があるわけではなかったが、この雰囲気。遠慮するにしろ、後味が悪いようにしか見えなく。

 そんな俺をよそに、先頭切ってミケットは、道案内を役立てるべく歩き出した。

 ミケットのペース配分を考えながら歩く中、再び里に戻ってきて……。準備ができる間、2箇所、回ることにした。

 まず、手始めとして――

 

「ここが食事処にゃ」

 

 そう案内された場所は、一本の凍てついた枯れ木。そして、それを取り巻くように配置されたテーブルと幾つかの切り株。そんな簡易的なところだった。

 

「食事処って……」

 

 見るからに休憩スペースのみの印象が伺える。辺りを見回しても調理場がないのが、その証拠に見えるが……。

 

「食事処なのは分かったけど、どこで作っているの?」

「あ、それ。俺が1番聞きたかったこと」

 

 すると、ケミットは

 

「それについては大丈夫にゃ」

 

 よちよちと歩き、切り抜かれたテーブルへ。そのまま前面の枯れ木へとよると、なんと! 木面が扉になっていたらしく、ギィーギィー、と軋むような音を立てて扉が開いた。

 

「厨房はこの中って訳ね」

「そんなとこだにゃ」

 

 右の中に厨房、ね〜。意外性があった。

 

「ちなみに、まだ、営業はしてないにゃ。最近まで里の問題があったから」

「なるほどな。てか、別にそんなすぐに欲しいわけでもないがな」

「そっか〜。ただ、今は準備中だけど、営業し始めたらいつでも歓迎するにゃ。……と言う訳で、はい、これ」

 

 ん?

 

 ケミットの猫手から光る物を、カウンターテーブル越しに手渡される。思わず受け取り、それがここの営業店の名前とその詳細が記された物だと知り、

 

 〝お知らせを受け取りますか? はい/いいえ″

 

 の選択を示され。別に得てして損はないと思い、一応、受け取ることにした。

 

「ありがとうにゃ」

「別に礼を言われる筋合いは……」

「じゃ、次を案内するにゃ。一つだけ紹介しても仕方ないから」

 

 カウンターテーブル内側から外へ出て、率先して次なる場所へと先導する。

 

 里の中程へと向かって歩いていくこと暫くして、次第に住民の往来が少しずつ激しくなっていく。

 行き交うアイルーやメラルーからは、度々、巨人を見上げるかのように茫然とする者が、仕方ないとは言え後を絶たない。

 そのこともあってか、本当は大したことではないが、かなり注目されるだけあって気が引き締まる思いだ。

 その気配を察知したのだろうか。前を歩くケミットは歩きながら後ろを向く。

 

「さっきから、何をよそよそしくしているにゃ?」

「よそよそしくも何も、……な〜?」

「な〜って、何であたしに振るのよ?」

「いや、分かるだろう。気が散って仕方ないことを」

「そ、それは〜」

 

 返答に困ったセツナは、視線を右往左往。やり場がない様子を醸し出す。

 

「ま〜、いいにゃ。それにもうすぐにゃ」

「え?」

「あそこ」

 

 猫手が示された先、そこにはのれんを飾った小さな洞穴があった。さらに、なにかを作っている最中なのか、穴からは湯気。そして、軽快な音ともに香ばしい香りまで漂ってきたではないか。

 

「この匂いは……」

 

 ジューシーな匂いに翻弄されそうになる。途端、ぐ〜、と腹の虫がなってしまい、思わずお腹に手を当てた。

 

「ユウト〜」

「へ、へへへ……」

 

 思わず愛想笑いを浮かべた。

 

「大丈夫だにゃ。この後の楽しみで空腹は満たされるから」

「なら、いいんだがな」

 

 ケミットの言葉に、少しだけ期待を込めた。

 

「さて、そろそろかにゃ」

 

 何かのタイミングで頃合いを見計らったかのように、ケミットは悟った様子。

 

「そろそろ?」

「そうだにゃ。すぐ出来そうだから、そこまで時間は掛かることはないから」

「そうなのか?」

 

 一体何が待っているのだろうか? 想像するに、何かの恩返しだと思う言う気もしなくはないが。

 

「さ、会場へ行くにゃ。皆が待っているから」

 

