英雄伝説 空の軌跡異聞録~異界に舞い降りた不死鳥   作:聖剣抜刃

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第4話 「旅路~紅蓮の塔」

ブライト家を離れて4ヶ月、一輝は時折居所を変えつつクリューネ門、セントハイム門と言う二つの関所を通過し、「紅蓮の塔」と呼ばれる場所を目指していた。既に傷は癒えてはいたが鍛練を怠っていた為一輝は自身を鍛え直す事を最優先とした。ロレントの町で小耳に挟んだ事によれば、「紅蓮の塔」を含めた4つの塔がこのリベールには存在し、どの塔にも相当数の魔獣が出没しているとの事だった。

 

魔獣がどの程度の強さなのかは分からないが、仮に父カシウスと共同で撃退した位の強さの魔獣が徘徊しているならば鍛錬とは行かずとも身体の調子を付けるには丁度良い筈。一輝はそう踏んでいた。生身の人間ならば絶対に近寄らぬ場所だが生憎こちらは神々との激闘を制して来た聖闘士・・・・。人々を、生まれて初めて得た『家族』を護ると誓った身。遅れを取る筈が無かった。そして数時間ほど彷徨った所で一輝の眼前に赤と赤茶、古びた橙色の塔が現れた。

 

「これが『紅蓮の塔』か・・・・。」

 

周囲に気を巡らし軽く様子を探る。成る程、それ相応に数はいる。後はどの程度のレベルなのか。

 

「今は『聖衣』に頼る時ではないな。俺の小宇宙が何処まで燃やせるか、何処まで体が動くか、試して見るとするか・・・。」

 

一輝は一人呟くと素早く目の前の魔獣の狙いを定めた。魔獣も一気に気付き即座に牙を剝いて威嚇行動を取る。その魔獣はどうやら大型の鳥類の様であり、明るいオレンジ色の体毛を見て一輝は心中で苦笑した。

 

(フッ・・・我が守護星座の物真似にもならんな)

 

大型の鳥類「フレイムベルグ」と呼ばれるその魔獣はかなりのスピードで一輝に肉薄して来た。鋭い爪と嘴、確かに只の旅人位ならば容易に引き裂く事が出来よう。しかし一輝は「普通の旅人」等ではなかった。幾度と無く繰り出されるこの攻撃を全てかわし切り、動きを完全に見切った。

 

「フンッ!!」

 

体を右に逸らし、一瞬の隙を作り其処に裏拳を放った。「フレイムベルグ」は耳障りな声と共に赤黒い血液を口から撒き散らして大きく後退した。しかし直ぐに体勢を立て直すとその眼は殺気にギラつき、先ほどの数倍のスピードで襲い掛かって来た。

 

「シッ!!」

 

鍵爪を薄皮一枚の距離で交わし手刀を胴体に打ち込んだ。「フレイムベルグ」は悲鳴を上げる事も無く両断され、地に這った。その後で死体が軽く爆発し、赤黒い煙が立ち上る。それが消え去った後にはそこそこの量のセピスが死体の周りに散らばった。一輝が自身の両手を体の具合を見遣り、やはりあと数ヶ月は鍛え直さねばなるまい・・・・と考えた。この程度の敵、2手も打ち込む等以前では考えられなかった。やはり相当に衰えている・・・。体も小宇宙も。

 

「・・・・・・」

 

そして少々嫌そうに死体の周りのセピスを回収し、毛を毟り鶏肉・・・らしき物を回収した。

 

「どうやら野宿でもやっては行けそうだが・・・・。」

 

魔獣と戦い勝つまでは良いが、その後こうやってセピスやらを回収する姿を誰かに見られたくは無いものだ・・・・・

 

回収する物を全て回収し、再び塔の入り口を見上げる。何時の時代かは分からないが相当な年代物だと言う事はこの時代の歴史を知らぬ一輝にも理解出来た。塔全体から魔獣の気配が流れ出て来る。確かにこの分では一般人は近づけまい。多少大きな『気』も混じっている。大型の魔獣がいるのだろうか。

