セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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・しばらく週一更新にします。
・今回短いです。みなさまメリークリスマス。
 おかしな文章があったので修正しました。
・12/27 短すぎる話などを編集ずみ
(内容に変更はありません)

・2025/4/12
一部文言を修正・追加しました


スリザリン寮1(修正済み)

 

 

 

 

「朝食に出る前に身なりはきちんとしておくんだ」

 

 マルフォイにつけられた上級生ともう一人べつの上級生がそう命じてくるのを、セブルスは寝起きでやや据わった目つきのままで聞いた。

 

 部屋の新入生がまだ全員寝付いているような早朝、2人の上級生は無遠慮に入って来て起床を命じたのである。

 

 部屋は学年ごとに分かれているようで、4人の新入生が1室を使う形になっていた。トーマスはともかく、残りの2人がどんな人物だったかはセブルスも覚えていない。昨晩は薄暗くて時刻も遅かったので、新入生4人は同じ部屋の住人となる生徒とほとんど話すこともなく、すぐに自分の荷物が運ばれている寝台に飛び込んだためだ。

 

(すそ)がはみ出しているぞ」

 上級生に言われたトーマスが、あわててシャツを引っ張ったのが見えた。

 

 

 

 身だしなみを整え、最後に4人全員が上級生のチェックを受けた。足りないところは上級生が指摘し、それが済むとようやく寮の外に案内された。

 

 スリザリン寮の特色のひとつに『結束がかたい』というのがあるが、こういうことを指すのかもしれない。

 

(……ずっとこうやって付きっ切りなのか?)

 

 大広間へ向かうルートを、目印をまじえて上級生に案内されながらセブルスは渋面をうかべた。このままでいたらまずいのではないか、という嫌な予感がする。

 

 ひとまずは傍らの茶色っぽい少年に話しかけてみることにした。

「ヤックスリー。君は遠くから来たって言ってたけど、イギリス魔法界のことは詳しいのか?」

 

「あー、ぼくは……」と彼は少し言いよどんでから言った。

「ちょっと前まで海外に住んでたんだよ。だから英国のことはちょっと」

 

 しめた、とセブルスは内心で思った。自分だけがわからなくて誰かに尋ねるのはなんとなく嫌だが、2人とも知らないのなら都合がいい。

「今日は9月2日だから……木曜日か。今日のはどんな授業なんですか?」

 セブルスは上級生の方を振り仰いでそう尋ねた。時間割を眺めて科目の名前を見ても、それがどんな授業なのかがよくわからなかったからだ。

 

「これはね」と説明を始めた上級生は、怪しげなフード姿とは裏腹に優し気な語り口調だった。顔はよく見えないのでどんな気持ちでいるのかはさっぱりわからない。

 

(なんで雨や雪でもないのにずっとフードをかぶったままなんだろう)

 

 そんな疑問を頭にうかべているセブルスには、上級生はなにも気づいていない様子だった。

 

 彼はトーマスとセブルスにいくらかアドバイスをした。「変身術は先生が厳しいから予習とか宿題はきちんとした方がいいよ」「魔法薬学は寮監だけど材料をちょろまかしたりはしない方がいいよ。けっこう厳しく叱られるから」

「興味がある教科は力を入れて勉強した方がいいよ。将来つける仕事は、上級生になってからのテストの結果にかなり左右されるから。たとえばここに書いてある薬草学や魔法薬学なんかは、病院で働きたいなら高得点じゃないと厳しいからね」

 

 トーマスは「ぼくは呪文学とか防衛術とか、杖を使う授業がいいなあ。せっかく買ったんだから」と言いながら、つるっとした石の階段をゆっくりと上がっていた。

 

「杖はいろいろな授業で使うよ。どれも魔法の力が必要だからね。薬草学や飼育学なんかはあんまり使わないけど。逆に暗記するテストの方がつらいかもしれないね」

 

 

 

 上級生が開いた、天井まで届きそうな大扉を通り抜けると、セブルスの視界に見知った2人が入った。大広間の入り口わき、各テーブルに分かれる手前側だ。

 

 何名かの生徒は──けっこう背の高い生徒までが、何人もそうやって知り合いを待っているようだった。同じ寮の生徒なら談話室で待つだろうから、おそらくは他の寮の生徒に用事があるのだろう。──ただ、見たところ緑色のカラーはいないようだった。

 

「セブ!」

 真っ先にリリーが呼びかけて、小走りでセブルスの前に立った。クラリスといっしょに。

 

