願いを叶える代わりに命をちょーだい!   作:雪山崇一

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第一節 ()(たね)は芽吹く

「……結局全部の道見ることになったな」

 

「今更だけどよ、手分けすればよかったんじゃね?」

 

「……マジで今更だな」

 

 ため息と共に公園へと続く道を歩いていく。

 ……写真を落とした少年を追いかけたまではよかったものの、その先が十字路になっていたのは予想外だった(つーか忘れてた)。

 だとしても少年がこっちへ来たのは確かなため、三つの道を一つ一つ調べることになったのだが、結局のところ『左』と『右』の道の先にはおらず、最後まで残されていた公園へと続く『真っ正面』の道を今現在歩いている。

 ……亜夢(あゆ)の言う通り、なんで手分けするという簡単な方法が思いつかなかったのだろう?

 

「つかさ、時間的にその写真の男の子を見てから三〇分は経過してるぞ? もう近くにはいないんじゃねーの?」

 

「あー……まぁ、そうだよな。その可能性は高い。どうしても見つかんなかった時は交番に届けようか。

 確か業務スーパーの近くだったよな? ここから歩いて一〇分もしないところ」

 

 交番までのルートを思い浮かべながら口にすると、隣から今の発言を微笑ましく思うような息づかいが聞こえてきた。

 

「? ……なに?」

 

「く、ふ……あぁ、いや、悪い。昔の事を思い出してな」

 

 微笑みを絶やさないまま、亜夢は続ける。

 

「覚えてるか? 一〇年前、この街に来たばかりのお前が迷子になって、交番に行こうとしたら逆方向に歩いてすっげぇ遠くまで行ってた話」

 

「あ、あの時の事は忘れろ」

 

兄貴(あにき)可愛かったな~、母さんとあたしが見つけるまで涙目で(うずくま)ってて――」

 

「――わ・す・れ・ろッ!!」

 

「む・り・だ♪」

 

 顔を(しゅ)に染めた懇願(こんがん)も、にっこりとした――それでいて小悪魔のように見える笑顔であしらわれる。

 あの時の事を掘り返されれば掘り返されるほど、二人が来た時の安心から叔母さんに泣きながら抱きついた記憶を鮮明に思い出してしまう。

 隣にいた従妹も安心した様子でこちらを見ていた……けれどそれは今になって思うと、色々と恥ずかしい光景だった。

 

「――ま、その時に比べたら簡単に交番の場所が出てくる辺り、この街にはすっかり慣れたんだと思ってな」

 

「……ったく」

 

 気を取り直すように息を吐き、思考を巡らせる。

 考える内容は今探している少年についてだ。

 ……あの少年を追いかけようと思ったのは、昔の自分によく似ていた影が差した顔を見たから、という理由が一番だが――もう一つ……それとは別で、独りにしてはいけないと思った理由がある。

 

 それは――“魔種(ましゅ)”だ。

 

 魔霊祓い(エクソシスト)の中では常識となっている単語であり、

 魔力とは別に――全ての人間に根付いている、太古の時代に悪魔によって人間にかけられた呪いであり――『()(たね)』。

“魔種”は宿主の“心の闇”を――“負の感情”を喰らい、成長し、いずれ()災の化()――■■(■■■)となり、宿主の■を奪い、   (■■■)に“  ”を持って■■(■■■■)する――太古から現代に至るまで人間の内に根付く祓えぬ“呪い”。

 

 ……だからこそ心配だ。

 ()()()()()()()()から■■は現れなかったものの、あの子はまだ生きている――つまりは今もなお魔種は成長することができる。

 あの表情を見るに、胸の内には“心の闇”が溢れていることだろう。

 もしそうなら、いつ魔種が成長しきってもおかしくはない。

 だからこそ、会わなければ……会って話をして、少しでも胸の苦しみを溶かしてあげたいと切に思う。

 

 あの少年は何処に行ったのだろう?

