セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
はた目から見ると死喰い人にどっぷり浸かった魔法界育ちのやべーやつにしか見えない気もするし、でもリリーから聞いてそうな気もするし…。
下手したらリリーにとってスネイプと友だちだったのは黒歴史になっていて、周りに話してないってこともありうる。
2025年9月1日 全体的に修正済み
「──ってことで急いで逃げてきたんです」
シリウスと先生は、文房具などの
マグル育ち3人は、店内で商品をあれこれ見物している真っ最中だ。まっさらな鍋を先生にあずけて。
時間がかかると踏んだシリウスは、先生へ事情を説明することにしたのである。
奪い取ってきた"連絡用のバッジ"と"見張りの杖"を、先生の目の前に差し出して。
「まさか、そんなことを」とマクゴナガル先生はしばらくどう言葉を返せばよいかわからない様子だったが、やがて
「あなたは大変危険なことをしたのですよ!無事だったのはただ運がよかっただけです。
あなたのような子どもが、こんな──もう二度とこんなことをしてはいけません。約束なさい。今後ノクターン横丁へ一人で乗りこんだりしないと。犯罪者に会うなんて、もってのほかです!」
「先生!おれは間違ったことなんてしていない。おれはこのまま友だちにあんな連中の1人だなんて思われたくない!家族だって……。あんな連中になんかついて欲しくないんだ!」
両親も弟も好きじゃない。厳しいしつけも。
でも、嫌いじゃない瞬間だってあるのだ。うまく箒に乗れた時に褒められただとか、弟にふざけてやって愉快だったとか。
なにをどうしゃべったかまでは、記憶の奥底にしまっていても。
もしもなんでも望みが叶うのならば、願うのは家を出ることじゃない。シリウスに巨額のこづかいが与えられ、いつでも出て行けるようになるとしてもだ。
願うのは、家族が犯罪者側から騎士団側に気持ちを切りかえることだった。
「あなたが『家族に正しいことをして欲しい』と願うのも、そのために立ち上がる勇気があるのも、とても素晴らしいこと。あなたのその心は大人になるまで大切になさい。それでも、あなたはまだ子どもなのですよ。犯罪者と戦うには早すぎる。
──さあ、それはわたくしが預かります。ここから先は大人がすべきこと。用事が済んだらあなたはご自宅まで送りましょう」
「おれは……帰らなくちゃいけないんですか」
「……ええ。ホグワーツに入学してからも同じです。大人になるまでは帰らなければならないのですよ」
つまり、シリウスが願うほどには、この"告発"で家族の行動は変えられないのだろう。シリウスが自宅に帰れないほどの成果にはつながらない。先生はそう思っている。
テロリストに加担しているのが明らかなのに今まで捕まっていないのだから、すべてしらを切り通せるように計画されているのかもしれない。
「安心なさい。何かあったらすぐに知らせられるよう、手段を用意します」
信じてくれただけ良かったのだろうか。子どものごっこ遊びや勘違い・見間違いだと否定されてもおかしくなかったから。
それでももっと大きな変化につながると期待していただけに、シリウスは肩透かしを食ったような気分だった。
先生が杖をひと振りして手紙を用意すると、おそらくは郵便用のフクロウがバサバサと羽音を立てて滑空していった。足のかぎ爪のあたりに"速達"というタグがつけられていて、去り際に封筒を回収していったのがシリウスからも見えた。
*
本屋のまわりもそれなりに賑やかだった。
制服の仕立て屋ほどではないが、子どもを含めた客が集まって列をつくっている。
「こっちだ」
シリウスは先頭に立って人ごみをかき分けて進んだ。
自身には買い物の必要はないのだが、3人が並ぶのを待っているだけなんて退屈だ。帰るまでに少しでも気晴らしをしておきたかったのである。
「──さ、足元に気をつけて」
ガラスドアを押し開け、リリーの方に手を差しだした。少し気取ったように歯を見せながら。
すると周りの大人は、先生も含めて『可愛らしいものを目撃した』と言いたげな笑顔になった。何ならクラリスまで同じような表情をしている。
「この2人だととんでもなく『絵になる』わね。題名は"初恋"とかかしら?」
そう軽口をたたく彼女の後ろで、セブルスは剣呑な目でにらみつけてきた。あまりやると闇の魔術がとんできそうな顔だ。
(……やきもちか?)
