鉄血のオルフェンズ 黒騎士   作:クソメガネザル

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第10話

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 ‘改革の淑女’の謀略が影で蠢くドルト2にイサリビを停泊させ、ビスケットとユージンが資源の納品に向かう。

 

「いやはや、はるばる遠くからご苦労様です。 受け取り、確認いたしました」

「いえ、これも仕事ですから。 工業用資材と鉱物資源、確かにお届けしました!」

「あざっした!」

 

 資源を受け取ったナボナ氏はにこやかに、その取引を終えて。 2人が踵を返してイサリビに戻ろうとしたその時だった。

 

 ギャラルホルンの輸送用MWが3台。納入場のシャッターが開けられて突入してくると、ハッチが開いたその中から何人もの武装したギャラルホルン兵士が現れ、倉庫内は騒然となる。

 

「違法取引の情報提供を受けた! 積荷を確認させてもらおうか?」

「な、何かの間違いですよ! 見たければいくらでも確認してください!」

 

 ナボナは半ギレで武装した隊長らしき者に詰め寄り、気圧される隊長を尻目に兵士達はコンテナの隅々を調べまわった。 しかし中身は全て工業用資材や部品の原材料となる鉱石資材だった。

 

「な、誤報だったと言うのか……!?」

「兵隊さん、流石にこれは筋が通らないよ……? 捜査令状は持ってきてくれてるんだよなぁ?」

「いや、えっと、その……」

 

 口ごもるギャラルホルンの兵士達は、ナボナ氏やほかの社員達の威圧感そして……

 

『こいつぁ立派な、業務妨害ですぜ兵隊さん? で、令状なけりゃとっととカエレェェェェ!』

 

 社員の息のあった罵声に怯んだ兵士達は

 

「て、撤退! 撤退だぁぁぁぁ! すんませんでしたぁぁぁ!!」

 

 MWを反転させて、立ち去っていった。 この事はすぐにマリアンナに伝わり、彼女は次の指示を出した。

 

「ダンテにワタクシの部下が渡した情報と‘仕込み物’をばらまいてもらいますわ。 その間、ナボナ氏達は業務の殆どをキャンセルして、そのまま放棄してくださいな」

[本当にうまくいくんですか……? これで?]

「ワタクシの目は節穴ではありませんわ。 業務記録等々を見ましたが……目も当てれませんわね、この顛末。 水増しは当たり前。 経費の着服横領、無駄な資金繰り……叩けば埃しか出ませんわね、ドルトカンパニーは」

 

 嘆息しながらマリアンナはドルト3に移動していた。 彼女の護衛役としてオルガと三日月を連れている。

 

「ミカだけで十分だろこれはよ!?」

「今は、速さが大事ですもの……それに、あとでボーナスは弾みますわ!」

「……わーったよ、ったく!」

「2人とも、いいから次の場所に行こう」

 

 三日月に急かされながらダンテの誘導に従い、指示されて向かった場所に設置されていた無線LANからサラヴァン氏に聞いていたパスワードを入力。 彼らは不祥事等々のデータを拡散させる。 そして、場所をまた移動。

 

 これを何度か繰り返し、ファイルの排除をしようとしたドルトカンパニーの者が引き金となり、コンピュータウイルスの‘幸運の卵(イースター・エッグ)’がドルトカンパニー管理下の無線LANを、ネットワークを走り回り蹂躙を開始した。

 

 ●

 

 ドルトカンパニー重役役員の「アルバード・モブリス」は戸惑い、焦っていた。 莫大な金が動くコロニー内ではわからないほどに。 綿密に計算を引き合わせて少しずつの横領、着服で──まるで、袋から溢れたコメ一粒一粒をネズミが貪るように隠れながら売り上げのピンハネを働いていた彼は。

 

 ドルトカンパニー管理下のサーバー内で何者かが放ったコンピュータウイルスが計算、売り上げの逆算で。

 ワードパッドやメモ帳と言ったソフトウェアが勝手に起動して。 今までの数字が丸々ひっくり返されていた。

 そして、数時間かけても根本のウイルスの除去は叶わず。 サーバー内奥深くのシステムに、改竄の出来ないプログラム地点にウイルスが根付いてしまったのである。

 

 しかし、このコンピュータウイルスはファイルを破壊するなどの悪意ある物ではなかった……なぜならば、完全に計算間違いや、裏データを統合編集。 そして真なる売り上げの計算を計上していたのだから。

