鉄血のオルフェンズ 黒騎士 作:クソメガネザル
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戦闘宙域では5機のランドマン・ロディとグレイズ4機が戦闘を繰り広げていた。
[デルマはアストンの援護を!]
[わかった! アストン、仕掛けるぞ!]
[了解だ! ──っ昌弘、そっちに1機いったぞ!]
[見えてる! ちょいさっ……!]
グレイズの手にしたバトルアックスとチョッパーを激突させて、切り結ぶ昌弘。 彼をリーダーにしたハナビMS隊は相手のグレイズ隊と戦っていた。
[ビトー、アイツ邪魔だ]
[おう、やっちまおうぜ。 ペドロ!]
縦横無尽に宇宙を飛ぶ2機のランドマン・ロディ。 サブマシンガンを叩き込み、装甲を穿たれるのを嫌がったグレイズは盾を掲げて銃弾を防ぐ。
[そらよ!]
[くらえ!]
盾を構えていたグレイズに銃弾を撃ち付け、身動きを制動しながら、ビトーとペドロの2人は
[[ダブル、ライダァァァ……キィィィィッックゥゥッッ!!]]
──2機はやたらと熱い掛け声とともに、強烈なドロップキックを叩き込んだ。 それはグレイズの盾を砕き、頭部と左肩に脚部をめり込ませて突進。 足裏のスラスターを噴かしてグレイズを噴き剥がしてデブリに叩きつける。
あまりの衝撃にグレイズコックピット内で激しくシェイクされたパイロットは、MSのモニターで頭を強打。 あっけなく、失神した。
[次の相手は]
[どいつだ!]
ライダーキックを決めた2機から離れた場所では。
[ほらほらほら!]
[背中がガラ空きだぜ!]
デルマがサブマシンガンによる牽制で相手の動きを抑えてアストンが連携してチョッパーをバックパックに叩き込み、姿勢制御が困難になったグレイズの横腹をデルマが明後日の方向に蹴飛ばしていた。
相手を無力化した余韻。 それに浸っているデルマは次の獲物を探そうと、辺りを見渡す。 そこに油断と慢心がツケとなったのか。
[次だ、アス……危ない、アストン!]
[っ!?]
気がついた時にはバズーカを構えたグレイズがアストンに銃口を向け、榴弾を発射していた。
ナノラミネートアーマーは強固ではある。しかし高温に曝されると剥がれ落ちるという弱点がある。
そのため、榴弾を喰らうとマズイと回避しようとも間に合わない……その間に滑り込む影が一つ。
[させませんわぁぁぁ!!]
シールドを構えたエリゴスが間に入り、榴弾を受け止めた。 閃光が爆ぜて爆煙が辺りを包む。
爆煙の中から翡翠色のツインアイが輝いて妖しく光る。 左肩に懸架していたロンギヌスを素早く握ると、同時にローパワーモード──その威力は4分の1。
電圧のチャージ完了と同時に引き金を引き、閃光が吼えた。 その一撃はグレイズの左肩フレームを喰い千切り、吹き飛ばした。
[アストン、デルマ。 損傷はありますか?]
[今んとこ問題ないよ、マリアンナさん]
[ありがとうお嬢さん。 うん、俺もデルマはまだやれる!]
合流したと同時にエイハブウェーブの反応が増大。 先行してきたため、他の機体はまだこの場に到着していなかった。そのため、その反応が示すのは……新たな敵影の接近を示すものだった。
[この反応はツインリアクター……固有周波数確認。 ガンダム・キマリスですか。皆さんに、手短に指示を出します、昌弘とペドロ、ビトーと合流して撤退なさい。
ハナビ隊は戦艦の防衛を! 最悪の場合アリアンロッドとの戦闘もあり得ます……プロフェッサーだけでは心配ですから、皆さんで護衛をお願いしますわ!]
[え、でも……]
[アストン、ここはお嬢さんの指示に従おう。多分、やばいんだよね?]
[ええ、今から来る相手はあなた方では手に負えない
[指示に従おう、みんな! マリアンナさんや、兄貴たちの邪魔をしちゃいけない!]
ルーシカの言葉を遮りながら……一騎打ちに望んでいた昌弘は、ハンマー部でグレイズの胴を潰してから胸部に膝装甲を叩き込んで蹴飛ばした。
[これを持って行きなさい。 ローパワーならランドマン・ロディでも使用可能ですわ!]
