願いを叶える代わりに命をちょーだい!   作:雪山崇一

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終節 ……さようなら / ――はじめまして

「……ん……、――あ」

 

 ……目が覚めた。

 仰向けになっている瞳が見つめている空はもう夜空へと変わりかけ、光剣(こうけん)が飛来した衝撃で気絶した体は瓦礫の上からビルとビルの隙間へと運ばれていた。

 数十メートル先には崩壊した公園があり、周りには警察と野次馬の姿が見える。

 ……あのまま公園に倒れていたら、間違いなく厄介事に巻き込まれていただろう。

 その状況を見越して気を利かせてくれる存在は亜夢(あゆ)の中では一人しか思い当たらない――

 

「妙なところで気が利くんだよな、イリスのヤツ」

 

 意識が覚醒してきた亜夢は苦笑した。

 気を利かせてくれたであろうイリスの姿は何処にもない……亡骸となった奏多の姿も同じく――恐らくイリスが持っていったのだ。

 その瞬間に……奏多(かなた)の目の前にいるために――。

 

「……ノラは、大丈夫かな?」

 

 遥渡(はると)の記憶から知った野良猫の名前を呟く。

 意識が途切れる寸前まで腕の中で治癒魔術をかけ続けていたノラのことを思う……いじめっ子に踏み潰され、エンドアルターとの戦闘の衝撃で飛ばされていたノラを見つけ、イリスとエンドアルターとの戦闘の(あいだ)休むことなく魔術をかけていたが自分は治癒魔術はあまり得意ではない。

 本格的な治療は医者に任せるとして、それまでの応急措置として行っていたのだが……そのノラの姿がイリス同様に見当たらない。

 という事は魔術によって歩ける程まで怪我が治り、この場から離れていったのだろうか……? もしそこまで回復していたのならば、こっちとしても嬉しい限りだが。

 

「……っ、」

 

 疲労が残る体を起こし、ビルとビルの隙間の出口へと歩を進める。

 ……視界に広がるのは警察、野次馬、そして戦場……先ほど自分が死にかけた場所。

 

「――ッ、」

 

 ……奏多を守りきれなかった……場所……。

 

          ◆

 

 今日から自分の従兄(いとこ)にあたる人が家に来る。

 母からそう言われてはいたけど、まだ五歳ということもあり、当日となると緊張を隠せなかった。

 玄関に叔母(おば)の手を握りながら自分と同じ歳の少年が立っている。

 対する自分は母の背に隠れながら様子を伺っていた。

 

『じゃあ、奏多(かなた)をどうか……よろしくね』

 

『うん、任せて。

 はじめまして、奏多君。ほら亜夢、挨拶』

 

 母に肩をトントンと叩かれ前へと出る。

 叔母から『仲良くしてあげてね、亜夢ちゃん』と言われ、恥ずかしさから俯いていた顔をあげる。

 

『…………は、……はじめ、まして』

 

 服の裾をキュっと掴み、顔は真っ赤で声は震えていたが、これでよかっただろうか?

 答えを確かめる為に目の前に立つ、自分よりも少しだけ大きい少年を見上げる。

 ……と、

 そこで……気づいた――

 

『――ッ!?』

 

 ………………()()()()()

 生きてはいるのに……その瞳の色は(にご)り、使い潰した墨汁を固めたような有り様で、言葉はないけど…………もう疲れた、と……光を失った瞳は語っていた。

 ……なのに、

 

『はじめまして、亜夢。これから……よろしくね!』

 

 心配させまいと無理やり笑顔を作って、元気も取り繕い、最後はなんとか声をあげていた。

 ……五歳である自分すら無理してると気づくほどなのだ。きっと母も叔母もその事には気づいているだろう。

 だがそれを指摘するのはダメだと、子供心ながらに直感した。

 だから笑顔で挨拶を返すことにした。

 

『よ、よろしく……お願い、します……』

 

 ……その笑顔も彼と同様、無理やり作っているのがまるわかりだと思われるほどにヘタクソなものだったのだが。

 

 

 

 ……彼が迷子になったのは、それからすぐのことだった。

 来たばかりの街に慣れようと外に出たのだろう。

 だが迷ってしまい、午後六時を過ぎても帰ってこず、仕事を終えて帰ってきた母と一緒に探しに出た。

 

『奏多君! やっと見つけられた……!』

 

 案外早く見つけられた。

 場所は街の交番の逆方向の道の先。暗くなった街の闇に溶けるように、建物に背を預けて蹲っていた。

 

(にい)ちゃん! 大丈夫!?』

 

 名前を呼ばれ、亜夢が兄のように慕う少年が顔をあげる――それまでの間、暗闇(くらやみ)にトラウマでもあるように……ガタガタと震え、視界が定まっていなかった奏多は、希望を見つけたように初めて涙を流し、

 

『叔母さん……亜夢……っ!』

 

 母の胸へと飛び込んでくる。

 トラウマに囚われていた少年は大粒の涙を流しながら、抱きしめる力を強くしていく。

 

『大丈夫。もう大丈夫よ……』

 

 夜風で冷たくなりはじめていた体を暖めるように母は優しく腕に力を通していく。

 ほっと、胸を撫で下ろしていた亜夢もたまらず奏多を抱きしめた。

 

『――――』

 

 ……先ほどの異常なほどの震え、

 ……出会ったばかりの時に見た光なき瞳、

 自然と思い返される。頭にこびりついて、記憶が上書きされようと何度も蘇る、苦しんでいる奏多(ひと)の姿。

 奏多を抱きしめていると、鮮明にその場面が脳裏に映し出される。

 ……放っておけない、と思う。

 ……何とかしなくちゃ、と思う。

 ――守ってあげたいと、強く思う。

 

 心身(しんしん)としても、

 家族(かぞく)としても、

 ――“魔霊祓い(エクソシスト)”としても、

 

 ……“魔霊(まれい)”。

 ……“悪魔(あくま)”。

 

 ――“魔霊祓い(エクソシスト)”である母から聞いた、常人には知りえない“裏の世界”の脅威、禍災(かさい)の化身。

 ――太古よりこの世界に君臨(くんりん)する、正真正銘の“魔”の存在。

 

 “魔霊祓い(エクソシスト)”として生きていく亜夢にとっても、運命レベルで対峙することになる死の象徴。

 罪のない人たちにも――いま抱きしめている“家族”にも恐怖をもたらす存在。

 

(大丈夫――)

 

 ――そんな事はさせない。

 彼の心の支えになって、

 あんな瞳を二度とさせない為にたくさんの楽しい思い出を作って、

 

(守るから――)

 

 まだまだ未熟(みじゅく)な心で、ちっぽけな子どもの意志で、それでも――迫り来る恐怖から守ってあげたいと、そう思った。

 

 

 

 その思いがより一層固いものになったのは、それから一ヶ月後の夜のこと。

 ……その日、街に魔霊が現れた。

 二人で出掛けている最中に遭遇したが故に助けも呼べず、そのまま戦闘になり……結局、魔力が少し使える程度の当時の亜夢には何もできず、奏多も戦闘に巻き込まれ、深手を負った。

 

