英雄伝説 空の軌跡異聞録~異界に舞い降りた不死鳥   作:聖剣抜刃

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第3話A 「青年の正体」

床に着いてから数時間、何故か外に気配を感じて青年は目を覚ました。魔獣の気配も何も無く、あるのは只の人の気配のみだった。夜風で体を覚ますのも悪くない。そう感じた青年は扉を開き、外へ出た。涼しい夜風が心地良かった。今までこの様な夜を過ごした事は一度として無かった。異常に厳しい修行・・・・灼熱の気候に支配された劣悪極まる環境・・・・そして、唯一愛し護ろうとした女性の死、憎しみに彩られ力に支配された弱き自身の姿・・・・。

 

空には綺麗な満月が浮かんでいた。そこから青年は更に思いを馳せる。

血を分けた熱き血潮の兄弟、そして友、そして気高き心で進む道を示してくれた戦神。彼らのお陰で俺はここまで闘い抜いて来られた。そして未だ傍らに在り続けてくれる奇跡の鎧・・・・。これら全てが俺を救ってくれた・・・・。

 

友よ・・・・弟よ・・・・そしてアテナ・・・・・。どうか無事でいて欲しい。もう二度と血生臭い戦いに身を投じずに幸せに生きて行って欲しい・・・・。

そうして思いを馳せる青年にふと声が掛かった。

 

「おう、起きてたか・・・・。」

 

そこには自身を助けてくれたあの男がリラックスしてこちらを見ていた。

 

「・・・あんたか。」

 

「今日は良い月が出てる。どうだ?一杯付き合わんか?」

 

そこにはどうやら上物らしい洋酒のボトルが置かれ、グラスも二つ添えてある。青年はふと、(俺はまだ16なのだが・・・・)とも考えたがここで断るのは野暮と言うものだろう。

 

「ああ・・・頂こう」

 

そうして男の向かいに腰を下ろした。

酒を酌み交わして数分・・・・、唐突にカシウスが口を開いた。それは先程までのリラックスしたものとは打って変わり真剣なものだった。

 

「お前さん・・・・。一体何者なんだ?」

 

「・・・・・・」

 

「名も知らぬし、それに引っ掛かってる事が多過ぎる。」

 

「名乗らなかった事は・・・・済まない。」

 

「責めちゃおらんよ。しかし・・・それにしても分からない事だらけだ。」

 

「・・・・・・・」

 

「話してくれないか?お前さんの事を。いや勿論言いたくない事まで聞くつもりは無い。」

 

「分かった・・・・。何時までも話さないのは助けてくれたあんた達に対して失礼だ。話させてもらう。」

 

「そうか・・・・。」

 

「まず名前は・・・城戸・・・一輝。俺がこの世界の事を知らないのは・・・俺が、別の世界から来たからだ。その事は前に話したと思う。」

 

一輝は唐突に城戸姓を名乗っていた。

 

「ああ、俺が知りたいのは君自身の事だ。」

 

「そうか・・・。」

 

そして一輝は全てを打ち明けた。自分が女神アテナの聖闘士(セイント)である事。聖闘士とは肉体と魂に眠る力『小宇宙(コスモ)』を爆発させ戦う闘士。女神アテナとは地上の愛と正義を護る女神であり、侵略などは決して行わずその戦いは地上の全てを護る為の戦いである事。

 

聖闘士とはその女神と同じく地上の人々や生きとし生ける全てを護る為に在る88人の正義の闘士である事。一輝は自身が鳳凰星座の聖闘士として聖域では格上の白銀聖闘士、至高の存在とされる黄金聖闘士と戦い、海界を支配する海王ポセイドンの軍勢・海闘士(マリーナ)極北の地アスガルドを束ねる神闘士(ゴッドウォーリアー)との熾烈な戦い、そして冥界を統べる神ハーデスと108人の冥闘士(スペクター)との聖戦を経験した事。

 

そして女神アテナとハーデスの最終決戦がアテナの勝利で終結した矢先、次元の歪みらしき大きな波動に巻き込まれた。逆らう事も侭ならず凄まじい圧力に気を失い、気が付いたらあの道で行き倒れていた。

 

「・・・・・何と。」

 

カシウスは一輝のあまりの話のスケールに言葉を失っていた。一輝は一息付き「そして」と一言付け加えて話し始めた。

 

「カシウス・ブライト・・・。あんたが回収してくれたあの箱、あれを「聖衣箱(クロスボックス)又の名を『パンドラボックス』と言う。」

 

「聖衣箱・・・?パンドラボックスだと?」

 

「あの中には俺が纏っていた女神より授かりし鎧、聖衣(クロス)が入っている。聖衣は認められた者しか装着する事は出来ない。そしてあの鳳凰(フェニックス)の聖衣は嘗て俺を除く誰一人として纏う事が出来なかった聖衣だ。」

 

「だから・・・・俺が触れた途端弾かれたのか・・・?」

 

ああ・・・・一輝は苦笑しつつ続けた。

 