マリアンナはロンギヌスをデルマに、ヘビィマシンガンをアストンに託す。
[わかりました、みんな。 戻るぞ!]
『了解!』
昌弘はスラスターを噴かして戦線を離脱していく。 相手側のボロボロなグレイズたちも、動ける機体は損傷の激しい寮機を引っ張って撤退して行く。
ルーシカはそれらを見逃しながら、迫る新たな機体にメインカメラを向けながらハナビ隊に通信を寄越す。
[ワタクシたちの帰る場所を頼みますわ!]
『応ッ!』
[さて、来なさい!]
ふと視界の端で何かが煌めく。 それがスラスターの残光と見切った彼女は、リアクターのリミットを1段階解除。
ルーシカはバルムンクを抜き、急接近してきた機体の突撃槍と切り結ぶ──とても頑丈なバルムンクだからこそできる荒技かつ。 その槍の穂先のど真ん中を薄い刃で受け止めたのだ。
[ぐ、こちらの奇襲に気がつくとはなぁ……さすがだな、ツノ付き!]
そしてリアクターの反応が示すのは、ツインリアクター。 固有周波数は‘ガンダム・キマリス’でガンダムフレームの1機だ。 操縦しているのは……ガエリオ・ボードウィン。
ルーシカはスラスターのスロットルを全開にして、相手の押し込みに耐える。 阿頼耶識の反応値を最大に引き上げてリミッターを少しだけ外した。
[この出力、この性能……想像以上だ! バエル宮殿からわざわざ引っ張り出しただけの性能はある……! そう思うか、ツノ付きぃぃぃ!]
[──おもちゃを手に入れてはしゃぐ子供か、あなたは]
[その声……女だと!?]
接触回線を開くと。ルーシカは持ってきていた仮面を被り、口調を変え声を出した。 身体に害のないほどとはいえ、負荷はかかる。 もしかしたら相手がこちらの反応速度を上回るかもしれないと用心して、リミッターを外した影響か。彼女の鼻から鮮血が流れ出たのを手で拭いつつ。
[失礼、煽る気は無かったのだが……な!]
[くっ! この操作性……やはり、阿頼耶識か!?]
槍の腹を蹴飛ばし相手の体勢を崩すと、マリアンナはシールドを構え。 メインスラスターの出力を一気に上げて加速。 そのまま盾をキマリスの腹部に叩きつけて弾き飛ばすと、ウイングバインダーを展開して反転。 スラスターを噴かして反対方向の敵MS隊に突っ込んだ。
[っ! 行かせるか!]
キマリスは脚部の装甲を展開、高出力バーニアを露出させる高機動形態に変化してエリゴスの背を追う。
直線加速の出力は互角に近いエリゴスとキマリスなのだが背後から迫るキマリスに対して、突如振り向き盾を構えるエリゴス。 受け止めて迎撃するつもりなのだろうか。どちらにせよガエリオにとってはそれは好都合だった。
[血迷ったか、ツノ付きぃぃぃ!]
盾を突き破り敵を串刺しにするイメージがガエリオの脳裏に浮かぶ。 そして──グングニールは盾を……貫けなかった。スラスター出力を同等に保ち、受け止めたエリゴスは吹き飛ばされることはなかった。
[だぁ、にぃ……!?]
[その程度ではこのシールドを貫くことなどできないぞ!]
真正面から受け止められた衝撃のあまり、ガエリオは一瞬の隙を晒す。 その隙を逃さず、エリゴスはシールドを押し込みつつキマリスにバルムンクを突き立てようと迫る。
[く、舐めるな!]
[その肩、貰い受ける!]
キマリスの肩装甲がせり上がり、スラッシュディスクが飛び出す。 それを上半身をわずかに反らせるさせることで避けたエリゴスはそのままキマリスの左肩装甲に鋒を突き込んだ。
[な、貴様ぁぁ!]
[1人で飛び込んでくるとは、あなたはイノシシなのか? せめて連携くらい──む]
[特務三佐から離れろぉぉぉ!]
アラートが鳴り、キマリスからバルムンクを抜き離れたエリゴスに銃弾が飛来する。 マリアンナは慌てずシールドで受け止めてティルヴィングを起動。展開して相手を狙うが
[アインか、射線から逃れろ! あのレールガンの威力を舐めるな!]
[了解です!]
