鉄血のオルフェンズ 黒騎士 作:クソメガネザル
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マリアンナがグシオンを撃破する少し前に時は遡る。
「昭弘、先に撤退して。そろそろ残弾もないだろ?」
[だ、だけどよ]
「俺なら平気だから。向こうのゴツいのはマリア姉が面倒見てくれてるし」
グレイズ改に撤退を促し、バルバトスはスラスターの残光を追うと、メインカメラの先ではマリアンナがグシオンを蹂躙しているのが見えた。
「(あっちはホントにマリア姉がどうにかしそうだな)」
アラートに気が向き、先ほどから追い払っている2機の射撃を躱しつつ、三日月はやけに調子のいいバルバトスに話しかける。
「お前も機嫌良さそうだな、バルバトス」
撃たれるサブマシンガンの弾丸を太刀で弾き飛ばし、あるいは掻い潜るように回避しながら。グレイズ改を護るように立ち回るバルバトスと三日月。
[ちっ、このままじゃ足手まといだな、後ろは任せるぞ三日月! タカキ、捕まってろよ!]
[は、はいっ!]
[逃すか!]
戦闘宙域を離脱するグレイズ改を逃すものかと、マン・ロディ2機が食い下がる様に必死で攻撃するがバルバトスに刃や弾丸を掠めることもできずにいた。
[なんなんだよこいつ!]
[焦るな昌ひ……ぅわぁ!?]
「遅い」
[デルマ!]
俊敏な動きで照準を合わさせず、時折に緩急のついた加減速をしながら三日月は距離を詰めてワイヤーアンカーを発射する。すると、アンカーはマン・ロディの腕に引っ掛かりそのままワイヤーを巻き取る。
「これで!」
[クソォッ!]
サブマシンガンを握る腕部を拘束され、マン・ロディは腰部にマウントしていたチョッパーを手に取るが……バルバトスの振るう太刀によって両断される。
「なんとなく、使い方がわかってきたな……使いにくいけど「刃筋を立てて、引く」だけで斬れるんだな、これ」
太刀の使い方を学習しつつ、三日月は残る1機に目を向ける。
「まだ、降参しないの?」
[舐めんな! デルマ、すぐに助ける!]
[悪い、昌弘!]
「しつこいなぁ、お前ら」
足掻くマン・ロディだが、苛立ちを募らせた三日月は太刀を当て、マンロディの拘束していた右腕部を斬り裂く。
武器を失ったが、マニピュレーターを振り。抗おうとするも、その腕も斬り飛ばされた。
[クソッ、クソッ……!]
[デルマ、ちっ、この!]
バルバトスはワイヤーを巻き取り、アンカーに挟んでいた腕を手元まで手繰る。そして、それを勢いよく蹴飛ばした。
[ッッ!?]
「隙だらけだよ……!」
腕を落とされたマン・ロディを相手に蹴飛ばして、押し付けるようにしながら。バルバトスは前進する。
太刀が届かないならバックパックに接続している中距離滑空砲による狙撃で行動を潰し、距離を詰めながら。付かず離れずの挙動で残る最後の1機を釘付けにする。
「もう、いいや。別に殺しちゃダメだって言われてないし……」
[ミカ、そこまでだ。マリアがやってくれた。タカキと昭弘も帰投した──もう良いんだ」
「オルガ……わかった。なぁ、もういいよ。お前の仲間は全滅したから、あぁ一応殺してないけど、まだ続けるって言うならもう容赦しないけど?」
オープンチャンネルで相手のMSに話しかける三日月。それを見て、残っていた1機は武器を捨て、両手のマニピュレーターをあげる。
[分かった、参った。降参だ……命までは勘弁してくれないか?]