 この道の通りには公園がある。もしそこにいなかった場合、少年は奏多(かなた)たちが思っているより遠くへと行ってしまった事になる……そうなると尚更手分けするという考えが浮かばなかった自分を責め――

 

「――ッ!?」

 

 不意に足を止めた亜夢の気配に自分も足を止める。

 どうやら思考を巡らせている(あいだ)に公園へと着いていたらしい。

 驚いた様子で公園を見る亜夢の視線を追うように奏多も公園へと目を向け――

 

「なにやってんだお前ら――ッ!!」

 

 公園の光景を視界に納めるよりも早く、

 亜夢の激昂(げっこう)がその場の空気を塗り替えた。

 

          ◆

 

 鮭の入っているおにぎりや、水などを買って公園に戻ってきた。

 人間の食べ物は動物には塩分が高いと聞いた事があるが、少しくらいなら大丈夫だろう。

 

「ただいまー、ノラ……あれ?」

 

 ノラの姿がない。

 いつものベンチにも見慣れた姿は見受けられない。

 公園の中へと()を進め、アスレチックや草むらの陰にも目を配るが、白い影は何処にもない。

 何処に行ってしまったのだろう? と、もう少し詳しく公園を見て回ろうとし――

 

 

「こんにちは、遥渡(はると)クン――」

 

 

「ッ!?」

 

 聞き慣れた声に振り返ろうとした瞬間、溜めていた力を解き放ったかのような一撃が背中を貫いた。

 

「が、は――ッ!」

 

 一撃の正体は蹴り。

 背骨へと容赦ない蹴りを入れられ、激痛から地面に倒れ伏し動けなくなる。

 コンビニのレジ袋も手から離れ、中身が転がっていく……それを踏みつけながら、蹴りを入れた少年の仲間が現れた。

 数は全部で三人。

 ……その誰もが、遥渡の知る人物であった。

 

「お、……まえ……ら……」

 

「やぁやぁこんにちはー、簑埼(みのさき)

 アンタ学校じゃちっとも笑ったりしないのに、こんな場所で猫と遊んで生意気に笑ってたんだ」

 

 男二人、女一人。

 今現在、遥渡へいじめを行っている三人だ。

 遥渡は露骨(ろこつ)に嫌な顔をすると、それが気にくわなかったのか、頭を蹴りながらフードを退かすと(あらわ)になった青髪の頭をメシメシッ、と……脳内の奥に響くほどの強さで踏み潰す。

 

「ぅ……、ぁ……」

 

「なんだよその顔? そんな顔する罪人の息子には罰を与えないとなー……っていうか、もう与えてたか」

 

「?」

 

 ……どういう意味だ? と遥渡は顔をしかめる。

 いじめっ子の三人はその顔を見てニヤニヤとしだし、

 

「実は最近さ、お前の感情が希薄になってきて困ってたんだよ……なにしようと前みたいに泣かないし、反応も小さいし、お前がそんな調子だから俺たちの気が晴れ晴れとしなかった――でもさ、」

 

 遥渡を蹴り跳ばした少年は目の前にまでやってくると屈み、ぺっ――と遥渡の顔面に唾を吐いた。

 

「今日、良い方法を見つけたんだよ。……お前の顔を歪ませる方法――まさかお前がまだあんなに良い顔をできる相手がいるとは知らなかったぜ、遥渡」

 

「――――、え――――、」

 

 ……一瞬の(のち)、その言葉の意味を理解した。

 ――自分が良い顔をできるのはこの公園だけであり、そこにいる相手というのは、一匹しかいないのだから……。

 

「ほらっ」

 

 ――()()()()()

 

 男が退くのと同時に……女が“ナニか”を目の前に投げ捨てた。

 

「       、は――――?」

 

 ()()は生きている。

 蹴られたのか、叩きつけられたのか、木の棒か何かで頭も首も腹も見境なしに殴られたのか、汚れてはいたものの綺麗でふわふわで大好きだった白の毛皮は至るところが赤く……その点からじんわりと周囲に(いろ)が移っていく。

 

「       、な…………、」

 

 ソレは目を薄く開いている。

 右目は潰され、左目も開けているのがもうツラいだろうに……それでも薄く開かれ、彼を見ている。

 

「  、  ………… 。  。に、ゃ……っ…… 」

 

 ソレは呼んでいる。

 外側から喉も傷つけられ、鳴くのも限界だというのに、それでも頑張って絞り出すように彼の事を/  ――呼びたくて  /呼んでいる。

 

「な  、 …………、ん  で   、?」

 

 投げ捨てられた衝撃で傷口が余計に開いた……。

 レンガを伝って開かれた腹から漏れ出た赤黒い水が遥渡の口に到達する……ドロリとした食感だけが舌から全体に浸透するように広がっていく。

 

「    。ノ、ラ  …………」

 

 口にした名前(こえ)は、蚊の鳴くような小さな音に変わる。

 …………ぴ、く……。――と動いた傷だらけの耳を見れば、体は震えながらもノラへと手を伸ばそうとする…………だがその手は、上から打ち込むように振り下ろされた(かかと)によって氷に亀裂が入るように折られた(壊された)

 

「お! そうそうその顔が見たかったんだよ!