 リリーのローブの赤いワッペンと、クラリスの黄色のそれ、そしてセブルス自身の緑色のそれ。こうして集まると3人ともが別々の寮に入ってしまったのだとはっきりわかってしまう。

 セブルスはここまで同行した寮生2人の方にちらりと目をやってから、リリーの方に向き直った。

 

 

 リリーはなんだか興奮しているように目を輝かせている。

「おはよう。……なんだか久しぶりに会ったみたいな感じだ」

「ね。初めてのことばかりだったからかしら」

 リリーがグリフィンドール寮のテーブルに行かず、わざわざ話そうと待っていてくれたことが嬉しくて、セブルスは自然とほおをゆるめた。

 

「グリフィンドール寮はどんな感じなんだ?」

「グリフィンドール塔というのがあるの。8階に"太った貴婦人"っていう肖像画があって、絵の裏に入り口があって。合言葉を言うと開けてくれるの」

 

 リリーはグリフィンドール寮の中がどんな風だったか説明した。中に談話室と、トイレやバスタブ付きのシャワールームに、寝室があるという基本的な設備は同じようだ。

 

「ねえ、ハッフルパフの寮はどんな感じ?」

 リリーが話しかけると、クラリスの複雑な色彩の髪がふわりとゆれた。振り返ったクラリスはにこりと笑った顔をしている。彼女はいつの間にか、トーマスやスリザリン上級生と、リリーやセブルスを隔てるかのように立っていたのだ。

 

 スリザリン生2名はテーブルに先についたわけではなかった。黙って様子を見守ってはいるものの、眉根に深いしわが刻まれている。どうやらセブルスが他寮の生徒と交流するのは歓迎されていないらしい。

 

「ハッフルパフ寮はね」とクラリスは普段通りに話し始めた。

 

「大広間に割と近いわね。地下の階段を降りると食材とかワイン樽が置いてある倉庫があるの。大きなワイン樽を決まったリズムでたたいたら扉が出てくるわ」

 

「決まったリズム?」

「そう。どんな風にするかは内緒にしておくように言われてるの。グリフィンドール寮の合言葉みたいなものだから。中も似たような感じ」

 

「スリザリン寮も似たような感じだ。地下の壁の前で合言葉を言うと、隠し扉が出てくる」

 セブルスもまた昨日みた寮の様子を説明した。上級生たちのことも。

 

「──どの上級生が新入生の面倒をみるか決められて、今朝も起きてからずっと3人1組で動いてるんだ」

 

 クラリスはそれを聞くと、2人だけに聞こえるよう声を低めた。

「ねえリリー。さっきのシリウスの話をもう1回して」

「……そうね。昨日シリウスから聞いたの。死喰い人(デスイーター)のうわさがある貴族の話」

 

 そう前置きをしてからリリーもひそひそ声で話し始めた。内容は『現在スリザリン寮にいる要注意貴族について』だ。

 

 シリウスが見知った顔はマルフォイ家だけではない。いくつもの貴族と、その主要な部下くらいなら頭に入っているのだという。それ以外の純血主義一般家庭に関しては、よほどの要注意人物だけを知っているということだった。

 

 リリーは昨夜グリフィンドール寮に行ってから、詳しく教えてくれるようにシリウスに頼み込んだのだった。「セブルスに知らせたい」と言うと、隣にいたジェームズはいい顔をしなかったが、リリーが説得をした。

 

「私たちの親友なのよ。そうやって放っておいて、本当に死喰い人(デスイーター)になっちゃったらどうするつもり?それに、シリウスが知ってるってことはほかの貴族だって知ってることなんでしょ。だったら私たちが知ったって問題ないじゃない」といった具合に。

 

 リリーはノートの切れ端をセブルスに差し出した。

「これがそのメモ。こっち側は戦争に参加していなさそうな人なんだって」

 

「私にも見せて」

 クラリスが不意にそう言ってから、2人の背中から回り込むように立つ場所を変えた。

 

「こうすればスリザリンのテーブルからは見えないわ」

 彼女は眉をハの字にしていた。『どこに犯罪者集団がいるのかわからないから』と気を張っているようで、かたい顔のままでクラリスはつづけた。

 

「このリストも100%正しいわけじゃない。ここに載っていないひとがとんでもないことをしてることだってあり得るわ。だから何かあったら知らせて。私たちも何かあったら知らせる。私たちの寮にだって変な上級生が紛れ込んでいないとは言い切れないでしょう」

 

「……わかった」

 ほかの人には見えないよう、セブルスはメモを受け取るとすぐにふところに仕舞った。

 