●
ワイヤーで捕虜にしたパイロットたちの操っていたマン・ロディを括り、イサリビに吊るし牽引させることにして。 現在、捕虜とした5人と面会しております。
「つまり、あなたたちは命令に従うだけだった……ワタクシたちを襲いたくて襲ったわけではないのですわね?」
「は、はい」
茶髪長髪にどこか昭弘に似た雰囲気を持つ少年が取りまとめらしく、代表でワタクシに受け答えを進んでしています。 手を後ろでくくられた少年たちは警戒を解くことなくワタクシをじっと見つめています。
「ふむ……よろしいですわ。 えっと、あなたのお名前を聞いておきましょう」
「昌弘……です」
昌弘ときましたか……もしかすると……
「昌弘、あなた……昭弘・アルトランドをご存知?」
「……!?」
驚愕に目を見開く昌弘……これは図星ですわね。
「昭弘……兄貴を知ってるんですか!?」
「いや、知ってるもなにも。 昭弘はあのグレイズ改に乗っていましたわ」
「なっ……!」
「まぁ、あなた方は積極的に仕掛けてきたわけでもありませんし……ワタクシの元で身元を預からせていただきますわ。 捕虜として、ですけど」
ワタクシは彼らひとりひとりに名を聞き、茶髪青目の少年がペドロ、黒い髪に赤髪のメッシュのある少年がビトー。 左頬に傷跡のある少年がアストン、濃い金髪の少年がデルマと名乗り返してくれました。
「気になってたんだけど……クダルを倒したパイロットって」
「あっ……一応上官でしたわね、アレが。 ワタクシを恨んでくれても構いませんが……」
「いや、俺たちはあいつのせいで……何人も俺たちと同じヒューマンデブリが生身で宇宙に放り出されて殺されてるんだ……少なくとも俺はあんたを恨んだりはしない」
昌弘はそう言ってくれますが……
「俺たちはどうなるんですか……? ここでも扱き使われるのかな……」
「今は保留ですわ。 あなたたちの処遇は後で決めます……が、あなたたち
「……客人……?」
わけがわからないという顔をする昌弘にワタクシは微笑み
「今はゆっくり休みなさいな。 客人とは言えど、捕虜として監視下に置かしていただきますわ……この部屋から出ることは許しませんので、理解してくださいね?」
「わかった……みんなもいいよな?」
『……了解』
全員が納得してくれたので。 オルガに許可をもらったワタクシは昌弘1人を食堂に連れてまいりました。
「何するんですか……?」
「マシなものを食べてもらいたいので、部屋まで料理を運ぶのを手伝ってもらいたいのですわ」
「料理……?」
昌弘は訝しげな顔をしつつも付いてきて。
「あ、マリアさん! ご飯ですか?」
「ええ、捕虜の子達に簡単でもいいから何か食べさせてあげたいのですわ」
「なら、お安い御用だよ! 待っててくださいね!」
アトラに事情を説明して、コーンミル、野菜のスープを作ってもらい。 彼らの待つ部屋に料理を持って行きました。
「さぁ、鉄火団の炊事係がアトラの作る料理は美味しいので遠慮なく召し上がってくださいまし!」
「え……でも……」
器に盛って料理を与えて。 遠慮か、警戒か。 皆は一向に食べませんが……じーっとそれを見つめていた昌弘が意を決したようにスプーンを口に運んで……
「……! うまい……なんだよ、何なんだよこれ……! バーベキュー味のスティックよりも何十倍うまいよ……!!」
昌弘の目には光る一筋のしずくが流れ出して頬を伝い。
「……ホントだ……おいしい……!」
「こんなの……食べたことないや……」
年相応の反応を見せるアストンにデルマ。
「美味しいね……ビトー」
「ああ……そだな……」
目尻に涙を溜めて、嬉しそうに料理を口に運ぶペドロにぶっきらぼうにもそれに同意するビトー。
「気の済むまで食べてくださいね? ──アトラったら、張り切って作り過ぎですわ」
満足行くまで食べることのできなかったであろう彼らにワタクシはその状況を作り出したこの子達を使役していた輩に一つ、意趣返しを致しましょうか……
○
「よぉ、来たか。 兄弟、マリア嬢」
[テメェ、どこ向いてやがる! 喧嘩売ってんだぞこっちは!]
「ハッ、吠えるじゃねえか。 初戦でMS6機も失っちまう無能の割には、な……ブルワーズのボス。 ブルック・カバヤンさんよぉ」
[貴様っ……!]