 俺とセツナを先導するかのように、ケミットは足を進めた。――とここで、洞穴を横切ろうとした矢先、

 

「にゃ⁉︎」

「! あぶな!」

 

 洞穴から突然出てきたアイルーに、あわやぶつかりそうになった。

 

「馬鹿野郎‼︎ 危ないじゃにゃいか!」

「ご、ごめんなさいにゃ」

 

 威勢に負けて思わず謝罪した。のだが、洞穴から出てきたコック帽を被ったアイルーは、彼の正体に気付いたのか親しみを込めた。

 

「ん? 誰かと思えばケミットじゃにゃいか」

 

 抱えた料理皿を近くの台に載せて、機嫌よく挨拶をする。苦笑を浮かべてケミットは、

 

「そっちも元気で何よりにゃ」

「あたぼーよ! ……と言いたいところだが、最近、食材不足でピンチっちゃぁ、ピンチだにゃ」

「そうか。ま、無理もないにゃ」

「そうにゃんよな。――で、そちらの方々は、例の……」

「そうだにゃ」

「おお、これはこれは。まさに我らの英雄だにゃ」

「え、英雄って……」

 

 思わずと言ったところか、セツナの表情が引きずってしまったように見えた。

 

「買い被りすぎだ。俺とこいつはただ単に返して貰いたいものと引き換えに依頼を受けただけあって」

 

 しかし、

 

「それでもにゃ。――っ! おっと、こうしてはいられないにゃ。じゃ、ケミット。私はこれにて失礼するにゃ」

 

 そう言うなり、台の上に置いてあった料理皿を手に、先を急いだ。ちなみに、その料理皿と言うのは、鉄製のお椀が被されていて中身が分からなかったが、お椀の隙間から立ち登る湯気を見る限り、熱々の何か。

 

 そう……

 

 想像するに、こんがり肉の類なのでは。そう感じ得た。

 

「じゃ、俺たちも行こうかにゃ」

「そうするか。それに、何処となく楽しみだしな。その例の恩返しとやらが」

 

 期待を胸に、ケミットに連れられて会場へと向かった。

 

 

 

 

 パッと見た感じ、まさに大盤振る舞いに近かった。それはまさに、本当に食料問題を抱えていたのだろうか? そんな疑念を抱かざるを得ない光景だった。

 同じくセツナも俺と同じ感想を持ったのだろう。横顔を見れば、口元が僅かに引き攣っていた。

 

「どうしたのにゃ? 2人とも」

「いや〜、何で言うかな」

「あたしも同じく。ねぇ、一つ再確認したいんだけど……」

「なにがにゃ?」

 

 不思議に感じ得たのか、ケミットを中心に皆の視線が集まる。その中で

 

「確か、食料問題、抱えていたんだよね?」

 

 と俺が今、まさに聞きたいことを彼女は言ってくれた。そのことに、素っ気なく一言。

 

「そうだにゃ」

「そうだにゃ、って……」

 

 今までの苦労は何だったのだろうか。取り越し苦労に思えてきた。しかし――

 

「確かに食料問題を抱えているにゃ。この大盤振る舞いは、里の食糧をかき集めて行ったものじゃからて」

「そ、そうなのか?」

 

 里長の言ったこととは言え、どうにも説得力にかける気がしてならなかった。

 

「ま、深く考えなくてもいいんじゃ。助けてくれたから、礼を尽くす。それだけのことじゃて」

「う、う〜ん……」

 

 難しい表情をしてみたけども、結局は里の食糧事情は聞いた限りでしか分からない。

 なし崩しではあるが、ケミットに促されるがまま、俺とセツナは適当な木箱の椅子に腰を掛けることにした。

 ――で、改めて眼前のメニューを見れば、やはり豪勢と言わんばかりの品々の光景が広がっている。

 こんがり肉は勿論のこと。何処から得たのか分からない焼き魚の類や青キノコ。それに、ケミットが好物としている氷結イチゴに、炊き立てご飯まであったのだ。

 いくらなんでも出し過ぎ。そんなことをふと思ったが、

 

「ま〜いっか」

 

 結局は考えても仕方ないと思い、里の食糧事情の件は頭の隅に置いておくことにした。

 他方、

 

「うまそうね。丁度お腹減っていたのよ」

 

