鉄血のオルフェンズ 黒騎士   作:クソメガネザル

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第9話

 ⚫︎

 

 私にとってお嬢様とはなんなのかと、ナタリア・メレテスは考える。

 

 元々私は‘ヒューマンデブリ’と呼ばれるゴミ屑に等しい子供だった。木星圏を航行する移民船団に乗り合わせていたあの日、船団は海賊に襲われて。そこで私の両親は殺された。

 私には兄がいたのだが、生き別れた……生きているかもわからないですが、今はお嬢様のお役に立ちたいのでどうでもいいですね。

 

「おや、これは……」

 

 お嬢様の鉱山営業業務を引継ぎ、行っておりまして。彼女からの午前のメール確認をしていると、メッセージが。

 木星圏の歳星から、今は地球に向かっているであろうお嬢様の乗船されている‘イサリビ’からのメッセージを開き。私はそれを拝読。そして、かのオーダーを実行すべく‘レージス・メイド隊’に指示を出すために……。

 レージス・メイド隊はお嬢様のお父様たる‘先代レージス当主’様が作り上げられた‘侍女(メイド)’の部隊であり、彼らは皆お嬢様の懐刀たる者たちです。

 

「メイド隊、全員集合」

 

 私は鉱山の管理を部下に任せ、レージス邸に戻るとすぐ。中庭にて‘号令弾’と呼ばれる物を撃ち上げます。

 これは使用人を集合させるアイテムであり、メイド長だけが持つ権限のようなものです。

 我々‘レージス・メイド隊’は武闘集団でもあるのですが……彼女たちはバリートゥード(なんでもあり)を嗜む者達が多く所属しており、彼女たちのメイド服はAoC(Adamant of Cloth)(アダマント・クロース)──ツイストナノケブラー繊維とカーボンナノチューブを織り合わせ、それらを三層に重ねて作った布だ──の由緒正しきヴィクトリア調(ごく一般的なロングスカート)なモノ。しかして、戦闘ともなれば、邪魔な布地をパージすることで機動性を確保するのです。

 私はパージ機能など飾りでしかないので、オミットしていますが。

 武装はショットガンにグレネードランチャー、ロケットランチャー、ハンドガン、サブマシンガン、手榴弾10個を普段から持ち歩いてますね。嗜みですので。

 と、集合の号令弾を撃ってから20秒でアルファ隊、ベータ隊、デルタ隊の全員が集合。

 

 赤い髪のアルファ隊リーダーが‘アルフ・アーリア’

 

『アルファ隊、現着!』

「統率よし!」

「元気があってよろしいです」

 

 青い髪のベータ隊リーダーこと‘ベリー・タナエ’

 

「ベータ隊、各員現着したよー」

「どんな仕事かなぁ?」

「こ、コラ! 私語は厳禁よ! あと、それは私のセリフ!」

「……いつものことでしょう」

 

 部下に台詞を奪われるかわいそうな子ですがとても電脳戦に強い優秀な子です。かわいそうになりますが気にせず。

 

 黄色い髪のリーダーこと‘タリア・デニム’

 

「デルタ隊……現着ぅ……」

「リーダー! お休みしてって言ってるのに!」

「へーき、へーき……んぐ、んぐ……タッフマンが身に染みるぜぇ」

「もう! リーダー!」

「……そんなに飲んでは毒になり得ますよ」

 

 ……こんな社畜戦士に仕上げたつもりはないんですが、まあいいでしょう。はぁ

 

「はぁ……皆さん、お嬢様より伝令が来ました。まず、アルファ隊はドルトコロニーの現状を調査すべく。地球圏の情報の精査をお願いします。ベータ隊はドルトコロニーへのクラッキング。《再演算プログラム》を仕込んだ‘幸運の卵(イースター・エッグ)’を用意してください。デルタ隊はアルファ隊が出払う都合で手薄になるであろうお屋敷の警備強化をお願いします」

「了解です。メイド長は?」

「私はお嬢様と合流したのちに警備に当たる予定です」

「了解です! 御武運を!」

「……グッドラック、メイドちょー」

 