『あ……、ぁ、ああ……!』

 

 胸に広がる灼熱感。

 折れたあばら骨、足から響く激痛に絞り出すような声を漏らしながら視線の先に倒れる奏多を見る。

 ……酷い有り様だ。

 袈裟懸けに裂かれた胸、何処かへトンでしまった左腕。

 息をしているかどうかさえも怪しいというのに、魔霊は触れれば千切れてしまいそうな体を掴む。

 

『や……、めろ――やめ、ろ……ッ!』

 

 懇願(こんがん)は届かず、無慈悲(むじひ)に奏多の体は外からの圧力によって破裂しかけ――

 

 

 そして、

 ――“悪魔(アイツ)”が現れた。

 彼方から飛んできたかと思うと、大鎌で魔霊の腕を細切れにし、重力に拐われる奏多の体を抱き止めた。

 

 

 それは従兄が家に来ると同時に家にやってきた存在。

 母から従兄が家に来ると知らされた時、従兄は三ヶ月前から“悪魔”を連れ歩いていると聞かされた。

 最初の挨拶の時には空気を読んだのか、奏多の挨拶が終わってから姿を現したが、その後は普通に琴花(ことはな)家に居座り、毎日のようにゴロゴロしていた。

 ……でも、どうして連れ歩いているのか、それは聞かされていない。

 言われたのはあくまで“連れている”という頭のおかしい話だけで……、

 

『――アイツを倒してくれ、ね。……それは、“願い”?』

 

『…………っ、ぁ……あぁ……たの、む』

 

 ……何か話している。

 完全に置いてきぼりになった亜夢は呼吸一つで体に激痛を感じながら二人の様子を見ていると、

 

『――?』

 

 不意にこちらを見て……奏多が笑った。

 その表情は微笑みではあるが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……謝るような、泣きだしてしまうような、そんな雰囲気があった。

 そして……その、次の瞬間――

 

 

 ――ガシュッ!! ……と。

 

 

『…………へ?』

 

 つい出てしまった呆けた声。

 衝撃的過ぎるあまり、頭が理解を拒んでいる。

 ……だが頭は少しずつ目の前の光景を理解し始めた。

 

 悪魔が…………噛み千切(ちぎ)った。

 まるで林檎(りんご)をまるかじりするかのように……奏多の喉を、噛み千切っ、た……。

 

『………………………………、ぁ、』

 

 喉仏(のどぼとけ)も、首を通っていた動脈(どうみゃく)も、今は彼女の口の中。

 ゴリゴリと咀嚼(そしゃく)し、ゴクリと血液ごと飲み干す不快音(おと)がここまで聞こえてくる。

 

“…………どう、して?”

 

 別に彼女とは深い関わりはない。同じ家に住んでいる以上、嫌でも顔を合わせるのでその度に話を交わしていただけ。

 それでも……彼女に人類への敵意がないのはわかっていた。

 特に奏多に対しては他の者には向けていない『愛情』さえ向けていた。話をする時にも奏多には割れ物を扱うように優しく、覇気のない表情を緩ませようと溌剌(はつらつ)とした雰囲気で接していた。

 なのに……これは……、

 

(なん……で、)

 

 ペロリと唇に付いた血を舐めとり、倒れている亜夢の安否を確認し……命を奪った少年をそっと床に置いた悪魔は、腕を失った怒りから血走った目で(おのれ)を見る魔霊と対峙する。

 ――――その背中は、がら空き。

 

『は……、あ――ぁ――』

 

 悪魔(コイツ)は良い奴だ。

 たとえ悪魔でもこんな風に人間に愛情を注ぐ者もいる。

 だから自分もそれに倣うように彼女に寄り添ってみよう。種族は違えど同じ屋根の下に住んでいるのだから、家族のように接してみよう。

 …………そう、思っていた。この時までは、

 

『はぁ……、っ、は――』

 

 ■多を■した理由などわからない。

 ――わかってたまるか。

 わかるのは……いま目の前で、自分は家族を奪われたという事実だけ……。

 

『はぁ……っ、はぁ――ッ、はぁ――ッ!』

 

 なけなしの魔力が右手に集う。

 もはや魔霊など眼中にない。

 亜夢の見開かれた鋭い眼光はがら空きの背中にのみ突き刺さっている。

 体が爆発の瞬間をいまかいまかと待っている。

 そして――、

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァ゛ァ゛ーーッ!!』

 

 折れていない右足が体をバネのように跳ねさせる。

 逆手持ちで生み出された魔力の片手剣は悪魔の背中を貫かんが為に力任せに振り下ろされる――。

 

 

 結果として……攻撃はただの一度も当たることはなく、

 我を失った亜夢は、()()()()()()その時まで……悪魔に何と言われようと彼女への殺意が収まることはなかった。

 

          ◆

 

(……イリスのヤロウ、あたしの攻撃を受け流しながら魔霊を圧倒してたっけな……ずいぶんとナメられてたんだなぁ、あん時のあたし)

 

 思考の海から顔を出す。

 昔の自分を笑い話にし、野次馬で見えなくなり始めた戦場に目をやる。

 

(結局……イリスの世話になっちまった、か)

 

 あの日。イリスに一撃も当てることができなかった日の夜。

 ――零時(れいじ)を過ぎ、■き返っ■奏多の手を握り、亜夢は決意を込めてこう告げた。

 

          ◆

 

『兄ちゃんは家族だから……兄ちゃんは、あたしが守る! 必ず――!』

 

          ◆

 

(全然守れてねぇじゃねぇか……あたし(おまえ)

 

 クシャリと髪を掻く。

 奏多の隠されていた事実を知ったあの時から、奏多を守ろうと自分なりにできることをしてきた。

 戦闘面においては――魔力、魔術、魔霊。

 戦う為のあらゆる方法。守る為のあらゆる手段。

 ……中でも魔霊は、(おく)()中の奥の手。

 本当に最後……もう本当にどうにもならなくなった時の、最後の手段。

 共に戦う魔霊(そんざい)の顕現。

 ……しかし、魔霊を顕現させる際には、“代償”が伴う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()……あたし」

 

 琴花亜夢が支払う代償は――“寿()()”。

 

 文字通り“命”を削る召喚であり、今回の戦闘で二度目となった戦う為の手段。

 エンドアルターに殺されかけた時、顕現させるのを躊躇(ためら)ってしまったのは、その代償があったからだ。

 ……“寿命”という大雑把(おおざっぱ)な内容だけで、()()()()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()()……けれど、現在の自分の寿命は女性の平均寿命よりも下であることは確かだ。

 この代償の事は誰にも話していない。……亜夢が“魔霊使い”だと知っている者にもだ。

 

 

“……魔霊と戦って死ぬか、それとも魔霊を顕現させて命を削るか――”

 

 

 ……まぁ、流石というべきか、悪魔(イリス)は代償の内容に勘づいているようだが……。

 

“寿命”を代償にしている以上……これからも魔霊を顕現させる以上……遅かれ早かれ、自分は確実に誰よりも先に死ぬ。

 親よりも……友人よりも……奏多よりも――、

 

