英雄伝説 空の軌跡異聞録~異界に舞い降りた不死鳥   作:聖剣抜刃

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いつの間にかUAが相当な数に・・・・!!こんな拙い文章を読んで下さり、本当に・・・本当に有難うございます!!更新が遅くなり申し訳ありません。しっかりと書いていきますので今後とも宜しくお願いいたします!


第8話 「事情聴取」

ツァイス支部に到着した一輝を迎えたのはアジア系である事を感じさせる妖艶な美女からの一瞥だった。一輝には言葉を掛けず傍らのクルツに対して少々呆れた様な言葉を掛ける。

 

「あらクルツ、やけに濡れたわね。」

 

苦笑いのクルツだが直ぐに遊撃士としての顔になり女性に向き直った。

 

「押し掛けて済まないがキリカ、2階の部屋を一時貸してくれないか?彼に対して事情聴取を行うのでね。」

 

「分かった。そこの大荷物を抱えた人、彼に付いて行って。」

 

一輝は無言を通し、クルツの後に従った。えらく愛想の無い男だ・・・・とキリカは思い、そしてクルツの体に付いた切り傷も見つけていた。王都支部に所属し、腕前は一級の遊撃士に対しダメージを与えるとは・・・・・。足運びや表情にも全くと言って良いほど隙が無い。しかもあの眼・・・・あれは地獄を渡り歩いてきた人種のみが出来る眼つき。

 

「ヴァルターやジン以上・・・・か・・・。」

 

そう呟くとキリカは一瞬物憂げな表情になったが直ぐに表情を元の毅然とした表情に戻し書類の整理に取り掛かった。

 

二階に移った両者はそれぞれに荷物を置き、机を挟んで向き合った。クルツの眼から闘気は去っているが、犯罪捜査をする者の眼となり一輝を正面から見据えている。

 

「さて、では君の個人情報についてはアガットから聞いているので省くとして・・・。」

 

一泊置いてクルツはやや冷然と告げる。

 

「実の所君については既にある程度調べは付いている。カシウス准将にも御協力願ったのでね。・・・・君はこの世界とは全く違う別の世界から来た人間、この世界の事をにはあまり詳しくは無い。カシウス准将の御自宅で療養をし、そしてこの世界の事を知りたい、人々の助けになりたいとして准将の御自宅を辞した。」

 

クルツは更に隙を与えぬ佇まいで言葉を継いでいく。

 

「だが君はこの世界の成り立ちを何も知らず、女神エイドスの事すら知らない。そしてこの世界では誰しもが使う必需品『導力器(オーブメント)』すら持たず導力魔法も必要としない。イッキ君、君は現在この世界に於いて『異端』とも言える存在なのだよ。」

 

「・・・・・・。」

 

一輝は黙ったまま表情で先を促した。やがてクルツは一輝が予想した通りの言葉を発した。その声音は硬く、やや恐れを帯びてはいたが。

 

「君は・・・・一体何者なのだ?」

 

「・・・・父カシウスから聞いてはいないのか?」

 

「カシウス准将にも勿論お聞きした。しかし返って来たのは『本人に直接聞け』と言う言葉だけだったよ。」

 

「そうか・・・・。」

 

一輝は正直な所迷っていた。協力するそぶりを見せた以上こちらも手札を見せねばならない。しかし自身を家族として認めてくれた父カシウス達とクルツは立ち位置からして違う。情の話が通用する相手ではない。クルツは遊撃士であり、この世界での犯罪捜査官でもある。聞いて認めるのは事実のみ。それ以外はこの男にとって単なる世迷言にしか聞こえないのだ。

 

しかしここで迷っていても埒が明かない。信じる信じないというジャッジはどの道向こう側にその権限がある。

 

「俺が今から話す事は、父カシウスに話した事だ。」

 

「・・・・・・」

 

一輝は全てを淡々と打ち明けた。父カシウスに話した時と違い、余計な言い回しや情理の部分はなるだけ排除した上で一輝が今まで体験し、体や頭脳、精神に刻み込んだ全てを話し、明かした。最初の内はクルツも半信半疑どころか殆ど信じてはいない様な風ではあったが、クルツも一輝との手合わせやあの凄まじい気配を思い出し、その話を徐々に受け入れて行く。何よりも一輝の話が演技でも言い繕いでもなく事実に裏打ちされた言葉である事がクルツの中で決め手となった。

 

そして数刻ほどの時が流れ、二人の男は無言で佇んでいた。一人は語るべくして語ったと言う表情。もう一人はそれを受け入れる表情。雨の音が幾分和らいだ頃、クルツの方から口を開いた。

 

「・・・・イッキ君、君が今しがた話してくれた事は非常に衝撃的だ。だが、君と手合わせし、君と向かい合ったこの身で君の言葉を戯言と切り捨てる事は出来ない。」

 

「・・・・・・。」

 

「君の言葉を信じよう。そして君を疑い、刃を向けた事をお詫びしたい。」

 

「・・・・・そうか。」

 

そしてクルツは一輝の目の前に数枚の書類を差し出した。そこには父カシウスのサインがあった。軍からの正式な書類なのか・・・・一輝が何やら物言いたげな表情になった時、再びクルツが正面から一輝を見据えた。

 

「イッキ君、私の方からも君に伝える事がある。カシウス准将からの依頼の件でだ。」

 

「依頼の内容を不用意に明かしていいのか?俺は今の所単なる民間人だぞ?」

 

「あのような力を持っている者が『只の』民間人の訳が無いだろう?」

 

頭から民間人である事を拒絶され、一輝は幾分腹立たしい思いだった。そしてそれは図らずも表情に出ていたのだろう。クルツは愉快そうに微笑んだ。

 