 しかし、人が多い。ほんとに多い

 

「──全員集めてまでやる必要あったかしら」

 

 メイド隊の部隊は1人の隊長に副隊長2人、その部下が5名。そしてその下に2名づつついているので23人チーム。合計69人ですね。

 まぁ、皆良い子ですから……ええ。お嬢様への忠誠心は徹底的に刷り込んでありますので。

 解散の号令を出し、彼らは元の仕事に戻って行く。さて、私も動きましょうか。お嬢様と、前当主様への忠義を貫き通すそのために。

 

 ●

 

 プロフェッサーさんを捕虜として迎え入れて、ブルワーズが停戦信号を送って来たのをキッカケに戦闘は停止になりました。 ブルワーズ船員は一部死傷。ヒューマンデブリ達はダンテが機転を効かせて艦内マップデータを元に、彼らを隔離したおかげで後ろから撃たれるなんてこともなかったようです。

 

 この機転のおかげで、鉄華団の敵艦潜入部隊からは死人という犠牲者が出ませんでしたが、怪我人は出ています。戦果としては大勝ですが、戦後処理の方がホントに大変なんですよね。

 

 負傷者の治療のお手伝いをして、名瀬様に呼ばれたワタクシはタービンズの艦橋に向かいましょうか。ハンマーヘッドに赴けば。艦橋床に足を這いつくばらせたブルックの姿が見えまして。

 

「さぁて、賠償はキッチリと払ってもらうぜ? ブルック・カバヤン」

「名瀬・タービン……っ!」

 

 屈辱に醜悪な顔を、さらに歪めるブルックに対して余裕の態度を見せる名瀬様。 勝利者故に、当たり前ですわね。

 

「で、賠償はどうする? 兄弟」

「そうですねぇ……船一隻、それとテメェらのMS全部と、ヒューマンデブリの解放で手打ちだ」

「な、そいつは吹っかけすぎだろぉが!?」

「少しよろしくて?」

 

 騒ぎだしそうだったので、黙らせるために事実を伝えようとワタクシも口を挟みます。 処刑ですら生ぬるい……屈辱を与えて差し上げましょう。

 

「ふっかけるも何も、ブルワーズはもうあなたを頭領と見ていませんわ」

「……は? 何言ってやがる!?」

「オルガ。 MS2機は最低限の護衛で後で譲ってくださらない?」

「あぁ、マリアの取り分がそれでいいなら別にいいが……どうするんだ?」

 

 ワタクシは微笑みながらオルガに説明しますわ。

 

「ブルワーズ改めマーズ・トランスポート・カンパニー(M.T.C)の護衛用MSとして運用いたします。 もちろん代金はお支払い致しますわ」

「マリア? まさか、お前……」

 

 察したオルガ。 引きつった笑みでワタクシを見ていて、名瀬様は合点がいったのか大笑いしています。

 

「ははははっ! なるほどなぁ、ブルワーズから別会社になっちまえば先代取締役がどうこう言える立場じゃねぇな……くはははっ、こいつぁ傑作だ!」

 

 膝を叩いて大笑いする名瀬様。 意味を把握できていないブルック・カバヤンに死刑宣告もとい。 微笑みながらご説明を。

 

「あなた船のクルーをワタクシの会社。 レージス財閥の下に引き入れてあげましたの。 あなたの経営方針は過酷そのもの……経営体制の見直しと給金の引き上げの確約を致しましたら皆様手のひらを返してワタクシについて来てくれるとのお話ですわ。 まぁ、あそこまで酷い運営状態を見て彼らを救いたいと私は思ったまで……ああ、あなたはクビですわ、ブルック・カバヤン。 異議申し立てはこことは別の場所で聞き入れて差し上げます」

「なっ、ここ、小娘が……!」

「人の「幸福」という花をを踏み躙り、そこから齎される蜜を散々啜ったオークが何を仰いますか? 豚をただただ太らせるのは脂ばかり乗ってその価値を落としますものね……下郎にお似合いな末路でなくって?」