 横顔を見れば、宝物を見つけたようなキラキラした目をしながら、今か今かと箸を手にしていたセツナがそこにいて

 

「一旦待つんだにゃ」

 

 ケミットが待ったをかけ、そして、一同がお祈りするかのように猫手を合掌したかと思えば――

 

「皆の者、いいかにゃ? ……では、……奉は古の龍の神。ここに、小さき者が集う里を救った者達への祝福があらんことを――」

「「にゃ〜めん」」

 

 その様、まるで神聖なるお祈りをしているような光景だった。

 

「じゃ、頂きますにゃ」

 

 各々が食器を手に食べ始めた。神聖とも言うべきお祈り。それに呆気に取られてしまったが、

 

「ユウト?」

 

 はっ

 

 セツナの掛け声に、我に返った。返って――

 

「あ、い、いや。別に……」

 

 そして、何事もなかったかのように、やや遅れて食事をし始めた。両手を擦り合わせて、木製フォークを手に。かと思えば、目を奪われるのは、ジューシーなこんがり肉。

 手を伸ばして串を掴んだ。ゴクリッ、と唾を飲み込み、

 

 がぶりっ!

 

 瞬間、肉汁が、じゅわ〜、と隅々に口内を染み渡らせる。もぐもぐしながら、久しぶりの美味に出くわしたかのような味覚を覚えた。

 

「う、め〜!」

 

 噛めば噛むほど味が滲み出てきて、優越感に浸れるのだ。

 

「ん〜。美味しいね、これ」

「だろう?」

 

 隣を見れば、氷結イチゴを頬張るセツナが幸せな表情を見せていた。

 

「お二方が喜んでくださるとは、やはり出した甲斐がありましたにゃ〜」

 

 視界には入らなかったが、その言葉には喜びが込められてそうな響きがあった。

 

「ん〜、やっぱりこのイチゴ、堪らないわね〜」

「ただでさえ寒い環境なのに、よくそんな物、味わえるよな」

「寒さと味は別なの!」

「なんだそりゃ」

 

 味だけじゃないんだけどな〜。てか、氷結、と付くだけあって、いわゆるアイスだよな、アイス。しかも、氷アイス。

 彼女の価値基準に疑問を呈した。

 

「それにしても、まさかこんな人間もいたとはにゃ〜」

「まさに意外だったにゃ。今度からは見た目で判断しないことにした方がいいかもにゃ」

「うんうん」

 

 他のアイルー、メラルーがそう語り合う。別に訊きたくて訊いているわけではないが、ふと小耳に挟めば俺たち狩人に対する印象、悪かったんだなぁと伺えた。

 

「にしても〜」

 

 手にしたこんがり肉を皿に置き、それから出された品々に改めて目を通す。

 里。と言っても、野生の獣人達の住処には変わりはない。なのに、この料理の出来栄え。どう見ても、人から教えられたような感が拭えなかった。

 ただ単純に、そう言う設定、と位置付けてしまえば、それまでなのかも知れないが。

 

 なんだろうか。

 

 無性に尋ねてみたくなった。横に座るケミットに、最低限伝わる程度に小声で訊いてみた。

 

「あのさ〜」

「ん?」

「訊きたいことあるんだけど、いいか?」

「いいけど、分かる範囲でいいにゃら」

「なら、面倒臭いから遠回しに言わず、直で言うんだけどさ。この料理、もしかして、最初は人間から教わってないか?」

「人間に? まさかにゃ〜」

 

 その反応、ケミットは疑うことなく応えているようだった。

 

「だよな〜」

 

 偶然。そう、偶然、なんだよな……。或いは、ゲーム上の設定説。そんな予感が再び脳裏に過った。

 それに、別に対した質問でもないんだ。気のせい、ってことにしておこう。

 

「それにしてもにゃ、最近の天候といい、古の龍の神はどうもご機嫌が宜しくないのぉう」

「確かに。前はそうでもなかったのににゃ」

 

 里長とほぼ同い年であろう卓髪のご老人(アイルー)が、近況について語り合っていたのを耳に挟む。

 

「全くじゃ。お陰でモンスター達も騒がしくなる一方にゃて」

 

 古の龍の神……。もしかして、古龍のことだろうか?