 しかし、これには大打撃を受ける者達も存在した。 あくまでもそれらに共通するのは……ピンポイントな重役役員狙いだという事だ。

 アルバードのピンハネした金額が空白となり、なぜだ、どうしてだ? と疑問齟齬を下位役員達の間で議論となり。 その線上に嫌でも引っ張り出されたアルバードは下位役員達の批判、罵倒と叱責の三連コンボとともに重役の座を懲戒されたのは彼だけではなく、他にも重役達が懲戒あるいはクビを言い渡されてドルトカンパニーを去るものまで出る始末だった。

 

 目先の問題は、一応の収束を見せるが。 さて、大きな問題はまだ残っている。

 正規の方法でウイルス除去をせず。 素人目で除去しよう物ならば、即刻サーバーダウンとデータ全損という途轍も無いリスクがあったために専門業者(ハッカー)に依頼したが、その回答は……不可能の一言だった。

 曰く、「芸術的手腕。 自分でもこんな中枢に潜り込むウイルスは作れない」という回答が多々あり、ドルトカンパニーは頭を抱えたと言う。

 それ以上に頭を抱える問題となったのが何者かが重役役員たちの爛れた大人事情を暴露したのだ。 不倫から売春は序の口と言うべきか。 果ては 収賄に談合、ギャラルホルンとの癒着などなど。 今回の武装デモ計画に対する鎮圧の名を冠した、粛清虐殺の作戦計画も含めて公開されてしまった。

 

 これには流石のドルトカンパニーも、本社自体に大打撃を被った。 会社自体の信頼失墜は言わずもがな。 労働組合はド阿呆かとこの醜態に怒り猛り、その日のうちにストライキ。 工場の生産性は急降下して得意先の企業に上役員たちは後々に頭を下げ続けなければならない始末だった。

 デモ隊があちらこちらで立ち上がり、全ての従業員に呼びかけて。 果ては本社下位役員達までもがストライキを起こす始末だった。

 ナボナ氏が先頭に、本社グループからはサラヴァン氏が立ち。 早期経営陣刷新の要求と、賃金の底上げを訴えて各コロニーではデモ隊が練り歩いた。

 ドルトカンパニーはたまらず、鎮圧をギャラルホルンに依頼したが武力行使に出ていない市民に対し、本部会社のある地区に一定距離を置いてデモを起こしているために手は出さなかった……いや、手を出す大義名分がなかった。

 

 さて、この騒乱の仕立て役のマリアンナは現在。 指示のタイミングを計っていた。

 クーデリアにノブリスを利用してギャラルホルン統制局の動きを妨害するように頼んでおいたのである──なお、証拠として武器の写真や寝返っていたフミタンに送られたメールが決定的な証拠だったが故に。ノブリスは逆に、クーデリアに利用される事となった。

 

「真実の報道っつてももうこれ以上の情報は望めないだろう? 撤収だ、撤収」

「……少しよろしくて?」

 

 ドルトカンパニーネットワーク、DCNの報道クルーを捕まえたマリアンナは。

 

「このまま撤収って味気なくありませんか? ワタクシ、一つこの騒ぎに関して物申しとうございまして……ご助力願えませんか?」

 

 ◯

 

 ドルト2の撮影スタジオにマリアンナはクーデリアを伴って入っていた。 彼女らが話すのは、これまでの軌跡を話すのではなく今ドルトコロニーで何が起きているのかの報道でもない。

 

「CM空けまで、10、9……」

「やりますわよ、クーデリア……」

「ええ、お膳立て……ありがとう、マリア」

「ノブリスに渡りをかけたのは貴女よ……では……」

 

 ディレクターのカウントが0になり、CMから本番に。

 

[ここからは、クリーンな仕事場をあなたに。 レージス財閥の提供でお送りいたします]

 

 アナウンサーが司会進行をしつつ。

 

[では、次のコーナーです。 現在ドルトコロニー内にて起こっているデモ活動において、デモ隊の喧騒を避けながらも彼らの真実を知るお二人の淑女(レディ)にお話を伺いたいと思います。 まずは、自己紹介をお願いいたします]

[私はクーデリア・藍那・バーンスタイン。 火星独立運動を掲げる《革命の乙女》とは私のことでしょう。 そして……]

 

 クーデリアの目配せに頷き、マリアンナも名乗りをあげる。

 

[皆様、ご機嫌よう。ワタクシはマリアンナ・レージス。 火星圏にてクリュセ地区が本拠。 レージス財閥の代表取締役を務めていますわ。 クーデリアの友として、後援者の一人として彼女の旅に同行しておりますの]

 

 彼女たちはまず、自分たちの旅の目的を大衆ウケのいい形で伝えることにした。クーデリアは火星の現状を全てを伝えるのではなく、部分的に、人々の心に残るように……

 