 悲しむだろうか/代償の内容を伝えれば……。

 泣き出すのだろうか/自分が死ねば……。

 

 あぁ――それは……、

 

「それは……嫌だな」

 

 でも、

 それでも、

 ……幼い心ながら、小さな自分はそこまでしてでも奏多にはこれから明るい人生を歩んでほしいと思った。

 

 奏多の過去は知らない……でも、きっと――

 

 あの()はきっと……想像するのも(はばか)られるほどの、ツラい人生を歩んできたのだろう。

 あの震えはきっと……トラウマ(癒えない傷)を心に刻まれたのだろう。

 

 ……そんな暗い人生を歩んできたのならば、せめてこれからは明るい人生を歩んでほしい。

 ――だから、

 

「――――」

 

 だから、代償の事は明かさない。

 明日も笑顔で奏多と言葉を交わす。

 その為にも、悲しませたくないから……どうか――

 

「――さてと、早く帰らねぇと明日、奏多を起こせねぇな」

 

 ――どうか隠し事に気づきませんように、と……そんな思いを子どものように浮かばせながら……、

 

“寿命”を代償にしている“魔霊使い”――琴花(ことはな)亜夢(あゆ)は、夕焼けに染まる街へと消えていった。

 

          ◆

 

 図書館の屋上はいつにも増して静かだった。

 理由は単純。人がいないからだ、中にも外にも。

 図書館にいた人たちは遠くから聞こえてきた戦闘音や魔霊の咆哮に驚き、図書館から出ていってしまっていた……恐らくは野次馬にでもなっているのだろう。

 そして、そんな図書館の屋上で佇む少女……()()()()()()、ここに一人/一体――、

 

「被害は思ったより少なく済んだみたいだね」

 

 高山(たかやま)美緒(みお)は街の様子から事が終わったことを察し、後ろに立つ異形へと振り返る――“自身の内側より生まれし魔”へと、振り返る。

 

 黒龍の首、黒衣に包まれた龍の肉体、片手には墨のような長剣、背には六枚の黒き翼――。

 

 龍人(りゅうじん)、ジークフェルド。

 ――“魔霊使い”、高山美緒によって顕現した魔霊。

 エンドアルターと戦闘を行っているイリスへの手助けとして召喚したものだったが……長剣の刀身や体に返り血が付いているところを見ると、しっかりと役目を果たしてきたらしい。

 

「イリスちゃんを手助けしてくれてありがとね。また頼み事ができた時には、力を貸して」

 

 美緒の言葉に呼応するように、ジークフェルドの体は光へと変わっていく……、

 ――さぁ、と。

 (そら)に溶け消えるようにして、霊体(れいたい)は静かに消えていった。

 消えていく霊体(りゅうし)を見届ける……“魔霊使い”である以上、亜夢のように魔霊を顕現する際には“代償”が伴う。

 琴花亜夢が支払っている“代償”は“寿命”、

 高山美緒が支払っている“代償”は――

 

(奏多と亜夢は大丈夫かな……書いた後に電話して確かめて――ん?)

 

 メモ帳に街で起きた出来事を書き留めようとした時……ポケットに入っていたスマホが震え、誰かから電話がかかってきた。

 見れば画面(そこ)には、()()()()()()()妹の名前が表示されていた。

 

「ひひ――っ」

 

 思わずニヤっとし、今日はノッてくれるかな? と思いながら元気よく電話に出る。

 

「はいはいもしもーし! 君のお姉ちゃんで――

 

 

『――お姉ちゃん大丈夫っっっ!?』

 

 

 キィィィン! と。

 鼓膜を突き破るような叫びが右耳から左耳へと突き抜けていく。

 咄嗟にスマホを遠ざけた美緒は、耳鳴りが止まないまま妹を待たせない為にそっとスマホを耳に近づけて(もどして)いく。

 

「も……もしもーし?」

 

『大丈夫お姉ちゃん!? 街で騒ぎが起きてるのにお姉ちゃん『後でかけ直す』って言ったっきりぜんぜんかけてこないから心配になって――っ!』

 

「お、落ち着いて落ち着いて……お姉ちゃんは大丈夫だから……そっちこそ大丈夫? 家は遠いから大丈夫だろうなとは思ってたけど……」

 

『う、うん、わたしは平気だよ……』

 

 スマホから聞こえてくる落ち着きを取り戻した声にほっとしながら、美緒は妹の言葉から気になった部分を汲み取り聞いていく。

 

「ならよかった。……ところでさ、さっき私が『後でかけ直す』って言ってたって言った?」

 

『え? うん。……忘れたの? お姉ちゃん、どこか焦ったような感じで言って電話切ったじゃん』

 

「……()? ()?」

 

『いや、は、え――じゃなくて。

 お姉ちゃんわたしと話してたでしょ? 今度お父さんが帰ってくるから家族一緒に遊園地に行くって――

 

「――()()()()()()()()()()!?」

 

 一番の衝撃を受けたかのように、飛びつくように美緒は驚きの言葉を差し込んだ。

 電話の先で今度は妹が耳鳴りに悩まされる事になったが……数秒の()をおいて、再び話し出す。

 

『……お姉ちゃん、ホントに大丈夫? さっき電話で話してたでしょ! 一緒にお出かけ用の服を買いにいくとか、お姉ちゃんだってワクワクしてお父さんへのプレゼント買おうって言ってたじゃん! 忘れたの!?』

 

「――――」

 

 必死な妹の声。

 それは電話越しの会話の内容が事実である事を表していた。

 しかし……()()()()()()()()()()()()

 どれだけ頭を捻っても前にそんな会話をした記憶は出てこない。

 それどころか、今日妹と電話をしたのはこれが初めてであって、少し前に電話などした覚えが――

 

「――――ぁ」

 

 条件反射でメモ帳を開く……“魔霊使い”となったその日から欠かさず持ち歩き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()記録しているメモ帳。

 その最新のページ。

 ――『忘れないように』。

 と、自分の字で力強く書かれた文字の(そば)には――確かに、今しがた妹から語られた内容が記されていた。

 そして最後の方には、

 

“『約束』――妹とお出かけ用の服を買い、お父さんへのプレゼントも買う”

 

 ……ちゃんと残っていた。

 数十分前の自分からの……約束の一文。

 

(……あぁ、そういうこと――)

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

 

「――なーんてね! ジョークジョーク。ちゃーんと覚えてるって!」

 

『……もうっ、お姉ちゃんったら冗談きついよ!