 

「な〜? その話、古龍がどうしたんだ? 天候と絡むみたいなことを小耳に挟んだんだ?」

「ユウト?」

 

 一同の視線が俺に集中する。先程のご老人は互いに顔を見合わせるだけ。なぜか返答するのに、決めあぐねているようだ。

 一方、その代わりにと言ってはなんだ。里長が代表して、答えてくれた。

 

「ワシが代わりに説明しようかのぅ。古の龍とは、お主が言うように、その〜、古龍のことにゃて。それも、この山脈の天候を支配する龍ときたにゃ」

 

 天候を支配する古龍……。

 

 蓄えられたモンハンの知識。この凍土の環境を絡めて、それを掘り起こしてみれば、大体、なんの古龍なのかはすぐに検討はついた。

 思いに耽る俺をよそに、セツナが代わりに話し始める。

 

「それってクシャルダオラのことじゃない? 前はそうではなかったと言うことは?」

 

 すると、里長は

 

「今の環境みたいに、目まぐるしく変化することはなかったのじゃよ。きっかけは分からにゃいが、去年のいつ頃だったか。次第におかしくなったとみたのじゃて」

「去年、ね〜」

 

 去年か……。

 

 思い当たる節はなかった。と言うか、そもそもフラヒヤ山脈の天候事情なんて、ゲームの設定上でしかないのだ。知る由もない。

 

「ま、いずれにせよ。厄介であることには変わりないよな」

 

 両手を頭の後ろで重ね合わせ、ボヤいてみせた。――のだが、この一言が、ご老人達の勘に触ったのか。怒りの口調で反論した。

 

「厄介とはなんじゃ‼︎ 厄介とは」

 

 え?

 

 改めてよく見ると、睨む視線が自分に向けられていたことに気付かされる。

 

「お、俺、何か悪いことでも言ったっけ?」

 

 思わず狼狽える。と、そこへ

 

「ここでは、古の龍は、神様と同じで崇めているにゃ。だから……」

「そ、そうなのか?」

 

 そういえば、厄介発言していたような……。

 

 省みてみれば、そんなことを発したような。ここは致し方ない。

 

「わ、悪かったよ。うちらハンターからの目線で価値基準を決めてしまって」

 

 しかし、睨む視線は弱くはならず。そんな反応だけに、今更ながらバツが悪そうに思えてきた。

 

「ま、いいじゃにゃいか」

「長……」

「お互いに価値基準が違うのじゃて。誤発言の一つや二つ、目を瞑ってもいいがのぅ」

 

 その諭すような言葉。流石に里長には逆らえないのか、睨みつける者達から敵意が消失していくのを感じ得た。

 

「ところでお主ら、古の龍が荒れ狂うようになった要因、ご存知かのう?」

「え? ん、ん〜」

 

 一方、セツナは

 

「あたしも、そこまでは……。パパなら分かるかもしれないけど」

「あー、確かに」

 

 確か、このゲームの開発者はノブ公だっけか。彼なら、このフラヒヤ山脈の天候について、予め用意された設定なのかどうか分かるかもしれない。

 だけど、当の本人がいないのだ。

 

「でも、考えても仕方ないよな。今いないんだし」

「そうね。で、里長さん、その話だけど、残念だけどあたし達には分からないわ」

「そっか」

 

 期待していたのかもしれないが、彼は肩をすくめた。

 

「ま〜、今回は仕方ない。でも、少なからず期待しとくにゃ。いずれ、お主らが古の龍を鎮めてくれることをな」

「は、ははは……」

 

 どの道、対峙することにはなるかも知れないが、変な期待を持たれてしまい苦笑してしまった。

 

 

 

 

 ステータスを確認してみた。すると、お知らせ画面にて、友好度が上がっていたことに気が付いた。

 少なからず無駄ではなかったのかも。そして、その項目の詳細を見れば、設営地として利用可能できることも気が付いて……。

 次回、フラヒヤ山脈に来ることがあれば、この里を使わない手はないな。そんな利便性をふと思い立った。

 改めて見る、冷え冷えとした蒼白の天井。背伸びすれば流石に天井にぶつかってしまう高さが故に、本当の意味で羽を伸ばしたいなら、このカマクラを出てする必要があった。

 隣を見れば、すやすやとセツナが寝ている。

 

 ふんっ、

 

 なんやかんやで強気な態度を見せてはいるが、こうして見ると、普通の女の子と同じで可愛く思ってしまう。

 そんな姿にすっかり気を緩んでしまい――

 ――と、次の瞬間!

