セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
アンチでもヘイトでもないのでゆるして…
2025年9月7日 全体的に修正済み
かたい石づくりの屋上に腹ばいになったセブルスの頭上を、びゅう、という強い風が時おり吹きさっていく。
太陽が中天から過ぎた頃合いだから、夕方まではまだ時間がある。
セブルスは、屋上のふちから身を乗り出し、見張りの頭が真上から見える位置に杖を構えていた。シリウスが捕まっている倉庫の屋上、見張りの真後ろにあたるところだ。
屋上までの高さが5メートルくらいだと考えると、ギリギリで呪文の射程距離の範囲内といったところか。やっていることはまるで
手の中の杖は、子どもの手であやつるのに比べるとずいぶん細身に感じられた。長袖で袖口がひろいローブは、匍匐前進したせいで土汚れがついているのが見える。
横丁にいた人間を見る限り、魔法族は夏でもローブを着用するものらしい。薄手だったり風通しのよいものなのだろう。少なくともノクターン横丁を通り抜けるときに悪目立ちはしていなかったように思う。周囲に自分をマークするような人影は見えなかった。
("あの呪文"を当ててから、ヘビで制圧しよう)
セブルスは小さな声で自信のある"ある呪文"をとなえ、杖を振った。
*
シリウスは檻のなかに立ったまま、ふらふらとあちらこちらに移動する磁石を目で追っていた。ちょっと小走りになれば追いつける程度のスピードだ。
檻の四方をぐるりと一周するような動きをしているので、もう片割れの持ち主はどうやら近くまできて、倉庫の壁づたいに移動しているように思える。
この道具はいつの間に自分に接着されたのだろう。
シリウスには見当もつかなかった。真っ先にセブルスが仕込んだものだろうと考えたが、よくよく考えれば先生の可能性だってある。
先生だったら百人力だ。……でも、そんな素振りはなかったようにも思う。
そんな風に考えていると、磁石は突然、まっすぐ上に進み始めた。
(……上?)
シリウスは天井の方を振りあおいで目を凝らしてみたが、倉庫内にはなにか変わったところはない。
とすると、外か。
磁石はどんどん高度を増していて、そのまま放っておくとふたの隙間から飛び出して倉庫の天井にまでいってしまう。シリウスは慌ててジャンプし、小さなそれを手の中につかまえた。
片割れをもった"だれか"は、倉庫の外の上の方、つまり屋上か空中のどちらかに移動したのだ。
しばらく待ってみても、シリウスの手の中の磁石はちょくちょく上に進みたがるように動いている。ちょっとくすぐったい。
どうやら片割れは今も"上"に留まったままのようだ。
やがて、外の物音に変化があった。
何か小さな声と、くぐもった悲鳴のような男の野太い声がしたのだ。口をふさがれたときにあげる「んー!」という悲鳴がこんな感じだろう。次いで椅子を蹴っ倒すような音がして、すぐに外は元通りの無音になった。
シリウスが少しでも状況を把握しようと耳をすましていると、「アロホモラ──開け」という大人の男の声がした。
そこまで低音ではない。シリウスの知り合いのものかどうかは判別がつかなかったが、シリウスが想定していた相手のどちらとも違っていたのは確かだ。
見張りをどうこうしたのなら味方かもしれないが、べつの犯罪集団かもしれない。
シリウスは自分では魔法を使えないのも忘れて、杖先を入り口に向けてかまえた。
やがて金属扉の入り口が開かれると、1人の大人の男が、倒れた見張りを両脇から抱えるようにして引きずって入ってきた。
それが誰なのかはやはり判別できない。というのも、その人物は後ろ向きだったのである。黒いローブを着ていて黒髪ということくらいしかわからなかった。
そいつは見張りをその辺に転がした後、金属扉を少しの隙間を残して閉じた。見張りの胸が上下しているので、生きてはいるようである。
「……お前はだれなんだ」
シリウスは緊張のまま相手を見据えるようにして、杖を向けたまま尋ねた。
返事はなく、同じく杖を持ったままのその人物はシリウスの方に近づいてきた。
知っている顔じゃない。
ブラック家関係者なのか、死喰い人なのか、それとも騎士団や犯罪の捜査員なのか。
"闇祓い(捜査員)"にしては何を考えているかよくわからない、不気味な無表情をしている。
ただ、杖先をシリウスに向ける気はないようで、両手はおろしたままだった。
「ぼくだ」
「それじゃわからないから訊いてるんだよ」
