鉄血のオルフェンズ 黒騎士   作:クソメガネザル

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第13話

 ⚫︎

 

 マリアンナは動きながら、ガンダムフレームに共通する特殊装置を起動させる──彼女がそれを使用するのには準備が必要となるため、その時間を稼ごうとモンタークと三日月の即興コンビが前衛に、後方支援として昭弘、プロフェッサーが。 遊撃にシノが仕掛ける。

 

[君の動きに合わせよう、リードは頼むよ]

[えっと、じゃあ……よろしく。 チョコの人]

[任された]

 

 残り15秒

 

 三日月が仕掛け、メイスを突き込む。 そこへモンタークのMS、グリムゲルデがフォローに回る。 突きを躱し、応戦しようとエリャンヘルが大型アックスを振り上げるところへ。

 

[させないよぉ〜! 左側が死角みたいだから、狙うんだ、昭弘少年]

[了解! とっととくたばれ、クマ野郎が!]

 

 プロフェッサーのタイミングのいい援護射撃が届き、昭弘も器用に仕事をこなす。その援護射撃は敵機右腕部の大型アックスをマニュピレータから弾き飛ばし、更にプロフェッサーが射かけた銃弾が武装を地球側に向けて弾き飛ばす。

 片方の武装を失ったグレイズ・アインズだが、そんなものは構うものかと。 もう片方の斧を振り下ろすも、グリムゲルデの双剣に受け止められる。

 

 残り10秒

 

 止められ、弾かれ。 体勢を崩した敵機体の脚部関節にヴァルキュリアブレードを二本とも突き込む。 そしてその勢いのまま、関節部を切り裂いた。

 エリャンヘルは高速で動き、撹乱するグリムゲルデに対しては我武者羅に大型アックスを振り回して牽制するも、援護射撃が何発も直撃するのを嫌って冷静に立ち回り始める。

 

 残り5秒

 

[◾︎◾︎◼︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎◾︎◾︎◼︎◼︎ッッ!!]

[いい加減、お前……邪魔だ!]

[しぶてぇぞテメェ、さっきのお返しに鉛玉を喰らいやがれ!]

 

 怒り猛り、斧を振り回すエリャンヘルに出来た隙を見計らい、掴んだ隙の糸を繋いだ三日月はメイスでその肩装甲を殴りつけ、凹ませる。

 シノが連携で敵の大型アックスとバトルアックスで切り結ぶもバトルアックスは粉々に砕け散るが。流星号は大型アックスを躱しながら背後に周り。スラスターに至近距離でサブマシンガンを叩き込む。

 それは決定打になり得なくとも。誘爆したスラスターが制御不能になり姿勢を崩すエリャンヘル。それでも、なお。その妄執とも言える闘志は萎えなかった。

 

[──トドメだ……っ!]

[◾︎◾︎◼︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎◾︎◾︎◼︎◼︎ッッ!!]

 

 バルバトスはがら空きの背中にメイスの先端を叩きつけ、パイルバンカーを叩き込む。 突き刺さったパイルはさらにスラスターを破壊。 しかし、エリャンヘルは寸前でのところで身を捩る。

 

[チッ、しつこいなぁ!]

 

 そのせいか、コックピットに直撃はさせれなかったが、パイルは装甲を穿ち先端が貫通していた。イライラを募らせる三日月は隙を突かれてしまい、大型アックスにメイスを弾き飛ばされてしまう。が、バルバトスは太刀を抜くと斬りかかった。

 

[すまない、これ以上は離脱が困難になる……]

[分かった、ありがとうチョコの人。 もういいよ]

[そうか……お言葉に甘えさせてもらおうか──武運を祈る]

 

 敵機の残りの装備である大型アックスと切り結びながら、グリムゲルデは敵機の背中を蹴りつけて離脱していった。

 

[◼︎◼︎◾︎◾︎◼︎◾︎◾︎◼︎◼︎◾︎◾︎◼︎◾︎◼︎◼︎ッッ!!]

[本当にしぶといな、お前……!]

 

 しつこく食い下がる敵機に対して苛立ちを募らせる三日月。 そこへ、何者かが乱入した。 満身創痍の敵機に対してマシンガンの斉射した2機のMS。

 

[援護するよ、三日月!]

[すまない、遅れた分は働くよ!]

[! ラフタとアジー……? その機体は?]

[説明は後で──ってなに!?]

 

 ラフタは直感的になにかが来ると感じた。 赤い残光を残し飛来したそれは……圧倒的膂力をもってして。 その大きな体躯をたやすく弾き飛ばした。

 

[皆さん、降下船へ。 ワタクシが殿を務めますわ……30秒で仕留めましょう……行きますわよ、エリゴス!]

