セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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題名に反して、シリウスの登場は次回だったりします。

2025/8/24 全体的に修正済み


≪光≫リリーの大冒険3rdシリウス・ブラックとダイアゴン横丁 1 (修正済み)

 

 

 

 

●前回までのあらすじ

リリー・エバンズ、セブルス・スネイプ、クラリス(オリ主)の3人は幼なじみ。

いくつかの冒険を経て3人は仲良くなったが、セブルスとクラリスは"家庭に訳アリ"だった。

出会って1年と2か月ほどのあいだ、セブルスはクラリスに頼って"最低限の文化的生活(マグル基準)"を手に入れ、原作より少しだけ多めに人生経験を積んできた。

そして現在、ようやく3人にホグワーツからの入学許可証が届いたのだった。

 

 

 

 

 

 

8か月ほど後 1971年 7月中旬

 

 

 

手紙(入学許可証)が届いていたわ!」

 

 真っ先にリリーがそう言うと、子どもたち3人のわあっという歓声がエバンズ家の玄関先にあがった。

 

 どういうわけか、3通がまとめてエバンズ家に届いていたのだという。

 リリーの手元から、セブルスはそのうちの一通を受け取った。

 

「何日か前にポストに届いたの。わたしの分はもう開けちゃったけれど、2人の分はそのまま預かっていたのよ」

 

 2人の方の宛名には、それぞれの住所と名前のほかに"エバンズ家(がた)"と書き加えられていた。紫色のインクでだ。

 

「魔法界のインクの色がみんな紫だったら、魔法界でやっていけるかしら」

 同じく手紙を受け取ったクラリスが、顔を赤らめながらそんな風に軽口をたたいた。

 

 嬉しくて仕方がないという顔をしているくせに。

 半人間だからいちばん届くかが怪しかったが、ひと安心だ。

 

『きっと届くはず』と聞いてはいた。身のまわりに魔法はあるのだから、ウソ(おとぎ話)ではないとも判ってはいる。

 でも周りで入学したことがある人なんて、セブルスの母親くらいしかいないのだ。どうしても半信半疑になってしまうのは当たり前だった。

 

 ようやく現実にあらわれたのは、触ったことのない紙(羊皮紙)の封筒だった。分厚く黄色味がかっていて、かたい。開き口には紋章入りの封蝋がされている。これまた紫色だ。

 その紫色の封蝋をはがして、中身のかたい手紙を引っぱり出した。中身は3人とも同じ。

 

『ホグワーツ魔法魔術学校への入学を許可する』という文言と副校長のサインだった。

 

「でも……、どうして3人の分が全部うちに?」

 リリーは首をひねっていた。

 

「買いものにいっしょに行くと思われてるんじゃないか。3人で」

 セブルスはとっさに当たり障りのない返答をしていた。

 

 以前きいた話だと、実際、入学の前には制服などの買い物が必要になるらしい。だからウソを吐いたわけでもないのだが、本当の理由はちがうはずだ。

 でも、リリーに本当のことなんて伝えたくなかった。『自分の家に届いても燃やされたり切られたりして捨てられるからだ』なんて。

 

 決してリリーにだけは知られたくない。

 

 ちなみにクラリスの予想は外れている。彼女はこんな風に言っていた。

『もしかしたらセブルスの分は、家に届くと……良くないじゃない?でもセブルスのところに届いても、子どもじゃ守り切るのは……。

 ママが魔女なのだし、そっちにこっそり届くんじゃないかしら』

 

 リリーは家のなかを一度振り返ってから、言った。

「とにかく中で話しましょう。チュニーは今日はいないの。もちろん学校は休暇中なんだけどね。ホグワーツとおんなじに」

 

 リリーは姉妹だからともかく、セブルスもクラリスもペチュニアが好きではない。

 だから丁度よかった。

 

「……ねえ、チュニーもやっぱり仲間に入れられない?