気の利くヤツなら先に名前を言うはずだ。もしくは何者なのかを説明する。少なくともシリウスなら自分から名乗る。シリウスはあきれて、自分の杖もかまえるのをやめることにした。
目の前の人物が手のひらを開くと、そこからふわふわと飛び立った磁石がシリウスの右手の方に寄ってきた。ガラス越しだが。
シリウスの方も磁石を自分の手の中から解放すると、ガラス越しに"かちり"と音を立ててくっつき、そのまま両方とも効力を失って地面に転がった。
この磁石を用意できて・気が利かなくて・この風貌。
「……もしかしてお前、セブルスなのか?」
そうと思って注視してみると面影がある気がする。黒いローブがある意味似合いすぎであった。
「──闇の魔術をやたら使いそうな見た目だな。うさんくささはノクターン横丁にはえらく馴染みそうだけど」
シリウスのその意見に 実はセブルス自身も同意見だった。
「うさんくさくて悪かったな」
なので眉をひそめて見せるにとどめた。
実際、この横丁にはやけに馴染んでいたような気がする。
こういうのは舐められたら負けなので、おそれがあるのを見られないようにいつも以上に心を閉じた結果である。地元で工場地帯をうろついていたとき、たまたま見かけた不良っぽい人がそんな風にしていたのを真似たものだった。
セブルスがポケットから購入した薬の余りを取り出して「支払いはお前だからな」と伝えると、シリウスは犬歯を見せてにやりと笑った。
「思ったよりやるな」
ノクターン横丁を超えるためにセブルスが選んだ手段。
それは「大人に
その名も"大人薬"。すでに大人になった人間が使っても効果がないため、子ども向けの悪戯ジョークグッズのようなものである。だからシリウスの名前で買っても、店員に違和感を持たれなかったのだ。
大人といっても幅が広いわけだが、服用すると若い年代になるようだった。あと10年くらい経つとセブルスはこんな風になるのだろう。
店の人の説明では、この薬はあくまで現在までの成長の仕方から予想された見た目なので、本当の10年後とは違うらしい。
それでも、薬を飲んでから鏡の前に立ってみたセブルスはしょっぱい気持ちになった。暗い雰囲気があまり変わっていない。真っ先に出てきた感想は『"やせたカラス"もしくは"コウモリ"っぽい』というものだった。
どうにも景気は良くなさそうだ。それと、黙って立っているだけなのに『無表情だとけっこう不気味』である。髪の毛の印象は現在のものとあまり変わらないものの、シリウスのものと比べればパサついているのは明らかだった。
入学してからはましになるはずだから、もっといい10年後を目指そう。セブルスは心に誓った。
薬の効果は1時間くらいもつらしい。横丁から離れるまでに解けることはないだろう。
「アロホモラ──開け」
セブルスはシリウスの檻のふた、両端に留めてある簡易な鍵を魔法で外し、ふたを浮かせて開けた。それから飛び上がってガラスケースのてっぺんに乗る。
あとはシリウスを魔法で浮かせて脱出させれば終わりのはずだ。中身を取り出すのに魔法を使えないつくりにはなっていないはず。
だが、セブルスはすぐそうしようとは考えなかった。天井部分のふちにしゃがみこんで、檻に入っているシリウスを見下ろす。
「なんだよ。さっさと出せよ」
焦れたようにシリウスがそう言いだしたので、セブルスはにやりと笑った。優勢なのはこっちだ。
「シリウス。お前はぼくに言わなければいけないことがあるのではないかね?」
「なんだそのしゃべり方……やめろよ。こう、イラっとするから」
シリウスは真顔だった。
気を取りなおしてセブルスは言った。じっとシリウスの目をのぞき込んで。
「お前はぼくを置いていった」「ああ」
「何も言わずにだまってた」「……そうだけど」
「しかも捕まってた」「だったらなんだよ」
気のない返事ばっかりで、さすがにいらつく。
セブルスは額に青筋を1つ浮かぶのが、自分でもわかった。「お前……!」
「ぼくが来なかったら、リリーとクラリスは手おくれになるところだったんだぞ……!」
大人の声で怒りをあらわにすると、けっこう迫力がある。シリウスは痛いところをつかれたような顔をして「うぐ」と変な声を出した。
ばつが悪そうにしているところを見るに、悪いことをしたとは思っていそうだ。
しかし、シリウスは視線をうろうろとさまよわせてから、居直ったかのように答えた。
「……いいのかよ。おれをここに入れたままだったら2人を助けに行けないぞ。お前ひとりでなんとかなるとでも思ってるのか?」
