セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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2025年9月8日 全体的に修正済み


≪光≫ 転章 (修正済み)

 

 

 

1971年 ホグワーツ入学日 ロンドン キングスクロス駅 9+3/4番線

 

 

 

 ホグワーツ特急は昔ながらのSL(蒸気機関車)のような見た目をした車両だった。

 

 全体が赤く塗装されていて、ホームでの停車中もその車体の下からけぶったものを吐き出している。

 裕福で旅行ができるような家族をもつリリーですら、実際に使われている列車に乗るのはおそらく初めてだろう(1969年までには全廃されているそうだ)。後ろの車両も鮮やかな赤で、なんと木造のようだった。

 

 ぱっと見、まるでおもちゃの模型のようだ。

 

 さっきまでいたマグル向けのホームとは違い、こちらのホームはどこか古めかしい。ほとんどが石レンガ、もしくは焼きレンガづくりだ。

 床や柱なんかが特にそうなのだが、見た目が歴史っぽい割にはひび割れなどは見られない。ものの劣化を防いだり修理する魔法がかかっているのかもしれなかった。

 

 ゆきかう人は『いかにも魔法を使いそうなローブととんがり帽子なタイプ』と『いかにもロンドンを旅行してきたシャツとジーンズのタイプ』との2種類がまじりあっている。彼らに共通するのは、ある程度大きな子どもがいて、トランクや包みがカートいっぱいに載っているという点だ。

 

 クラリスはスクイブの"おばあちゃん"に連れられてそこまでやってきた。

 

 2人は朝はやくに出発し、乗り合いバスと列車に乗って、とあるさびれている無人駅で降りた。そこから徒歩で近所の民家を訪ねると、そこが魔法族の家だったのだ。

 

 この日、暖炉ネットワークというのをクラリスは初めて体験した。部屋を暖めるには大きすぎる、人間が入れそうなサイズの移動用暖炉というものがあるのだ。実はクラリスの家にもあるのだが、ネットワークに加入していないので使えない。

 その家の火のついていない暖炉にまず入り、それから手に持った煙突飛行粉(フルーパウダー)というものを暖炉のなかに振りかけながら、移動先を口にする。

 たったのそれだけで、その人の家からロンドンまで移動できるというのだから便利だ。

 

 加入の仕方がわかったら、ぜったいに自宅でも使えるようにしよう。

 クラリスはそうかたく心に決めた。なにせ、同じ道のりを毎年、ぜんぶで7回も繰り返さなくてはいけないのだ。

 

 民家から飛行しての移動先は、キングスクロス駅の裏側のさびれた場所だった。

 魔法が目については困るから、あえてそういう場所に到着するようにしているのだろう。ロンドンにあるその駅は、マグルでも当たり前に通勤で使うような大きなところだったから。

 

 クラリスが"おばあちゃん"について歩いてゆくと、ほどなくして駅の入り口にたどり着いた。プラットフォームは丸いドーム型の天井になっていて、これまた石造りの柱にホームの番号が振られている。

 ビジネスマンや登校中の学生などがあふれてぞろぞろと行き来しているプラットフォームを、カートにフクロウを載せて歩いていたりしたら、明らかに周囲から浮いてしまう。

 

 どこかのおば様に「あら、どこへお出かけ?鳥を連れている人がいっぱいいるけれど、なにかの大会でもあるの?」なんて話しかけられたらどうするのだろう。

 幸い、通行人はじろじろと2人を見ているものの、なにか話しかけてくる人はいなかった。

 

 ホーム中央の柱の1つ、見た目は壁になっているのに体がぶつからずに通れるところがあった。クラリスは案内してもらえたので迷わず正しいホームにたどり着けたが、マグル生まれの子は迷うかもしれない。

 

 そうして特急を見物し終わったクラリスは、トランクを抱えたままできょろきょろとあたりを見渡してみた。リリーとセブルスがどこかにいるはずだからだ。

 実は、リリーとは『何時に先頭車両のあたりで集まろう』という打ち合わせを済ませているのである。そろそろ約束の時間のはずだった。

 

 ホームはかなりごった返しているので、突っ立ったままだとほかの人にぶつかってしまいそうだ。仕方ないので"おばあちゃん"の促しにしたがって柱に背をあずけようかと移動してみると、人ごみの隙間からリリーの赤毛らしきものがちらりとのぞいた。