ハンマーヘッドに呼ばれたため、オルガ、ビスケットと共に移動したマリアンナは艦橋のメインモニターにデカデカと写された醜悪な顔つきをした男が吠えているのを冷淡な目で見ていた。
「で、本気で俺たちに喧嘩を売るってんだな?」
[ふん、ケツがテイワズだからってデケェ顔してんじゃねぇ。 何もテイワズだけが力を持ってるって話じゃねって訳よ……タービンズの大将さんヨォ]
「ケッ……あとで吠え面かくんじゃねえぞ?」
「血の気の多いバカが多いもんだよ……そう思わねえか? なぁ、兄弟」
「は、はぁ……」
相手からの通信が切れて、名瀬はやれやれと首を振りつつ、艦長席から立ち上がりながら。その問いに対してオルガとビスケットは顔を見合わせて曖昧な返事をするしかできなかった。
「詳しい話は応接間でな。 で、マリア嬢。 なんであの男を睨んでたんだ?」
「……海賊の『ブルワーズ』……ロクでもない組織なのでしょうね」
「まぁ、海賊って奴らはそんなもんさ……」
そう言う名瀬の後に付いてしばらく。応接間に移動、そこにはアミダが待機しており、マリアンナは会釈。すると、彼女は
「あんた達が捕虜にした子達はどんな感じだい?」
「処遇が決まるまでは、軟禁……になると思います」
「ま、それが妥当だね」
「……あの子達の体は栄養失調ギリギリ、あちこちには痣がありました。 恒常的な虐待を受けていたと思いますわ」
マリアンナは眉を歪ませて怒りを顕にしていた。 それは、理不尽な暴力から子供を救いたいという理想を抱く彼女にとっては最も認めたくない事実である。
「で、今回おれらに喧嘩を売ってきたのは何モンですか? アニキ」
「お嬢の言ってた……まぁ改めて。名を『ブルワーズ』地球から火星を繋ぐ航路の間にかけて活躍するのそこそこ武闘派の海賊だ」
「海賊? じゃあ狙いは船の積荷ってことですか?」
オルガは積荷と聞き、マリアンナは目ざとく気付いた。
「正確には、クーデリアではなくて?」
「積荷もおまけによこせって言ってるんだよ、奴らは……ってよく気がついたな」
「いいえ、今回の襲撃……裏でギャラルホルンが絡んでますわ」
彼女は彼らがブルワーズを使い、クーデリアの身柄の確保に乗り出したと根拠有りの推測を話す。
「まぁ、十中八九。 その線だと俺は思うぜ?」
「クーデリアをさらってメリットがあるのはそうすることで、ギャラルホルンの後ろ盾を得るつもりってわけか……」
「わりぃな、地球までは任せとけって偉そうな口叩いた挙句、どこぞの海賊ごときに絡まれるザマになるとはな」
「道理のわからねぇチンピラの売ってきた喧嘩だ……気にしないでください、アニキ」
安い喧嘩とオルガは切り捨てる。 それを聞いて自嘲の笑み、それを浮かべながらも名瀬はオルガに聞いた。
「で、どうするよ兄弟」
「安い喧嘩だが、なめられっぱなしは面白くねぇ」
「オルガ……まぁ、わかりきった答えだよね……」
ビスケットはオルガの言葉を聞いて苦笑。 マリアンナも満足げに微笑んでいるあたり異論はないの意思表示だ。
「同感だ……んじゃいっちょ──」
ニンマリと悪い笑みを浮かべながら、オルガの最終意思表示を名瀬は聞く。
「ああ。 俺たちの道理を奴らに叩きつけてやろうぜ、アニキ。 それに……な」
口をあまり開かなかったマリアンナを見てオルガは彼女の内情に気がつく。 その視線が合い、交錯する。 オルガは何故か気恥ずかしく感じて目をそらす。 そして、何故目をそらすという抗議の視線を無視しながら。
「昭弘の兄弟……検査したドクターウェルの話じゃ間違いないって話だ。 あいつの家族って事は俺たちの兄弟って言っても過言じゃねぇ……この落とし前はキッチリ付けてやらねぇと……な、マリア?」
「ええ、その通りですわ……」
