鉄血のオルフェンズ 黒騎士   作:クソメガネザル

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第6話

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 タービンズによる先導の元、航路を進み数日。木星コングロマリットテイワズが拠点の‘歳星’に到着したワタクシたちは、現在。

 小舟の遊覧。 水路を通り、マクマード氏が邸宅に移動しております。 火星から木星圏。 つまり圏外圏まで、ここまでの長い道のりの中で、ワタクシはラフタたちとシミュレーターの訓練で勝負を続け、結局一度も負け越すことなく彼女達を阻みました。

 

 もともとエリゴスに搭載されていたシミュレーター。 アグニカ・カイエルの駆るガンダムバエルの戦闘データをもとに訓練、研鑽している道中。 まだまだ道は長いのですわ。アグニカ・カイエルの機動パターンは地球圏重力想定下でも物理法則無視なので勘を鍛え、直感を研ぎ澄まさないと攻撃を当てることすらままなりませんのよね。今までバエルを撃墜できた試しはありませんけど、いつかは超えてみせますわ! 

 と、そんなことを考えている間に。 到着致しましたわね……ワタクシのお屋敷と同等の大きさですわ。流石、大商人の側面を持たれるお方の邸宅ですわ。

 

「いいか、お前ら。 この先にいる男は圏外圏で1番恐ろしい男だ……くれぐれも、失礼のないようにな?」

 

 いつもの白いスーツとは違う黒のスーツに黒の帽子をかぶる名瀬様のどこか緊張した声がユージンとビスケットに伝わり、姿勢を正す二人。

 

 ワタクシ以外にオルガ、三日月、クーデリア。 ユージンとビスケットの名瀬様。計7名でお邪魔しています。

 

「存じておりますわ。 豪商マクマード・バリストン氏……顔合わせは初めてですけれど」

「へぇ、嬢ちゃんも緊張はするんだな」

「実際に会うのは初めてですわ。それと名瀬様、ワタクシも人ですのよ? 他の皆さんと同じく、人並みに緊張くらいします」

「はは、違いねぇ」

 

 ニヤリと笑う名瀬様……人を人形みたいに言わないでくださいまし! 

 

「よぉ、久しぶりだな」

「お久しぶりです、タービン様」

 

 そして、見てくれからカタギとは言えぬ、スキンヘッドのお方に名瀬様が親しげに話しかけられます。

 

「本日はどのようなご用件で?」

「ああ、親父に用があってきた」

 

 頷くとスキンヘッドのお方は部下らしき方々に指示を出して……鉄柵の門を開いてくださりました。

 

「さぁて。 じゃあ行くか」

 

 気さくに、名瀬様は邸宅内に入っていきそれにワタクシたちも続きます。手入れの行き届いた玄関先。 そこを潜り抜けて執務室らしき場所に入りますと、鋏で盆栽の手入れをされる大柄な男性がいました。

 

「ん? 来たか、名瀬……そいつらが?」

 

 着物を着用した特徴的な稲妻のようなヒゲのダンディなお方。 この殿方こそが、マクマード・バリストン。

 

「ああ、こいつらが親父に会わせたいって言ってた骨のあるやつらさ」

「ほぉ。 お前らが、か……。 ほう、いい面構えしてるじゃねえか……んで……」

 

 どっかりと椅子に身を任せて座るマクマード氏。 ワタクシに目を向けられてますけど……

 

「おい、客人たちに‘カンノーリ’を出してやんな。 もてなし一つできねえとはテイワズの名折れだ」

「へい」

 

 部下の方を下がらせて、指示を出されるマクマード氏。思わず惚けるワタクシとオルガ。

 

「え……?」「はい?」

「おめーら。まずは俺からのもてなしを受けてくれや」

 

 ワタクシ達は庭に連れられて行くと運ばれてきたのはお菓子。筒状の生地にこれでもかと生クリームと果物……イチゴを詰め込んだモノでした。懐の深いお方というかなんというか……困惑していると。

 

「好々爺な親父に戸惑ってるんだな? 嬢ちゃん」

「聞いていた話とは違う。というより、道理の通らないことはしないお方なのですわね」

「はっはっは、そこまではまぁ見通せるか?」

 