 

 リリーは姉と話しているようだった。姉──ペチュニアは険しい表情をしていたし、リリーはなだめるかのような雰囲気だ。

 両親らしき人はそばにはいない。人ごみに紛れてどこかにはぐれてしまったのだろうか?クラリスの目にはそれらしき人はわからなかった。

 

 おばあちゃんに断り、クラリスは2人に割って入るように話しかけにいった。

「リリー!どうかしたの?」

 

 ペチュニアはいかにも『苦手な子に会った』と言わんばかりの表情で、目つきをきつくした。

「あなたには関係ないわ!」と介入を拒絶するペチュニアに対し、リリーは助けがきたかのような目をしている。

リズ(クラリス)。わたし、チュニー(ペチュニア)も学校に通えるようにダンブルドア校長にお願いするつもりなの」

「私は行きたくなんて──ないって──言ってるの!」

 ペチュニアは口を閉じて、唇をぐっと引き結ぶようにした。力をこめすぎて震えている。

 

 以前もリリーは同じことを言っていた。その時は彼女らしい優しさだとクラリスは思ったのだが。

 

(でも、お願いしても……)

 ペチュニア本人がすでに校長先生に手紙を出して断られているのだから、生徒(家族)が直接頼んでも断られるのは間違いないだろう。

 

 ここでリリーに『そんなことをしても無駄よ』と伝えるのが一番はやいが、そうすると本当は行きたいはずのペチュニアがどんな風に感じるだろうか。

 クラリスは意地悪な取引を持ちかけてみることにした。

 

「いいことを考えたわ」

 クラリスは静かな声でペチュニアに言った。「だったら私の代わりに魔法学校に行く?」

 

 ペチュニアは一瞬ほおをほころばせ──うれしく思ってしまったのだろう──、次にそれを恥じたかのように顔をゆがめた。

「べつに……わたしは魔法なんて……」

 ぼそぼそと答える彼女に対し、つづけたクラリスは冷めた口調になった。

 

「……でもね。物事には順番があるわ。

 誰かに何かをもらうなら、あなたも何かを差し出しなさいよ。

──わたしはあなたのパパとママが欲しいわ。わたしね、リリーがきょうだいだったらどんなにいいかってずっと思ってたの。本当よ。その願いがかなうなら……。ええ、リリーやセブルスと同じじゃなくなるのは悲しいけど……魔法が使えなくなってもいい」

 

 魔法があったから2人とこんなに仲良くなれた。それを手放すのはあまりにもさびしい。

 それでも、クラリスは優しくてお金のある両親が欲しかった。そうなったとしてもリリーと姉妹でい続けられるし、セブルスは弟分で変わるわけじゃない。

 

 それに、魔法を使える父親だって幸せなようには見えなかった。いつも赤い顔をして怒っていた記憶しかない。

 魔法があっても幸せとは限らないのだ。生活レベルがエバンズ家くらいあれば、魔法にこだわる必要なんて全くない。

 

 自分だって、家族がなんでもやってくれて、不自由がなくてきれいな生活にずっと憧れていたのだ。もしリリーが男の子だったら結婚したいくらいに。

 

 リリーは『リリーの姉妹になりたい』というクラリスの願望に驚いたようで、弾かれたように顔を上げた。その緑の目にはクラリスの感情がぬけ落ちきっているだろう姿がうつっている。

 

 ペチュニアはそれに気づかない様子で、クラリスに向き合ったまま強い口調で答えた。

「いやよ!どうしてあなたのパパとママのところに行かなきゃいけないのよ」

「わたしにパパとママはいない。きょうだいもいない。

 ちょうどいいじゃない。あなたはわたしより、もっと年上なんだから。

 ……あなた()()にばっかりいい家族がいるなんてずるいわ」

 

 クラリス自身にだってわかっている。

 きっとこれはペチュニアに対しての嫉妬なのだ。

 

 彼女にとって魔法が『焦がれても手に入れられないもの』ならば、クラリスにとっては家族が、両親がそれだった。交換が叶うのならばして欲しかった。

 ペチュニアはどう返事をしていいのかわからないらしい。少し白っぽくなった顔色で口を引き結んだまま、クラリスの方を凝視していた。

 

『自分が持っていなくて、相手が当たり前に持っているもの』を欲しがるのは誰だって同じだ。

 どれだけ欲しがっても手に入らないということも。

 

