セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
毎週嫌味をどうにかひねり出してるのが地味につらいので、はやく先に行きたい。
2025/4/12 一部修正
一週間ほど後 1971年10月31日(日)ハロウィーン
夢を見ていた。
脳の奥の方でうっすらと自分でわかっているのに、同時に胸にひどく温かい感じがする。
セブルスにリリーがにっこりと笑いかけていて、クラリスはそんなリリーに後ろから抱き着くようにしていた。ちょうど食事が終わったところで、3人は横に並んで同じ寮のテーブルについていた。
いったいどこの寮なのか思い出せなくて、テーブルスローを探したが何色かはわからなかった。赤かった気も、青かった気もする。クラリスは大きな敵と正面から戦えないから、たぶんレイブンクロー寮の青いものなのだろう。
クラリスがリリーの背の後ろから言った。
「さっきの、見た?シリウスとジェームズがまた校庭でスリザリンの子とやりあっててて、リリーが止めに入ったの。……セブルス(セブ)はいなかったっけ。結局かばわれたスリザリン生が、リリーになにか捨て台詞を吐いていなくなったのよ。失礼なやつね、助けてもらっておいて」
「……いいわ。勝手に助けに入ったのは私だもの」
リリーはそうは言うが、少し不満そうな顔をしていた。
「……たぶん、グリフィンドールとスリザリンの合同授業のときになにかあったのよ。それでシリウスとジェームズが怒ったんじゃないかしら。
ほら、
リリーはそこで言葉を切ると、改めてきっぱりと言った。
「でも、それでいじめていいわけじゃない」
まっすぐ向けられた彼女の緑の目はやわらかい光のなかで澄んでいて、とてもきれいだった。
セブルスが見惚れていると、クラリスは「リリーって本当、かっこいいわ!」と言って抱き着く力を強くしたようだった。リリーが「もう、重いってば」と照れたように笑い、クラリスは『私がリリーにぎゅっとできるの、羨ましいでしょう?』とでも言いたげに口の端を上げて見せた。
夢のなかでも2人はいつものような態度だった。
セブルスはもうすぐ目が覚めてしまうような気がしたが、できるだけ長くここにいたかった。
「午後の授業はなんだったろう?」
2人に問いかけると、リリーが「魔法薬学よ」と答えた。
「スラグホーン先生の前だと、どうしても緊張しちゃわない?
クラリスは少し沈んだ表情で言った。そんな彼女に、リリーも同意するようにうなずいた。
「先生はとってもできる人みたいだけど……そうね。マルフォイ監督生と仲がよさそうに見えるから。でもきっと変な集まりに誘われないか気を付けていれば大丈夫よ。学校のなかで危ないケンカが……たとえばどっちかが大けがしちゃうとか、そういうのが起きたって聞いたことないもの」
「本当よね。大人が戦争しているっていうから少し怖かったんだけど、先生たちがきちんと見てくれてるみたい」
クラリスはそう言ってから、少し悪戯っぽい顔でつづけた。
「……ねえ、次の授業でリリーかセブルスがいい成績だったら、フゥーパーの羽が手に入らないか、聞いてみてくれない?1枚でいいから」
「もしかしてお前、教科書に書いてあった"アレ"を調合する気じゃないだろうな」
夢のなかのセブルスには心当たりがあったので、『まさか』と思った。
「えっ、どれ?……あっ、まずいわ!」
リリーは首をかしげるやいなや、何か思い出したように目を見開いた。
「クィディッチよ!応援に行かなきゃダメじゃない!」
そうだ、今日は起きてクィディッチ競技場に行かなくてはいけない。
ぱちりと合わさっていたまぶたが開いた。
まだ他のルームメイトは眠っているのか、周りはしんと静まり返っている。ずいぶん早い時刻のようだった。
薄暗い寝台の向こう側に緑色が見えて、セブルスの胸がぎゅっと痛んだ。
(……そうは、ならなかった)
皮肉気に口元をゆがませたセブルスの目の端から、寝起きで温かい涙がぽろっとひと粒だけ落ちた。
*
目の前で嫌味が飛び交っている。
セブルスは心底うんざりした顔を隠そうともせずに彼らを見ていた。
何人かで徒党を組んでいる緑のカラーの同級生がまた、セブルスの左側で何か言い返して、それを右側にいるシリウスとジェームズ、そして赤いカラーの同級生が皮肉交じりに返す。どっちも口元には相手をバカにするようなうす笑いを浮かべながらも、目だけが「相手を心底嫌いだ」と言っていた。
