鉄血のオルフェンズ 黒騎士 作:クソメガネザル
マクマード氏との商談を終わらせたワタクシはオルガたちと合流して、モールに買い物に行ったりとサイセイでの観光を楽しみました。 なおその一幕。
年少組のお土産にお菓子を持ち帰ったり致しました。
「ウフフ、どうですか? オルガ」
「お、おう……き、キレイだな……その黒のドレスが」
「おい、オルガ。それはさすがに」
「──失礼ですわね!? お世辞でも普通に綺麗って言って欲しかったですわ!?」
オルガを連れて召し物のドレスを買いに行った時はとても、とても失礼なことを言われて少しショックでしたけど……気にしないほうがいいですわね。
ちなみにですが、名瀬様もいっしょに来られていたのでニヤニヤとそのやりとりを生暖かい目で眺めておられましたが。
なお、購入したドレスは振袖と呼ばれるモノをドレス風に仕立て上げた……絢爛な金の刺繍が施された和風モダンなものでしたわ。
そして、その晩。ワタクシはイサリビ、艦橋の通信設備を使うためにそこに向かったのですが先約がありました。
「はぁ……」
「あら、フミタン?」
「ッ!? マリアンナ様……!?」
「何をそんなに動揺していますの?」
ワタクシは挙動不審なフミタンに聞きたかったことを思い出して、この場で聞いてみることにいたしました。
「そういえば、フミタン……あなた、ワタクシやクーデリアに隠していることはなくて?」
「なんのことでしょうか……?」
いつも通りの平常なフミタンに戻りましたが……前々から気になっていたのです。
「簡潔に聞きますわ……あなたはクーデリアの味方ですの? それとも、敵ですの?」
「おっしゃる意味がよくわからないのですが……」
「アリアドネラインの履歴を見た時にね……こちらからの送信履歴と受信履歴が改竄された形跡をワタクシは確認しましたの……タカキ、ビスケット、鉄華団火星本部その他団員たちのメールの履歴は残っていたのですけど……違和感を感じざるを得ない、「間」の通信回数がございますの……」
ワタクシは懐から拳銃を抜き、フミタンの眉間に突きつけて。 冷たく、切り込むように。
「ワタクシは裏切り者は赦しませんわ。 たとえそれが、クーデリアのメイドであるあなたにも容赦なくこの引き金を引けるほどに」
「……っ!?」
「ですがまぁ、尤もですが。 その処遇を決めるのはクーデリアですわ」
ワタクシは少し考えながら拳銃を下ろしながら、フミタンにデータ端末を渡します。
「……こ、これは?」
「改竄をするならせめて違和感を無くしなさいな。 ワタクシはノブリスの手のひらで踊るつもりはないですわ……」
「……え?」
「その端末内のデータをレージス財団本部に送ってくださいまし。 ──クーデリアか、ノブリスか……その軋轢に苦しむくらいならクーデリアに打ち明けて許しを請いなさいな」
そう言い残してワタクシは艦橋を後に致しました。 エリゴスの強化改修の図案出力を出さないといけませんわ。
●
「本当に一体。 どこまで見抜いていらっしゃるのか……」
拳銃を突きつけられた時はもうここまでか、と覚悟したのに。マリアンナ様は私を見逃してくださった。
いつからだろうか──穢れを知らないクーデリアお嬢様の瞳を見て、影で生き続けてきた私は本当にそれが気に入らなくて仕方がなかった。 穢れて仕舞えばいいと、そう考えていた。
お嬢様の瞳が濁り、私と同じ目をしたその時にこそ私と彼女は分かり合える……そんな破滅に近いことまで考えていた。
しかし、どんな苦境でもお嬢様は折れなかった。 どんな困難にも周りの手を借りつつ前に出ていかれるその後ろ姿を見た私はいつのまにか彼女の切り拓く道の先を見たい、共にその道を歩きたいと願うようになっていた。
それは許されざる道だ、と何度も自答した。 しかし、それを私は望んでいた。 太陽のよう。 どこまでもその手を血に塗れさせようとも進む意思を持つお嬢様は太陽だった。
そして、マリアンナ様。 彼女は一体何者なのだろうか? その先を見据えた行動と裏打ち。 情報戦は誰よりも迅速に対応して優位に立つ行動力。 ノブリスと私の繋がりを知って裏切りと切り捨て射殺することは容易だったはずなのに、なぜ。
「許しを請いなさい……ですか」
あの言葉の意味はどういう事なのだろうか?