その場にいた名瀬は後に、その華やかな笑みを見て背筋が凍り付いたと語る。 ありゃ、世紀の悪女が貼り付ける微笑みだ……と語った、とさ。
●
ブルワーズ旗艦。 ブリッジにて胡座で浮いていたブルック・カバヤンは自らの思い描く敵とその現実にクダルを斃し、コチラに迫っているであろう者たちを比べて絶望に打ち拉がれていた。
マン・ロディの数は5機減り、主力のグシオンも敵の手に落ちている。 流れの
「よー、大将。 とんでもない連中に喧嘩売っちまったんだって?」
「これはこれは……先生じゃないですか」
ブルックに先生と呼ばれた者は仮面を着用していた。 慎重に行動する事を是とするかの者は、依頼者の寄越した鉄華団、タービンズのMSの数、機体データを見て手伝うかを決めると言っていた。
「で、出撃はしてもらえるんですかねぇ……?」
「ああ、いいだろう。 ただし……俺の邪魔だけはすんな。
「ありがとうございます……!」
「飯食わしてもらってる恩義はあるからな……その分は働いてやるさ」
艦橋から退出したかの人は黒っぽい青髪をかきあげつつ。 手にしたタブレットの画像を見てぼやいた。
「ガンダム・エリゴスにガンダム・バルバトス……このタイミングで世に出てくるか。 腹立つけど‘アイツ’の言ってたとおりね……まぁいいわ。この時代のガンダム乗りを確かめてやるとしますかね」
自身の駆る愛機。 《青い流星》ガンダム・アガレスの元に歩いていくのだった……
◯
所変わって。 ギャラルホルン地球本部‘ヴィーンゴールヴ’にて任務遂行の報告を司令官のイズナリオに報告したマクギリスは実家、ファリド家に帰ることなく。 友人のボードウィン家の屋敷に身を寄せていた。
「マッキー! 」
花を片手に。 可憐で小さなレディーがマクギリスに抱きついたが、彼はそれを邪険にすることなく彼女を抱き上げる。
「いらっしゃい、マッキー」
「ありがとう、アルミリア。 しかし、皆が見ているよ」
「見せつけてるのよ」
花を手渡し、えへんと抱き上げられながら胸を張るアルミリアにマクギリスは苦笑していた。
「やれやれ、3ヶ月の時間があってもお子様に変わりはない……か」
マクギリスに降ろしてもらい、アルミリアは慇懃無礼。 スカートの裾をちょこんとつまんで一礼。
「おかえりなさいませ、お兄様。 私はもう立派なレディーです──紅茶の淹れ方だって覚えたんだから!」
「ほぉ、メイドの猿真似でもするつもりか?」
「レディーの嗜みよ! そんな意地悪を仰るお兄様には紅茶を淹れてあげない!」
「な……す、すまなかったアルミリア」
ふんとそっぽを向いたアルミリアにすかさず謝罪するガエリオ。 実のところ、この小さな妹に頭が上がらない弱点がガエリオにはあった。
「ふふふ、素直で結構。 あとで淹れてあげるから楽しみにしててね、マッキー」
「ああ、楽しみにしておこう」
その言葉にパァっと花を咲かせるような笑顔になるアルミリアはメイドを連れて屋敷に入っていった。
ガエリオとマクギリスは制服のままだったので着替えてからお茶にしようという話だったのでしばし時間はあると、ガエリオは改めて火星で取り逃がした鉄華団とクーデリアに関しての話をマクギリスに振る。
「そういえば、あのちょび髭野郎からは何か連絡があったのか?」
「ちょび髭……ああ、存分に使える男のようだな。 無能ではないと腹に書かれていた事実はあながち間違いではなかったらしい」
「ふ……その話はよせ。 思い出すだけで腹がよじれるほどまで笑い、筋肉痛になった嫌な思い出があるからな。 まぁ、やけに綺麗な字で書いてあったそうじゃないか」
「あの文字を書いたのは。 あの男が言うには恐ろしい
前髪を弄りながら、マクギリスは動向を探らせている男……トドの話を思い出す。