[私の故郷、火星クリュセ地区では毎年100人の孤児が病気や衰弱で医療を受けることすらできずに亡くなっていきます。 私やマリアンナの家柄のような、裕福な家庭と貧富の格差が浮き彫りに、歪になっているのが現状です]

[民のために、子供達のためにと思い。 ワタクシも改革を進めましたわ……そのせいでかは知りませんが、クーデリアが《革命の乙女》なら地球圏でワタクシは《改革の淑女》と呼ばれ、恐れられていると耳にいたしましたわ]

 

 苦笑しつつ、困ったような笑顔をするマリアンナにスタジオの男性、女性スタッフたちはその笑顔に呑まれそうになった。

 ……呑まれそうになったのが運の尽きであり、 彼女の秘めていたカリスマ性はむき出しの牙となって場を呑み込んだ。制限なしの報道特番は幕を開ける。

 

[さて、ワタクシたちの旅路については今度独占取材を受けるとしまして。 このコロニーの騒乱について意見を聞いていただきたく存じます]

 

 その声は聞くものたちの意識を引っ張った。 情報統制局の放送を観ていた者、四つの経済圏、街灯スクリーン。

 

[まずは……クーデリアの願いから聞いてもらいましょうか]

[はい。 私は自分が生まれ育った火星を救いたいと願い、行動してきました。 けれど、あまりに無知だった……ギャラルホルンの支配に苦しむ人々は、宇宙の各地に存在していたのです。

 そんな時に、私はこのドルトコロニーで自らの現状に立ち向かおうと、声を出す彼ら、従業員の方々と出会いました。 自らの支える経営陣に対して、デモという形での蜂起でした]

 

 クーデリアの声は人々に届く。 その訴えは電波に乗り、地球に落ちた。 人々の声の代弁が届いていく。

 

[下級労働者の生活は貧しく、貧困に苦しむ者たちを指差して笑うのは誰か。 差別の温床を生み出しているのは誰なのか……それは悲しくも残酷な現実を孕んでいます。 差別や貧困を生み出すのは同じ人間です。

 クリュセ地区での、人々の営みと。 ドルトコロニーの下級労働者の暮らしを比べると……その違いに私は驚かされたのです。

 クリュセ地区では正常な職場が溢れることが起因となり、スラム街と呼ばれる場所は無くなる一方で、このコロニーでは一部の者たちが利益を独占し、貧困に苦しむ人々にその皺寄せが突きつけられています]

 

 そして、クーデリアはマリアンナに頷きかける。 それに応えて彼女は語る。

 

[貧困層の者たちはどうするか。 クーデターを起こそうとも武力行使に臨めば粛清に遭うでしょう。 経営者刷新の要求は何度も却下されたと聞き及びましたわ……腐敗は腐敗を呼び、正常な売り上げの確認すらできない痴態を晒す一方で、自らを特権者と誤解したものたちは私腹を肥やし利益という蜜を啜る。

 その誤解が今の騒乱を引き起こしたとしても、過言ではありませんわ。 この場を借りて、経営者の方々に物を申します……人材とは人財とも読みます。 財とは財産──働き手に替えがあると呑気に構えるくらいならば……破産してしまいなさい! 経営者には従業員とその家族を幸せにする、幸福を与える義務があります!]

 

 マリアンナは吼える。 小さな獅子の咆哮は人々の心に響き渡った。

 

[会社という組織は例えるならば、一つの大きな機械。 それには小さな歯車がいくつも使われているとしましょう。 きちんとメンテナンスを、オイル注入を忘れず。 摩耗予防にグリスを多めに与えて。

 大切に使われる大きな機械は長持ちするでしょう。 その小さな歯車の一つがかけても問題なく動くでしょうが、その効率は落ちていきます。 大部分が無くなれば機械は動きません……さぁ、ドルトカンパニーの皆様。 あなた方の間違いに気がつきましたか?]

 

 彼女は画面の先に居るであろうドルトカンパニーの役員たちに語りかけるように。 言葉を紡ぐ。

 

[ストライキとは、従業員の特権。 会社という自らの所属する組織に下す鉄槌。 発展と研鑽こそが企業の本懐。 発展研鑽には、従業員という歯車が必要不可欠ですわ。 その財産、宝の手入れすらできなくて何が企業か!