 魔法が本当にあるんだってはっきりしたのよ。わたし達の話がウソじゃないって聞いてくれるわ、きっと」

 

 リリーはこれが最善とは考えていないようだ。そう言われたって、リリーの姉がこれまでやって来たことが消えてなくなるわけじゃない。

 お断りだ。

 

「あいつがぼくらの話を聞いたからって何になるんだ?どうせ使えもしないのに」

「仲良くできるかもしれないわ!セブルスだって……感じが変わったもの」

 

 たしかに、リリーの姉は出会った時から何かとセブルスを目の敵にしている節があった。

 ちぐはぐな服装や汚れた風体(ふうてい)だったからなのだろう。

 

 今はその頃とは全く変わっている。

 着ているのは身体には少し大きめの子ども用Tシャツで、そこまでひどくよれたり汚れたりはしていない。姉のお下がりをもらっているという、リリーのものとそこまで大差なかった。

 黒髪もごわついてはいるが汚くはない。

 

 そのせいか、リリーの姉は侮辱もできず詰まらなそうな顔をするようになっていた。

 

 セブルスがリリーの姉の行状を思い返していると、リリーの視線がじっと注がれていたのに気づいた。

 まだどこか、おかしいところでもあるのだろうか。

『好きなところがあって見ている』ならそれでもいいけど。

 

「どうしたんだ」

 どきどきとしながら尋ねてみると、リリーは物憂げな顔をして首を横に振った。

 

「……ううん。なんでもないの」

 クラリスは後ろの方でにやにやしていたので、セブルスは苛立ちまぎれにその肩にこぶしを当てた。

 

 

 

 

 

 

「──ペチュニアが『ホグワーツに入りたい』って?」

 

 クラリスが(いぶか)しげな目でリリーに問い返した。リリーの部屋に3人が集まって、主に授業に必要なものの話をしていた時のことである。

 

 リリーの話では、『昨日ペチュニアが部屋のドアを閉め忘れたらしく、机の上に書きかけの便せんがのっていたのが見えた』ということだった。封筒に"ダンブルドア校長"の名前が書いてあったので、気になって見に行ってしまったのだと。

 

 文面を目で追ってみると、『ペチュニアが書きかけている手紙』と思っていたのが実は返信で、しかもダンブルドア校長からのものだったらしい。

 

 内容を見るに、どうもリリーの気づかないうちにペチュニアが『自分もホグワーツに入学させてほしい』と手紙を送っていたらしい。おそらくはリリーが手紙を受け取ったその日のうちに。

 それに対しての校長の返事は、丁寧で心のこもった断りだった。

 

 クラリスは心底『理解できない』という口調で言った。

「私たち、あれだけウソだとかバカげた空想だとか言われてきたわよね。ペチュニアに。でも彼女はその"バカげたところ"に行きたいってお願いをしたっていうの?」

 

「本当よ!そうやって書いてあったんだから。今だって置いてあるのよ、チュニー(ペチュニア)の机の上に」

 リリーは一生懸命にクラリスへ訴えた。

 

「べつにきみを疑ってるわけじゃないだろう」

 リリーの姉の態度が理解できないだけで。

 

 セブルスが横あいからそう言い添えると、クラリスはうなずいた。

「そうよ、ペチュニアが何を考えてるのかよくわからなくって。リリーだってそう思うでしょ。これまで私たちはずっとバカにされ続けてきたじゃない。本当はそんなこと思っていなかったっていうの?」

「それは……。でも、手紙に書くのが本当の気持ちのはずよ。わざわざポストに出してるんだもの」

 

「そう簡単に魔法が使えるようになんてなるもんか。なれるんなら、とっくに世界中が魔法族だらけになってる」

 リリーの姉の本心なんてどうでもいい。だからセブルスは、その願いが叶わないという事実だけを言った。

 

(ざまあみろだ)

 

 でもあからさまに顔には出せない。リリーに嫌われるかもしれないからだ。

 我慢した結果、セブルスの頬はうっすらとした笑みの形になった。

 

 3人はまだ子どもだったので、ペチュニアの本心は理解できなかった。彼女の『バカにする』という行動は、『決して自分の手に入らない憧れのものを(おとし)めて、自分をなぐさめる』という意味合いだとわからなかった。

 リリーだってクラリスだって"酸っぱいぶどうだと決めつけた"イソップ童話は耳にしたことはあったけれど、そこからだって教訓をくみ取れなかったのだ。『何でそんなことするの?』という感想にしかならなかった。

 

「──ねえセブ(セブルス)。手紙って郵便局から出せるの?」

 話の途切れ目で、リリーはセブルスにそう尋ねてきた。

 

「いや……、聞いたことはない。ふつうはふくろうで運ぶらしいけど」

「ふくろうって?鳥の?

