セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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・レガシーを進めながら書いていたらまだ書き溜めができてません…。
・次回も試練前です。

・2025/4/12セリフを一部修正・追加 特にシリウスのキャラ描写部分


スリザリン寮2(修正済み)

 

 

 

 金曜日、つまり授業がはじまって2日目には、さっそくグリフィンドールとの合同授業があった。魔法薬学である。

 

『寮監のスラグホーン教授が担当だが、実力主義なので点数をかせぐには努力が求められる』というのが上級生の説明だった。

 

 この日は1日目よりももっと早朝に起こされ、ガラガラの大広間で朝食をとることになった。テーブルに3人がいる間にクィディッチの早朝練習を終えた上級生たちが入ってきたのだから、時間帯を昨日よりもかなり前倒しにされたことになる。

 

 上級生は「宿題があるなら朝やった方がいいから」などと言っていたが、あからさまに他寮から切り離しにかかっているようにセブルスには見えた。嫌な感じだ。

 

 すぐに案内された魔法薬学の教室は、城のはずれの方にあった。ほかの教室も少なく、図書館のある建物にも近い。あまりひとに会いたくない時はこの辺りをうろついていればいいかもしれない。

 

 上級生は例によってトーマスとセブルスを連れてきた後、ほかのスリザリン生と合流するのを見届けてから、自分の教室へと向かっていった。

 

 昨日と同じく、生徒たちは列をつくって魔法薬学教室のドアの前に並んでいたので、2人は最後尾についた。

 

「この辺、あまりひとが来ないんだね」

 

 トーマスは先に行列にならんでいた同級生2人に声をかけた。彼らもまた「ああ、同じ部屋の」と軽く返事をした。

 

 入学して数日だが、トーマスもセブルスも同室の子とは多少の自己紹介もしたし、さすがに顔と名前くらいはわかる。たしかこの2人を担当していた上級生は、セブルスたちを担当する上級生のような怪しげな雰囲気ではなかったはずだ。つまり知り合いが元々寮のなかにいた子だ。

 

 同室の2人は声をかけられた直後からお互いに探り合うような顔をして、小声で『お前いけよ』『えー、やだよ』というようなやり取りをしていた。

 

 トーマスは『ぼくはそこまで抵抗感をもたれるようなことを言ってしまったの』と戸惑ったような顔をした。

 

「えっと……。のんびり話をするようなスペースはあんまりなさそうだね。DADA(闇の魔術の防衛術)塔ならちょくちょく座るところがあったけど」

 

 同室の2人のうち、片方が返事をした。もう片方はちらりと行列の後ろの方──トーマスやセブルスよりも後方の生徒たちに視線をやっていたが、周囲の同級生は相変わらず自分たちの雑談に参加していた。セブルスの目には何らかの変化があったようには見えなかった。

 

 トーマスはそれからもいくつか雑談を投げかけていた。「ここに来る時の道順って大階段の方だった?」だとか「教科書はもう読んでみた?」だとか、差しさわりのない内容だ。

 

 同室の2人も「地下から出て大階段で何階まで上がったか覚えてない」だとか「魔法薬学は気持ち悪い植物とかいっぱい使うんだよね……」だとかとりとめもない話題を続けていた。

 

 トーマスはセブルスにもたびたび「きみはどう思った?」などと投げかけていて、その場にいる人みんなに近寄って行くような、ひとなつっこい茶色の大型犬みたいだった。

 

 トーマスが素直に感心したような声で「へえー」と相づちをうつのに、同室の子も気をよくしたらしい。いろいろと教えてくれる気になったのか、当初の困惑は見えなくなっていった。

 

「そういえば、魔法薬学(次の授業)のスラグホーン先生ってスリザリン寮監なんでしょ。マルフォイ監督生みたく貴族なんだっけ?」

 

「貴族って話は聞いたことないな。そうかもしれないけど。

 ただ、監督生とはちょくちょく話してるって。ぼくらも貴族じゃないから詳しくはわからないんだ。

 監督生はだいたい位が高い貴族がなるんだって。貴族がいない年とか、よっぽどひどい問題を起こしたら違うみたいだけど」

 