 本当に忘れたのかと思ったじゃん!』

 

 ……本当に冗談だったと安心したのだろう。

 妹の声に元気の色が戻っていく。

 

「なーに言ってんの、忘れるわけないじゃん! あっははー!」

 

 

 ……()()()()()()()()()()()…………。

 

 

「服とプレゼント買いにいく件だけどさ、明日でもいいかな? 今は街が騒がしいし、もう日も暮れてきたから」

 

『うん! じゃあ明日行こうね、約束だよ』

 

 ――かきかき。

 

「うん。――絶対行こう」

 

 

“明日、妹と一緒に服とプレゼントを買いにいく”

 

 

 にぱにぱと笑顔で答えていく。

 今までだってそうだ。

 ……覚えてもいないのに、覚えている、と。笑いながら嘘をついてきた。

 …………悲しませないために。

 

「それじゃあ今から帰るけど、夕飯のリクエストある? 今日はお姉ちゃんが作っちゃうよー!」

 

 空元気(からげんき)も上手くなった。

 感情を隠すのが得意技になった。

 曇りながらも即座に切り替えるのが特技になった。

 

 増え続ける嘘を秘めながら、ペラペラと会話に花を咲かせながら図書館を後にしていく。

 

 これが美緒の日常だ。

()()”を代償にしている“魔霊使い”――高山(たかやま)美緒(みお)の……。

 

          ◆

 

 ……そして、

   ……零時(れいじ)を、

     ……過ぎる。

 

          ◆

 

 深夜 二十三時五十九分。

 

 街を一望できる高台にて……血まみれの奏多の頭を悪魔は自分の膝の上に乗せ、穏やかに死に顔を見つめていた。

 体から血は流れ果て、真っ青な色となり、体中にこびりついた血は手で撫でようともう()れる事はない。

 冷たい体を膝の上に寝かせながら、悪魔はただその時を待つ。

 

 そして――、

 

 

 日を跨ぐ。

 零時を過ぎる。

 ――――()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()

 人間ならば目を閉じてしまうであろう淡い輝きを悪魔(イリス)の瞳は見続ける。

 瞬く間に奏多は光に包まれた。

 夜闇(よあん)に溶けるように、()()()()()()()()()()()()()()()()()――数瞬後、()()()……()、先ほどまでとは違う感覚の重みがイリスの膝へと落ちた。

 視界に映る光景も違う。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――――ん」

 

 何かの見間違いでも、幻覚でもない。

 ――()()()()()()()()()有宮(ありみや)奏多(かなた)の姿がそこにある。

 

「――“おかえり”。

 いや……“はじめまして”って言った方がいい?」

 

 いつもの口調で(よみがえ)った奏多を出迎える。

 ……長い眠りから覚めたばかりだからか、まだ視界がボヤけてる……数秒後、視界の(もや)が晴れ微笑んでいるイリスの姿が目に映った。

 

「………………“はじめまして”――が、適当(てきとう)かな。

 おはよう、イリス」

 

「時間的にはおやすみだけど……ま、いいか、おはよう奏多」

 

 膝枕から頭を起こす。

 空は……思った通りの夜。

 高台から見下ろす街には輝かしいばかりのライトアップ。

 その景色を見て、奏多はイリスが“願い”を叶えてくれたんだと確信した。

 

「“願い”……ちゃんと叶えてくれたんだな」

 

「あったりまえでしょ。悪魔は契約には従順(じゅうじゅん)なの。代償さえ支払えば、どんな願いだって叶えてあげる。

 ……ちなみに遥渡(はると)だけど、魔術で回復はしたけど一応病院には届けておいたよ。

 病院で検査を受ける分には越したことはないし、精神的な回復はわたしの専門外だしね」

 

 イリスは悪魔。

 契約を行う際には魔霊と同じく“代償”を支払う必要がある。

 だが魔霊と違い悪魔には『寿命』や『記憶』といった“替え”が効かない……故に“代償”となるものは例外なくたった一つ――。

 奏多の場合、()()()()()()()()()――“代償”となるものは“()”。それ以外にない。

 

(体に異常は……ないな。()()()()()()()()()()……ホント、わけのわからない()()だな……)

 

 奏多は“願い”を叶えるために“代償”を差し出し命を落とした……しかしこうして生きている。

 こんな奇跡が起きているのは魔術でもなければ魔霊でも……ましてや悪魔のせいでもない。

 ――この現象の正体は、奏多が先天的に有する、ある“()()()()”にある。

 

 

 その“特殊能力”とは、

 ――(れい)時。……つまり、()()()()()()()()()()()()()――“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”――という奇想天外(きそうてんがい)な異能力。

 

 

 何故こんな能力が自分に備わっているのかはわからない……本当に奇跡の確率で奏多(にんげん)に発現したものなのか、前世に関わりがあるのか……。

 ――それとも、これも魔種と同様に、現代に至るまで悪魔によって遺された“呪い”なのか。

 

 未だに謎だらけの異能力。

 奏多にだけ宿った摩訶不思議な力。

 だが、この力に気づいた日の事は今でも鮮明に覚えている。

 

 

 では、紐解いていくとしよう。

 (いのち)、ではなく……。

 ――“()()”を“代償”としている“悪魔(あくま)使(つか)い”……有宮(ありみや)奏多(かなた)の過去を。

 

          ◆

 

 忘れもしない、一〇年前のあの日。

 

 当時奏多が住んでいた街に悪魔が出現した。

 何の前触れもなく、ただ人の命を食事(くらう)ために街に降り立ったのだ。

 その時の有宮奏多は五歳。

 五歳の奏多はまだ、“魔霊”や“悪魔”といった『裏』の世界の事は知りえなかった。

 有宮家(ありみやけ)は“魔霊祓い(エクソシスト)”の家系であるため両親は知っていたが、奏多にはまだ早いという理由から教えていなかったのだ。

 

 その奏多の目の前に、悪魔が出現した。

 当然何も知らない奏多は震え、怯え……一緒に遊んでいた隣の友達も動くことができない。

 そうこうしているうちに右腕が鎌の形をしている悪魔は奏多とその友達を殺すために迫ってくる。

 奏多の体が動いたのはその時だった、

 

 ――ドンッ! と。

 傍らの友達の少年を力の限り突き飛ばした。

 自分のためには動けずとも、誰かのためになら体は動いてくれた。

 幼稚園に入って初めてできた友達は驚いた顔をしていた。

 

“ケガしちゃったら……ごめんね――”

 

 泣きそうな笑顔で告げた、次の瞬間……、

 

 奏多の体は悪魔の(かま)のような腕に貫かれた。

 鎌は胸を貫通し背中から姿を現す。

 嘘だと思いたい感覚を感じながら吐血する。

 友達の泣き顔を最後に奏多の意識は溶けていった。

 

 

 

 ……()()()()()()()()()()()()()()、時間が零時(れいじ)を過ぎた時だった。

 

“――――、え?”

 

 目を覚ますと、そこは森だった。

 月の光すらまともに届かない、どこまでも暗い森。

 街から遠く離れたその森の中にいるのは、奏多と――

 

“なんで生きてんだ? オマエ”

 

 体がビクッと震え、声の方向へと顔を向ける。

 そこには、街の中で自分の腹を刺し貫いた悪魔の姿があった。

 

“ッ!? ――ぁ、”

 

 そこまで理解したところで、自分の身に何が起きたのかを思い出し、腹を触る。

 しかし、

 

“なんとも……ない?”

 

 傷など存在していなかった。

 血の跡すらない。

 わけがわからない……。混乱に混乱が重なり、目がぐるぐるとしてくる。

 その様子を見ながら、悪魔は『ふむ』と頷き、

 

“……何だよ、さっきの『光』は。

 眩しくなったと思ったら、ガキが元に戻りやがった――この場合、『生きていた』じゃなくて『生き返った』って言った方が正しいのか?