 今後経営陣刷新を執り行わないのであれば、外部者であるワタクシも動きましょう。 レージス財閥は労働者の味方であるが故に、労働者の皆様に支援をさしあげましょう。 炊き出しから日用品の支援程度、造作もありませんわ。

 私共の支援は最短でも2ヶ月を行うことは可能でしょう。 ドルトカンパニー弊社に告げます。 改善ができないのであらば、会社の存続が絶望的になると知れ! あなた方に、従業員の方々の怒りを今一度噛み締めて、過ごすことをお勧めいたします]

 

 こうして、マリアンナはこれ以上言うことはない……と口を閉じかけて最後に一言を告げた。

 

[そして、今一度問う。 角笛の守護者(ギャラルホルン)よ、これがあなた達の指し示す正義なのか……と。

 膨れ上がった軍隊の維持には利益追及が不可欠なのは認めましょう。 ですが、驕れる笛は宇宙の彼方までその音色を響かせることは不可能です。

 近々、レージスの名の下に、八輝星(アクトプレアデス)の明星としてあなた方に問いましょう]

 

 彼女は胸元に下げていたチェーンを引き上げて、ある物を示した。 それは赤い宝石に8つの宝石が散りばめられた勲章。 ギャラルホルンにゆかりあるものならば士官学校に納められているため一度は見たことのある伝説の品。

 

[この‘八輝勲章’、の輝きに誓ってあなた方を糾そう。 その時まで、しばしお待ちくださいませ]

 

 瞑目して彼女は改めて、これ以上言うことはないと口を閉じた。

 

[えー、スタッフ一同、あまりの感動に言葉を挟むことができませんでした! これぞ、報道! ですね! 最後に……クーデリア氏。 何か一言をお願いします! ]

[はい。 私は人々の幸せのために。 ギャラルホルンの正義を否定します。 彼らの非道な行いを知ったが故に……断じて認められるものではありません。 私は……かならず、火星の人々を救ってみせます! 革命の乙女として!]

 

 クーデリアは晴れやかな笑みを浮かべて一礼した。

 

[さて、お時間となりました。 ゲストはクーデリア・藍那・バーンスタイン氏と、マリアンナ・レージス氏とお送りいたしました!]

 

 番組は終了。 報道スタッフ達はマリアンナとクーデリアに感謝して拝み倒す始末だった。 視聴率はダントツになり、反響と波紋は広がる……これがどう転ぶかなど、予想するのも分かりきった結果が待っていた。

 

 アフリカユニオンがこの報道に対して粛々と受け止め、今後ドルトコロニーにおける労働基準の見直しを約束した。 そして、大打撃を受けたドルトカンパニーだったが、大規模な人事刷新を図り。 今後に着服、横領の蔓延る悪い文化を根絶やしにすることを誓い。 従業員を大事にする企業へと生まれ変わっていくこととなった。

 

 人の声は人々の心を掴み、揺り動かす。 マリアンナとクーデリアがもたらしたこの「揺れ」はギャラルホルンの支配体制に綻びを生み出さことになる。

 

「なぁ、マリア。お前は一体、何者なんだ……?」

 

 オルガの疑問に今時点で答えられるものは……そこにはいなかった。

 

 ●

 

 ドルトカンパニーの中枢ネットワークに根付いたコンピュータウィルスは排除しないでほしいとマリアンナに要請があった。 正確にはサラヴァンの要請でそのまま置いておくこととなったのだ。 のちにドルトカンパニーの不正不可能な会計ソフトとしてこのウイルスが基盤となるとかなんとか。

 確かな変革をもたらした若者たちはドルト労働組合に見送られながら。イサリビに帰還する道中で──オルガは彼女に対して、改めて強く好奇心を感じていた。

 

「なぁ、マリア」

「はい、オルガ。どうかなさいましたか?」

「お前は一体……何者なんだ? ギャラルホルンだけじゃなく、経済にめちゃくちゃ強くて。 八輝勲章とか言う、とんでもないものも持ってる。 前にお前は普通のお嬢様とか言ってたが、どう考えても普通じゃねえだろ」

「そうですわね……じゃあ、教えて差し上げましょう。 と、その前に歴史を知る必要がありますわ──オルガになら話してもいいでしょう」

「あ、なんだ? 話しにくいのか?」

 

 前を進む三日月とクーデリアを追うように歩きつつ、彼女はオルガに話し出した。

 

「その昔、今よりも優れた文明がありました。 彼らは身の回りのもの全てを自動化、機械化しました。 一説によると──その頃は並行世界との繋がりを持ち、色々な技術や知識が溢れていたと聞き及んでいますわ。 そして、人類総人口は100億人になったと伝わっていますわ」

「100億人かぁ……。 正直、想像もつかねぇな」

「増えすぎた人口のせいで、地球の資源は枯渇ギリギリのラインであったとも聞きますわ。 火星のテラフォーミングはその頃には完了して、労働者入植も並行して進んでいましたけどね」

 