 

「まあ・・・上に行けば分かる事か。」

 

一輝は迷う事無く入り口に身を滑り込ませた。中も表と似た様な色が広がっていて若干目が痛くなりそうだ。魔獣も数こそ多いがどれも脅威ではない。一輝は適当に魔獣を蹴散らしつつ体の動きを一つ一つ見直して行った。一つ倒せば次、一つ倒せば次、といった具合に良い感じに魔獣が沸いて出て来る。まさか漫画の様に何処からとも無くと言う事はあるまいが。

 

数刻ほど体を動かすと少しづつ体に力が戻って来る感じがして来た。成る程、この分ならば数ヶ月程度みっちりやればある程度は戻るかも知れん。一輝がそう感じた時、何処からか短剣が数本正確に打ち込まれた。

 

「っ!!」

 

瞬時にそれを避ける。その短剣からは何も知らぬ者であれば皮膚に痛みを覚えるほどの殺気が感じられた。しかし姿は見えない。『殺気』の大元もまだ見えない。一輝が身を隠し考える。

 

(「陰行」か?何処から襲って来る?今の俺は完全ではない・・・体に問題は無いが・・・・さて、どう出て来る!?)

 

瞬時に『気』を研ぎ澄ました一輝は柱の影から身を躍らせた。瞬間、黒い刃物の様な物が一輝の足元に突き刺さる。暗殺用の短剣・・・それほど明るくは無い塔の中で正確に打ち込める技術、これだけで一流の手練れと一輝は理解した。その間に2発、3発と打ち込んで来る。しかし一輝はその短剣を指拳で破砕した。だが次は短剣に混じって炎の玉が襲い掛かって来る。

 

「何っ!!」

 

その全てを撃ち落しつつ一輝が隙を窺った。相手はどうやら相当の訓練を積んでいる。一般の軍人なら即座に殺られただろう。しかし!!

 

「・・・・!!」

 

一輝の体から炎のオーラが揺らめく様に立ち上って来る。全身に意識を集中し魂から「それ」を呼び起こす。聖闘士としての基本にして最大の武器。そして全てを護り邪悪なる者を屠る為に備わった人としての究極の強さ。命を盾とし、拳に勇気を宿すその力は・・・・・「小宇宙(コスモ)」!!

それはやがてオーラとして燃え立ち、膨れ上がり形を成して行く。一輝の小宇宙が緋色に輝きそして爆炎を纏いし『不死鳥』の形を成した!!

 

「何者かは知らんが、この一輝を敵に回して無事で済むとは思わぬ事だ!!」

 

そう叫ぶと一輝の小宇宙に反応したのか相手の『気』に乱れが生じた。その方向に向き直り構える。既に敵の位置は把握している。陰行・・・気を消し完全に姿を消しターゲットの死角から完璧な攻撃を仕掛け、仕留める。しかし『気』を乱した以上既に位置を晒したも同じ事。そうなれば生半可な攻撃は聖闘士には一切通用しない!!

 

「フンッ!!」

 

手始めに奴が放ったのと同じ炎のオーラを数発打ち出す。しかし威力は桁違いだ。直撃させれば不完全にしか小宇宙を燃やせない今の状態でも奴を打ち倒すには充分だった。

 

「ちっ・・・!!」

 

しかし暗殺者は何とか直撃は避けた。反応速度も超一流。しかし、爆風で少なからずダメージを負っている様だ。一輝の拳圧は更に速さと衝撃力を増し奴を激しく責め苛む。只の衝撃波ではない。一輝は仲間と共に神々との激戦を戦い抜き、黄金聖闘士と同等の光速拳を身に着けていた。

 