 このガキは確かに死んだ……命を奪った際の高揚感(こうようかん)があったしな”

 

 ……まぁ、いいか。

 吐き出すように口にすると、悪魔は奏多へと近づいてくる。

 

“……“魔霊祓い(エクソシスト)”に見つかって鬱陶しくて街から(ここ)まで飛んできたが……こりゃ予想外の収穫だな。

 ……なぁ、ガキ”

 

“……ひっ――!?”

 

 舌舐めずりの顔が眼前に現れ、恐怖から固まってしまう。

 

“オマエはなんだ? 出来損ないの“魔霊祓い(エクソシスト)”か? 死んでも蘇る魔術なんか聞いたことねぇぞ?”

 

“エ、……エクソ、……シス、ト? ま……じゅ、つ?

 ……し、知らないッ、知らないよそんなの……! お……おうちに、かえ……して……おねが、い……”

 

 涙が溢れ出てくる。

 知っている人などおらず、全く知らない場所、そこに自分を刺した得体の知れないモノと二人きりなんて状況……奏多でなくとも涙を流すものはいるだろう。

 ……しかし、

 

“ダメだ。オマエは殺しても蘇る面白い人間ってことがわかっちまったからなぁ、帰すわけにはいかねぇ”

 

 鎌が首筋へと触れる。

 ニヤニヤとした顔を抑えないまま、悪魔は続けた。

 

“なぁ……もしもよ、今ここでオマエを殺したらまた蘇るのか?”

 

 先生へと質問をする生徒のように首を傾げながら悪魔は少年へと問いかける。

 ……、

 …………、

 ………………、少年は、しばしの間呆然とし――

 

“…………は、あ? なに、言っ

 

 

 

 …………………………そして、

 

“お、マジで生き返りやがった。――ったく、丸一日待たせやがって”

 

 まるで畳むように、首が中身をさらけ出しながら反対方向へと折れ、絶命していた奏多の体は、零時を過ぎると共に光へと変わり、元通りの形へと治った。

 

“ぅ、…………ぁ、え?”

 

 時刻は零時を回った頃、

 真っ暗な森の中。

 首がスパッ――と、言葉の途中で痛みもなく開かれたところまでは記憶にある。

 そして意識が暗転し……戻ってきたと思えば闇に包まれた森、自分を観察している悪魔、視界に広がるのは見ても嬉しくも何ともない地獄の風景。

 

“前と同じく深夜零時過ぎ……。どうやらオマエは殺されたとしても零時を過ぎれば蘇るらしいな。

 ……こりゃあいい、毎日命を食えるってことじゃねぇか! ハッハハ!”

 

 何が面白いのか、額に手を当て高笑いをする悪魔。

 何も考えず、ただ脱け殻のように悪魔を見ていた奏多だったが……記憶が鮮明になるに連れ、体が本能に従っていく。

 そして、

 

“あ?”

 

 その場から逃げ出した。

 

“はぁ……はぁ! はぁ――!”

 

 ……ヤバい、ヤバい、ヤバい!!

 絶対にここに居てはいけない。まだわからないことだらけ、理解できないことだらけだがそれだけはわかる。

 頭で混乱していたとしても本能が体を突き動かす。

 

 一秒でも早く距離を取れ! 足を止めるな! 捕まれば終わりだ! 捕まればきっと……想像を絶する地獄が待っているに違いない――だから逃げろ! どんな手を使ってでも逃げろッッッ!!

 

 

“――――――()()()()()

 

 

 ()()

 顔面を強打し、痛みと共に鼻の奥にツーンとする刺激が広がり始める。

 だがそんな事を気にしている場合ではない。転倒したのならばすぐに立ち上がって走り出さなければ!

 両手に力を入れて上半身を起こし、

 両足に力を入れて立ち上がり、立ち上がり、立ち上がり立ち上がり立ち上がり、立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がり立ち上がりその時は二度と訪れない。

 

 ドロドロと、どっぷりと溜まっていた体内の血がゆっくりと流れ出す。

 

“――――、…………、え?”

 

 理由は単純。

 自分にはもう、()()()()()()()()()()()()()

 おかしな話……顔を上げれば斬りトばされた下半身がそこにあった。

 

“あ、あぁ、あ――あ゛ああ゛あ゛ああ゛ああ゛あ”ーーッッッ!?

 

 上半身から血は流れ続けている。

 口からもドプッと吐血をした奏多の体は、オモチャのようにぶらーんと上下逆さまで持ち上げられた。

 

“逃げんなよ……これから毎日が楽しくなるっていうのに”

 

 口から溢れ出る血の塊が鼻の奥、目、頭へと流れていく。

 血濡れの視界に、血が滴り落ちていく(かま)が目に映る。

 

“ドボッ!? ガバ……! ア、ア゛!?”

 

 ……“楽しくなる”とは、どういう意味なのだろうか……?

 わからない……わからない、けれど……、

 

“や、だ――やだ! イヤだッ!! 嫌だッッ!! 誰か助け/――――、……………………、”

 

 森が静かになる。

 かろうじて(りき)んでいた体から力が抜けていく……。

 ひゅん――と適当に鎌が振るわれ、結果として血飛沫が舞った。

 

 ……頭を脳天から割られ、喉まで縦に裂かれた少年の命はもう……何処にもない……。

 

 

 

 ……次の日から、地獄が始まった。

 

 どうやら自分は殺されても生き返るというあまりにオカシイ生き物らしい。

 

 最初は信じなかった。突拍子もない話だし、第一そんな話を信じられるわけがない。

 これはきっと夢だと思い……思い……思いたかった。

 でもいつまで経っても覚めない。痛覚もあるし、夢の世界特有の視界の端に映る(もや)のようなものも見受けられない。

 

 だから……、

 四度目から、これは現実なんだと認めることにした。

 

 生き返っては殺され、目を覚ましては殺され……何度も何度も殺された。

 逃げ出そうにも魔力で編まれたロープのようなものが首に繋がれ、近くの木に結びついていた。

 逃げる事はもちろん、遠くに行くこともできない。

 毎日毎日、目を覚ましては悪魔に殺される……そんな日々が続いた。

 

 殺し方も様々だ。

 

 刺殺(しさつ)

 斬殺(ざんさつ)

 撲殺(ぼくさつ)

 絞殺(こうさつ)

 圧殺(あっさつ)

 爆発(ばくさつ)

 毒殺(どくさつ)

 分解(ぶんかい)

 

 殺された回数は……正直覚えてない。

 三回目辺りから、もう諦めていたから……心は壊れ、無になっていたから。

 何かを見ていなければ顔は俯いているしかなく、

 目蓋(まぶた)を閉じることも忘れ、黒に沈んだ瞳をさらけ出し続け、

 表情を染める黒い影は、希望や光を望む意志を……自ら断ってしまった事を意味していた。

 

 奏多(にんげん)の内に潜む“魔種(ましゅ)”も、もう反応する事はない。

 人の心の闇を喰らい、成長する魔種であるが……宿主の心が『無』になってしまっているのならば話は別だ……たとえ殺されようと、何の感慨(かんがい)も浮かばないのなら、『心の闇』が生まれることもないのだから……。