 

 赤く光る双眸をギラつかせた漆黒の悪魔が堕ちた英雄(エリャンヘル)の前に立ちはだかる。

 

 リミッター封印解除(Limiter unlock seal) ──精神深度 ステージⅠ(Mental depth Stage Ⅰ)

 

 戦況は動いた。

 

 ●

 

[オルガ。 少しの間通信が繋がりませんが、気にしないで降下を始めてください]

 

 ワタクシはオルガにタイマーメッセージを送り、ちょうど20秒後を目安にして開封されるように設定しました。

 皆さんが稼いでくれている時間……ワタクシはOS中枢システムに強制アクセスして、エリゴスのリミッターを解除するつもりです。

 

「行きますわよ、エリゴス。力を、貸してください! ……コレは、なかなか、キますわねぇ……!」

 

 阿頼耶識を通して流れ込む情報の塊。 ナノマシンによる拡張した脳の処理速度を持ってしてフィルタリングしつつ、必要な情報だけを一瞬で剪定してワタクシは取得しますが、それでも膨大な量ですわ……。

 

 しかし、それもすぐに慣れて。敵の弱点足り得る場所にマーカーをセットしていきます。皆さんの奮戦を、決して無駄にはしない!

 バルバトスのメイスが作った凹み。 敵機のへしゃげた胸部装甲、ナノラミネートアーマーには小さな亀裂が入っています。 そこをピンポイントで突き穿つ。 単純な答え……皆さんがくれた20秒で、その相手の動きはもう見切りました。

 

 ならば次にワタクシがすることは……エリゴスの枷を外すこと。

 

[皆様、ありがとうございます。 ワタクシに導きをくれて……行きますわよ……エリゴスッッ!!]

 

 ワタクシは吼える。

 

 ──シーケンス確認、最終オーダー。 警告、阿頼耶識システムのデータ許容量をオーバーします。

 

「ええい、システムの警告が煩い! エリゴス……早くリミッターを……解除なさ……い!」

 

 今までにないこのデータ量に目眩が、視界がチカチカと明滅する……ですが……この程度……! 左目の目尻からは血涙が流れ、鼻からも血が……

 

 ──最終警告。 阿頼耶識システムのデータ許容量をオーバーします。

 

「アァァァァァ……グッ! ──ワタクシに……不可能は……ない!」

 

 ──最終オーダー承認。 リミッター封印解除(Limiter unlock seal) ──精神深度 ステージⅠ(Mental depth Stage Ⅰ)

 ──ASW-G-15 GUNDAM ELIGOS Alaya-Vijnana System connection tolerance limit first step.

 

 精神深度ステージⅠ 機体出力50%上昇。 反射感度10%向上。 警告──慣性制御性能ダウン。 機体Gからの保護機能低下。

 

その程度(・・・・)……どんとこいですわ……その程度……! エリゴス、身体欺瞞をっ!」

 

 ──オーダー受理。 痛覚及び身体機能一部を欺瞞します。

 

 さぁ、行きますわよ……この先に。 エリゴスはワタクシに応えるように、その翡翠の双眸を狂気を含む血よりも鮮烈な赤に移行させる……

 

 さぁ、蹂躙の時間ですわ。

 

 ●

 

 圧倒的出力で弾き飛ばされた‘名もないパイロット’は怒りを覚えた。 さっきから相手の一匹も潰せない。 吼えても立ち向かってくる相手に。

 

[◾︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◾︎◼︎◼︎◾︎◼︎ッッ!!]

 

 言語中枢などとうの昔に失った。交わす言葉はなしと言わんばかりにパイロットは吼えながら、残った大型アックスによる攻撃をエリゴスに叩きつける。 しかし、相手は回避の素振りすら見せない。 そしてわずかに……ほんのわずかに、機体を横にずらして斧の軌道を見切り紙一重もかくやと言わんばかりに避けてみせた。 次いでコックピットを襲う衝撃。

 

 胸部装甲を蹴上げられる感覚の後にメインカメラを向ける、敵機は距離を取りながら、こちらに加速……その速度は弾丸が如く。 肉薄し、エリゴスはコックピットを狙い一閃。 しかし、危機を感じた彼はとっさに身を引くと。アックスも引きながらその一閃を避けるが……スラリとした感覚の後に。 自身の、武装の頭が半分以上切り飛ばされていた。

