セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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ホグワーツでも独自設定マシマシになります。
明らかなガバが増えると思うので、あったらお知らせください。

12/11追記 さっそくガバ発見!ホグワーツの方が寒かったので修正しました。
2025/4/4 読みやすいよう修正


ホグワーツ低学年編~リリーの大冒険4th 四寮の試練
オープニング(修正済み)


 

 

 

 

1971年 8月某日

 

 

 

(さて……どのように話すべきだろうか)

 薄暗い屋敷の廊下を歩きながら、ルシウス・マルフォイ2世はこれから行われる打ち合わせについて考えをめぐらせていた。

 ウィルトシャー州にある、彼が居住している屋敷は窓から入る光も弱く、石づくりの冷たい床の感触が靴底にへばりつくようであった。

 

 ホグワーツ魔法魔術学校が夏季休暇に入ってから、彼は久方ぶりに故郷の邸宅に戻っていた。

 帰った当初は屋敷のそこかしこに懐かしさがあった。あるいは前回のイースター休暇での記憶と、新たに加えられたものの差異を楽しむこともできた。しかし数日も経つ頃には目新しさも失せるのだから不思議なものだ。

 

 16歳のルシウスは今も上質な生地で仕立てられた、長めの上衣を身に着けていた。一年を通して雨が多く、夏でも最高気温が20℃前後にしかならない地域なので、夏に帰郷しても結局上着が手放せない。冷たい印象のプラチナブロンドの髪と相まって、彼の姿を目撃した者はいっそう寒々しい雰囲気を感じとることだろう。

 これでも学校よりはまだ温暖なはずだが、あまりそう感じないのは学校ではたいてい誰か生徒を連れているからかもしれない。

 

 マルフォイ家はブラック家よりも(くらい)がひくい貴族の旧家である。とはいえ"王族"を自称できるブラック家と先祖から姻戚(いんせき)関係があるので、その差はほとんどわずかだといえた。

 ブラック家もそうだが、貴族は『これまで受け継いだ莫大(ばくだい)なものを、いかに次代へロスなくつなぐか』を考えながら生きる種族だ。マグル的にいえば『国策にかかわるような関連企業を大量にもつ財閥が、それらを不況だなんだという言い訳でつぶすことが許されない』ということである。必ず社会に混乱が起きてしまうからだ。たとえば銀行がつぶれれば、給料を入れる口座をもつ一般大衆にも、莫大(ばくだい)な金額を左右する投資家にも、予算で動いているイギリス政府にも影響が出る。

 

 継いだ家を存続させるために、魔法界における旧家はみな"血の保存"がもはや義務であるといえた。次の代を、さらに次の代につなげられるように婚姻(こんいん)相手を選ぶ。財産を自分のことばかりにつぎ込むような下賤(げせん)なものでなく、貴族の義務を理解できる者でなくてはいけない。──ゆえに下層階級から相手を選ぶことは少ない。

 よほどの手腕で()()()()()()やり手のCEOであっても、その周囲にいる人間が金をむしり取りたいだけのハゲタカでは困るのだ。

 

 自分たちと同じ価値観を確実に共有できる相手を選びたい。責務を果たすのもそうだが、自身が幸福であるために。

 

──要するにそれらの価値観は『闇の帝王がかかげる"純血主義"』とばつぐんに相性が良かったのである。

 自分たちが支配者になれば、たとえば次代へ引き継ぐために障害となる競争相手がいなくなる。

 それゆえに昨年の宣戦布告よりも以前から、ブラック家もマルフォイ家も闇の帝王を援助、あるいは従者として動き続けてきた。

 

 

 

 ルシウスが呼び出された父親の執務室の前にたどりつくと、『入りなさい』とうなるような男性の声がした。ドアノッカーのように扉にはりついていた銀の彫刻がしゃべったのである。彫刻のすぐそばに掲げられたプレートには"執務室"と刻まれている。

 日常のことなので感慨もなにもない。

 

 ルシウスがそのままドアを開けて入室すると、中の人物と目が合った。銅のような明るい髪色の壮年(そうねん)の男性である。彼は報告書の束を、正面奥にある両袖の執務机の上に置いたところだった。