「──お嬢様が悲しむ姿を見たくないのですか? マリアンナ様……」
真意を仮定して理解した。 ノブリスに着くか、お嬢様に着くか……命運はそれによって決まる。 そういうことなのですね?
コンソールの上に乗っている首飾りを見つめながら私は……
「わかりました。 この身を私自身に預けるというのであれば、私は……」
覚悟を決めて、私はお嬢様の元に向かいました。 許しを請う、そして私という人間の全部をお嬢様に伝える。
共に在りたい、共に道を行く機会をもう一度与えてもらうために……。
◯
フミタンとやり取りをした次の日。 クーデリアとフミタンの時間を作って差し上げようと思いながら。 ワタクシはオルガに船医を雇うべきだと主張致しました。
ちょっとしたおでかけのようなものなので護衛は無しで、名瀬様も家族サービスの日ということでオルガと二人きりです。
「船医を雇うだぁ?」
「ええ。 長距離巡航ですし、戦闘でのケガのことも考慮すればなおさらですわ」
「まぁ、そいつはたしかに……で、当てはあんのかよ?」
「流れの闇医者ですけど、ワタクシの阿頼耶識システムの手術を施行してくださった方がこの歳星に居ると耳にしましたの」
「マリアの阿頼耶識を埋め込んだ奴が?」
「どうせなら阿頼耶識について見識のある方を船医に迎えるべきだと思いません?」
現在はテイワズのはずれにある診療詰所にお邪魔しようと向かっている最中。
「アレか……」
「の、ようですわね……」
いかにも曰く付き的な外観の小さな建物。 ‘ウェルキンゲトリクス阿頼耶識システム研究所’の小さな看板に私はこんな名前でしたねと思いながらドアをあけ放ちました。
「ごめんください……?」
「んー? 僕は今大事な研究を──って、マリアンナ嬢!? お久しぶり、元気にしてたかい? 僕の完璧な施術の経過はどう? 不調はないかい? それとも増設をお望みかな? 君は今19歳だったね……となるとまだいける! 僕は今成人用の阿頼耶識の研究をしている最中なんだ! 被験t……ゲフンゲフン。 臨床試験を手伝ってくれないかい!? 今ならサイコフレームを搭載した新型ナノマシンを投与できるよ!? 凄まじい、処理速度の増大と空間認識力の大幅な拡張が売りだ! さぁ、悩む必要はないだろう? 遠路はるばるここに来たと言うことは阿頼耶識の増設に違いない、力を求めてきた。そうだろう? そうじゃなきゃ君がここの門戸を叩く理由もないし、訪れる理由だってないはずだ。さぁ、この契約書にサインし給え! 君を、厄祭戦の英雄以上に強化してあげよう!!」
「ステイ、ウェル先生ステイ」
「ん? 不安なのかい?」
「出会ってすぐにヒートアップしないでください。 オルガがびっくりしてますから」
ひょろりとした体つき、銀髪青眼のインテリ系メガネを着用した口を閉じておけばイケメンな──残念なイケメンなこのお方はウェル博士。
フルネームはジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。
裏では知らないものはいないであろう生体機械学の権威で現代の阿頼耶識システム研究の最先端を行く医者です。
「なんかイメージしてたのと違うな……」
「フッ、医者が寡黙だという固定概念はやめてくれないかな? 僕はただ単に興味が尽きないだけのことさ……って君のその雑な阿頼耶識……ちょっと拝見」
「っておい!? ……は?」
バッと鉄華団のジャケットを奪い、イスに座らせて見聞。
「なってない、なってない! 施術のズレが酷すぎる! もっと綺麗にしっかりとポイント定点を抑えないとナノマシンが定着しないし、情報伝達機能に齟齬が発生する! 緊急メンテするよ!」
「うわなにするやめ……ガ!?」
オルガに流れるように麻酔を打ちかけて。 オルガは昏倒。 そして数時間後……
「テメェいきなり何しやがる!」
「見てご覧あれ! この完璧な施術を!」
「人の話聞けよ! って……は?」