 うーん……。でもチュニー(ペチュニア)がそんなことを知っているとは思えないわ。やっぱりポストか郵便局から手紙を出したんじゃないかしら」

 

 セブルスは肩をすくめた。これまで魔法界の誰かに手紙を出す用事なんてなかったし、母親に訊いたこともない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

リズ(クラリス)は?聞いたことあるか?」

「わからないわ。わたしのうちにもフクロウが来たことはないし……」

 

 彼女宛の手紙は、基本的に後見人である"スクイブのおばあちゃん"がまとめてクラリスに手渡すのだという。新聞も同じくフクロウが配達するものだが、とっていないらしい。

 

「だったら、やっぱり校長先生に会ってお願いするわ!『チュニー(ペチュニア)も学校に入れて下さい』って。入学してからだったらいくらでも時間があるもの」

 

 頼んでもきっと無駄だろうが、わざわざやめさせる必要もない。リリーも断られて、それで終わりになるだろう。

 

 リリーは真っすぐな子だ。きっと、誰かを……セブルスのことも見捨てたりあきらめたりしない。いっしょにいるだけで、自分の胸のうちに温かさを分け与えてもらえるみたいだった。

 

 その緑のひとみをじっと覗きこんだセブルスには気づかず、リリーは「そういえば」と切り出した。

「クラス分けってどんな風になってるのかしら?」

 

 これまでセブルスから魔法学校の話題は耳にしていたはずだが、そうやって詳しく尋ねてくるのはめずらしい。

 魔法魔術学校もやはり"おとぎ話"の一部みたいだからだろうか。

 

 たとえば『イートン校(上流階級の超名門校)に次の秋から通えます』なんて言われても、実際に手続きの書類がくるまで真に受けられないのと同じだろう。

 

「クラスっていうのはよくわからないけど、寮が別れるんだ。寝泊りもそうだし、受ける授業も寮で別れることがある。

 1人ずつ"組み分け帽子"というのかぶって、帽子が寮を決めてくれるらしい。その子のものの考え方とかで」

 

 セブルスは至極あっさりと『寮への入り方』をバラした。

『入学してのお楽しみ』と黙っている大人が多いなか、母親はすでに教えてしまっていたのである。息子の入るべき寮について()()だったからだ。

 なので、セブルスはそういう"お約束"があるということから知らなかった。

 

「うちに本があったのよ」

 クラリスがそう言って、3人で囲めるスペースに革の装丁(そうてい)冊子(さっし)を置いた。

 題名には"ホグワーツ魔法魔術学校入学案内"と黒インクで書かれている。

 

 マグル基準でみると高級感があって立派だが、けっこう薄めだ。マグルにとっては高級品でも、魔法製品なら遥かに安く手に入れることができるらしい。

 クラリスは「父兄(家族)へのパンフレットみたいなものよ」と説明していた。

 

リズ(クラリス)のパパかママの本?」

「さあ……。うちにあっただけだから、どうかしら。そうかも」

 

 リリーの問いにクラリスは曖昧(あいまい)に答えたが、セブルスにはおおよそ見当がついた。

 おそらく魔法使いだったという、彼女の死んだ父親の持ち物だ。イギリスの魔法使いは大抵みなホグワーツに入学するのだし、彼女の父親やセブルスの母親も例外ではなかった。

 

 クラリスはページをぱらぱらと(めく)ってみせた。残りの2人が両側からのぞき込むと、寮生活の案内、支給されるもの、ルールなど、様々なトピックが通り過ぎてゆく。それらのどのページの上でも、文字が自在に動きまわっていた。

 

 寮を解説するページの最初には、ホグワーツの学校章が大きく載っていた。4つの動物がそれぞれテーマカラーの上に描かれている。

「寮は4つ」

 

 獅子寮ことグリフィンドール(Gryffindor)は勇気、大胆さ、気力、騎士道的精神を重視する。

 穴熊寮ことハッフルパフ(Hufflepuff)は特殊な才能より勤勉、献身、忍耐、忠義、公平性を重視する。

 鷲(わし)寮ことレイブンクロー(Ravenclaw)は知性、知識、智恵を重視する。

 蛇寮ことスリザリン(Slytherin)は野心、狡猾さ、機智(機転)、そして血筋(家柄)に重きを置いている。

 