 リリーは悲しそうにふうっとため息をついた。

「魔法界ってもっと……楽しいところだと思ってた。なんだか残念ね」

 

 セブルスもまた同じように思っていた。戦争がどうとか『犯罪者が同じ寮の生徒の家族にいるかも』だとかを知らなければ、はじめての授業の日にこんな暗い顔をつき合わせずに済んだのに。セブルスがスリザリン寮を蹴っていればもう少しはマシだったかもしれないが、その選択肢はとれなかった。

 

 クラリスは神妙な顔をするのをやめて、リリーとセブルスの肩をたたいた。少しぎこちないが笑顔をつくっているようだった。

 

「私たちが仲間で良かったわね。なにがあっても味方よ。そうでしょ、2人とも」

 3人ともが、目くばせし合ってからはっきりとうなずいた。

 

 

 

 

「集団行動で一人が抜け出すとほかのメンバーに迷惑がかかるだろう」

 

 フードの上級生の咎めるような小言を聞かされながら朝食を済ませ、スリザリン寮生の3人は再び割り当てられた自室に戻った。上級生は明らかに『注意している』という話し方で、行きと違って口数が少なかった。話すよりも靴音の方を聞いていたことの方が多かった気がする。

 

 セブルスは冷ややかな目で上級生を見ていた。

(スリザリン生と集団行動していないタイミングなんてあるのか?)

 

 彼の言葉に従っていたら、今後スリザリン生といるときは他寮の生徒といっさい話せなくなってしまう。そんなことは避けたかった。

 

「──さあ、午前中の授業で必要なものを用意するんだ」

 

 上級生はかたい声のままだった。セブルスもトーマスも大人しく返事をして指示通りに支度をした。教科書や羽ペンなどの授業道具をまとめる。各授業でどんな道具を使うかは上級生にきけばわかるので、上級生が新入生を受け持つこと自体は効率的だ。少なくとも、質問を無視されるようなことはなかった。

「インクをちゃんと持って」とトーマスは忘れ物を注意されていた。

 

 おおかたの準備ができて談話室まで階段を下りると、フードの上級生は出入り口でない方に足を向けた。

 

「これから教室の場所まで君たちを連れて行く。案内がないと迷子になってしまうからね。──でも、その前に少し時間をもらうよ」

 

 談話室の奥、ホグワーツ湖の中がうかがえる大きな窓の近くまで2人は連れて行かれた。そのまま上級生は2人をソファに座らせて杖を振る。

 すると誰も使っていない1人かけソファがふわりと浮かんで近くにやってきたので、彼はそこに腰かけた。

 

 談話室のなかには他にも生徒たちがいて、その学年もグループもさまざまだった。見覚えのある新入生らしき生徒や体格の大きい上級生がいた。ただ、誰もが誰かとグループになっていて、一人でいる生徒の姿はない。

 

「さて……」と上級生は考え込むようにあごに手をやってから、話し始めた。

 

「まずは昨夜の監督生あいさつを思い出してほしい。入ってきたばかりの生徒はまだわからなくても仕方ないけど、我々はエリートなんだ」

 

 セブルスは内心で『母親もそんなことを言っていたな』と思い返していた。しかし、クラリスに見せてもらった冊子には"エリート"の文字はなかったはずだ。"実力主義"などとは書いてあったが、それは能力でひとを評価するタイプの人間という意味であって、自分の能力が高いという意味ではない。

 

 上級生はしばらく2人の顔を見てから、話をつづけた。

 

「スリザリン寮は他とは抜きんでていることが求められる。能力の上でも、実績の上でもね。守るべき血筋をもつ高貴な家の寮だからね、選ばれた者だと言ってもいい。それ以外の者を導くことが求められるんだ。当然、周りよりできて当たり前なんだ。我々は"穢れた血"ではないから」

 

 どうやら『血に穢れがない=実力がある』というのが純血主義の考え方らしい。彼らの考えに照らせばリリーやクラリスよりもセブルスの方が能力や才能をもっていることになる。

 

(そんなこと、あるわけない)

 もしもセブルスの能力が抜きんでているなら、何かトラブルがあったときに2人に相談をせずに解決できていたはずだ。

 

「誰しも、隣の芝は青い(The allure of the distant is always stronger(手の届かないものがひどく魅力的に見える))ものだよ。自分の持っていないものをうらやんだって仕方がない。別の寮のワッペンとかね。

──友だちや手本とすべき上級生は、スリザリン寮のなかで探すべきだ」

 上級生ははっきりとそう言った。やはり他の寮との付き合いを止めさせたいらしい。

 