 

 その言葉を聞き、怒りと恥辱を露わに。それに染まったブルック・カバヤンでしたが、ワタクシはどこ吹く風と恨みがましい視線に臆することなく艦橋からおいとまいたしました。

 そして数分後の、タービンズ応接間にて。

 

「さすが経営者様だな……奴らの航路を見込んで自分の会社傘下に引き込むとは恐れ多い」

「レージス財閥には圏外圏への運送部門がまだなかったので、いい業界開拓になりそうですわ。 彼らには火星から木星の間。 ハーフメタルの規制が緩和された暁にはワタクシの鉱山資源を歳星に運んでもらうつもりですわ」

「ブルック・カバヤンはどうするんだ? あれも元社長な訳だろうに」

「彼はクビですわ。 無能を生かしておく理由はありませんがせめてもの慈悲です、救命ポットに放り込んで放逐したいくらいですが、救命ポットが勿体無いのでタービンズ傘下の資源衛星で働かせておけば良いかと。どこぞのマルバ・アーケイ氏の様に、ね」

 

 名瀬様はまぁそれもそうかと。 納得されました。これにてブルワーズは解散。 新生の運送会社M.T.Cの旗揚げ書類等々を、ナタリアに作成依頼などもする必要がありますわね。

 

「ブルワーズ譲渡のMS全機のうち2機はレージス財閥に買い取っていただくとして残るマンロディは12機ですが、どうしますか? 団長さん」

「使えるのはウチでそのまま使うのがいいだろうが、腕斬ったりで派手に潰しちまったもんはパーツ取りしつつ、リアクターを売りに出す。それでいいんじゃないかな」

「はい、ならそのように手続きをしておきますね?」

「あァ。頼む」

 

 オルガと話しているのはメリビット女史……テイワズの銀行部門に勤めていた女性で鉄華団のお目付役兼テイワズの窓口。 鉄華団の経理としてイサリビに乗るようになった女性です。

 ワタクシとはビジネスライクな関係でお付き合いをさせてもらっています。

 応急手当てもできる人材ですから船医が居るとはいえ一人でも応援処置ができる人材は欲しかったのですし歓迎はしていますわ。

 

「あのグシオンもウチで使う。 アニキ、それで問題ないか?」

「ああ、問題ないぜ。 マリアも別にいいんだよな?」

「ワタクシには無用の長物ですわ。 ガンダムフレームですから鉄華団の戦力増強に充ててくださいまし」

 

 オルガはりょーかいと返して。 そういえばと言いながら

 

「あの捕虜にした傭兵はどうするんだ?」

「プロフェッサーに関してはワタクシの名義で契約致しましたわ。 彼女……試験としてシミュレーターでアミダさんとやり合って。 軽くあしらって見せましたから」

「なんだよそれ」

 

 引き攣った笑みを浮かべるオルガにアミダさんが。

 

「それだけの腕前ってことさ。アタシももっと腕磨かないとダメねぇ……。 あそこまでの腕前を持つ傭兵が今後、また敵に回るのは惜しいからね。 だから、終身永続契約をマリアは組んじまったらしいよ?」

「ええ。 あの高機動操縦を三日月がマスターできれば……かなりの戦力になりそうですわ」

 

 ワタクシはプロフェッサーと契約して、鉄華団のMSパイロット候補生たちの教官、そしてクーデリアの護衛を依頼致しました。 そして、依頼完遂を条件にレージス財閥の軍部顧問として雇い入れると約束したのですわ。

 

[ここまでの好条件を突きつけられちゃ私も協力せざるを得ないでしょ? ……レージス家は今は関係ないしサ]

 

 そう言いながら……何故か自身に言い聞かせるように契約書にサインしていましたわ。さて、戦後処理もつつがなく終わり。 元ブルワーズ船員たちが乗る船一隻は火星に向けて出発。 もう一隻はハンマーヘッドが牽引しております。

 