ガエリオの檄が響く。 ルーシカが狙いを定めたシュヴァルベグレイズは射線から逃れるようにして膝のバーニアで離脱。 援護としてか、キマリスはグングニールの、二連装120mm砲でエリゴスを穿つが、それらはシールドに阻まれる。
[特務三佐、お怪我は?]
[問題ない。 左肩のスラッシュディスクがお釈迦になったくらいだがな。助かったぞ]
その後ろにぞろりと揃う4機のグレイズ。 しかし、そこへ──
[ごめん、マリア姉。 遅れた……ていうか早すぎ]
[歩調くらい合わせろよ、マリア。ったく、推進剤だって有限なんだぞ]
‘ガンダム・グシオン=リベイク’。
グシオンの装甲を取っ払い、歳星で生産されたバルバトスとエリゴスの予備パーツで再構成、改修された機体であり、昭弘の専用機体だ。
エーコ・タービンズ並びにルーシカ、ナタリアが提案した改修案から強化されている。
厚かった装甲は薄くなってはいるが、その分機動性と継戦可能時間が伸びている。
また、展開式のシールドを両腕部に仕込んでおり、打撃用武器として使用可能なナックルシールドを装備していた。
[かぁ〜、はえぇな! ガンダム・エリゴス! なぁ、お前ら。俺の‘流星号’名前負けしてねぇか?]
[[知らねー(よ)]]
こうして。バルバトス、グシオン=リベイク(以下グシオン)、流星号がエリゴスの元に到着した。
シノの駆る流星号はピンク色……シノのメインカラーに装甲を塗り替えられていたのだ。 流星号のカラーリングにGHの隊員たちは困惑しつつも120mmライフルを増援のバルバトスに向ける。
[マリアにいいとこ見せんだよな!]
[今はそんなことはどうでもいい。アイツの援護をするぞシノ、三日月!]
言いながらシノはバトルアックスを手にシュバルベに躍り掛かる。 昭弘のグシオンは120mmロングレンジライフルを手に、援護に回る。
[マリア姉、あまり殺さないほうがいいよね?]
[……なぜですの?]
[だって、動けない奴らを見逃してただろ?]
嘆息しつつ。 彼女は無駄な殺生を控えようとしていただけであるが、三日月はそれを見習うと言う旨の選択をとるらしい。
[自分がやられそうな時はヤっておしまいなさいな。 なるべく殺さないように、ですわ]
[ん、わかった]
[あと、あのガンダムフレームはワタクシの相手ですわ。 グレイズの数を減らしてくださいまし]
[……注文が多い気がするけど、やってやるさ!]
バルバトスはメイスを構えて吶喊する。 散開したグレイズ隊だがバルバトスは滑空砲での狙撃により、頭部を弾き飛ばし、格闘戦を挑もうと迫る者はメイスの一撃で蹴散らし始めた。 さらにバルバトスは両腕の改良型ワイヤーアンカーを2機に打ち込み、牽引回転。 それを流星号とグシオンの方へと遠心力を利用して投げ飛ばした。
[乱戦か……クソ!]
[一対一の勝負を受けても構わないが?]
[ほざけ!]
挑発するがそれに乗らず、距離を離してキマリスは一時離脱、そして十分な距離を置いて加速しながら、バルバトスに迫る。
[言っているだろう、あなたの相手は私だと!]
その間に割って入るように、エリゴスが目の前に現れる。 しかし、キマリスは止まらなかった。
[かかったな!]
[む……!]
突進しながらキマリスの頭部から閃光弾を発射して、エリゴスのセンサーを一時的に無力化した。
[あの世で悔いるがいい!]
視界を奪われたマリアンナ。 しかし……彼女は焦らなかった。
[目など飾りだと言うに……相対性センサーで補足すれば良いだけだ!]
キマリスのグングニールはコックピットを一直線に狙う。 対するルーシカは、盾の曲面を活かし……穂先が30°の鋭角に入りかけていたその攻撃を、表面を滑らせるように受けわずかに後退。
その攻撃をいなしつつ体勢を立て直して、バルムンクの柄頭をキマリスのバックパックに叩き込み。 胴部装甲に膝装甲を抉り込んだ。
[な、がはっ!?]