「うーん……自分に合うところがいいのはわかるんだけど」とリリーは言った。

「帽子さんはお願いは聞いてくれないのかしら。どうしても入りたいところがあったりしたら」

 

「まったく才能がないところじゃなければ大丈夫じゃない?」

 クラリスがずいぶんと安請け合いしているが、セブルスにも異論はなかった。

 

 例えばすっごく頭が悪いのにレイブンクローに入れられたりとかは──よっぽどの才能もちはあるかもしれないが──恐らくないだろう。『本人でもまだ知らない分野で、実はすごい天才になれる』とかでない限りは。

 逆に言えば、もしその寮に入れたとすれば、要するにある程度はそこに向いていると判断されたのである。

 

「できればみんないっしょの寮に入りたいわよね。でもわたしとリリーはスリザリン寮は無理じゃない?“家柄”って言われても上流階級(アッパークラス)じゃないし」

 

 むしろ3人とも『ド』庶民である。3人のうち裕福さランキングで一番上なのはリリーであったが、別に上流階級ではない。ちなみに魔法族での血筋ランキングをつければ一番上なのはおそらくセブルスになる。

 

 クラリスはちらりと意味ありげにアイコンタクトをおくってきた。

『わかってるわよね?』とでも言いたげだ。

 

(……わかってるけど)

 

 セブルスとしては、本当は『3人でスリザリンに入ろう』と言いたいところなのである。しかし、クラリスの意見に反論できるほどの材料もない。貴族のような子が入る場所なら、むしろ『3人とも』不向きかもしれない。

 セブルスにできるのは黙っていることだけだ。

 

 寮の解説を読むかぎりでは、どの寮であってもとびぬけて優れているというわけでもないようだ。

 親の時代もそう変わりはないだろう。ホグワーツはおよそ1000年前に創立されているし、そうそう方針が変わるとも思えない。2~30年くらい前でも、同じ基準で寮生が選ばれているはずだ。

 

──夏に入る前だったろうか。セブルスが寮のことを母親に聞いたのは。

 

 組み分け帽子についてや、4つの寮について。

 一通りの説明を終えた母親は言った。「スリザリン寮は限られた魔法族しか入れない特別な場所なの」

 

「"特別"?とびぬけて魔法の力が強いとか?」

「いいえ。きちんとした家の子が多いのよ。私もそうだった。昔から続く(けが)れのない血筋」

 

 母親の言葉からは『自分もきちんとした家の子だった』なのか『自分もスリザリン寮に入った』なのかは読み取れなかった。だがそれを確かめる前に、母親はまるで口をはさませないように続けた。

 

「私の家は"プリンス家"というの。代々……私の親も、その親も……、ずっと昔からきちんとした家と結婚をくりかえした血筋だったから、きっとあなたはそこに()()()わ。スリザリン寮に入れさえすれば、そこで"純血"を守ったきちんとした家の子と友だちになって……ええ、きっとその方があなたは幸せになれる。この辺りの子と過ごすよりも、ずっと」

 

 母親は真剣な表情でセブルスを見つめていて、でも声色は慈愛に満ちていた。だからセブルスには本当に心から自分の幸せを願ってそう伝えているのだ、というのがはっきりとわかった。

 

「私はお前にじゅうぶんな闇の魔法の知識をさずけてきた……。望むのならマグルを滅ぼすのだって簡単にできるわ。

 寮に入れたら、必ず上級生に言うのよ。『自分はプリンス家の血を引いている半純血だ』って。そうすれば悪い扱いはされないわ。お前は頭がいい子だから。……ね、お願いだから約束してちょうだい」

 

「ぼくは……。──"純血"って、なに?」

 セブルスは別のことを尋ねた。

 

 約束ができなかったからだ。

 

 以前も母親は『ホグワーツに入ってから友だちをつくるよう』厳命してきた。『(リリーやクラリスのような)この辺りの子とは付きあうな』とも。

 合わせて解釈すると『ホグワーツでスリザリン寮に入るまでは友だちをつくるな』となる。しかし、それはすでにセブルスのなかで絶対に無理な約束になってしまっていた。

 

 2人にはどれだけ助けてもらったことか。リリーは心を救ってくれ、クラリスはまともな暮らしをくれた。

 付き合いをやめるなんてできるわけがない。()()()()()()()()()()()()

 