目だけで趣味の悪いラリーを追っていたセブルスは、同じく言い争いに参加していない隣のトーマスの方を、ちらりと確認した。彼はうんざりこそしていないようだが、困ったようにほおをかいていた。どうやら彼も止める方法が思いつかないらしい。
(……さっさとこの場を抜け出したい)
学校ではきっととても楽しい毎日がくると思っていたのに。
理想的な夢との落差に、苛立ったセブルスは思わずローブをきりっと引っかいた。
この日はクィディッチの練習試合日だった。因縁のスリザリン寮対グリフィンドール寮というやつだ。チームに所属できるのは2年生からだが、1年生でも応援や観戦ができる。むしろ積極的に出かけていく生徒が大多数だった。ほかに盛況なスポーツがないためか、その分の熱狂が集中してしまっているのかもしれない。
観戦できるようになって間もないセブルスには、まだその熱狂は理解できなかった。同級生の解説があって、初めてどうにかどんな試合運びになっているのかを把握できる程度だ。
ただ、例によって上級生は「みんなと仲を深めるチャンスなので1年生も必ず応援に来るように」と掲示板に貼りだしていた。それを目にした同級生も上級生も「指示が来たのだから行くのが当たり前」とばかりに動くのだ。
クィディッチの時に限っては、まったく別のグループ(穏健派)もそんな風だった。なんでも、クィディッチチームに関してはどちらの派閥の有力貴族も所属しているというのだ。そんな緊張感で息苦しそうなチームに、代表選手はよく参加する気になったものだ。少なくともセブルスは加入して頑張りたいとは思わなかった。
セブルスとしては応援に行くのも気が進まなかったのだが、トーマスから「スリザリンの全員から爪はじきにされて残り6年もいる気なの」と説得されたのである。確かに、応援をサボると主戦派だけでなく、穏健派からもいい顔はされないだろう。
セブルスはなんとなく一緒についてくることが多くなった一団と、競技場へ向かうために廊下を急いでいた。ドアの脇や空いているスペースの隅っこなんかに、カボチャ頭が3段とか4段に積まれて飾り付けられている。一番上のものにはとんがった三角帽子が載っていて、ツタのようなものが全体にあしらわれていて、所々がぴかぴかと光っていた。表情がどの頭も少しずつ違っていたり、カラフルにペイントされているものがあったりと、やけに力が入っているようだった。
道すがら、トーマスはほおを緩めてニコニコと笑って言った。
「クィディッチチームがこんなに身近にあるなんて嬉しいよ。
彼はクィディッチの試合であればたとえ練習試合でも、自分の寮じゃなくても観に行きたがった。しかし一部の試合にはどうしても行けないとこぼしてもいた。グリフィンドール対ハッフルパフやグリフィンドール対レイブンクローのときに観戦に行くと
「チームに入りたいのか?」
それほどクィディッチが好きなら加入したいのじゃないかと思ったセブルスが尋ねたが、「ん~どうかな」とトーマスは苦笑いを浮かべていた。
「ピッチの整備とか箒の手入れとか、そういうので近くで観る方がいいかも。あのー……ほら、すごい教育をうけた貴族の子についていくのはとてもとても」
おそらくはトーマスも「貴族に気を遣わなきゃいけないチーム」には加入したくないのだろう。他寮の所属なら迷わず「入りたい」と言ったかもしれない。
「お前らっていつもそうだよな。そこまでいくと貴族に遠慮してるんじゃなくて臆病風にふかれてるだけだろ」
トーマスの近くにいた同級生が勝ち誇ったかのような顔で話しかけてきた。
その子は眉毛がいつも底意地悪そうに跳ね上がっていて、いつも緑の濁ったような色の目を細めて2人に声をかけるのだ。"勉強会"で見知った相手だった。
セブルスがトーマスと2人で行動しているとついてくることが増えている。あまり覚えていないが、"勉強会"に参加しているのだから『伝手なし(下層カースト)』メンバーの一人なのだと思う。
ファーストネームは忘れたが"リーコック(Leacock)"と呼ばれていたのは覚えている。おそらくそれが姓だろう。
"臆病"と挑発されてイラついたセブルスは冷笑を浮かべて言った。
「きみは貴族に友だちでもいたのか?気づかなかったけど」
言外に『お前が貴族とつるんでるのも、その部下(取り巻き)だったのも見たことないぞ。ぼくたちと似たような立場なんだろう?』という意味がこもっていた。
リーコックはいかにもバカにしたような眼差しになった。「ふん、相手が貴族だって言ってもおれらはスリザリン生で、スリザリン生は家族だ。マルフォイ監督生が直接そう話しかけてきたんだよ、おれだけに」
