英雄伝説 空の軌跡異聞録~異界に舞い降りた不死鳥   作:聖剣抜刃

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最近仕事が忙しくなって来て帰りが夜中とかになってしまい、更新が滞りがちになってます。読んで下さっている皆さんに本当に申し訳なく思っております。暇を見つけて更新して行こうと思いますので、どうかよろしくお願い致します。


第9話 「行く末を案ずる者達」

一輝がクルツとの対話を終えたその頃・・・・ハーケン門ではカシウスが一人の男と向き合っていた。その男は長身且つ頑健極まる体躯。年齢は60近くと言う所だが、老いと言うものを感じさせる所か、それを溢れる闘志によって強烈に抑え込んでいる印象だった。

 

「カシウスよ、今回の件・・・・軍の中から人手を割けぬと言う事か?」

 

発した声までもが巌の様な印象を否応無く人に与える。しかしその声に押し負けるでもなく、カシウス・ブライトは冷静に状況を説明した。

 

「現状では未だその様な状態ではありません。百日戦役の傷跡もまだ完全に塞がってはおらず、未だに王国全域で復興の為に手を回さざるを得ない状況が続いております。モルガン将軍」

 

モルガンと呼ばれたその老将軍は不機嫌極まると言った風に荒い溜息を漏らす。カシウスが手渡した報告書の束を片手間に弄びながら不機嫌極まる声音でカシウスに問い掛ける。

 

「現状では既に70%の復興が完了しておると言う事ではないか?これ以上復興の方ばかりに手を回せば我が国の国防面はザル以下になるのだぞ・・・!?」

 

「各方面の要所には精鋭を配置し、情報収集面に於いても現状抜かりはありません。復興完了の目処が付き次第、速やかに再配置を行う手筈も整っております。」

 

個人的に得心が行かぬと言った感じでモルガンは書類をデスクの上に放った。そして厳しさを増した目でカシウスを見遣り再び問い掛ける。

 

「お主、今回の件で遊撃士協会に協力を要請したそうだな。情報部将校からの報告が上がって来ておる。」

 

「依頼、及びその件の報告は私が情報部のリシャール少佐に直接命じました。遊撃士協会のフットワークの軽さと組織全体の連帯感の高さはこの局面に於いて現状良い方向に作用しております。軍との連携も恙無く進んでおりますゆえ、御心配は無用かと。」

 

「フン!あの様なならず者共の手を借りねばならぬとは・・・!!」

 

全く・・・・石頭もここまで来ればいっそ見事か。カシウスは心中で深く嘆息しつつ更に報告を続けた。十数分ほど報告を続けた後でカシウスはモルガンに改めて向き直った。モルガンはまだ何かあるのかと言った風情でカシウスを睨む。

 

「将軍、貴方にお会いして頂きたい者がおります。」

 

「何?会わせたい者だと?」

 

「はい。今回の件で遊撃士協会の協力員としてこの事態に関わっている者です。」

 

「協力員と言う事は・・・・・民間人か。いよいよジリ貧ではないか?よりにもよって民間人の手を借りるとは。」

 

「そうでもありません。現状で奴の腕前はリベール王国でトップクラスと言っても過言ではありません。」

 

「随分とその者の腕を買っている様だが・・・・信頼出来るのか?」

 

「無論であります。奴は私の『息子』でありますから。」

 

「なっ!!」

 

モルガンは驚きのあまり椅子から勢い良く立ち上がった。そしてカシウスを睨み付けその眼前に勢い良く詰め寄った。

 

「貴様・・・!!何を考えておる!!遊撃士共や民間人の手を借りたかと思えばよりによって息子だと!?貴様、自分の家族を国家の大事に巻き込むとは何事か!!」

 

しかしカシウスはその激発を予想していたかのように落ち着き払って答えた。その目は不敵なまでの自身と確証に満ちており、モルガンもその落ち着き様に逆に恐れを抱くほどであった。

 

「先ほど申し上げた通り、奴の腕前はリベールでも、いや・・・・この世界全てでもトップクラスと言えましょう。」

 

「トップクラスであろうと何であろうと許可出来ん!!・・・親衛隊より隊員を数名回す様に要請しろ。戦闘経験も無い民間人に何が出来ると言うか!!」

 

「お言葉ですが将軍・・・・。その親衛隊も奴の前では赤子に等しいとなれば・・・どうなさいますか?」

 

「・・・・・・何?」

 

