燃え残り   作:名無し

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大掃除!

─トリニティ別館“合宿所”─

 

ハナコ「ようやく着きましたね、ここが私達の…」

 

ヒフミ「はい、合宿の場所です…ようやく着きました、ふぅ…」

 

ハナコ「しばらく使われていない別館の建物と聞いたので、冷たい床で裸になって寝ないといけないのかと思ってましたが……

広いですし、きちんとしてますし、可愛いベッドもあって何よりです」

 

ハナコがベッドに腰掛けて舞い上がったホコリに咳き込みながら笑う

 

ハナコ「これならみんなで寝られそうですね、裸で♡」

 

コハル「さっきからなんでちょいちょい“裸”を強調するの!?それにベッドの数もちゃんとあるんだから、みんなで寝る必要ないでしょ!?」

 

ハナコ「せっかくの合宿ですし、そういうお勉強も必要ではないでしょうか?」

 

コハル「ダメ!エッチなのは禁止!死刑!」

 

ハナコ「本当にダメですか?先生」

 

ウォルター「…俺に振るな…今回の試験範囲には、その手の勉強は含まれていない」

 

ハナコ「まあ、今はまだ明るいですし、そういう事にしておきます…

夜は長いですからね……♡」

 

コハル「えっ、は、ど、どういう意味!?!!?」

 

ヒフミ「その、これから1週間寝食と勉強を共にするので、皆さん仲良く……

って、あれ?アズサちゃんは……?」

 

ハナコ「あら、先ほどまでは一緒にいたのですが……」

 

ウォルター「…どこに…」

 

(ガチャ)

 

アズサが部屋に戻る

 

アズサ「偵察完了だ」

 

ヒフミ「て、偵察……?」

 

アズサ「トリニティの本校舎からはかなり離れてるし、流石に狙撃の危険は無さそう

出入り口が二つだけというところも気に入った」

 

アズサ「いざという時は片方の入口を塞いで、襲撃者たちを一階の体育館に誘導した上での殲滅戦が有効になるかな」 

まあ他に幾つかセキュリティ上の脆弱性(ぜいじゃくせい)も確認できたけど、改修すれば問題ない範囲だ」

 

ウォルター「……」

 

ヒフミ「え、えっと……」

 

アズサ「それから、ここが兵舎……いや、居住区か、…綺麗だな

こんな施設を使わず放置していたなんて、無駄遣いもいいところだ」

 

ヒフミ「あの、アズサちゃん……私たちはここは戦いに来たのではなく、勉強をしにきたんですよ……?」

 

アズサ「うん、わかってる

1週間の集中訓練だろう?外出禁止、自由時間は皆無、24時間一挙手一投足まで油断することは許されないハードなトレーニング」

 

ヒフミ「そ、そこまでではないと思いますが……」

 

アズサ「きちんと準備もしてきた、体操着や細かい着替え、衛生面の歯ブラシや歯磨き粉、石鹸、非常食、毛布、水筒……」

 

ハナコ「さすがはアズサちゃん、用意周到ですね」

 

アズサ「当然だ、徹底した準備こそ成功への糸口」

 

ハナコ「うふふっ、みんなで一緒に食欲を満たし、睡眠欲を満たし、そしてみんなが欲する目標へと向かって脇目も振らずに手を動かす……いいですね、合宿」

 

アズサ「……」

 

アズサ「…うん、そうだね」

 

アズサ「あ、でも任務は確実に遂行する、きちんと勉強をして、第二次特別学力試験にはどうにか合格する

その目標のためにここに来たんだ……迷惑は、かけたくない」

 

ヒフミ「アズサちゃん……」

 

アズサ「大丈夫、万が一の敵襲に備えて対人地雷とクレイモアも用意してきた、あとはIED(即席爆発装置)になりそうなもの一式と、対戦車地雷も多少──」

 

ウォルター「白洲(しらす)、それはやりすぎだ」

 

ヒフミ「……というわけで、あらためて

ナギサ様から言われた通りです、第一次特別学力試験には残念ながら落ちてしまったので……

この別館で合宿をする事になりました…私達は二次試験までの1週間、ここに滞在する事になります」

 

ヒフミ「長い間放置されていたそうですが、少しお掃除すれば全然使えそうですし、体育館やシャワー室なども充実しているようですし……」

 