彼は『いいだろう』と見せびらかすような笑顔になっていて、まるでヒーローか有名人に会ったかのように興奮していた。
トーマスは口元にだけは弧を描いて尋ねた。
「監督生が君になんて?」
「ああ、応援のしかただよ。グリフィンドールが勢いに乗ってたらヤジとか挑発とか、とにかくスリザリンに有利なようにしろって。ここに相手チームのポジションと選手名、あとはやじる時に効果的な文言が載ってる。席についたらみんなに配るからな」
それを聞いたとたん、トーマスの顔が無表情になった。
「それ、実力で勝ったって言わなくない?」
「おれらは"狡猾"のスリザリン生だぜ。勝つためには何でもするんだよ」
「グリフィンドールには実力じゃ勝てないって言ってるようなものじゃない。何でもありになったら相手にだって同じことをされても文句を言えなくなるよ」
トーマスは珍しくむきになっているようだった。よっぽどフェアプレーのクィディッチが好きなのだろう。
リーコックはますます意地悪そうな笑みを深めて言った。
「自分たちはバレないようにやって、相手のはいいタイミングでバラす。それが"狡猾"ってものだろ?」
セブルスにとってクィディッチの戦術はどうでもいいし、もっといえばトーマスがフェアを好むのかもどうでもいい。だが、なんとなく『自分もリーコックみたいなやつだと周りに思われたらイヤだな』という気がした。
たとえばセブルスは『シリウスに勝手にツケる』という行動に出たことがあったわけだが、それは身内に危険が及んでいたからだ。危険でもなんでもない時にシリウスから
子ども同士でやるスポーツに勝利しなければ大切な人が死ぬとでもいうのだろうか。ばかばかしい。だから口をはさむことにした。
「スリザリン寮の特色に"卑怯"が入っているなんて知らなかったな」
「"臆病"もないぜ」
歩きながら、セブルスもリーコックも冷笑を浮かべて見つめ合った。ガンをとばし合っているとも言う。いつもはたしなめてくるトーマスも、今回ばかりはセブルスと同じような態度で、その茶色の目を見たことがないほどに細めていた。
セブルスは実のところ、こんなやつと同道したくなかった。トーマスと一緒にいるだけでも抜け出せないのに、イヤなやつが横にいるんじゃもっと無理になってしまう。
自然と無言となった3人に、残りのスリザリン生が怪訝そうにした時だった。通路の向こうのドアが開いて、見知った顔を先頭にした一団が入ってきた。
──よりによって今、こんなイヤなやつといる時に会いたくない2人の顔がある。
赤いローブとワッペンをつけた、学校で一番アクティブかもしれない男子2人──要するにジェームズとシリウスが一番前を歩いている。
楽し気になにか談笑していた赤い制服の一団に、まるで道の向こうにハチの巣でも見つけたかのような緊張感が走った。
そんな彼らに、リーコックがさっそく何か吹っかけだす。
「はッ、試合までに罰則が済んだみたいで良かったなあ。グリフィンドールは使えないやつの手を借りてでも応援してもらわなくちゃ困るだろ?」
向かい側の一団の一人、不器用でどんくさい子に向けたあざけるような口調だった。
トーマスは「やめなよ、なんでわざわざ怒らせるのさ」と止めていたが、それに返って来たのは冷たい声だった。
「お前は臆病なんじゃなく、本当はあいつらの味方なのか?」
裏切り者をみるような目だ。セブルスはどうすればいいか頭を痛めた。獅子寮の味方をしていると思われるわけにもいかないが、獅子寮の2人との関係がこれ以上こじれるのも困る。
だから止めることもできずに目の前の展開を見守るしかなかった。
あとは魔法薬学の授業のときの焼き直しだ。仲間をかばうジェームズとシリウスが言い返して、スリザリン生がまた打ち返す。わざわざ絡みに行くのは一部の生徒なのだが、リーコックはその一部の生徒だった。セブルスは参加したくないので、トーマスのように成り行きを見守る側にいた。
そうやって廊下の一部分で嫌味が飛び交っていると、何の気兼ねもなく過ごせた日々がセブルスにはやけに遠くのものに感じられた。
あんな夢を見てしまったせいか、無性にリリーとクラリスに会いたかった。あの夢のようにもしも同じ寮だったらどんな風に言ってくれただろう。
「──で、そこにいるやつらは観客なのかな。自分のところの代表が勝つのを応援でもしてるの?」
ジェームズは口を開いていないメンバー、要するにセブルスらの方に挑発するかのように言った。せせら笑うかのような調子だった。
(ひとの気も知らないで……!)