「で、本題に戻そう。 クーデリア・藍那・バーンスタインの所在を突き止めたらしい」
「そいつは良いニュースだ。 ならばすぐに出るぞ……あの時の借りを返さねば気がすまん!」
「落ち着け、ガエリオ。 彼らはもう動いている頃だろう……今から船を出しても追いつけないさ」
「しかし……」
「どこぞの海賊を使うと金を具申してきたからな……まずは彼らの戦力把握は必要だ。 それなりの海賊を蹴散らすほどの戦力ならこちらも考えねばならん」
ガエリオはピシャリと言い放つ友の言葉に反論できず、黙ってそれを聞き入れた。
「鉄華団の船を捕捉したのはアリアドネの正規ルートから離れた薄暗い宇宙だ……角笛も届かない危険域を航海していると見て間違いない」
「なるほど……汚物をさらうのはドブネズミの仕事って事か?」
「フッ、その通りだ。 我々はもっと大局を見る必要がある……今回の火星への遠征ではっきりしただろう?」
「ああ、組織が大きくなればなるほど。 辺境に行けば行くほど監視の目はコーラルのような腐敗の芽に対して易しくなる……か」
「育てたのは我々の現体制だ。 認めたくないが……な」
「改革を急ぎたいが、俺たちにはまだその力がない……雌伏の時ってのはこう言うことを指すのだろうよ」
ガエリオの言葉にマクギリスはそうだなと相槌をうつ。 改革の同志として、ガエリオはマクギリスを隣から支えてくれる大事な友人だった。
「お前もわかっているだろう、ガエリオ。 鉄華団の地球到達こそがこの現状を打開する方法だ。 腐敗の全てを引きちぎれる劇薬……それが彼らだ」
「ああ、分かっているとも……だが‘それはそれ’だ。 俺たちにも与えられた仕事がある以上、奴らを阻まねばならん」
「儘ならんものだな……本当に」
「まぁ、成るように成るだ。 クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を確保して俺たちで利用すれば良い。 後の奴らは火星にたたき返してやる」
難しい話はこれまでだ、とマクギリスは話を切ったが。
「しかし、マクギリス。 ちょび髭の言う恐ろしい淑女とはどんな女なのだろうな?」
「長い黒髪に金の瞳を持つ美女との事だ。 その写真を見たときは私も驚いたよ」
「どう言う意味だ?」
笑いながらマクギリスは胸元から写真を取り出してガエリオに渡す。
「な、この女は……あの時の」
「おそらく、彼女も地球に来るだろう。
「まさかのレージス家と来たか……火星の貴族だったな。 どこまで調べたんだ?」
「火星で聞く噂から業績まで……だ。 火星のクリュセ独立地区ではバーンスタイン家と手を組み、慈善事業に手を出して地元人民には慕われている。 失業者を自身の保有、運営する鉱山に雇い入れることもしているらしい。 レージス家のハーフメタルの鉱山からはレアメタルや鉄鉱石の資源も掘れるらしくてな」
「……ふん、所詮は偽善者と言うわけか」
ガエリオはその話を聞いて余計に興味を持つようになっていた。 普通ならば欲に走り、人を食い潰すような人間が貴族に多い。
「子供が大人になることがなく亡くなっていく地区が多い火星で、唯一。 近年のクリュセ独立地区では年間に100人しか、子供が死なないらしいぞ?」
「ほう……? 孤児院が増えたのか?」
「君が今、吐き捨てたマリアンナ・レージスがこの2年の間に20軒の孤児院を私財を投じて建てたらしい」
「マジかよ……本当に貴族なのか、その娘は」
「クーデリア・藍那・バーンスタインが‘革命の乙女’ならば、マリアンナ・レージスは‘改革の淑女’らしい」
ガエリオは自分が件の女と同じことができるかと聞かれると否と答えるだろう。 いくら資金に余裕あれど、そこまでしては貴族として人民に示しがつかないからである。