 あぁ……でも――

 

暗い場所(ここ)は……なんか嫌だ……”

 

 それだけは思う。

 だがそれも当然と言えよう。

 この時の奏多には気づけぬ事だったが、

 

 生き返っても、目を覚ましても、暗い場所(もりのなか)

 悪魔が迫ってくる時も、暗い場所(もりのなか)

 殺される時も、暗い場所(もりのなか)

 

 ……何をされるにも、その全てが“暗い場所”。

 五歳の子どもがこんな環境下に閉じ込められれば、“暗い場所(それ)”が“トラウマ”となってしまうのも無理からぬコトであった。

 

 泣き叫んでもこの現実は変わらない。

 だからこそ生きるのをやめ、殺されるだけの(にえ)になった。

 ……殺されるあまり、『死』への恐怖を忘れた少年は首を繋がれたまま悪魔への御馳走となる為に今日も生き返る。

 ザッ、ザ。と前から足音が聞こえる。

 ……一日が始まったばかりだというのに、自分の一日はもう終わる。

 まぁ、今に始まったことではない……それに――もう、どうでもよくなった。

 顔も上げぬまま、今日の死に方を待ち続ける――待ち続けて――――、

 

“――()()()()

 

 これから先の運命を変えることとなる、“悪魔”の少女と出会ったのだ。

 

 

 

 ……昔の“悪魔(しりあい)”に偶然出会った。

“こんな森で何をしてる?”と聞いてもマトモに取り合おうとしない。

 それだけなら以前のヤツと何も変わらなかったため気にしなかったのだが……ヤツのテンションの上がりようがハンパじゃなかった。

 一体何にこんなに浮かれている? と疑問に思い跡をつけると、ヤツの辿り着いた場所には少年(こども)の死体があった。

 魔力のロープで首を木に繋がれ体から血を吹き出したであろう無残な姿。

 

“……悪趣味だな”

 

 そんなものに興奮を覚えるとは呆れて声もでない。

 時間の無駄だったな、とその場を去ろうとした時、

 

 新しい一日が始まった(れいじをすぎた)

 

 そして――、

 

“……っ!?”

 

 子どもの体が光と消え――再び光と共にその体は傷一つない、命を持つ姿として同じ場所に出現した。

 悪魔の笑みが濃くなる。

 対する少年は少したりとも動かず、死を待つように呆然と座り込むだけ。

 

 ――鎌の右腕が振るわれる。

 面白いくらい簡単に少年の臓器は外へと溢れていく。

 悪魔特有(とくゆう)の、『人間の命』を奪った時の高揚感に悪魔は溺れる。

 殺す(やる)ことを終えた悪魔は死体を置き去りにその場を去っていく。

 

 ……これがヤツのテンションが高かった理由、か?

 とても信じられないが、実際に起きた以上は認めなくてはならない。

 ――今、死んでいた子どもの体が光と共に蘇り……蘇った子どもの命を、ヤツは奪った。

 その光に魔力を感じなかった……つまり、アレは魔力や魔術といった類いのモノではない、ということか?

 

“もう少し詳しく見てみるか……”

 

 まだ断定はできないと思い、次のその時が来るまで待ってみることにした……。

 

 

 

 ――そして、確信した。

 次の深夜零時。……あの子どもは光と共に再び蘇り、流れ作業のように悪魔に殺された。

 次の日も、その次の日も、そのまた次の日も……悪魔は殺し方を変え、何度も何度も子どもを殺す。

 子どもが殺される深夜零時……何度も観察を続けているうちに――ふと、思った。

 

 ……あの少年は、()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 人間とは弱い生き物だ、だからこそ生にしがみつく。

 だというのに少年にはその様子がない。

 (はた)から見ていただけだが、生きる事を諦めているようにしか見えない。

 ……そんな少年の様子に興味が沸いたのか、

 

“…………”

 

 とある深夜零時。

 あの悪魔が来るよりも早く、少年の下へと歩み寄った。

 

“――おい、貴様”

 

 外見が一三歳くらいの悪魔少女の声に生き返った少年の体がぴくりと揺れる。

 ……俯いていただけの顔が初めて上げられる。

 

“………………………………あなたは?”

 

“貴様を何度も殺しているヤツと同じ存在……人間の命を食い物にする“悪魔”という生命体だ。

 ……時間が惜しい、(われ)の質問に答えろ。

 貴様の様子を何度も見ていた。……なぜ貴様はヤツに命を差し出す? なぜ生きようとしない?”

 

“………………だって、生きられないから”

 

 覇気を失った声で簡潔に答えてくる。

 

“……どうやったって逃げられない。

 ……どうしたって助からない。

 ……なら、考えるだけ無駄…………だから、生きることなんて諦めた”

 

“……”

 

“抵抗して苦しむのが長引くよりも、一瞬で楽になった方がずっといい…………痛いのは怖いし、死ぬ感覚なんてもう嫌だけど……何もしなければすぐに感じなくなるし――アイツの顔、見なくて済むし…………だから、もう……なんか全部が、どうでもいい……”

 

 自分の考えも思いも、心の声も……その全てを最後の一文で吐き捨てた。

 胸の中には(もや)が詰まっているかのような感覚。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のに、靄が詰まっているせいで言葉を引き出して来るのがメンドくさく、ポンっと浮かんだ言葉を吐いてしまう。

 

“そう、か……”

 

 独白(どくはく)にも近い言葉を聞き、悪魔の少女はため息まじりに短く呟く。

 普通の悪魔ならば、今の言葉に何の感慨も浮かばなかっただろう。

 だが、少年の目の前にいるこの悪魔は……悪魔の中でも非常に珍しい“人間が好き”という心を持つ存在だった。

 主食も『人間の命』ではなく『魔力』。

 人の命を奪ったことはあるが、それらは罪人(ざいにん)。何の罪も犯していない一般人の命を奪ったことは、誕生してから現在に至るまで一度もなかった。

 そんな悪魔だからこそ、今の少年の言葉に(あわ)れみを覚え――手を差し伸べようと思ったのだ。

 

“取引を――いや、契約をしないか?”

 

“……?”

 

 力なく首が傾げられる。

 

“……命を喰らったところで零時を過ぎれば復活するという貴様という存在、我は非常に興味がある……自分だけのものにしたいほどにな”

 

 死への恐怖を失っているからか、眉一つ動かさず少年は話を聞いている。

 悪魔は流れるように言葉を並べていく。

 ……その(うち)には、“助けたい”という思いを秘めて、

 

“貴様のその“命”を……我が誰よりも有効活用してやろう。

 貴様の願いを叶えてやる――だが、その代償として貴様は……『願いを口にする(たび)に“命”を差し出す』……どうだ? 我にも貴様にも得がある話だ。

 我は(こうぶつ)を口にできる。貴様は願いを叶えられる。……これほど良い話はそうなかろう?”

 

“…………、”

 

 少年からの返事はない。ただ、息を飲んだ音は聞こえた。

 悪魔の契約に対する返答は出てこない……それもそうであろう。簡単に頷けるような内容ではなかったのだから。

 

“……何でそんな……けいやく? を――”

 

“するのか、って?”