セブルスにはカチンとくるものがあった。自身のなかでは、勝手に撃ちあいを始めた連中に巻き込まれて流れ弾にあたったような感じである
(セブルスには伝わっていなかったが、ジェームズが本当に言いたいのは『そいつに反対してるなら止めろよ。止めないなら同類だぞ』と彼らに注意するような、敵対するかを確認するかのようなことだった。だが、彼もスリザリン生が嫌いでイラついているため、物言いが挑発的になったのである。
もしも止めに入ったのがリリーなら、ストレートに本心のまま言っていたはずだ)。
セブルスはこの日、ひどくイラつきやすくなっていたので言い返した。
「あんまり白熱してたから邪魔したら悪いと思ってね」
本心で言うなら『こんなやつと一緒にするな』だったが、はっきりそう言うと監督生にまで伝わりかねない。だから『この争いに参加したつもりはない』というのを薄めた言い方になった。
だがしゃべり方にイライラした気分がにじんでいて、ひどく皮肉っぽい調子になってしまった。
「お前、やっぱり……!」とジェームズは怒りをあらわにした。
今まで我慢していたものを台無しにしてしまった、と苦いものがよぎって、セブルスは口をつぐむので精いっぱいだった。
結局その後すぐにグリフィンドール生たちが「変なのにかかわってる暇はないよ」と言って足早にピッチに向かった。通りがかるほかの寮の生徒が増えてきて、そろそろ先生がやってきそうになったからだろう。
セブルスは完璧にうんざりしてしまって、「忘れ物をした」と言ってピッチとは正反対の方に足を向けた。
「ちょっと……!」とトーマスは制止するような声をあげてから、「先に行ってて」とほかの生徒を見送った。
ずんずんと
セブルスはじろりと、声をかけてきた彼に振り返った。
「うんざりだ……!卒業までずっと、あいつらに付きまとわれるなんて!」
イライラがおさまらず、胸にこびりついたままのもやもやとした気持ちを、ついトーマスにぶつけてしまった。
トーマスは驚いたように目をまるくしたが、すぐに真剣な顔つきになった。
「きみがマルフォイ監督生と仲良くしたいタイプじゃないのはわかってるよ。……ぼくもそう」
「だったらなんだって言うんだ」
「ぼくらはどうにかして"穏健派"に入れてもらうしかないってこと。どうすればいいのかって正解はぼくも『お父さん』もまだわかってないし、きっと同じようなスリザリン生は他にもいると思う。でもみんなもう組み分けられちゃったんだよ。帽子が決めるんだから仕方ないんだ」
トーマスのその言葉に、セブルスは怒りをおさえつけるように声を絞り出した。
「ぼくは……!えらべたっ……!」
トーマスはそれが耳に届いただろう瞬間に、いっさいの表情をなくしたかのようだった。それから、わなわなとその唇と茶色の髪をふるわせた。
「──ふざけるな!」
トーマスの怒鳴り声を、誰かを怒鳴りつけたところを見たのはこれが初めてだった。
「だったらどうしてスリザリンを選んだんだよ!知ってたのに、えらべたのに!!バカなの!?」
そう言うということは、おそらくトーマスは選べなかったのだろう。そういえば、組み分けがどんな風だったかをトーマスに聞いたことはなかった。さらに言えば、トーマスにセブルスがマグル育ちということを伝えたこともない。
つまり、彼にとってセブルスは『魔法界育ちでスリザリン寮の状態を知っていて自分で選んで入ったくせに、最大派閥である過激派に反している』ということになっているのだ。
トーマスは眉をハの字に下げていて、なにか言いかけたのを無理やりおさえこむように、唇をひき結んだ。
「……上級生には部屋で分かれたって言っておくから」
どこかつっけんどんにそう言い放ってから、トーマスは返事をきかずに通路を出て行った。
ドアが乱暴に閉められてから足音が遠ざかっていくまで、セブルスは一人で唇を引き結んでいることしかできなかった。
いよいよやさぐれたような気分になって、深いため息が漏れていく。
起こって欲しくないようなことばかりが折り重なる日だ。
スリザリン生の誰にも見られたくなくて、口をきくことすら億劫だ。適当に用事をでっちあげるならスラグホーン先生といるのが簡単だが、おそらく試合の応援に行っているだろう。
(……図書館に行こう)