 そして歳星で卸した鹵獲品。グレイズを2機ほど売り払うことになったのを確認したのちに。再びワタクシたちはマクマード氏に呼び出されまして。そして、マクマード氏は名瀬様に話を聞きます。

 

「で、名瀬よぉ。 お前はこいつらをどうしたいんだ?」

「こいつらは大きな山を張れる奴らだ」

 

 名瀬様はオルガを認めている模様……ワタクシたちの知らないところで見てくださっていたのでしょう。

 

「親父、俺はこいつに。 オルガに盃をやりたいと思っている」

「ほぉ、お前が男をそこまで認めるか……珍しいこともあるもんだな」

「ああ、ちょっとばかし青くせえがほっとけないと感じてな」

 

 マクマード氏が意外そうな顔をして驚いていらっしゃいます……名瀬様は頬を掻きながらもドヤ顔ですわ。

 

「まぁ、いいだろう。 俺の元で義兄弟の盃を交わせばいい。 それでタービンズと鉄華団は晴れて兄弟分だ」

「タービンズと俺らが兄弟分……」

 

 オルガは兄弟と言う言葉に反応したのかボソリとつぶやいています。

 

「で、貫目は?」

「五分でいい。 どっちが上か下もない」

 

 不敵に笑いながら名瀬様は、オルガの性格を汲んで対等の立場を希望された模様ですわね……

 

「ふ、お前が良くてもなぁ……―周りが許さんだろう。 その貫目は若いこいつらには荷が重い。 せめて四分六にしておけ」

 

 マクマード氏は、名瀬様に迷惑がかかる。 そう言う意味も込めて四分六……オルガへの心配なのでしょうが、オルガ本人は納得がいかない模様。

 

「一つお伺いしてもよろしくて?」

「ん? そぉいや、嬢ちゃんは何者だい?」

「あら、失礼しましたわ。 ワタクシはマリアンナ。 マリアンナ・レージスと申しますわ」

「ほぉ……火星のレージス財団の経営者様って訳か。 知り合えて光栄だよ……で、なんだい? 意見があるなら歓迎だが?」

 

 ワタクシの名前を聞いてマクマード氏は嬉しそうな顔をして下さります。 そして、目を細めてワタクシに鋭い眼光を寄越されます。 水を差すような真似はしたくありませんでしたが……

 

「では、無礼を承知ですが。意見を述べさせていただきますわ――少なくとも、その貫目を許さないのは周りの方々ですわよね?」

「嬢ちゃん。 俺たちにゃあ譲れない‘メンツ’ってもんがあるんだが?」

「それも承知です。 ワタクシが聞いているのは、テイワズの長としてあなたはオルガに何を見ましたか? 名瀬様はオルガに可能性を見出して下さり、あくまで対等にと取り計らってくれたのですわ」

 

 名瀬様は苦笑しながら、オルガは思わぬ発言に真っ青……マクマード氏がどう思っているのかを知りたいが故にワタクシは尋ねているのですわ。

 

「いいかい嬢ちゃん、俺たちの世界で貫目ってのは大事なもんだ。 上下に厳しい世界なんでな、こいつらだけ例外って訳にはいかんのさ」

「しきたりを重んじておられるのですわね……素晴らしくもあり、滑稽でもありますわ」

「ほう……」

「おい、マリア! 何言ってんだ!」

 

 あえて、戯言を言って煽ります。 マクマード氏の目元から笑みが消え、プレッシャーを感じます。 が……オルガがワタクシを諌めてくれました。

 

「俺たちはそれで構わねえ! 納得もしてんだ。 下手にマクマードの旦那を刺激するようなことはよせ!」

「おい、オルガって言ったな?」

「へ? ……は、はい」

「クハハハッ! ──俺の重圧を差し置いて動けるとは大した肝してやがるじゃねえか。 名瀬が認めるのもうなずける……いいだろう、さっきは済まなかったな。 お前さんを俺の裁量で図る間違いをしちまってな」

「え? ええ!?」

 

 思わぬ謝罪に目を白黒させるオルガを差し置いて、ワタクシも謝罪いたしました。

 