 なぜだ? なぜだ? 通常、高硬度レアアロイの武装はこうも簡単に破損はしない。 どうしてだ? なぜだ? と喪われつつあるなけなしの理性に疑問を持つコアパイロット。しかし、センサーは簡潔な答えを指し示す。 その破損の仕方は、滑らかな(・・・・)切断面が物語っている……と。

 

[あと、20秒……これで終わらせますわ]

 

 そんなことはどうでもいいかと、彼は思考を放棄する。 破損した武装を放り投げ、両マニュピレータを回転させ、スクリューパンチを起動する。

 武器がなければ殴ればいいと、脚部のドリルキックも起動しようとするが、回転しない。

 

 先ほどのグリムゲルデとの戦闘で脚部モーターを切り裂かれ、破損しているが為に無理もない。

 

 そこへ輝く赤い双眸、残光の尾を引き迫るエリゴス。 宇宙(そら)に幾重もの赤い尾が重なるが如く。 自身の装甲を削り散らして行く。

 エリゴスは、マリアンナは。 無情に、只々敵機の破壊のために剣を振るう。 盾を薙ぐ。 蹴りつける。苦し紛れの右ストレートをわずかな挙動で見切り避けて。 そのまま伸びきった肩のフレームジョイント関節部に、剣の鋒を捻り込まれ右腕は機能を喪う。

 

[◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◾︎◼︎◼︎◾︎◼︎◾︎◼︎ッ!]

[耳障りですわ]

 

 剣をそのまま縦に跳ね上げて右肩から先を切り飛ばしながら、滑らかに動き。 エリゴスは強烈な蹴撃を胸部装甲に叩き込む。 エリゴスの向上したその出力により、ナノラミネートアーマー含めその装甲。 刻まれ続けていた凹みが一段と大きくなる。

 

 弾き飛ばされたグレイズ・アインズはスラスター制御、無様に踊るように身を捻り相手を捕捉しようと懸命にエリゴスを見据えるが……爆発的な加速でこちらに迫るエリゴスを捉えた時に、とっさに左マニュピレータが、唸りを上げて。 高速回転させつつ、アッパー気味に迎撃する。

 この反応速度、さすがは阿頼耶識か……このまま行けばカウンター気味にコックピットを貫けるだろう。 だが、相手が悪すぎた(・・・・・・・)

 敵機体は繰り出されるカウンターを脚部スラスター、バーニアを最大限に利用して速度を落とし、渾身のカウンターアッパーを上体を逸らして回避。 エリゴスはグレイズ・アインズの胸部装甲を蹴り、距離を離す。

 

 次に敵機、その姿をメインカメラで捉えた光景──コアパイロットが最期に見た光景は、ナノラミネートアーマーの剥がれた胸部めがけて……コアコックピットに黄金の剣を突き込む姿だった。

 

[◼︎◾︎◼︎……──ありがと……う……]

[哀れなものに、魂の救済を]

 

 そして、黄金の剣は。 コアコックピットを貫いた。

 

 ◯sideオルガ

 

「あいつは一体どういうつもりだ!」

 

 通信が途絶したエリゴスのツインカメラが不気味に赤く光ったと思えば、その圧倒的出力であのデカブツを撃破した……その時間はたったの15秒だ。

 MS7機でやっと拮抗勝負だったのを。 蓄積していたであろうダメージを頭に入れても簡単に撃破しすぎだ。

 それまでならまだいい。 ルーシカの乗る、エリゴスのツインアイは光を失い糸が切れた操り人形みたく。 ──側から見てもわかるように機能停止していた……俺たちから、他の奴らからも通信を寄越してもなんの反応もしネェ! 

 

[だめ、エリゴスと通信が全然繋がんない!]

[焦るんじゃないよ、ラフタ!]

[このままじゃ、地球の重力に惹かれて単機大気圏突入しちゃうよ!? いくら頑丈なガンダムフレームでも大気との摩擦には耐えれない……無理だよ!?]

 

 ラフタさんにアジーさんとプロフェッサーも焦りを隠せない様子で、降下船に取り付いてる他の連中も焦りを隠せてない……あんの馬鹿……! 

 

「何を、何やってんだよ、マリアァァァッ!」

 

 通信機越しに怒鳴りつけても……

 

[──……]

 

 あいつは応えない。 俺の中で嫌な焦りが、脳裏に最悪のイメージを叩きつける。 降下は始まっている……もう後戻りはできない……! 

 

「オルガ、このままじゃ……!」

「マリア! ──マリアァァッ!」

 

 お嬢さんの叫びが聞こえる。 隣のビスケットも焦りを隠せていない……あいつがここで死ぬ……? フザケンナ、フザケンナよ……! 