 その頃の人類の栄華はそこが最高潮だったと、彼女は瞑目して語る。

 

「当時地球人類の25%──25億人が火星に移住して地球の人口が減ったのを機に、ボロボロになった地球の再生のためにとある技術財団が発足しましたわ。エイハブ・バラエーナならびにブラフマー・カイエルを旗頭に人類未来設計財団が発足したのです」

 

 そこが人類のターニングポイントだった──と、マリアンナは語る。

 

「エイハブ・バラエーナ……俺でも名前を聞いたことある偉いやつだよな? エイハブリアクターを作り出したって」

「その通りですわ。 エイハブ・バラエーナとブラフマー・カイエルはエイハブリアクターを開発、量産可能にしてから自動機械製造工場を稼働させましたわ。 その工場を、人類の行く末を任せる機械群を地球各地に設置しました。 そして──」

 

 彼女はそこまで語り、ギャラルホルンが箝口令を引いてまで封じている厄祭戦の真実を語る。

 

「人類を導く願いを込めて。 その自動機械製造のコアプログラムで究極の学習型AI。 自己議論、自己進化していくマザーマシン……神の人(ガブリエル)。 そのガブリエルは突如としてある選択を取った。 エイハブ・バラエーナ、ブラフマー・カイエルが驚嘆するような形の回答で」

「どんな回答だったんだ?」

「それは……。 地球環境改善のために、邪魔な人類を排除(・・)する事ですわ」

「は?」

 

 マリアンナの返事にオルガは目を点にした。まるで信じられないと言う顔である。

 

「なぜ、そんなことになったのかは諸説ありますが、結局は不明です──文献が残っていないためですけど。 ただ、人類の自業自得とも言えますわ。 自動機械製造工場の破壊ができなかった人類の……ね」

 

 人類の腐敗が世界の破滅を産んだともなれば、どれほど呆れるような事かとマリアンナは平坦に言う。

 

「もともと無茶な要求をしていたわがままな当時人類は、無茶な期間内に森林を再生させる要求をガブリエルに突きつけたのですわ。 そして、ガブリエルが何度シミュレートしても得られる結果はエラーばかり。 不可能と判断して、ならばと人類の期待に応えるべく──かのAIは人類人口(・・・・)を減らす事にしたのです」

「おい、まて。 スケールがでかすぎてついていけねぇし、理解できねぇんだが……」

「AIの考えることなんてワタクシに理解できるはずがないでしょう? 結果的に、ガブリエルと呼ばれた超AIは人類絶対減らすマシーンにクラスチェンジ。 そこから文明退化の加速が始まったのですわ」

 

 どこか遠い目をするマリアンナにオルガはどう声をかけたものか、と逡巡した。 とは言え、答えを求めるべく質問を投げつける。

 

「……それが厄祭戦のキッカケなのか?」

「起こるべくして起こった機械の叛逆──正解ですわ。 人類文明の衰退……それこそが厄祭戦の前に起こった通称、‘鋼の叛逆’と呼ばれる厄祭戦初期。 機械と人類の戦いで、疲弊した人類文明はそのまま衰退していったわけですの」

「なるほど……そこまで深刻なダメージを負ったわけか」

 

思わず渋い顔をしながらオルガは唸った。

 

「ブラフマー・カイエルを含む地球人類人口75億人の50%。約38億人の命が奪われる最悪の戦争だったと伝わっていますわ。 火星にも自動製造工場があったために戦火は起きましたの……火星では当時人口40億人が住んでいたのですけど、10億人が亡くなったとされていますわ」

 

 オルガは息を呑み、思わずその時代に生まれていなかったことに感謝する。 右を向いたか、左を向いたかの選択で生き死にが決まる世界。 約50%の確率で死ぬ──それこそ世紀末の世界だと感じた

 

「ガブリエルが作り出した機械、モビルアーマー(以後MA)は殺戮を呼ぶとされて神に仕える天使の名で呼ばれた……そして、天使を生産するとガブリエルの稼働可能時間が目減りするとも言われてたけれど」

「殺戮……か」

「今や存在こそが夢幻のビーム兵器を搭載していて、一撃で街一つを消し炭にできるほどのものだったと聞いてますわ。 ただ、MAに対して無力な人類ではなかったとも言えますわ」

「予想してやろうか? 対抗策にMSを作り出したんだろ?」

 

 もうわかりきったことだとオルガは内心で思いながら。つぶやいたが

 