「どうにも他の魔法族はそれを理解していないようでね。特にグリフィンドールの連中は、我々が特権を振りかざしているのだと目の敵にしている。血を守るという意味を理解していないんだ。マグル生まれや()()()()()と混血の連中が多いからね。聖28一族のウィーズリー家なんかは純血主義を完ぺきに捨てることにしたらしい。愚かしいことだ」

 

 隣に座っているトーマスも大人しく話を聞いていて、その表情は小言を聞き流しているようにも、素直に受け入れているようにも見える。

 

「血を守るという意味を考えれば半人間なんてもっとダメなのはわかるだろう。たとえ人間同士でも"泥血"になるから血を交わらせないというのに、人間ですらない血を入れるなんて『おぞましい』ことだ。屋敷しもべ妖精と結婚したいという人間がいるか?言葉をかわせるからと言って動物をヒトと同じように扱っていいものじゃない。本来ならば学校に足をふみ入れていいような知的な生物じゃない。それは純血じゃない魔法族でも同じだけどね」

 

 ぴきり、とセブルスの眉間に青筋が浮いた。上級生がわざとリリーやクラリスのことをあてこすって言っているのは明白だった。

 

(何も知らないくせに……!)

 2人と知り合ってから今日まで、一年以上の期間で起こったことがいっぺんに頭のなかに浮かんだ。

 

(お前たちや()()()()貴族さまが、これまでのぼくの何を助けてくれたっていうんだ……!)

 はらわたが煮えくり返るとはこのことだ。

 

 自分たちはこれまでずっと協力して、助け合ってなんとかやってきたのだ。この上級生の発言はそれらを全て否定したのに等しかった。

 

 上級生の見下したような声色には聞き覚えがある。地元のくだらないマグル──ペチュニアのような──が初めの頃にセブルスにしていたような不快な言い方だった。

 

(こんなやつ、ぜったいに信用しない)

 

 反感が顔に出ていたのだろう、上級生は(フードに隠れていて顔はよく見えないが)口元をつり上げて見せた。

「なにかな、"ハーフ・プリンス"くん」

──これは絶対にバカにされている。

 

 セブルスは気おされないように眉間に力をこめて上級生を見やった。

「いいえ。マルフォイ監督生を手本とすれば……、きっと監督生ならかんたんに解決できることばかりなんだろうなあと思って」

 

 たとえばあの誘拐事件なんかもさぞ簡単に解決できたんだろう。家格が上で『スリザリン寮に入れ』と言われていたシリウスでも一人では解決できなかったが。

 

 相手が上級生でなければもっと嫌味を言ってやりたいくらいだった。『ご立派な貴族を手本にすべきというのならば、シリウスのやることに従うのが一番ふさわしいんだろう?』とかなんとか。危険人物がどこかにいるかもしれないとわかっていなかったら言っていたかもしれない。

 

 セブルスの刺々しさがにじみ出るしゃべり方に、上級生は冷徹な声で返答した。

「監督生の能力に疑問でも?」

 

「そんなことは言っていません」

 言ったのは皮肉である。監督生の能力に疑問がある──つまり『無能だろう』などと考えているわけではなかった。

 

 実際にいろいろ取り仕切っていたのは女性の監督生だったから、家格だけで能力がないということもあり得る。それでも新入生であるセブルスよりも下ということはないはずだ。彼の方が遥かに実力をもっているのは確かだろう。

 死喰い人(デスイーター)かもしれないと聞いては、なおさら『高い能力を持っているかもしれない』と気にかけるくらいでちょうどいい。

 

「──きみはどう思う?ヤックスリー」

 

 上級生に突然水を向けられて、トーマスはあたふたとしていた。

「あ、ええと……。ぼくらはまだ入ったばかりだし、これから……あー。心からわかると思います。ね、そうだろ」

 

「おそらくね」

 セブルスは全くこれっぽっちも心のこもっていない返答をした。上級生は何を考えているのか、聞き分けのない子どもを諭すように言った。

 

「本来ならば純血以外の魔法族がホグワーツに入ってくること自体がおかしいんだよ。真のスリザリン生ならみんながそう言う。なにせ、かつてのサラザール・スリザリンがそれを望んだからね。マグル生まれもマグル育ちもそれまで生きてきた場所に染まっている。それは魔法界に入った後だって完ぺきに拭い去れるわけじゃない。それは清浄な"魔法界"に毒を持ち込むのと同じことなんだよ」

 

 周囲の寮生はみな、この"指導"に対してなにか言うつもりはないようだった。ちらりと視線をよこすものの、何か仲間うちでこっそりと話をしている。

 