 何の案件だろうか。いくつか心当たりを探りながら、ルシウスは奥のガラス戸に目を凝らしてみた。

 男性の背後にある背の高い本棚には、革のケースに仕舞われた報告書がみっちり詰まっている。空いている隙間の位置からして、傘下の企業経営にかかわるものだろう。

(……詳細をうかがうわけにもいかないな)

 戦争に関係のない話題はいまは避けたいところだ。

 

 室内にいたのは男性と自分だけではなかったからだ。当主の執務机よりも手前(入り口)側にもう1つデスクが置かれていて、そこには黒いローブを身にまとった人物がいた。何かしらの書類仕事を任されているらしい。仕草がまったく貴族的でなく目つきのするどい、胡乱な存在だった。

 

 戦争がはじまる前からマルフォイ家の屋敷は死喰い人(デスイーター)の活動拠点のひとつとなっていた。

 歴史をたどると前当主、つまりルシウスの祖父にあたる時代から彼らの後援をはじめた。現当主(父親)の頃には時おり屋敷のなかで集会が行われるようになり、ルシウスがホグワーツに入学するくらいのタイミングで正式な活動拠点となった。

 ゆえにその頃から誰かしら闇の帝王の信奉者なり、死喰い人(デスイーター)なり、純血主義の貴族なりが出入りするようになった。つまり父親との会話は秘匿(ひとく)されることはなく、裏切りととられかねない言動はすべて帝王に筒抜けになると考えていい。

 

「次年度の打ち合わせでお間違いはないですか、父上」

 ルシウスは執務机の前に立って、そう尋ねた。

 

 机をはさんで向かい合った父親は、ちらりと同室の人物に目をやってからうなずいた。彼こそがマルフォイ家現当主──名前をアブラクサス・マルフォイといった。

 

 彼らにできるのは打ち解けた親子の会話ではない。だから父親はワークチェアに背をあずけるようにして、形式ばった顔で言った。

「次年度の前に、今年度のことを評価せねば。先日も卒業生が"後援組織"の輪に加わり、わが君はたいそうお喜びになっておられた。私もお前が監督生としてスリザリン寮を掌握していることを誇りに思う」

「身に余る光栄ですね、父上……」

 ルシウスもまたどこかそらぞらしく慇懃(いんぎん)な返答をする。彼らの会話にはある種の緊張感がただよっているのが(つね)となってしまった。

 

「むろん、そこで満足してはならぬぞ。死喰い人は帝王に選ばれし従者ゆえ、お前の"教育"した卒業生から選抜されてこそ、まことのお役に立てたと言える。まだまだ先は長い。なに、戦場で前線に立てぬことを悔しく思う必要はない。お前はすでに学内での最前線に立っているといえるのだからな」

 父親の発言の意味は、ルシウスにはこう解釈するのが正解だと思われた。

『お前の方針は引き続き変わらない。"死喰い人"という前線に配されないよう、学内で帝王の信奉者(しんぽうしゃ)を増やし、彼らを死喰い人に押し上げることでマルフォイ家の権力を確保せよ』。

「わたしが監督生として寮をまとめている限りは身を尽くします」

 ルシウスは冷笑ともとれそうなほど()()()()と笑んだ。

 

 彼ら親子は戦争前から情勢を見据え、どう意思を疎通(そつう)するかをあらかじめ訓練してきた。本格的に帝王の"監視"を受ける立場になる前からの話である。こうした"迂遠(うえん)な発言"をうまく読み取ることに慣れておかなければ、最悪の場合は首を落とされてしまうかもしれないからだ。

 そのためルシウスもまた、年齢に見合わないほどに貴族然としたふるまいを学ばざるをえなかった。うまく建前と方便を使い、監視を受けながらも情勢がどう転んでいいように網をはる。甘やかされて育てられていては手に入らない能力だった。

 

 ルシウスは次年度中に成人(17歳)となるため、父親が彼に伝えておくべきことは沢山ある。たとえば闇の帝王が『息子を当主にした方が操りやすい』と判断した場合、父親の身に危険なことがないとは言い切れなかった。なにか闇の帝王の気に入らない失態を犯した場合などもそうだ。

