英雄伝説 空の軌跡異聞録~異界に舞い降りた不死鳥   作:聖剣抜刃

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第3話B 「旅立ち」

カシウスと語り合い、信を深めた一輝達は翌日、爽快な目覚めを迎えた。あの後カシウスの提案で、カシウスの妻レナ、その娘エステルにも同様の話をすると言う事になった。朝食の後、軽い世間話の後で一輝はまずレナとエステルに自身の名前を明かし、名乗らなかった非礼を詫びた。

 

そして、夕べカシウスに話した事を一語一句間違い無く正確に話した。レナもカシウスと同様最初は驚愕し、最後はカシウスと同様一輝の境遇に涙し、良くぞ話してくれたと一輝の手を優しく握り締めた。エステルも話になかなか付いて行けない様ではあったが一輝の今までの人生が凄まじいものである事は理解してくれた。そして一輝は部屋に置いてあった自身の聖衣箱を持ち出し、庭に置いた。その様子を見たカシウスが一輝に尋ねた。

 

「一輝・・・。何を始めるんだ?」

 

「これから俺の『聖衣』を見て貰いたい。」

 

「『聖衣』・・・・」

 

「レナさん、エステル、少し下がっていてくれ。」

 

「ええ・・・。ほら、エステル」

 

「うん・・・・お父さん、何か出て来るの?」

 

「ああ、しかし怖いもんじゃない。一輝の全てがこれで分かる。一輝、始めてくれ。』

 

「ああ、出でよ我が『聖衣』!フェニックスの聖衣よ!!」

 

そして一輝が重々しい取っ手を引いた時、眩い光と共に聖衣箱がゆっくりと開いた。そしてその光が収まった時に全員が見たのは、傷一つ無く炎の如く眩く輝く鳳凰の姿だった。カシウスもレナも、エステルも言葉を失い見入っている。

 

「これが聖闘士の証。地上の愛と平和の為に用いられる聖なる防具、『聖衣』だ。」

 

エステルがその神々しい姿を見て歓声を上げた。

 

「うわーー!スゴイ!!一輝兄!すっごい綺麗だねーーー!!」

 

「兄」と呼ばれた一輝は少々くすぐったそうにしながらも嬉しそうな顔を見せた。

 

「一輝さん、あなた・・・これを纏って戦うの?でもどうやって?」

 

まさか聖衣が変形して纏う物とは知らないレナが問い掛け、カシウスも不思議そうに見ている。

 

「今からそれを見せる。『来い!フェニックス!我が身に集い、盾となれ!!』」

 

すると鳳凰の形から一輝に分解し、一輝の体に聖なる鎧が次々と装着されて行く。最後にヘッドパーツを装着した時点で一輝の周りに強大な小宇宙が巻き起こった。一輝がゆっくりと眼を開く。其処には嘗て幾度の激闘を戦い抜き、神をも恐れず立ち向かった伝説の戦士が立っていた。青銅聖闘士の中でも『最強』と謳われ、その苛烈且つ超攻撃的な小宇宙と力で幾多の敵を粉砕し、生還不可能と言われる地獄からも必ず舞い戻る「不死鳥」の姿があった。

 

「変形して・・・・装着されたのか?」

 

「ああ。そしてこの聖衣は神の血によって甦った最強最後の聖衣。並みの攻撃では傷一つ付かない。」

 

「じゃあ一輝兄!これで魔獣もへっちゃらなの?」

 

「当然だ。魔獣如きでは掠り傷も付けられん。」

 

「一輝さん・・・なぜ私達にこれを見せたの?」

 

流石に少々不安に感じたのだろう。レナが心配そうに問い掛ける。一輝は全員に向き直り、聖衣のヘッドパーツを外しゆっくりと語りかける。

 

「おそらく俺は女神アテナの導きでこの世界に来たのだろう。しかし、次元を超え、迷い行き倒れていた俺を助けてくれて、しかもこの世界の事を何一つ知らぬ俺の事を貴方達は信じてくれた。俺のようなはぐれ者に暖かい手を差し伸べてくれた。しかし俺には今何も無い。だから俺も全てを明かして貴方達へのせめてもの礼としたかった。」

 

その言葉に何かを感じたか、レナが顔を曇らせ、カシウスが一輝に語り掛ける。

 

「・・・・行くのか?一輝よ。」

 

「ああ。もう体も十分に癒えた。少しの間世界を回り、この世界の事を知って行こうと思う。そして・・・」

 

言葉を区切り、空を見上げ、再度皆に向き合う。その眼差しは暖かいものであった

「俺のこの力で、今危機に瀕している人を少しでも助けたい。嘗て女神アテナが、俺の弟が、友が、仲間がそうしたように。」

 

その言葉に一番反応したのはエステルだった。急に一輝の足に縋り付き、嫌だと頭を振る。その目には寂しさから涙が溢れていた。

 

「嫌だよ一輝兄!一輝兄とはまだ全然お話してないのに、急にいなくなるなんて嫌だ!!」

 

「エステル・・・。お前にも本当に世話になった。そう泣くもんじゃない。いつかきっと会える。」

 

エステルの頭を優しく撫でながら一輝は暖かい眼差しで諭すように言って聞かせる。レナは優しくも残念そうな面持ちでエステルの肩を抱き、一輝に向き直り語り掛ける。

 

「一輝さん・・・。貴方がカシウスを助け魔獣を退治してくれなければ今頃どうなっていたか・・・。でも言ってしまうのは本当に寂しいわ。私達まだ色々とお話したい事があるのに・・・。」

 

「レナさん・・・。本当に世話になった。親の顔も知らぬ俺にとって貴方の存在は俺の心に暖かい光を灯してくれた。本当に感謝する。」

 