 久しぶりに見たよ遥渡の絶望した顔。……んじゃあこうすれば――もっと見られるかなッ!」

 

 暇をもて余していたもう一本の足の踵が空き缶でも潰すような感覚でノラの中途半端に(殺してやる)漏れていた(殺してやる)腹を潰す(殺してやる)

 ブシャッ!(殺してやる) と、中から鮮血が暴発し(殺してやる)遥渡の顔面にぶっかかる(殺してやる殺してやる)

 

「ぶっははははははッ!! きったないのー! そんなに汚くなりたいなら……ほら、ほらほら!」

 

 腸が飛び出したノラの腹部を(殺してやる殺してやる)足で蹴りながら(殺してやる)顔面に押しつけてくる(殺してやる)

 

 ……………………どうかしている(殺してやる)どうかしている(殺してやる)どうかしている(殺してやる)

 コイツらは(殺してやる)どうかしている(殺してやる)

 どっちが罪人だ(殺してやる)サイコパス、狂人、罪人(殺してやる殺してやる)そんな程度じゃ(殺してやる)表現できない(殺してやる)

 

殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺して」やる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)殺してやる(殺してやる)

 

「ん? なに、私たちを殺したいの? それならほらほら殺してみなって。でも殺したら警察に捕まっちゃうよー? ギャハハハ!!」

 

 ……周囲の声などどうでもいい。

 ドロリとした食感を舌が感じるほどに殺意(さつい)は簑埼遥渡を支配していく。

 ()()()だけが(のこ)る。

 壊された手に、押しつけられている体に力が与えられる。

 

 

 ……ノラと遊ぶ度に、胸の内に膨らんでいた(モノ)は晴れてくれた。

 

 ……ノラと話す度に、心はいつも暖かくなった。

 

 ……ノラがいてくれたから、ぼくはひとりじゃなかった……寂しかったけど笑えて、ツラかったけど遊べて、隔てていた他者との壁を……すり抜けて来てくれた。

 

 ノラはぼくにとって、唯一の大切な友達だった。

 

 

          ◆

 

    ソノ友達ヲ■シタオマエラハ

 

      イマココデコロス

 

          ◆

 

 

 ……心の闇が増大する。

 (たね)は負の感情で満たされていく。

 

 ――小さな(たね)はついに芽吹いた。

 

 

 形が形成される――人形(ひとがた)

 

 片手には武器が――両刃剣。

 

 体を覆うは――墨色の軽装の鎧。黒き腰のマント。

 

 

 それは太古の爪痕(つめあと)、悪魔が人間に刻んだ消えぬことのない“呪い”。

『裏』の世界を知る者からは排除すべき対象となる異形の存在。

 本物の悪魔からすれば見下されるだけのあまりに小さな脅威。

 

 だけど、

 それでも、

 

 ――来るぞ。

 人の心が生み出す、宿主の“命”を喰らいて顕現せし――禍災(かさい)の化身が。

 

          ◆

 

「なにやってんだお前ら――ッ!!」

 

 亜夢の激昂が公園中を震え上がらせる。

 上から一連の光景を見ていた鳥は木から飛び立ち、

 三人のいじめっ子は“ヤバい”と感じその場から逃げ出し――

 

 

 ――ギュルンッッッ!! と。

 地面に伏していた少年を起点として荒れ狂った魔力に巻き込まれ、

 唾を吐いた少年は頭を打ち付け脳震盪を引き起こし、

 頭を踏み潰していた少年は木へと叩きつけられ骨を何本か持っていかれ、

 笑っていた少女は魔力によって顔面を無様にされ激痛と共に気絶した。

 

 