それも奥の方がいい。よく知らない生徒にすら近くにいて欲しくなかった。
図書館には試合の2寮の生徒の姿はほとんどない。一番多いのがレイブンクロー生で、デスクに隣り合ってひそひそとなにか話しているグループが点在していた。ハッフルパフ生の方もちらほらといるが、上級生らしき身長のひとが多いようだ。上級生には就ける仕事が決まってしまう大きなテストがあるそうだから、そのせいかもしれない。
図書館は隅から隅まで歩くだけでも一日では済まなそうな広さなので、奥の方に行けばひとりになれるだろう。
後ろからついてくるような足音がしていたが、セブルスは無視して静かな方を選んでずんずん歩いた。
適当に人気のない方に着けば離れるだろう、と思っていたがその音はずっと近くをついてきていた。
スリザリン生だと誰から誰にチクられるかわかったものではなく、大変に面倒だ。だからセブルスは後ろを振り返った。
「……リリー?」
リリーは心配そうな顔で「Hi(ハイ)」と言った。図書館は私語厳禁なので小声でだ。いくら奥の方といっても基本静かな館内では話し声が響いてしまう。
「一人でいたのを見かけたから珍しいと思って。ピッチに行かなくても大丈夫なの?」
「ちょっとひとりになりたかったんだ。最近ついてくるスリザリン生がうっとうしいから」
セブルスはあえて『大したことじゃない』というような軽い口調で言った。イライラしたような恰好の悪い態度を、リリーには見せたくないからだ。
リリーは『うっとうしいスリザリン生』に心当たりがあるようだった。
「ああ、どの子なのかわかった気がするわ。……あれ?」
「どうかしたのか?」
「さっきクラリス(リズ)もデスクにいたの。私やセブルスにも気づいてたみたいだったんだけど……。せっかくだからこの辺に集まって一緒に話しましょう?私、ちょっと見てくる」
「呼んだ?」と近くの本棚と本棚のあいだから声がして、クラリスが5~6本前の本棚の陰から顔をのぞかせた。
「盗み聞きしてたのか?」
「そういうわけじゃ……ほかの生徒が来ないように見張ってたの。誰か来たら適当に足止めしようと思って」
性格の悪いスリザリン生なら弱みを握るようなことをするが、思いやりの深いハッフルパフ生ならそこまでしない。だから半分はからかっただけのセブルスだったが、クラリスはぷうと不満そうに頬をふくらませた。
本棚の下に据えられたデスクまわりに、3人は輪になるようにいすを並べて座った。耳がいいということで見張り役を買って出たクラリスは通路に一番近いところに掛け、残りの2人はそのそばにいる形になった。
赤、緑、黄という特異な組み合わせのカラーが並ぶことは、今のホグワーツでは滅多にない。こっそりとしておくべきだろう。
リリーは澄んだ緑の目をセブルスに向けた。
「セブ、何かあったんでしょ?なんだかイライラしてたみたい」
「べ、べつに。ちょっと……ヤックスリーと言い合いをしただけだ」
ひそひそ話なので、自然とリリーの顔がすぐ近くにある。息もかかりそうな気がしてセブルスはどきどきしていた。
「純血の子だったわよね、たしか。なにかあったの?」
クラリスが問う。
「『なんでスリザリンなんて選んだんだ』って。たぶんあいつはすごく他の寮に入りたかったんだと思う。でもスリザリンだって帽子に決められたんだろう」
「それは……。だって帽子が決めてしまうことじゃない。どこに組み分けられたって仕方ないわ」
トーマスにもそうだが、リリーともセブルスの組み分けの時の話は詳しくしていなかった。
唯一セブルスの組み分けについてあらかじめ知っていたクラリスは、それをおくびにも出さず、リリーに賛同するようにうなずいてから言った。
「魔法界に犯罪者がたくさんいるのが悪いのよ。戦争がなければスリザリン生だって巻き込まれずに済んだんだから」
これまで直接話せなかった分、3人はあれこれと話題を変えながら話し続けた。
大半は授業の話や友だちの話なんかだ。このタイミングを逃したら、次話せるのはもしかしたらクリスマス休暇のあいだになってしまうかもしれないので、どんな下らない話でも続けたかった。
──不意に、どこか遠くの方で、誰かが分厚い書籍をどこかに置いた音がした。デスクに積んだか、本棚に戻したかだろう。3人はぴたりと口を閉じて、近づいてくる足音がないかを探った。