 

 父親は続けて言った。

「お前が卒業した後も"教育"の経験はお前の役に立つだろう。お前1人が忠実なる従者となるよりも、2人でも3人でも忠実な従者を増やす方がよほど重要だと、わが君もお考えになるはずだ。

(卒業してからも自らが死喰い人になるよりも、死喰い人を増やすという方便を使い、前線には立つな)」

「承知しております」とルシウスは頷いた。

 彼ら親子にとって帝王は敬愛はすれども尊崇(そんすう)をささげる対象ではない。帝王につくのは貴族として生き残るための手段というのが理由の多くを占めていた。自分が死喰い人にされる機会など少なければ少ないほど良いに決まっている。

 

「──ただ、次年度には懸念事項がひとつ……」

「重々承知しているとも。ブラック家のことだろう、次の9月に入学する。次期当主(シリウス・ブラック)はどうにも……高貴な血筋を濃く継いでおきながらブラック家には反抗的だと聞く。

 親戚(しんせき)姻戚(いんせき)のほとんど全てがスリザリン寮へ組み分けされているからには、彼もスリザリン寮に組み分けされる可能性が高いが……。

 そうなった暁には、お前の方針とは相いれぬだろう」

 父親はじっとルシウスの目をのぞきこむようにした。自分の意がしっかりと伝わることを期待している為だろうか。

 

 マルフォイ家はつねに生き残りを考えている。現在のマルフォイ家の方針に沿うものと沿わぬものがいるのならば、上手いことその両方に手を伸ばすのが彼らにとっての最上の結果となる。そしてブラック家の2人の息子は、わかりやすい最たる例だった。

 つまり、シリウスとレギュラスで方針や陣営が割れるのであれば、その両方に食い込めるようにするのが最も良い。

 とはいえ、そんなことを大っぴらに発言をしてしまえば、帝王への裏切りをそそのかしたと思われてしまうわけである。息子としては、その意を可能な限り正確に把握しうまく行動にうつせるように努力するしかない。

 

「弟御はどうだ?ヴァルブルガ夫人の話では貴族としての責務をよくわきまえていると」

 大人たちの社交のあいだ、子どもは子どもで付き合いというものがある。子どもでしかわからない、独特のルールだ。ルシウスの見る限り次期当主(シリウス)は嫌がって抜けだすことも多いが、レギュラス・ブラックは違っていた。

「わたしの知りうる限りでも、彼は我々と共にあるように思います。純血を残すという意味を深く理解し、闇の帝王の思想に……ええ、どっぷりと……失礼、とても深く共感しています」

 ルシウスは気取った風にそう話しつつも、"ブラック家の純血主義思想"を馬鹿にしているのを隠しきれていなかった。帝王に従うのは生き残るための手段の1つにすぎないのに、ブラック家はあまりに固執(こしつ)しすぎなのだ。帝王が敗北したとしてもうまく手を引けるようには見えない。そのまま心中してしまいそうだ。

 

 ルシウスは続けて言った。

「レギュラス・ブラックが次期当主ならば、わたしが上級生として教育させていただくのですが。いずれ監督生を彼がとれるように」

「そうするといい。まずはこの1年、お前が監督生をはく奪されるようなへまをしないことだ。

 その次の9月、レギュラス・ブラックの入学に合わせ、彼が次の監督生となるようお前がじきじきに教育を施せ」

「それはつまり……『いずれシリウス・ブラックを追い落とせ』と」

 

 ルシウスが父親の意を確認すると、アブラクサスは並びの良い歯を見せて笑い、低い声で言った。

「責務を果たせぬ次期当主など帝王はお望みではない(これは帝王の方針の話であって、マルフォイ家としてのことではない)。しかし帝王はブラック家の離反も決して許さぬだろう。最大の支援者だからな。ならばシリウス・ブラックは邪魔だ」

「つまり……」

 