「なっ!? あ、ぐ――っ!」

 

 周囲の全てを奪っていく魔力に気圧(けお)される。

 亜夢の激昂は遥渡にとっても救いとなるはずだったが――救済には遅すぎた。

 ……殺意に取り込まれた少年が魔力(うず)の中心にて立ち上がる。

 そうして、見えた/気づいた。

 少年の胸の内より……ドス黒い魔力が流れ出ていたことに。

 

「っ――、遅、かった……」

 

 絶望の呟き。

 奏多の瞳に映っているのは探し人であった名も知らぬ少年の瞳。

 ……くろく、くろく、くろく。……まるで墨を凝縮したかのよう……もう表情の影、なんて話じゃない。

 誰の声も聞こえない。

 誰の気持ちも届かない。

 もう……戻ることはできない。

 ドス黒い魔力が胸から流れ出る……あの現象を目撃した瞬間、そう思った。

 ――あの現象には見覚えがある。

 魔種が成長しきり、内側から外に出ようとしている時に起こる現象だ。

 

「あ――ぁあ……あああああッ!!」

 

 胸を内側から抉じ開けられるかのような感じたこともない激痛。

 青髪の少年の脳は処理限界を超えてパンクし、何の意味もないのに両手は激痛をどうにかしようと体を抱きしめる。

 目は見開かれ、喉は掠れ、視界に広がる凄惨(せいさん)な姿になった動物と断末魔(だんまつま)が合わさり吐瀉物を吐き散らす。

 ……そして、

 

「ァ゛、アア゛Aa――aaAAaaAAaaAaaAAA!!」

 

 体の奥底より這い上がってくるこの世ならざぬモノの咆哮。

 ドス黒い魔力は雄叫びに呼応するように少年を浸食(しんしょく)していく。

 

 じっくりと……染めるように、

 

 飲まれ、

 喰われ、

 浸食され――、

 

 そして、

 

          ◆

 

【……魔種(ましゅ)という呪いがある。

 魔力とは別に――全ての人間に根付いている、太古の時代に悪魔によって人間にかけられた呪いであり――『()(たね)』】

 

 

「――奏多、構えろッ!」

 

 

【“魔種”は宿主の“心の闇”を――“負の感情”を喰らい、成長し、いずれ――】

 

 

 直後――、

 

 バアァンッ!! と。

 少年を飲み込んでいた黒き魔力が周囲に解き放たれた。

 

 大気を裂き、大地を抉り、空間を唸らせ、生ある者を黙らせる。

 魔力が頬を掠めただけなのに、火傷(やけど)感電(かんでん)が同時に発生したような感覚に襲われる。

 その痛みがスイッチだったかのように、二人の目付きは魔霊祓い(エクソシスト)へと変わる。

 霧が晴れるように黒き魔力は姿を消していく……すると、先ほどまでいなかったはずの異形が、恐怖を象徴するように爆心地に君臨(くんりん)していた。

 

「――こいつ、は……、ッ……!」

 

 ――()()は、立っている。

 全長二〇メートルのヒト型。体はヒビの入った細身で黒色、それでいて異形でありヒビからは黒紫の光が漏れ出ている。

 目はナイフのように鋭く、頭の左右には斜めに生えた禍々しい角。

 墨色の軽装の鎧、(なび)く黒きボロボロの腰マント、右の手には得物の両刃剣を(たずさ)えた人ならざるモノ――。

 

 これこそが魔種(ましゅ)の正体。

 魔霊祓い(エクソシスト)が向き合わなければならない絶対的な悪意。

“心の闇”を喰らい続けた魔種は『種』から『異形』へと変化し――

 

 

禍災(かさい)の化身――魔霊(まれい)となり……宿主の命を奪い、この世に“実体”を持って顕現(けんげん)する】

 

 

          ◆

 

 悪魔の劣化品とも言われる魔霊(まれい)と対峙する。

 悪魔とは違う、人の“心の闇”によって育てられ、現実に現出(げんしゅつ)した生きる者全てに害を為す悪意の塊。

 劣化品だとしても油断はできない、悪魔が桁違いなだけで、魔霊はその全てが規格外の力を保有している生きる天災そのもの。

 

「く……っ」

 