「では、コロニーに向かいましょうか」

「ああ。 仕事が残ってるからな」

 

 オルガはそう言うと、ドックに用があると。 離れていきました……ワタクシも行動を起こすべきですわね。

 そして、倉庫に行き。 1つのコンテナの前で細工を一つしようと──

 

「ん? マリアか?」

「あら、オルガ。 ちょうどいいですわ。 この資源のことでお話がありますわ」

「それって、テイワズのコンテナじゃ……」

「中身をきちんと確認しないといけませんわ。 マクマード氏の許しもワタクシが得ていますわ」

「あ、おい待て──ってなんだこりゃ……」

 

 ハッキングしてエアロックを解除。オルガと共に積み荷の正体を暴きます。 入っていたのは新品のMW、機関銃などの銃器。

 

「これを月に持ち込むのはいけません……最悪違法企業として鉄華団がアリアンロッドに狙われる条件を満たしてしまいますわ。 ですから、鉄華団団長さんにワタクシから提案があります」

 

 ニッコリと微笑むワタクシにオルガは……

 

「わかった。 状況的にこれはアニキとメリビットさんに確認が必要だな」

 

 さぁ、ワタクシたちの戦いはまだまだ続く。 上がりはまだまだ遠いその先ですものね? 

 

 ●

 

 ワタクシはオルガを連れてハンマーヘッドに赴き、名瀬様に事情を説明致しました。

 

「よーするに。 鉄華団の運ぶ荷物は地球圏に持ち込むのは完全にアウトな代物で、親父はそれを見て見ぬ振りして鉄華団に運ばせた……そんで開ける許しを得ていたってのは、どう言うことなんだ?」

「まずはメリビット女史の確認を取ってからに致しましょう。 事情としてワタクシの抱える諜報員からの情報で、ノブリスの税金対策に使われているGNトレーディング社と言う企業がこの荷物の移送をテイワズに依頼したらしいのです……そして、この件にはもうギャラルホルンが勘づいていますわ」

「……このまま納品したらマジでシャレにならん事態になるってことだな?」

 

 オルガも状況が把握できた様で、顔には疲れた様な笑みを浮かべています。

 

「わかった。 で、マリア嬢。お前さんはこいつをどうするつもりだ?」

「ワタクシはドルトコロニーで血を流させる気も、ましてやノブリスの思い通りに事を運ばせる気はありませんわ」

 

 そして、メリビット女史の確認ではやはり、工業用の資材と依頼伝票にあったらしく……これで裏は取れましたわね。

 

「これらの武器は納品しません。 中身を入れ替えます……そのために、ワタクシは火星に連絡を取っておいたのですから」

[艦長と話がしたいって船が来てるんですけどー?]

「……お前さんの差し金……船か?」

 

 呆れた様子のアミダさんと名瀬様。褒めないでくださいませ。

 

「褒めてないよ。とまぁ、流石に仕事が早いねぇ……本気でやるのかい?」

「ええ、まずは。 現物を入れ替え(・・・・)ますわ」

 

 と言うわけで。 ワタクシは火星から運送屋に頼んだ物を鉄華団の所有するランチに積み替えて、移送代金を支払いました。 ワタクシは財布に黒いカードを入れていますから……もちろん一括払いですわ! 

 中身は鉱山資源、そして工業用資源。

 

「MW等は鉄華団が頂くとして、そのコンテナの写真だけは撮っておいてくださいまし。 ノブリスに突きつける証拠とさせていただきますわ」

 

 イサリビの倉庫内でワタクシは指示を出します。 そして、ドルトコロニーに確認を取るために一つ手を打ちますか。 GNトレーディング社……ノブリスの隠れ蓑、会社の一つがこの荷物の依頼人。

 そしてその依頼を持ち込んだ者を探ってもらった……

 

「お嬢様、お久しゅうございます。ナタリア、現着いたしました」

「ええ、いつもありがとうナタリア。首尾はどうですの?」

「‘いつでもやれます’とだけ」

 