「ワタクシの挑発に応じず、笑って流されてはこちらの完敗ですわ……先ほどの非礼、お詫びを申し上げます」

「フ、お前さんも見所があるぜ……ただの頭でっかちのガキかと思えば、あの俺の目から視線を逸らさねぇ剛毅な構え。 呆れを通り越して感心したよ」

「っ……。ぉほん、豪商のマクマード様にそう言っていただけるのは光栄ですわ」

「ハッ、ガキの戯言を笑って許すのが大人さ。 ま、精進するこったな」

 

 喧嘩を売られても悠然に……これがテイワズを取りまとめる男ですか。 悔しいですが、本当に悔しいですが──ワタクシはまだまだ子供ですわ。こうしてマクマード氏の用があるとクーデリア。 護衛の三日月以外の面々は外に出ていかれました。

 

「ああ、マリアンナ嬢も残りな。 この話に咬んどいた方がいいぜ?」

 

 とマクマード氏に呼び止められた私も残る運びに……何故ですの? 

 

「さて、こっからは嬢ちゃんたちに話を聞きたい……まずはあんたが、火星独立運動家のお嬢さんでいいんだよな?」

「はい。 クーデリア・藍那・バーンスタインと申します」

「おう、こりゃ丁寧にどうも」

 

 慇懃無礼。 赤いドレスのスカートをちょこんとつまんで会釈するクーデリア。

 

「時の人に御目通りで来て光栄だ……っつたら気に障るかい?」

「いえ、時の人と言われても仕方はありませんので……」

 

 クーデリアは思わず苦笑といったところでしょうか。葉巻を吸いながらマクマード氏は話を続けます。

 

「お嬢さんは火星経済最盛のために、地球側の決めたハーフメタルの規制解除要求。 火星での独自流通を目指し、地球にまで出向く……これが今までの流れで違いねぇな?」

「はい。 私の歩んでいる道筋は仰られる通りです」

 

 マクマード氏の青い瞳が真っ直ぐにクーデリアを映します……そこにある真意を探るような目で。 一服紫煙を吸い、吐き出しながら

 

「こっちの掴んだ情報では、現アーブラウ市長の蒔苗は本気でそれを通そうとしているらしい」

「──本当ですか!?」

 

 華の様に笑顔を咲かせるクーデリア。 しかし……ワタクシはそれに眉を潜めます。

 

「ワタクシは素直に……めでたい反応はできませんわね。 下手すると戦争になりますわよ?」

「……え? どういうことなの、マリア……?」

「ほぉ、俺の言いたかったことに気がつくか。 マリアンナ嬢」

「当然ですわ。 規制が解除されたら企業間の、組織間の利権争い。 水面下でいろいろな動きが、暗躍があっておかしくありませんわ……どんな事情があれ、利益を独占できるチャンスで動かない者は愚か者だけでしょう?」

「流石な慧眼だな。 たったの2代で鉱山運営からあのノブリス・ゴルドンと張り合える財閥を築いた名家のお嬢さんだ。 話を戻すが、もし戦争が起これば長引くだろうな」

「そ、そんな……私はただ……!」

「クーデリア……」

 

 クーデリアは再び自分のせいで戦火が起こるという事実に打ち拉がれている模様です。 マクマード氏は紫煙を吹かして思案をしておられます……そして

 

「お嬢さん、ここはテイワズを指名してくれないかい?」

「テイワズを……?」

「ああ、ウチをな。 お嬢さん直々の指名って大義名分があればこっちでなんとかできる。 マリアンナ嬢、何か異議はあるかい?」

 

 意地悪なおじ様だこと……反論の余地も許さない事は明白故に答えなど決まっているも同然ですわ。

 

「クーデリアがテイワズを指名したとあればワタクシは何も言えませんわ。 いいえ、そういう事ですもの」

「理解が早く、潔いいときたか……商人間のトラブル対処に慣れてるって事かい?」

「火星に蔓延る、あくどい企業は潰して回りましたが故に。 ですが、それは早計でなくて? それを決めるのはクーデリアですわ。 財団といえどワタクシの庇護下に彼女を置けるわけではありませんからテイワズが理想なのは《確か》でしょうけど」

「それには違いない。 お嬢さんはどうだい?」

 

 話を聞きながら、クーデリアは迷っている模様ですわね。

 

「もう少し、考える時間をください……」

「……考える必要があるのかい?」

 