 話すのを相方にまかせていた子も会話に加わってきて、言った。

「先生も聖28の一族だからな……最近は、……あー。あるだろ。いろいろ。監督生とは仲がいいんじゃねェかな、やっぱり」

 

 セブルスもこの機に便乗して知りたいことをたずねることにした。

「貴族の子が何人かいるって聞いたんだけど、どの子なんだ?」

 

「全部は知らないなあ。ただ、行列の先頭の子は貴族だと思う。並び順がだいたい決まってるらしいよ。で、その2つくらい後ろにいるのも貴族。ほら、見えるだろ?今しゃべってる2人とも。周りにいるのは側近(部下)とか付き合いがある子なんだって。そういう子は貴族じゃないことも多いって聞いた。その後ろからは貴族はいないから、あまり気にしなくてもいいんだ。

 ずいぶん詳しいって?上級生に聞いたんだよ」

 

 トーマスは「あれが貴族なんだ……」とめずらしい生き物を遠くに見つけたような顔をした。

 

「ぼく貴族の子ってはじめて。あいさつとか話すときとか、どうすればいいの?」

「貴族とお前が……いや、ぼくらもだけど、話すとかあるわけねェじゃん。よっぽど実力があって部下になったとか、気に入られた時くらいだろ」

 

 セブルスも質問を重ねた。「先生がかってに班とか組を決めることがあったら?」

「そいつの部下とかべつの貴族とチェンジ。なにかミスして怒らせたらどうなるかわからねェだろ。どうしてもってことがあったら、その貴族の子に指示を聞くしかない」

 

「そうそう。おなじ寮だからって、ぼくらには(モスクラウド)の上の人ってことは変わらないよ。ほかの寮の貴族はどうだか知らないけど、スリザリンは伝統を大切にしてるからね」

 同室の子が肩をすくめた。

 

 その時、行列の後ろの方のドアが開いた音がした。トーマスもセブルスもなんとなしにそっちを振り返った。いつの間にかトーマスとセブルスの後ろにも生徒が追加されていて、さらにその後ろから生徒が入ってきたのだ。

 

──ドアを開け放ったシリウスと目が合った。

 

 彼の隣にはジェームズもいて、なんだか息があがっているようだった。2人で走ってきたのだろうか。

 

 シリウスは周りの生徒の目を気にするそぶりもなく……というより話しかけられても無視しながら、ずかずかと真っすぐセブルスの方に近寄ってきた。不機嫌そうに目を細めながら。

 

 どうやら連れはジェームズだけで、他のグリフィンドール生とは別々にやって来たらしい。リリーの姿も見えない。列の合間にちらほらとグリフィンドール生の赤い裏地のフードがまじっているみたいだった。

 ジェームズはまるで要人の警備でもしているかのように、凄むような目つきを周りの緑のローブたちへ向けていた。

 

 セブルスの前にたどり着いたシリウスは、そのままこぶしをセブルスの肩に当てた。けっこう痛い。

「──さっそく血筋のいいお歴々(れきれき)の仲間入りか?裏切りもの。名誉の()()()()()()寮に入れて良かったな。祝ってやるよ。何が欲しい?お前の『お母さま』への花束か?それとも幼なじみとの絶縁状?」

 確かにシリウスの期待を裏切ったのは理解していたし、その理由が『自分の家族』によるものだとも伝えている。それが母親とまでは言わなかったので、クラリスが何か知らせたのだろうか。

 

 シリウスは眉をひそませ皮肉めいた表情をしていた。その馬鹿にするようなしゃべり方も相まって、どことなくルシウス・マルフォイに似た雰囲気がある。それがセブルスの頭にカチンときた。

「あー、まったく本当に『すばらしい』寮だねえ」

 

 目の前の黒曜石みたいな瞳がゆがんだのを見て、付けくわえる。

「なにせ高貴な血筋にしたがえって言うんだから。今日から全員がグリフィンドール入りするのが正解なんじゃないか?