 

 言葉が滑り込む。

 悪魔は何の企みもなく流れるように言葉を続ける。

 

“……()()()()()()()()()()――。それだけだ。

 ……どうする? 信じるか信じないかは貴様次第だが……何もしないのならば一生このままだぞ?”

 

“…………ぼく、は”

 

 どっちにしても殺される事には変わりない……だが目の前の悪魔の問いかけを冷静に整理すれば、そっちの方が多少はマシにも感じてしまう……だとしても、やはり答えは出てこない。

 ――と、

 

 とんっ、と。

 不意におでこを悪魔の指先が小突(こづ)いた。

 

“……なるほど”

 

 おでこを小突き、記憶のみならず、心をも読み取った悪魔はひとり納得し、

 

“……もう一言付け加えてやろう”

 

 読み取ったモノを辿れば、この現状を少年が未来永劫望んでいるわけがないのは明らかだった。

 でなければ、

 次のような願い(おもい)が消えずに残されている筈がない――。

 

“――()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ここで一生こんな日々を送るのが嫌ならば我に願うがいい……叶えてやる。必ずな”

 

 ――――それは、

 

“――っ、”

 

 胸の奥から出しても無意味だと思い、

 言葉にする気力すら失ってしまっていた……彼の願いだった。

 

“……ぅ、――ぁ”

 

 悪魔少女の後ろから足音が鳴ってくる。

 この悪魔とは違う、もう顔も見たくない男の悪魔の足音。

 

“ぇ、ぁ……っ、う――”

 

 胸の苦しみがほどかれていく。

 ほどけた隙間から言葉が流れてくる。

 光を受け入れようとしなかった瞳に、静かに、僅かに……しかし確かに光が反射し、元の姿を取り戻していく。

 

“かえり、たい――”

 

 掠れる声は大粒の涙と共に……、

 消えるような声が後を紡いでいく。

 

“かえりたい……かえりたい……よ……。

 おとうさんに……おかあさんに……もう一度会いたい”

 

 ……ゲスな声が近づいてくる。

 感情が色を取り戻してきた今ならば、体が恐怖で震えてしまう。

 

“よおー、ガキ。おはようさん”

 

 ザ、ザッ。ザ、ザッ――と。

 寒気が全身を駆ける。

 体温がマイナスを切ったと錯覚する。

 震え上がる体、発作(ほっさ)が引き起こり呼吸が整わなくなる……やがて視界すら歪みだし……、

 

“――――っ”

 

 ぽんっ、と。

 そっと、頭に手が置かれた。

 それはあやすような、撫でるような、親のような優しさで――

 

       “()()()()――”

 

 

 

 ……次に目を覚ました時、そこはもう森の中ではなかった。

 

“目が覚めたか?”

 

 そう問いかけてくるのはあの悪魔少女。

 澄んだ瞳と目が合う。自分が膝枕をされている事に気づかず、目が覚めた奏多は『ぁ……はい』と返しながらゆっくりと起き上がる。

 ……手を置かれ――そのまま握り潰された頭は、消えた命は、日付を跨いだことで治っていた。

 ……奏多が家へと帰る際の障害となった、あのゲス野郎の悪魔はこの世から消してやった。……あんなの何体いたところでこの悪魔の敵ではない。手を軽く振るっただけで頭から爪先までもが粉々になり消滅した。

 

“――ここは……”

 

 そこは……とあるビルの屋上だった。

 起き上がった奏多の目に飛び込んできたのは夜の街。輝かしいライトアップが特徴の――奏多が産まれ、そして育った街。

 

“貴様の記憶で見た街に連れてきた。……っ、ここで……あってるよな?”

 

 突然不安になったのか、悪魔の言葉が途切れ途切れになる。

 だがその心配はすぐに無用だったと理解することになった。

 

“――――っ!”

 

“のわっ!? ……お、おい、いきなり何、を……”

 

 街を見下ろしていた奏多が振り返ったかと思うといきなり抱きついてきたものだから、あたふたしてしまう……しかし、

 

“……ここ。……こ、こ……”

 

“ここ?”

 

“……ここ、だよ。みんなが……おとうさんと、おかあさんが……いる、街――!”

 

 地獄から解放された――今の奏多の心を表現するのならば冗談抜きでそうなるだろう。

 (うち)に広がる暖かな安心感に胸を休める。

 解凍(かいとう)された感情から、色を取り戻した瞳から涙は止まらない。

 感情の吐露(とろ)から息は荒れているというのに、呼吸はどこまでも落ち着いていた。

 涙は流れ、悪魔の纏う黒いコートへと染み込んでいく。

 

“あり、がとう……ありがとう、悪魔さん……!”

 

 感謝の気持ちしかない悪魔へと顔を上げる。

 対する悪魔は初めて告げられた『感謝』というものに戸惑いながらも、『こうするべきか?』と思い、とりあえず抱きついてきた奏多を抱きしめる。

 

“っ――!”

 

 胸が温かくなる。

 奏多がより強く抱きしめてきたからだ。

 

“――――”

 

 初めての感覚だった。

 初めて向けられた感情だった。

『人間が好き』という、普通に考えれば異端に過ぎる考えを持つ悪魔。

 それ故に他の悪魔からは毛嫌いされ、“魔霊祓い”に見つかれば問答無用で討滅(とうめつ)対象。

 ……だから人間とは関われなかった。

 ……嫌悪以外の感情を向けられたことがなかった。

 けれど、

 

 ――“ありがとう……助けてくれて”――

 

 嘘偽りのない気持ち。

 真っ直ぐな感情。

 見上げてくる少年の涙が(いろど)る幼い笑み。

 今まで経験したことのない、人間がくれた温もりの数々……それは何処までも悪魔の心を包み込み――

 

()()――っ”

 

 生まれて初めて――心の底から悪魔は笑った。

 

“あの……っ、ぼく、有宮(ありみや)奏多(かなた)って言います。

 ……えーっと、……悪魔さんの……名前は――”

 

“ん……()()()()()。それが我の名だ”

 

 口元が微笑んでいる事に気づかないまま、名を口にする。

 だが、

 

“イー、ニス……?”

 

“違う、フィーニスだ”

 

 五歳ということもあり舌足らずなのか、初めて聞く単語を言いきれずに途切れて発してしまう。

 

“フイー、……ス……?”