「純血は……そうね……、なんと言えばいいか。つまり、マグルの血は穢れた(泥の)血だから、そういう血が入った人と結婚しないという考え方よ。きちんとした家の子はみんなこの教えを守っているの」

 

「両親がマグルから生まれた魔女は?」

「ダメよ。どっちか片方の親が純血なのは……相手によるわ。ダメという家もある。

 けれど。あなたは"純血主義"の家の子と仲良くなさい。マグルの血は『穢れている』のよ」

 

 確かこんな風に話が終わったはずだ。

 

 そしてその翌日、セブルスはそのままクラリスに相談を持ちかけた。クラリスの家に行っていつも通りシャワーを借りて、預けていた服に着替えた後のことだ。

 

「"半純血"て考え方がよくわからないわよね……。わたしもウチの本を読んだけど、よくわからなかった。

 穢れてる血でもちょっと入ったくらいなら許すってこと?でも半純血の人が純血の人と結婚したとして、孫とかひ孫とか、それともずーっと先の子孫とかがマグルと結婚した場合はどうするの?それは半純血扱いになるの?それともそこからは"穢れた血"になるの?何人まではOKとかそういうのってあるのかしら」

 

 クラリスは納得できないらしい顔で、手を大振りに動かしながら矢継(やつ)(ばや)に言った。

 

 純血主義の考え方からいうと、どうやらセブルスが純血の人と結婚するか否かで、その子どもが純血主義の人と結婚できるかが決まるらしい。

 母親にしてみれば、セブルスがスリザリン寮に入れるかどうかというのは、純血主義の家系に『戻れる』かどうかの瀬戸際なのかもしれなかった。母親にとってはそこに戻すべき価値があり、そうして欲しいと願っている。

 

 それでも、クラリスの言う通りルールがあまりに曖昧すぎる。どこからが"純血主義"と結婚してはいけないラインになるというのだろう?

 

「どうやっても、あなたが"穢れた血"を引いてることに変わりはないじゃない?ある日突然『今日から"穢れた血"のグループに入ってね』なんて言われてもおかしくない」

 平気で蔑称(さげすむ呼び方)(なのだと思われる単語)で呼ばれたセブルスは、いささかカチンときた。クラリスに害意がないのはわかっていてもだ。

 

「……お前の父親だって死喰い人(デスイーター)になってたくせに」

「そうだけど。パパは変人でとんでもない"愛好家"だけど純血かもよ?別に家があるなんてよっぽどお金持ちよね。そうしたら私も半純血だったりしてね。半人間だけど。

 ──非魔法族ってだけで"穢れた(泥の)血"なら、魔法生物はどんな血なのかしら、青い血?」

 

 クラリスがくすくすと自身をバカにするように笑って、夜空のような複雑な色彩の髪がちいさく揺れた。

 

「青いのか?」「赤いわよ、ちゃんと」

 

 青い血(貴族)と赤い血(庶民)はまじりあわないという、大昔のマグル世界での表現を彼女は()()()()いたが、この時のセブルスにはよく解っていなかった。

 それを見て取ったのか、クラリスは言い直した。

 

「つまり……私がスリザリンに入った場合を考えてみてよ。たとえパパが純血だったとしても、受け入れてもらえると思う?」

「それは……。きみは半人間だし。やめた方がいい」

 

 髪と目(目のつくところ)に人ならざる特徴をもっているクラリスでは無理だが、黒い髪と目をもつセブルスでは受け入れてもらえるかもしれない。ぱっと見では血統までは読み取られないからだ。

 

 それでもクラリスは別の案をすすめてきた。

「ほかの寮なら一緒に入れるわ。別の寮だとバラバラになっちゃうんでしょ、授業とか食事のテーブルとか」

 

「ぼくは……。でも、やっぱり魔法族はただのマグルなんかと結婚すべきじゃない」

 そこは譲れないところだ。あんな連中と結婚したから母親は不幸になったのだ。

 

 クラリスは「そうだね」とあっさりと同意した。

「言いたいことはわかるよ。私の場合はそうそういないだろうけど。私も『魔法生物との結婚はやめた方がいい』って絶対に言う」

「だろう」

 

「でもそれは暮らしが違いすぎるからよ。子どもがひどい目に遭うくらい。

 マグルの血が"穢れてる"とかじゃなくて、いい人だってたくさんいるわ。わたしだって出来るならリリーの家に生まれたかったわよ、選べるならね」

 