「お前だってひとりでできなかったくせに。だからつかまったんだろう?」
鼻で笑い、敢えてひときわ馬鹿にするかのように憎たらしい声でセブルスは言った。
ひとを足手まとい扱いしておいて、ひとりで飛び出していって手遅れになりそうな状態を招いている。腹が立つに決まってるじゃないか。
「こんの……!」
シリウスの顔にさっと赤みがさした。
「──イヤミ野郎!」
しかしシリウスが杖を振り上げてもここまでは届かないし、魔法のちからも働かない。いらだち紛れにガラスケースをたたいていたが、やっぱり何の
有利なのは救助する側なのである。
セブルスはにやにや笑いを深めた。
「助けてほしかったらぼくを足手まとい扱いしたことをあやまれ。出してやるのはその後だ」
シリウスは「ぐぬぬ」といった表情で歯噛みしていた。
もちろん、セブルスにだって置いていった事情はわからないでもない。マグル育ちを危険なところに連れて行けないという判断を間違っていたとも思わない。
でも、それはそれ、これはこれというやつだ。
「お前だっておれに謝ってないだろうが!今だって失礼なことを言ってるくせに!」
「ン……」
今度はセブルスが痛いところを突かれて口ごもった。嫌味を吐いてリリーにもたしなめられたのに謝っていないのは確かだ。なんとなくイヤだったからだ。
これ以上突っついて良いことはなさそうだ。さっさと出してしまおう。
『相手に謝らせるために自分も謝る』よりも、シリウスに謝らせること自体をあきらめることにしたのだった。
「レヴィオーサ──浮かべ」
シリウスをガラスケースのふたから引っぱり出すようにして外に下ろしてから、セブルス自身も倉庫の床まで下りた。
「こいつ!」
呪文を撃てるようになったシリウスがまずやったのは、セブルスに杖を向けることだった。ほとんど同時に、セブルスからもシリウスに杖を向ける。
「エクスペリアームス──武器よ去れ!」
「サーペンソーティア──蛇いでよ!」
2人はまったく同じ方向──入り口の方に向き直って杖を振った。
倒れているところから復活した見張りの男に向かってだ。
まず赤い閃光が突き刺さり、同時に生み出された蛇がその身体にかみつく。
外にいた時もセブルスは同じ手口をつかったのだ。さすがに"ストゥーピファイ(失神せよ)"などの意識を失わせるような強力な呪文は、入学もしていない年齢で使えるような代物ではない。
「あれ何のヘビなんだ?」
「魔法族でもしびれる毒もち」
「眠らせる花とか、そんなのばっかり詳しいのかよ……」
シリウスは少し青ざめた表情でほおを引きつらせていた。恐怖ではなく"やべーやつ"をみる目でかたわらのセブルスを見上げながら。いわゆる"ドン引き"と顔に書いてある。
「それで助かったんだからいいじゃないか」
セブルスは口をとがらせた。
「なんか頭にくるからその顔やめろ。バカにしてるのか?」
シリウスがとなりから、背中の下あたりにこぶしを軽く当ててきた。手を伸ばせるだけ伸ばして。
あまり高い位置には背が届かなかったらしい。
*
「なにか2人のいる場所の手がかりがあるかもしれない」
シリウスがそう言ったので、見張りの持ち物を2人であさることにした。
セブルスが「お前が知っていることを話せ」といった時のことだ。シリウスももう黙っているつもりはなさそうだが、リリーとクラリスの救助のためには洗いざらい吐いてもらわないといけない。
ポケットやら
『"おぼっちゃん"を引き渡した後で合流しろ』という指示と時間、詳細な地図が書いてあるものだ。
どうやらいくつもの檻は移動中のようで、新しい場所への合流時間以外の情報は載っていない。
わざわざバッジで連絡していたのに今度は紙の命令書を持っているのは奇妙な気もするが、おそらくはシリウスが彼らの予定を狂わせたせいなのだろう。
移動する必要が出たがあの見張りはバカなので、問題なく確実に移動できるよう、指示する地図が必要になった。
シリウスが自由の身だったら『まただまされて奪い取られるかも』と考えたかもしれないが、あの状況から『助けがきてシリウスが脱出できる』なんて予測できなかっただろう。
「先生に来てもらわないのか?」
「地図を見た感じだと、そんなことをしてたら間に合わない」
自然とリーダーシップをとるのはシリウスになっていた。何が起こっているのか状況をよく知っているというのもそうだが、土地勘や魔法の知識からみても適任だった。