「あの聖衣はこれ以上無いほどに気難しい。俺も認められるまでに散々地獄を見た。」

 

そして・・・・。一輝は自身の拳を見遣りつつ言葉を続ける。

 

「『聖闘士の闘法は小宇宙(コスモ)を爆発させ原始を砕く事がその奥義』『聖闘士の拳は空を引き裂き、その蹴りは大地を割る』と言われる。最下級の青銅聖闘士で音速前後、格上の白銀聖闘士で音速、12人しかいない黄金聖闘士は光速・・・・つまり光の速度で拳を放つ。」

 

「な・・・!!」

 

カシウスは危うくグラスを取り落とす所だった。原始を砕き、音速に到達するだけでも並の人間では絶対不可能な領域だと言うのに、更に光速に到達する者達がいる世界とは・・・・!!

 

「その中で一輝・・・・お前さんは戦っていたのか。」

 

「ああ・・・。・・・城戸光政と言う男の血筋に生まれ付いたのが運の尽きと言う奴だ。俺を入れて100人が聖闘士となる為にあちこちに送り込まれ、放り出された。しかし戻って来たのは俺を含めて僅か10人だった。その頃の俺は憎しみに凝り固まり、身勝手な怒りをぶつける為だけに兄弟や友にまで拳を向けた。」

 

「・・・・・・。」

 

「俺の修行地はデスクイーン島と言う小さな島だったが・・・其処で師匠に毎日叩きのめされた。聖衣どころか聖闘士の資格も得られずにいた頃、俺を救ってくれたのは一人の美しい女性、エスメラルダだった。しかしその女性(ひと)も、ある日俺が師匠の拳を避け損なったせいで致命傷を負い、永遠に失ってしまった・・・。」

 

カシウスは一輝の悲しみに満ちた表情を見遣り、何とか言葉を紡ぎ出した。

 

「そ・・・その・・・キド何とかと言う奴は今・・・」

 

「とうにあの世に行ったさ。しかし俺は全く怨んじゃいない。思えば散々地獄を見て来たが、あいつらや弟、エスメラルダ、そしてアテナが俺を導いてくれた。この世界に辿り着いたのも、まだ出来る事があるかも知れない。」

 

まあ・・・・これが俺の話せる全部って所だ・・・・。一輝はそう呟くと済まなそうに目を伏せた。

カシウスは何か感じ入っている様にこちらも顔を伏せている。まあ・・・信じられはしないだろうと一輝は思った。傍から聞いていれば完全に頭のネジが飛んでいる奴の言葉としか聞こえない筈だからな。

 

しかしカシウスは突如立ち上がり、一輝を抱きしめた。

 

「カ、カシウス・・!?」

 

「よくぞ話してくれた・・・!!」

 

驚いた事に、カシウスの声は涙で濡れていた。

 

「その若さで、その身一つでよくぞ、此処まで戦った・・・!!痛みもあったろう、死ぬ思いも散々して来たろう、仲間がいたとは言え、自ら血を流し人の為に戦っていたとは・・・!!」

 

「な、何も・・・泣く事は・・・」

 

「親の愛も情も受けず、愛する者さえ失っても尚、世の為に戦って来た!まだ成人にも至らぬその歳で・・・!!」

 

「し・・・信じてくれるのか?昨日今日会ったばかりの俺の言葉を・・・。」

 

「信じるとも!!信じない訳があるか!!お前の眼は、お前の気は澄み切っている。只一つの曇りも無い。噓をつく様な奴はそんな目は絶対に出来ん。俺は一応お前さんよりは長く生きてる。それ相応に人や組織、世の表や裏、汚い事も綺麗な事も嫌と言うほど見て来た。お前の話は俺が信じる!!俺が保証する!!誰にも文句は言わせん!!」

 

「カシウス・・・・。」

 

一輝は自身の目が潤むのを感じた。聖闘士として生きて来てこの方、ヒーロー気取りで人助けの真似こそして来たが、人の助け等請うた事は無かった。人どころか、神の助けですら拒んで来た一匹狼気取りのこの俺の言葉を信じてくれるとは・・・・!

 

「ありがとう・・・!」

 

一輝はカシウスの手を握り締めた。その目には枯れた筈の涙が流れていた。一輝は改めて誓った。この先この世界で何が起こるかは分からない。しかし、このカシウスと言う男の為に、この家族の為に俺の様なはぐれ者でも出来る事がある筈だ。その時はこの一輝、彼らの為に命を賭けよう!!もし危機が迫れば全ての力と技を以って彼らを護ってみせる!!

 

互いを理解し合った男達はその後も和やかに酒を酌み交わした。空の月は銀色の光を優しく二人に投げかける。それは一輝の心を優しく包むような光であった。




え~、一輝の性格がどんどん丸くなって行っておりますw しかし本来は男気溢れる優しい性格だと私は勝手に思っております。チート親父カシウスならば一輝の苦しみを受け止められるだけの度量は持っているはず・・・と勝手に解釈しながら書いております。

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