アズサ「うん、そういえば外にプールもあった、しばらく使われていないようだったけど」

 

ヒフミ「あ、そうだったんですね

あと、ここはトリニティの本校舎からもがんばれば歩ける距離ですし、地下に食堂設備のようなものもありましたから

特にお腹を空かせる心配もなさそうです

それに私たちがここにいる間、ウォルター先生もずっと一緒にいてくれる予定ですので、何かあっても大丈夫だと思います!」

 

ウォルター「何かあれば、すぐに言え、対処する」

 

ヒフミ「ありがとうございます、えっと、通路をはさんで向かいにもお部屋があるのですが、先生は──」

 

ハナコ「!」

 

ハナコがヒフミの背後から両肩に手を伸ばし…

 

コハル「だめっ、絶対ダメ!!同衾(どうきん)とかエッチじゃん!!!!死刑!!!」

 

ハナコ「えっと、コハルちゃん?私、まだ何も言ってませんが……?」

 

コハル「何を言い出すのか大体わかるわよ!!

ダメったらダメ!そういう事はさせないんだから!」

 

ハナコ「コハルちゃんは厳しいですねぇ……」

 

アズサ「私は先生もここで一向に構わないけど?ベッドも余ってるし、無駄に部屋をいくつも使うこともない」

 

ウォルター「…俺は他にも仕事を抱えている、ここだと都合が悪い…

何かあればその都度呼んでくれ」

 

ヒフミ「で、では!そういうことで…そうしたら、荷物を片付けて早速お勉強を……」

 

ハナコ「あら、でもその前にやることがあると思いませんか?ヒフミちゃん」

 

ヒフミ「えっ……?」

 

コハル「!?」

 

アズサ「なるほど、敵襲を想定してトラップの設置を?」

 

ウォルター「…掃除か」

 

ヒフミ「はい♡」

 

ヒフミ「……お、お掃除、ですか?」

 

ハナコ「はい、管理されていた建物とはいえ、長い間使われていなかったこともあって、ホコリなども多いようですし…

ほら、こうしたら…」

 

ハナコがベッドをポンポンと叩く度にホコリが舞い上がる

 

ハナコ「このままここで過ごすというのも健康に良くなさそうですし…

今日はまずお掃除から始めて、気持ちいい環境で勉強を始めるというのはいかがでしょう?」

 

ヒフミ「なるほど、確かにそうですね

まずは身の回りの整理整頓から始めるのは定石ですし、そうでないと途中で気になってしまいますし……」

 

アズサ「うん、衛生面は大切、実際、戦場でもすごく士気に関わりやすい部分だ」

 

コハル「お、お掃除……?えっと、まあ、普通のお掃除なら……」

 

ヒフミ「はい、ハナコちゃんのいう通りかもしれません

やる気が空回りしても困りますし…私たちがするのは一夜漬けではなく、きちんと用意された期間の中での試験勉強

つまりは長距離走のように、順番やペース、作戦も考えないとです」

 

ヒフミ「それではまず、大掃除から始めるとしましょう!

先生、構いませんか?」

 

ウォルター「…そうだな」

 

ヒフミ「先生の許可も出ましたし…それでは汚れてもいい服に着替えてから、10分後に建物の前に集合としましょう!」

 

アズサ「わかった」

 

ハナコ「はい♪」

 

コハル「よ、汚れても良い服……た、体操着でいい?」

 

─合宿所・正門─

 

ヒフミ「先生、お待たせしました!」

 

ウォルター「…早かったな」

 

ヒフミ「そうでしょうか、でも、こういう事にちょっとワクワクしてるのかもしれません、掃除!って感じがして…

服装から入るのも大事ですからね、体操服の方が動きやすいですし、汚れた時に洗濯もしやすいですし」

 

ウォルター(これが体操服なのか)

 

ヒフミ「ど、どうかしましたか?」

 

ウォルター「いや…」

 

コハル「…で、私は何をやればいいの?」

 

ヒフミ「コハルちゃん、早かったですね」

 

アズサ「お待たせ」

 

ヒフミ「アズサちゃんも──って、どうして銃を…?」

 

アズサ「肌身離さず持っていないと銃の意味がない、襲撃はいつ来るかわからないものだ」

 