シリウスの説明はこうだ。
「あと2時間しかないんだ。ここからダイヤゴン横丁に戻るのも時間がかかるし、それで騎士団や闇祓いがつかまらなかったら2人は取り返せない。ホグワーツに助けを呼びに行くっていうのも無理だ。時間がかかりすぎる。2人が遠くに連れて行かれた後じゃ意味がない」
「連絡先とか、遠くに連絡する方法は?」
「わからない。校長先生だったらホグワーツにいるかもしれないけど、まだ夏休み中だからいないかもしれない。
だから、2人で助けるしかないんだ」
「子どもが魔法を使ったらわかるんだろう?それで誰か呼んだり」
「ここの横丁でまじめに取りしまりなんかするかよ」
セブルスは思いつく限りの案を尋ねてみたが、状況があまりよくないということを確認するだけに終わった。
「できる限り急いでここを離れるぞ。おれが行きかたと場所をしらべる。お前はなにか作戦を考えててくれ」
そう言ったシリウスが、地図からどのあたりのコースを通るかを計画しているあいだ、セブルスは先に"保険"をかけることにした。
ふところに入っているものを取り出して、さらさらと必要なことを書きつけた。
*
「……あれだな」
セブルスの向かいで、シリウスが建物の陰から地図にあった"合流場所"を確認していた。
まだ指示書にあった時間よりはだいぶ早い。夕刻に入ってきたころ合いだった。
どうやら運河沿いに出発する予定らしい。港湾にそのまま出られるようにいくつもの倉庫が並んでいて、小型船からそれなりに大きめの船までがいくつも浮かんでいる。
これでは今、リリーとクラリスが倉庫に到着しているのか、それともまだ移送中かの区別がつかない。
「しばらく見張ってるしかないな」
シリウスはいつもより隠れるのに不向きになった長身を折りたたむようにして、その場に座りこんだ。
「お前は後ろにだれか見えたら教えてくれ」
セブルスはうなずいて了解を示してから、杖を持って立ったまま、建物のかべにもたれかかった。
ノクターン横丁から移動するにあたり、シリウスもまた"大人薬"を服用して偽装することにしたのだ。
大人2人に見せかけておけば、まず手は出されないからだ。子ども2人や子連れの大人なんて"横丁"にはそぐわない。
ちなみにシリウスは俳優かモデルにいそうな容姿となっていた。足がすらりと長い。あくまで現在の状態からの未来予想図でしかないためか、変身後のシリウスはなぜか仕立てのいい正装用ローブを着用していた。
「いい服着てるじゃん、おれ」とシリウスは言ったが、上流階級やら魔法族においての常識がよくわからない、そしてマグルでのそれも知らないセブルスは「ノーコメント」とだけ返した。
ここに来る道すがら、シリウスは今日あったできごとの詳細をセブルスに明かしてきた。
「──戦争?」
そんなことになっているなんて、初耳だ。
オウム返しするしかないセブルスに、シリウスは説明してきた。
「ああ。闇の帝王……あー、名前言ったら場所がばれる呪いがかかってるから言わないけど。
まあとにかく、そいつがさ、『純血がそれ以外の魔法族もマグルも管理するべきだ』とかなんとか言って戦争を起こしたんだ。同じような考えの純血主義のやつらと。
……あー、そっか。お前らは知らなかったのか。マグル育ちだから」
セブルスは"知らなかった"と下に見られた気がしてぴくりと眉根を寄せたが、事実なので言い返しはしなかった。
「で、そのボスに従うやつが
「たしか犯罪者だって聞いたことがある」
クラリスの父親も捕まっていなかったら今頃は戦争に参加していたかもしれないが、処刑されたのでそうはならなかった。
「ああ。──うちはふるい貴族だし純血主義だからさ、うちの母親……、まあ
だから大人しくさせたかったんだよ。逮捕させてでもさ。捜査されれば協力なんてできなくなるだろ。おれはどうしても告発したかったんだ、今回のこと」
シリウスは目元に力をこめた。「だから巻き込んだ2人は絶対に助ける」
「べつに逃げ出したっていいぞ。後のことはぼくがやっておくから」
セブルスがそう
「目かあたまに呪いがかかってないか調べるんだな。おれが逃げ出したがってるように見えるなら」
ここから逃げるようなやつは、そもそも一人で告発に動いたりしない。もちろんセブルスにだって解っている。
「そういえばホグワーツに入ったらさ、組み分けっていうのがあるんだよ」
「聞いたことがある。寮が4つあるんだろう」
「なんで戦争は知らないのにちょくちょく知ってる話があるんだよ……。クラリスに聞いた?いや、まあいいけどさ。