当のリリーは少し照れた様子で
「『足元にお気をつけて』ですって」
おそらく絵の題名は"無垢な友情"とかに変わっていそうである。
店内に足を踏み入れられるスペースはあまりない。壁に据えつけられた本棚に収まりきらないのか、その前に平積みされて林立しているからだ。春先のつくしみたいだ。
なぜか本棚の中でさえ、平積みになっているものもある。背表紙を見せるようにして。
どの本も
教科書の分だけは専用のコーナーが設けられていた。本棚に"ホグワーツ魔法魔術学校指定教科書"というプレートがはめ込まれていて、その中に"1年生用"の見出しがついた箇所がある。
シリウスの案内で必要な本をそれぞれ抜きとって、列にすすんだ。
その時、後ろの方でクラリスが順番をセブルスと替わったのが見えた。つまり先頭からシリウス、リリー、セブルス、クラリスの順になったのだ。
クラリスは『わかってるわかってる』とでも言いたげだ。セブルスはそのお姉さんみたいな態度が気に食わないのか、ぷいと顔をそむけて「はぐれても知らないぞ」と言っていた。
(……3人とも仲がいいんだな)
マグル育ちは戦争とも関係ないのだ。うらやましい。
ただ列が空くのを待つのも暇なので、4人は自然と目についた本について話し始めた。
「──おれとしてはあの新刊なんかおすすめだな。最近出たばっかりの3部作なんだ。主人公は古い魔術の研究家で、最新刊だと悪者に家族を人質をとられる。それで古代の遺跡の危険な試練を乗りこえて秘宝を手に入れるようにおどされてしまうんだ。面白そうだろ?」
「ええ、とっても!わたし、冒険って好きよ。魔法界にも小説家っているのね。マグルの方にもそういうファンタジーのお話があるの」
「この話はノンフィクションなんだ。悪役は病院送りになってて、今も入院中なんだと」
「魔法界の病院は何をなおすところなんだ?」
「なにって?」
「ただの怪我だったらすぐ治せるんだろう」
先ほどシリウスと意見がぶつかりそうになっていたセブルスだったが、ひとまずは
(セブルスは本来、知らないことを素直に尋ねられる性格ではない。『そんなことも知らないのか』と見下されたり軽んじられるのが大嫌いだからだ。
しかしシリウスには3人ともマグル育ちだとすぐに発覚したし、自分以外の2人の方が知識がない。知らないことを恥じる必要がないので訊けたのである)。
クラリスが横から補足した。
「マグルの病院は病気になったり、骨が折れたりしたときにかかるのよ」
「ああ。病院は呪いとか治せない魔術とかだな。ほら、反対魔法がある呪いなら、わかりさえすれば解けるけど、それ以外で……。あー、反対魔法って言うのは、要するに魔法の効果を消す魔法ってことだ。まともな魔法には、対になる反対魔法が必ずある。
反対魔法がないのを"闇の魔術"っていうんだよ。それでリハビリが必要とか、そういうふつうの魔法では治せないものにかかったら、病院に行くんだ。
あの本の悪者はたしか、秘宝を手に入れるときに手順を間違えて……」
「待ってよ!先の展開を言わないで!」
そうやって、あわてて止めに入ったリリーの顔はかわいらしかった。残り2人も同じ感想をしていそうな笑みを浮かべている。
そのほかにも、シリウスは面白い本をあれこれと紹介した。真面目くさったものはあまり好きじゃないので、読んだことがあるのは、もっぱら冒険活劇みたいな楽しい物語ばかりだ。
大人向けだって読める。11歳とはいえ、きびしい教育を受けてきた結果だ。娯楽の少ない毎日のなかでは、とくべつ好きでもない読書でも『やらせてもらえるだけマシ』な方だった。
自由に選べるなら、もっと身体を動かすようなことをしたい。
その後も3人は、本の感想を言いあったり、魔法のことを尋ねてきた。"ブラック"なんか気にせずに。
まるで戦争前の友だちがいた頃に戻ったみたいで、いつもより口数が多くなった気がする。
そうして列に並んでいると、やがて4人が並んだ列が本屋の奥、カウンターデスクにまでたどり着いた。
デスクの後ろには倉庫があって、そのドア枠はななめに傾(かし)いでいる。本の重みで天井がゆがんでいるのかもしれない。2階にも本棚と売り物の本がずらりと置かれているようだから。