ヒフミ「いえ、それはその、なんと言いますか…

確かにその通りかもしれませんけど……」

 

ウォルター「……後は浦和(うらわ)か…」

 

ハナコ「お待たせしました、みなさん早かったですね」

 

ウォルター「来たか…待て、なん──」

 

コハル「アウトーーーー!!!!」

 

ハナコ「あら…?」

 

コハル「なんで掃除するのに水着なの!?バカなの!?バカなんでしょ!?バーカ!!!」

 

ハナコ「ですが動きやすいですし、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で──」

 

コハル「そういう問題じゃないでしょ!?水着はプールで着るものなの!っていうか、だっ、誰かに見られたらどうするの!?」

 

ハナコ「誰かも何も、ここには私たち以外いませんよ…?」

 

コハル「と、とにかくダメ!アウトったらアウト!あんたはもう水着の着用禁止!」

 

ハナコ「あら……それはそれで、まあ…」

 

ヒフミ「あうぅ……」

 

ウォルター「浦和(うらわ)、体操服に着替えて来い」

 

ハナコ「はーい…」

 

──

 

ヒフミ「それではまず、建物周辺の雑草から抜いていきましょう!

今日は日差しも強いですし、熱中症には気をつけてくださいね」

 

ハナコ「はーい♪」

 

コハル「草を抜く…ま、まあ、別に…」

 

アズサ「なるほど、確かに本陣の周辺で、敵が隠れられそうなポイントから取り除くのは理にかなってる」

 

ヒフミ「えっと…と、とにかくまず建物の周りを整えたら、その後はそれぞれ一箇所ずつお掃除をしていくという順番でお願いします!

さあ、始めましょうか!」

 

(合宿所周辺の雑草を一通り抜き取り、放置されていたガラクタなどを片付けた)

 

─居住区─

 

ヒフミ「ここはまずホウキで埃を掃いて、その後にモップで良さそうですね

埃の溜まりやすいところですので、一度では終わらないかもしれませんが…」

 

アズサ「大丈夫、問題ない」

 

ヒフミ「アズサちゃんにはこの廊下が終わったら、シャワー室とお手洗いの辺りをお願いしても良いですか?」

 

アズサ「うん、了解、任せて」

 

─ロビー─

 

コハル「けほっ、けほっ…!何ここ、すごいほこり…」

 

ヒフミ「そうですね、家具が多いからでしょうか……えっと、ではここも埃を掃いて──」

 

コハル「やっ、やり方くらい知ってる!正義実現委員会でずっとやってるし!

マスクをつけて埃をはらってから、水拭きすればいいんでしょ!バカにしないで!」

 

ヒフミ「ば、バカにしたつもりは無いですよ…?で、では、ここはコハルちゃんにお任せしますね!」

 

─寝室─

 

ヒフミ「えっと、ここは…」

 

ハナコ「ヒフミちゃん、ここは私に任せてください

これから色々とお世話になる場所ですし、きちんとお掃除しておかないとですよね

寝具類は今洗って干しておけば、午後には乾くでしょうし…」

 

ハナコ「他の部屋にもマットレスがあったので、古そうなものは交換して……あとは換気を……」

 

ヒフミ「すごい、詳しいですね!ではお願いしますね、ハナコちゃん」

 

ハナコ「うふふ、はい♡」

 

──

 

ウォルター「…終わったか」

 

コハル「良いんじゃない?ずいぶんキレイになった気がする、うん、気持ちいい」

 

アズサ「……うん、悪くない」

 

ヒフミ「そうですね、お疲れ様でした!」

 

ハナコ「あ、まだ一ヶ所だけ残ってますよ?」

 

ヒフミ「あれ、そうでしたっけ……?」

 

ハナコ「はい、屋外プールが♡」

 

ヒフミ「ぷ、プール…?あ、そういえばさっき…行ってみましょうか…」

 

──

 

ヒフミ「これは……」

 

アズサ「だいぶ大きいな、どこから取り掛かればいいのか……いや、そもそも補習授業に水泳の科目は無かったはずだけど?」

 

コハル「試験に関係ないなら、別にこのままでも良いじゃん、掃除する必要ある?」

 

ハナコ「いえいえ、よく考えてみてください、コハルちゃん

キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒たち……」

 

ハナコ「……楽しくやってきませんか?」

 