「それは……。()()()()()

 セブルスはこの1年近くをクラリスの世話になっていて、その延長線上で様々なマグルと出会っていた。リリーの両親を含めた『いい人にも』数多く。自分の父親は除くが。

 

「いい人だって、いい血じゃないのかもしれないだろう」

「いい血じゃなきゃ何かダメなの?すぐに死んじゃうとか、魔法が弱いとか」

「さあ。『きちんとした家の子が多い』って」

「……私はともかく、リリーはきちんとした家の子って気もするけど、"純血"じゃないんでしょう?」

「らしいけど」

 

 クラリスはLiptonのティーバッグで淹れたお茶のカップを一飲みした。暑くなってきた時期だが日陰はけっこう涼しい。今は窓は閉まっているが、開けてもいいくらいだった。

 

 半年以上前の冬のはじめ、応接間の窓ガラスには大きな穴が空いていた。クラリスが引きこもった時にセブルスが壊したからだ。クラリスが元気になった後、最優先で"レパロ(なおれ)"を習得して修理していたのだ。治安の悪い地域だからか、未成年者の魔法でも咎められることはなかった(彼女が自宅で魔法を使ったのはこの時が初めてだった)。

 

「リリーよりももっと上の階級って……。つまり上流階級?貴族様?

 私たちじゃ無理じゃないかしら。庶民よ、私たち。名門校に通うようなお金持ちの子じゃない。

 それでいくとあなたは……没落貴族の子どもって感じ?血筋が立派ってことは」

 

「貴族とまでは言ってなかった。もしそうなら落ち方がとんでもないな」

 貴族だとしたら、何をどうすれば貧困地区まで転がり落ちて"マグル以下"にまでたどり着くというんだろう。何かしくじって借金まみれだったりするんだろうか。だから母親はただのマグルと結婚する羽目になった?

 

「魔法界にも貴族っているのかしら。そういうところにあなたを戻してあげたいのかも。つまり自分が失敗しちゃったから」

「"失敗"。──ぼくは"失敗作"か?」

 

 セブルスが片眉を跳ね上げてみせると、クラリスは焦ったように否定した。

「違うわ。そういう意味で言ってないってば。あなたのママの話。『自分は人生を選ぶのに失敗した』って思ったんじゃないの。『"きちんとした"魔法使いと結婚すればよかった』って。だからあなたには失敗して欲しくないってことだから……」

 

 クラリスが"応接間"の一人掛けソファから身を乗り出したが、すぐに「もう!」と怒ったようにいって深く腰かけなおした。

「その顔。私をあせらせて楽しんでるって感じね。にやにやしてるんじゃないわよ。

 ねえ、もしかして今の貴族っぽい感じにしたつもりだったの?わかりにくいわ、あなたのジョークって」

 

「残念だな…きみならばもう少しうまくやってくれると思ってたんだが」

「ああOK。ジョークなのはわかったけど、あなたの貴族っぽい言い回しって冗談を通り越して本気で腹が立つからやめてくれない。なんかこう……(かん)(さわ)るのよね。わかりにくいし。自分が球を受けそこねたのを『送球が悪い』っていうキャッチャーみたい」

 

「なんだ。つまらないな」

「やっぱり庶民がいちばん楽ね。貴族様と仲良くできる気はしないわ」

「ぼくもだ。……きみはどう思う?それでも"きちんとした家"の子と友だちになった方がいいのか」

 

「どうかしら。わたしは……友だちになるなら、自分がいっしょにいて楽しい方がいい。

 ああでも、ひとつ確かなことがあるわね」

 にやにや笑いを浮かべた彼女の言いたいことは大体読める。

 

「ママの言う通りにするなら、『あなたはマグル生まれのリリーとは結婚できない』。そんなの嫌よね?」

 セブルスはあからさまに嫌そうな顔をしてみせることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

──などという意見交換があったので、セブルスは積極的に(スリザリン)寮を()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「リリー!お友だちも!ちょっと下に降りてきてちょうだい!」

 階段の下からリリーの母親が呼びかける声が聞こえてきた。

 

 3人の目は、しぜんと自分の手に握られている入学許可証に向かう。

 

「もしかして……」

 

 

 

  リリーの家の1階、ダイニングには大人が3人になっていた。

 