シリウスはさっそく、なかにいる店員に声をかけてみた。
「やあ、どうも」
「おや。ブラックさんはこの間いらっしゃいましたね。今日はお友だちも一緒ですか」
「あーっと。まあ……、今日知り合ったんだ。ホグワーツ1年生用の教科書3人分と、あとちょっとお耳を拝借」
シリウスはひそひそ声で"注文"を店員に伝えた後、最後に「ブラック家のシリウスにつけといてくれ」と付けくわえた。
まだウチに大きな変化を起こせないのだから、好きにやってやる。
店員は「ただ今ご用意します」と言って、奥へ引っ込んだ。
「なにを頼んだの?」
「まあまあ。いいからちょっと待ってろよ」
先に説明しちゃつまらないじゃないか。どうせすぐにわかるんだし。
リリーは後ろの2人と目を見合わせていた。
「なんだと思う?」
「本屋で必要なものは、ほかになかったはずだけど」
セブルスが一覧表をたしかめながら答えたのと、どさりという重たい音がカウンターデスクから聞こえたのは同時だった。
「──ねえ、わたしたち『こういうもの』のためにあなたと買い物にまわってるんじゃないわ」
リリーはひどく残念そうにそう言ってきた。
シリウスたち4人と先生の全員で連れだった道すがらのことである。他が済んだので、いよいよ洋装店(制服の購入)に向かって歩いていたのだ。
リリーは言葉を選んでいるみたいだった。
「プレゼントしてくれたのはありがとう。とても嬉しいわ。でも……友だちにたくさんお金を使わせたりしたくないの。色々なことを教えてくれるだけで十分なのに」
シリウスは自分の支払いで、厚みのある本3冊ずつのセットを3人分おごったのだ。紹介した3部作を。
リリーが申し訳なさそうに目を伏せたので、シリウスは目を剥いた。
大層なことをしたわけじゃない。気に入られようとか、そういう考えだってなかった。
誤解されたらたまったものじゃない。
「いやいや、こいつは気持ちってやつだよ。
おなじ本を読んだ方が楽しいじゃないか。友だちといっしょにさ。せっかくだから一緒に楽しみたいんだよ。そうしたら、どのシーンが好きだとか、そういう話だって出来るし」
「でも……新刊の本を3冊も。ダメよ、そんなの。貸してくれればいいのに」
「気にするような大したことじゃないって」
上流階級であるシリウスの金銭感覚は、特にマグルの庶民とはかけ離れていた(本人は気づいていなかったが)。
シリウスとリリーのやり取りを見守っていた残り2人の方はどうだろう。
そちらを
まず、クラリスは当初「無料(タダ)でおもしろい本が手に入った」と喜色をあらわにしていた。次いでリリーの意見を目の当たりにして、考えを改めたらしい。「たしかに、友だちでいたいならお返しができるくらいまでしか受け取れないわね」とリリーに賛同していた。
セブルスの方は眉根を寄せていた。まるで『着てゆく服がないのに社交界にまねかれた』かのような複雑な目を、本に向けている。
持っていないからと素直に喜べるわけではないらしく、むすっとしていた。
(本人の中で、あらゆる気持ちがまじり合ってしまったためであった。シリウスに恩をうけたと感謝する一方で、『恵んでもらう』のがあまりにみじめで、甘やかされている相手が腹立たしく、子分のように扱われたくない反発心もあって……といった具合に)。
「……これからはこんな風にしないでね。プレゼントならお返しできるものにして」
「あーはいはい。わかったよ」
納得はしきれなかったが、リリーが嫌だと言うなら嫌なのだろう。
3人とも当初のクラリスのように喜んでくれると思っていたのに。
善意が伝わらなくて、口を開く気にならなかった。
なんとなしに沈黙していると、夜空色の髪がふわっと揺れたのが目の端にうつった。
「ねえ、あなたは──ああ、シリウスって呼んだ方がいいの?」
「『ブラック君』じゃないなら何でもいい」
呼び方を確認するということは、彼女はシリウスが『ブラックをやめたい』と言っていたのをきちんと覚えていたのだろう。
「つまり……、お金も持ってて家が有名ってことは、貴族なの?ブラック家って」