 恵まれた家族、お金の余裕、能力、容姿。あらゆるものがそうだ。だからクラリスは、"恵まれた家族"と"能力"の交換を要求したのだ。

 ペチュニアにだってクラリスにだって、焦がれても手に入れられないものはある。ペチュニアは今それを()の当たりにしてしまったのだ。

 

 黙りこくってしまった彼女の様子をしり目に、クラリスはリリーの方に向きなおった。

 リリーもまた、どんな言葉をクラリスにかけたらいいのかわからない様子だった。クラリスの視線を受けて、ただ悲しそうにクラリスの両手をつよく握るだけだ。

 

 やがてリリーの両親が戻ってきたし、スクイブの"おばあちゃん"もそばにやってきたので、それからリリーとクラリスがペチュニアと話すことはなかった。

 

「行きましょう、リリー。──もしその気になったなら連絡をちょうだい。やり方を調べておくから」

 しらじらしい笑顔でそう言い残して、クラリスはリリーの手を引いて車両のドアに乗り込んだ。彼女の両親が見える窓際のコンパートメントが、ちょうど空いている。

 

 コンパートメントはそれなりに狭かった。1つ1つがガラスの引き戸で仕切られていて、中に入って正面の壁は大きな窓ガラスになっていた。

 中には、つめれば4人で座れる座席が対面する形で設置されている。子どもなら5人以上もいけそうだ。ベルベットのような生地の青いクッションが座面と高い背当てに張られている。

 

 クラリスはリリーを連れてなかに入り、いちばん窓ぎわの座席に向かいあうようにして腰かけた。

 窓の外には笑顔でリリーに手をふる彼女の両親と、そのとなりに立つ、白っぽくてかたい顔のままのペチュニアが見える。"おばあちゃん"もそのそばに立って、クラリスの方に小さく手を振っていた。

 

 リリーも両親に手をふり返してから、同じく窓の外にほほえんでみせているクラリスを正面から見つめてきた。クラリスが正面から見つめかえすと、言いにくそうに切り出した。

「──あのね、リズ(クラリス)。わたしたち、本当のきょうだいじゃないけれど、ほとんどきょうだいだと思うの。クリスマスもイースターもいっしょにお祝いしてるし、これからだってそうよ。

 でもチュニー(ペチュニア)だって、わたしのきょうだいなのよ。3人姉妹みたいになればいいじゃない。チュニー(ペチュニア)を一人にするようなことは……」

 

「うん……。あの人にはいいパパとママがいるくせに魔法までほしいっていうから、つい」

「大丈夫。ホグワーツでは私をきょうだいだと思っていいの。私たちずっといっしょよ」

 

 リリーの輝くような笑顔につられて、クラリスは「うん」と泣きそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 ごとごとと車輪がレールの上を走る音が床下から響き、時おり車両が大きな音を立てて揺れている。

 大きな窓には、水面に陽光がきらきらとまたたく遠くの湖らしきものやら、レールの両端になにもないような渓谷のあいだやら、今まで3人が見たことのないような美しい景色がつぎつぎに通りすぎて行った。

 

 リリーはペチュニアとのやり取りで少し気落ちしたようで、それらを見てもクラリスやセブルスが話しかけても、どこか晴れない顔のままだ。

 

「──魔法の力をだれかにやるなんてできるわけないだろう」

 ほとんど呆れたようにセブルスが言ってきたので、向かい側の座席に座っていたクラリスは苦笑いを浮かべた。

「だって腹が立つじゃない。ぜったいに手に入らないものがあるのはあの人だけじゃないのに」

 

 セブルスはすでにコンパートメントの外で着替えを済ませていた。自宅から着てこられる服は、いつもの"汚くてちぐはぐな組み合わせのもの"しかない。それを人目に──主にリリーの目につくようなところで着ていたくはなかったのだろう。

 制服をきちんと着こなしていてリリーの隣に座っているセブルスは、貧困地区(スピナーズ・エンド)出身には見えない。

 髪の毛もごわごわしていないし絡まってもいなかった。セブルスは現在にいたるまで、クラリスの家に通うのを母親から()()()られるようなことはなかったのである。

 シャンプーのいい匂いがしようが、痛んだ髪がきれいになろうが、それでなにか言う者は存在しなくなった。長さだけはどうしようもないので、クラリスにあずけていた髪ゴムでまとめていた。