 彼女の両親のほかにいたのは、"いかにも魔女"という出立(いでた)ちのひとだ。

 ローブを着てとんがり帽子をかぶった、年かさの女性。イメージと少し違ったのは、配色が黒でなくエメラルドグリーンだったこと。そして、ピンと背筋に1本芯が入っているような立ち姿であることだった。

 

「はじめまして、3人とも。わたくしはミネルバ・マクゴナガルと申します」

 思わず目くばせした3人に、その人はやさしい微笑みを浮かべていた。

 

「──ええ、あなたたちの手元の許可証にサインが書いてありますとも」

 きりっとしていて礼儀に厳しそうな印象の人だったが、子どもが嫌いなわけではなさそうだ。

 

 この家の子どもなのでリリーが一歩前に出た。

「は……はじめまして。リリーといいます。あの、ほんとうにホグワーツの先生なんですか?……副校長先生?」

 

 ええ、と穏やかに頷いてみせた彼女は、3人に訪問してきた理由を話しはじめた。

 魔法族の親戚や知り合いがおらず、魔法の実在を知らない子がいること。

 そうした子やその家族には、先生が説明のため訪問することになっていること。

 そのなかの1人がリリーだったので、先生がやって来たこと。

 

 先生がリリーの両親に魔法のことを説明したところ、2人とも驚いてはいたが、「リリーたちが話していた空想かと思っていた」という反応だったこと。

 

「あなたは……いいえ、3人ともですか。魔法のことを知っていたのですね。ではどこで学校に必要なものをそろえるかも知っていますか?」

「ええと……(リリーはちらっとセブルスとクラリスを見たが、2人とも首を横に振った)いいえ。私たち、よく知りません」

 

 実はセブルスは聞いたことがあったが、黙っておくことにした。『それではあなたは別で』などという話になったら困る。

 

「魔法界育ちでない子たちには、教師が付き添うことになっているのですよ」

「3人でいっしょに行ってもいいんですか?」

 

「ええ、もちろん。ただ……」

 先生の目がクラリスの方を向いた。ひとまず『クラリスと言います』と自己紹介をした彼女に、先生は言った。

 

「あなたは、望むのならば魔法生物に詳しい先生といっしょに行くこともできるのですよ」

 クラリスが人外の血を引いているのは、外見で簡単にわかってしまうのだ。セブルスがすぐわかったように。

 

「学校には半人間の先生もいます。色々とあなたの力になって下さるでしょう」

 リリーはクラリスの方を『いっしょに行けないの?』と言いたげな、残念そうな表情で見ていた。

 

 まだそうと決まったわけじゃない。

 決まってしまったら彼女が逆らうことはないだろうから、なんとか断らせないと。

 

 クラリスはリリーの緑の目を見つめ返してから、先生に向きなおった。

「わたし……、お世話になっている後見人("スクイブ"のおばあちゃん)が言っていたのですけれど、かみの毛と目の色以外はふつうの魔法族と変わらないって。だから、特別なにか2人と違うところがあるわけじゃないです。

 別々にしなくちゃ、ダメなんですか?」

「──いいえ。3人ともいいお友だちなのですね」

 どうやらクラリスは大丈夫のようだ。

 

 しかし、セブルスはセブルスでいっしょに行けるか怪しいところだ。

 

 買い物先もホグワーツ行きの手段も、ロンドンにある。地元(スピナーズ・エンド)からは遠い。

 

 親が魔法族の場合は、親の付き添いで買い物をしてから、その足で翌日などにそのままホグワーツへ向かうのがいちばん効率的なやり方らしい。セブルスの母親はそうしたいような口ぶりでさえあった。必要な道具などを買い揃えても、父親にどうこうされては元も子もないからだ。

 

 しかしセブルスはこのやり方を避けたかった。

 

 クラリスがいっしょでないということは、自宅からしばらくは()()()()でみすぼらしい服装のままということになる。そんな姿を人目に(さら)したくない。

 今こぎれいな服装でいられるのは、クラリスの家で預かってもらった"自分の持ち物"があるからだ。この8~9か月で手持ちのものが増えたとはいっても、自宅に持ち帰れるわけではない(持ち帰ったものは大体壊されるか捨てられる)。クラリスに預けなければどうにもならない状況だった。

 