「カシウス准将からの依頼は・・・・君を『遊撃士協会の協力員』として欲しいと言うものだ。」

 

「・・・・何だと?」

 

「『遊撃士』ではなく『協力員』だ。正規に遊撃士協会に所属する訳ではないから1から修行し直し、専門知識を叩き込むと言う事は無い。」

 

クルツは笑いながらこ更に付け加えた。

 

「仮に君ほどの人間が修行に来ても我々では教える事が無い。逆に指導教官の方が数日、いや1日も経たぬ内に悲鳴を上げて逃げ出すさ」

 

一輝は戸惑っていた。遊撃士になる必要性は無いが協力員となって欲しいと言う父カシウスの思惑が読み取れなかった。他ならぬ父の頼み。二つ返事で受けたいのは山々ではあったがその意図は何であるのか?一軍の将でもあり「剣聖」の異名を取る人物の頼みがまさか単なる協力申し出と言う事はあるまい。

 

「父カシウスは俺に・・・俺にしか出来ぬ事があると言うのか?」

 

一輝の独り言をクルツは聞き逃さずすぐさまに肯定の返事をした。

 

「私もその可能性が高いと思う。カシウス准将は君のその凄まじい『力』をこの国、引いては世界全体の為に使って欲しいと願っておられるようだね。私も君の力をリベール一国の為だけに眠らせるのは惜しいと思う。」

 

一輝は暫く眼を閉じ考えた。俺にしか出来ぬ事・・・・。女神の聖闘士は確かに地上の平和の為に戦う闘士だ。しかし俺は聖闘士でありながら地獄に身を置き、その毒に染まった一介の修羅・・・・・。星矢達の様に優しさや人を和ませる何かを持っているとは到底言い難い。相手が地上を侵す邪悪とは言え俺は常に拳を向け、時としてその命を奪って来たのだ。拳でしか解決する手段を知らぬ俺に何が出来る?そして父カシウスは俺に何か期する所があると言うのだろうか・・・・?

数分の後、一輝は目を開いた。そこには先の迷う男の顔は無く、平和の為に命を盾とし、勇気を以って歩む聖闘士の顔が在った。

 

「分かった。父カシウスの望み、この一輝が引き受けよう。」

 

「受けてくれるのか?」

 

「ああ・・・俺は女神の聖闘士。聖闘士の力は戦いのみに非ず。人を慈しみ、希望を示す事もまた聖闘士の務め。俺の様な修羅に何が出来るかは解らないが、人々が求めるならば、俺に出来る事をやるまでだ。」

 

クルツは満足そうに微笑み、一気に一枚の地図を渡した。そこには砦らしき軍事施設が記されていた。

 

「今日から一月後にカシウス准将は上司のモルガン将軍と共に国境の要衝であるハーケン門に立ち寄られる。モルガン将軍もそうだがカシウス准将も君に会いたがっておられる。この件も含めて近況報告をすると良いだろう。」

 

「すまない。使わせて貰おう。」

 

一輝はその地図を受け取り、早速席を立った。

 

「もう行くのかね?」

 

「父カシウスにもっと詳しく話を聞きたい。それにモルガン将軍とやらも同席するのだからその将軍もこの件に絡んでいるかも知れん。会うなら早い方が良いだろう。」

 

「君とはもう少し語らいたかったが・・・・、それは次の機会だな。」

 

「そうだな。」

 

荷物を纏め聖衣箱を担いだ一輝はクルツに向き合った。

 

「この支部には確かアガットとか言う若い遊撃士がいたな。」

 

「ああ。君に腰砕けにされた後、我々が地獄の特訓を課したがね。」

 

「奴に伝えておいてくれ。『迷いを断ち切れぬ内は力は身に付かん』とな。」

 

「彼が任務から戻ったら伝えておこう。君の名にビビりでもしたらまた訓練所送りだとも言っておく。」

 

一輝はニヤリと笑うとクルツに背を向けた。

 

「ではまた会おう。『方術』使い、クルツ・ナルダン」

 

「何れまた会える事を祈っているよ。イッキ・ブライト君」

 

一輝はそのまま振り返る事無く、ゆっくりと階段を下りて行った。クルツは一輝の足音が聞こえなくなると再び椅子に腰を下ろし、一輝との出会い、会話を思い起こしていた。その顔は穏やかで、晴れやかなものであった。

 

階段を踏みしめる足音にキリカが気付いて目を向けると、そこにはでかい箱を担いだ先程の男がむっつりと押し黙ったまま帰る途中だった。キリカは自分らしからぬと数瞬迷ったが少々興味もあったので声を掛けてみた。

 

「あら、貴方だけ?クルツはどうしたの?」

 

「話が終わったのでな。クルツは上で何か書類仕事でもしているのだろう。」

 

「そう。結構絞られたのではなくて?」

 

「そうでもない。久々に有意義な話が出来た。」

 

「そう。外は雨よ。精々気を付けなさい。」

 

「ああ。」

 

一輝がツァイス支部の扉を押し開いて出て行った後、キリカは不思議な感触に囚われていた。それは今まで感じた事の無い、何とも表現し様の無い感触であった。

 

(イッキ・ブライトね・・・・。)

 

同門のジンやヴァルターとも違う『気』の持ち主。彼女が一輝に感じたのはあまりにも苛烈な気配とそれと相反する「仁」の気配。そして一挙手一投足から滲み出る歴戦の佇まい。恐ろしく、そして頼もしく、そして・・・・

 

(・・・・哀しそうな目をしている。)

 

何か妙な事が起こらなければ良いのだけれど。キリカはそう感じ再び自身の業務に戻って行く。その胸中に消し様の無いほどの胸騒ぎを感じながら。雨はまだ、降り続けている。


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