 

“だから――。ったく……”

 

 発音が難しいのか? という結論に至り、フィーニスは頭を回す。

 自分の名前を並び替える。省略する。弄る。

 奏多の舌でも言えるように名前を変えていく……そして、

 

“……我の名前、言いにくいのならば――”

 

 この名前が誕生した。

 今この時より、現在に至るまで名乗る事になる、もう一つの名前が――。

 

“――()()()

 我のことはイリスと、そう呼ぶがいい”

 

 

 

 そうして、奏多は家族の元へと帰った。

 もちろん、悪魔(イリス)を連れて。

 数ヶ月の間、行方不明になっていた息子が悪魔を連れて帰ってきたことに両親が気絶しかけたが、この事がキッカケで奏多は『裏』の世界を両親から教えられることになった。

 

 

 地獄はこうして終わった――――()()()()()

 

 

 …………地獄は……少年を逃がしはしなかった。

 

 そのキッカケとなったのは帰ってから数日後の事。

 数ヶ月も行方不明だった奏多が生きて帰ってきたことで周囲から注目の的となり、毎日のようにマスコミが殺到するようになった。

 そこで……マスコミ達が周りにいる中で――奏多の友達の少年が、次の一言を発してしまったのだ。

 

 

 ――『()()()……()()()()()()()()――()()

 

 

 ……その日から、“化け物に連れ去られた少年”というだけであったのに……“化け物に殺され、生き返った少年”という話が広まり、奏多を(いぶか)しげな目で見る者が現れた。

 

『あの少年は本当に連れ去られた少年なのか?』

『本当に人間なのか?』

 

 そんな噂が立ち始め……挙げ句の果てには、

 

 ――『あの少年も化け物なのではないか?』

 

 その一言が、奏多に凄惨な幼少期を再び味あわせる事となった……。

 

 ……今までの友情が嘘だったように友達はいなくなった。

 

 ……大人でさえも恐怖と嫌悪に満ちた目で奏多を見た。自分の子に奏多が近づこうものならば殴り飛ばし、蹴りを浴びせた。

 

 ……化け物という話を面白がった子どもたちは刃物で奏多を切りつけ、まるでそれに倣うように心ない大人たちもバットで体中を殴り、ライターで体を焼いた。

 

 ……酷い時には車で拐われ、ゴミ処理場や湖に投げ捨てられた。

 

 

“――ねぇ。命さえくれれば……わたしがアイツら殺してやってもいいけど?”

 

“……は、はは…………殺すのは、流石に、ダメだよ……”

 

 奏多と過ごすことになってから親しみやすいようにと人格を変えたイリスが、見かねてそう提案しても奏多は首を横に振るだけだった。

 

 ……このままでは奏多が殺されてしまう。

 そう確信した両親は、幼稚園を転園(てんえん)させ、奏多をこの街のような噂が広まっていない遠くの街へと――“魔霊”や“魔霊祓い”の存在を知る、母親の妹……奏多にとっては叔母(おば)に当たる人物の家へと奏多を逃がした。

 

 奏多が幸せになれますようにと、

 奏多がもう一度、笑顔に出会えますようにと――彼の未来に光が満ちることを、祈って。

 

          ◆

 

 あれから一〇年。

 奏多は幸せを手に入れ、笑顔にもう一度出会い――光が差す道の上を歩いて生きている。

 

遥渡(はると)の件、本当にありがとうな」

 

 イリスの言葉から遥渡を無事助け出せた事を知った奏多は胸の中で深く安堵する。

 ……遥渡が信号で見せたあの顔は、悪魔に連れ去られた時の奏多によく似ていた。

 かつて自分も同じだったからこそ赤の他人であっても心が疲弊していることに気づくことができた。

 だから助けたかった。

 あの日、イリスに助けられた時の自分のように……今度は自分が、遥渡を助けたかった。

 けれど、

 

「……また、お前の力を借りちまったな」

 

 ――もう自分のような人を増やさない。

 ――それに、自分なら死んだとしても零時を過ぎれば復活する。……何度でも人を守れる。

 そんな思いが浮かんだからこそ、奏多は“魔霊祓い(エクソシスト)”になる道を選んだ。

 だが結果は見ての通りだ。

 最初よりかはマシになってはきたが、それでも魔霊を打倒するまでにはいかない。

 

「次もあるし、そんなに深く考えなくていいと思うけど? それに、記憶で見た限りじゃ、アンタの動きも振り抜きも前より素早くなってるし……わたし個人としては、着実に成長してると思うよ?」

 

「……」

 

 いや、まだまだだ……。

 言葉には出さず、心の中で吐露する。

 今のところのゴール地点はイリスの手を借りずに魔霊を撃破することであるため、この程度で喜んでいてはゴールなど夢のまた夢……自分を鼓舞(こぶ)する為にも、イリスの褒め言葉は一旦胸に仕舞っておくこととした。

 

「……あと、前々から聞こうと思ってたんだけどさ」

 

 話を切り替えるようにイリスはそう切り出す。

 

「アンタ、みんなにずっと隠しておくつもりなの?

 ……自分が()()()()()()()()()()()のかを」

 

「……っ、」

 

 思わず息を呑む。

 それは何度もイリスと話し合い、結果をずっと後回しにしているものだった。

 

 奏多の『特殊能力』は零時(れいじ)を過ぎれば蘇る、というものだが、()()()()()()()()()()

 詳しく語れば、

 奏多の『特殊能力』によって起こる現象は、

 ――“()”が“()()”のではなく、“()”が“()()()”される、というもの――

 つまり、奏多がイリスに代償として捧げているものは“()()()()()()()()()”。

 さらには“再構成”されているため、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だから……“()()()()”ではなく、“()()()()()()”――。

 

「……今のところ、話そうとは思ってない……その勇気が出ないんだ。

 亜夢も美緒も叔母さんたちも、今まで一緒に過ごしてたヤツはもういないって知ったら――」

 

 ――どんなにショックを受けるかわからない。

 その一文は喉から出なかった。

 それでも長年の付き合いかつ“契約者(あいぼう)”であるからか、言わずともイリスは内容を理解したようだった。

 

(……そんな心配、必要ないと思うけどなー……)

 

 だが最終的にどうするか決めるのは奏多だ。

 いつか奏多が決断した時、その決断がどんなものであろうとも自分はただ傍にいよう……そう思い、話は終わりと言わんばかりに両腕を上げて伸びをする。

 

「ん~~~! っと。それじゃあそろそろ帰ろう。もう一二時回ってるんだから」

 

 ふわ~わ。と、だらしなくあくびをしながら奏多の傍へと歩み寄ってくる。

 切り替え早ッ、と苦笑し奏多は返事を返して歩き出す。

 

(……でも、)

 

 帰り道。

 ふと、奏多は表情を曇らせ、

 

(……これからずっと騙して生きていく気か?

 昨日までの奏多(アイツ)を演じているだけの……(おまえ)が)

 

          ◆

 

 新しい一日が始まった。

 新しい有宮奏多としての一日が、

 

 

「おはよう、奏多」

 

 

「おっはよう! かーなた!」

 

 

「おはよう、奏多君」

 

 

 みんな記憶(いつも)通りの挨拶をしてくる。

 その様子に申し訳なさを感じながらも、必死に昨日(いつも)のような笑顔を作りながら……新しいスタートを切るように、奏多は明るく返事を返した。

 

 

          ◆

 

 

      “はじめまして(おはよう)――”




 これにて【“寿命”/“記憶”/――“自分”を喪う】は完結です!
 ご愛読してくださった皆さん、本当にありがとうございます。
 読み切り短編を書こうと思った時、『短い内容で纏められるのか?』と不安になりましたが、皆さんが少しでも面白いと感じたのならば幸いです。
 …………よければ感想などを頂けると崇一(さくしゃ)は喜びます。

 それでは皆さん、またどこかで――!
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