[センサーを一時的に無効にしたのはいい判断であり……悪い判断です。 阿頼耶識は感覚的にMSを操縦できるシステムですよ? 通常のMS相手ならこの選択は、間違いでは無かったでしょうがね]
コックピットを激しく揺らされたキマリスの装甲はへしゃげ、バックパックからはスパークが散っていた。エリゴスの膝装甲も損傷していたが……動けないダメージではなく、そのままキマリスを蹴飛ばして、マリアンナは声をかける。
[その損傷では存分に戦えまい。 日を改めて出直してくるがいいさ]
[ぐ、ぬぅ……おのれぇ……]
[名前くらいは教えておこうか、私はとある貴族様にこのMSを借りている。《騎士姫》だ……また会おう、ガエリオ・ボードウィン卿]
エリゴスは興味を失ったかのように背を向けて飛び去っていった。 その後を追従するようにしてバルバトス、グシオン、少し損傷していた流星号が飛び去っていく。
[特務三佐! 申し訳ありません……せっかくの機会を]
[構わん、アイン。こちらの完全敗北だ……あの騎士姫とやら、相当な手練れだな。 こちらの人員を殺害ではなく無力化。 おまけに機体を壊して次の戦闘に差し支えを及ぼして妨害策をとるか……]
[アリアンロッドの追撃もあの放送のせいで、できないと報告がきています。 八輝勲章を持つ者を擁しているため迂闊に攻撃ができないらしいです……]
[チィっ、とんだ狸だなアイツ……利用できるものはトコトンとまで利用するタチだ]
アインのシュヴァルベは比較的損傷は軽微であり、キマリスは装甲が変形しているが、内部フレームは無事だった。
[はぁ、キマリス・ブースターも持ってきておいて正解だったな。 換装に手間取るかもしらんが、早めに奴らを追いかけるぞ。 騎士姫をとっ捕まえて火星人どもを強制送還してやる!]
[は、はい!]
[アイツに頭を下げる事態だけは避けたかったが……仕方あるまい]
[特務三佐……?]
[構うな、こっちの話だ]
なお、スレイプニルの戦艦に積載されていた8機のグレイズたちはボロボロで、この後にガルス・ボードウィンに騎士姫を名乗る者から修理代の補填が振り込まれるのは少し先の未来での出来事である。 そこには‘ささやかな謝罪を送る’との事だった。
そんな未来をつゆ知らず。ガエリオは雪辱を雪ぐ準備をすべく、スレイプニルに帰還するのだった。
●
「アリアンロッドの艦隊は俺たちをスルーした……この意味はやっぱり……これのせいか?」
「ええ、おそらくですけど」
ワタクシの胸に下げられた赤い褒章を指差してオルガは渡りに船か……とつぶやきました。
イサリビに帰還したワタクシたちはアリアンロッドの大艦隊の間を破るように堂々と突き進み、包囲網を抜けました。 流石に八輝勲章を所有するワタクシを擁した船がどちらかわからない以上、荒事に持ち込まず避けたことは賢い判断だと評価すべきですわね。
「アリアンロッドは手を出してこないのは確定ですわ。 ともかく、ハンマーヘッドと合流してどうするかを考えましょう……地球外縁軌道統制統合艦隊からの妨害は考えられますから」
そうして数分後。 ハンマーヘッドから名瀬様とアミダさんがやってきました。 ついでにハナビの艦長、ジョージさんも呼びます。
「さすがの手腕だな、策士様」
「流石にセブンスターズの戦艦が仕掛けてきたときは驚きましたわ。 で、ワタクシに聞きたいことがあるのですよね?」
「山ほどあるさ、まぁ情報戦に強いのはお宅のメイドさんたちが有能すぎるっていうのが納得出来た。豪商の器、俺にお前さんをテイワズに引き込めっていわれっちまったよ」
名瀬様の物言いに苦笑しつつ、ある程度の事情を伝えて意見交換です。
まず八輝勲章ですが、万能の権限ではありません。 ある程度の融通が利き黙認させることができる強権ではありますが、部隊艦隊を服従させることは困難。
「ああ。 お前さんの権限さえあればこのまま降下出来るわけじゃないんだな?」
「アリアンロッドのラスタル氏はワタクシ達に手を出すのを是とはしなかった。 しかし、地球外縁軌道統制統合艦隊のカルタ・イシューがどう動くかは……わかりませんわ。 ともかく、降下船は欲しいですわね……」