シリウスはただ肩をすくめた。そう思われたくないからわざわざ黙っていたのだ。貴族のお子様みたく
「貴族だってかくす気なんてないんだろう。家の名前を使ってたくせに」
セブルスの目は冷たい光を帯びていて、『"ブラック"をやめたいとか本気で思ってないんだろう?』と問うようだった。どうしてか不機嫌になっているらしい。贈り物をしただけなのに。
「家の名前を使ったからなんだっていうんだよ」
自分の小遣い、つまり家の金に頼らない生活など11歳の子どもにはできない。そんなのセブルスたちだって同じだろう。
喜んでもらいたかったのに手持ちがなかったのでそうしただけだ。それなのにリリーに叱られセブルスに非難される。最悪の気分だ。
ジェームズだったら、こっちが3冊贈ったら、べつの本を3冊贈り返してくるのに。
「お前らは苗字(家の名前)を気にせずに名乗れるんだからいいよな」
シリウスはくちびるを尖らせていた。
「そうだな」と真っ先に反応したのはセブルスだった。とても皮肉げに唇のはしを持ち上げている。
「『家のことなんて関係ない』。お前が金持ちで嫌なやつなのは"ブラック家"とは関係ないことだ」
「なんだと……!」
不機嫌なだけならともかく、喧嘩を売られる覚えなんてない。
シリウスがいきり立つと、2人を仲裁するようにクラリスがあいだに入った。
「セブもイヤミで嫌なやつになってるわ。それとも言い方がへたくそなだけで、ブラックジョークのつもりだったのかしら?」
ブラック家だけに。
「嫌味がジョークに聞こえる耳をしてるのか?」
クラリスにまでせせら笑うような態度が飛び火したせいか、今度はリリーがセブルスを叱った。
「
「ン……」
リリーにまでたしなめられて、セブルスは口を閉じた。流石に
よくよく確認してみると、前をゆくマクゴナガル先生も何事かという顔で振り向いていた。
大人が割って入るともっと面倒だ。そのせいか、一段と悪くなった雰囲気のなかで全員が口をとじた。
やがて先生の注意がそれた頃、クラリスが仕切りなおした。
「じゃあわたしたち、シリウスをマグルの庶民と同じようにするわよ。貴族も魔法使いのこともよく知らないんだから。わたしたちと同じ、ただのマグル庶民『シリウス君』ならいいんでしょう?」
「別に……。それでいい」
「じゃあ、あんまり高いプレゼントはなしね。庶民でもお返しできるくらいのものにして」
「おれは、お返しが貰いたくてやったわけじゃない……!」
「それはわかってるのよ」
今度語りかけてきたのはリリーだ。
「友だちだったら片方ばっかりに頼るなんてよくないわ。お互いさまなのよ。ちゃんと友だちになろう」
ちゃんとした友だちになりたいから、そう成れないようなことを止めて欲しい。
それは正しい気がする。
ジェームズは贈り返せるが、3人(庶民)には無理なのだ。だから3人(庶民)に合わせて欲しいのだと。
そんな風に説得されてしまったら、飲まざるをえないじゃないか。本当に"ブラック"なんて関係ないと言っているのだから(セブルスの態度は頭にくるが)。
「……わかったよ」
シリウスが頭をかいて頷くと、リリーがセブルスのそばに寄った。
「
なんとなく和解の雰囲気だった気がするが、セブルスはぷいっとそっぽを向いた。
「あんなやつ友だちじゃない」
「そんなこと言わないでよ。さっきまで楽しそうに話してたじゃない」
どうしちゃったの、とリリーが尋ねても、セブルスは口をへの字にして首を横に振るだけだ。
(なんだよアイツ)
贈り物をしただけで嫌うなんて、嫌なやつなのはセブルスの方じゃないか。
「……なあ、おれってそんなに嫌なやつ?」
クラリスに尋ねてみることにした。女の子2人は、セブルス(自分の友だち)とシリウスとを公平に扱っているみたいだからだ。
今まで面と向かってそんな風に言われる経験がシリウスにもなかったでもない。女の子や"お子様がた"はともかく、ジェームズの友だちになにか言われたこともあったし、ジェームズと大ゲンカしたこともある