「正確には、ガンダムフレーム……人類は天使を狩る悪魔を生み出した訳ですわ。あのエリゴスやバルバトスみたいな暴力装置を。 人類が滅ぶ事を是としなかったエイハブ・バラエーナと亡きブラフマー・カイエルの息子、シヴァが立ち上がり、作り上げたのが悪魔の名を冠する72機のガンダムフレーム。 そして数多のMSを投入して機械との決戦に臨んだ──ワタクシのガンダム・エリゴスも厄祭戦当時に建造された内の1機ですわ」

 

 と、マリアンナは言う。 そこまで聞いてオルガは

 

「ってこの話いつまで続くんだ?」

「まだ、半分まで行ってませんわ……ギブアップですの?」

「む、いや気になって仕方ねぇ。 最後まで聞いてやるよ」

 

 意外そうな顔をしてオルガを見ながら、マリアンナは引き続き厄祭戦の歴史を語る。

 

「シヴァ・カイエルの息子、アグニカを旗頭にMAと人類の戦い──歴史上の厄祭戦が本格的に勃発。 それよりも少し前から、小競り合い程度の争いはあったと聞いてますわ」

「そこで例の地獄絵図なったってわけか」

「現ギャラルホルン地球本部、海上基地の‘ヴィーンゴールヴ’は元々MSの研究施設。 そこで生み出されたのがファーストロッドフレームであるガンダム・バエルを筆頭にするフレーム09代。 ちなみに、バルバトスも同時期に建造されました」

 

 ガンダムフレームについての補足を終えた。 そして、本題となるレージスの家柄について話し出した。

 

「厄祭戦についてはアグニカ・カイエルの英雄譚を読むことを勧めておきますわ! では、本題……ワタクシのレージスの名前についてお話ししましょう」

 

 それは、ひとりの女騎士の物語。

 

 機械との決戦が終結した世界で、人類対人類の戦争が起こってしまった。 それは10年に及ぶ泥沼の戦争だった。

 

 厄祭戦は史実上P.D.0001年の前年までの期間、20年を指す戦争のことである。

 

 機械との戦争で地球圏人類は約38億人の犠牲を出したというのに、それはそれは愚かな行いだった。 資源枯渇の問題が引き金に、災厄は再び起こったのだ。

 

「そんな世紀末化した世界に、ある日。 10機のガンダムフレームを有した者たちが私設武装部隊を立ち上げて、各地で起こる紛争に武力介入するようになるのですけど。 その組織こそが現代で‘ギャラルホルン’と呼ばれる存在の雛形。 ‘ラタトスク’ですわ」

 

 ラタトスクは当時。ガンダムバエル、ガミジン、マルバス、ムルムル、キマリス、ハーゲンティ、ゼパル、エリゴス、アスタロト、ウヴァルの10機を──最終的にダンダリオンやマルコシアスなどを含め14機だ──保有していた。 が、彼らのミッションは戦争を止めることではなかった。

 

 彼らは紛争による被害を受ける無辜の民を守る為だけに、難民の避難障害となる敵性組織排除に武力を行使。ラタトスクは民を守るために奔走したのである。その在り方は、遠い過去に謳われた騎士のごとく。 悪を抉き、弱き者の盾となる。

 

 その理想を掲げてラタトスクは、次第に大きな勢力となっていき。 ついには世界情勢に干渉できるほどの存在へと成った。 やがて、戦争を長続きさせていた黒幕たちが揃ってラタトスクに討たれ厄祭戦は真の終結となった。

 

 世界の行く末を決める会議。 ‘ヴィーンゴールヴ宣言’で世界はアーブラウ、SAU、アフリカンユニオン、オセアニア連邦の四つの経済界に分けられ、その治安維持の台頭としてラタトスクを雛形とした組織。 角笛の番人(ギャラルホルン)を作り出したのである。

 

 なお、火星の管理も四つの経済界による支配を黙認したのにも理由はあった。

 

 火星の人々だけでは復興できなかった事情もあり、地球の経済界が寄り添って対等に復興を支援していたが──時代が進むごとに、その恩に対して徴税を課すように成っていったという。

 

「人々を守るための組織として産声を上げた当初のギャラルホルンはとても真っ当な組織だったらしいですわ……今や、その名残すら感じられない有様ですけど」

 

 苦笑しつつ、マリアンナは話を戻す。

 

「ギャラルホルンはアグニカ・カイエルとスヴァハ・エタニクルの二名が抜けて、残った8人の幹部が方針を決めていましたの。 イシュー家、エリオン家、ファリド家、ボードウィン家、クジャン家、バクラザン家、ファルク家、そして──―レージス家」

 

 レージス家初代当主、エスメラルダ・レージス。 創設当時ギャラルホルンにおいて厳格な秩序を守っていた女性だった。

 