 

[オルガ、ごめん]

「……ミカ……?」

 

 降下船の外を見ると、ブースターを噴かし飛び上がるバルバトスの姿が見えた……っ! 

 

「何やってんだ、ミカッ!」

[このままほっとけないだろ? 何より、オルガが嫌だろ? マリア姉が死ぬなんて、オルガが嫌なら……ううん、俺も嫌だ!]

 

 そいつは、はっきりとしたミカの意思だった。 これ以上誰一人として欠かさせたくない……と。

 

「わーったよ! マリアを助けろ! そのかわり、死ぬなよ、ミカ!」

[勿論だ、任せて]

 

 そこで通信が途切れる。 窓の隔壁がせり上がる……大気圏に突入を開始したんだな……

 

「だめだ! 通信が繋がらない!」

「ミカならやってくれる……あいつを信じろ、みんな!」

 

 そうだ。 家族を信じねぇで……何が家長だ! 

 

 ●

 

 オルガが一生懸命にマリア姉に通信を繋いでる。

 教官(プロフェッサー)、昭弘。 シノにラフタ、アジーも……それにしても、さっきのエリゴスの動き、すごかったな……

 

「なぁ、バルバトス。 お前もアレ、できるのか?」

『――』

「煩いなぁ、これでも一応何かできないかって考えてるんだからさ」

 

 と言ってみたけど、何も思いつかない。

 

[何を、何やってんだよ、マリアァァァッ!]

 

 オルガが一生懸命に叫んでる……このままいくと、マリア姉がしぬ……死ぬ。

 

 そんなの嫌だ。 まだ、オルガを助けてもらわないといけない。 それに……歳星でどんちゃん騒ぎをしたあの日。 オルガはお酒のせいか、酔ったせいなのか。 たしかに俺に言った。

 

《俺はお前らに帰る場所を作れた。 その手伝いをしてくれたマリアにはまだまだ恩は返せちゃいねぇ……たしかに、アイツは怖い女だ。 誰よりも先を見据えてるし、筋の通らないことをすると笑顔でキレる。 俺たちがまだC.G.Sの頃、俺たちに初めて手を差し伸べてくれた変人だが……俺はそんなあいつが好きだ。 あいつが居なくなると思うと……ゾッとしねえな》

 

 それを聞いて羨ましく思った。オルガにとってそんな特別な人なんだ、マリア姉は。だから、俺は……

 

「オルガ、ごめん」

[……ミカ……?]

 

 俺はバルバトスを動かした──あの人を、オルガにとって、俺にとっても大事な人を助けるために。

 

[何やってんだ、ミカッ!]

「このままほっとけないだろ? 何より、オルガが嫌だろ? マリア姉が死ぬなんて、オルガが嫌なら……ううん、俺も嫌だ!」

 

 オルガに素直に理由を言う。 筋を通せば、オルガは……

 

[わーったよ! マリアを助けろ! そのかわり、死ぬなよ、ミカ!]

 

 こう言うに決まってる。 エリゴスの腕を掴んで、オルガに返事をかえす。

 

「勿論だ、任せて」

 

 通信が途切れた。時間がないみたいだ。不意に、バルバトスの声がした。

 

『――』

「そんなこと言うなよ、バルバトス。 俺にはみたい場所があるんだ」

『――?』

「オルガが連れて行ってくれるところだ、俺たちが行かないといけない場所だ。俺はそこが見たいんだ……だから! こんなところじゃ死ねないんだよ」

『――……』

 

 素直に俺は、バルバトスに言う。なんだかんだコイツの事がわかってきていたから。

 

「だから……お前も一緒に来い、バルバトス!」

 

 思いをぶつけた、隠す必要もないけど。

 

『――』

「うるさい、一言多いんだよオマエ」

『――』

 

 バルバトスは憎まれ口を叩きながらどうするかを俺に教えてくれるようだ。言われた通りにエリゴスの腕を掴むと、バルバトスはエリゴスに話しかける。そしてその声が俺にも聞こえてきた。

 

『――?』

『――ダレガシンジュウナド!テヲカシテホシイ、ミカヅキクン』

「生き残るために?」

『――』

 

 話を聞くと、動かなくなっているデカイのを盾にして摩擦を逃れる事ができるみたいだ。たしか、にコイツの大きさなら盾くらいにはできそうだ。

 

『――アンテイシタ、ミカヅキクンタチモコチラニ』

 

 エリゴスの目が光ると勝手に動く、どうやらエリゴスだけでも動けるみたいだ。俺は土台に太刀を突き刺してバランスを取り、エリゴスを支えながら大気圏に突入。それにしても、すごい振動と音だ……ちょっとだけ怖いな。