モルガンは今度こそ言葉を失った。リベール王国軍に於いて親衛隊は文字通り最後の砦。女王陛下及び王太女殿下を守護し、有事の際には状況に応じ特殊作戦群としても機能するリベール王国軍の心臓部とも言える部隊だ。練度・装備・実力共に超一流。それを赤子扱い出来る者等、目の前にいるこのカシウス・・・・後思い当たると言えばこの国、ひいては世界の信仰の総本山と呼ばれるアルテリア法国の内部に秘して存在すると言われる「星杯騎士団」に属する「守護騎士」位のものだ。

 

それを・・・・赤子扱い出来る者がいると言うのか?モルガンは静かに語るカシウスの声音や口調よりも、その言葉自体に戦慄した。信じられぬ。仮にその場で見ても信じられるかどうか。しかし、カシウスから感じるこの揺ぎ無きものは何なのだ・・・・?

 

カシウスはモルガンの内心の戦慄を他所に事務的に語り続ける。

 

「あと3週間ほどで奴がこのハーケン門を尋ねて来る事になっております。その際に詳しい状況、今後の方針を私とリシャールから奴に伝えます。そして将軍、貴方にも私の息子の『実力』を見て頂きたく思いますが・・・・?」

 

「貴様の息子の実力だと?」

 

「はい。まだ息子には伝えてはおりませんが、奴と私とで模擬戦を行おうと思います。」

 

「リシャールやシードではなく・・・・貴様が直接やると言うのか?」

 

「はい。無論リシャールやシードも同席させ、この一戦で成すべき事を学び取らせます。」

 

カシウスは薄く笑いながら「リシャールやシード、周りの兵が肝を潰さぬ様配慮は致しますが」と言葉を繋いだ。と言う事は既に各方面に根回しも準備を殆ど完了していると言う事だ。しかも命令違反や独断専行とならぬ様に書類を作り関係各所に許可や決済も取った上で最古参であるモルガンに時間を割かせ許可を求めて来た・・・・。しかも僅かな情報の漏れ、状況の綻びをも防ぐ為に知り得る者全てに口を噤ませた。モルガンは今更ながらに目の前に立つこの男が敵で無く味方である事を女神エイドスに感謝していた。

 

「・・・・味方ながら、性質の悪い男よの・・・。カシウス。」

 

「お話が遅れに遅れた事、私の無礼な発言、この場でお詫び致します。沙汰があれば甘んじて受ける所存で御座います。しかし、奴の力が限定的にでも入ればリベールを覆うこの状況を覆す為の手立てを構築する事が出来ます。」

 

モルガンは渋面のまま遂に折れた。

 

「・・・・良かろう・・・・。貴様の言葉、その手並みを見せて貰おう。今回の事について特に沙汰等ありはせん。必要な事があれば私に声を掛けるが良い。」

 

「将軍・・・・・御英断に感謝致します。このカシウス、一命を以って此度の件をやり遂げたいと存じます。」

 

そしてカシウスは残りの準備を完了させる為に丁重にモルガンの前を辞した。残されたモルガンの中には二つの感情が交じり合って存在していた。一つは部下でありある意味愛弟子でもある男が此処まで大きい事を成し得た事に感嘆し、もう一つは国家の大事とは言え一つ間違えば味方全体を欺きかねないほど危険な行為を行った事に対する怒り。それはさながら紅茶に落としたミルクの様にぐるぐると回り続け、遂には別の色に変わってしまった。

 

「全く・・・!!腹立たしいわ・・・!」

 

軽く机を叩き、窓の外に視線を移すと其処には夜間訓練を行う末端の兵達の姿があった。彼らは未だこの状況を知らず一心に訓練に打ち込んでいる。彼らの思いは只一つ。「リベールと、己が護るべき者達の為に」カシウスが打った手はこの兵達の命をも護る為。それを遅蒔きながらモルガンは感じ取っていた。

 

(やり遂げてみせい・・・カシウスよ。)

 

地上の熱気とは裏腹に夜の空は冷たく、空には欠けた月が煌々とこの国境の要衝を照らし続ける。既に冷め切った紅茶を口に運び、モルガンはゆっくりと椅子にその巨躯を沈め、暫しまどろんだ。




今回は会話を主として書いてみました。個人的には構想の段階で一輝とカシウスを闘わせてみたくて仕方ありませんでしたw とりあえず軍の広場で鳳翼天翔と鳳凰烈破の激突を早く書きたいですね。
多分広場ごと吹っ飛びそうな気もしますが・・・・w

それでは、今後ともよろしくお願い致します。

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