(ちなみに、おそらくジェームズがこの場にいたらシリウスの味方になってくれただろうし、その場合シリウスはリリーやクラリスの意見をきく気にはならなかっただろう)。
「ううん……、どうかしら」
クラリスは、前をゆくセブルスのくくってある黒髪が揺れるのを眺めながら、考えているみたいだった。
「たぶん、シリウスはお金持ちだけど、わたしたちは庶民で……。でもそれって、シリウスは悪くないし……。
セブがあんな風に怒ることってあんまりないから、わたしにもきちんとは解らないの」
歯切れの悪い返答だ。
「でも、喜んでほしくて『ひと』に何かしてあげるのって良いところよ、絶対に。気前のいいところもそう。ただ……、わたしたちがどうしたいのかも聞いて欲しいだけ」
クラリスの星が散ったような色彩の瞳が、シリウスに向いた。
「わたしはマグル育ちのなかでもあまり……、生活が楽じゃないの。だから何かくれるのはうれしいって思っちゃったんだけど……。
でもリリーの言う通りだと思うの。わたし、シリウスとも"友だち"でいたいな。"物を恵んでくれる人"じゃなくて」
*
マダム・マルキンの洋装店(制服の仕立て屋)の前にたむろしている子どもたちは、その数を少し減らしたようだった。
ランチタイムに入ってきたからかもしれない。レストランや軽食、もしくは帰り道の『
仕立てが終わったら買い物は終わりになる。その後は、たとえばリリーのペットを見に行ったり、食事をして解散になるだろう。
例によって、混雑した店内に用事のないシリウスと先生は、外で残り3人を待っていた。
8月の力強い太陽にじりじりと肌が焦がされる感覚がして、ほとんど日陰(ひかげ)のない通りの上でじっくりと石焼きにされているみたいだ。
嫌気がさしてきたシリウスが、どこかの店でも見に行くかと考えはじめた頃、ドアベルがからからと鳴った。
出てきたのは小柄でやせっぽちな子どもだ。きびしい日差しのなかだと、子ども……、セブルスはいっそう貧弱で年下にすら見える。
彼は光がまぶしかったのか、手のひらで目もとに影をつくるような仕草をして、それからシリウスの姿を見つけたようだった。
おたがいに"痛みわけ"になったので腹は立たないまでも、ぎくしゃくはしてしまう。女の子2人があいだに入っていないのは心もとない。
セブルスも似たようなものなのだろう。周囲をしばし迷ったように見やってから、シリウスの方に寄ってきた。
「……リリーとクラリスは?」
「まだ出てきてないけど。お前より先に入ったよな?」
セブルスは小さくうなずいた。
「女性の支度はゆっくり待つことですよ」
先生に待てと言われても、なんとなく居心地が悪い。
「あー……。そうだ、
立ちっぱなしで待つのも疲れるのだから、ひとまずはそう提案した。たいていの子は箒かクィディッチが好きだし、シリウスもそうだ。
「きらいだったら、ひとりで行くけど」
『どうしたいのかきいて』と先ほどクラリスにも言われてしまったからだ。先生の前だというのもある。
セブルスの表情からは何を考えているかがいまいち伝わってこない。不機嫌なときはすぐに文句をつけてきたので、そういう訳でもないのだろう。話しかけられるのすら嫌だったら「話しかけてくるな」と断ってきそうだ。
接し方を手さぐりするなんて、面白くもない。嫌いだったら嫌いでいいから、自分の好きにすればいいじゃないか。
やがて、セブルスは足を一歩踏み出すようにして、シリウスのとなりに並んだ。
「どこにあるんだ?」
どうやらそこまで嫌われてはいないのだろう。
(……また嫌味を言ってきたら置いて行ってやる)
リリーやクラリスはともかく、こいつと友だちになる気はあまりしない。
ショーケースには最新型のモデルが、まるでスポットライトを浴びているかのようにライトアップされている。その窓ガラスに、何人もの子どもたちが張りつくようにして鼻息をあらくしていた。
「……お前、
「ぼくらはない。マグルに見えるところで飛んだりできないじゃないか」
「大人の魔法使いに魔法をかけてもらえばいいだろ」
「あー……。ぼくらには魔法をかけられる大人はいない」
「クラリスの親は?両方の親が……その、人間じゃなかったりする?