暗殺者は最初の内は何とか苦し紛れの反撃を行っていたが光速拳の前にそれも侭なら無くなり、最後は防御一辺倒となっていた。しかし奴が纏っているのは「只の」防御装備。聖衣どころか鋼鉄の鎧ですらない。その様な装備では一輝の拳圧を防ぐ等、到底不可能だ。

やがてその光速拳の一つが奴を捕らえた。

 

「ガハッ!!!」

 

苦悶の声が消え去らぬ内に十数発が一気に暗殺者の体に突き刺さる。やがて暗殺者は力無く倒れ、階段から転げ落ちた。

 

「・・・・・・・」

 

一輝は素早く小宇宙と殺気を収め暗殺者の下に歩み寄る。既に体はボロボロ、持っていた双剣も完全に打ち砕かれている。急所は外してあるが既に逃げるだけの力も完全に失っていた。

 

「・・・うぐっ・・・!貴様・・・っ!!」

 

憎まれ口を叩こうとする暗殺者の前に一輝が仁王立ちしていた。その瞳は冷ややか且つ苛烈で、眼を逸らそうとしても逸らせない圧倒的な迫力。手も足も頭さえも動かせない。今の今まで敗北どころかレーヴェ以外に直撃を貰った事など無かった。それが此処まで完膚なきまで叩きのめされようとは・・・・。

 

「一応急所は外してやったぞ、小僧。」

 

「・・・・・・・・」

 

「俺をずっと付け狙っていたな?ミストヴァルトとか言う森から。」

 

「気付いていたか・・・。」

 

「随分と嘗められたものだ。貴様と合わせて二人。俺の行く先を上手くトレースした積もりだろうが逆に自分達がマークされている事にまるで気が付いていなかったな。」

 

さて・・・・、と一輝が言葉を継ごうとした時点で暗殺者が動き、距離を取った。

 

「・・・・・。」

 

手足は一応壊したつもりだったが・・・・。一輝は観察した。手応えは確かなもので、確実に骨は折れ、腱も切った筈だったが、打ち込みがまだまだ甘かったと言う事か。しかし一輝は警戒を一切緩める事無く暗殺者に言葉を投げた。

 

「回復の魔法を使ったか。小癪な真似をする・・・・。」

 

「・・・今のままでは僕は貴方に勝てない。しかし、これ以上関わっている暇も無い。」

 

「フン。どれほど鍛練しようと貴様が俺に敵うとでも思うか。それよりも・・・・」

 

一輝が問い詰めようとしたほんの一瞬の隙を突き、暗殺者は煙幕段を叩き付けた。瞬時に猛烈な煙幕が形成され、一輝が視界を奪われる。しかも煙幕だけではなく、僅かな間一輝の体を痺れさせる毒物まで仕込まれていた。一輝の手足が数秒硬直する。視界も臭いも消えた。そして煙幕が晴れた時には、暗殺者の姿形、気配も丸ごと消え去っていた

「・・・・逃げたか。しかしあの状態ならば直ぐには動けまい。」

 

何せ手足もあれだけ壊したのだ。回復魔法を使ってはいたが回復が追い付かないのか反撃に転じる事も出来なかった。兎も角も一気には収穫があった。相手は青銅聖闘士にも劣るがそれでも軍人よりは遥かに強く、動きも超一流だった。この一戦で一輝は大部分の勘を取り戻す事が出来、数ヶ月と見込んでいた鍛練の期間を大幅に短縮する事が出来た。その意味では暗殺者に対し、感謝にも似た感情を向けていた。

 

「もしあれでこちらの味方になるのならば鍛えれば結構なモノになりそうな気もする・・・。」

 

言葉を吐いた瞬間一輝は何を言っているんだと言う風に嘆息する。家族を得て舞い上がっているのか、それとも俺が甘過ぎるだけなのだろうか・・・。しかしその下らない独り言が意外な事態を招く事に一輝はまだ、気付いていなかった。




回復しかけの戦闘状況を思い描くのはなかなか難しいですね・・・。毎度の拙い文章ですが、ご意見・ご感想、お待ちしております。

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