 

『カンシャスル……』

「そう。マリア姉は?」

『バイタルハアンテイシテイル、キヲウシナッテイルダケダ』

「そっか、よかった」

 

 こうして、大気圏を抜ける。 俺もマリア姉も……生き残れたみたいだ……

 

 こうして感じると、地球の重力って……すごいんだな……

 

 ◯

 

「オルガ、大気圏抜けたよ! 地球だ!」

「ミカは!? マリアは!?」

 

 ビスケットが大気圏を抜けた事をオルガに伝える。 降下船の窓、隔壁が下がり機内は慌ただしくなった。 オルガは窓から見える範囲を、焦りながら確認する。

 

「マリアは無事ですか!? 三日月は!?」

「三日月! マリアさん! ……大丈夫だよね!?」

「落ち着いて、二人とも。 団長さんや皆さんも探してくれてますから……!」

 

 メリビットがクーデリア、アトラ両名を宥めて落ち着かせる。 そんな中でオルガは窓から見える一筋の光を見つけた。

 

「あれは……バルバトスか!?」

 

 それは大気との摩擦をナニカ黒い物で防ぎながら赤く輝く流星が如く。 バルバトスがエリゴスを支えながら──装甲や部品がバラバラになっていくエリャンヘルを踏みつけて盾に、大気圏を突破してきたのだ。

 

「三日月、マ”リ”ア”ざん……!」

「よかった……無事だったんですね……!」

 

 三日月、マリアの乗る2機のMSは健在だった。 大気圏を抜けたバルバトスは遮蔽に使っていたデカブツから太刀を抜き、もう用はないと蹴飛ばす……慈悲はなかった。

 

「よかった……二人とも無事だったんだ……!」

「あいつら……ヒヤヒヤさせやがって。 ──無事でよかった……」

 

 安堵するオルガ。 一方のコックピット内の三日月はモニターに映る水に覆われた水平線を見渡して。

 

「これが……地球。 あれが……」

 

 空を見上げると、ぼんやりと光る物を見つけた。

 

「あれが、三日月」

 

 ボコボコの不細工な形の三日月が発する月明かりに照らされて、鉄華団とクーデリアは……地球へと到着したのだった。

 

 ●

 

「シノ、キッチリ見張っとけよ!」

「わーってるって!」

 

 シノに見回りを任せて、グシオンとアガレスがエリゴスを運搬し、砂浜に下ろしていた。

 

「おい、ハッチ開くぞ! オルガ、手伝え!」

「開くつっても、どうすんだよ……」

「私に〜、お任せくださいなのですぅ〜」

 

 緊迫した状況の中で、間延びした声。 気が抜けそうになりながらもオルガは

 

「わかった、ハッチを開けてくれ。 えーっと?」

「フィル・フィオ・アストナージですぅ〜。 マリアンナ様に雇っていただきました〜。 今後とも、よろしくですぅ〜!」

 

 言いながらぺこりと頭を下げたフィルは仰向けに寝かされたエリゴスに取り付くと、持っていた端末にデータを打ち込んで次々とロックを解除していく。

 そして、コックピットハッチが開き、シートがせり上がった。 月明かりに照らされながら、小さくうめき声をあげる彼女はぐったりとしており。 目尻、鼻付近には流血の跡が残っていた。

 

「ッ! だれか! Dr.ウェル呼んで来い!」

「阿頼耶識のピアスカバーを外しますから、団長さんは、お嬢様を運んであげてくださいませ〜」

 

 言いながら、フィルは端末を操作して。 マリアンナの阿頼耶識ピアス……その接続を切ると。 一度そこを退く。

 

「……わーったよ! お前らも、そんな目で見んじゃねえ!」

 

 オルガはマリアンナの肩を持ち、彼女の腕を首に回す。 背中に手を回して、ふともも付近を持ち上げる。

 

(や、柔らか……じゃねぇ! ……こいつ、こんなに軽かったのか……)

 

 脱力したヒトは重いものだと聞いていたが、マリアンナはとても軽かった。

 

「どこに寝かせてやりゃいいんだ……?」

 

 立ち竦むオルガが、フィルや他の団員たちに軽く嵌められたと気がつくのには時間がかかった。

 その様子をちゃっかり写真に収めていたメリビットや、他団員たちにオルガが終生からかわれるネタができた瞬間だった。

 その後、色々あって目を覚ました彼女に後々散々いじられる羽目になるとは知らずに……オルガはマリアンナの柔らかさと温かさを感じ取るのであった。

 

 to be continued

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