でも、そうならあの子がマグル育ちっていうのがおかしいじゃないか。そういう施設に入らないなんて」
「……いないものはいないんだ」
セブルスの語調は強く、『これ以上その話題を続けるな』と断っているみたいだった。
「そうかよ」
やっぱりこいつは頭にくる。だからシリウスも強めに言い返した。
クラリスのことを訊いたからって、感じ悪い態度をすることないだろう。
(……でも、今こいつがしたのは悪いことなのか?)
セブルスの拒絶は『クラリス(友だち)の事情をぺらぺら話すつもりはない』というものだ。
本人がいないところで好き勝手言ってまわるヤツよりは、よっぽどいい。シリウスだって自分の家のことをあれこれ言われたくはないのだから。
(……もう少し言い方を考えろよな)
カチンとはきたが、べつの話題を探さない程じゃなかった。
「……あー、あのさ。ホグワーツでは
「お前は?乗ったことがあるんだろう」
「……まあな。おれだけじゃないぞ、別に。魔法使いの家育ちはみんな乗ってるんだ。大人の魔法使いがいれば落っこちてもどうにかなるから。"クィディッチ"の真似ごとなんかみんなしたがるし」
「
「ああ、ぜったい見るべきだ。たぶん上級生の試合だったら入学してすぐ見れるぞ。1年生はチームには入れないけど。お前の場合、トレーニングの方が先かも。……いやそんな顔するなよ、けっこう荒っぽいんだよ。箒に乗りながら体ぶつけたりするから」
セブルスはあまり背がのびていないし、同年代に比べるとやせている。シリウスはもちろん、リリーやクラリスよりも小さい身体つきだった。
だから見たままの感想をシリウスは言ったのだが、なぜかセブルスは渋面になっていた。
怒るポイントがさっぱり掴めない。
それでも普通に話しかけてはくるので、シリウスも普通に返事をした。
「試合はやったことがあるのか?」
「ちゃんとしたのはないな。お子さま向けで低く飛ぶかんたんなルールのはやったことあるけど……」
シリウスは言いさして口を閉じた。そっちのルールでやった相手は貴族の"お子様"たちだったことを思い出したからだ。
「そっちはスニッチもないからな。それで3on3とかの方が多いかも」
マグル側で例えるならば、野球ではなくキックベースをやるようなものである。
シリウスは子ども向けの簡易なルールを説明した。
貴族の子どもと仲良くするのと、こうやって手さぐりで迷いながらセブルスとしゃべっているのと、どっちがマシなのだろう。
貴族の"お子様"はシリウスの指示に従うし、やりたいことに反対なんかしない。でも『ブラックなんかいやだ』というのなら、相手のやりたいことだって考えなくてはいけないらしい。
どれほどシリウスが正しいと主張しても。
ガラスに自分とセブルスがならんで映っていると、同じ黒髪なのとあいまって兄弟のように見える。ほんとうの弟より顔は似ていないけど。
ぼうっと考えながら眺めていると、不意に、窓ガラスに映ったセブルスのからだが横合いにすっ飛んで行った。
「な──」とシリウスが意味のある単語を口にするより早く、今度は自分の視界いっぱいに青空が広がる。
何かの魔法で引き倒された。
頭が働かないまま、急いで右──大通りの側にローリングして仰向けになる。
とにかく呪文から逃げることだけに集中して、シリウスは立ち上がろうとした。──その喉元のすぐ脇に、杭のようなものが突き立てられるまでは。
脚が、シリウスの体をまたぐようにして立っていた。
(靴のかかと、か……?)