 ぼくが欲しいのは幼なじみとの絶縁状じゃなくて招待状だ。ただ……、受け取りのポストは(ふさ)がれてる」

 セブルスには2人(リリーとクラリス)との関係を断ち切るつもりなんてない。連絡を取り合いたくても出来ないだけだ。絶縁するつもりなら、シリウスに背中と命をあずけてまで助けにはいかない。

 

 そういう意味をこめたのが伝わったのだろうか。険のこもった目を少しやわらげたシリウスに、そのまま言葉を継ぐ。

「招待状が届いたら食事のテーブルとかもお前の周りに集まるんだ。全員が毎日きっかり3回」

「命令がなきゃ何もできないのか?砂糖にたかる蟻か何かなのかコイツらって。マルフォイぼっちゃんにつつしんで返品してやる」

 言いながらもシリウスは目に見えて上機嫌に笑った。

 

 近くにいたトーマスが何か言いたそうに眉をひそめたのと、ジェームズが彼を小突いて列の後ろの方をさし示したのは同時だった。ほんの2,3言かわしただけなのに随分な態度である。

 

 シリウスは口をとがらせながらもジェームズにうなずいて見せ、踵をかえした。「じゃあな」とだけ言って。どうやら大人しく列にならぶことにしたようだ。

 

(……そこまで怒っていない?)

 けっこうな皮肉は言われたが、それでもセブルスは意外に思った。シリウスなら『やっぱりお前はそういう(スリザリンがぴったりな)やつだったんだな。二度と話しかけてくるな』くらいの態度をとりそうだったからだ。

 

 大広間でリリーやクラリスと一緒にいたから、もしかしたら2人が何か言ってくれたのかもしれない。

 

「ねえ」とトーマスがたずねてきた。その顔に先ほどまでの談笑は見えず、どこか緊張しているかのようだった。

 

「きみブラック家の子と仲いいの?」

 よく見ると、同室の2人も似たような表情をしている。

 

「べつにブラック家と付き合いがあるわけじゃない」

 セブルスが特にかくす必要のない事実を伝えると、トーマスは念を押すようにたずねてきた。

 

「シリウス・ブラックとはあるんだね」

「だったらなんなんだ?」

 

 それを聞くと、トーマスは「なんでもない」とだけ答えて、なにか考え込むように目線を下げた。残りの2人はまたも目を見合わせたようだった。

 

 

 

 そのすぐ後に教室のドアが開いたので、トーマスはすぐに「同じテーブルの席につこうよ」と同室の2人に声をかけた。

 

「いいよ」とこころよく承諾したのはトーマスの雑談にすぐに応じてくれた方で、もう片方が小声で「バカ、やめとけよ……!」と言ったのが聞こえた。トーマスは雑談をしただけだったし嫌な感じもしなかったのに、

 

 どうやら2人はあまりトーマスと──おそらくはセブルスとも距離をとろうとしているようだ。理由はよくわからなかった。

 

 教室のなかは粗削りのごつごつした岩壁と床に囲まれた空間だった。そのなかに真四角の、食卓用よりもひとまわり大きいくらいのテーブルが何台も置かれていて、4辺に1つずつ鍋が置けそうな空間がぽっかりと空いていた。

 

 正面の奥には黒板とデスクらしきものがあり、どうやらそこが先生の教壇のようだった。

 

 壁際には薄手の木製棚が設置されていて、そこにはワインボトルくらいの太さのビンがずらりと並んでいた。その中には一種類ずつ、なにか薬草やらぐちょぐちょにつぶれたものなどが入っている。できればあまり触りたくない、気色の悪い見た目だった。

 

 先頭の生徒、つまりスリザリン寮の貴族は教室の左端に行き、そこから部屋の真ん中までをスリザリン生で埋めるようにして、それぞれがテーブルについていった。

 

 4人が人波についていくと、空いているのは教室の中央付近、グリフィンドール生と隣接するテーブルだけだった。セブルス以外の3人は「誰がグリフィンドール生のテーブルに一番近い席につくか」と目くばせしていたので、セブルスは止まることなく()()()()とその席まで行った。

