英雄伝説 空の軌跡異聞録~異界に舞い降りた不死鳥   作:聖剣抜刃

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第6話 「ツァイス到着」

紅蓮の塔に入って半年。一輝は自身の体と小宇宙の回復具合を確認していた。あれから欠かさず鍛練を行い、普段の数倍の量をこなした結果、全盛期とまでは行かなくとも、8割方復調していた。これならば小宇宙を常時燃焼する事も可能で、2つの奥義「鳳凰幻魔拳」「鳳翼天翔」を局面によって使う事も可能となった。

 

漸く眼に見える成果を得られた事で一輝の精神面にも多少の余裕が出て来ていた。そこで今まで手を付けていなかった身の回りの整理を行う事にした。とは言っても殆ど荷物等持ってはいなかったので差し当たって溜まりに溜まったセピスを換金する為に町に向かう事とした。

 

聖衣箱を担いで移動するのは傍目にも奇異に移った様だが一輝は別段気にするでもなく街にゆっくりと移動を開始した。その途上で魔獣に幾度か襲われたが凶暴且つ強力な力を持つ魔獣以外は一輝が一睨みするだけでこそこそと引っ込んでしまう。惰弱な・・・・と一輝は思うがこれも獣の本能。仕方があるまい。

 

やがて数時間もする頃には手帳にあった地図の通り「ツァイス市」が眼前に見えて来た。ここでセピスを換金し必要な物を揃え、ひとまず平原で鍛練を行いそれから平原にある水場で少し休むとしよう。一輝は漠然と考えた。

 

(しかし・・・・このリベール王国にはカノン島の様な環境は無いのだろうか・・・・・。)

 

ここの所カノン島での事を良く思い出す。戦いで重傷を負った聖闘士がその身を噴煙に浸し傷を癒し小宇宙を整え再び羽ばたく為の場所。一輝はそのカノン島で幾度と無く傷と小宇宙を癒し、戦いを続けて行った。そして何時しかカノン島が一輝の事実上の故郷と化していた事を思い出す。あのような場所、決して一般人には近付く事が出来ない。いや、聖闘士であってもあの場所を忌み嫌い、避ける者はいる。

 

あの地獄の様な場所を懐かしむとは、俺も相当地獄に毒されていると言う事か・・・・。

 

愚にもつかぬ事を考えているといよいよツァイス市が見えて来た。父カシウスから聞いた所によると此処は工業で成り立っている街らしい。工房長とか言う人間が事実上市長と言う扱いになっているらしく、他の街とは毛色が違うものの様だ。さっさと用を済ませ鍛練に入るとしようかと入り口をくぐると、一人の人間に呼び止められる。

 

「おい、そこのでけえ荷物抱えた兄さん。」

 

礼儀を知らぬどころか面倒臭そうに呼び掛ける・・・一輝はその声を完全に無視しツァイスの門をくぐろうと足を進める。

 

「何無視してんだコラ!テメエの事だよオッサン!!」

 

一瞬眉間に皺が寄る。確かに俺は16とは言えかなり老けて見られる。だがしかし仮にも女神の聖闘士。見ず知らずの相手にオッサン呼ばわりされる筋合い等あろう筈が無い。・・・・しかし一々関わって馬鹿をやり捕まってしまっては父カシウスのみならず家族全員に迷惑が掛かる。此処は応じてやるとしようか。

 

「・・・・何だ?」

 

其処にいたのは燃える様な赤い髪をしたまだ若い少年だった。年の頃は一輝とそう違いは無いだろう。その背には身の丈ほどもある重々しい剣を下げており、若さはあるが少年特有の線の細さや頼りなさが一切感じられない。そう見ているとその少年は右手に何やら紋章の付いた手帳を翳して乱暴に告げた。

 

「遊撃士のアガット・クロスナーだ。テメエこの付近じゃ見掛けねえツラだな。最近ここいらじゃ魔獣やら野盗やら変質者やら何やらが良く出てんだよ。時間は取らせねえ、ちょっと調べさせてもらうぜ。」

 

「分かった。・・・・これで良いか?」

 

一輝は父カシウスより受け取った手帳を見せる。

 

「あー・・・イッキ・ブライト・・・?」

 