3人がいるところはひっそりとしていて、届く音は多くはない。本を移動する音のほかは、誰かがいすを引いた時くらいだった。奥まっていて聞こえないというのもあるが、図書館を静かに使うという司書の目が行き届いているからだった。
「もしも司書の先生が来たら勉強しているように見せよう」ということで、3人はおのおの自分の席のちかくに本を開いてある。
誰も来ないことを把握したのだろう、3人のうちで一番耳がいいクラリスが口を開いた。
「クィディッチを観に行かなくても大丈夫?」
リリーは「絶対に行かなきゃダメってわけでもないから大丈夫よ」
「クラリスはあんまりクィディッチに興味ないの?」
ないこともないんだけど、とクラリスは苦笑いした。
「ほかの寮の試合を見に行きたいって程じゃないわ。だれか友だちが出てるなら応援に行くくらいかしら。……セブは?」
「適当な理由をでっち上げるから平気だ」
1日くらい抜けて図書館をうろつくくらいは許されるだろう。
そうなの、とリリーもクラリスも少し心配そうな顔をしていた。
2人のせいというわけではないので、気にしないで欲しい。
「──そういえば、今日の夕食はハロウィーンナイトだからいつもと少し違うんだって」
「違うってどんな?」
こんな風に、3人でいるあいだは嫌味を考える必要もなければ、どんな風に話すべきなのか注意する必要もない。入学前に戻ったみたいに『とりとめもない』話ができた。
図書館の奥でしばらく話していると、今この世界には3人しかいないような感覚がして、立ち上がる気があまり起きない。
気が休まっているというのはこういうことを言うのだろう。スリザリン寮での毎日は気が休まっていないのだ。
戦争という現実の重さなんて、じかに経験しなくてわかるものじゃない。子どもが具体的に思い描けなくて当たり前だ。
(ぼくは間違えたのかもしれない)
セブルスは自分の選択を後悔しつつあった。
(……せめて、クラリスがついて来ていたら)
彼女がついて来ようとするのを止めたことすら、間違っていた気がする。あれだけ毎日あの家に行くか連れ立って外に出かけるかをしていた。ずっといっしょにいたのに。
もしもクラリスがスリザリンに入っていたら、リーコックや主戦派貴族あたりにいじめられていたのは確かだっただろう。正解を選んだはずだ。なのに、セブルスはそれをそうと思えなくなりつつあった。
「ひとりでいる方が楽な気がしてきた。他の寮の子に会えるなら」
2人といっしょにいられるならそれでもいいのかもしれない。半ば本気でセブルスはそう思い始めていた。
独りごとのようにセブルスがこぼすのを聞いたリリーは、気の毒そうに眉根を寄せたクラリスと目を見合わせた。
「寮が変えられればいいのに。私、校長先生にもう一度お願いしてくるわ。必要だったら何度でもするべきよ」
リリーが勢いよく立ち上がったので、いすががたんと音を立てた。
果断で行動的なリリーは、すでに寮の変更ができないかを校長先生に直談判していたらしい。そして、何度もくりかえそうとしている。セブルスのために。
嬉しさがじわじわとこみあげてきたが、それでもセブルスはそんなリリーを止めるよう、手をのばした。
トーマスが普段からあんなに注意を払っていて、別の選択肢があったことにあんなに怒るのだから、簡単に寮など変えられないのだろう。変えられるなら、主戦派以外はとっくに出て行っている。全体の半分よりは少ないくらいの人数が主戦派に関わりたくないのだから。
「その気持ちだけでじゅうぶんだ。そんなことはしなくていい。でも君にお願いがある」
「なに?私、ぜったいに力になるわ」
リリーはセブルスの方を真剣なまなざしで見た。セブルスもじっと見返して言った。
「いっしょにいて欲しいんだ、ずっと」
リリーはきょとんとした顔になってから、明るく言った。
「もちろん。セブもリズも親友よ、ずっと」
クラリスはそれを見やりながら、(今のは『ぼくとつきあってください』っていう意味だったんじゃないのかしら?)と首をかしげていた。
セブルス「そういう意味では言ってない」
クラリス「えー??」
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
-
【活動報告】にあげて欲しい
-
【本編】にあげて欲しい