 じっと見つめられたクーデリアはワタクシを見て、三日月を見て……「決断を下すのはワタクシではなくて貴女でしょう? 」と口に仕掛けた時に護衛の仕事をしていた三日月から意外な助け舟が出ました。

 

「これは、アンタが決めることだよクーデリア」

「三日月……?」

「どっちにしろこれからも人は死ぬ。 ……遅いか早いかの違いっていうのかな……?」

 

 言葉を区切り噛み締めるような三日月の言葉にマクマード氏は反応なさりました。

 

「今まで、ギャラルホルンも鉄華団、その他だって関係なく血を流してきた……このことでわかってるだろ?」

「そ、それは……」

「これは多分俺が最初に人を殺した時と同じ……クーデリアのこれからを全部決めるような決断だ……」

 

 いつになく饒舌な三日月に、呆気に取られたワタクシ……この子、こんなに喋る子でしたっけ? 

 

「もし、クーデリアがどんな結論を選んだとしても後悔しちゃいけない……そんな大事な選択だ。 そういうのは自分で決めないといけないんだ」

 

 少し目頭が熱くなってまいりました……知らないところで教え子が成長してるなんて……感激ですわ! 

 

「なるほど。 確かに、そいつは一大事だ」

 

 そして、燻らせていた葉巻の火を消したマクマード氏も同意いたしました。

 

「いいだろう、少し待とう」

「ありがとうございます……!」

「だが、俺も老いぼれだ。 そうそう長く待たさないでくれよ?」

「はい! では、今日はこれで失礼いたします」

 

 クーデリアは挨拶して退席。 三日月も続くように出ようとします。

 

「若い衆、名前は?」

「三日月・オーガス」

「三日月……ああ、お前さんMS乗りか?」

 

 こくりと頷く三日月。

 

「よし、お前さんのMS、ウチで見てやろう」

「……は?」

「ウチの職人は腕がいいやつばかりが揃っていてな……」

 

 要領を得ないという顔の三日月にマクマード氏は

 

「気にするこたぁねぇよ。 ジジイの気まぐれだ……取り上げやしねぇよ」

「お言葉に甘えておきなさいな、三日月。 無償でバルバトスの整備をしてくれるんですし」

「マリア姉がそう言うなら……お願いするよ」

「おう、任せな」

 

 それを聞き届けた三日月も軽く会釈をして退席していきました……さてと。

 

「で、マリアンナ嬢」

「ええ、商談と行きましょうか」

 

 ワタクシの戦いも始まりますわ……! 

 

 ●

 

「火星でのハーフメタルの規制解除……それにワタクシ共も参加させてもらうことは可能でして?」

「ああ、それに関してはお互いの損益をハッキリさせてくれるなら構わねぇぜ?」

「それ故に、商談ですものね」

 

 ルーシカはマクマードに自身が齎す益を語る。

 

「まず、ワタクシ共。 レージス鉱山との取引において、ハーフメタル、レアメタルの優先取引企業としてテイワズを指名致しますわ」

「そのメリットはなんだい?」

「そちら方の仕入れの金額を4割引きさせていただきますわ。我が鉱山、まだまだ採掘域はありますし、潤沢な資源だからこそできる提案と言うわけですわ」

「ハーフメタルとレアメタルの価格4割引だと……?」

 

 ルーシカの提案に驚き、胡散臭そうなものを見る目になるマクマード。

 

「それが一つ目の益ですわ。 もう一つは……《ソリッド・フレーム》の設計データの譲渡ですわ」

 

 言いながらルーシカは所持している端末にセキュリティコードを打ち込んでナンバーロックを解除した。

 

「《ソリッド・フレーム》……? なんだいそりゃ」

「私の設計したMSのフレームですわ。 エイハブリアクター1基のまだロールアウトしていない機体ですの」

「そいつはたまげた……お前さんMSの製造までやっちまったのか」

「作れたのは1機の試験機だけですわ。 こちらの設計図を無償で送らせてもらいますわ」

「まてまてまて、一体何企んでやがる?」

 

 ルーシカの指し示す好条件に怪しさを感じるマクマード。しかし、彼女は呆気からんに物を言う。

 