受け取った赤毛の少年の顔付きが強張る。そして手帳と一輝の顔を何度も見比べて時折首を傾げたり一輝の顔を見つめ奇妙な表情をしたり何やら小声でブツブツと言い始める。一体何がしたいのだこの小僧は・・・。一輝は嘆息しつつその遊撃士に手を出して手帳の返却を迫った。

 

「俺の身分とやらを知りたかったのだろう?用件はもう終わりか?」

 

「あ、ああ・・・。」

 

赤毛の少年は何か焦りつつも手帳を一気に返す。そして聞いて良いのか悪いのか分からない様な何とも聞き難そうな表情で一輝に対して問い掛けて来た。

 

「あんた・・・カシウスのオッサンの息子・・・なのか?」

 

人の親をオッサン呼ばわり・・・・確かに俺は養子ではある。が、しかし俺にとっては命を助けて貰い、親の顔すら知らぬ俺の事を信じてくれた、俺に家族の暖かさを教えてくれた大恩ある人物。その人物に対してオッサン・・・・だと?そう思った瞬間一輝の心に怒りの発火があった。眉間に皺を寄せ思い切りその無礼な少年を睨み付け、そして思い切り顔を近付けゆっくりと言葉を発する。

 

「俺の父に対してオッサンとは・・・・。礼儀を知らぬ様だな。小僧・・・!」

 

流石に地獄を潜り抜けた女神の聖闘士。それも青銅聖闘士最強と称される「鳳凰星座の聖闘士」。戦う敵も最強クラス。双子座の黄金聖闘士サガ・カノン兄弟から最大奥義を撃ち込まれても、乙女座の黄金聖闘士から第6感まで剥奪されても立ち上がり勝利して来た実績は伊達では無い。その一輝の「メンチ切り」の迫力は凄まじかった。

 

「お・・・おい、何だ?ちょっと・・・!」

 

アガットは生まれて初めて恐怖し、戦慄していた。自身も不良のリーダー上がり。「メンチ切り」はお手の物。喧嘩の場数もそこいらの不良とは比較にならない位踏んでいる。加えてカシウスや遊撃士の先輩からの地獄のシゴキに耐え抜いて来た。そして今でも遊撃士としての業務のみならず魔獣や野盗、兵士崩れのならず者と命を賭けて戦っている。その俺が・・・・此処まで恐れを感じるとは・・・・。この男、何なんだ?新手の魔獣か何かか?アガットの心中は生まれて初めて感じる特大の恐怖に混乱の極みにあった。

 

「あ・・・ああ・・・っ」

 

「どうした・・・・。一般人に睨まれただけでそのザマか・・・・!」

 

(一般人じゃない。こいつは絶対に一般人じゃない。化け物だ・・・!!)

 

遂にアガットはそのあまりと言えばあまりの迫力に押されその場で座り込んでしまった。その様子を見た一輝は直ぐに闘気を収める。そして今度は冷然とアガットに向けて言い放った。

 

「用は済んだのだろう?進ませて貰うぞ。それと・・・」

 

アガットの前に屈むと手帳をひったくり先程より50%程に威力を抑えた「メンチ切り」でこう付け加える。

 

「俺の父に、二度と無礼な口を叩くな・・・!!」

 

アガットは最早言葉を発する余裕も無く只壊れた首振り人形の様に何度も何度も何度も頷く。その様子を見て取った一輝は最早アガットの事を気に掛ける様子も無く、さっさとツァイス市の中に入って行った。一輝が去った後には日頃若さと勢いで炎の様に駆け抜けると言われる若手遊撃士の「残骸」が残されていた。事のついでか、付近に居た魔獣もその気配に恐れを成したか一匹残らず逃げ去り、暫くの間近寄らなかった・・・・。

 

その後アガットは何処から漏れたのかその話で先輩後輩から嫌と言うほど弄られ、からかわれ、説教され、その上一部遊撃士からの提案で「再教育」の名目で再び地獄の特訓を受ける羽目になったと言う。




今回はほんの少しコミカルな感じにしてみました。アガットさん、災難でしたね・・・。最近あんまり調子が良くないので更新に少し手間取ると思いますがご覧頂ければ幸いです。

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