 火星から呼びつけていた、ナタリアと合流いたしますと。

 

 イサリビに戻ったワタクシは名瀬様にドルトコロニーの労働者たちが搾取の対象となっている事から、ドルト2でデモが頻発している事実と。 地球圏で鉄華団がテロ組織として報道されているのを説明。 つまり

 

[ってことは、あの武器弾薬は……デモ隊が武装蜂起するためのものってことか……]

「そんなものを運び込めば、ドルトコロニーが血に染まりますわ。 ギャラルホルンはドルトカンパニーと繋がっていて、粛清の名の下に労働者を虐殺するでしょう」

 

 本来、民を守る者達が一部の階級が利益のために無辜の人々を殺す。弱き者から搾取する、つまりは私の嫌う「腐敗」が今ドルトコロニーには蔓延っているのです。

 

「──そんなことはあってはなりませんのよ。 そして、GNトレーディング社の武器援助はドルトカンパニーの思惑の範囲内……どうですか? 彼らの利害一致で100%その地獄絵図は完成いたしますわ」

[で、工業用資源をすり替えて武装蜂起を防いだとして……何が変わるんだ?]

「ふふ……名瀬様はご存知かしら? 違法な就労で得る蜜を啜る愚か者どもには、御誂え向きの……鉄槌がございますのよ?」

 

 ワタクシは微笑みながら、その方法を享受します。 それを聞いた名瀬様は……

 

[なぁお嬢ちゃん……マジでお前さんは……「鬼」だな]

「アニキ、そらぁ。今のマリアには最高の褒め言葉でしかないっすよ?」

 

 もう諦めたかの様なオルガの表情に噴き出して爆笑する名瀬様。失礼ですわ! 

 

「では、ドルトカンパニーにキツ目のお灸を据えましょうか」

 

 ●

 

 鉄華団が荷物を届ける期日の二日ほど前。 マリアンナはドルト2を訪れており、オルガとビスケットが同行していた。

 

「ドルト労働組合のナボナ・ミンゴと申します。 いやはや……まさか鉄華団から私たちに接触してくれるとは……もしかしてそちらのお嬢さんがクーデリア・藍那・バーンスタインさんで?」

「はじめまして、ナボナ様。 ご期待に応えれず申し訳ありませんが、ワタクシはマリアンナ・レージスですわ」

「レージス……? まさかあの火星で名を馳せる《改革の淑女》様で……?」

「……《改革の淑女》とは一体……?」

 

 聞き慣れない単語に思わずマリアンナは尋ねてしまう。 ナボナは知らないのかと言いながら……説明をした。

 

「マリアンナ・レージス……その名を聞くと悪徳業者が身を震わせるほどの企業家として貴女は有名ですよ?

 クリュセ地区に多くの孤児院を作り、鉱山の収入をきちんと把握して無理なノルマを要求せず。 鉱員たちには快適な暮らしのできる社宅を用意していて給金は誰もが羨む安定した水準。

 他にも慈善事業としてバイオ燃料の原材料であるトウモロコシを買い叩く業者よりも6倍の価格で買い取って競争業社を完膚なきまでに叩きのめした敵なしの企業。 それからレージス財閥と聞き及んでますが……」

 

 その話を聞いてマリアンナは頭を抱えた。 立ち直りと切り替えは早かったが。

 

「地球圏ではそんな風に思われてたんですか……まぁいいですわ。 ナボナ様。 できればドルト労働組合とドルトカンパニー本社の窓口である人とお話をしておきたいのですわ。 数日後に収める工業用資源の納品について」

 

 そう言われたナボナによって、ドルトカンパニー本社から役員のサヴァラン・カヌーレが呼び出された。

 

「さて、本題ですが……このままアレを納めるつもりは毛頭ありませんわ。 そもそも、このドルトコロニーを血の海にしたいのですか?」

「どう言う意味で……?」

「武器弾薬はマガジンに刺さっている分のみ。 そしてMWに至っては細工が施されていましたわ。1機バラして調べてみたのですが、 一定の周波数の電波を受信したら機能停止する細工が施されてありましたわ」