オルガの背中についていた、伸びていた阿頼耶識のピアスが綺麗に身体の中に収まって、接触部のみが均されています。
「な、どうなってやがる!?」
「これなら情報伝達の齟齬も起きないからね。 それと、あんなに雑な施術でよく生きてたね? 普通なら人間的に死んでるよ」
チョンとピアス部をつつくと、そこから端子が伸びて接続が可能に。 ワタクシの阿頼耶識システムのピアスも同じ仕組みで作られているのですわ。
「君たちの悩み、仰向けで眠れない事情もこれで解決だ! ああ、いいデータが取れたからお代は結構だよ」
ふぃ〜と満足げな息を吐くウェル博士。 オルガは呆れ眼でウェル博士を眺めます。
「なぁ、マリア……コイツが優秀な医者なのはよーくわかった。 認める……なんで止めなかった?」
「走り出したら止まらない暴走MSを、あなたは真っ向から生身で止めに行けますか? オルガ」
「……察した」
で、施術に満足しているウェル博士にワタクシは交渉を持ちかけて。
「ふむ、ふむふむふむ! 僕のこの手腕が活かせる職場なら喜んで君たちと共に行こう! 報酬は……この口座に毎月振り込んでくれたまえ! かのアグニカ・カイエルの阿頼耶識を完全とは行かずとも再現できた人類は僕以外にいないからね!」
こんな顛末でしたが、しっかりと船医をスカウトすることができました。それと、マクマード氏の計らいでイサリビの医療室もナノマシンベッドが二基入りましたし。船医の憂いは断ち切れましたわね……おそらくですけど。
●
オルガと名瀬様が盃を交わす当日。
フミタンはクーデリアに総てを話したそうです。 その上でクーデリアはフミタンを赦すと言ったのでワタクシはこれ以上咎めることはしないと、クーデリアに約束いたしました。 そして今は式の少し前。
「心を決めてくれたか……」
「はい。 ──私の手は既に血に塗れて、濡れています」
「ほぅ……それは一体?」
「その血は鉄華団の物です。 私が今、立ち止まるのはここまでの道を切り開くために犠牲となった彼らに対する裏切りになります……」
「ふむ、それでいいのかい? この先も犠牲者が出るだろう?」
マクマード氏は瞑目してクーデリアに尋ねます。 本当に、それで良いのかと。
「いえ、私は彼らを裏切れないのです。 裏切りを嫌う親友の、マリアが共に来てくれるから」
「クーデリア……あなた……」
「わかった。 それでいいのか、鉄華団は?」
マクマード氏はオルガに話を聞いて
「護送はテイワズの下で引き続き任せてもらえるんですよね?」
「だが、お前さんらのメンツは丸潰れになるぞ?」
「鉄華団は俺が……いや、俺たちで作る家です。 メンツとかぐだらねぇプライドとかそんなのは後回しでいいんです」
「オルガ……」
潔く、オルガは引き下がりました。 交渉が巧くなりましたわ……本当に。
「わかった。 なら引き続き鉄華団に任せるぞ? 俺らはあくまでも後ろ盾だからな」
「な、それは……」
「お前さんの仕事、途中で投げ出すのは男が廃るってもんだ。 ジジイの気まぐれに付き合えよ、な? オルガや」
こうして、つつがなく。 義兄弟の盃を名瀬様とオルガは交わして。 鉄華団はテイワズ傘下に、参列が叶いました。
「長かったな、マリア」
「いいえ。 まだ、折り返し地点ですわ」
「はっ、違いねえな……。 いつもありがとよ」
「まぁ……。 悪いものでも食べましたの? 何をいきなり唐突にお礼だなんて」
ワタクシは若干頬が紅潮しかけましたが、チークでごまかせているはずですわ……本当に唐突なんですから
「素直に礼くらい俺も言うってーの。 でもまぁ、これからも。 よろしく頼むぜ……マリア」
「何水臭いこと言ってますの。 ワタクシと貴方は一蓮托生。 地獄の沙汰まで付き合ってあげますわ」
「オルガ、俺は?」
「ミカは……大事な相棒だよ」
「そっか……マリア姉。 これからもよろしく」
「よろしくてよ!」