 厄祭戦の火星にてアグニカと出会い、以降スヴァハと共に彼の副官としてガンダムエリゴスを受領した後は鬼神の如く戦果を挙げた。 アグニカ英雄譚の一節ではMAを総計80機も撃破したと伝わっている。 その功績を讃えられて、GHにて当時最高権威を持つことを示す、八輝勲章を受領した。

 

 だが、ある日を境にエスメラルダは故郷の火星へと帰還した。 その理由は産休だったとされている。

 

八輝星(アクトプレアデス)と呼ばれた幹部会はエスメラルダ様の離脱を機に七煌星(セブンスターズ)に変わり、今のギャラルホルンの運営方針の取り決めをしているらしいですわ」

「つまり……。 お前の家柄は元々奴らに加担してたってわけか?」

「ええ。 発足当時は、ですけどね。 現在は腐敗の温床……。 セブンスターズは世襲を繰り返して腐っていますわ」

 

 マリアンナはため息を吐きながら過去の一例を呟いた。

 

「火星司令部のコーラル・コンラッドには妾になるよう迫られたことがありましたわ……」

「あぁ? どこの奴だそいつは……?」

 

 オルガはそれを聞いて内心でなぜか怒りを覚えた。 ん? と我に帰って不思議なほどに自然な怒りだった。

 

「三日月が斃したグレイズに乗っていましたわ。 戦場でワタクシの声を聞いて殺しに来たのか、という意味合いかは知りませんが喚かれていましたわ。不遜な道化の末路にしてはヌルすぎる気もしますが、今となってはどうでもいいでしょう」

 

 ため息を吐きながらも彼女は話を戻す。 火星に帰還したエスメラルダは子供を無事に出産して育児に勤しんでいたある日。 火星アフリカンユニオン管理地区にて厄祭戦の生き残り、MAが再起動して暴れだしたと彼女に報せがあった。

 

 エスメラルダはエリゴスを駆り、直ぐに現場に急行。 腕の衰えを感じさせない操縦で天使を撃滅してみせたという。50m級の大型MA<エレレート>が火星に現れたりもしたと記録があるのだとマリアンナは語った。

 

「そして、ギャラルホルンが火星の治安も管理するようになり。 ガンダム・エリゴスもお役御免と、鉱山のあるポイントに封じられたのですわ」

「つーことは……」

「はい。 クリュセ地区でレージス家、その名前が力を持つそのルーツがワタクシのご先祖様なのですわ‘女傑’その言葉がぴったりな人だったと聞き及んでおります」

 

 生在るものは皆平等であれ。

 子供には愛を、若者には激励を、老人には慈しみを。

 弱者のために施しを、死者のためには花束を。

 正義のために剣を執り、悪漢には死の裁定を。

 我ら始祖のマリア(エスメラルダ)の名に誓い、総ての邪悪に鉄槌を──

 

 これはレージス家の家訓で、《美徳》に殉じるはレージスの宿命(さだめ)

 

 このため稀代のレージス(マリアンナ)は、今のギャラルホルンとは決して相容れることができないのである。

 

「だから、いつでも堂々としてられるのか」

「ワタクシの敵の弱点は‘総て’、把握していますわ。 それに、クーデリアを地球に送り届けたあとも仕事を依頼するかもしれませんわ」

「……へ?」

「詳細はイサリビの艦橋で話しましょう……。 時間との戦いになるやもしれませんわ」

 

 彼女は手にした端末の記事を見る。 『蒔苗氏、贈収賄疑惑か?』の見出しの記事にルーシカは次の一手を考えるのだった。

 

 ●

 

「蒔苗氏にとにかく会いましょう!」

 

 クーデリアに蒔苗氏が失脚してオセアニア連邦に亡命している事実を伝えましたが、それに臆することなく前に進む意思を彼女は示しました。 ワタクシはその思いを評価致しますわ……! 

 

「まったく、貴女は誰に影響を受けたのでしょうね……」

「──ここで止まったら絶対に後悔する。 私はそんな後悔をしたくない!」

「……よくお聞きになって、クーデリア。この裏には、アンリ・フリュウ議員とイズナリオ・ファリドの癒着問題がありますわ。

 まったく、贈収賄で摘発する人間を間違ってる時点で救いがありませんわね。ともかく、挽回の一手があるからこそ蒔苗氏は貴女を地球に呼んだのでしょう」

 

 ワタクシはエドモントンからオセアニア連邦に行くことを伝えて……

 

「よし、目的地は決まった! 昭弘の帰りを待って俺たちは地球に向かうぞ!」

『おぉぉぉぉー!』

 

 一致団結。 One for all ですわ! 