「……アンタらはクーデターを起こす腹積もりで武器を待ってた……だから俺らを希望の英雄って言ったんだよな?」

 

 オルガたちを迎え入れたナボナは彼らを希望を運んできた英雄と言った。 それはオルガからしたら心当たりのない希望だったので、違和感を感じていたのだ。

 

「……もしかして、お話を聞いてないんですか?」

「いえ、知っています。 部下からの報告では、貴方方にクーデリア名義で武器を与えると報せがあり。 それを運んでくるのが鉄華団と……そう聞いたのでしたわよね?」

「その通りです。 私達にはもうその手しか残されてはいないんです!」

 

 必死の形相でナボナは訴えかけた。 サラヴァンはその様子を見て目を見開いて

 

「やはりクーデリア氏が煽動を……!」

「勘違いはいけませんわサラヴァン様、ナボナ様」

 

 瞑目したマリアンナは事実を伝える。

 

「サラヴァン様……貴方はクーデリアをギャラルホルンに突き出して全てを終わらせようとしていますわね? それに関しては、ワタクシに対する裏切り。 ワタクシの、この拳銃でその眉間を撃ち抜かれても文句は言わせませんわ」

 

 ギロリ、とサラヴァンを射抜くようにマリアンナは彼を見据える。その手は懐の拳銃に添えられていたが、すっとその手を下ろす。

 

「……ですが、今回は見逃しましょう。 だって貴方はノブリスの掌の上で踊らされる哀れな役者の一人ですものね」

「……私の動きをもう見抜いていたのですか、やはり」

「全ての情報はワタクシに集まりますわ。 ですから、この先のことはワタクシに任せて下さいまし。 ナボナ様もそれでよろしくて?

 クーデリアの死は火星圏労働者の武装蜂起のトリガーとなりノブリスの武器商売に火を付けて、ドルトカンパニーは思い通りにならない就労者のほとんどを掃除できる。

 ギャラルホルンはクーデリアを元凶に仕立て上げて、鎮圧という名の弾圧を行い火星での発言権を高める腹積もり……ね? わかりやすい三つの思惑の未来図ですわ」

 

 マリアンナは確信を持って彼らにその未来絵図を語った。 緻密な計算とも言えるそれに加担しかけていた二人は揃って脱力した。

 

「では、我々はどうすれば……」

「いくらでも方法はありますわ──もう一度聞きますわ。この先、ワタクシの指示に従ってくださる?」

 

 マリアンナはその方法を伝えた。

 

「ズバリ、全ドルトコロニー労働者によるストライキですわ! 休んだらその分給料は天引きされるでしょうけど、ワタクシもそろそろ地球圏で起業したかったのですわ……その基盤として、主要職種の方々をワタクシの元で雇い直すとドルトカンパニーに通告するのですわ!」

「ですがそれで本当にドルトカンパニーが動くのですか……? 何日か止めても問題ないって……」

「それだけでは不安でしょうからもう一手仕掛けます。 諜報員たちの情報を用いて収賄から今回の騒ぎになるであろう令状なしの一斉捜査に対してドルトカンパニーとGHの癒着の疑惑を流して差し上げますの。 そして、その証拠をハッキングを通じて取り出して世間様に公開して差し上げたら。

 うっふふふ……ドルトカンパニーの信頼はガタ落ちで大変なことになるでしょうねぇ。いい気味ですわ」

 

 マリアンナは黒い微笑みを浮かべてナボナ、サラヴァン、オルガをドン引きさせた。 ビスケットはもう慣れたものだとどこか遠い目をしていたが。

 

「然るべき準備のためにも、ワタクシに時間をくださいまし。 貴方たちの不満を武装蜂起と言う形でなく、正当なストライキにして差し上げますわ!」

 

 たゆんと胸を弾ませながら胸を張るマリアンナにオルガは呆れながら。

 