腕を当てあい、三日月と決意を新たに進むべき道を見据えて前を向くために。
「行くか、地球に……」
「ああ」「ええ!」
◯
窓の外。離れ行くイサリビを眺めながらマリアンナは
「とは言ったものの。 ワタクシと三日月は待機なのですわよねぇ」
「しゃーねーよ。 オメェさんのエリゴス、バルバトスの微調整がまだ終わってねえしな」
「んー……」
「どした、三日月?」
「いつも出てたのがないと、変な気分だ」
ウェル博士は彼の背中を見てよく生きていてくれた、と三日月を抱きしめて。 緊急で仕上げると、彼の三本のピアスを改修改造してイサリビに乗り込んでいった。
3回も命の危機を踏まねばならない施術を行った鉄華団の前身たるCGSの一軍面々に彼が憤怒の表情を浮かべるのは無理もないだろう。
「マリア姉も増やしたの?」
「ええ。 ワタクシも、この先の戦いで役に立ちたいですもの……」
彼女のうなじにも3本目のピアスが埋められていた。加えて新規のナノマシン定着まで完璧な施術……あいかわらずといった模様だったようだ。マリアンナは自身の空間認識力と何やらよくわからない感覚の芽生えに少しだけ違和感を感じていた。
ただ、これも地球にたどり着くためにもさらに力を求めた結果である。
「俺に、一番最初にペイント弾叩き込んだの。 マリア姉だったね、そう言えば」
「そうでしたっけ?」
「あの日から俺、マリア姉に追いつこうって必死に頑張ったよ……まだ無理みたいだけど」
MWの最初の模擬戦の話を懐かしそうにする三日月──そして、そこにテイワズの整備長がやってきた。
「三日月くん、マリアンナ嬢! 阿頼耶識の最終チェックよろしくね!」
「うーす」「了解ですわ」
●
「これでよし、と。 クタン参型の準備急ぎなよー?」
『うーす』
整備班人員の声を聞き、整備長は2機のガンダムフレームを眺めて満足げに頷いた。最盛期に近いフォルムとなったバルバトスの姿は実に雄々しく、力強いものだった。
頭部センサーを兼ねる黄色のブレードアンテナはシャープに。両腕フレームは油圧のバランス、リアクター出力が完全に調整されてかつての膂力を取り戻し。 両足のスラスター。 メインスラスターの燃費が向上するようにエリゴスのデータを用いて改良されていた。
改良型ワイヤーアンカーを両腕二基に増設されて自重よりも重いMSでも巻き取り牽引できるようになっているバルバトスは近距離戦でこの先、猛威を振るうことになるだろう。
そんな悪魔の、その隣に立つは黒騎士。
青い三つ又のブレードアンテナはよりシャープに。
メインスラスターが少し肥大化してスラスター出力を大幅に上昇させたバックパック。 ウイング内に格納されたウイングレールガンも完全整備されて、さらに腰にも2門増設されたそれの名は……《ティルフィング》。
祖は《ダインスレイフ》の雛形なりて。 資料の通りに、深夜テンションで作り上げたそれは禁忌兵装に近いものだった。 なぜ作ってしまったのか、どうして増設されているのか……希少な専用砲弾を使うため、あまり使えないこのレールガン。
なぜ搭載してしまったのか……撃つ度に後悔するのはマリアンナなので問題ないのかもしれない。
エリゴス専用の実体剣《バルムンク》はライトを浴びて黄金に輝く。 さらに新造した専用のシールドはコンパクトになっており、さらに左側の肩には長距離射程レールキャノンの《ロンギヌス》をマウントしていた。
そして、バルバトスを搭載した長距離輸送ブースター‘クタン参型’にエリゴスも掴まり、彼らは歳星を後にしていった。
●
「昭弘のグレイズ改が交戦……!?」
[了解、一気に加速して助けに行くよ。 おやっさん、あとはよろしく]
[おい待て三日月!? おらぁ、操縦なんざできね──]
三日月はおやっさんの言葉の続きを聞き流してクタンの連結を解除すると、加速して飛んでいきます。
「緊急事態ですから! ごめんなさいね、おやっさん!」
[た、たすげぇぇ!?]