 

 くっ、

 

 突如頭痛が。それに伴い、途端、視界が乱雑。苦悶の表情の中、目をそっと開ければ、目眩をきたしたのか二重三重の視界。その中に、私服を、それも青パジャマを着た大人びたセツナが垣間見えた。

 

「ま、また、同じ現象かよ」

 

 そう、あの時と同じ。ティガレックスに追い回された挙句、クレパスに転落。その道行先にて辿り着いた一本木。その場所で、遭遇した幻覚。そんな現象に近いものが、今、襲っていたのだ。

 再びやって来る頭痛の高波。堪えきれず、目力を込めて痩せ我慢。数秒を経た後、波は収まりそっと目を開ければ、そこにはいつもの彼女がそこにいた。

 

「一体、なんだってんだよ」

 

 原因不明の症状に苛立ちが募る。振り返って見れば、どうも腑に落ちない部分も他にあるのだ。

 普段は敢えて気にはしていないが、セツナからも指摘があったように、小学生の頃以前の記憶がないこと。そして、特定の名前を前にして雑音が入り、聞き取れないことなどだ。

 よく考えてみれば、不自然極まりない。普通ではないのだ。

 全く、俺の過去に何があったと言うのだ。ほんと、ため息が出るし、自分自身が気味が悪くて仕方ない。

 そんな中、

 

「どうしたの? 難しい顔して」

「あ、セツナ……」

「なんか顔色も悪いよ、大丈夫?」

「あ、いや、別に……」

 

 いつの間にか不安が表情に現れてしまったらしい。慌てて取り繕った。

 

「そ、そう……。でも、何かあったら――」

「だから、なんでもないって。ちょっと、考え事していただけだから」

「考え事、ね〜」

 

 横目で見れば、何か見透かされそうな感じがしてならない。そんなジト目で投げかけていた。

 堪らなくなった俺は、天井に頭をぶつけない程度にスクッと立つ。

 

「ともかく、気分転換も兼ねて夜風に当たって来るよ」

 

 そう言い残して、

 

「あ、ちょ、ちょっと……」

 

 呼び掛けに応じず、カマクラの外に出た。

 

 里をぶらつくこと暫く、俺は空を見上げた。ゴー、と唸るような音を伴い、里の外は天候が荒れていることを知らせて来る。

 

「は〜、当分、下山できそうにないな」

 

 肩をすくめてはそう落胆し、立ち止まっては足元の雪面をぼんやりと眺めた。

 まさに足止めを食らっている。地図を返して貰ったら、そそくさと下山したかったのに。全くぅ〜、皮肉なものだ。

 

「どうしたにゃ? こんなところで」

 

 誰かの声。俺は振り向いた。こんな夜更けにも関わらず、氷結イチゴキャンディーを持ち歩くは、ケミットだった。

 

「あ〜、ケミットか。そっちこそ、なんでここに?」

「温泉帰りだにゃ。これから、帰るところだにゃ」

「温泉? ……あ〜、もしかして、間欠泉近くにあった」

「そうだにゃ。……ん〜、いつものながら、いい湯だったにゃ」

「温泉。温泉、か〜」

 

 確かに、ここんとこまともに風呂入っていないことを思い出す。てか、仮想世界(モンハンアルカディア)にダイブしてデスゲームに巻き込まれて以来、まともに風呂と言う風呂、入っていなかったのだ。

 そこで、ふと、思う。

 

 ――この世界の温泉、どうなんだろう?――

 

 と。

 試したことないだけに、自然と気になった。

 

「ま、俺はそろそろ戻るにゃ。寒いだけに湯冷めすると悪いだけに、にゃ。……あ、そうそうもう一つ。温泉については、いつでも使っていいからにゃ。それじゃ」

 

 それだけ言い残すと、ケミットはその場から立ち去った。後に残る静けさ。夜風に当たるのもいいが、ここは一つ、温泉にでも入ろうかな。

 ケミットに言われたことも含めて、そんな風に気が向いた。

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