燃え残り   作:名無し

2 / 32
お仕事

このキヴォトスで過ごして3日、分かったことがある

 

この惑星は子供と銃弾と爆発に溢れている

そしてそんな惑星であるにもかかわらず、解決すべき問題は荒事が多い

だが、ルビコンよりはよほど平和かもしれない

 

ウォルター「…さてと」

 

依頼者の束を眺める

そう言えば、もう一つだけわかったことがある

 

ウォルター「どうしたものか」

 

1人でこなせる仕事はごく僅かだということだ

 

…今の状況をカーラに見られたのならなんと言うだろうか

ハンドラー(猟犬使い)ってのは、飼い犬が居ないと何もできないのかい?」

とでも笑われるのだろうか

 

ウォルター「……フン」

 

そんな皮肉が聞けたのなら、どれほど気が楽になるだろうか

 

しかし、実際に何も出来ることがないのはまずい

『シャーレの先生』は出来高制だ、要するに、重要な仕事をこなし続ければ給与が上がる

追加で依頼をこなすたびに連邦生徒会、もしくは依頼人から少額即日で金が入る

…そして、ここに来た時の俺は、クレジットカード一枚を残して無一文だった

 

とりあえず、何をするにも、1人で稼いだなけなしの報酬でより大きな金を得なくてはならないだろう

 

ウォルター「…アロナ」

 

アロナ「はい!先生!何のご用でしょうか?」

 

タブレットからアロナの元気な声が聞こえる

 

ウォルター「傭兵を雇うなら、どこへ行けば良い」

 

アロナ「傭兵…アルバイトの事ですね!でしたら一般募集でも…」

 

ウォルター「アルバイトだと?…そうか、キヴォトスの傭兵はアルバイトなのか…

やはり未だキヴォトスの常識には慣れないな…」

 

アロナ「うーん、先生の言う傭兵はどんな人ですか?

私が似た条件を検索します!」

 

ウォルター「…そうだな、戦闘に秀でている者で、何かに所属していない者が望ましい

金のために命を賭ける理由がある様な奴なら尚良い、その方が信頼できる」

 

アロナ「せ、先生のいた所は随分と殺伐としていたんですね…

え、ええと…そういう事だったら、ブラックマーケットなら…ううん……

でも、最初にも言いましたけど、シャーレに協力してもらえる様に、生徒さんを所属させることもできますよ?」

 

ウォルター「……」

 

アロナ「気が進みませんか…うーん…でも、そうなると…カイザーPMCの様な企業傭兵になっちゃいますね

カイザーコーポレーションはあんまりいい噂が無くて…」

 

ウォルター「『企業』か…」

 

どちらかと言えば、そこから雇用するよりは依頼を出してくるイメージだが

それはこちらに傭兵がいる時の話だ

 

企業に悪い噂がないなんてことはまず無い、こうなったら、こちらから依頼を出すほか…

 

アロナ「あ!先程(おっしゃ)った先生の条件で、一部該当する生徒さんから…はい!2件応募があります!」

 

ウォルター「子供か…」

 

アロナ「シャーレの強制力を気にしておられるのでしたら、大丈夫です、これは一般の公募なので、生徒さんの意思での応募です!」

 

ウォルター「…どんな奴だ」

 

アロナ「1人は戦闘はそこそこ、お金に困っていて部活には所属していません

もう1人は戦闘に秀でていて、お金に困っている…はい、何かに所属…は、残念ながら先に所属している組織があるみたいです、お呼びしましょうか?」

 

ウォルター「ああ」

 

 

 

──

 

アロナ「まずは、1件目の入部希望者です!先生!」

 

ヒフミ「よ、よろしくお願いします!阿慈谷(あじたに)ヒフミです!」

 

…至って普通の女子高生、か

制服に何らかのキャラクター物と思われるバッグ

そしてそのバッグにはペイントされたグレネード…

 

ウォルター「…募集要項に荒事が多い、とは記載していなかったか?それとも、そこまで金が要るのか」

 

ヒフミ「あ、あはは…その…欲しい物がありまして…ちょっとアルバイトを…」

 

ウォルター(キヴォトスの人間にとっては銃での撃ち合いもそんな認識か…)

 

ウォルター「…そっちは」

 

アロナ「2件目の生徒さんです!」

 

ハルカ「伊草(いぐさ)ハルカです…そ、その…私が来てもよかったんでしょうか…」

 

ウォルター「こちらから呼んだ筈だが」

 

…不安そうにこちらを見つめてくる

こちらはヒフミよりは軍服の様に見える服装ではあるが…

 