おやっさんを無視してエリゴスのウイングバインダーを開き姿勢制御。
「三日月。 援護します! コックピットはなるべく潰さずに武装を破壊して無力化を図りなさい!」
[えー……まぁいいよ]
面倒そうな三日月の声に気が抜けそうになりつつ。左肩に懸架していた《ロンギヌス》を起動して構えます。
「動きから見て相手は阿頼耶識使いでしょうか? 重心移動が人間の肉体に近いものですわ。 でも、この距離からならば、外しませんわ!」
距離は2500。 宇宙空間であれば……! 引き金を引き、超加速した砲弾をロンギヌスが射出。
辺りが明るくなるほどのマズルフラッシュと稲妻をバックに亜音速、音速を突き抜けた超音速の砲弾が宇宙を翔けて、グレイズ改にチョッパーを振り下ろそうとしていた敵MSの横腹部装甲に直撃、見た目的に重装甲のはずなナノラミネートアーマーを抉り吹き飛ばしました……は?
初速を恐る恐る確認すると……1600m/sの数字が見えました……さすがはレールキャノンですわ……。ワタクシも中距離戦に切り替えようとロンギヌスを左肩に懸架、140mmヘビィマシンガンを抜いて加速いたします。
[よくもペドロをぉぉぉ!!]
[ごめん、ビトー。 死んで無いから……]
[……ファ!? ]
やはりというか、あのMSのパイロットは子供のようです。
[めんどくさいけど、殺すなって言われてるから。 降参したらどう? マリア姉はあんたらから話聞きたいみたいだし]
[っ! ふざけんな! そんな言葉に騙されてやらねぇよ!]
三日月は言いながら太刀で切り掛かり。 サブマシンガンを破壊したのか、相手のチョッパーと切り結んでいます。
「これ以上の狼藉は許しませんわ!」
三日月に追いついたワタクシは相手の周りを遊星のように飛び回って射撃。 マニピュレータに握られたチョッパーを弾き飛ばしてからメインスラスター、サブスラスターを狙撃。 破壊して中破状態のMSを完全無力化。
懲りずに、昭弘の機体に手を出そうとしているもう一機のビトーと呼ばれた少年が乗るであろうMSには背面を見ずに、ティルヴィングを展開して砲撃。 右肩の付け根のナノラミネートアーマーとフレームを穿ち、引きちぎって機体動向を阻害しつつ。 無力化を……って
「新たなエイハブウェーブ……」
[何か来るよ、マリア姉]
[何やってんのよォォ、この役立たず共が!]
エイハブウェーブの反応は12時方向から迫るのは。 グレイズ改を襲っていた三機と同種の機体2機を連れて現れた、深緑の見るからに重装甲な機体のそれを見たワタクシは固有周波数を探知。 結果は……
「ガンダムフレームですわ! 機体名はガンダムグシオン……。 三日月は昭弘の保護を、殿はワタクシにお任せ下さいな!」
[了解。 昭弘、生きてる?]
[当たり前だ! 勝手に殺すんじゃねぇよ! タカキ、振り落とされるなよ……!]
[はい! マリア姉さん、気をつけて!]
MWに乗っていたタカキがグレイズ改にくっついていたのですわね……生命反応が二つで何かおかしく感じていたのですわ。
「そこな所属不明機に尋ねますわ! 何の目的があってコチラに手を?」
[言うと思ってんのかしら? お前たち、ゴミなりに役に立ちな……逃げていった方を追うのよ!]