真横に刺さっているのは、細くて長いピンヒールらしい。
シリウスが思わずごくりと息をのむと、冷や汗がにじみ出した首元が上下に動いた。
周囲にいた人たちはみな、遠巻きになってシリウスとヒールをはいた人物を見ているようだ。杖を抜こうとした姿勢のままで動けなくなっている人もいる。
襲い掛かってきた?人物は、周囲の人たちの動きをけん制するように視線をとばしていた。
その黒いローブから、猛禽類のような長く黒い爪がはみ出している。そのなかに杖を握っているのだ。
「エクスペリ──」「うるさいわね」
シリウスがすきを突いて杖を振るよりも、女がヒールで杖腕を踏みつける方が早かった。
折れてはいない(魔法族は非魔法族より頑丈なのだ)が、痛みで呪文を唱えるどころではなくなってしまった。
「あら……おぼっちゃまには傷をつけちゃいけないんだった。このくらいなら平気よね?」
逆光なので、女がどんな顔をしているのかまではわからない。シリウスは痛みをこらえながらも犬歯を見せて笑ってみせた。
「近ごろはそういうのが流行りのあいさつなのか?犯罪者のあいだの」
「あら。ガッツのある子は好きよ」
そう言って、女はかがんでシリウスのシャツの胸倉をつかみ、上体を起こさせた。だが次にシリウスが何かしゃべるよりも先にその口に杖先をねじ込んだ。
「いーい?アタシが今、とっても簡単な呪文を唱えただけで、あなたの脳みそを花火みたく撒き散らしてやることだってできるのよ?しないのはただ、あなたのママが怒るから。お金にもならないから。あなた自身は商品になりそうだけど非売品ね。お手を触れないでくださいってヤツ。だから見逃す。良かったわね、お坊ちゃん」
女の目的は明確だった。"脅し"だ。シリウスのやったことを知っていて、今後同じことをしないように釘をさしに来た。ということは、こいつも死喰い人やブラック家の関係者なのかもしれない。
(油断してた……!)
すっかり解決した気になってしまっていた。マクゴナガル先生から離れるべきではなかったのに。
シリウスに杖先を突きつけて見せるのは、目撃者に対してのけん制だろう。今自分を撃ったら子どもを殺すぞ、という人質にしているのだ。
「ウフフきれいな顔ね。お得意様じゃなかったらあなた
なんだその言い方は。まるで、
嫌な予感にシリウスの顔から血の気が引いていく。
「まさか……、2人に何をしたんだ!」
まさかあの檻の人間たちのように売られてしまうのか?
「あいつらは関係ない!手をだすな……!」
シリウスはとっさに怒鳴った。自分が危険な呪文をかけられるかもしれない等とは頭から抜けてしまっていた。
女は感心したように眉をはねあげてから、杖を抜いてシリウスを殴りつけた。
手加減しているのだ。咥えさせたままだと万が一がありうると。
馬鹿にされる程に実力が離れている。弱い自分が許せなくて、それでも手も打てなくて、シリウスは奥歯をかみしめて荒く息を吐くことしかできなかった。
「仕方ないわよね。あなたが火遊びしたから、かわいいお友だちはいなくなるの。あなたは無事でも周りのことは命令されていない。いい教育にもなって丁度よかったわね。
じゃ、サヨナラ」
闇祓い(犯罪者を捕まえる者)が駆けつけるよりも早く撤退するつもりなのだろう。
「貧乏ヒマなし・ポケット銭なし・地獄の沙汰もカネしだい」
鼻歌まじりでそう言った女は、その場から煙のように姿を消した。
子どもシリウスって未熟にしようと思えばいくらでもできちゃうんだけど、そこまでひどくないやろとも思うんですよね。12歳のカースト上位ってどの程度だ?
わがままで心のままに生きたいんだけど、友だち想いでお兄ちゃんでもあって。
『友だちと自分のわがままだったらどっちをとるのか』っていうラインの見極めが書いててむずかしいです。
見た目がイケメンで金持ちになった、性格が映画版ジャイアンみたいな感じ?
※ただしのび太はいじめる
→低学年編書いたあとだと面倒見は良くない気がしてきたので、少し修正しました。