 ……こうならないように。

 ……こんな最後にさせないために追いかけてきたというのに……結果は、最悪の形で目の前に広がっている。

 あの少年は魔霊に命を奪われ亡き者となり……その少年より生まれた魔霊(モノ)は、魔霊祓い(エクソシスト)によって殺されるという最期が待っている。

 

「あ……あぁ、あ……」

 

 脳震盪を起こしたとしてもまだ意識が残っていた少年が、人が異形に変わるという超常現象(ちょうじょうげんしょう)に理解が追い付かず、途絶え途絶えに声を漏らす。

 

「は……遥渡、が……バケモ、

 

 ――ズザァンッッッ!! と。

 意識が朦朧としていた少年にトドメを刺すように両刃剣の切っ先が振り下ろされる。

 大地に亀裂が生じ、深々と突き刺さった刃がスッ――と引き抜かれる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「テメェらには怒りしかねぇけど、死なせるのもちげぇからな」

 

 咄嗟に救った亜夢が振り下ろされた時に発生した衝撃波も利用し距離を取る。

 今のも相まってか、救った少年は気絶していた。

 それを適当に放置すると、遠くから聞こえる魔霊を見た人の悲鳴を聞きながら亜夢は立ち上がる。

 

「奏多!」

 

「……大丈夫だ」

 

 真横へと跳んでいた奏多は深呼吸をしながら戦闘態勢に移行する。

 魔霊が顕現した以上は切り替えなければならない。

 一度死んだ人を生き返らせる魔術は存在しない。

 倒さなければこれ以上の被害がもたらされ、また悲劇を生むことになる。

 それを阻止するために、防ぐために……『異能の力』を行使し、魔霊を倒す――それが奏多たち、“魔霊祓い(エクソシスト)”のするべき事だ。

 

「……」

 

 もう一度、少年の(うつ)っている写真を見る。

 満面の笑顔。

 こんな笑顔のできる少年が、どうすればあんな影の差した顔をするようになるのだろうか……結局、話し合うことはできなかったし、過去に何があったのかは他人である自分が知る(よし)もない。

 ……でも、

 

「――ごめんな」

 

 どうにもならない謝罪を口にし、目の前の魔霊と向き合う。

 せめて傷がつかないようにと写真をポケットに仕舞う。

 二人の魔霊祓い(エクソシスト)は魔力を回す。

 少年はその手に魔力の剣を、体中に魔力を流し身体能力を底上げさせ、

 少女は自らが得意とする稲妻(いなずま)の魔術を行使し、掌から稲妻を(ほとばし)らせる。

 掌から放たれていた稲妻は、いつしか亜夢の体を覆い尽くすまでに広がり、敵意を表すようにバチッ、バチッ! と所々で火花を散らしていた。

 

『オオォォォ――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』

 

 魔霊の咆哮が猛る。

 同時に開戦の狼煙(のろし)を上げるように、至るところで散っていた火花が亜夢の目の前で大きく散る。

 

「ふ――ッ!」

 

「ッ――!」

 

 異形の身へと刃を走らせるために奏多の姿は掻き消える。

 援護するように亜夢は極限まで圧縮した直径三メートルの稲妻の柱を異形の鳩尾(みぞおち)目掛けて打ち放つ。

 

 ――戦いの火蓋はこうして切られた。

 簑埼遥渡の心の闇を喰らいて誕生した魔霊(まれい)――“エンドアルター”を狩る為の戦いが。




 ――【用語解説】――

魔種(ましゅ)

 太古の時代――悪魔が人間に根付かせた“呪い”である()(たね)

『魔種は宿主の“心の闇”を喰らい、成長し、いずれ禍災(かさい)の化身――魔霊(まれい)となり……宿主の命を奪い、この世に“実体”を持って顕現する』


魔霊(まれい)

 万人に根付いている『魔種』が、宿主の心の闇を喰らい、成長した姿。
 成長しきった魔霊は、宿主の命を奪い現世に“実体”を持って顕現する。
魔力(まりょく)』『魔術(まじゅつ)』といった異能(いのう)の力を行使し、生きる者全てに害を為す禍災の化身。


魔霊祓い(エクソシスト)

 万人に宿る力、『魔力』。
 魔力を用いて発現する奇跡、『魔術』。

 それらを行使し、魔霊を倒す者たちの総称。
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