ハルカ「あ、いえ…!…えっと…じゃ、邪魔だと思ったら、いつでも仰ってください…」

 

ウォルター(…自信が無いのか、アロナの話では戦闘に秀でているはずだが)

 

ウォルター「何故シャーレに応募した?」

 

ハルカ「え、えっと…事務所のお家賃…あ、違う、アル様たちの生活費…でもなくて…!」

 

ウォルター(…貧困か…)

 

ウォルター「わかった、2人とも採用だ、今日から仕事をしてもらう」

 

ハルカ「は、はい!ありがとうございます!」

 

ヒフミ「ちなみに、何を…?」

 

ウォルター「暴徒鎮圧だ、このシャーレ近郊の地区は未だ危険な状態にある、周辺住民から制圧の依頼が出ている

今回は一地区の制圧だ」

 

ヒフミ「あー…確かに、ここに来る時も…」

 

ハルカ「わ、わかりました!邪魔者たちを全部消しちゃいます…!」

 

ハルカが食い気味に立ち上がり、ショットガンを構える

 

ウォルター「待て、伊草、排除対象はここにはいない、銃はしまえ」

 

ハルカ「あ…ぁ、すみませんすみません!」

 

ヒフミ(危ない人だ…)

 

ウォルター「早速だが、伊草、阿慈谷、仕事の準備だ」

 

ヒフミ「は、はい!」

 

ハルカ「な、なんでもやります…!」

 

ウォルター「まずはコレをつけろ」

 

ヒフミ「…片耳用のイヤホン?」

 

ウォルター「インカムだ、戦闘中は俺の指揮に従え、それと、銃器に使う弾の種類やその他火器の申請書類だ

使用した装備の代金は上限があるが経費として補填する、上限を超えたら自腹だ、撃ちすぎるな…それから…」

 

ヒフミ「うわぁ…シャーレのアルバイトってこんなに手厚いんだ…!」

 

ハルカ「い、いいんでしょうか…私なんかがこんなにちゃんとしたサポートを受けてしまって…」

 

ウォルター「お前の権利だ、受け入れろ」

 

ハルカ「は、はい…でも、やっぱり…うう…」

 

ヒフミ「ハルカちゃん!お家賃の為に頑張りましょう!」

 

ハルカ「う、あぁ…バレてる……は、はい…」

 

 

 

─シャーレ近郊─

 

ヒフミ「暴徒発見しました!2人です!」

 

ウォルター「お前達の武装では遠距離の戦闘は不利だ、接近しろ」

 

ハルカ「は、はい!全員殺します!」

 

ヒフミ「こ、殺しちゃダメですよ!?鎮圧!鎮圧ですから!!」

 

正面から突っ込むハルカ、そしてそれを追いかけていくヒフミ…

 

ウォルター「……」

 

つい頭を抱える

まさか、いきなりこんな暴走をするとは思わなかった

 

ハルカ「い、行きます!」

 

スケバンA「な、なんだ!?突っ込んでくるぞ!」

 

スケバンB「舐めやがって!」

 

銃撃に臆さず、突っ込み…

 

ハルカ「死んでください死んでください死んでください…!」

 

ショットガンを連射し、2人まとめて吹き飛ばす

 

ヒフミ「わ、わあ……」

 

ウォルター「…思い切りはいいかもしれないが…」

 

ハルカ「め、命令通り、全部やっつけました…」

 

ウォルター「いや、まだだ」

 

銃声を聞きつけて他のスケバンが…

 

ヒフミ「え、あ…!来ます!」

 

ウォルター「仕事はこの地域の制圧だ、応戦しろ」

 

ハルカ「はい!」

 

ハルカが先行してスケバンに近づく

 

ウォルター「待て、伊草、阿慈谷と距離を開けすぎるな」

 

ハルカ「えっ!?」

 

ハルカの動きが止まり、道の真ん中で呆然と立ち尽くす

 

ヒフミ「あ!そんなところで止まったら…!」

 

ウォルター「伊草!隠れろ!」

 

ハルカ「えっえっ…」

 

スケバンC「今だ!やれ!」

 

スケバン達が一斉にハルカを狙い撃つ

 

ハルカ「うぁっ…あ…!」

 

ウォルター「阿慈谷!手榴弾を投げろ!」

 

ヒフミ「は、はい!えっと…!」

 

ヒフミがバッグを降ろして中身を適当に放り出しながら、目的の手榴弾を…

 

ヒフミ「あっ!?違っ!?」

 