 上級生は最後にすごむような、それでいて言い聞かせるかのような静かな声でこう言った。

 

「半純血はあやまちを特別にゆるされただけで、純血の"おこぼれ"でここにいられるのだと自覚することだ」

 

 

 

 

 

1972年9月2日

 

 

 1日目は上級生の案内で道を覚え、授業を受け、また次の教室の場所を覚え……という繰り返しだった。

 

 上級生は最初の授業の教室にセブルスとトーマスを連れて行ったあと、自分の授業の教室まで急いで出て行った。途中でほかの上級生グループとも合流したので、教室の中に入れるようになった頃には新入生同士でかたまって、列をつくりながらしゃべっていた。

 

 上級生が教えてくれた道はほかの教科の移動でも使える基本的なもので、それに慣れたらショートカットがきく秘密の通路を教えてくれるらしい。たとえば一点をくすぐり続けなければ開かないドアなんかは、あけるのに時間がかかりすぎる。

 

 そういう特殊なものに手を出すのは、教室の大まかな方向や場所を覚えてからでも遅くないというのが上級生の説明だった。授業前後の時間帯、出入りの生徒が多いメインとなる扉はそもそも開きっぱなしであることも多い──ひっきりなしに通る生徒がいるからだった。

 そういった要所を最初におさえておけばいいという、実に効率的なやり方だった。

 

 秘密の通路がそんなにあって、なおかつスリザリン生がいくつも把握しているのであれば、他の生徒の目につかないような移動ルートを知っていてもおかしくはない。

 

 そうやってひとつ授業が終わったら、担当上級生が迎えに来るのを待って、また指示に従って次の教室へ連れて行かれ、上級生は自分の授業に向かう。

 

 午前の授業が終わったらまた上級生に寮、もしくは大広間まで連れて行かれ、食事の後に午後の教室へ……と頭につめこまなくてはいけないことが多すぎた。

 その上、遅刻しないようにと足早に移動したので、一日が終わるころにはセブルスもトーマスもへとへとになっていた。

 

 だから部屋に戻り、入浴をしたらそれだけで眠気がやってきていた。どうにか相部屋の残り2人の生徒と自己紹介くらいはしたが、彼らにしてもへとへとのようで、みんな早々に自分の寝台に引っ込んでいた。

 

 セブルスもまた、まぶたが重くなってきたので、どうにか寝台のカーテン(高級そうな天蓋の枠に吊られている)を閉めた。

 

 来週の授業まで道順を覚えていられる自信はない。教室の場所は教科ごとに違っていたので、道順を思い出そうにもそれが最初の授業のときのものだったのか、それとも最後の授業のときのものだったのかがあやふやになっていた。

 

(そういえば……)

 寝入るつもりで目を閉じていて不意に思い出した。

 

 学校のあちこちで他の寮の生徒を見かけることは(当然ながら)たびたびあった。しかしリリーもクラリスも見かけることはなく、結局話せたのはあの朝食のときだけだ。

 

 昼食や夕食のときには大広間で見かけたが、すでに自分たちの寮のテーブルについていた。その席の近くにはシリウスもいて何とも言えない渋い表情をこちらに向けていた。2人に何事か言われて肩をすくめていたので(たしな)められでもしたのだろうか。ジェームズ・ポッターに至ってはほとんど睨みつけるような目つきをしてきた。お前にそんな風にされる覚えなんてないぞ。

 リリーは手くらいは振ってくれたが、話すことは叶わなかった。

 

(もしかして)

 あの上級生は、わざと食事の時間ぎりぎりにトーマスやセブルスを案内したのかもしれない。その証拠に、リリーもクラリスも先に食事を済ませて大広間を出て行くのが見えたし、自分たちは急いで食事を済ませて授業に行かなくてはいけないようなおかしなスケジュールだった。

 

(もしこのままなら、なにかやり方を考えないと)

 このまま会うことすらできない状態ではいたくない。

 

 さしあたっては合同授業を狙うくらいだろうか。授業中なら上級生も手は出せないだろう。あとは早朝や放課後ならば隙が見つかるかもしれない。

 

 合同授業以外の他の寮の時間割は正確にはわからないから、いずれリリーとクラリスには聞いておかないといけない。

 

 なんにせよ、とにかく道を覚えてしまわないことには抜け出せない。

 

 

 

 どうやらすべきことは沢山あるようだった。

 

 

 

 




『ス』つくキャラ多いな。
セブルス、シリウス、クラリス、トーマスといるから、トーマス君は名前を変えるかもしれません。

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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