「その自信は本当に羨ましいよ」

「では、今日の会合はここまでですわ。 サラヴァン様、ナボナ様。 ワタクシはここで失礼いたしますが、甥とお聞きしているビスケットとも、積もる話もあると思いますのでごゆるりとお過ごしくださいませ」

 

 そう言うと彼女はオルガを伴って一同から離れていく。

 

「彼女に全て任せておくだけで終わりそうな人だな……」

「私もそう思います……台風の目のような少女だ……」

 

 思い思いの所感を述べたナボナとサラヴァンは、ビスケットと向き直り。 ぎこちなくも、昔話に花を咲かせるのであった。

 

 ◯

 

 一方。 傭兵として自由に動ける権利をもらったプロフェッサーは、単独行動を取るとして、月に向かっていた。

《エイハブ・ステルス・フィールド》と呼ばれるステルス機能を有するアガレスの機動性を利用して、哨戒中のMS等々を躱して月の裏側に来ていた。

 

 アガレスは月の裏側の、一般的に立ち入り禁止とされている地点に着地した。 そこな地下空間にはかの英雄の、アグニカ・カイエルの墓標がある。

 

「さてと……ここは300年経ってもあの頃のままかぁ……」

 

 巨大なガンダムバエルの石像の足元には特殊金属プレートがあり、『人類史守護セシ英雄、ココニ眠ル』と刻まれていた。 その足元に隠されていたインターフェースに青いノーマルスーツ姿の彼女は、所有していたカイエル家の家紋──双剣を握るドラゴン──を意匠に型どった紋章を接触させる。

 

 電子音が鳴りバエル石像が迫り上がると、さらに地下へと伸びる階段が出現した。

 

「スヴァハおねーさん探検隊……一人探検隊ってやつかな? さて、行きますか」

 

 意気揚々と地下に降りていくプロフェッサー、本来ならば立ち入り禁止どころではなく永久的封鎖区域のアグニカ・カイエルの墓標なのだが、彼女の使った端末によりセキュリティロックの全てが解除されていた。 これを意味するのは、GHに墓標の秘密通路が開かれた履歴の通信が無力化されているために、何が起こっているのかすらわからない状態になっている。

 

 迷宮になっているわけではなく、巨大なサーバールームに入ったプロフェッサーはエアロックを作動させて酸素を部屋に充満させた。

 ヘルメットを脱ぎ捨ててから中央に位置する場所に設置された棺に先ほどの紋章を接触させ、タッチパネルを操作。 パスワードの14106を打ち込んで、さらに左手を画面にぺたりと押し付ける。

 

 紋章……認証 偽証の疑いなし、経年劣化年数300年。

 キーワード……14106──アイシテル……承認

 左手静脈認証……スキャン完了。 スヴァハ・エタニクル本人

 人物解凍プロセスを開始。 ◾︎◾︎◾︎◾︎・◾︎◾︎◾︎◾︎のコールド解除、蘇生を開始。

 

 低く唸るような音で棺の稼働が停止する。 そして冷たい氷のベッドだったそれは棺の中で眠る一人の男を呼び起こすためのゆりかごとなった。

 

「早く起きなさいよ、このネボチン……」

[──嗚呼、その声──懐かしい女の声だ──]

 

 動かなかった肉体の関節に程よく電気を流されて覚醒して行く鍛え上げられた肉体。

 体細胞の振動が復活して行き、凍てつき青白くなっていたはずの肌はほんのりと赤く紅潮して行く。

 バサバサに凍りついていた橙の髪は培養液の中で潤いを取り戻し、艶やかに輝く。

 脳内にダメージがないかをスキャンされ異常はなく。 最盛期そのままに肉体とともに眠りについた魂が燃え上がり、その意識は覚醒へと導かれた。

 

「二度寝は許さない。 だから起きて、アグニカ」

「300年寝てた奴に、二度寝すんなって。寝起きにそれはひどかねぇか? スヴァハよぉ……」

 