[[了解……!]]
加速してこちらを抜き去っていく2機にティルヴィングの照準を合わせようとしますが……
[撃たせる訳無いわよねぇ!]
「っく!」
サブマシンガンの射撃がこちらを狙いますが……無駄なことを! シールドを構えて銃弾を弾きつつ後退。
左肩のロンギヌスの懸架を解除。 反転しながら右マニピュレータに保持!
「電圧上昇、次弾装填。弾道計算、機動誤差修正。電力の再チャージ完了。 かっとびなさいな!」
[おおっと残念! ……って、え!?]
迫る相手機体にレールキャノン銃口を突きつけて一瞬だけ発光させます。相手は躱そうと軌道を少しズラそうとしますが、ワタクシは絶えずその照準を逸らしていませんの……
「避けれるものなら、避けてみなさいな!」
僅かな振動がエリゴスのコックピットを揺らして、直後に閃光と稲妻が煌き、超音速の砲弾が吸い込まれるようにしてMSの胸部装甲に直撃しますわ。
[ぐぅぅぅ……今のは、効いたぜ、小娘ェェェェ!]
ピンポン玉を弾き飛ばすがごとく派手に吹っ飛んでいくグシオンにワタクシは追撃しようとロンギヌスを手放しながらその場で回転。
バックパックのサブアームでグリップを掴み、そのまま接続固定いたします。 バルムンクを並行して抜いていましたので、すぐに対応できるでしょう……って。
[このクダル・カデル様を、グシオンを舐めるんじゃないよぉぉぉぉ!]
「む、巨体に似合わず俊敏ですわね!?」
スラスターパワーの出力的に短期決戦を臨んでくるでしょうか? グシオンは背中にマウントしていたであろう鉄塊のような、大きなハンマーを振りかぶって迫るその一撃をバルムンクの刀身で受け止めつつ、刃の上を滑らせるように操縦。
スラスターのスロットルを全開にして加速から離脱! 結果、支点を失ったグシオンが勢い余って一回転。 空振り、によって隙が生まれましたのでバルムンクを投擲して相手の背中、スラスターに突き刺しますわ。
[ぐぅ、おのれェ……小賢しい小娘だよぉぉ!]
一つのスラスターを潰されてしまうと制御がかなり難しくなるがずなんですけど、こっちに普通に迫ってこれるってことは相当な手練と見るべきですわね……!
「そっちはしつこすぎですわ!」
振りかぶられるハンマーを加速による離脱で躱し、回り込んでバルムンクを回収しながら一閃。 2対2つセットの片方、スラスターパーツを壊して離れますわ。
[足を奪うか……やりにくいったらありゃしないねぇ!]
三日月と昭弘の方を確認しますと、2機で上手く連携しあいカバーしていますわね。 アレならなんとかできるでしょうか……さて、目の前のデカ物をなんとかいたしますわよ!
●
先ほど胸部装甲を抉られ、スラスターを破壊されたガンダムグシオンのパイロット。 クダル・カデルは焦燥感に襲われていた。
「なんでだ、なんでなのよ……どうして潰れないんだよぉぉぉ!」
[そう易々と潰れて差し上げるものですか]
相手のMSの性能を加味しても自身と同等、それ以上の挙動を見せる敵が自らの駒であるヒューマンデブリと変わらない年齢の子供。 ましてやメスガキともあり、彼に恥辱を与えていた。
「このぉ、この!」
[ここで、こうでしょうね]
グシオンハンマーを振りかぶり、殴りつけるも相手はスラスターのスロットルを全開にして左腕のシールドによって阻まれて、受け止められる。
普通のMSならば盾を砕き、パワーの差によって弾き飛ばせるはずなのに。 相手は平然とそれを受け止めて踏ん張っているのだ……常識の通用しない相手を恐れるのは無理もないだろうが。
種を明かすとルーシカはハンマーのインパクトの瞬間に、メインスラスター出力を上昇させては緩やかに下降させている。 すると、拮抗状態から緩やかに後退していくことができるので弾き飛ばされることはなくなる。 また、ファントムシールドは対物理においては流動体から個体に変わるダイラタント流体の原理を用いて作った内部加工により、衝撃吸収能力に優れているのだ。
何合と殴りつけようと一切の攻撃が通じない焦燥感はクダルの理性を恐怖に侵し呑んで行く。
[乗りこなせていませんね……その腕でMSパイロットですの?]