おれはだんぜんグリフィンドールに入りたいんだ。知ってるか?勇猛果敢な騎士の寮なんだ。
「じゃあ、グリフィンドールに入って
「……おれの大親友の相棒がさ。ほとんど純血みたいな家のやつなんだけど面白いやつで、マグルともうまくやってて、おれもそいつらとも友だちだった。でも戦争のせいでおおっぴらに連絡もとれなくなったんだ。
そいつらは純血じゃないから
だから──おれが大人になるまでウチが変わらなかったら戦うのかもな」
「お前だってグリフィンドールかもしれないだろ(意外なことを言われてセブルスは目を瞬かせた)。
だって、勇猛果敢じゃないのにこんなことするか?向いてると思うけど」
犯罪者のところに乗り込んでいってシリウスを助けた後、友だち2人も助けようというのである。ひとの金を勝手につかってはいるが。
「じゃあお前、どこの寮に入りたいんだよ?」
話をふられたセブルスはどう答えたものか少し悩んだ。
というのも、寮の話をするときは決まってクラリスが「スリザリン以外の寮がいいよね」と言ってくるのである。セブルスがそこに入ってしまうと、リリーやクラリスとは離れてしまうと考えているからだ。
セブルス自身は、母親ののぞみをできる限り叶えるためにスリザリンに入りたかった。しかしクラリスがあまりに口を酸っぱくして反対してくるので、そうとは言わないようにしていた。
「ぼくは、あー……、家族が。スリザリンが向いてるって言うんだ」
「はあ?」
シリウスのリアクションは劇的だった。一気にまなじりをつり上げ、すごむようにセブルスをにらみつけてくる。
「お前、マグル育ちだって言ったよな?うそだったのか?」
「ちがう。うそじゃない。母親が魔女でマグルと結婚した。だからぼくは"半純血"とかいうやつだって。
あー……、
『
問われたシリウスは苦いものを口にふくんだままのような表情でしばらく黙った後、はあ、と長いため息をついた。セブルスの言葉を飲みこむのに時間がかかったようである。
「まあ、お前はクラリスと友だちだもんな。あの子が魔法生物だってのは知ってたんだろ?」
「ハーフなんだ」
「リリーは?あの子も両親のどっちかが魔法族だったりする?」
「それがなにか関係があるのか?」
友だちのことを
「いやほら……。つまり、2人が大事なんだろ?こんなに必死で探すんだから。だったらスリザリンなんか絶対やめておけ。あそこに入ったら2人が純血じゃないと友だちじゃいられなくなる。リリーは……マグル生まれ?(セブルスはうなずいた)それでクラリスが半人間だろ。だったら絶対ダメだ。
うちの家族も親戚もみーんなスリザリンだったんだ。で、こう言うんだ。『純血以外はひとじゃない』ってさ。あそこは
「そんなわけないだろう。ぼくは
「だよな。おれも母親からスリザリンに入れって言われてるけど……無視していいんだ、そんなことは。自分ののぞむようにやっていい」
シリウスはどこか自分に言い聞かせるかのようにそう言った。
セブルスは「そうか」とだけしか答えられなかった。『魔法界出身で、しかも純血で貴族』という子すらクラリスと同じことを言っている。
さすがに素通りする気にはなれなかった。
──それでも母親は、心からスリザリンに息子の幸せがあると信じているのだ
(余談だが、セブルスの母親は『この家の子と付き合え』などとは口出ししていなかった。彼女は7世紀も続くブラック家の存在はもちろん知っていたし安泰だと信じたかったが、貴族や金持ちだって没落するということがあるし、その情報を気軽に聞けるような相手もいない。万が一没落していたら息子の将来が大変なことになる。だから『きちんとした貴族』『きちんとした純血』とだけ付きあうように言ってきていた)。
その後「作戦を立てよう」と、倉庫を見張っていたシリウスが口にして作戦会議を始めることになった。
シリウスが使えそうな呪文について杖の振り方を教えたり、侵入の経路や分担についての話し合いだ。
そのうちに、移送してきた人間なのか?大きなじゅうたんのようなものをもった人物が現れ、くだんの倉庫に入って行った。
──作戦開始だ。
・"老け薬"がつくれるなら、"大人薬"だってつくれるはず。
・セブルスなのでもちろん弱者をいたぶるようなことをする。嫌いな相手じゃないからソフトに。
・クラちゃんって見た目で半人間ってわかるから、"半人間を大切にする=純血主義者じゃない"っていう説明が一発でついて、たいへん便利。