手榴弾ではない、円盤状の何かがスケバン達の前に落ちる

 

スケバンC「なんだこれ」

 

スケバンD「これ、モモフレンズのグッズか?」

 

スケバンE「モモフレンズ…?ああ!変なマニアが集めてるキモイグッズか、こいつはもしかしたら金に…うわぁっ!?」

 

円盤が弾けて中から巨大なぬいぐるみが飛び出す

 

スケバンC「クソッ!なんだこれ!?ぶっ壊してやる!」

 

スケバンD「このっ!このっ!」

 

ウォルター「(デコイ)で気を引いたか、よくやった、伊草、今のうちに撤退しろ」

 

ハルカが自分の顔に垂れた血を手で拭う

 

ハルカ「ぁ…血が……許さない…!」

 

ウォルター(…ダメか)

 

ヒフミ「は、ハルカちゃん!?」

 

ウォルター「阿慈谷、伊草を援護しろ、目の前の敵を殲滅して撤退する」

 

ヒフミ「は、はい!」

 

ウォルター「伊草、これ以上手傷を負う前に全力でやれ」

 

ハルカ「ハルカ、行きます…!」

 

人形の影から飛び出したハルカがスケバンにショットガンを突きつけ、連射する

 

スケバンC「うわあぁぁっ!?」

 

スケバンD「この!ふざけやがって!」

 

ハルカ「っ!…あ、弾が…」

 

スケバンE「弾切れか!ははは!」

 

ヒフミ「ええーい!」

 

ヒフミの投げたマスコットのぬいぐるみがスケバンの顔面に直撃する

 

スケバンD「チッ!うざった…え?」

 

ハルカ「…!」

 

ガスッボコッ…ガスッガスッ

 

スケバンE「こ、こいつ…!?」

 

バキッガスッドカッ…ゲシッゲシッ

 

ヒフミ「う、うわぁ…」

 

ウォルター「リロードの手間を嫌って直接殴ったか…良い判断だ」

 

ヒフミ「…と、とりあえず、辺りには誰もいないと思います…」

 

ウォルター「伊草、阿慈谷、仕事は終わりだ、戻れ」

 

ハルカ「は、はい…」

 

 

 

─シャーレ・休憩室─

 

ハルカ「あ…あの…せんせ…」

 

ウォルター「待て、動くな」

 

ハルカの服の袖を捲り、傷口に消毒液を吹き付ける

 

ハルカ「あ、せ、先生!そんな、汚いです…!」

 

ウォルター「…阿慈谷、手当てを頼む」

 

ヒフミ「は、はい!」

 

ヒフミがハルカの顔を拭き、腕に包帯を巻く

 

ウォルター(配慮が足りなかったな…悪い癖か)

 

ハルカ「わ、私がちゃんとしてないから…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

ウォルター「お前は仕事をやり遂げた、謝る必要はない」

 

…ハルカは確かに暴走しやすい

しかしそれを無理やり止めようとすればパニックを起こしてしまう

 

なら、それを的確にサポートする必要がある

さっきはつい焦って声を荒げてしまったが、適切に対応すればいうことは聞くだろう

 

ウォルター(それに、判断力、飛び出す勢いの良さといい、良い度胸をしている

リードを握るのは難しいだろうが、うまく導けば…)

 

このまま逃すのは、惜しい

 

ハルカ「……」

 

ハルカが申し訳そうにこちらを見る

 

ウォルター「…おそらく、今後の仕事も今日の様な荒事だ、それでも続けるか」

 

ハルカ「ぇ…は、はい!」

 

ウォルター「手当が終わったら使った弾薬の申請をしろ、それが終わったら今日は帰ってゆっくり休め」

 

ヒフミ「お、お疲れ様でした…」

 

 

─シャーレ・オフィス─

 

ウォルター「アロナ」

 

アロナ「はい、なんでしょうか?」

 

ウォルター「医療スタッフを雇う、それから…後方支援が得意な奴も必要だ」

 

アロナ「あの…先生…少し言いづらかったんですけど…」

 

ウォルター「どうした?」

 

アロナ「…シャーレのシステムだと…部活ということになりますので、ヒフミさんとハルカさんの分のお給料は支給されませんよ…?