「そもそも、八輝勲章は統制艦隊には通じないな。 奴らは基本的にお飾り扱いされてるからこう言ったケースで出番なら大義名分が向こうにある以上、仕掛けてくるぞ?」
ジョージさんの意見。 痛いとこを付いてきます。
「まぁ、ワタクシさえ生きていれば良いと判断するでしょうね。 もしくは、八輝勲章を回収すれば問題なく終わる話ですわ」
「普通の手段じゃ地球に行くことは無理だろうしなぁ……」
と、エイハブウェーブの警告が。
「接近するエイハブウェーブを感知致しました。 反応から見て船でしょう……向こうからの通信が来ていますが?」
「船は何隻だ?」
「1隻です。 数的にギャラルホルンではない気がしますが……」
フミタンの報告にオルガは名瀬様とうなずき合い。
「正面に出してくれ」
「では……繋ぎます」
イサリビの艦橋正面モニターに銀髪に金色の仮面を被った男性が映されます。
[突然申し訳ない。 モンターク商会と申します……代表者の方とお話がしたいのですが]
ここでの年長者は名瀬様。 よって名瀬様が応答をなされました。
「タービンズの名瀬・タービンだ。 その、貿易商殿が一体何の用だ?」
[ええ、実は一つ商談がありまして。 今をときめく、鉄華団の皆様に]
◯
ワタクシ達はハンマーヘッドの応接間に、モンターク商会の社長。 モンターク氏を通して、対面する事となりました。 商談とあらば、と名瀬様はワタクシに出番を丸投げされました。
「此度の商談にご検討頂き、誠にありがとうございます。 改めまして私の名はモンターク……モンターク商会の社長を務めさせていただいております」
「ご丁寧にありがとうございます。 ワタクシはレージス財閥が代表取締役、社長を務めています。 名をマリアンナ・レージスと申しますわ。 火星のしがない田舎財閥のワタクシどもが、地球圏では有名な商会と取引できるとは……至極恐悦の極みですわ」
「こちらも、火星でハーフメタル産出量トップクラスの鉱山を所有する財閥令嬢と話ができるとは思っても見ませんでしたよ……ありがたい出会いに感謝を」
名刺を出されましたので、ワタクシも懐から名刺を取り出して交換に応じます。 ビジネスはまず名刺交換から。 流暢な筆記体の英語で情報が書かれています……相当なこだわりを感じますわね。
とまぁ世辞の言い合い、これは相手の思惑を謀る前哨戦。 それで、彼らの……いいえ。
「では商談と参りましょうか。 私どもにはクーデリア・藍那・バーンスタイン様ならびに鉄華団への支援として。 地球降下船の用意があります。 我々、モンターク商会は革命の乙女。 クーデリア様が起こす革命のお手伝いをさせていただきたいのです」
「……つまり、あなた方はクーデリアと鉄華団のパトロンに申し出たいのですわね? 対価は……ノブリス氏、マクマード様、ワタクシ達のハーフメタル利権絡みですわね?」
「いやはや、流石に商談に慣れておられますね。 その慧眼、恐れ多い……流石、改革の淑女だ」
「机上の空論ですわよ? それをなし得る保証ばどこにも―「ドルトコロニーでの一件。 私はあなた方に輝きを見たのです。 この汚れ腐った世界で眩しく輝く綺羅星のようなあなた方に」―っ……なるほど」
彼の真意もわかりました。 ハッキリと……
「いかがでしょうか? 即決とまでは行かず、ご検討をお願いできないでしょうか?」
「期限……返事はいつまでに?」
「そうですね……あまり時間も残されていません。 地球外縁軌道統制統合艦隊の動きも気になりますので、お早めの決断をお願いします」
「それを決めるのはワタクシではなく、クーデリアだということはお忘れなく」
「もちろん、承知していますとも」
そう言うと、モンターク氏は立ち上がり。
「ああ、それと。 お近づきの印に提供したいものがあります。 提供品を受け取ってもらいたい……八輝勲章を授かった末裔の《騎士姫》に、ご期待している印とも言っておきましょう」
それを言い残して、彼は部屋を後にしていきました。
取引の全ての決定はクーデリアにあります。 彼女がこの取引を飲むか飲まないか──そんなの、分かりきった選択ですわよね、クーデリア?