 

 斜め前のテーブル、スリザリン生と隣接するところにリリーが立っていて、彼女はセブルスに小さく手を振ってみせた。

 

 席が少し離れているので授業中に話すとはいかないようだが、だったら授業後だ。

 

 リリーのテーブルにはほかにもグリフィンドール女子が3人ついていて、彼女らはリリーの方を見ているセブルスを不思議そうに眺めていた。リリーは別段シリウスやジェームズといつも行動を共にしているわけではないようだ。

 

 シリウスやジェームズは右端、つまりスリザリン生と最も遠いテーブルを選んだらしい。そのうち2つの辺は生徒がおらず空席になっていた。つまり4人用のテーブルにいたのは2人だけだ。

 

 全員がなんとなくテーブルについてすぐ、教室に隣接する扉から先生が出てきて、教壇に立った。

 

「全員そろっているようだね」

 

 担当のスラグホーン先生は縦にも横にもおおきな体格をした、雪だるまみたいな魔法使いだった。その声が大き目で教室全体によく通ったためか、生徒たちはおしゃべりをぴたりとやめて先生の方を向いた。

 

「さて、さて……。それでは、みんながまだ初めてのことばかりで目が回っている頃だろうから、簡単にあいさつをしよう。持ってきた教科書は机の上だよ。

 

 私は魔法薬学の教授とスリザリン寮の寮監、その両方を担当していてね。魔法薬はきちんとできたかどうかが一目でわかるものだから、実力がある生徒は今日の授業にもはっきりとわかるだろう。たとえ手順を暗記できていなくても、作れたのならすぐれた生徒だとも。逆に今日の授業がとても難しかった子は、予習を欠かさずしておくことをおすすめするよ。

 

 ……ああ、今日はスリザリン生がいるから念のためお知らせしておかなくては。

 

 掲示板にも貼っておいたが、明日は私のほうで寮の歓迎会をやる予定だよ。特に新入生は上級生にいろいろきくチャンスだから、ぜひ参加してほしい。グリフィンドール寮でも上級生か先生か……だれかがそういう企画を用意しているはずだ。イベントごとが好きな子が多いからね。

 

 授業の前に言っておくべきことはこんなところかな。それでは机のうえの教科書を開いて」

 

 

 

 先生の授業は簡潔でわかりやすかった。初日だからと先生は「手順を確認できる簡単な調合薬をつくろう」と言って、黒板に手順を書きだした。それから、上から順に内容をくわしく説明しはじめた。

 

 たとえば、一番上に書かれていた手順は計量だった。まず先生はみんなを、テーブルの上にある天秤(はかり)の前に立たせた。古びた金属でできていて、曇ってみえるくらいに傷がたくさんついたそこに、先生の指示にしたがって実際におもりを載せてみる。

 

 そんな風にして、たとえば『葉を細かく刻む』という手順があったらナイフをどう持ち、どのくらいの大きさに刻むのか手本を見せてその通りにやらせたり、細かく砕く必要がある材料は乳鉢をどう使い、どのくらいに細かくするのかを実習させた。

 

「ここまではきちんと準備できているね。問題は次からだ。

 鍋を火にかけて温度の管理をする。ぐずぐずしていると火が通り過ぎてしまったり、中身ばかり気にしていると今度は冷めてしまったりするよ。さあ、杖を持って。炎の大きさを調節するんだ」

 

 魔法薬学は実習がメインの授業のようだった。常に集中して手元で作業をしていないといけないので、目が離せない。余計なことを考えなくていいので、セブルスにとって調合作業はとても楽しいものだった。手先が器用なので繊細な作業に向いているというのもある。

 

「これは見事だ」という先生の声が後ろからかかったのは、最後に弱火で煮込む段階になったときだった。先生は鍋の中をのぞきこんでにっこり笑っていた。

 

「スリザリンに5点」

 

 周囲の生徒はまだ中身をかき回して素材を投入したり、火を通しすぎて中身が爆発したり、煮込んでいるのに材料がひとつ余っているなどで手間取っているようだった。

 