 

 クラリスの家に預けていたセブルスの持ち物は、クラリスの荷物の1つにまとまって入れられていて、今はコンパートメント上部の荷物置き場にある。特急を降りるときに持ち出す予定だった。

 

 リリーはペチュニアの話をなんとか終わりにしたいらしく、クラリスに言った。

「それはもういいじゃない。リズ(クラリス)はわたしの……ほとんどきょうだいなんだから」

「ぼくの妹分でもある」

「あなたが弟の間違いでしょ」

 

 そんな風に3人で話していると、どこからか列車の床板がごとごとと鳴っているのが聞こえた。古い木製なので、痛んでなくとも靴音が響いてしまうようだ。つまり誰かが車両の廊下を移動しているのである。

 3人がなんとなしにそちらに視線をやると、見知った子どもが音を立ててガラス戸に両手を突き出していた。その子は次に、隣に立っている眼鏡の少年の方に顔を向けて「こいつらだよ」と3人を指さした。

 

「シリウス!」

 

 思わず3人が同時に名前を呼ぶと、シリウスはガラスの引き戸を横にすべらせた。

 シリウス側から見ると、リリーとセブルスが左側の座席に、クラリスが右側にそれぞれかけている状態にあたる。

 

 だからシリウスともう一人の男の子は、右側(クラリスの方)に並んで座った。

 

「あれから大丈夫だったのか?」

 セブルスが真っ先にシリウスにたずねた。

 

 というのも、前回の大冒険はシリウスがブラック家を内部告発しようとして起こったことで、いい結果にはうまく結びつかなかったからだ。ブラック家がやろうとした違法取引は、商品(動物たち)が全部"4人の有志"のせいで逃げてしまったので、取引自体がキャンセルになってしまった。

 取引相手の情報もないだろうし、残った重大な事実は『シリウスが家族を告発しようとした』ということだけだった。

 

「お前たちが気にすることじゃない。こうやって学校に入りさえすれば何とかなる」

 

 大丈夫だった、とは言わなかった。

 家族──母親から何かきつく言われたとか罰を受けたとか、何かがあったのかもしれない。それでも喋るつもりがないのだろう。

 

 シリウスはさっさと話題を変えるつもりだったのか、真面目くさった顔で3人に「あー、3人とも」と言った。

「紹介する。こいつはおれの大親友で相棒のジェームズ・ポッターだ」

 

「よろしく」とジェームズを筆頭に全員が自己紹介をし直した。

 クラリスは「自分の苗字はわからないから名前で呼んで」と言った。

 

 全員に順番がまわったところで、ジェームズは丸眼鏡をきらりと光らせた。

「お前がセブルス?」

「そうだ」

 

 ジェームズはハンカチでも噛みしめていそうな表情をしていた。

「この間はシリウスと組んだらしいけど、それはぼくがいなかったから仕方なくだ。

 シリウスの相棒はぼくなんだからな!」

 

 意味がわからないという表情のセブルスに対し、顔を見合わせたシリウスも似たようなものだった。

 

「シリウス……こいつはなにを言ってるんだ?」

「おれもよく……。ヘイ、ジェイミーちゃん?お前っておれが知らないだけで女子だったっけ?」

 

 シリウスによると、女子同士だとなぜか「シリウスのとなりは私よ」「あなたなんかふさわしくないわ」みたいなことが起きるのだが、ジェームズがそんな風に言い出したのは初めてだったらしい。

 

「ここにいるみんなグリフィンドールに入るかもしれないんだから、ここは仲良くするところだろ」

 シリウスがそうたしなめても、ジェームズは「ふん」と口をとがらせてそっぽを向いた。

 

 どうやらこの5人パーティーは前途多難のようである。

 

 残りの4人はどうやってジェームズの機嫌をなおせばいいか見当もつかないまま、困惑した顔を見合わせていた。

 

 

 

 

 




・コンパートメントは映画準拠、ホグワーツのつくりに関してはレガシーと映画と原作とゲームが混ざってる感じで書きます。
 ところで教員塔と各寮ってグリフィンドール以外めっちゃ遠いですよね。寮監は教員塔に住んでるのか、それとも寮塔に住んでるのか?

・RTAは活動報告にいったん上げときました。本編の雰囲気が粉々になってしまうので…。
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