レナに向き合い真摯且つ優しい眼差しで一輝は感謝の気持ちを述べた。そして、カシウスに向き合うと、カシウスも少し寂しそうに笑った。

 

「お前さんが来てからまだ一月も経ってないのか・・・。月並み過ぎるが、本当に、息子が出来たようだったよ・・・・。もう行っちまうなんて、俺も寂しいよ。寂しくてたまらん。」

 

「カシウス・・・貴方には本当に救われた。貴方を見ていると、向こうの世界で俺に力を貸してくれた黄金聖闘士を思い出す。勇敢で、聡明で、しかも暖かく大きな心・・・・本当に貴方とよく似ている。」

 

「そうか・・・。俺は其処まで強くは無いが、そう行って貰えると嬉しいよ。何か迷いが生じた時は、迷わず此処に戻って来い!俺たちはもう他人じゃあない。『家族』なんだからな!」

 

「・・・・!ああ・・・!!ありがとう!」

 

そうだ、とカシウスはポケットの中から何かを取り出した。それはパスポートの様な手帳と何やら宝石の欠片の様な石が幾つも入った丈夫な皮の袋だった。

 

「お前さんの事だ。関所もまだ知らんだろう。こいつを使えば直ぐに通れる。そしてこれはこの世界にある石で『セピス』と言う。これを換金すれば暫くは凌いで行ける。手帳の中身を見てみろ。」

 

言われるがまま手帳を開けて見ると自身の名前が記載されてあった。何時記載されたのか其処には最初名乗った「キド・イッキ」ではなく、「イッキ・ブライト」と記載されてあった。一輝は驚いて皆の顔を見る。

 

「『家族』とさっき言ったぞ?俺たちは何時でもお前を待っている。そしてどんな時もお前を想っている。仲間も、信じる神も、生まれた場所も少し違うが、俺たちは何処でも繋がっている『家族』だ!それを忘れないでくれ!」

 

カシウスも、エステルも、レナも笑顔で一輝を見つめている。一輝はその思いを深く胸に刻み込んだ。そして万感の思いを以って彼らに伝える。

 

「・・・・ありがとう!父さん、母さん、妹よ!」

 

そして一輝も自身の聖衣から鳳凰の羽を3つ外して彼らに渡した

「これには俺と、女神アテナの『小宇宙(コスモ)』が満ちている。もし何か危険が迫った時はその羽に念じてくれ!俺は何処からでもきっと駆けつける!!」

 

「うむ。しかと受け取った。」

 

「ありがとう。一輝」

 

「必ず帰って来てね!一輝兄!!」

 

そして一輝は聖衣を元の聖衣箱に収納し、ゆっくりとそれを担いだ。

 

「では・・・・行って来る。」

 

「行って来い、息子よ!」

 

「一輝、貴方に女神エイドスの導きがありますように。気をつけて行ってらっしゃい。」

 

「一輝兄!私も一輝兄みたいに強くなるから!必ず帰って来てね!!約束だよ!!」

 

一輝は力強く頷き、力強く一歩を踏み出した。そして背を向けてゆっくりと歩み始めた。カシウスも、レナも、エステルも姿が見えなくなるまで見送っていた。一輝もまた振り返りたい衝動が体を突き上げていたが振り返る事はしなかった。その眼には大粒の涙が光っては落ちた。しかし、これは永遠の別れではない。必ずまた会える。

 

(その日まで、さらばだ。我が家族!)

 

一輝は力強く駆け出した。そしてこの日から、大いなる運命が動き出す。

 

 

・・・・一輝が去って数刻の後、近隣の森の中で二つの影が在った。それは木々の間から姿を現すとブライト家のある方向へと眼を向ける。一つは大柄だが均整が取れ鍛え上げられた体つきの銀髪の剣士。もう一つは先の男と比べると非常に小柄だがこちらも鍛えられた体つきだ。こちらは黒髪の少年。銀髪の剣士が重い口を開く。

 

「・・・・見たか?」

 

黒髪の少年が小さく頷く。同時に両手の双剣の柄を握り締める。

 

「あんな大きな『気』を持つ相手、今まで見た事が無いよ・・・。『教授』の言ってた事は確かだったみたいだね。」

 

「しかしあの男、今はまだ力を出せる段階ではない様だ。俺が様子を見てみる。お前はどうする?『仕事』の前だ。無理をする事はあるまい。」

 

銀髪の剣士から話を向けられると、黒髪の少年は暫し考える仕草を見せる。そして言葉を紡ぐ。

 

「いや・・・・まずは僕が様子を探ってみよう。隠れんぼは僕の方が得意だ。」

 

銀髪の剣士は少年を見遣ると呆れとも笑いとも付かぬ溜息を漏らした。そしてそのまま背を向ける

「良かろう。お前の好きにやってみると良い。但し遊び過ぎて大怪我をするなよ?お前にはこれから大仕事があるんだからな・・・。ヨシュア。」

 

「・・・・分かってる、仮に遊んでも怪我はしないさ。レーヴェ。」

 

レーヴェと呼ばれた剣士はそのまま森の奥に向かって歩み、そしてそのまま霧の様に姿を消した。その様子を見ていたヨシュアと呼ばれた少年は完全に気配が消え去った事を確認すると暗い笑みを漏らした。何時抜かれたのか、双剣がその手に握られている。しかし握る手はこれから相見える事態に興奮し、打ち震えている。

 

「僕が興奮するなんて・・・・。本当に凄い人なんだろうね。あの『イッキ』って人は。」

 

そして少年は少しの音も立てず一輝の進んで方向へ向けて駆け出した。後に彼は知る事になる。その読みが外れ、自身の力の限界を知る事に。そして一輝と後に大きな関わりを持つ事に。


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