「まとめると、こうだ。

 シリウス・ブラックにはこの一年でせいぜい反抗してもらう。

 現時点でも彼に反感を持つものは多いはずだ。特に身分がたかく、重い責務をその身に負うものにとって、それらの全てを放棄する者など許せないだろう。

 お前はそうした反感勢をまとめあげ、次の年にはレギュラス・ブラックを頭目として動くように"教育"を施すのだ。いずれ弟の方がスラグホーン教授の目にかない、監督生になるように。

(この方法で彼らにマルフォイ家の影響力を残せ。しかしこれは闇の帝王向きの行動だ。可能ならばシリウスとも何かパイプがあると良い)」

 ルシウスもまた、しばらく父親の目を見つめてから、短く「はい」と返答した。言葉の裏の指示まで承知したという意味をこめて。

 

 満足そうに小さく顎を引いた父親に、ルシウスは笑みを深くして見せてから、次の議題を投げかけた。

「エイダはどうされますか。同じ方針を今年も継続させる……という形でよろしいので?」

「わが君は我々による死喰い人への教育に大いに期待されている。しかし部下の進歩がないのを嫌うお方だ。エイダにはそろそろ成果を出してもらう必要がある」

「──ならば、まさか校長先生の暗殺を?」

 できるわけがない。偉大で強力な魔法つかいであるダンブルドアには、闇の帝王でも勝てていないのだから。

 ルシウスは顔のどこか、たとえば眉とか口元だとかが歪みそうになるのを懸命にこらえるしかなかった。

 

「わが君が暗殺をお命じになることはない。何せじきじきに戦場で正面からダンブルドアを打ち破ることをご所望だからな」

 その意図はルシウスにも理解できる。おそらくは騎士団員の反抗の意志をくじくためだろう。

「エイダに求められるのは“暗殺”ではなく“追放”だ。

 ダンブルドアをホグワーツから追放することこそが、我々に求められる最上の成果となる。そうすればお前がほどこす"教育"にも障害がなくなるだろう」

 

 "追放"でも、そんな簡単にできてたまるか。

 ルシウスの眉間にひきつったような皺がふかく刻まれた。

 "暗殺"をエベレストへの登山とするならば、"追放"は同じヒマラヤ山系の別の山に登るようなものだ。どちらにせよ標高が高すぎる。実行するのは貴族とはいえ16~17歳の子どもだというのに。

 

 アブラクサスも言っていることの無茶は重々承知なのだろう。ふっと柔らかい笑みを口端に見せながら、執務机の引き出しを1つ開けた。

「暗殺よりはたやすいやもしれんが、それでも学生には荷が重かろう。そこで、ひとつ面白い道具を手に入れた」

 取り出されたのは羊皮紙の巻物だった。はた目には学生が提出するレポートと見分けがつかない。革紐のようなものでまとめられ、封蝋のようなもので留められているようだった。封蝋にはホグワーツの学校章……つまり4匹の動物が描かれた盾のような文様がされていた。

「剝がしてみろ」

 命じられた通りにルシウスは封蝋を引っ張ってみたが、剥がれる気配はなかった。思いきり力をこめても羊皮紙すら破れもしない。呪文で熱してみても同じだった。

「開かないだろう。

 言い伝えによると、ホグワーツ内でのみ封を剥がせるそうだ。死んだ混血の家から見つかったもので詳細はわからなかった。なにしろ200年以上前に手に入れた家宝らしいからな。"これ"がどんな効果をおよぼすものなのか、何に使われるものなのかを知っている者は見当たらなかった。社交界に参加した貴族にもだ」

 

 アブラクサスは改めて指令を伝えた。

「この道具の正体を探り、それがダンブルドアを出し抜けるものならばお前が手に入れろ。使えぬものならばエイダにでもくれてやれば良い。金子(きんす)くらいにはなる。

 目標は校長の追放だ。わかったな」

 なんて無茶な、という感想はおもてには出さない。

 ルシウスはただ、胸に手をあてて優雅にこうべを垂れた。

「承知しました、父上」

 

 

 

 

 

 




マルフォイ家の屋敷を確認しようと死の秘宝を見直したのですが、暗くてよくわからなかったですね…。

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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