●
イサリビに荷物の納品に来たモンターク氏はオルガとビスケットに立ち会い、納品を確認した。
そして、彼を送る途中で三日月が搬入が終わったとオルガに接触した。
「ていうか、チョコの人。 何やってんの?」
「フッ、君にはバレてしまったか。 あの時の双子さんは元気にしているかな?」
「うん。 チョコの人がまた来たらお礼にトウモロコシの醤油焼き奢るって言ってたよ?」
「はははっ! そうか。 ならば火星に寄ったときは是非とも訪れなくてはいけないな」
呑気な会話をする三日月とモンターク。 チョコの人……? とビスケットの頭の中でその行動に該当する人物は1人しかいなかった。
「な、なんであなたが!?」
「……あん? ……ギャラルホルンの奴か!? まさか俺たちを罠に……!」
「君たちを罠にかけても私に得はないよ」
苦笑しながらモンタークは、自らの思惑を語る。
「私はただ、腐敗したギャラルホルンを変革したいと考えている。 より自由で、民主的な組織に。 そのために、外部の存在たる君たちに目をつけたわけさ──君たちには外側から働きかけてほしい。君たちならできるだろう? 現にここまでクーデリア・藍那・バーンスタインを導いているのだから……」
「まーそいつは確かになぁ……で、お前さんは本当にファリドの末裔か?」
その声は突然モンタークの背後から聞こえた。 隙はなかった。 なのに。 なぜ? なぜだ?
とその後に混乱が巻き起こる。 なぜ知っている。 なぜ私に血縁がないことを知っている? その疑問に思考を塗りつぶされながらモンターク……いや、チョコの人ことマクギリス・ファリドは振り向いた。
「な、あ、あなたは──」
「変革を呼びたければ独りよがりはやめておけ。 友を作れ。 共に悪さをできる悪友でもなんでもいい……共犯者を探せ。 心を許せる友を見つけ出せ、さすれば貴様の想い描く理想は現実となるだろうさ」
じゃあなと手を振り去っていく艶やかなオレンジの髪の後ろ姿。 振り返ったその黄金の瞳と仮面越しに翠の瞳、その視線が交錯する。
曲がり角に消えて言った男を見送り、モンタークは冷静になる。
「……という事だ。 ああ、私の正体は、他言無用で頼むよ。 まぁその点では
ではと言い残してマクギリスはその場を後にして行った。 その後ろ姿を見送る三人は……
「ジョージさん見てチョコの人元気になったのかな? なんでだろ?」
「俺に聞くなよ、ミカ」
三日月とオルガの気の抜けたやり取りに毒気を抜かれたビスケットは今後の計画を立てようと2人をブリッジに連れていくのだった。
◯
(悪友か……悪友ならば、ガエリオがいる。 しかし……)
「旦那、旦那? どっか打ったんですか?」
「ん、いや。 考え事をな……」
「ふーん」
髭を弄る、気の無い返事をするちょび髭のトドはマクギリスことモンタークの様子がいつもと違うことに気がついた。 何かいいことがあったんだろうか? 商談が大成功したのだろうか? 憶測はあながち間違いではない。 今……全てを理解したマクギリスの心の奥底では……
(間違いない。 私をファリド家の血縁者でないことを見抜いた彼の慧眼。 そしてその圧倒的存在感。 間違いない。人に悟られないように背後を取るあの神出鬼没な人柄……オレンジの髪と黄金の瞳……身長186cmで針金のような肉体。 間違いない。 間違いない、間違いない、間違いない、間違いない……)
臨界点を突破した感情は爆発した。
「フハハハ、フハハハッ! わかった、わかったぞぉぉぉぉぉ!! 今現代に蘇りし彼こそが真なる頂点! あなた様の導きに私は従おう! 鉄華団が第二のラタトスクならば私は彼らに付き従おう! 真なる自由の世界を! 彼方の理想に殉じるのであらば我が本望ここに達成されたし!! 彼なら、いや、あの方ならば! アグニカ・カイエル、アグニカ様! ジーク・アグニカ! ジィィィィク・アグニカァァァァァ! 素晴らしきかなこの人生! まさにハレルゥゥゥゥゥヤッッ!」
「一体どうしちまったんだ、旦那ァァァ!?」
トドは叫び、ブリッジクルー達はアグニカキメてるいつものことだと。 スルーして仕事に励んでいた。
伝説と遭遇したマクギリスは何処の世でも。ご乱心するのかもしれない……この後にクーデリアは決心して、モンターク商会との取引は晴れて成立するのであった。
to be continued