 ざぱりと培養液をかき分けて、その男は半身を起き上がらせた。

 無駄な筋肉が付いていない針金のように細く、鋼のごとく鍛え上げられた肉体。

 身長は高く、プロフェッサーの168cmから彼女の頭一つ分足したほどの身長。

 その貌は、きりりと吊り上がった目尻に自信が満ち溢れる様の黄金の瞳を爛々と輝かせ、高い鼻と一文字に結ばれた形のいい唇。 あの頃は太陽のようと讃えられた燃える夕焼けのような橙の髪。

 肉体美に相当の自信があるのか、全裸でも全く動じないこの男。

 

「こんにちは、現代。 さようなら、クソッタレな厄祭戦争……だがまぁ、スゥ。 俺を起こしたってことは……奴が帰ってくるんだな?」

「その通り! 私たちが300年前に狩り損ねたクソが、進化して帰ってくるとアンタが予測した325年よりも少しズレた今の時はP.D.323年ってところ」

 

 プロフェッサーにアグニカと呼ばれた彼は

 全裸のままで、前も隠さず。

 

「よし、なら。 俺たちのパトロン探してガンダムフレームも集めないとな……バエルや八輝星のガンダムはイシューの倅が管理してるはずだよな?」

「いやー、全部が全部あるわけじゃないみたい。 アガレスは私とセットで封印したじゃん? 一応確認とったけど、バエル、ガミジン、マルバス、ムルムル、キマリス、ハーゲンティにゼパルはキチンとバエル宮殿なる場所に動態待機で保存されてるみたいよ?」

「ということは……地球本拠の海上基地はまだ現存してる……ってことか? いやまぁあれに関しては頑丈に作っといたから残ってない方がおかしいわな。 クソ親父の設計に間違いは無いはずだ。 ん? まて。 なんでエリゴス(・・・・)を省いた?」

 

 プロフェッサーはその疑問に対して自らの置かれている境遇を男に説明した。

 

「そのエリゴスなんだけど、あんのにっくきレージス(・・・・)家が末裔の小娘が動かしてるのよ。あの泥棒猫の末裔が!」

「──……本当にすいませんでしたぁぁァァァ!!」

 

 ジャンピング土下座して男は額を地に擦り付けて謝罪していた……一体何があったと言うのか。

 

「と、まぁ。 私にとってはあなたが今隣にいるのは私って言うのが重要なのよん……その意味を、わかってるよね? アグニカくん……?」

「ハイ、本当ニ、申シ訳アリマセンデシタ……」

「美点ばっかりの伝説を残す英雄でも最低最悪の欠点が《女癖の悪さ》って言うのは、世も末よねぇ」

 

 ニタリと意地の悪い笑顔をしつつ、プロフェッサーは「そんなことより」と。

 

「一応、戸籍は偽造して用意しないといけないわね。 レージスのお嬢様に頼んで作ってもらいましょうか」

「その『レージスの』、がスヴァハの雇い主なのか? お前を雇いながらエリゴスを駆る……と?」

「血は争えないってわけよ。 あなたと似たような子孫だし……そのー……あなたの血筋を引いた立派な曽孫ってわけで」

「正義感の強い子が今の当主、って意味だな……エスメラルダの頃からその性格は受け継がれて変わらんと見える」

 

 納得いかんと言わんばかりにプロフェッサーは少しむくれる。 時を超え、彼と再会を果たしたがプロフェッサーの年齢は20を超えていない。 そんな彼女の青髪を苦笑いしつつ男は撫でて

 

「なら、よ……今までの埋め合わせ。 させてくれないか? 雰囲気もクソもあったもんじゃねえが、300年って時間は……君と離れていた時間を取り戻せるって言うなら、さ」

 

 それからプロフェッサーがイサリビに帰還したのはそれから2時間後のことであった。少し頬のこけた半裸の男を連れ立って、やけにツヤツヤしながら帰ってきた彼女に。 マリアンナは苦笑いした後、ジョージと名乗った男の真名を見抜いたのは無理もない話だった。

 

 to be continued




これからも、好き放題に書かせていただきます。

腐敗に鉄槌を!
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