「現状のクリュセ独立地区は治安も良く、過ごしやすい街となっているらしい……それほどまでにクリュセを思っての行動なのだろうな」
「火星人にしては……だな。 まぁいい」
見ればアルミリアが紅茶を持って来るのを見たマクギリスはそうだなと話を切り上げる。
「あら? お兄様、その写真の方は?」
「ん? 気にするな。 仕事の話だ」
「ふーん……」
スッとその写真のを奪い、眺めるアルミリア。 黒い髪に金色の双眸の美女……彼女は、こんな淑女になりたいものだと胸の内で呟いた。
●
相手の待ち伏せを利用して横からの急襲……その作戦のためにマリアンナはクタン参型と連結したバルバトス、ラフタの駆る長期航行可能な百里と共にプロペラトタンクを搭載させて航行可能距離を伸ばしたエリゴスに乗り込んでデブリ帯に飛び込んでいた。 なお《ロンギヌス》は威力がありすぎるのでと、イサリビに置いていた。
[マリア、三日月。 フォローは任せてね]
[うん、頼りにさせてもらう]
「了解。ラフタも無理は禁物でしてよ?」
この薄暗い宇宙に、かの海賊の戦艦があると睨み、ルーシカたちは行動を開始する。 相手のパイロットの全員がヒューマンデブリだという話を聞き。 出来るだけ仲間も助けて欲しいとは昌弘の嘆願である。 ただ、どうしても無理なのであれば。 三日月もラフタも容赦なくコックピットを破壊すると言っていたが。 やられる前にヤるこの宇宙での、暗黙の是正故に。
距離的にイサリビとハンマーヘッドとのリンクが切れてから数時間ほど経った頃。 敵の主力MS部隊が現れた。反応からしてマン・ロディが……9機。
「敵MS部隊ですわね……各自散開を! なるべく、広い空間を用意して対処してくださいませ!」
[あいよー!]
[わかった。 マリア姉も、ラフタも気をつけてね]
「ええ、お任せなさい」
エリゴスは3機のマン・ロディを相手取り、ヘビィマシンガンを用いて牽制。 つかず離れずの距離を保ち囮に徹していた。 彼女達の仕事は時間稼ぎ。 撃墜数を稼ぐのは仕事の範疇ではない。
ここは狭いデブリ帯であるが、関係ないと言わんばかりに相手の攻撃をいなし。 推進剤の残るプロペラドタンクの接続を解除、蹴り飛ばして。 マリアンナは迷うことなくそれらにヘビィマシンガンの弾丸を叩き込み誘爆させる。 視界を塞がれたマン・ロディの頭部メインカメラに抜いたバルムンクを突き込んで破壊。 機体の胴体を脚部で押さえ付けながら右手に保持したバルムンクで武装を破壊して無力化した。
[あーもう! 狭すぎ!]
[同感だ……ブースターが邪魔で……!]
「2人とも、弱音を吐いてる暇はありませんわよ! 援護します」
ラフタは狭い空間に、三日月は慣れないブースターの操作に苦戦する中で。 エリゴスは身軽に動き回ってマン・ロディ達の連携を乱し、1機の頭部に飛び蹴りを食らわせつつ、その勢いのまま小惑星に叩き込んで沈黙させていた。 これで2機沈黙、無力化された。
百里を追い回す機体を猛追。 スラスターを破壊して蹴飛ばしながら方向転換したルーシカは三日月に迫るマン・ロディのメインカメラに剣を突き込み、引き抜きながら蹴っ飛ばす。
と、新たなエイハブウェーブの反応と共に見慣れない機体が現れた。 その反応は……
「ガンダムフレームの反応……? 固有周波数、これは……ガンダム・アガレスですわ!?」
ファーストロッドナンバー。 バルバトスやバエルと同じ一桁代のガンダムフレーム。 これといって尖った性能ではなく、汎用性の高さと、頑丈さに主眼を置いて建造されたシンプルかつ性能の高い機体。
V字のブレードアンテナ。 全体的に青を基調とした色のナノラミネートアーマー。 スマートな機体と高機動を得意とする射撃タイプのガンダムフレームだ。
[ガンダムフレーム同士、仲良くしてもらおうか!]