 さらに言えば、母親は"魔法生物ごとき"であるクラリスや、"マグル生まれ"であるリリーとセブルスがこれほど親しくしていることも知らない。

 このままでは3人で買い物にまわるなんて出来ないだろう。

 

「あの」と、セブルスも2人に(なら)って自己紹介してから問いかけた。

「ぼくも2人と行きたいんですが、……買ったものをウチに持ち帰るのが、……あー、難しくて」

「ええ、大丈夫ですよ。力になれます。持ち物のうち、制服以外のものは預かって学校に届けておきましょう。制服は到着までに着替えてもらう必要がありますからね。それと、杖は自分で持っていた方がいいでしょう」

「それだけじゃないんです。先生と行くって母親に伝えたいんですが、ぼくの家は、あまり……」

 

 先生と母親とを直接会わせるのは避けたい。魔女の姿を見たら、父親はどう考えても大変なことになる。自宅に来てもらうわけにはいかなかった。

 

 セブルスの希望をいっぺんに叶えるのならば、日中、母親がいない時にリリーの家に集合して行くのが一番いい。その上で、母親には『先生と2人で買い物に出る』のだと思ってほしかった。友だち2人の存在がばれないように。

 ──というのを、リリーには知られずに先生を説得したいわけである。大人でも(さじ)を投げそうな難しさだ。

 

 どう言えば伝わるというのだろう。さっぱり思いつかない。

 

 セブルスの口の重さを見てとってか、先生は「こちらへ」と、その場にいる人たちから少し離れたところに呼んだ。それから杖を一振り。

 途端に、周りに透明な壁を1枚張ったかのように、音が聞こえなくなった。リリーがクラリスに何か話しかけたが、セブルスの耳にまでは届かなかった。

 

「これで周りには聞こえませんよ。さあ、遠慮なく言ってごらんなさい」

 

 セブルスには先生の促しがあまり耳に入っていなかった。

 

 大人の魔法族がきちんと魔法を使うのを見たのはこれが初めてだった。クラリスの使った初級の魔法よりも、もっとずっとおとぎ話の魔女みたいだ。

 これをぼくもできるようになるのか、と思うとどきどきして顔が熱くなってくる。

 

「どうしました?」

 なんでもないですとセブルスは答えた。今は先生との交渉を済ませる方が先だ。

 

 彼は先生に自分の希望を伝えた。3人でいっしょに行けて、家に学用品を持ち帰る必要をなくして、母親には友だちのことを明かしたくないと。

 理由は黙ったまま、しゃべったのは(ただ)それだけだ。

 

 それなのに、なぜか先生はその目にこもった慈愛をいっそう強くしたようであった。

「ええ、本当に、いいお友だちなのですね」

 

 そう言った先生が杖をまた一振りすると、宙から飛び出たかたい紙の封筒(入学許可証が入っていたのと同じ)が、ひらひらとセブルスの手に飛び乗った。

 

「それをお母様に渡しなさい」

 

 

 

 

 

 

 




マクゴナガル先生がいつから副校長なのか不明ですが、1971年は第一次魔法大戦中だし先生は騎士団側で参戦してます。
よってダンブルドア校長がすでに彼女を副校長に配置しててもおかしくないはず。
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『闇の魔術はセブルスにとって母親との思い出や絆説』が自分のなかで浮上してきました。

なんでそう思ったかっていうと、炎のゴブレットでのシリウスのセリフに『セブルスが入学時点で7年生顔負けレベルで闇の魔術にくわしかった(意訳)』ってのがあったわけで。
それが本当なら、間違いなくカーチャンの手厚い(手厚すぎる)指導があっただろうし。カーチャンと過ごした時間の大多数がそれだった説まであります。

でもその"愛情"のせいでセブルスは寮でも浮いて一人になっちゃうし、シリウスに目をつけられるし、闇の魔術に詳しい(ほとんど死喰い人の)グループにも入っちゃうし…。その結果予言の話につながるし。
セブルスの運命過酷すぎませんか。

さらにですよ。
『謎のプリンス』冒頭で出てきた"黒い本が壁一面に詰まってる"っていう自宅の描写が、もしも闇の魔術関係の本ばっかりだったら…。
自分の解釈だと、本は大人になってから買い揃えたものだと考えてるので、そうだとしたらセブルスお前…。
っていう妄想。


拙作のセブルスは親離れしてきちゃってるから、そういう展開にはなりません。
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