弾薬とかは先生の説明した通り、基本的には上限まで経費で落とせますけど…」

 

ウォルター「…俺の給料から分配しろ、キヴォトスの傭兵の相場通りでいい」

 

アロナ「は、はい…ですが、なにも雇用という形にしなくても…

生徒さんの協力を得る分には特に対価は求められません」

 

ウォルター「俺の仕事だ、それを手伝う以上対価は払う」

 

アロナ「強情ですね…」

 

ウォルター「…だが、連邦生徒会と交渉する必要もある、か…」

 

アロナ「と、とりあえず!先生の希望の条件で生徒さんを募集してみます!」

 

ウォルター「任せる、俺は書類を片付ける

 

 

──

 

アロナ「該当する生徒さんからの応募が届きました!

今回は特に生徒さんの内情には触れずに募集したので、直ぐに条件を満たす方が来てくれましたよ!」

 

ウォルター「呼んだのか、既に」

 

アロナ「はい!」

 

…そこまでしてくれと頼んだつもりはなかったが

任せた以上は仕方ない

 

─シャーレ・休憩室─

 

セリナ「はじめまして、救護騎士団の鷲見(すみ)セリナです、平和な世界の為に活動しているというシャーレのお手伝いができると聞いてきました!」

 

ウォルター(そんな活動をした覚えはないが)

 

セリナ「戦うのは得意ではありませんけど、怪我をした人の手当てには自信があります!任せてください!」

 

ウォルター「ああ…」

 

…医療スタッフを、とは言ったが

まさか銃に注射器を付けた生徒が現れるとは思っていなかった

 

ウタハ「戦闘においては技術的なサポートも必要だという先生の合理的な選択に応える為にここに来たよ

ミレニアムのエンジニア部、白石(しらいし)ウタハだ」

 

ウォルター(…後方支援、ではあるが…いや…武器のメンテナンスも必要か)

 

ウォルター「わかった、よろしく頼む」

 

ウタハ「ところで先生、少し私が疑問に思ったことを聞きたいんだけど」

 

ウォルター「なんだ」

 

ウタハ「募集要項には報酬などの記載があった、これはどうしてだい?」

 

ウォルター「…本来は俺のやるべき仕事を手伝ってもらう、その代価だ」

 

ウタハ「でも、これじゃあ傭兵のバイトと何も変わらないじゃないか」

 

ウォルター「そのつもりだ」

 

ウタハ「…なるほど、つまりバイトか…なら私は報酬は要らない、シャーレに『入部』したい」

 

ウォルター「なんだと?」

 

ウタハ「今日ここに来た理由、それは先生が生徒に報酬を渡し、バイトとして雇用することで正式にシャーレに『所属』させないのは何故なのか、それが気になったんだけど」

 

ウォルター「……」

 

ウタハ「生徒を『個人』として雇用するのは、『先生』という立場上いささか軽率に見えるんだ

私もキヴォトスの外の常識に詳しいわけじゃないが、『報酬』で束縛されるのは好きじゃない

先生の目的が知りたいな」

 

ウォルター「目的…」

 

思わず言葉が詰まった

今の俺になんの目的があるというのだろうか

このキヴォトスで何を成せばいい?与えられたシャーレの権限が今の俺の全てだ

 

ウォルター「…目的か、特にこれといったものは無い」

 

ウタハ「何も?」

 

ウォルター「ああ、強いて言えば、シャーレの役目を果たすことが今の俺の目的だ」

 

ウタハ「…先生は変わってるね、なんのメリットも無く、キヴォトスの治安維持の為に働くって事だよ?」

 

ウォルター「……」

 

ウタハ「わかった、報酬は一切求めない、だから私が手伝いたい時に手伝いに来る、という条件でどうかな」

 

ウォルター「構わん、お前が決めろ」

 

ウタハ「ありがとう、先生」

 

セリナ「私も、同じく報酬は必要ありません、元々救護騎士団は『救護が必要な場に救護を』が、モットーなので、ケガをした人がいたら飛んできますね!」

 

──

 

アロナ「いい生徒さんで良かったですね、先生!」

 

ウォルター「ああ、そうだな…」

 

アロナ「でも、先生はどうして傭兵にこだわるんですか?」

 

ウォルター「…傭兵にこだわる理由…か…」

 

…なんだ、この感覚は

何かが欠落しているような感覚…

 

ウォルター「アロナ」

 

アロナ「はい、なんですか?先生」

 

ウォルター「お前も休め」

 

アロナ「は、はい…ありがとうございます…?」

 

ウォルター「……」

 

タブレットを置き、デスクに向かい、書類仕事を進める

 

ウォルター「…目的、か」

 

ルビコンに戻る?それとも何か、他に目的らしいものは…

 

ウォルター(…俺の、目的…それを探すのが、今の俺の目的、か?)

 

次の書類に目を落とす

 

ウォルター「…アビドス廃校対策委員会」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。