「では、作業が終わっている生徒には、もう少しくわしい理屈を説明しよう。目は離せないだろうから耳だけをちょっとこっちに向けてくれるかな。まだ煮込むところまでいっていない子は、そのまま続けて」

 

 先生はそう言って「ドラゴンの牙は案外もろいが、細かくすればするほど効果が高くなる」だとか、ほかの素材との組み合わせ方で効果が違うということを黒板に書いて説明していた。

 

 やがて大半の生徒が手を動かすのをやめた頃、先生はよく通る声で言った。

 

「──全員、そこまで。最後にビンに自分の鍋の中身を入れて、自分の名前を書いたラベルを貼って教壇に提出して。それが済んだら授業は終わりだ」

 

 真っ先に教壇に向かったのはリリーだった。どうやらリリーも手際よく作業できたらしい。セブルスが教壇に行ったのはリリーのすぐ後だった。周囲の生徒はがやがやとなにか雑談しながら自分の手元で準備をしていて、まだ水分がかなり残っている鍋も多くあった。

 

 リリーはすぐに授業で使った道具を片づけてセブルスの近くまでやってきた。作業するためか、彼女は長い赤毛を頭のうしろでゆるく括っていた。

 

「セブ。授業の前にシリウスになにか言われてなかった?」

「いや……少し話しただけだ」

 

 スラグホーン先生はちらりと2人に視線をよこしてきたが、何か言ってくることもなく、まだ作業をしている生徒に「ここの手順が間違っているんだよ」と指導していた。

 

「私とクラリス(リズ)はだいたい同じ時間に大広間に行くことにしたの。そういう風に他の寮の子と待ち合わせるのって結構あるみたい。セブも自由に歩きまわれるようになったら来て」

 

「わかった。シリウスたちと同じテーブルじゃなかったんだな。てっきり友だちになったのかと思ってた」

「友だちだけど、シリウスもジェームズも男の子だもの。授業とかに行くときは女の子と過ごしてるのよ」

 

 リリーが自分がいたテーブルの方を振り返ると、そこにいた女子たちは複雑そうな内心をそのまま表にだしたような顔で、リリー(グリフィンドール生)とセブルス(スリザリン生)の方を見ていた。

 

 よくよく周囲を見ると、そのほかのテーブルの生徒も半数くらいが同じ反応をしている。スリザリン生にいたっては、大半が「あいつ何やってるの?」と戸惑ったような、もしくは反感をもった顔をしていた。

 

 どうしたのか、と訊く間もなく、後ろからトーマスがセブルスの肩をぐいっとつかんだ。それから小声で「そこまでにしときなよ」と言った。

 

「友だちはスリザリン寮で見つけるように言われてただろ。上級生だってすぐに迎えに来るんだし、見つかったらまたお説教されるじゃないか」

 

 セブルスは「邪魔をするな」とトーマスを睨みつけてから言った。上級生が来てしまったらまた何か言われるかもしれないのだから、それまでにリリーと話せるだけ話しておきたいのに。

 

「お前……ぼくを止めろって言われたんだな。お前一人で上級生になにか言われてた時だ」

「きみが間違ったことをしてるからだよ……!」

 

 トーマスは泡を食ったように周りのスリザリン生を見回してから、彼らに見えるように頭を下げた。同じテーブルにいた同室の2人は助けを求めるかのような目で教室の左端テーブルの1つに視線を投げていた。

 

 投げられた方、要するに貴族の子の一人はただうなずきを返してみせた。

「ぼくもそのくらいで止めた方がいいと思う。みんなの前だろ」

「よりによってグリフィンドールはねェだろ……」

 

 同室の2人もトーマスに加勢することにしたようだ。どうも彼らは心からそう忠告しているようなのだが、どういう考えが頭にあっての行動なのかセブルスにはよくわからなかった。

 

(死喰い人(デスイーター)に関係がある生徒から目をつけられるとか?)