「なんだと……?」
[宝の持ち腐れ、豚に真珠……はっきり言ってそのMSの性能を把握せず、頑丈で雑に使っても問題ないとしか見ていないでしょう? その程度で、ワタクシに勝とうなど、光年早いですわ。 ――もう良いです……]
小馬鹿にするような声から。 興味が失せたと言わんばかりの冷淡な、声音にクダルは震え、戦慄した。
[さようなら、クダル・カデル。 道化としてもその価値は低い……よって、裁定を下しますわ。 ああ、最後に一つ聞きましょう……ゴミとはあのMSを操る子供たちのことでしたの?]
接触回線のやり取りで、クダルは隠し玉の
「……ゴミをゴミと呼んで何が悪いのよ! 捨て駒にもならない役立たずなデブリのガキを! 買い取って使ってやってる恩義に報えってんだよあのクソガキども!」
[吠えるな、下郎。 ワタクシの耳にそのような醜悪な囀りを聴かせる不敬……その身をもって償いなさい]
側から見ればどちらが悪役かわからないやりとりだが。マリアンナは気にすることもなく、スロットルレバーを臨界まで押し込んだエリゴスは急加速。 一直線にグシオンに向けて突き進む。
「死ねよ、死ねェェェェ!!」
狂乱。 クダルは迫るエリゴスに頭部多目的ランチャーの弾丸をばら蒔いて攻撃。 しかし、それらをシールドで叩き飛ばして、肉薄するエリゴス。
グシオンハンマー内蔵のスラスターを全開にして縦に振りかぶりエリゴスに挑むグシオン。 縦回転する大槌はエリゴスを捕らえなかった。刹那に閃光。 弾ける稲妻、衝撃。
「―がぁ……」
[言ったでしょう? その程度ではワタクシに勝てるはずが、その道理がない……と]
ヘッド部を失ったグシオンハンマー。 エリゴスの左腕に保持された柄、グシオンの胸部装甲に突き立てられたバルムンク。 バックパックのサブアームが保持していた、ロンギヌスによってヘッド部付け根を弾き飛ばされたグシオンハンマーはただの棒きれに等しいものだった……。
その振り下ろしを紙一重で避けたルーシカは勢いを殺さぬままにグシオンのコックピットに剣を突き立てたのである。
[さて、あちらは……全て片付いたようですわね]
エリゴスがメインカメラを向けると、バルバトス、グレイズ改、百里、青い百練によって無力化されたMSが宇宙を漂っていた。
[オルガ、大将機体を鹵獲しました。 敵対していたMSのパイロットをイサリビに収容してあげて差し上げてくださいな]
[わかった。 おつかれさん、ルーシカ]
[労い、感謝しますわ]
短いやり取りを経てルーシカは漂っていたグシオンからバルムンクを抜く。 それを腰のアーマーにマウントすると、接触回線から機体にアクセス、ハッキング。 コックピットのロックを開き、コマンドを起動して棺桶と化したグシオンのコックピットを外して宇宙空間に放り出す。そして、ヘビィマシンガンを保持してセミオートに。
虚無の空間を漂う棺桶に彼女は躊躇うことも、容赦もなく弾丸を叩き込んだ。 対MS用の弾丸は容易く箱を吹き飛ばし、宇宙に漂う塵の一部に変換した。
[誰も通らないような宇宙で延々と漂うのも哀れ……せめての情けですわ。宇宙の闇に抱かれて安らかに眠れ]
腰のアーマーにヘビィマシンガンをマウントしたエリゴスは、グシオンを回収してイサリビへと帰還したのであった。
to be continued