コハル「…!?え、何!?わかんない、何か私にわからない高度な話してる!?」

 

ウォルター「落ち着け」

 

ヒフミ「ですが確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると……なんだか寂しい気持ちになりますね」

 

アズサ「このサイズだったし、昔はきっと使われていた時期もあったんだろう、元々は賑やかな声が響き渡っていた場所なのかもしれない」

 

アズサ「それでも、こんな風に変わってしまう…

“vanitas vanitatum”……それが、この世界の真実」

 

コハル「?」

 

ヒフミ「えっと…?」

 

ハナコ「古代の言葉ですね、全ては虚しいものである(vanitas vanitatum)……確かに、そうなのかもしれません」

 

ハナコ「……」

 

ハナコ「…アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん!」

 

ハナコ「今から遊びましょう!」

 

ヒフミ「え、えぇ!?」

 

ハナコ「今から掃除して、プールに水を入れて、みんなで飛び込んだりしましょう!

明日から頑張ってお勉強をし続けないといけませんし、そうなると今日が最後のチャンスかもしれないじゃないですか」

 

ハナコ「今のうちにここで楽しく遊んでおかないと!

途中からはまた別の事で、色々と疲れてしまうかもしれませんし…!

さあさあ、早く濡れてもいい格好に着替えてきてください!プール掃除を始めましょう!」

 

アズサ「…うん、たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない

問題ない、ちゃんと水着も持ってきてる、待ってて」

 

ヒフミ「あ、アズサちゃん!?早っ……!?」

 

ハナコ「さあヒフミちゃんも!コハルちゃんも早く水着…いえ、なんでもいいので濡れてもいい格好に!」

 

ウォルター(…この様子では、何を言っても聞かないだろう…

浦和(うらわ)の遊びを邪魔して機嫌を損ねられる方が面倒だ)

 

ヒフミ「せ、先生…!」

 

ウォルター「明日から集中して取り組むのであれば、問題はない」

 

ハナコ「うふふっ♡ありがとうございます、先生」

 

ヒフミ「…まあ、確かにここだけ掃除しないのもなんだか気持ち悪いですし…私も、着替えてきます」

 

コハル「え、えぇっ!?補習授業とは全然関係ないじゃん…!…うぅ、なんで……」

 

ハナコ「ふふっ、コハルちゃん♡」

 

ハナコがコハルがじわじわと近づく

 

コハル「……」

 

ハナコ「…!」

 

コハル「…!?」

 

ハナコ「……♡」

 

コハル「わ、わかった!わかったから!!無言で近寄らないで!」

 

──

 

ヒフミ「……着替えては、来ましたけど…」

 

ヒフミが不満気に口を開く

 

ハナコ「さあ、これでびしょびしょになっても構わないということですね♡」

 

アズサ「うん、問題ない」

 

ヒフミ「…ま、まあ…私は…」

 

ハナコ「では、みんなでお掃除を始めましょうか?」

 

コハル「待て待て待てっ!!」

 

ハナコ「コハルちゃん?どうかしましたか?」

 

コハル「あんた掃除の時は水着でどうして今度は制服なの!?ほんとにバカなの!?「濡れても良い服」ってあんたが言ったんじゃん!!」

 

ハナコ「これが「濡れても良い格好」ですよ?」

 

コハル「もうあんたが何言ってるかわかんない!制服が濡れてもいいの!?」

 

ハナコ「コハルちゃん、これは各々の美学の問題かもしれませんが…」

 

コハル「え、美学…?」

 

ハナコ「水着と制服、どちらの方が濡れた時に、「良い感じ」になると思いますか?」

 

コハル「は、はぁっ!?「良い感じ」って何よ!?何の話!?」

 

ハナコ「ふふっ、まあ半分は冗談ですよ、ほら、実は中に着てるんです

お小遣いで買ったビキニの水着♡」

 

コハル「え、え……?」

 

ハナコ「先ほどコハルちゃんに「水着の着用禁止」と言われてしまいましたし、確かに学校ではスクール水着の方が鉄板ですが…

今日はこれで許していただけませんか?」

 

ハナコ「スクール水着は今洗濯中でして、これがダメだとすると私、下に何も…」

 

コハル「な、なんで私に判断を託すのさ…!べ、別に勝手にすればいいじゃん…!?」

 