 

「ちょっといいかい……?」

 

 と、艦橋に入ってきたのはオレンジの髪に金の瞳の美丈夫──カール・ジョージさんです。 プロフェッサーが雇った元相棒さんらしく……阿頼耶識のピアスを4本有している人です。 ……なお、カールは偽名だそうです。

 

「ん? なんだ、ジョージ……さん?」

「タービンズの名瀬氏に頼まれごとを引き受けた。 君ら、船をハンマーヘッドに牽引してもらってるよね?」

「ああ、ブルワーズの船か? おやっさんたちが向こうでマン・ロディの装甲換装に使ってるって言ってたが……」

「あの船の艦長をいい加減に決めてくれとの話だが……俺は傭兵でこの阿頼耶識が使える。 俺を艦長にしねぇか?」

「ウチでアンタを艦長として雇えばいいのか? なら、あの船の名前を決めてくれ。 採用できたらあんたを雇ってや「鉄華団だから「華」名前を冠した船があってもいいだろう? 空咲花(ハナビ)でどうだ?」──採用! ……っは!?」

 

 イカした名前だぜ! とオルガは無意識に即決。 ジョージさんはしてやったりの顔ですわね。

 

「よし、そんじゃよろしくな、団長さん。 俺のことはジョージで構わねぇよ」

 

 ひらひらと手を振って艦橋を後にする彼をワタクシたちは見送り……

 

「あの人、ほんと不思議な雰囲気だよな……飲まれるっていうかなんていうか……」

「カリスマ性ってやつなのか?」

「謎の多い人だもんなぁ……クソぅ、プロフェサーの姉御狙ってたのに……」

 

 ユージンとチャド、ダンテは所感を述べつつ、血涙を流す勢い。 リア充爆発しろ、ですかね? そして、シノが乗ることになったグレイズ改あらためピンクの塗料で塗り直した二代目流星号の阿頼耶識調整をウェル博士に行ってもらい、ピアスの改修を行って。 タービンズのドックから帰還した昭弘とその乗機、《ガンダムグシオン・リベイク》をイサリビに積み。 ハナビにはマン・ロディの装甲換装版たる、宙陸兼用装甲版のランドマン・ロディ5機を艦載。 残りのマン・ロディは売りに出したようです……もともと不調のものもあったらしいので仕方ないでしょうね。

 

 しばらくして、出航の準備が整い。

 

「よし、イサリビ。 出航だ!」

『ハナビ、出航。 教えた通りにやれば問題ないから気にするな』

 

 オルガが出航の合図を出して。 ジョージさんは元ブルワーズのヒューマン・デブリの少年たちをブリッジクルーに採用したようです。 後で名前を聞いておかないといけませんね……

 

「接近するエイハブウェーブを確認。 これは……ハーフビーク級戦艦! MSの反応6機!」

「面倒な……なら、こっちもMSを出すぞ! ミカと昭弘、マリア、シノを出す! プロフェッサーは船の護衛を頼む!」

『こっちからはマン・ロディを4機出撃させる。 そちらのMS出撃までの時間を稼ぐ! 主砲、ミサイル用意!』

 

 鋭い指示の飛ぶ艦橋からワタクシも飛び出して格納庫に。 軽く相手をして逃げるとオルガの立てた作戦の指示に従いましょう……パイロットスーツに着替えるのも時間が惜しいですわ! 

 

「雪之丞さん、エリゴスはこのまま出撃致しますわ! パイロットスーツは飾りみたいなものですわ!」

 

 言うやいなやワタクシはエリゴスのコックピットに飛び乗り、阿頼耶識のピアスをカバーに接続。

 

「おい、マリア……ったく! ガンダムエリゴスの出撃準備だ!」

 

 エリゴスの起ち上げ、それに並行して画面にはフミタンのナビゲートが。

 

[接近しているMSの数は2、追従している物も合わせますと6機です。 ハナビより出撃したMS2機が中距離から応戦している模様です]

「ナビゲート感謝しますわ、フミタン。 了解ですわ! 雪之丞さん!」

「よーし、エリゴスを下ろすぞぉー!! 下ぁきぃ付けろよぉー!!」

『うーすッ!!』

 

 ハンガーから離れ、カタパルトにうつ伏せで固定。 下のカタパルトユニットに移動……

 

[エアロック作動。 ハッチ、開放します──カタパルト、電圧上昇。 スタンバイ……パイロットにタイミングを譲ります]

[では、エリゴス。 マリアンナ・レージス──参りますわ!]

 

 カタパルトを起動してエリゴスは宇宙に飛び出しました……会敵まであと──

 

 to be continued

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