 

 セブルスはこんなに大きなコミュニティに属したのは学校が初めてだったので、特にスリザリン寮のような、さまざまな立場でグループをつくっている集団での振る舞いには()()かった。

 

 マグルの学校に通っていたリリーの方が、その辺りを理解しているくらいだった。だからリリーが残念そうな顔をしながらも「それじゃあね」と引き下がろうとしかけたところで、別の大きな声がそれをかき消した。

 

「グリフィンドール生なんかの話にまともに付きあってあげるという優しさは、あなたが愚鈍なハッフルパフ生なら評価されたのでしょうね」

 

 そう言いさしたのは左端(貴族)のテーブルの奥の方にいた女子だった。シリウスの情報などと照らし合わせると、彼女は死喰い人のうわさがある貴族の子だった。

 

「スリザリン生の端くれに加わったからには、もっとものを知っていただかないと。今のままだとまるでマグル生まれみたいですものね」

 

 この貴族はセブルスの行動を「ものを知らないがゆえ」ということにしつつ、リリーともども見下していることを隠しもしないようだった。

 

 あまりの言いように、セブルスは眉間に深いしわを刻んで貴族の方を振りかえった。ここ数日の鬱憤がたまっているというのもあって、なにか言い返さなくては気が済まなかったからだ。

 

「どうやら貴族さまっていうのは、マグルを知らない世間知らずのチャンピオンのことを言うみたいだね」

 

 口を開きかけたセブルスにとっては幸いなことに、その貴族に嫌味を吐いたのはグリフィンドール側のテーブルの人物だった。丸眼鏡をつけて不敵な笑みを浮かべた見知った顔──ジェームズ・ポッターだ。隣にいるシリウスも目に見えてあざけるように笑いながら言った。

 

「おいおい、エントリーしない貴族だっているぞ。ミス……なんて言ったっけ、あんた?部下でもない生徒の顔色ばっかり気にしなきゃいけない下っ端は大変だなあ」

 

 セブルスに情報を伝えてきたのだから、シリウスが彼女の家名を知らないということはないはずだ。つまり、そういうやり方で貴族をバカにすることにしたのだろう。

 

「『シリウス・ブラックが不良と付きあって大事なしごとを投げ出したドラ息子だ』ってのは有名な話らしいな?その割には不良連中にもそっぽ向かれてたみたいだけどさ!」

 

 言い返したのは、貴族ではない、しかしセブルスとは別のテーブルにいた生徒だった。それに反応したのは、ジェームズやシリウスを含めたグリフィンドール生多数だった。スラグホーン先生は倉庫にでも行ったのか姿が見えなかったので、止められそうな人間はほかにはいなかった。

 

 誰かが皮肉や嫌味を返すと、もう片方の寮生もまた打ち返す。そうやって悪口の応酬が続けられた。

 

 騒動の中心だったはずのセブルスとリリーは、もはや蚊帳の外だ。だからこそ(気分が悪くなるBGMつきであったが)小声で何度か言葉をかわすことができた。

 

「さっきのジェームズ、もしかしてセブをかばったんじゃないかしら……」

「まさか。あの貴族が気に食わなかっただけだろう。あの女子の家族は死喰い人かもしれないから」

「そうなの…。これからは合同授業のときに話すのはやめた方がいいかもしれないわね。だったら今度、手紙を用意してくるわ」

 リリーもあきらめて疎遠になる気はないようだった。

 

 

 

「──いい加減にしなさい」

 スラグホーン先生の、授業のときの温和な雰囲気からは想像もつかないほど、冷たく大きな声が教室に響いた。

 

 

 

 

 

 




シリウスに関しては「人の顔色を気にしないタイプ」、かつ「自分の目を信じがち(頑固に自分の考えを信じがち)」という感じになってます。
原作で「ジェームズとハリーを同一視して一緒に戦いたい」というシリウス自身の気持ちと、「モリーに『ハリーは子どもよ』と言われた」のどちらをとるかというと、前者っぽかったため。

最初のプロットでは仲悪くなる予定でした。
(あのセリフをそのまま言わせる予定だった)

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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