ハナコ「うふふ、そういうことで…改めて、お掃除始めましょうか!」

 

ウォルター(書類整理でもして時間を…)

 

 

アズサ「

ハナコ「あ、先生、ちゃーんと居てくださいね」

 

ウォルター「……ああ」

──

 

ハナコ「見てください、虹ですよ虹!」

 

ヒフミ「ひゃっ!?ちょっ、ハナコちゃん冷たいですよぉ!」

 

ハナコ「ふふっ、トリニティの湖から引っ張ってきている水みたいですので、そのまま口を開けて飲んでも大丈夫ですよ?」

 

コハル「ど、どうしてこんなことに…」

 

アズサ「こちらのブロックは完遂した、続けて速やかに次へ向かう」

 

ウォルター「……」

 

ウォルター(…ああして遊んでいるだけならば、問題はないだろう)

 

しばらくして掃除が終わった後、プールに水を入れ始めたものの…

想像以上に時間がかかり、プールに水が溜まった頃には、すでに日が暮れてしまった

 

アズサ「……」

 

ヒフミ「結局、実際にプールに入って遊ぶことはできませんでしたね」

 

ハナコ「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね……ごめんなさい、失念していました」

 

アズサ「いや、謝ることはない、十分楽しかった」

 

コハル「……綺麗」

 

ヒフミ「そうですね、真夜中のプールなんて、なかなか見られない景色で……」

 

コハル(うとうと……)

 

ハナコ「あら、コハルちゃんおねむですか?」

 

コハル「そ、そんなことないもん……でも、ちょっとつかれた……」

 

ヒフミ「確かに、今日は朝から大掃除でバタバタでしたね

では、そろそろお部屋に戻って休むとしましょうか?」

 

ヒフミ「明日から本格的に勉強合宿が始まってしまいますし……そろそろ寝ないと明日に支障が出てしまうかもしれません」

 

アズサ「うん」

 

ハナコ「そうですね、では今日はこのくらいで」

 

─居住区─

 

ヒフミ「それでは、お疲れ様でした」

 

アズサ「お疲れ様」

 

ハナコ「はい、お疲れ様です」

 

コハル「……お疲れ様」

 

ウォルター「向かいの部屋にいる、何かあったら言え」

 

ハナコ「はい、ちゃんと覚えておきますね♡」

 

コハル「だ、ダメ……そういうハレンチなのは、正義実現委員会として…!」

 

ヒフミ「みんなお疲れのようですし、すぐ寝ましょうか、では、おやすみなさい」

 

──

 

(パラ…カリカリ……パラ…)

 

ウォルター「…難しいな、これは…」

 

ウォルター「……俺が教えるのに苦戦するのも、織り込み済みか?…いや、考えすぎか…」

 

……

ナギサ「そもそも補習授業部は…生徒を退学させるために、作ったものですから」

……

 

ウォルター(桐藤(きりふじ)の考えが読めん、何か、致命的に情報が足りていない…)

 

(コンコンコン)

 

ウォルター(……)

 

コート掛けの上着から拳銃を取り出して机の上に置く

 

ウォルター「…開いている」

 

「あ、えと、失礼します……」

 

ウォルター「…何の用だ、阿慈谷(あじたに)

 

ヒフミ「その、夜中にすみません…ちょっと、眠れなくて…」

 

ウォルター(…唯一、退学のペナルティを聞かされているとなると…仕方のない話だろう)

 

ウォルター「…飲み物を入れる」

 

ヒフミ「ありがとうございます…」

 

──

 

ヒフミ「その、今日はお疲れ様でした」

 

ウォルター「…俺は特に何もしていない」

 

ヒフミ「いえ、そんな…」

 

ウォルター「…明日からが不安か」

 

ヒフミ「……はい」

 

ヒフミ「もし1週間後の2次試験に落ちてしまったら、3次試験……万が一、それにも落ちてしまったら……」

 

ウォルター「全員退学、か…」

 

ヒフミ「……やっぱり、先生も知っていたんですね」

 

ヒフミ「まだ誰にも言ってませんが、そもそも言って良いことなのかどうかもわからなくて……

学力試験なのに、どうしてこういう“全員一斉に”みたいな評価システムなのかもよくわかっていませんし、私たちの試験のためだけにこんな合宿施設まで提供してもらえるなんて……」