「企んではいませんわ。 強いて言うなれば……今回のクーデリアの地球行きは様々な変革を齎すと睨んでの先行投資ですわ」

「先行投資ってのは納得した。 だが、どうしてウチに新造MSフレームの設計図を預けるんだ? 嬢ちゃんのところで大々的に売り出しゃ……この性能なら文句なしで「ギャラルホルンには売る気はありませんの」……なるほどな」

 

 ピシャリと言うルーシカにマクマードは苦笑した。 ともかく、このフレームをテイワズで量産できれば更なる収益開拓をもたらすに違いなかった。

 流線型のスマートなフォルムに似合わないグレイズを超えた出力。その膂力の秘密は精緻なエイハブ粒子の流動制御にあり、無駄(ロス)の少ない出力調整の結果にある。

加速性能は百里に優らずとも劣らない。 ブロック単位での部品構成による整備性の高さなど、現行のMSにはない特性が見て取れていた。

 

「わかった。 うちの職人たちは狂喜乱舞してお前さんの設計した技術体得に向けて走り出すだろう……試験機はどうするんだい?」

「鉄華団に譲渡しますわ。 これで宣伝にもなるでしょう?」

「なるほどな。 確かに先行投資ってのは間違いじゃねぇ」

 

 彼女がテイワズに齎す益にマクマードは瞑目し、答えを出した。

 

「ここまでの好条件を指し示されて尻込みしちゃ豪商の名前が泣く。 お前さんが規制解除後にこの話に噛むのを認めるよ」

「ですが、損の説明をしていませんわ。 ノブリス・ゴルドンが起こそうとしているドルトコロニーの騒乱に手を貸さないことですわ」

 

 その一言で思わず渋面になるマクマード。それはナタリアから齎された情報にあった‘クーデリア・藍那・バーンスタイン殺害計画’を潰すべく彼女は手を打ったのだ。

 

「……よく気がついたな。あァ、たしかに手を貸す手筈だったが」

「ワタクシの情報網を侮られては困ります。諜報から情報入手等々を得意としている集団を抱えていますの……裏を取っていますわ」

「なるほど、な。戦争において大事なのは情報戦ってのは心得てるみてぇだな」

「イズナリオ・ファリドの収賄の情報も掴んでいますわ……他にも」

「おっと、それ以上は聞きたくない……くわばらくわばら──だな」

 

 ‘好奇心、子猫を殺す’とマクマードは耳をふさぐ。 彼はマリアンナの抱える深淵の一端を見た気がしていた。 そして、なによりも……その在り方に関心を持った彼は彼女に賭けてみようかと博打に打って出たのである。

 力強いその眼差しは容易に折れることを知らないのだろうと、機体をそして……鉄華団の命を背負う覚悟を見せたような、そんな光を彼女から見た。

 

「ですが、鉄華団がその積荷を運ぶ必要はありそうですけれどね……クーデリアにきっちりと世界の現状を見定めてもらいたいですし」

「ドルトに立ち寄る口実にあえて見逃す……と?」

「見逃しはしませんわ。 犠牲が出るとわかっているならその数を抑えるのは義務ですもの」

「──こっからは俺の独り言だ。 鉄華団に託すドルト行きの積荷、そのコンテナには地球圏に持ち込むだけで問題になっちまうブツが入ってるらしいぞ? 細工でもして中身は確認したほうがいいかもな」

 

 ルーシカはその独り言を聞いて思案しつつ

 

「有意義な取引でしたわ。 本当にありがとうございます」

「ふ、こちらにもいい取引になった……ありがたいことこの上ない。 そうだ、お嬢さんもMSをウチに預けないか? どのみちオーバーホールはしておいて損はないと思うが?」

「……わかりましたわ。 ワタクシのエリゴスをよろしくお願いしますわ」

 

 失礼しますと言葉を残してルーシカが部屋を去っていった。 残されたマクマードは嘆息一つしつつ。 自分にまっすぐに要求を突きつけてきた図太い少女の成長に期待している自分に苦笑して。

 

「まったく、アレが‘英雄の血筋’か……納得しないといかんのかねぇ」

 

 清濁を併せ呑む在り方も大事だが、と彼の独り言は葉巻の残り香とともに、宙に溶け消えるのであった。

 

 to be continued

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