アガレスは二挺のハンドガンをリアスカートから抜いて手に取ると、一番の手練であろうエリゴスを駆るマリアンナに挑み掛かってきたのである。
撃ちかけながら、接近する相手はどんどん加速していく。 彼女は飛来する銃弾を避けつつ、翻弄されまいと蛇行機動で仕掛けに行くが……
「く、この機動性……エリゴス以上ですわね……乗せられてはだめ、見定めなくては」
アガレスのスラスター性能は直線での加速能力に秀でている……その性能差は現時点のエリゴスの1.5倍の試算が出ていた。 そのため、直線の勝負では部が悪い。
[マリア姉!]
「三日月はほかのMSを釘付けにしてくださいまし! この機体、相当厄介ですわ!」
[私を厄介と認めたか、その慧眼に評して戯れるつもりだったが……少し機嫌が良いぞ、今の私は!]
マリアンナは機動性の差がなんだとバルムンクを握り直してシールドを構える。その上で相手の進行方向に立ちふさがるようにエリゴスを動かして行く。
[ほう、守りを固めに来たか……愚直よなぁ!]
「たぁぁぁ!」
[!]
進路を阻まれながらも、ひらりとエリゴスを避けたはずのアガレス。 しかし、マリアンナは直感に従い機体を制御して……アガレスを操るパイロットの反応を上回る挙動でシールドバッシュによる一撃を叩き込んだ。
たまらず姿勢制御を失い弾き飛ばされたアガレスはデブリに衝突。 そこへスロットルを全開にしたエリゴスが加速しながら突っ込んだ。
[なかなかヤるなぁ!]
「チェストォォォォ!」
コックピットを狙って一直線に。 しかし、アガレスのパイロットはただでやられるつもりはないと言わんばかりにハンドガンを犠牲に鋒を弾き逸らして、機体のスラスターを起動させてその身を捻り、そのまま回し蹴りがエリゴスのコックピットを揺らす。
「ぐっ、く!?」
「かすり傷ですわ!」
衝撃により、コックピット内でモニターが割れる。 その破片がマリアンナの左頬を深く斬りつけて──彼女の赤い血が無重力状態のコックピットで浮遊する。
彼女は相手の技量が自分を上回っていることを悟り、慎重に動かないとまずいと判断した。
[うんうん。 合格……およ?]
[何してんだ、テメェ!? うちの護衛は]
[あー……そういえば、あの強襲戦艦。 質量破砕武装を艦首に搭載してたのかぁ……]
[マリア姉。 終わったみたいだよ?]
そこには、ワイヤーアンカーで戦艦に取り付いたイサビリと、ハンマーヘッドの吶喊により、小惑星に叩きつけられた第二戦艦の姿が目に見えた。 マン・ロディ9機の一部機体はコックピットを潰され、全て武装を剥がされ沈黙していたのを確認した。 そしてバルバトスを含む複数のMSにより囲まれていたガンダム・アガレスは手にしていたハンドガンを手放して浮遊させる。
[あーあ。 楽しかったけど……降参だよ。 命までは勘弁してよ、お願いだからサ]
飄々というパイロット。 にマリアンナは毒気を抜かれたように緊張を解いた。
「あなたは、傭兵ということでよろしいでしょうか?」
[うん、まぁそんな感じだよ。 ほい]
接触回線を開き、マニピュレーターを握り合って通信すると。
[私のことはプロフェッサーとでも呼んでくれたまえ]
「──青髪に橙の瞳……。 貴女のお名前……‘スヴァハ・エタニクル’だったりしませんか?」
[……ねぇ、300年前の英雄のアグニカ・カイエルの正妻に例えられたのは流石に初めてなんですけど]
長い青髪に橙の瞳を持つ美女が通信回線越しに紅潮した頬に手を当てていやんいやんと狭いコックピット内で器用に身をよじらせていた。
「了解です。 プロフェッサー、契約更新は後にしましょうか……戦後処理が急務ですので」
[およ? 私を雇ってくれるのかい? いや、渡りに船だけどさ……]
「傭兵は基本裏切りませんからね。 仕事に関しては信頼が傭兵の価値です」
うんうん、ビジネスライクな付き合い方も高評価だよ……プロフェッサーと名乗った彼女のつぶやきは誰にも聞かれることなく。 消えたのであった。
to be continued