 

ヒフミ「それに……うぅ……」

 

ウォルター(……)

 

ウォルター「桐藤(きりふじ)に何を言われた?」

 

ヒフミ「へ!?あ、いや、その…!」

 

ウォルター「裏切り者を探せ、か?」

 

ヒフミ「…!?!?!?」

 

ウォルター「……なるほどな」

 

ヒフミ「先生も、そういわれたってこと、ですか…?」

 

ウォルター「そうだ」

 

ヒフミ「……はい、ナギサ様とお話をしていた時に…」

 

……

ナギサ「ヒフミさん……補習授業部にいる裏切り者を探していただけませんか?」

 

ヒフミ「え、えぇ…!?」

 

ナギサ「正直なところをお話ししますと、今あの補習授業部について、試験の結果など気にしてはいません

試験に合格しなければ退学というのは、つまるところ最終手段」

 

ナギサ「ヒフミさん、できる限り彼女たちの情報を集め、できる限り早く“裏切り者”を見つけていただけませんか

ヒフミさんは今、そのために、補習授業部にいるんです」

 

ヒフミ「その、どうして私が、そんな……」

 

ナギサ「……「どうして」、ですか…

その答えはヒフミさんがシャーレと繋がっていたからですね」

 

ナギサ「第三勢力である“シャーレ”がいる限り、裏切り者は不用意に動けません

ゴミが、ゴミ箱から飛び出さないための蓋のようなもの……でしょうか」

 

ヒフミ「ゴミ箱…?」

 

ナギサ「失礼しました、忘れてください…今のは独り言ですから

とにかく──」

 

ヒフミ「な、ナギサ様…!わ、私はその、こういうことは…!」

 

ナギサ「ヒフミさん」

 

ナギサ「他に選択肢はないのです、それにやむを得なかったとはいえ…失敗してしまった場合は、ヒフミさんも同じことになってしまうのですよ……?」

 

ヒフミ「……っ」

 

……

 

ウォルター(協力、というよりは…ただの脅しか)

 

ヒフミ「わ、私はその、裏切り者だなんて、そんな話……」

 

ヒフミ「みんな、同じ学校の生徒じゃないですか……今日だって、みんなでお掃除をして、一緒にご飯を食べて……

これで、誰が裏切り者なのかを探れだなんて、そんな、そんなこと……」

 

ヒフミ「そんなこと、私には……」

 

ヒフミの目から涙が溢れる

 

ウォルター「……」

 

ウォルター「…俺には、わからん」

 

ヒフミ「え…?」

 

ウォルター「……裏切り者の事は忘れろ」

 

ヒフミ「せ、先生…?」

 

ウォルター「…俺がなんとかする、だから、任せろ」

 

ヒフミ「……」

 

ウォルター「…お前達は、お前達のやるべきことをやれ」

 

ヒフミ「私に、できること……」

 

ヒフミ「……はい!わかりました!あ、その、何ができるのかは、まだわかりませんが……

ちょっと考えてみようと思います!先生、ありがとうございます!なんだか心が軽くなりました…!」

 

─その頃、ロビー─

 

ハナコ「……」

 

アズサ「ハナコ?こんなところで何を?」

 

ハナコ「あら、アズサちゃん…まだ起きてたんですか?それに、制服で…?」

 

アズサ「もうある程度寝た、だから見張りでもしておこうかと」

 

ハナコ「見張り…?いえ、それよりアズサちゃん、もしかして実は全然寝られてないんじゃないですか?しっかり寝たようなお顔には見えませんよ…?」

 

アズサ「……慣れない場所だと、あんまり寝られなくて」

 

ハナコ「……」

 

アズサ「心配しないでもいい、夜通し動くための訓練もちゃんと受けてるから、5日くらいなら寝なくても問題ない」

 

ハナコ「いえ…そういう問題ではなく……」

 

アズサ「ハナコも散歩?どうやらヒフミも、どこか散歩に行ったみたいだし、みんな慣れないところで不安だと思うから、それもあって、見張りでもしたほうがいいのかもしれないと思って…

そういうことだから、気にしないで、大丈夫」

 

ハナコ「……アズサちゃん、あまり無理しないでくださいね」

 

アズサ「わかってる」

 

ハナコ「……」

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